(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6746994
(24)【登録日】2020年8月11日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】燃料電池の膜電極接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1004 20160101AFI20200817BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20200817BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20200817BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M8/10 101
H01M4/88 K
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-57709(P2016-57709)
(22)【出願日】2016年3月22日
(65)【公開番号】特開2017-174572(P2017-174572A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 友希
【審査官】
阿川 寛樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−191521(JP,A)
【文献】
特開2006−120433(JP,A)
【文献】
特開2013−149455(JP,A)
【文献】
特開2006−344517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00−8/0297, 8/08−8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1辺の断面が露出するように固体高分子電解質膜の表面及び裏面にそれぞれ、開口部を備えない積層フィルムを貼合する貼合工程と、
前記貼合工程後、前記積層フィルムの触媒層形成部を除去して前記固体高分子電解質膜の表面及び裏面を露出させる触媒層形成部除去工程と、
加熱部上で加熱しながら、触媒インクを、露出した前記固体高分子電解質膜の表面及び裏面に塗布する塗布工程と、
前記触媒インクを乾燥させて触媒層を形成する乾燥工程とを含み、
前記乾燥工程における乾燥時間が30秒以下であることを特徴とする燃料電池の膜電極接合体の製造方法。
【請求項2】
前記塗布工程における触媒インクの揮発成分が、水、及び水より揮発性が高い溶媒であり、水と溶媒との質量比が6:4〜4:6である請求項1に記載の燃料電池の膜電極接合体の製造方法。
【請求項3】
前記塗布工程における前記加熱部による加熱温度が、70℃以上120℃未満である請求項1又は2に記載の燃料電池の膜電極接合体の製造方法。
【請求項4】
前記塗布工程及び前記乾燥工程を、固体高分子電解質膜の表面及び裏面に順次行う請求項1〜3の何れか一項に記載の燃料電池の膜電極接合体の製造方法。
【請求項5】
前記塗布工程及び前記乾燥工程を、固体高分子電解質膜の表面及び裏面に同時に行う請求項1〜3の何れか一項に記載の燃料電池の膜電極接合体の製造方法。
【請求項6】
前記積層フィルムは、前記固体高分子電解質膜側から順に、ガスバリア性フィルムと、プラスチックフィルムとを備え、
前記乾燥工程後、前記固体高分子電解質膜側に前記ガスバリア性フィルムを残して前記プラスチックフィルムを剥離する請求項1〜5の何れか一項に記載の燃料電池の膜電極接合体の製造方法。
【請求項7】
前記積層フィルムは、前記固体高分子電解質膜側から順に、粘着層を有するガスバリア性フィルムと、粘着層を有するプラスチックフィルムとを備え、
前記ガスバリア性フィルムと前記プラスチックフィルムはそれぞれ、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタラート、ポリイミド、ポリパルバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアクリレート、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、またはポリテトラフルオロエチレンを含む請求項1〜6の何れか一項に記載の燃料電池の膜電極接合体の製造方法。
【請求項8】
前記積層フィルムは、前記固体高分子電解質膜側から順に、粘着層を有するガスバリア性フィルムと、粘着層を有するプラスチックフィルムとを備え、
前記ガスバリア性フィルムは、ポリエチレンナフタレートで構成され、
