特許第6747100号(P6747100)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6747100酸素吹き込みランス及び酸素吹き付け方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6747100
(24)【登録日】2020年8月11日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】酸素吹き込みランス及び酸素吹き付け方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/46 20060101AFI20200817BHJP
   C21C 7/072 20060101ALI20200817BHJP
【FI】
   C21C5/46 101
   C21C7/072 A
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-128826(P2016-128826)
(22)【出願日】2016年6月29日
(65)【公開番号】特開2018-3073(P2018-3073A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(72)【発明者】
【氏名】開澤 昭英
(72)【発明者】
【氏名】務川 進
(72)【発明者】
【氏名】萩尾 建門
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭36−015152(JP,B1)
【文献】 特開平09−157725(JP,A)
【文献】 特開平05−320736(JP,A)
【文献】 特開平10−130712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/28− 5/52
C21C 7/00− 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上吹き酸素機能を有する転炉で溶鉄を精錬する際に、上吹き酸素を吹き込むための酸素吹き込みランスであって、
酸素吹き込みランスの前記溶鉄に対向する側の端部では、当該酸素吹き込みランスの中心軸の周囲に複数の酸素ノズルが設けられており、
前記酸素ノズルの断面積が最小となる部分をスロートとしたときに、前記複数の酸素ノズルのうち、任意の1つの前記酸素ノズルのスロート断面積が、他の前記酸素ノズルのスロート断面積の50%以上100%以下であり、
前記酸素ノズルの出口位置から当該酸素ノズルからの前記酸素ジェットのマッハ数が1となる位置までをジェットコア領域としたときに、前記複数の酸素ノズルは、前記複数の酸素ノズルのそれぞれから吹き込まれる酸素ジェットが互いに前記ジェットコア領域内で衝突するように配置される、酸素吹き込みランス。
【請求項2】
前記酸素ノズルの中心軸と、前記酸素吹き込みランスの中心軸と、の交点においてそれぞれの前記中心軸の間につくられる内角を前記酸素ノズルの傾斜角度θとしたときに、前記傾斜角度θは、5度≦θ≦20度の範囲である、請求項1に記載の酸素吹き込みランス。
【請求項3】
前記溶鉄に対向する側の端部における前記酸素ノズルの個数は、3個〜6個の範囲である、請求項1又は2に記載の酸素吹き込みランス。
【請求項4】
前記複数の酸素ノズルは、以下の式(1)〜式(9)に基づき算出される前記酸素ジェットのジェットコア長さHが以下の式(10)に基づき算出される前記酸素ノズルの出口から前記酸素ジェットの衝突位置までの離隔距離Yよりも大きくなるように配置される、請求項1〜3の何れか1項に記載の酸素吹き込みランス。
【数1】
ここで、上記式(1)〜式(10)において、
:ジェットコア長さ[mm]
CP:ノズル適正マッハ数でのジェットコア長さ[mm]
OP:ノズル適正マッハ数[−]
:スロート径[mm]
:ノズル入口圧[kg/cm−abs]
Q:送酸速度[Nm/h]
T:雰囲気温度[℃]
n:酸素ノズルの個数[−]
:雰囲気圧[kg/cm−abs]
X:酸素ノズルの中心と酸素吹き込みランスの中心との離隔距離[mm]
