(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記燃料極触媒層における前記質量比が、前記空気極触媒層における前記質量比の1.0倍以上1.5倍以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載した膜電極接合体。
前記燃料極触媒層における前記質量比が、前記空気極触媒層における前記質量比の1.1倍以上1.2倍以下の範囲内であることを特徴とする請求項2に記載した膜電極接合体。
前記燃料極触媒層における前記質量比及び前記空気極触媒層における前記質量比のうち少なくとも一方は、0.7以上1.5以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載した膜電極接合体。
【背景技術】
【0002】
近年、環境やエネルギーの観点から、燃料電池が注目されている。
燃料電池とは、水素やメタン等の還元性ガスを電気化学的に酸化することにより、化学エネルギーを電気エネルギーに変換して、電気を得るものである。したがって、燃料電池は、発電による排出物が水のみであることから、環境負荷の小さいエネルギーとされる。
燃料電池の中でも、固体高分子形燃料電池(PEFC)は、低温作動、高出力密度であり、小型・軽量化が可能であることから、携帯用電源、家庭用電源、車載用動力源としての利用が期待されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、イオン交換膜の一方の面に形成した燃料極(燃料極触媒層、アノード触媒層)と、イオン交換膜の他方の面に形成した空気極(空気極触媒層、カソード触媒層)とを、対向するように設けた構造を有する。このように、イオン交換膜を一対の触媒層で挟持した構造物を、膜電極接合体と呼ぶ。
発電の際、水素を含む燃料ガスは、燃料極触媒層にてプロトン及び電子になる。プロトンは、燃料極触媒層内のイオン交換樹脂及びイオン交換膜を通り、空気極触媒層に移動する。電子は、外部回路を通り、同じく空気極側に移動する。空気極触媒層においては、プロトン、電子及び外部から供給される酸化剤ガスが反応して、水が生成される。
【0004】
以上のように、燃料極及び空気極において化学反応が起こり、電荷が発生し、電池として機能する。
固体高分子形燃料電池の発電においては、電極触媒層及びイオン交換膜中のイオン交換樹脂中を、プロトンが伝導することが重要である。イオン交換樹脂には、主に、フッ素系イオン交換樹脂と炭化水素系イオン交換樹脂がある。フッ素系イオン交換樹脂は、ナフィオン(デュポン社:登録商標)やフレミオン(旭硝子社:登録商標)等、これまで、多く提案されている。
【0005】
しかしながら、フッ素系イオン交換樹脂は、高いプロトン伝導性を示すが、その製造方法が複雑なために高価であり、また、ガラス転移点が低いため、高温低湿度下の耐久性が低いといった難点を有す。
一方、炭化水素系イオン交換樹脂は、製造方法が比較的単純でコストを抑えられる点、耐熱性に優れる点、及び廃棄時の環境負荷が小さい点が長所であり、普及が期待される。
【0006】
炭化水素系イオン交換樹脂の構造としては、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(例えば、特許文献1を参照)や、スルホン化ポリエーテルスルホン(例えば、特許文献2を参照)等、エンジニアリングプラスチックをスルホン化した芳香族炭化水素系イオン交換樹脂が主流である。
多くの炭化水素系イオン交換樹脂は、プロトン伝導性の点でフッ素系イオン交換樹脂に劣る。プロトン伝導性を向上させるには、樹脂のイオン交換容量を高めること、つまり、樹脂におけるイオン交換基の密度を高めることが効果的であるが、同時に、樹脂の吸水性が上がり、特に、膜に用いた場合に膨潤しやすく、扱いにくくなってしまう。そのため、プロトン伝導性の向上と膨潤の抑制の両立が求められている。
【0007】
また、電極触媒層におけるイオン交換樹脂の濃度や分布も、発電性能や耐久性に大きく影響を及ぼすことが知られており、多岐にわたる工夫がなされている。