前記プラスチックフィルムは、ポリエチレンテレフタラートで構成される請求項1〜6の何れか一項に記載の燃料電池の膜電極接合体の製造方法。
【請求項9】
前記粘着層は、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、またはゴム系の粘着剤を含む請求項7又は8に記載の燃料電池の膜電極接合体の製造方法。
【請求項10】
前記粘着層は、アクリル系の粘着剤を含む請求項7又は8に記載の燃料電池の膜電極接合体の製造方法。
【請求項11】
前記固体高分子電解質膜の厚さは、5μm以上100μm以下の範囲内である請求項1〜10の何れか一項に記載の燃料電池の膜電極接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の膜電極接合体(MEA:Membrane−Electrode Assembly)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の膜電極接合体の製造方法としては、所望の形状を有する触媒層が付与された転写基材と固体高分子電解質膜をホットプレス、熱ラミネートロールなどで熱圧着した後、基材を剥離する方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、ホットプレスを用いる手法、及び熱ラミネートロールを用いる手法が開示されている。上記熱ラミネートロールを用いる手法は、長尺の固体高分子電解質膜とその両側に配された所望の形状を有する触媒層が付与された転写基材とを接触させ、一対の熱ラミネートロールで熱圧着することによって、固体高分子電解質膜と触媒層とを一体的に接合し、その後転写基材から基材のみを一対の剥離ロールを用いて触媒層から剥離し、触媒層を固体高分子電解質膜表面に転写している。
【0003】
一方、特許文献2には、上記熱転写の後、固体高分子電解質膜表面の露出部にガスの漏洩、及び電解質における触媒層が形成されない領域の集中的な劣化を防ぐため、ガスケット部材を付与して膜電極接合体を得る技術が開示されている。
ここで、特許文献2のガスケット部材の付与方法では、既に形成された触媒層の外周を覆うため、完全に触媒層と固体高分子電解質膜との間の露出部がなくなるようにするには、触媒層上にガスケット部材を乗り上げるほか選択肢がない。乗り上げ部は燃料電池の発電に関与しないため、触媒層の利用効率が下がってしまうという懸念点がある。
【0004】
また、上記熱転写による手法のほかに、特許文献3に示すような、固体高分子電解質膜に触媒インクを直接塗布・乾燥し、触媒層を形成する手法がある。この方法では、転写基材・転写工程を必要としないため、コスト削減、工程の簡略化が可能である。しかし、この方法でも、特許文献2同様、ガスケット部材を触媒層形成後に付与するため、触媒層の利用効率が下がってしまう。
【0005】
さらに、特許文献4のように、事前に電極形状にくりぬかれた開口部を有するマスク材を固体高分子電解質膜に貼合した後、触媒インクを特許文献3同様にして、触媒層を形成する手法もある。しかし、この方法では、塗布前に固体高分子電解質膜の表裏面に開口部が開いているため、固体高分子電解質膜部分が柔軟に動けてしまうため、触媒インクを塗布した場合、触媒インクに含まれる溶媒の浸透により固体高分子電解質膜に寸法変化が生じてしまう。この寸法変化した固体高分子電解質膜部分と、非開口部における電解質膜部分の寸法変化が大きく異なるため、得られるMEAに平面性の低下が発生してしまう。平面性の悪いMEAは発電セルに組み込むのが困難になるといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−64574号公報
【特許文献2】特許第5720810号公報
【特許文献3】特開2015−162308号公報
【特許文献4】特許第4737924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであって、ガスケット材の乗り上げによる触媒層の利用効率低下がなく、簡便な工程を用いながら、膜電極接合体の平面性の低下を抑制することができる膜電極接合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための膜電極接合体の製造方法の一態様は、少なくとも1辺の断面が露出するように固体高分子電解質膜の表面及び裏面にそれぞれ、積層フィルムを貼合する貼合工程と、
上記積層フィルムの触媒層形成部を除去して上記固体高分子電解質膜の表面及び裏面を露出させる触媒層形成部除去工程と、
加熱部上で加熱しながら、触媒インクを、露出した上記固体高分子電解質膜の表面及び裏面に塗布する塗布工程と、
上記触媒インクを乾燥させて触媒層を形成する乾燥工程とを含み、
上記乾燥工程における乾燥時間が30秒以下である。
