(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
振動を伝播するための振動板が楽器、スピーカー等に備えられている。この振動板は、例えば木材等の板材によって構成される。しかしながら、この木材によって構成される振動板は、湿度の変化によって変形し易く、この変形によって音響特性が低下するおそれがある。
【0003】
このような問題に鑑みて、今日では「響板の製造装置および製造方法」(特開2010−107913号公報参照)が発案されている。この公報に記載の製造装置および製造方法は、響板材を所定の含水率に調整した上でこの響板材を加熱することで、響板材の乾湿による膨張収縮率を低くすることができ、これにより響板の寸法安定性を高め、音響特性の低下を抑制することができるとされている。
【0004】
しかしながら、この公報に記載の製造装置及び製造方法は、響板を製造する過程で比較的厳密な温度管理が要求されるため、特別な製造設備が必要となり、製造コストが増加する。
【0005】
一方、この振動板としては、音響特性を比較的容易に向上することができる構成として、板材の表面にワニスやラッカー等の塗料を塗布して表層を形成することも検討されている。しかしながら、このような表層を備える振動板は、表層の弾性率が低いと板材の振動を阻害するおそれがあり、その結果却って振動板の音響特性が低下するおそれがある。また、表層の弾性率を高めると、表層が割れ易くなり、この表層の割れに起因して音響特性が低下するおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に基づいてなされたものであり、本発明の目的は、容易かつ確実に音響特性を向上すると共に、この音響特性を維持することができる振動板、この振動板を備える楽器及びスピーカー、並びに振動板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためになされた本発明は、樹脂マトリックス及びこの樹脂マトリックスに分散含有されるセルロースナノファイバーを含む表層を備える振動板であって、この表層におけるセルロースナノファイバーの含有量が0.2質量%以上であることを特徴とする振動板である。
【0009】
当該振動板は、樹脂マトリックス及びこの樹脂マトリックスに分散含有されるセルロースナノファイバーを含む表層を備え、この表層におけるセルロースナノファイバーの含有量が前記下限以上であることで、容易かつ確実に表層の弾性率を高めることができ、これにより音響特性を向上することができる。特に、当該振動板は、セルロースナノファイバーを分散含有することで表層の弾性率が高められるので、剛性の高い合成樹脂を用いて表層の弾性率を高くする場合と比較して表層に割れが生じ難い。そのため、当該振動板は、表層の割れに起因する音響特性の低下を抑制することで、優れた音響特性を維持し易い。
【0010】
前記セルロースナノファイバーの平均長さとしては、1μm以上6μm以下が好ましく、平均径としては、3nm以上100nm以下が好ましい。このように、前記セルロースナノファイバーの平均長さ及び平均径が前記範囲内であることによって、表層の割れを抑制しつつ、弾性率を十分に向上することができる。
【0011】
また、前記課題を解決するためになされた本発明は、当該振動板を備える楽器である。
【0012】
当該楽器は、当該振動板を備えるので、音響特性を向上し、かつこの音響特性を維持することができる。
【0013】
また、前記課題を解決するためになされた本発明は、当該振動板を備えるスピーカーである。
【0014】
当該スピーカーは、当該振動板を備えるので、音響特性を向上し、かつこの音響特性を維持することができる。
【0015】
また、前記課題を解決するためになされた本発明は、合成樹脂及び有機溶媒を含む塗布液にセルロースナノファイバーを混合する工程と、前記混合後の塗布液を基板の表面に塗布する工程と、前記塗布した塗布液を乾燥する工程とを備え、前記乾燥後の塗布液における固形分換算のセルロースナノファイバーの含有量が0.2質量%以上である振動板の製造方法である。
【0016】