例えば、特許文献3や特許文献4には、電極触媒層に用いるフッ素系イオン交換樹脂のイオン交換容量が調整された燃料電池が開示されている。また、特許文献5には、燃料極触媒層のイオン交換容量を、空気極触媒層のイオン交換容量よりも大きくした燃料電池が提案されている。加えて、特許文献6や特許文献7、特許文献8では、電極触媒層におけるイオン交換樹脂の量として、炭素粒子に対するイオン交換樹脂の質量比(I/C比)を制御した燃料電池が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の詳細な説明では、本発明の実施形態について、完全な理解を提供するように、特定の細部について記載する。しかしながら、かかる特定の細部が無くとも、一つ以上の実施形態が実施可能であることは明確である。また、図面を簡潔なものとするために、周知の構造及び装置を、略図で表す場合がある。
【0014】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
(構成)
図1を参照して、燃料電池FCの構成について説明する。
図1中に表すように、燃料電池FC(固体高分子形燃料電池セル、固体高分子形燃料電池)は、膜電極接合体1と、燃料極側セパレータ40と、空気極側セパレータ50を備えている。
【0015】
(膜電極接合体)
膜電極接合体1は、イオン交換膜10と、燃料極触媒層20と、空気極触媒層30を備える。また、膜電極接合体1は、イオン交換膜10の一方の面(
図1中では、上側の面)に燃料極触媒層20を配置し、イオン交換膜10の他方の面(
図1中では、下側の面)に空気極触媒層30を配置して形成されている。
【0016】
なお、
図1中には、イオン交換膜10の一方の面のうち、燃料極触媒層20を配置する領域を符号「10a」で表し、イオン交換膜10の一方の面のうち、燃料極触媒層20が配置されない領域を符号「10b」で表す。
燃料極触媒層20と空気極触媒層30は、イオン交換膜10の厚さ方向(
図1中では、上下方向)において、互いに対向する位置に配置されている。したがって、燃料極触媒層20と空気極触媒層30は、イオン交換膜10を間に挟んで対向する一対の電極触媒層を形成している。また、イオン交換膜10を間に挟んで対向する一対の電極触媒層は、一対の電極触媒層のうちの一方を形成する燃料極触媒層20と、一対の電極触媒層のうちの他方を形成する空気極触媒層30とを含む。
【0017】
また、イオン交換膜10の一方の面と燃料極触媒層20との間には、ガス拡散層(図示せず)が形成されている。同様に、イオン交換膜10の他方の面と空気極触媒層30との間には、ガス拡散層(図示せず)が形成されている。すなわち、膜電極接合体1は、一対の電極触媒層とイオン交換膜10との間にそれぞれ形成されたガス拡散層をさらに備える。
【0018】
(イオン交換膜)
イオン交換膜10は、炭化水素系イオン交換樹脂(炭化水素系高分子によるイオン交換樹脂)を含んで形成されている。
イオン交換膜10が含む炭化水素系高分子(炭化水素系イオン交換樹脂)としては、芳香族炭化水素系高分子が好適であり、好ましくは、下記化学式(1)に示す構造単位を有するものを用いる。
【0020】
上記の式(1)中において、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、−(CH
2)
a−、−O−(CH
2)
a−、−S−(CH
2)
a−、−NH−(CH
2)
a−、−(CF
2)
a−、−O−(CF
2)
a−、−S−(CF
2)
a−、及び−NH−(CF
2)
a−からなる群から選択される連結基(aは2以上の整数)である。
また、上記の式(1)中において、Y
1及びY
2は、それぞれ独立に、第1族元素及び第2族元素からなる群から選択される原子である。
【0021】
また、上記の式(1)では、イオン交換基と芳香環との間に連結基R
1、R
2があり、両者が離れている。
上記の式(1)に基づく構造を繰り返し単位とすることにより、イオン交換基を含みながらも、膨潤の小さいイオン交換膜が得られる。また、上記の式(1)に示す繰り返し単位が、他の繰り返し単位と結合する位置は、連結基に対してパラ位であり、重合に際し、イオン交換基から離れた位置で縮合反応が起こる。