Y:酸素ノズルの出口位置から酸素ジェット衝突位置までの離隔距離[mm]
θ:酸素ノズルの傾斜角度[度]
であり、上記式(7)で算出されるfの値は、0.4超5.0以下である。
【請求項5】
前記溶鉄に対向する側の端部では、前記酸素吹き込みランスの中心軸の位置に、更に酸素ノズルが設けられる、請求項1〜4の何れか1項に記載の酸素吹き込みランス。
【請求項6】
上吹き酸素機能を有する転炉で溶鉄を精錬する際に、上吹き酸素を吹き込むための酸素吹き込みランスから酸素を前記溶鉄に吹き付ける酸素吹き付け方法であって、
酸素吹き込みランスの前記溶鉄に対向する側の端部では、当該酸素吹き込みランスの中心軸の周囲に複数の酸素ノズルが設けられており、
前記複数の酸素ノズルのうち、任意の1つの前記酸素ノズルから吹き込まれる酸素ジェットの酸素流量が、他の前記酸素ノズルのそれぞれから吹き込まれる酸素ジェットの酸素流量の50%以上100%以下となるように、前記酸素ジェットの酸素流量を制御し、
前記酸素ノズルの出口位置から当該酸素ノズルからの前記酸素ジェットのマッハ数が1となる位置までをジェットコア領域としたときに、前記複数の酸素ノズルのそれぞれから吹き込まれる酸素ジェットを、互いに前記ジェットコア領域内で衝突させる、酸素吹き付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素吹き込みランス及び酸素吹き付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、転炉型の炉を用いたスクラップの多量溶解法や鉄浴式溶融還元法の開発が盛んに行われている。これらの技術では、炉内での熱発生量を増大させることが重要であり、炉の上部から酸素吹き込みランスを挿入し、酸素吹き込みランスから鉄溶融物に向けて酸素ジェットを衝突させることが行われる。酸素ジェットは、超音速噴流となって鉄溶融物に衝突し、鉄溶融物中の炭素(C)と反応して多量の一酸化炭素(CO)ガスを発生させる。ここで、CからCOへの反応で発生する燃焼熱よりも、COから二酸化炭素(CO)への反応で発生する燃焼熱(いわゆる、二次燃焼熱)の方が大きいため、炉内の二次燃焼率を高めるための工夫が行われてきている。
【0003】
上記のような二次燃焼率を高めるための工夫の一つに、酸素吹き込みランスに設けられるノズルの設置条件がある。例えば以下の特許文献1では、主孔ノズルと、かかる主孔ノズルの中心軸に対して対称に設けられる副孔ノズルと、を有し、副孔ノズルの中心軸と主孔ノズルの中心軸との間につくられる内角が30度以上90度未満であるランスが開示されており、かかるランスを用いて、副孔ノズルのガス流量を主孔ノズルのガス流量の1/10以下とするガス吹き付け方法が開示されている。かかる特許文献1に開示されているランスでは、主孔ノズルからのガスジェットに乱れを与えるために副孔ノズルからのガスジェットが利用されており、主孔ノズルからのガスジェットが乱れることで、ジェットの拡散及び周囲からのガスの巻き込みが促進され、二次燃焼率が増大するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−130712号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】K.Naito,Y.Ogawa,T.Inomoto,S.Kitamura and M.Yano,“Characteristics of Jets from Top−blown Lance in Converter”,ISIJ Journal,2000,Vol.40,No.1,p.23−30.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記特許文献1に開示されているランス及びガスの吹き付け方法では、主孔ノズルからのガスジェットに乱れが生じているとはいえ、超音速ジェットが鉄溶融物に吹きつけられるため、炉内では粒鉄の飛散(スピッティング)が発生して、飛散した粒鉄がランスの先端に付着してしまうという問題がある。
【0007】