当該振動板の製造方法は、基板の表面に樹脂マトリックス及びこの樹脂マトリックスに分散含有されるセルロースナノファイバーを含む表層を備える前述の当該振動板を容易かつ確実に製造することができる。当該振動板の製造方法は、表層にセルロースナノファイバーを分散含有させることによってこの表層の弾性率を高め、これにより表層の音響特性を向上することができる。当該振動板の製造方法は、セルロースナノファイバーによって表層の弾性率を高めるものであるため、表層に割れが生じ難い。そのため、当該振動板の製造方法は、振動板の優れた音響特性を維持し易い。
【0017】
なお、本発明において、「セルロースナノファイバーの平均長さ」とは、ランダムに採取した40本のセルロースナノファイバーを走査型電子顕微鏡(SEM)で測定した値の平均値をいう。また、セルロースナノファイバーの「径」とは、軸方向と垂直な断面を真円に換算した場合の繊維径を意味し、「セルロースナノファイバーの平均径」とは、ランダムに採取した40本のセルロースナノファイバーを走査型電子顕微鏡(SEM)で測定した値の平均値をいう。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の振動板、楽器及びスピーカーは、容易かつ確実に音響特性を向上すると共に、この音響特性を維持することができる。また、本発明の振動板の製造方法は、容易かつ確実に音響特性を向上すると共に、この音響特性を維持することができる振動板を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0021】
[第一実施形態]
<弦楽器>
図1の弦楽器1は、本発明に係る振動板2を備える。具体的には、
図1の弦楽器1は、当該振動板2からなる響板を有する中空状のボディ3と、ボディ3に連結され、振動板2の一端側から延出するネック4と、ネック4の一端側に配設されるヘッド5と、振動板2の外面に配設されるブリッジ6と、ブリッジ6の外面に配設されるサドル7と、ヘッド5及びサドル7に懸架される複数の弦8とを備える。複数の弦8は、ヘッド5に設けられる複数のペグ9に一端側が巻きつけられて係止され、かつ他端側がサドル7に支持された上、ブリッジ6に配設される複数のピン10に係止されている。弦楽器1は、弦8の振動をボディ3に共鳴させて所定の音量を得るアコースティックギターとして構成されている。
【0022】
〈ボディ〉
ボディ3は、対向する振動板2及び裏板(不図示)並びに側板11を有する。振動板2は、ネック4の他端とブリッジ6との間に響孔12を有する。ボディ3の形成材料としては、特に限定されないが、典型的には木材が用いられる。
【0023】
(振動板)
当該振動板2は、
図2に示すように、基板13と、基板13の表面側に積層される表層14とを有する。当該振動板2は、基板13及び表層14の2層構造体であってもよく、基板13及び表層14の間にプライマー層を有していてもよい。
【0024】
(基板)
基板13の形成材料としては、例えばスプルース等の針葉樹や、ローズウッド、メープル、シデ等の広葉樹が挙げれる。また、基板13の形成材料としては、スプルース、ローズウッド、メープル、シデ等を突き板として用いた合板等も用いることができる。
【0025】
基板13の平均厚さの下限としては、1.5mmが好ましく、2mmがより好ましい。一方、基板13の平均厚さの上限としては、5mmが好ましく、4mmがより好ましい。基板13の平均厚さが前記下限に満たないと、当該振動板2の強度が不十分となるおそれがある。逆に、基板13の平均厚さが前記上限を超えると、当該振動板2が振動し難くなるおそれがある。なお、「平均厚さ」とは、任意の10点における厚さの平均値をいう。
【0026】
(表層)
表層14は、
図3に示すように、樹脂マトリックス2a及びこの樹脂マトリックス2aに分散含有されるセルロースナノファイバー2bを含む。表層14は、基板13の表面側に塗膜を積層し、この塗膜を硬化することによって得られる。表層14は、樹脂マトリックス2a及びこの樹脂マトリックス2aに分散含有されるセルロースナノファイバー2bが基板13の表面側を被覆したコート層である。表層14は、好ましくは透明である。また、表層14においてセルロースナノファイバー2bは特定の配向方向を有しない(つまり、表層14において各セルロースナノファイバー2bは、ランダムな向きで存在している)。当該振動板2は、各セルロースナノファイバー2bがランダムな向きで存在していることで、表層14の弾性率を全方向に亘って略均等に高めることができる。つまり、セルロースナノファイバーが一定の方向に配向していると、この配向方向に沿って表層14が割れるおそれがあるが、セルロースナノファイバー2bがランダムな向きで存在していることによって表層14の割れを抑制することができる。