【0022】
したがって、イオン交換基により縮重合反応が阻害されることが抑えられ、反応が進行しやすい。このため、高分子電解質の収率を高めることと、電解質のプロトン伝導性を高めることが可能となる。これにより、イオン交換膜10が収率よく得られ、かつ、プロトン伝導性の向上と膨潤の抑制とが可能である。
なお、炭化水素系高分子によるイオン交換樹脂は、上記の式(1)の単重合から成る樹脂であっても、共重合体であってもよい。
【0023】
共重合の様式としては、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合及びグラフト共重合が考えられる。これらのなかでも、上記の式(1)で示される構成単位からなるイオン交換基を有するブロックと、イオン交換基を有さないブロックとが直接結合して主鎖を形成するブロック共重合体であることがとくに好ましい。すなわち、炭化水素系イオン交換樹脂は、上記の式(1)で示される構造を有するブロックと、イオン交換基を有さないブロックとで主鎖を形成するブロック共重合体であることがとくに好ましい。
【0024】
イオン交換基を有さないブロックとは、繰り返し単位あたりに含有されるイオン交換基の数が平均0.1個以下であるものをいう。
ブロック共重合体では、イオン交換性の部位と非イオン交換性の部位がそれぞれ凝集して相分離が起こる。そして、イオン交換性の相によってプロトンが伝導される通り道が形成されるため、プロトン伝導性が向上される。
【0025】
イオン交換基を有さないブロックとしては、下記の式(2)で表される構造単位を含むとより好ましい。
【化2】
【0026】
上記の式(2)中において、Ar
1、Ar
2、Ar
3及びAr
4は、それぞれ独立に、2価の芳香族基である。
また、上記の式(2)中において、B
1及びB
2は、それぞれ独立に、2価の連結基、または、直接結合を示す。
また、上記の式(2)中において、C
1及びC
2は、それぞれ独立に、酸素原子または硫黄原子である。
【0027】
また、上記の式(2)中において、b、c、d及びeは、それぞれ独立に、0または1であり、nは5以上の整数である。
イオン交換膜10が含む炭化水素系イオン交換樹脂のイオン交換容量(イオン交換基導入量)は、イオン交換容量にして、0.5[meq./g]以上5.0[meq./g]以下の範囲内であることが好ましい。
【0028】
また、イオン交換膜10が含む炭化水素系イオン交換樹脂のイオン交換容量(イオン交換基導入量)は、1.0[meq./g]以上3.0[meq./g]以下の範囲内であると、さらに好ましい。
これは、イオン交換膜10が含む炭化水素系イオン交換樹脂のイオン交換容量が0.5[meq./g]以上であると、高いプロトン伝導性が賦与され、燃料電池FCのイオン交換膜10に用いた際に、燃料電池FCの発電性能が高くなるためである。これに加え、イオン交換膜10が含む炭化水素系イオン交換樹脂のイオン交換容量が5.0[meq./g]以下であると、湿度に対する寸法安定性及び機械強度が高められるためである。
【0029】
また、イオン交換膜10が含む炭化水素系イオン交換樹脂の分子量は、ポリスチレン換算の数平均分子量で表して、5000以上1000000以下の範囲内であることが好ましく、10000以上500000以下の範囲内であることがより好ましい。
これは、イオン交換膜10が含む炭化水素系イオン交換樹脂の分子量が5000以上であると、イオン交換膜10の成膜性や機械強度が高められるためである。これに加え、イオン交換膜10が含む炭化水素系イオン交換樹脂の分子量が1000000以下であることで、イオン交換膜10の製造がより簡便になるためである。
【0030】
イオン交換膜10が含む炭化水素系イオン交換樹脂は、架橋剤が添加されることにより、架橋剤を介してプロトン酸基以外の部分が架橋された架橋構造を含んでもよい。
また、イオン交換膜10のイオン交換基以外の部分は、架橋剤で架橋された架橋構造を含む。
この場合、架橋剤や架橋方法は、特に限定されるものではなく、例えば、2以上のメチロール基(‐CH