また、近年では、転炉における精錬工程で発生した転炉ガス(LDガス)を回収して再利用することが行われているが、転炉における精錬工程で二次燃焼率を増大させた場合、回収されるLDガスの発熱量は低減してしまうために、精錬工程を含む製鉄プロセス全体としての熱効率は低下してしまう。そのため、より効率の良いエネルギーの再利用方法が求められている状況にある。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、スピッティングによるランスへの地金の付着を低減しつつ、二次燃焼率を低下させることが可能な、酸素吹き込みランス及び酸素吹き付け方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
[1]上吹き酸素機能を有する転炉で溶鉄を精錬する際に、上吹き酸素を吹き込むための酸素吹き込みランスであって、酸素吹き込みランスの前記溶鉄に対向する側の端部では、当該酸素吹き込みランスの中心軸の周囲に複数の酸素ノズルが設けられており、前記酸素ノズルの断面積が最小となる部分をスロートとしたときに、前記複数の酸素ノズルのうち、任意の1つの前記酸素ノズルのスロート断面積が、他の前記酸素ノズルのスロート断面積の50%以上100%以下であり、前記酸素ノズルの出口位置から当該酸素ノズルからの前記酸素ジェットのマッハ数が1となる位置までをジェットコア領域としたときに、前記複数の酸素ノズルは、前記複数の酸素ノズルのそれぞれから吹き込まれる酸素ジェットが互いに前記ジェットコア領域内で衝突するように配置される、酸素吹き込みランス。
[2]前記酸素ノズルの中心軸と、前記酸素吹き込みランスの中心軸と、の交点においてそれぞれの前記中心軸の間につくられる内角を前記酸素ノズルの傾斜角度θとしたときに、前記傾斜角度θは、5度≦θ≦20度の範囲である、[1]に記載の酸素吹き込みランス。
[3]前記溶鉄に対向する側の端部における前記酸素ノズルの個数は、3個〜6個の範囲である、[1]又は[2]に記載の酸素吹き込みランス。
[4]前記複数の酸素ノズルは、以下の式(1)〜式(9)に基づき算出される前記酸素ジェットのジェットコア長さHが以下の式(10)に基づき算出される前記酸素ノズルの出口から前記酸素ジェットの衝突位置までの離隔距離Yよりも大きくなるように配置される、[1]〜[3]の何れか1つに記載の酸素吹き込みランス。
[5]前記溶鉄に対向する側の端部では、前記酸素吹き込みランスの中心軸の位置に、更に酸素ノズルが設けられる、[1]〜[4]の何れか1つに記載の酸素吹き込みランス。
[6]上吹き酸素機能を有する転炉で溶鉄を精錬する際に、上吹き酸素を吹き込むための酸素吹き込みランスから酸素を前記溶鉄に吹き付ける酸素吹き付け方法であって、酸素吹き込みランスの前記溶鉄に対向する側の端部では、当該酸素吹き込みランスの中心軸の周囲に複数の酸素ノズルが設けられており、前記複数の酸素ノズルのうち、任意の1つの前記酸素ノズルから吹き込まれる酸素ジェットの酸素流量が、他の前記酸素ノズルのそれぞれから吹き込まれる酸素ジェットの酸素流量の50%以上100%以下となるように、前記酸素ジェットの酸素流量を制御し、前記酸素ノズルの出口位置から当該酸素ノズルからの前記酸素ジェットのマッハ数が1となる位置までをジェットコア領域としたときに、前記複数の酸素ノズルのそれぞれから吹き込まれる酸素ジェットを、互いに前記ジェットコア領域内で衝突させる、酸素吹き付け方法。
【0010】
【数1】
【0011】
ここで、上記式(1)〜式(10)において、
:ジェットコア長さ[mm]
CP:ノズル適正マッハ数でのジェットコア長さ[mm]
OP:ノズル適正マッハ数[−]
:スロート径[mm]
:ノズル入口圧[kg/cm−abs]
Q:送酸速度[Nm/h]
T:雰囲気温度[℃]
n:酸素ノズルの個数[−]
:雰囲気圧[kg/cm−abs]
X:酸素ノズルの中心と酸素吹き込みランスの中心との離隔距離[mm]
Y:酸素ノズルの出口位置から酸素ジェット衝突位置までの離隔距離[mm]
θ:酸素ノズルの傾斜角度[度]