【0027】
表層14の平均厚さの下限としては、30μmが好ましく、50μmがより好ましい。一方、表層14の平均厚さの上限としては、200μmが好ましく、150μmがより好ましい。表層14の平均厚さが前記下限に満たないと、表層14の硬度を十分に向上できないおそれがある。逆に、表層14の平均厚さが前記上限を超えると、表層14の厚さが大きくなり過ぎて基板13の音響特性が損なわれ易くなるおそれがある。
【0028】
樹脂マトリックス2aは、合成樹脂によって構成されている。この合成樹脂としては、例えば熱可塑性アクリル樹脂、ニトロセルロース、アセチルセルロース、セルロースアセテートブチレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂や、メラミン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
中でも、樹脂マトリックス2aは、主成分としてアルキド樹脂を含み、かつ副成分としてニトロセルロースを含むことが好ましい。樹脂マトリックス2aが主成分として比較的軟質なアルキド樹脂を含み、かつ副成分として比較的硬質なニトロセルロースを含むことで表層14の割れを防止しつつ、音響特性を十分に向上することができる。なお、「主成分」とは、最も含有量の多い成分をいう。また、「副成分」とは、主成分以外の成分をいう。
【0030】
表層14におけるセルロースナノファイバー2bの含有量の下限としては、0.2質量%であり、1質量%がより好ましい。表層14におけるセルロースナノファイバー2bの含有量が前記下限に満たないと、表層14の弾性率が十分に高くならず、また表層14の割れを抑制することができないおそれがある。一方、表層14におけるセルロースナノファイバー2bの含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましく、3質量%がさらに好ましい。表層14におけるセルロースナノファイバー2bの含有量が前記上限を超えると、セルロースナノファイバー2bによる弾性率の向上効果が余り得られないと共に、塗膜の透明度が低下するおそれがある。
【0031】
セルロースナノファイバー2bの平均長さの下限としては、1μmが好ましく、2μmがより好ましい。一方、セルロースナノファイバー2bの平均長さの上限としては、6μmが好ましく、4μmがより好ましい。セルロースナノファイバー2bの平均長さが前記下限に満たないと、表層14の弾性率向上効果が不十分となるおそれがあり、また表層14の割れを抑制する効果が低下するおそれがある。逆に、セルロースナノファイバー2bの平均長さが前記上限を超えると、セルロースナノファイバー2b同士が絡み合い易くなり、表層14におけるセルロースナノファイバー2bの分散性が低下するおそれがある。
【0032】
セルロースナノファイバー2bの平均径の下限としては、3nmが好ましく、10nmがより好ましい。一方、セルロースナノファイバー2bの平均径の上限としては、100nmが好ましく、60nmがより好ましい。セルロースナノファイバー2bの平均径が前記下限に満たないと、セルロースナノファイバーの製造が困難になるおそれがある。逆に、セルロースナノファイバー2bの平均径が前記上限を超えると、表層14におけるセルロースナノファイバー2bの分散性が低下するおそれがある。
【0033】
特に、当該振動板2は、セルロースナノファイバー2bの平均長さ及び平均径が共に前記範囲内に含まれることが好ましい。当該振動板2は、セルロースナノファイバー2bの平均長さ及び平均径が前記範囲内であることによって、表層14の割れを抑制しつつ、表層14の弾性率を十分に向上することができる。
【0034】
なお、表層14は、樹脂マトリックス2a及びセルロースナノファイバー2b以外のその他の成分を含んでいてもよい。表層14に含まれるその他の成分としては、例えば可塑剤、架橋剤、硬化触媒、発泡剤、整泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0035】