2OH基)を持つ芳香環を有するものを用いて、加熱法や光照射法等の従来方法により架橋することが可能である。
【0031】
さらに、イオン交換膜10が含む炭化水素系イオン交換樹脂には、機械強度及び耐水性の向上のために、他の高分子が添加されてもよい。
イオン交換膜10の厚さは、特に限定されないが、5[um]以上50[um]以下の範囲内であることが好ましい。
これは、イオン交換膜10の厚さが5[um]よりも薄いと、作製や取り扱いが困難であり、イオン交換膜10の厚さが50[um]よりも厚いと、膜抵抗が大きくなりイオン交換膜10の性能に問題を生じるためである。
【0032】
さらに、イオン交換膜10の厚さは、5[um]以上22[um]以下の範囲内とすることが特に好ましい。
これは、イオン交換膜10の厚さを5[um]以上50[um]以下の範囲内とした場合と比較して、取り扱い性と性能がともに良好となるためである。
【0033】
(燃料極触媒層、空気極触媒層)
燃料極触媒層20は、白金と、白金を担持する炭素粒子と、イオン交換樹脂とを含んで形成されている。なお、燃料極触媒層20は、ラジカル捕捉剤等の添加物を含んで形成してもよい。
燃料極触媒層20が含む白金は、触媒として作用し、燃料極触媒層20における酸化反応を促進する。
【0034】
空気極触媒層30は、燃料極触媒層20と同様、白金と、白金を担持する炭素粒子と、イオン交換樹脂とを含んで形成されている。なお、空気極触媒層30は、燃料極触媒層20と同様、ラジカル捕捉剤等の添加物を含んで形成してもよい。
空気極触媒層30が含む白金は、触媒として作用し、空気極触媒層30における還元反応を促進する。
【0035】
燃料極触媒層20及び空気極触媒層30が含む炭素粒子は、導電性担体として用いられる。
また、炭素粒子は、微粒子状であり、導電性及び化学的耐性を有するものであれば、特に問わず、例えば、カーボンブラックやグラファイト、黒鉛、活性炭、炭素繊維、カーボンナノチューブ、フラーレン等を用いることが可能である。
【0036】
炭素粒子の粒径は、10[nm]以上1000[nm]以下の範囲内程度が好ましい。これは、炭素粒子の粒径が1[nm]よりも小さいと、電子伝導パスが形成されにくくなり、また、炭素粒子の粒径が1000[nm]よりも大きいと、燃料極触媒層20及び空気極触媒層30の厚さが増して、抵抗が増加してしまうためである。
燃料極触媒層20及び空気極触媒層30が含むイオン交換樹脂は、プロトン伝導性を有するものであれば、特に限定されず、例えば、フッ素系高分子や、芳香族炭化水素系高分子によるイオン交換樹脂を用いることが可能である。
【0037】
また、燃料極触媒層20及び空気極触媒層30が含むイオン交換樹脂は、イオン交換膜10が含む炭化水素系イオン交換樹脂と同様の材料であってもよい。
但し、燃料極触媒層20及び空気極触媒層30が含むイオン交換樹脂と、イオン交換膜10が含む炭化水素系イオン交換樹脂は、イオン交換基導入量、すなわち、イオン交換容量は必ずしも同一ではない。
【0038】
燃料極触媒層20及び空気極触媒層30が含むイオン交換樹脂のイオン交換基導入量は、イオン交換容量(以降の説明では、「IEC」と記載する場合がある)にして、1[meq./g]以上2.5[meq./g]以下の範囲内が好適である。
これは、燃料極触媒層20及び空気極触媒層30のIECが1[meq./g]未満である場合、プロトン伝導が滞り、発電性能が著しく低くなるためである。これに加え、燃料極触媒層20及び空気極触媒層30のIECが2.5[meq./g]を超える場合、高電流密度においてフラディングによる電圧低下に至りやすいためである。
【0039】
燃料極触媒層20及び空気極触媒層30における、炭素粒子に対するイオン交換樹脂の質量比(以降の説明では、「I/C比」と記載する場合がある)は、燃料極触媒層20のI/C比が、空気極触媒層30のI/C比以上となるように形成する。
具体的には、燃料極触媒層20のI/C比が、空気極触媒層30のI/C比に対して1.0倍以上1.5倍以下の範囲内にあると好適である。さらに、燃料極触媒層20のI/C比が、空気極触媒層30のI/C比に対して1.1倍以上1.2倍以下の範囲内にあると、さらに好適である。
【0040】
