(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6747089
(24)【登録日】2020年8月11日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】自動車の風洞試験方法及び風洞試験用タイヤ模型の製作方法
(51)【国際特許分類】
G01M 9/08 20060101AFI20200817BHJP
G01M 17/007 20060101ALI20200817BHJP
【FI】
G01M9/08
G01M17/007 Z
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-122619(P2016-122619)
(22)【出願日】2016年6月21日
(65)【公開番号】特開2017-227500(P2017-227500A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2019年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】児玉 勇司
【審査官】
森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−324409(JP,A)
【文献】
特開平06−341920(JP,A)
【文献】
特開2007−304657(JP,A)
【文献】
特開2015−212117(JP,A)
【文献】
特開2002−168727(JP,A)
【文献】
特開昭63−314436(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0015377(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 9/00−9/08
G01M 17/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車体模型及びタイヤ模型を組み合わせた状態で環状ベルト上に配置し、該環状ベルトを駆動させて前記タイヤ模型を前記環状ベルトに対して転動させながら、前記環状ベルト上の空間で前記自動車の前方側から後方側に向かって空気を流動させ、その空気の流動に伴って前記車体模型及び前記タイヤ模型の各々に作用する力を測定する自動車の風洞試験方法において、
前記タイヤ模型をタイヤ幅方向に分割された複数の分割部品から構成し、少なくとも1つの分割部品として形状が異なる複数種類の交換可能部品を用意し、そこから選択された任意の交換可能部品を含む前記複数の分割部品を互いに組み合わせてタイヤ模型を製作し、該タイヤ模型を用いて前記力の測定を行うことを特徴とする自動車の風洞試験方法。
【請求項2】
前記複数の分割部品が互いに噛み合い関係を持つ凹部及び凸部を有し、これら凹部及び凸部を噛み合わせた状態で前記複数の分割部品を互いに組み合わせることを特徴とする請求項1に記載の自動車の風洞試験方法。
【請求項3】
前記タイヤ模型は前記複数の分割部品が結合された状態でその内部に空洞部を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の自動車の風洞試験方法。
【請求項4】
自動車の風洞試験に使用されるタイヤ模型を製作する方法であって、前記タイヤ模型をタイヤ幅方向に分割された複数の分割部品から構成し、少なくとも1つの分割部品として形状が異なる複数種類の交換可能部品を用意し、そこから選択された任意の交換可能部品を含む前記複数の分割部品を互いに組み合わせてタイヤ模型を製作することを特徴とする風洞試験用タイヤ模型の製作方法。
【請求項5】
前記複数の分割部品が互いに噛み合い関係を持つ凹部及び凸部を有し、これら凹部及び凸部を噛み合わせた状態で前記複数の分割部品を互いに組み合わせることを特徴とする請求項4に記載の風洞試験用タイヤ模型の製作方法。
【請求項6】