【0009】
ここで、上記膜電極接合体製造方法においては、上記塗布工程における触媒インクの揮発成分が、水、及び水より揮発性が高い溶媒であり、水と溶媒との質量比が6:4〜4:6であることが好ましい。
また、上記膜電極接合体製造方法においては、上記塗布工程における上記加熱部による加熱温度が、70℃以上120℃未満であることが好ましい。
また、上記膜電極接合体製造方法においては、上記塗布工程及び上記乾燥工程を、固体高分子電解質膜の表面及び裏面に順次行うが好ましい。
また、上記膜電極接合体製造方法においては、上記塗布工程及び上記乾燥工程を、固体高分子電解質膜の表面及び裏面に同時に行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、固体高分子電解質膜の寸法変化の影響による平面性の低下を抑制することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】膜電極接合体の製造方法の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、膜電極接合体の製造方法の実施形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下に記す実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて設計の変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の実施形態の範囲に含まれるものである。
本実施形態の膜電極接合体の製造方法は、貼合工程と、触媒層形成部除去工程と、塗布工程と、乾燥工程とを含む。
【0013】
貼合工程は、少なくとも1辺の断面が露出するように固体高分子電解質膜の表面及び裏面にそれぞれ、積層フィルムを貼合する工程である。
また、触媒層形成部除去工程は、上記積層フィルムの触媒層形成部を除去して上記固体高分子電解質膜の表面及び裏面を露出させる工程である。
また、塗布工程は、加熱部上で加熱しながら、触媒インクを、露出した上記固体高分子電解質膜の表面及び裏面に塗布する工程である。なお、触媒インクの揮発成分が、水、及び水より揮発性が高い溶媒であり、水と溶媒との質量比が6:4〜4:6であることが好ましい。また、上記加熱部による加熱温度が、70℃以上120℃未満であることが好ましい。
また、乾燥工程は、上記触媒インクを乾燥させて触媒層を形成する工程であり、この乾燥工程における乾燥時間は30秒以下である。
【0014】
<貼合工程>
まず、
図1(a)に示すように、貼合工程として、固体高分子電解質膜10の表面及び裏面に一対の積層フィルム5,5を貼合してなる電解質膜基材12を作製する。
ここで、積層フィルム5は、粘着層を有するガスバリア性フィルム1と粘着層を有するプラスチックフィルム4とを積層してなる。積層フィルム5は、ガスバリア性フィルム1の粘着層を介して固体高分子電解質膜10の表面及び裏面に貼合される。
電解質膜基材12は、固体高分子電解質膜10の断面の少なくとも1辺が積層フィルム5,5に完全に覆われることなく露出した構成である。また、積層フィルム5は後述する触媒層の形状と一致した形状の触媒層形成部2を有する。
次に、
図1(b)に示すように、この電解質膜基材12を平滑に保持した状態で加熱部20に積載する。
【0015】
<触媒層形成部除去工程>
次に、触媒層形成部除去工程として、
図1(c)に示すように、電解質膜基材12より上面の積層フィルム5の触媒層形成部2を除去し、固体高分子電解質膜10の一部を露出させる。
<塗布工程>
次に、塗布工程として、
図1(d)に示すように、塗布装置にて液状の触媒インク3を電解質膜基材12上に塗布する。
【0016】
<乾燥工程>
次に、乾燥工程として、加熱部20の熱により触媒インク3の揮発成分を除去する。その後、
図1(e)に示すように、プラスチックフィルム4を粘着層と共に剥離することにより、所望の形状を有する触媒層50を得る。
その後、電解質膜基材12を表裏逆転させ、平滑に保持した状態で加熱部20に積載する。
次に、
図1(f)に示すように、再度、電解質膜基材12より上面の積層フィルム5の触媒層形成部2を除去した後、
図1(g)に示すように、塗布装置にて液状の触媒インク3を電解質膜基材12上に塗布し、加熱部20の熱により揮発成分を除去する。
次に、
図1(h)に示すように、既に加工済みの反対側の面と同様にプラスチックフィルム4を剥離することで所望の形状を有する触媒層50が得られる。
【0017】
以上の工程を経て、
図1(i)に示すように、両面に触媒層50,50を有する膜電極接合体18を得る。