これは、燃料極触媒層20のI/C比を空気極触媒層30のI/C比以上とすることで、プロトンの電気浸透に伴う水移動によって乾燥しやすい燃料極触媒層20を、湿潤に保ちやすくすることが可能となるためである。これに加え、燃料極触媒層20のI/C比が空気極触媒層30のI/C比の1.5倍よりも大きいと、発電性能の低下が見られるためである。なお、発電性能の低下は、燃料極触媒層20の水過多によるフラディングか、空気極触媒層30の乾燥が原因であると考えられる。
【0041】
また、燃料極触媒層20及び空気極触媒層30のI/C比は、0.7以上1.5以下の範囲内が好ましい。すなわち、燃料極触媒層20におけるI/C比及び空気極触媒層30におけるI/C比のうち少なくとも一方は、0.7以上1.5以下の範囲内であることが好ましい。
これは、燃料極触媒層20及び空気極触媒層30のI/C比が0.7未満である場合、結着の役割を担うイオン交換樹脂が少ないために電極触媒層20の強度が落ち、電極触媒層20中に亀裂が発生しやすく、発電性能や耐久性の低下を引き起こすためである。これに加え、燃料極触媒層20及び空気極触媒層30のI/C比が1.5を超える場合、フラディングによる性能低下につながるためである。
【0042】
なお、燃料極触媒層20及び空気極触媒層30の、イオン交換膜10の厚さ方向から見た形状は、特に限定されない。
燃料極触媒層20及び空気極触媒層30の形成方法は、特に限定するものではない。すなわち、例えば、白金、炭素粒子及びイオン交換樹脂の混合物を分散させた塗液をイオン交換膜に直接湿式塗布する方法や、転写基材またはガス拡散層に塗工した後に転写により形成する方法を用いることが可能である。
【0043】
上記の形成方法で用いる塗液の溶媒または分散媒は、特に限定されないが、イオン交換樹脂を溶解または分散できるものが良い。また、上記の形成方法で用いる塗液の溶媒または分散媒は、水、アルコール類、ケミン類、アミン類、エステル類、エーテル類、グリコールエーテル類や、これらを種々の割合で混合したものが一般的である。
燃料極触媒層20及び空気極触媒層30を形成する工程には、必要に応じて、乾燥工程を含む。乾燥工程における乾燥方法は、特に限定されず、例えば、温風乾燥、赤外乾燥、減圧乾燥等を用いることが可能である。
【0044】
(燃料極側セパレータ)
燃料極側セパレータ40は、燃料極触媒層20のイオン交換膜10と対向する側と反対側に配置されている。
また、燃料極側セパレータ40は、導電性を有するとともにガスを透過しない材料、例えば、耐食処理が施された金属板や、焼成カーボン等のカーボン系材料を用いて形成されている。
また、燃料極側セパレータ40は、燃料極触媒層20と対向する面に、反応ガス流通用のガス流路41となる櫛形構造を備えている。
ガス流路41の反対側には、冷却水流路42が形成されている。
【0045】
(空気極側セパレータ)
空気極側セパレータ50は、空気極触媒層30のイオン交換膜10と対向する側と反対側に配置されている。
また、空気極側セパレータ50は、燃料極側セパレータ40と同様、導電性を有するとともにガスを透過しない材料、例えば、耐食処理が施された金属板や、焼成カーボン等のカーボン系材料を用いて形成されている。
また、空気極側セパレータ50は、空気極触媒層30と対向する面に、反応ガス流通用のガス流路51となる櫛形構造を備えている。
ガス流路51の反対側には、冷却水流路52が形成されている。
【0046】
(燃料ガス、酸化剤ガス)
燃料電池FCが発電する際には、水素を含む燃料ガスが、まず、燃料極側セパレータ40のガス流路41を通る。また、外部から供給される酸化剤ガスが、まず、空気極側セパレータ50のガス流路51を通る。
そして、燃料ガスは、燃料極側セパレータ40のガス流路41を通るうちに、燃料極触媒層20を介して、イオン交換膜10に供給される。一方、酸化剤ガスは、下側セパレータ5のガス流路51を通るうちに、空気極触媒層30を介して、イオン交換膜10に供給される。
【0047】
以上説明したように、第一実施形態の膜電極接合体1であれば、発電性能の低下を抑制することが可能となるため、発電性能及び耐久性を向上させることが可能となる。