前記タイヤ模型は前記複数の分割部品が結合された状態でその内部に空洞部を形成することを特徴とする請求項4又は5に記載の風洞試験用タイヤ模型の製作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の風洞試験方法及びそれに使用されるタイヤ模型の製作方法に関し、更に詳しくは、低コストで種々のタイヤ形状を再現することを可能にした自動車の風洞試験方法及び風洞試験用タイヤ模型の製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、走行中の自動車が空気から受ける力(空気抵抗や揚力)は速度の2乗に比例して大きくなる。そのため、例えば、高速走行時にはエンジンの出力の大部分が空気抵抗に打ち勝つために使用され、それが燃費の悪化に繋がる。このような空気抵抗や揚力は自動車の車体形状やタイヤ形状に応じて変化する。従って、自動車の車体形状やタイヤ形状に応じて変化する空気抵抗や揚力を自動車の製品化に先駆けて評価することは重要である(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
自動車の空気抵抗や揚力を測定するにあたって、実車の1/2〜1/5にスケールダウンした模型を用いた風洞試験が行われている。このような風洞試験では、自動車の車体模型及びタイヤ模型を所定の配置関係となるように組み合わせた状態で環状ベルト上に配置し、その環状ベルトを駆動させてタイヤ模型を環状ベルトに対して転動させながら、環状ベルト上の空間で自動車の前方側から後方側に向かって空気を流動させ、その空気の流動に伴って車体模型及びタイヤ模型の各々に作用する力を測定する。
【0004】
ここで、タイヤ形状に基づく空力効果を確認するためには、タイヤ形状が異なる多種類のタイヤ模型を製作する必要がある。そのため、種々のタイヤ形状について空力効果を確認しようとする場合、タイヤ模型の製作コストが大きくなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3147589号公報
【特許文献2】特許第3716158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、低コストで種々のタイヤ形状を再現することを可能にした自動車の風洞試験方法及び風洞試験用タイヤ模型の製作方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の自動車の風洞試験方法は、自動車の車体模型及びタイヤ模型を組み合わせた状態で環状ベルト上に配置し、該環状ベルトを駆動させて前記タイヤ模型を前記環状ベルトに対して転動させながら、前記環状ベルト上の空間で前記自動車の前方側から後方側に向かって空気を流動させ、その空気の流動に伴って前記車体模型及び前記タイヤ模型の各々に作用する力を測定する自動車の風洞試験方法において、
前記タイヤ模型をタイヤ幅方向に分割された複数の分割部品から構成し、少なくとも1つの分割部品として形状が異なる複数種類の交換可能部品を用意し、そこから選択された任意の交換可能部品を含む前記複数の分割部品を互いに組み合わせてタイヤ模型を製作し、該タイヤ模型を用いて前記力の測定を行うことを特徴とするものである。
【0008】
また、上記目的を達成するための本発明の風洞試験用タイヤ模型の製作方法は、自動車の風洞試験に使用されるタイヤ模型を製作する方法であって、前記タイヤ模型をタイヤ幅方向に分割された複数の分割部品から構成し、少なくとも1つの分割部品として形状が異なる複数種類の交換可能部品を用意し、そこから選択された任意の交換可能部品を含む前記複数の分割部品を互いに組み合わせてタイヤ模型を製作することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、自動車の風洞試験を行うにあたって、タイヤ模型をタイヤ幅方向に分割された複数の分割部品から構成し、少なくとも1つの分割部品として形状が異なる複数種類の交換可能部品を用意し、そこから選択された任意の交換可能部品を含む複数の分割部品を互いに組み合わせてタイヤ模型を製作し、そのタイヤ模型を用いて空気の流動に伴って車体模型及びタイヤ模型の各々に作用する力の測定を行うので、タイヤ模型の製作コストを抑制しながら、分割部品の組み合わせに基づいてタイヤ形状を適宜変更することができる。従って、低コストで種々のタイヤ形状を再現することができる。
【0010】
本発明において、複数の分割部品が互いに噛み合い関係を持つ凹部及び凸部を有し、これら凹部及び凸部を噛み合わせた状態で複数の分割部品を互いに組み合わせることが好ましい。これにより、分割部品同士の結合精度が向上するので、これら分割部品の結合と分解を繰り返した場合の形状再現精度が向上し、延いては、自動車の風洞試験における測定精度を高めることができる。
【0011】