表層14のヤング率の下限としては、1GPaが好ましく、1.2GPaがより好ましい。表層14のヤング率が前記下限に満たないと、表層14が基板13の振動を阻害するおそれがある。一方、表層14のヤング率の上限としては、特に限定されないが、例えば2GPaとすることができる。なお、「ヤング率」とは、粘弾性測定装置によって測定される値をいう。
【0036】
セルロースナノファイバー2bは表層14中に略等密度で存在していてもよいが、外面側の存在割合が基板13側(つまり内面側)の存在割合より低くてもよい。このように、セルロースナノファイバー2bが基板13側に偏在していることによって、表層14の外面の艶を向上することができる。なお、当該振動板2は、後述するように塗布液の塗布及び乾燥を複数回繰り返すことによって形成することができる。当該振動板2は、例えば塗布回数が増すに従い塗布液に含まれるセルロースナノファイバー2bの含有量を少なくすることで外面側におけるセルロースナノファイバー2bの存在割合を低くすることができる。
【0037】
<製造方法>
次に、当該振動板2の製造方法について説明する。当該振動板の製造方法は、合成樹脂及び有機溶媒を含む塗布液にセルロースナノファイバーを混合する工程(混合工程)と、混合後の塗布液を基板の表面側に塗布する工程(塗布工程)と、塗布した塗布液を乾燥する工程(乾燥工程)とを備える。また、当該振動板の製造方法は、前記乾燥後の塗布液における固形分換算のセルロースナノファイバーの含有量が0.2質量%以上である。
【0038】
(混合工程)
前記混合工程におけるセルロースナノファイバー2bを混合する前の塗布液に含まれる合成樹脂としては、前述の樹脂マトリックス2aを構成する合成樹脂が挙げられる。また、この塗布液に含まれる有機溶媒としては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のモノアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコールやその他のエステル類などの水溶性有機溶媒が挙げられる。前記有機溶媒が水溶性有機溶媒であることによって、セルロースナノファイバー2bとの親和性が高められ、セルロースナノファイバー2bの混合を容易に行うことができる。また、前記有機溶媒としては、前述のニトロセルロースの溶解を促進させる点から酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類をさらに含むことも好ましい。
【0039】
前記混合工程では、セルロースナノファイバー2bを含む分散液と塗布液とを混合するのではなく、セルロースナノファイバー2b単体を塗布液に直接添加することが好ましい。前記混合工程では、セルロースナノファイバー添加後の塗布液をミキサー等によって撹拌する。この撹拌速度の下限としては、500rpmが好ましく、700rpmがより好ましい。一方、この撹拌速度の上限としては、1000rpmが好ましく、900rpmがより好ましい。さらに、この撹拌時間の下限としては、2分が好ましく4分がより好ましい。一方、この撹拌時間の上限としては、10分が好ましく、7分がより好ましい。
【0040】
(塗布工程)
前記塗布工程では、前記混合後の塗布液を基板13の表面側に塗布する。この塗布液を塗布する方法としては、例えばスプレーコート法、ロールコート法、スピンコート法、ポッティング法、ダイコート法等が挙げられる。中でも、薄い塗膜を容易に形成できるスプレーコート法が好ましい。
【0041】
(乾燥工程)
前記乾燥工程では、前記塗布後の塗布液を例えば室温以上の温度で乾燥させる。この乾燥工程によって、塗膜を硬化することで表層を形成することができる。なお、1回の塗布及び乾燥で製造される表層の厚さは例えば5μm以上20μm以下程度である。そのため、当該振動板の製造方法は、前記塗布工程及び乾燥工程を繰り返し行うことで所望の厚さを有する表層を形成することが好ましい。また、乾燥工程後の表層の表面を研磨し、この表面を平坦化した上で次の塗布工程を行うことも好ましい。さらに、このように塗布工程及び乾燥工程を複数回行うことで表層14を形成する場合、各層におけるセルロースナノファイバー2bの含有量を調整しつつ、最終的に得られた表層14におけるセルロースナノファイバー2bの含有量を前記範囲内とすることができる。そのため、例えば最外層を構成する層にはセルロースナノファイバー2bを含有させないことで、表層の外面の艶を向上することも可能である。