以上の工程は、上記塗布工程及び上記乾燥工程を、固体高分子電解質膜の表面及び裏面に順次行う例であるが、上記塗布工程及び上記乾燥工程を、固体高分子電解質膜の表面及び裏面に同時に行ってもよい。
ここで、固体高分子電解質膜10は、湿潤状態で良好なプロトン導電性を示す高分子材料である。触媒インク3は、白金又は白金と他の金属との合金からなる触媒を担持した粉末カーボンと樹脂により形成され、乾燥、固化により触媒層50を形成する。
【0018】
以下、固体高分子電解質膜10、触媒層50、粘着層を有するガスバリア性フィルム1及び粘着層を有するプラスチックフィルム4を構成する材料の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
固体高分子電解質膜10を構成する高分子材料としては、具体的には、炭化水素系高分子電解質、フッ素系高分子電解質を用いることができる。炭化水素系高分子電解質膜としては、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンなどの電解質膜を用いることができる。フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン製Nafion(登録商標)、旭硝子製Flemion(登録商標)、旭化成製Aciplex(登録商標)、ゴア製Gore Select(登録商標)などを用いることができる。炭化水素系電解質膜は、フッ素系高分子電解質に比べ、溶媒による浸透、膨潤が少ないため、触媒インクを固体電解質膜に塗布するのにより好ましい。固体高分子電解質膜10の厚みは、5μm以上100μm以下程度に形成される。
【0019】
触媒層50を構成する樹脂としては、上記高分子材料と同様のものを用いることができる。
また、触媒層50を構成する触媒としては、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素のほか、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムなどの金属若しくは白金とこれらの合金、又はこれらの酸化物、複酸化物などを用いることができる。その中でも、白金や白金合金がより好ましい。また、触媒の粒径は、大きすぎると触媒の活性が低下し、小さすぎると触媒の安定性が低下するため、0.5nm以上20nm以下が好ましい。
【0020】
また、触媒層50を構成する粉末カーボンとしては、微粒子状で導電性を有し、触媒に侵さないものであれば特に限定されない。具体的には、カーボンブラックやグラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、フラーレンなどを用いることができる。粉末カーボンの粒径は、触媒より小さい10nm以上100nm以下程度が好適に用いられる。
触媒層50は上記材料を溶媒及び水に分散させて調合した触媒インク3を固体高分子電解質膜10上に塗布・乾燥することで得ることができる。上記溶媒は上記材料を好適に分散させるため、又、水よりも低沸点の溶媒の方が固体高分子電解質膜10に浸透し膨潤してしまう前に乾燥させることができるため、水よりも低沸点のエタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどの低級アルコール類を用いることがより好ましい。
【0021】
さらに、触媒インク3は加熱部20上で30秒以下の速さで表面が乾燥することが好ましい。30秒を越える乾燥が必要なインクでは、含有するアルコールが固体高分子電解質膜10に浸透し、電解質膜が膨潤してしまうため、好ましくない。
ガスバリア性フィルム1及びプラスチックフィルム4の基材層は、加熱部20での加熱温度以上のガラス転移温度を有していれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタラート、ポリイミド、ポリパルバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアクリレート等の高分子フィルムを用いることができる。また、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。
【0022】
ガスバリア性フィルム1の基材においては、ガスケットとして膜電極接合体になるため、ガスバリア性、耐熱性ともに考慮した場合、ポリエチレンナフタレートであることが特に好ましい。プラスチックフィルム4の基材においては、触媒インクにより侵されないこと、剥離除去してしまうことを考慮した場合、ポリエチレンテレフタラートであることが特に好ましい。
ガスバリア性フィルム1及びプラスチックフィルム4の粘着層は、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、ゴム系などの粘着剤であればよく、基材層及び固体高分子電解質膜10との密着性と、加熱部20における耐熱性を考慮するとアクリル系であることがより好ましい。