また、タイヤ模型は複数の分割部品が結合された状態でその内部に空洞部を形成することが好ましい。この場合、材料コストを低減することができる。しかも、タイヤ模型の重量低減により風洞試験時のタイヤ模型の振動による衝撃を低減することができ、その結果、タイヤ模型と風洞試験設備の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る自動車の風洞試験装置を示す斜視図である。
【
図2】本発明に係る風洞試験用タイヤ模型の製作方法を示す斜視図である。
【
図3】本発明で得られるタイヤ模型の変形例を示す斜視図である。
【
図4】本発明で得られるタイヤ模型の分割部品を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明に係る自動車の風洞試験装置を示すものである。
図1において、自動車の車体模型1及びタイヤ模型2は互いに連結されてはいないものの自動車での通常の位置関係となるように組み合わされた状態で環状ベルト3上に配置されている。これら車体模型1及びタイヤ模型2は、それぞれテストすべき車体及びタイヤの形状を有し、実際の寸法に対して例えば1/2〜1/5にスケールダウンされた模型である。環状ベルト3は、一対のプーリに掛け回された無端構造を有し、図示のように路面上に露出した部分が車体模型1の前方側から後方側へ連続的に移動するように構成されている。
【0014】
車体模型1は、前方から延びるワイヤ4により支持されると共に、上方から延びる3本のワイヤ5により支持されていて、これらワイヤ4,5の各々に接続された不図示の荷重検出装置が車体模型1に作用する力を計測するようになっている。一方、各タイヤ模型2は側方から延びる支持棒6により支持されていて、この支持棒6に接続された不図示の荷重検出装置が各タイヤ模型2に作用する力を計測するようになっている。また、車体模型1の前方側には不図示の空気供給装置が配設されている。
【0015】
このように構成される自動車の風洞試験装置を用いて風洞試験を行う場合、環状ベルト3を駆動させてタイヤ模型2を環状ベルト3に対して転動させながら、環状ベルト3上の空間で自動車の前方側から後方側に向かって空気を流動させ、自動車による走行状態を再現し、その状態で空気の流動に伴って車体模型1及びタイヤ模型2の各々に作用する力を測定する。これにより、特定の車体形状に基づく空力効果や特定のタイヤ形状に基づく空力効果を確認することができる。
【0016】
このような風洞試験において、タイヤ形状に基づく空力効果を詳細に確認するためには、タイヤ形状が異なる多種類のタイヤ模型2を製作する必要がある。しかしながら、多種類のタイヤ模型2を個別に製作した場合、その製作コストが大きくなる。そこで、以下の手法に基づいてタイヤ模型2を製作する。
【0017】
図2は本発明に係る風洞試験用タイヤ模型の製作方法を示すものである。
図2に示すように、自動車の風洞試験に使用されるタイヤ模型2を製作するにあたって、タイヤ模型2をタイヤ幅方向に分割された複数の分割部品21,22,23から構成する。
図2の例では、タイヤ模型2は、車両内側に配置される円盤状の分割部品21と、タイヤ幅方向中央に配置される円盤状の分割部品22と、車両外側に配置される円盤状の分割部品23とから構成されている。ここで、車両外側に配置される分割部品23として、その形状が異なる複数種類の交換可能部品23A,23Bを用意する。例えば、交換可能部品23Aはサイドウォール部においてタイヤ放射方向に延びて該サイドウォール部の表面から突出した複数本のフィン31Aを備えている。一方、交換可能部品23Bはサイドウォール部においてタイヤ周方向に対して傾斜しながら延びて該サイドウォール部の表面から突出した複数本のフィン31Bを備えている。そして、複数種類の交換可能部品23A,23Bから選択されたいずれか一方を含むように複数の分割部品21〜23を互いに組み合わせてタイヤ模型2を製作する。分割部品21〜23の各々には対応する位置に複数のボルト孔32が形成されており、これらボルト孔32を利用して互いにボルト固定されるようになっている。
【0018】
上述のように自動車の風洞試験を行うにあたって、タイヤ模型2をタイヤ幅方向に分割された複数の分割部品21〜23から構成し、少なくとも1つの分割部品23として形状が異なる複数種類の交換可能部品23A,23Bを用意し、そこから選択された任意の交換可能部品23A又は23Bを含む複数の分割部品21〜23を互いに組み合わせてタイヤ模型2を製作し、そのタイヤ模型2を用いて空気の流動に伴って車体模型1及びタイヤ模型2の各々に作用する力の測定を行うので、タイヤ模型2の製作コストを抑制しながら、分割部品21〜23の組み合わせに基づいてタイヤ形状を適宜変更することができる。その結果、低コストで種々のタイヤ形状を再現することができる。