【0042】
なお、当該製造方法は、例えば前記塗布工程及び乾燥工程の前に、基板の表面にプライマー層を積層する工程を有していてもよい。このプライマー層の主成分としては、例えばポリウレタンが挙げられる。また、このプライマー層の平均厚さとしては、例えば5μm以上30μm以下とすることができる。
【0043】
<利点>
当該振動板2は、樹脂マトリックス2a及びこの樹脂マトリックス2aに分散含有されるセルロースナノファイバー2bを含む表層14を備え、この表層14におけるセルロースナノファイバー2bの含有量が前記下限以上であることで、容易かつ確実に表層14の弾性率を高めることができ、これにより音響特性を向上することができる。特に、当該振動板2は、セルロースナノファイバー2bを分散含有することで表層14の弾性率が高められるので、剛性の高い合成樹脂を用いて表層の弾性率を高くする場合と比較して表層14に割れが生じ難い。そのため、当該振動板2は、表層14の割れに起因する音響特性の低下を抑制することで、優れた音響特性を維持し易い。
【0044】
当該弦楽器1は、当該振動板2を備えるので、音響特性を向上し、かつこの音響特性を維持することができる。
【0045】
当該振動板の製造方法は、基板13の表面に樹脂マトリックス2a及びこの樹脂マトリックス2aに分散含有されるセルロースナノファイバー2bを含む表層14を備える前述の当該振動板2を容易かつ確実に製造することができる。当該振動板の製造方法は、表層14にセルロースナノファイバー2bを分散含有させることによってこの表層14の弾性率を高め、これにより表層14の音響特性を向上することができる。当該振動板の製造方法は、セルロースナノファイバー2bによって表層14の弾性率を高めるものであるため、表層14に割れが生じ難い。そのため、当該振動板の製造方法は、振動板2の優れた音響特性を維持し易い。
【0046】
[第二実施形態]
<スピーカー>
図4のスピーカー21は、本発明に係る振動板23を備える。具体的には、
図4のスピーカー21は、ハウジング22と、ハウジング22に外周が固定された当該振動板23と、当該振動板23の中央内面側に固定されたボビン24と、ボビン24に巻回されたボイスコイル25と、ボイスコイル25の外側に配置されたマグネット26と、マグネット26の磁束をボイスコイル25に導くヨークコア27及びヨークプレート28とを備える。マグネット26、ヨークコア27及びヨークプレート28は、一体化されてハウジング22の内部に固定されている。スピーカー21は、ボイスコイル25に電流を流すことにより発生する磁束とマグネット26の磁束との間に生じる吸引力又は排斥力により、振動板23を内外方向(
図4における左右方向)に移動させて空気を振動させることで音を発生する。
【0047】
(振動板)
当該振動板23は、中央の筒状の円筒部31と、この円筒部31の一端から拡径して円錐面を形成する傘状部32と、傘状部32の外周から外側に延出する円環状のフランジ部33と、傘状部32の中央部から外側に湾曲したドーム状部34とを有する。また、当該振動板23は、基板35と、基板35の表面側に積層される表層36とを有する。当該振動板23は、基板35及び表層36の2層構造体であってもよく、基板35及び表層36の間にプライマー層を有していてもよい。
【0048】
(基板)
基板35の形成材料としては、例えば合成樹脂や、合成樹脂中に繊維が分散含有されたものを用いることができる。前記合成樹脂としては、例えばアクリル樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、変性ゴム樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。また、前記繊維としては、例えば炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、シリカ繊維、金属繊維、チタン酸カリウム繊維、ジルコニア繊維、ポリアクリレート繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ビニロン繊維、レーヨン繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、綿繊維、麻繊維等が挙げられる。