であり、上記式(7)で算出されるfの値は、0.4超5.0以下である。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明によれば、スピッティングによるランスへの地金の付着を低減しつつ、二次燃焼率を低下させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る酸素吹き込みランスが用いられる溶鉄の精錬処理を説明するための説明図である。
図2】同実施形態に係る酸素吹き込みランスを説明するための説明図である。
図3】同実施形態に係る酸素吹き込みランスを説明するための説明図である。
図4】同実施形態に係る酸素吹き込みランスを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
(溶鉄の精錬処理について)
まず、図1を参照しながら、本発明の実施形態で着目する溶鉄の精錬処理について、簡単に説明する。図1は、本実施形態に係る酸素吹き込みランスが用いられる溶鉄の精錬処理を説明するための説明図である。
【0016】
図1に模式的に示したような上吹き酸素機能を有する転炉で溶鉄を精錬する場合、炉内に装てんされた溶融鉄浴(鉄の溶融物)に対して、転炉の上方から挿入された酸素吹き込みランス(以下、単に「ランス」ともいう。)10を介して酸素ガスを吹き込むことで、炭素、ケイ素、リン等といった溶融物中の不純物を酸化させる。また、かかる精錬処理では、蒸気やダスト等が発生するため、発生するダスト等を外部環境に出さないためのフードが、転炉の炉口付近に設けられており、このフードを介して、LDガス等が回収されている。
【0017】
ここで、従来の精錬処理では、二次燃焼率を低下させるために、酸素吹き込みランス高さを低下させて溶融鉄浴との距離を短縮し、炉内での燃焼を可能な限り抑制することが行われている。また、鉄浴の攪拌を強化して脱炭、脱リン等の精錬反応を促進させるために、酸素吹き込みランスを介して酸素ガスを勢いよく溶融鉄浴に衝突させている。しかしながら、酸素吹き込みランス高さを低下させて酸素ガスを勢いよく溶融鉄浴に衝突させた場合、浴面に深いキャビティーが形成され、かかるキャビティーの形成に伴って粒鉄の飛散(スピッティング)が増加することとなる。スピッティングが増加すると、ランスの先端に付着する地金の量が増加し、操業に影響を及ぼすようになってしまう。
【0018】
そこで、本実施形態に係る酸素吹き込みランス及び酸素吹き込み方法では、従来とは逆に、酸素吹き込みランス10から噴射される酸素ジェット同士を互いに衝突させることで、酸素ジェットの有している運動エネルギーを意図的に低下させ、運動エネルギーが低下した状態で溶融鉄浴に衝突するようにする。運動エネルギーを低下させた状態の酸素ガスを溶融鉄浴と衝突させることで、飛散する粒鉄を減少させることが可能となり、また、飛散した粒鉄が存在したとしても、かかる粒鉄は大きな運動エネルギーを有さないようになる。そのため、ランスの先端(溶融鉄浴と対向している端部)まで到達して地金として付着する粒鉄量を低減することが可能となる。
【0019】
また、酸素ジェット同士を運動エネルギーが低下するように衝突させることで、酸素ジェットの総側面積は大きく低下することとなる。その結果、従来の精錬処理とは逆に、二次燃焼率を低下させることが可能となる。これにより、転炉から回収されるLDガスの発熱量を向上させることが可能となり、精錬工程を含むプロセス全体として、より効率の良いエネルギーの再利用を行うことが可能となる。
【0020】
(酸素吹き込みランスについて)
次に、図2図4を参照しながら、本実施形態に係る酸素吹き込みランス10について、詳細に説明する。図2図4は、本実施形態に係る酸素吹き込みランス10を説明するための説明図である。
【0021】
本実施形態に係る酸素吹き込みランス10は、上吹き酸素機能を有する転炉で溶鉄を精錬する際に、上吹き酸素を吹き込むために用いられるものである。図2の上段に、本実施形態に係るランス10の溶鉄に対向する側の端部(底面)の模式図を示しており、図2の下段に、図2上段の図におけるA−A’の位置でランス10を切断した場合の断面図を模式的に示している。なお、図2において、ランス側面及びランス底面を流れる冷却水の水路は、省略して図示している。