また、第一実施形態の燃料電池FCであれば、発電性能の低下を抑制することが可能な膜電極接合体1を備えているため、発電性能及び耐久性を向上させることが可能となる。
なお、上述した第一実施形態は、本発明の一例であり、本発明は、上述した第一実施形態に限定されることはなく、この実施形態以外の形態であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【0048】
(変形例)
(1)第一実施形態では、膜電極接合体1を、イオン交換膜10の一方の面に燃料極触媒層20を配置し、イオン交換膜10の他方の面に空気極触媒層30を配置して形成したが、膜電極接合体1の構成は、これに限定するものではない。
すなわち、例えば、イオン交換膜10の両面の、燃料極触媒層20及び空気極触媒層30が配置されない領域にシール部材を設けてもよい。
【0049】
シール部材は、燃料極触媒層20及び空気極触媒層30が配置された領域と、燃料極触媒層20及び空気極触媒層30が配置されない領域との段差を減少させる。これにより、燃料極側セパレータ40及び空気極側セパレータ50と、燃料極触媒層20及び空気極触媒層30と、イオン交換膜10との密着を高める。そして、ガスの漏洩を防ぐ役割と、イオン交換膜10の燃料極触媒層20及び空気極触媒層30が配置されない領域の集中的な劣化を防ぐ役割とを果たす。
【0050】
また、シール部材の材料は特に限定されるものではなく、例えば、樹脂やゴムのシートから形成してもよい。樹脂としては、圧力を加えられても変形しにくいものがよく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド等の高分子材料を用いることが可能である。また、シール部材の材料は、単一のものである必要はなく、例えば、粘着層や接着層を有し、粘着層や接着層でイオン交換膜10に具備されてもよい。
【実施例】
【0051】
第一実施形態の
図1を参照しつつ、以下に記載する実施例により、本発明例の膜電極接合体について説明する。
(本発明例1)
・電極触媒層用スラリ
白金担持アセチレンブラック(白金担持率30[wt%])とIEC1.2[meq./g]のフッ素系イオン交換樹脂とを1−プロパノール中に加えて分散し、得られた分散液を、燃料極触媒層用のスラリとした。また、燃料極触媒層のI/C比は、1.2とした。
【0052】
さらに、白金担持アセチレンブラック(白金担持率50[wt%])とIEC[meq./g]のフッ素系イオン交換樹脂とを1−プロパノール中に加え分散し、得られた分散液を、空気極触媒層用のスラリとした。また、空気極触媒層のI/C比は、0.9とした。
また、空気極触媒層のI/C比に対する燃料極触媒層のI/C比の比をRとすると、Rは1.3である。
・イオン交換膜
【0053】
【化3】
上記C1の構造を有する樹脂を含むイオン交換膜(厚さ:15[um])を用いた。
【0054】
・膜電極接合体の作製
上述した電極触媒層用スラリを、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムにそれぞれ塗布し、さらに、80[℃]の環境下で5分間乾燥させて、電極触媒層付きフィルムを得た。
次に、イオン交換膜の両面を、上記の電極触媒層付きフィルムで挟持することで両面から熱圧着して転写することで、本発明例1の膜電極接合体を作製した。
【0055】
(本発明例2)
空気極触媒層用スラリのI/C比を1.2(R=1.0)とした他は、本発明例1と同様の構成として、本発明例2の膜電極接合体を作製した。
(本発明例3)
【化4】
イオン交換膜を、上記C2の構造を有する重合体から成るイオン交換膜(厚さ:15[um])とした他は、本発明例1と同様にして、本発明例3の膜電極接合体を作製した。
【0056】
(本発明例4)
【化5】
イオン交換膜を、架橋構造を有するイオン交換樹脂によるものとした他は、本発明例1と同様にして、本発明例4の膜電極接合体を作製した。
なお、架橋構造を有するイオン交換樹脂は、製膜時に上記C1で表されるイオン交換樹脂に上記C3で表される添加剤を添加することにより得た。これは、上記C1で表されるイオン交換樹脂中のC−H基と、上記C3で表される添加剤中の−CH