【0049】
(表層)
表層36は、樹脂マトリックス及びこの樹脂マトリックスに分散含有されるセルロースナノファイバーを含む。表層36は、前述の第一実施形態における表層14と同様の構成とすることが可能である。
【0050】
<製造方法>
当該振動板23は、前述の第一実施形態における振動板の製造方法と同様の混合工程、塗布工程及び乾燥工程を用いて製造することができる。
【0051】
<利点>
当該スピーカー21は、当該振動板23を備えるので、音響特性を向上し、かつこの音響特性を維持することができる。
【0052】
[その他の実施形態]
なお、本発明に係る振動板、楽器、スピーカー及び振動板の製造方法は、前記態様の他、種々の変更、改変を施した態様で実施することができる。例えば当該楽器としては、前述のアコースティックギターに限られるものではなく、例えばエレクトリックアコースティックギター、ヴァイオリン、チェロ、マンドリン等種々の弦楽器や、ピアノ等の鍵盤楽器等であってもよい。また、当該振動板は、例えば弦楽器の裏板として構成されてもよい。さらに、当該楽器及びスピーカーは、当該振動板を備える限り、その他の具体的構成は限定されるものではない。
【0053】
当該振動板は、基板の一方の表面側のみに表層が積層される必要はなく、基板の両側に表層が積層されてもよい。また、当該楽器及びスピーカーにおいて、表層は基板の外面側に積層される必要はなく、基板の内面側に積層されてもよい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
アルキド樹脂9.4質量%、ニトロセルロース7.9質量%、可塑剤1.4質量%及び有機溶媒からなる塗布液にセルロースナノファイバーを混合し、この混合後の塗布液をスプルースからなる基板の表面側に塗布及び乾燥させる工程を繰り返し行い、基板の表面側に平均厚さ120μmの表層を備える実施例1の振動板を製造した。この表層におけるセルロースナノファイバーの含有量は0.2質量%であった。
【0056】
[実施例2]
表層におけるセルロースナノファイバーの含有量を2質量%とした以外は実施例1と同様にして実施例2の振動板を製造した。
【0057】
[実施例3]
表層におけるセルロースナノファイバーの含有量を5質量%とした以外は実施例1と同様にして実施例3の振動板を製造した。
【0058】
[実施例4]
表層におけるセルロースナノファイバーの含有量を20質量%とした以外は実施例1と同様にして実施例4の振動板を製造した。
【0059】
[比較例1]
表層におけるセルロースナノファイバーの含有量を0質量%とした以外は実施例1と同様にして比較例1の振動板を製造した。
【0060】
[比較例2]
ニトロセルロース12.5質量%、可塑剤4.4質量%及び有機溶媒からなる塗布液をスプルースからなる基板の表面側に塗布及び乾燥させる工程を繰り返し行い、基板の表面側に平均厚さ120μmの表層を備える比較例2の振動板を製造した。
【0061】
<ヤング率及びtanδ>
各実施例及び比較例の振動板から表層を剥がし、この表層を長手方向に伸縮させて測定する粘弾性測定装置によって、表層のヤング率[GPa]を測定した。また、同様の粘弾性測定装置によってJIS−K7244−4:1999に準拠して表層のtanδを測定した。この測定結果を表1に示す。なお、この表層のヤング率及びtanδは、ガラス板等の表面に表層を形成し後、このガラス板等から表層を剥がした上で測定することもできる。
【0062】
【表1】
【0063】
[評価結果]
表1に示すように、実施例1〜実施例4の振動板は、ヤング率が1GPa以上と高く、かつtanδが0.08以下と低く抑えられている。このことから、実施例1〜実施例4の振動板は、振動伝達速度が高められると共に、減衰率を抑えることができることが分かる。なお、実施例4の振動板は、セルロースナノファイバーの含有量が多いことから表層の透明性が低下し、視認性が低下した。
【0064】
これに対し、比較例1の振動板は、表層がセルロースナノファイバーを含まないことから、ヤング率が低くかつtanδが高くなっており、十分な音響特性が得られていないことが分かる。また、比較例2の振動板は、tanδが高くなっており、十分に減衰率を抑えられないことに加え、セルロースナノファイバーによってヤング率が高められたものではないため、使用によって割れを生じ易い。