【0022】
図2に示したように、本実施形態に係るランス10の底面には、ランス10の内部に供給される酸素ガスを噴射するための酸素ノズル101が、ランス10の中心軸の周囲に複数配置されている。ここで、ランス10に設けられる酸素ノズル101については、特に限定されるものではなく、例えばラバールノズル等といった公知のノズルを利用することが可能である。
【0023】
図3に模式的に示したように、酸素ノズル101から噴射される酸素ジェットには、ランス10の先端に近い側から順に、ジェットコア領域と、自由噴流領域と、が存在している。ジェットコア領域は、ランス10の出口位置(酸素ノズル101の出口位置でもある。)から、噴射された酸素ジェットのマッハ数が1となる位置までに対応する領域である。また、自由噴流領域は、ジェットコア領域の下流側に位置し、酸素ノズル101から噴射された酸素ジェットが自由噴流となって噴出している領域である。
【0024】
本実施形態では、図3に示したようなジェットコア領域の長さ(酸素ノズル101の中心軸に沿った長さ、以下単に「ジェットコア長さ」ともいう。)を、Hと表わすこととする。このジェットコア長さHは、酸素ジェットの流速が減速していない領域の長さである「ポテンシャルコア長さ」の代わりとして、一般的に用いられる指標である。
【0025】
本実施形態に係るランス10では、ランス10の底面に設けられた複数の酸素ノズル101のそれぞれから噴射される酸素ジェットが、互いにジェットコア領域内で衝突するようになっている。また、本実施形態に係るランス10では、複数の酸素ノズル101のうち、任意の1つの酸素ノズル101から吹き込まれる酸素ジェットの酸素流量は、他の酸素ノズル101のそれぞれから吹き込まれる酸素ジェットの酸素流量の50%以上100%以下となるように制御される。
【0026】
ここで、複数の酸素ノズル101から噴射される酸素ジェットが衝突するという状態は、換言すれば、それぞれの酸素ノズル101の中心軸が、互いに交差するように配設されている状態ともいえる。
【0027】
上記のような酸素流量が実現されている状態で、かつ、複数の酸素ノズル101のそれぞれから噴射される酸素ジェットがジェットコア領域内で互いに衝突することで、酸素ジェットが有している運動エネルギーの損失が生じ、酸素ジェットの流速が急激に低下することとなる。この状態で酸素ジェットが鉄浴に衝突することで、スピッティングの発生を極めて低減させることが可能となる。また、各酸素ノズル101からの酸素ジェットが上記のような衝突により合体するため、酸素ジェットの総側面積は大きく低下する。その結果、二次燃焼率の低下を図ることが可能となる。
【0028】
ここで、任意の1つの酸素ノズル101から吹き込まれる酸素ジェットの酸素流量が、他の酸素ノズル101から吹き込まれる酸素ジェットの酸素流量の50%未満である場合には、酸素ジェットの運動エネルギーの損失を生じさせることができず、スピッティングの発生を低減させることが困難となる。また、任意の1つの酸素ノズル101から吹き込まれる酸素ジェットの酸素流量は、他の酸素ノズル101のそれぞれから吹き込まれる酸素ジェットの酸素流量と近ければ近いほど良く、例えば、70%以上100%以下とすることが好ましく、90%以上100%以下とすることが更に好ましく、100%とすることが最も好ましい。
【0029】
また、複数の酸素ノズル101のそれぞれから噴射される酸素ジェットが、ジェットコア領域内で互いに衝突しない場合には、衝突による運動エネルギーの損失が発生しない酸素ジェットが存在してしまう可能性があり、スピッティングの抑制効果を得ることが困難となる。
【0030】