2OH基との間で脱水反応が起こり、架橋されたものと考える。
【0057】
(本発明例5)
空気極触媒層用スラリのI/C比を0.7(R=1.7)とした他は、本発明例1と同様の構成として、本発明例5の膜電極接合体を作製した。
(比較例1)
燃料極触媒層用スラリのI/C比を0.9とし、空気極触媒層用スラリのI/C比を1.4とし、燃料極触媒層用スラリのI/C比を空気極触媒層用スラリのI/C比よりも小さくした他は、本発明例1と同様の構成として、比較例1の膜電極接合体を作製した。
【0058】
(比較例2)
イオン交換膜を市販のフッ素系イオン交換膜(ナフィオン211、デュポン社)とした他は、本発明例1と同様の構成として、比較例2の膜電極接合体を作製した。
(性能評価)
本発明例1から5の膜電極接合体と、比較例1及び2の膜電極接合体に対し、発電性能、耐久性、密着性、形状安定性の評価を行った。
【0059】
(発電性能)
発電性能は、膜電極接合体の両面に、拡散層(SIGRACET 35BC、SGL社)を配置して、市販のJARI標準セルを用いてIV試験を実施して評価した。
なお、セル温度は摂氏60度として、燃料極に30%RH加湿水素を供給し、空気極に30%RH加湿空気を供給した。
【0060】
(耐久性)
耐久性は、OCV耐久性試験により評価した。
具体的には、上記のIV試験と同様にして用意した燃料電池セルにて、摂氏100度において、燃料極に30[%]RH加湿水素(200[mL/min])を供給し、空気極に30%RH加湿酸素(400[mL/min])を供給した状態で、開回路状態で電圧値を測定した。
【0061】
(密着性、形状安定性)
密着性及び形状安定性は、環境試験によって評価した。
具体的には、膜電極接合体を恒温恒湿槽に入れて摂氏90度で20[%]RH条件に1時間置いた後、湿度を上げて摂氏90度100[%]RH条件に1時間置くことを1サイクルとして、10サイクル実施した。
また、試料は、本発明例1から5と比較例1及び2に対して、それぞれ5試料ずつ用意し、試験後に電極触媒層の剥離や膜電極接合体の変形を観察した。
【0062】
(評価結果)
発電性能の試験において、0.8[mA/cm
2]におけるセル電圧値を比較すると、本発明例1から5及び比較例2の値は、本発明例1の値の95[%]以上であったが、比較例1は、本発明例1の値に対して95[%]を下回り、電圧値が低かった。そして、IVカーブを見ると、特に高電流密度における電圧低下が大きいことから、フラディングの可能性が示唆された。
耐久性試験の結果、本発明例1から5及び比較例1では、120時間経過後の電圧値が、それぞれの初期電圧値に対して90[%]以上であった。比較例1では、20時間で50[%]以下まで低下し、劣化が確認された。
【0063】
密着性及び形状安定性の試験において、本発明例1から5及び比較例1では、試験前後の変化が見られなかったが、比較例2では、電極触媒層の剥離や、イオン交換膜のシワや収縮が確認された。フッ素系イオン交換膜を用いた比較例2では、加温と加湿によるイオン交換樹脂の軟化が著しく、電極触媒層とイオン交換膜との結着が弱まり、剥離に至ったものと考えた。
本発明例1と本発明例3及び本発明例4では、イオン交換膜の材料が異なるが、この順でイオン交換膜の機械強度が高いことが、引張破断試験により確認された。ブロック共重合体や架橋構造を有するブロック共重合体からなるイオン交換膜及びこれを用いた膜電極接合体が、機械強度において有利であるといえる。
【0064】
IV試験において、本発明例5は、本発明例1から3と比較して、低電流密度領域における電圧値が、わずかながら低かった。また、同じセルを用いて再測定を行うと、低電流密度領域における電圧値の向上が見られた。これにより、空気極触媒層のI/C比が低いために比較的含水しにくく、エージング等に工夫を要することが考えられ、燃料極触媒層のI/C比の空気極触媒層のI/C比に対する比は、1.5を上回らない程度が好ましいことが確認された。
以上により、本発明例1〜5の膜電極接合体は、比較例の膜電極接合体と比較して、発電性能及び耐久性に優れていることが確認された。