【0023】
積層フィルム5と塗布前に除去する触媒層形成部2の重なりや隙間の発生を抑制するには、積層フィルム5に切り込みを入れ、積層フィルム5に触媒層形成部2を付与した後、固体高分子電解質膜10と貼合し、電解質膜基材12を得ることが好ましい。これにより、触媒インク3の塗布直前まで、固体高分子電解質膜10が直接空気に触れることがないため、吸湿による寸法変化を抑制できるだけでなく、薄膜の固体高分子電解質膜10を用いた際にも剛性を担保することができる。
【0024】
更に、触媒インク3を塗布した際にも固体高分子電解質膜10の表裏面に積層フィルム5,5が存在するため、触媒インク3に触れた固体高分子電解質膜部分の寸法変化を抑制することができる。また、上記方法で付与された触媒層形成部2には重なりや隙間がないため、電解質膜基材12をロール状に巻いても、固体高分子電解質膜10に巻き跡が発生することがないため、大量に同じ品質で作製するのに適したロールtoロールで作製することが可能である。
【0025】
積層フィルム5と固体高分子電解質膜10を貼合して得られる電解質膜基材12の断面において、固体高分子電解質膜10の一辺の断面が露出している。この露出部により、加熱部20における加熱乾燥、冷却時に水分の出入りが可能になり、得られる膜電極接合体18の平面性の低下を抑制することができる。
加熱部20における加熱温度は触媒インク3に含まれる溶媒の沸点程度であるため、70℃以上であることが好ましく、水を含んでいるため、加えて30秒以下で乾燥させるため、100℃以上であることがより好ましい。更に、120℃以上だと、溶媒と触媒の反応により、発火の恐れがあるため好ましくないため、120℃未満であることが好ましい。また、加熱部20は平板状またはロール状でもよく、電解質膜基材12を吸着又は張力により、平滑にすることが好ましい。
【0026】
電解質膜基材12上に触媒層50を形成する塗布装置は、触媒層を均一な厚みで塗布が可能であれば良く、ダイコーター方式、ロールコーター方式等の方式を用いることができる。膜電極接合体18を得るには、固体高分子電解質膜10の表裏面に触媒層50,50を形成する必要があるが、固体高分子電解質膜10の片面ずつ順次形成でも良いが、コストダウンが可能な一度の加工で行える両面同時でも良い。
膜電極接合体製造方法は、製造効率を考慮すると全工程が連続であることが好ましいが、触媒層50の塗布工程の歩留まりを考慮すると全工程が不連続であっても良い。
【0027】
以上説明した膜電極接合体製造方法によれば、固体高分子電解質膜10の寸法変化が抑えられるため、平面性に優れた高品質の膜電極接合体18を製造することができる。加えて、固体高分子電解質膜10の表裏面に不連続な平面を有するシートを貼合することで、シワのないロールtoロール方式で固体高分子電解質膜を使用しても不要な巻き跡の発生を抑制することができる膜電極接合体の製造方法を提供することができる。
本実施形態で得られる平面性の良好な膜電極接合体は、燃料電池における各電極に反応ガスを供給し、且つ電気化学反応により生成する水分や余剰のガスを排出するためのセパレーターを積層したときに隙間が生じることない。すなわち、本実施形態により、発電性能が低下することがない膜電極接合体を得ることができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
(実施例1)
<膜電極接合体の製造>
ロールtoロール方式で、90mm幅のポリエチレンナフタレート(帝人デュポンフィルム製テオネックスQ51、厚み12μm)上にアクリル系の粘着層(厚み10μm)を形成し、セパレーターでラミネートして得たガスバリア性フィルムのポリエチレンナフタレート面と同じく90mm幅のポリエチレンテレフタラート上にアクリル系の粘着層を付与したプラスチックフィルム(きもと製プロセーブ25CBFS2)をポリエチレンテレフタラートの粘着層を介して貼合する。更に、ポリエチレンテレフタラート面に表面保護フィルム(サンエー化研製サニテクトPAC−3−60T)を貼合し、5cm×5cmの正方形形状の打抜き加工によりポリエチレンテレフタラートのセパレーター側からポリエチレンナフタレートまで切り込みを入れた後、触媒層形成部を有する積層フィルムを得た。更に、ロールtoロール方式で、この積層フィルムのポリエチレンテレフタラート上のセパレーターを剥離し、95mm幅の固体高分子電解質膜に炭化水素系フィルム(厚み11μm)の両面に位置合わせして貼合し、両面の表面保護フィルムを剥離することにより、固体高分子電解質膜の断面が露出した電解質膜基材のロールを得た。