図2に模式的に示したように、ランス10の中心軸と、酸素ノズル101の中心軸と、の交点において、それぞれの中心軸の間につくられる内角を、酸素ノズル101の傾斜角度θとしたときに、かかる傾斜角度θは、5度以上20度以下の範囲であることが好ましい。傾斜角度θを5度以上20度以下とすることで、より確実に酸素ジェットを衝突させることが可能となり、スピッティングの抑制効果や二次燃焼率の低減効果をより確実に実現することが可能となる。傾斜角度θが5度未満である場合には、各酸素ノズル101から噴射される酸素ジェットをジェットコア領域内で互いに衝突させることが困難となる場合があるため、好ましくない。また、傾斜角度θが20度を超える場合には、鉄浴まで到達しない酸素ジェットが生じ、酸素ジェットを効率良く使用することが困難となる場合があるため、好ましくない。傾斜角度θは、より好ましくは10度以上20度以下であり、更に好ましくは15度以上20度以下である。
【0031】
また、ランス10に設けられる酸素ノズル101の個数は、特に限定されるものではないが、3個〜6個の範囲とすることが好ましい。酸素ノズル101の個数が3個未満である場合には、各酸素ノズル101から噴出した酸素ジェットは、他の複数のジェットと衝突することができず、結果としてエネルギー損失が少なくなるため、好ましくない。一方、酸素ノズル101の個数が6個を超える場合には、従来のランス径では多くのノズルを配置することが困難であり、また、たとえ配置できたとしても、熱交換する冷却水の水路断面積を十分に確保することができずに冷却効率が低下し、ランスチップ寿命が低下するため、好ましくない。酸素ノズル101の個数は、より好ましくは、5個〜6個である。
【0032】
なお、図2では、4つの酸素ノズル101が、ランスの中心軸の周囲に同心円上に設けられる場合を図示しているが、酸素ノズル101の配置状態は、酸素ジェットを互いに衝突させることが可能であれば、同心円上に設けなくとも良い。また、図2では、ランスの中心軸上には酸素ノズル101が配置されていないが、ランスの中心軸上に更に酸素ノズル101を配置してもよい。なお、ランスの中心軸上に更に酸素ノズル101を配置する場合においても、ランスの中心軸上に位置する酸素ノズル101からの酸素ジェットは、上記のような条件を満足するように設定する。
【0033】
図4に、本実施形態に係る酸素ノズル101の配置例を模式的に示した。図4では、ランス10の底面における酸素ノズル101の配置の様子を模式的に示している。
図4における第1群の配置例のように、ランス10の中心軸の周囲に、3個〜6個の酸素ノズル101を均等に配置してもよいし、第2群の配置例のように、ランス10の中心軸上に更に酸素ノズル101を配置してもよい。また、第3群の配置例のように、複数の同心円を設定し、これらの同心円上に酸素ノズル101を配置するようにしてもよい。更に、第4群の配置例のように、酸素ジェットを互いに衝突させることが可能であれば、複数の酸素ノズルをランス10の中心軸の周囲に不均等に配置してもよい。
【0034】
なお、図4に示した酸素ノズル101の配置例は、あくまでも一例であって、図4に示した以外の酸素ノズル101の配置形態であっても良いことは言うまでもない。
【0035】
また、図2に示したような酸素ノズル101において、各酸素ノズル101のスロート径(酸素ノズル101の断面積が最小となる部分でのノズルの直径)をDと表わすとすると、各酸素ノズル101のスロート径Dは、本実施形態に係るランス10を適用する転炉の大きさに応じて、適宜決定すればよい。同様に、各酸素ノズル101の出口径についても、本実施形態に係るランス10を適用する転炉の大きさに応じて、適宜決定すればよい。
【0036】
また、それぞれの酸素ノズル101における送酸速度(例えば平均送酸速度)は、本実施形態に係るランス10を適用する転炉の大きさに応じて、適宜決定すればよい。
【0037】
以上のように、本実施形態に係るランス10では、各酸素ノズル101におけるノズル径(すなわち、スロート径及び出口径)の具体的な値や、送酸速度の具体的な値は、特に規定するものではなく、酸素ノズル101間での酸素ジェットの酸素流量比が、上記のような条件を満たし、かつ、各酸素ジェットがジェットコア領域内で互いに衝突することが重要である。
【0038】
また、ある規模の転炉において、本実施形態に係るランス10を用いることで上記のような効果が実現された場合に、かかるランス10を異なる規模の転炉に適用したとしても、適用した転炉の規模に応じて各酸素ノズル101のノズル径や送酸速度を適切に設定することで、同様な効果を得ることができる。