【0019】
上述した実施形態では、車両外側に配置される分割部品23として形状が異なる複数種類の交換可能部品23A,23Bを用意しているが、例えば、タイヤ幅方向中央に配置される円盤状の分割部品22として形状が異なる複数種類の交換可能部品を用意することも可能である。より具体的には、タイヤ幅方向中央に配置される分割部品22として幅が異なる複数種類の交換可能部品を用意した場合、タイヤ模型2のプロファイルを容易に変更することができる。
【0020】
図3は本発明で得られるタイヤ模型の変形例を示すものである。
図3において、タイヤ模型2は、車両内側に配置される円盤状の分割部品21と、タイヤ幅方向中央に配置される円盤状の分割部品22と、車両外側に配置される円盤状の分割部品23と、車両外側のサイドウォール部に対応する部分を構成する分割部品24とから構成されている。このように、タイヤ模型2はタイヤ幅方向に沿って任意の個数に分割することができる。分割部品24については、その表面形状が異なる複数種類の交換可能部品を用意することができる。この場合、タイヤ模型2においてサイドウォール部の表面に形成されるフィンや文字等の突起物だけを異ならせた形で風洞試験を効果的に実施することができる。
【0021】
図4は本発明で得られるタイヤ模型の分割部品を示すものである。
図4に示すように、分割部品21の合わせ面の中心位置には凹部33(貫通孔)が形成され、分割部品21の合わせ面の周縁部には環状の凸部34が形成されている。一方、分割部品22の合わせ面の中心位置には分割部品21の凹部33に対して噛み合う関係にある凸部35が形成され、分割部品22の合わせ面の周縁部には分割部品21の凸部34に対して噛み合う関係にある凹部36が形成されている。これら凹部33,36及び凸部34,35を噛み合わせた状態で複数の分割部品21,22を互いに組み合わせた場合、分割部品21,22の結合精度が向上するので、これら分割部品21,22の結合と分解を繰り返した場合の形状再現精度が向上する。その結果、自動車の風洞試験における測定精度を高めることができる。
【0022】
図4は分割部品21,22の結合構造について説明するものであるが、このような結合構造は隣り合う一対の分割部品において適宜形成することができる。また、分割部品の一方に雄ネジ部を有する凸部を形成し、他方に雌ネジ部を有する凹部を形成し、それらを互いに螺合させることも可能である。
【0023】
図4に示すように、分割部品22の中心部と周縁部との間には複数の空洞部37が形成されている。これら空洞部37は複数の分割部品21〜23が結合されてタイヤ模型2が完成した状態で外部に露出するものではないが、複数の分割部品21〜23が結合された状態においてタイヤ模型2に内在するものである。このようにタイヤ模型2がその内部に空洞部37を形成した場合、材料コストを低減することができる。また、タイヤ模型2の重量低減により風洞試験時のタイヤ模型2の振動による衝撃を低減することができ、その結果、タイヤ模型2とその風洞試験設備の耐久性を向上させることができる。タイヤ模型2を一体物とした場合、上記のような空洞部37を形成することが困難であるが、タイヤ模型2を複数の分割部品21〜23からなる組立体とすることにより、上記のような空洞部37を容易に形成することができる。
【0024】
上述したタイヤ模型2の材質は特に限定されるものではないが、例えば、ポリカーボネート樹脂やデルリン樹脂等の樹脂のほか、石膏、積層紙、金属等を挙げることができる。特に、加工性、耐久性、軽量性の観点から、樹脂を使用することが好ましい。
【0025】
また、タイヤ模型2を構成する分割部品の加工方法は特に限定されるものではないが、例えば、工作機械(MC)による削り出しや、樹脂や金属を原料とする3Dプリンターによる成形等を挙げることができる。そして、分割部品を相互に結合させる方法としては、上述したボルト固定のほか、粘着性テープによる粘着等を挙げることができる。ボルト固定は分割部品の結合と分解を反復的に行うことが可能であり、しかも分割部品を強固に結合させることが可能であるので、結合方法として最も好ましい。
【符号の説明】
【0026】
1 車体模型
2 タイヤ模型
3 環状ベルト
4,5 ワイヤ
6 支持棒
21,22,23,24 分割部品
23A,23B 交換可能部品
31A,31B フィン
32 ボルト孔
33,36 凹部
34,35 凸部
37 空洞部