得られたロール形態の電解質膜基材を幅方向で切り出し、加熱部として100℃の吸着ステージ上で加熱した後、触媒層形成部を除去し、触媒インクをダイコーターにて塗布し、30秒間乾燥し、片面に触媒層を付与した。このとき、触媒インクの組成は、フッ素系高分子電解質膜分散溶液(旭化成イーマテリアルズ製SS700C/25)、白金触媒(田中貴金属製TEC10F50E−HT)、水、1−プロパノールからなり、水と溶媒の比率(質量比)は6:4とし、インク中の固形分濃度は8%とした。この電解質膜基材を100℃の吸着ステージ上で表裏逆転して、不連続な平面を有する積層フィルム5の触媒層形成部2を除去した後、同様にして触媒インクを塗布・乾燥し、両面に触媒層が付与された膜電極接合体を得た。得られた膜電極接合体の平面性の評価結果を表1に示す。
【0029】
(実施例2)
触媒インクの水と溶媒の比率、及び乾燥完了時間を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法で実施例2の膜電極接合体を作製した。得られた膜電極接合体の平面性の評価結果を表1に示す。
なお、表1中の乾燥完了時間とは、固体高分子電解質膜上の触媒インクの表面が十分に乾燥したことを目視にて確認し、その際にかかった時間を乾燥完了時間として示している。
【0030】
(実施例3)
乾燥温度及び乾燥完了時間を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法で実施例3の膜電極接合体を作製した。得られた膜電極接合体の平面性の評価結果を表1に示す。
(実施例4)
触媒インク中のアルコール種のみを変更した以外は実施例1と同様の方法で実施例4の膜電極接合体を作製した。得られた膜電極接合体の平面性の評価結果を表1に示す。
(比較例1)
固体高分子電解質膜の幅を80mmとし、固体高分子電解質膜の断面が露出していない電解質膜基材のロールを作製した以外は実施例1と同様の方法で比較例1の膜電極接合体を作製した。実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0031】
(比較例2)
触媒インクの水と溶媒の比率、乾燥完了時間を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法で比較例2の膜電極接合体を作製した。得られた膜電極接合体の平面性の評価結果を表1に示す。
(比較例3)
乾燥温度、乾燥完了時間を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法で比較例3の膜電極接合体を作製した。得られた膜電極接合体の平面性の評価結果を表1に示す。
(比較例4)
触媒インク中のアルコール種のみを変更した以外は実施例1と同様の方法で比較例4の膜電極接合体を作製した。得られた膜電極接合体の平面性の評価結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
<評価>
表1に示すように、固体高分子電解質膜と積層フィルムの貼合時に固体高分子電解質膜の断面が露出する(実施例1)ことで、平面性が低下していないことが確認された。これにより、実施例1でのみ、燃料電池の発電セルに膜電極接合体を組み込むことが容易になった。
また、実施例1、2の水と溶媒の比率では、触媒インク塗布・加熱後30秒程度で乾燥が完了しているため、固体高分子電解質膜への浸透が抑えられ、膨潤による平面性の低下も抑えられている。しかし、比較例2では、乾燥完了までに40秒となり、膜電極接合体の平面性の低下が確認された。この平面性の低下は溶媒が多くなったことによる、固体高分子電解質膜への浸透が原因である。
【0034】
また、実施例1、3の乾燥温度では、触媒インク塗布・加熱後30秒程度で乾燥が完了しているため、固体高分子電解質膜への浸透が抑えられ、膨潤による平面性の低下も抑えられている。しかし、比較例3では、乾燥完了までに50秒となり、得られた膜電極接合体の平面性の低下が確認された。この平面性の低下は乾燥完了までに長い時間を要したことによる、固体高分子電解質膜への浸透が原因である。
また、実施例1、4のアルコールは、水よりも優先的に揮発するため、塗布・乾燥の間に固体高分子電解質膜への浸透が抑えられ、膨潤による平面性の低下も抑えられている。しかし、比較例4に用いた1−ブタノールは水よりも揮発性が低いため、塗布・乾燥の間に固体高分子電解質膜へ浸透してしまい、得られた膜電極接合体の平面性の低下が確認された。
【符号の説明】
【0035】
1 ガスバリア性フィルム
2 触媒層形成部
3 触媒インク
4 プラスチックフィルム
5 積層フィルム
10 固体高分子電解質膜
12 電解質膜基材
18 膜電極接合体
20 加熱部
50 触媒層