【0039】
ここで、図3に示したジェットコア長さHであるが、上記非特許文献1に開示されているように、ランス10に関する各種設定値を利用して、理論的に算出することが可能である。以下の説明において、ジェットコア長さHの算出に利用する各種設定値を、以下のように表わすものとする。
【0040】
:ジェットコア長さ[mm]
CP:ノズル適正マッハ数でのジェットコア長さ[mm]
OP:ノズル適正マッハ数[−]
:スロート径[mm]
:ノズル入口圧[kg/cm−abs]
Q:送酸速度[Nm/h]
T:雰囲気温度(転炉内の温度)[℃]
n:酸素ノズルの個数[−]
:雰囲気圧(転炉内の雰囲気圧)[kg/cm−abs]
θ:酸素ノズルの傾斜角度[度]
X:酸素ノズルの中心とランスの中心との離隔距離[mm](図2を参照)
Y:酸素ノズルの出口位置から酸素ジェット衝突位置までの離隔距離[mm](図2を参照)
【0041】
この場合に、図3に示したジェットコア長さHは、以下の式(101)〜式(109)を用いて算出することが可能である。
【0042】
【数2】
【0043】
すなわち、送酸速度Q、スロート径Dt、ノズルの個数n、及び、雰囲気温度Tという、ランス10の設計値及び操業条件を利用することで、上記式(103)〜式(109)により、ジェットコア長さHと、ノズル適正マッハ数でのジェットコア長さHCPとの比である(H/HCP)を算出することができる。一方で、ノズル適正マッハ数でのジェットコア長さHCPは、上記式(102)により別途算出することが可能であるから、上記式(103)〜式(109)により算出した(H/HCP)と、上記式(102)により算出したHCPと、を利用して、上記式(101)により、ジェットコア長さHを算出することができる。
【0044】
一方、図2に示した幾何学的な関係から明らかなように、酸素ノズルの中心とランスの中心との離隔距離Xと、酸素ノズルの出口位置から酸素ジェット衝突位置までの離隔距離Yとの間には、下記の式(110)に示す関係が成立する。従って、「酸素ジェットがジェットコア領域内で衝突する」という状況を実現するためには、上記式(101)により算出されるジェットコア長さHと、下記式(110)で算出される離隔距離Yとの間に、下記式(111)に示す関係が成立していることが好ましい。
【0045】
【数3】
【0046】
以上、図2図4を参照しながら、本実施形態に係る酸素吹き込みランス10について、詳細に説明した。
【0047】
(酸素吹き込み方法について)
次に、以上説明したような本実施形態に係る酸素吹き込みランス10を利用した、酸素吹き込み方法について、簡単に説明する。
【0048】
本実施形態に係る酸素吹き込み方法は、上吹き酸素機能を有する転炉で溶鉄を精錬する際に、上吹き酸素を吹き込むための酸素吹き込みランスから酸素を前記溶鉄に吹き付ける酸素吹き付け方法である。この際に、酸素吹き込みランスとして、図2図4を参照しながら説明したような、本実施形態に係る酸素吹き込みランス10を利用する。
【0049】
より詳細には、本実施形態に係る酸素吹き込み方法では、図2図4に示したような複数の酸素ノズル101のうち、任意の1つの酸素ノズル101から吹き込まれる酸素ジェットの酸素流量が、他の酸素ノズル101のそれぞれから吹き込まれる酸素ジェットの酸素流量の50%以上100%以下となるように、酸素ジェットの酸素流量を制御する。その上で、更に、複数の酸素ノズル101のそれぞれから吹き込まれる酸素ジェットを、互いにジェットコア領域内で衝突させるようにする。これにより、本実施形態に係る酸素吹き込み方法では、スピッティングによるランスへの地金の付着を低減しつつ、二次燃焼率を低下させることが可能となる。
【実施例】
【0050】
以下では、実施例を示しながら、本発明に係る酸素吹き込みランス及び酸素吹き込み方法について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明に係る酸素吹き込みランス及び酸素吹き込み方法のあくまでも一例にすぎず、本発明に係る酸素吹き込みランス及び酸素吹き込み方法が、以下に示す例に限定されるものではない。
【0051】
以下では、100トン規模の転炉を用いた。スクラップ10tが存在している状態の転炉に対して、溶融鉄浴100トンと、脱リン用の生石灰等の副原料と、を供給した。その後、以下の表1に示すような酸素吹き込みランスを利用して酸素の吹き込みを行い、溶銑を脱炭して、溶鋼を製造した。なお、本実施例では、スクラップを、毎回同一質量比率で利用した。装入時の溶銑温度は、1300℃〜1350℃の範囲であり、処理後の溶融鉄浴温度は、1600℃〜1650℃の範囲であった。
【0052】
なお、以下の実施例では、酸素吹き込みランスからの平均送酸速度を20000Nm/hrとし、約20分の脱炭処理を行った。この際、転炉の底吹き羽口から、キャリアガスとして窒素ガスを平均400Nm/hrの速度で吹き込んだ。
【0053】
以下に示す実験例において、酸素吹き込みランスの酸素ノズルとして、ランス底面の同一円周上にノズルが均等に配置されたラバールノズルを用い、ノズル数nはn=4とし、ランス中心からノズルまでの距離Xを72mmとした。また、酸素ノズルの傾斜角度θは、θ=−15°〜20°の範囲で変化させ、溶銑面からのランス高さについては、約2000mmで同一になるように吹錬を行った。
【0054】
また、一部の実験例では、スロート径及び出口径の異なる2種類のノズルを利用し、ノズルのスロート断面積によってガス流量を変化させた。この実験例では、大流量のノズル個数を1とし、小流量のノズル個数を3とした(計4個)。
【0055】
以下に示す実験例において、それぞれの水準についてランスへの地金の付着状況を撮影し、静止画像から付着物の体積を求めて質量に換算し、付着地金量を評価した。より詳細には、得られた質量に基づき、以下に示す比較例5で得られた付着地金量を100として、各水準の付着地金量を指数化した。
【0056】
また、以下の実験例では、下記式に基づいて二次燃焼率を算出し、吹錬全時間での平均値で評価した。ここで、下記式において、CO,COは、いずれも排ガス分析計により得られた排ガス中成分(単位:モル%)を意味する。
【0057】
二次燃焼率(%)={CO/(CO+CO)}×100
【0058】
得られた結果を、以下の表1にあわせて示した。なお、以下の表1における「ジェットコア長さ」の値は、上記式(101)〜式(109)を利用して算出した値である。
【0059】
【表1】

【0060】
上記表1において、比較例1〜比較例5を比較すると明らかなように、比較例5から傾斜角度θを大きくして、酸素ノズルの向きを内向きにしていくに従って(比較例1〜比較例4)、ランス地金付着量が増大していくことが明らかとなった。これは、酸素ジェット同士が自由噴流領域中で干渉・合体して流速が増大することで、溶銑の飛散(スピッティング)高さが高くなり、ランスへの付着量が増加したものと推定される。
【0061】
また、傾斜角度θが更に大きくなり、ジェットコア領域内で酸素ジェット同士が衝突する実施例1〜実施例7では、比較例5に対して、ランス地金付着量が1割以上低減することが明らかとなった。ジェットコア領域で酸素ジェットを衝突させるようにすることで、酸素ジェットの運動エネルギー分散・消費させ、スピッティング高さが低くなったためと推定される。また、実施例1〜実施例7における二次燃焼率は、比較例5と比較して低下した。これは、酸素ジェットが衝突合体することで、COガスを巻き込み二次燃焼する反応サイトである酸素ジェット側面の面積(すなわち、酸素ジェットの総側面積)が小さくなったためと推定される。
【0062】
また、比較例6及び比較例7に示したように、一方の酸素ジェットに対して、他方の酸素ジェットの流量が50%未満となる場合、ランス地金量指数は、実施例1〜実施例4に対して、増加した。これは、衝突する酸素ジェットの他方の流量が極端に小さい場合、酸素流量の大きい酸素ジェットの運動エネルギーの減衰が発生しにくくなったためと推定される。
【0063】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0064】
10 酸素吹き込みランス
101 酸素ノズル

図1
図2
図3
図4