特許第6747140号(P6747140)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6747140
(24)【登録日】2020年8月11日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 13/00 20060101AFI20200817BHJP
   B60C 9/08 20060101ALI20200817BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20200817BHJP
【FI】
   B60C13/00 F
   B60C9/08 E
   B60C9/00 A
   B60C9/00 J
   B60C13/00 G
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-146877(P2016-146877)
(22)【出願日】2016年7月27日
(65)【公開番号】特開2018-16156(P2018-16156A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】西尾 好司
【審査官】 赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/054365(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/003742(WO,A1)
【文献】 特開2005−161964(JP,A)
【文献】 特開2014−166831(JP,A)
【文献】 実開平07−005814(JP,U)
【文献】 特開2002−103923(JP,A)
【文献】 特開平06−064409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00− 19/12
D02G 1/00− 3/48
D02J 1/00− 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部と、該一対のビード部間に装架された1層以上のカーカス層とを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記カーカス層を構成するカーカスコードが有機繊維コードであり、前記カーカス層は前記ビード部に配置されたビードコアの廻りにタイヤ内側から外側に巻き上げられており、前記カーカス層は前記一対のビード部間に位置する本体部と前記ビードコアの外側に巻き上げられた巻き上げ部とからなり、前記サイドウォール部における前記カーカス層の本体部のタイヤ幅方向外側にゴム緩衝層を介して隣接するサイド補強層が設けられ、該サイド補強層を構成する補強コードがスチールコードであり、前記サイド補強層のタイヤ径方向の引張剛性が前記カーカス層のタイヤ径方向の引張剛性の0.7倍〜1.3倍であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記サイド補強層のタイヤ径方向長さがタイヤ断面高さの55%〜75%であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記サイドウォール部における前記カーカス層の本体部と前記サイド補強層との層間距離が1.0mm〜2.5mmであることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
子午線断面において前記サイド補強層のタイヤ径方向外側端部が前記トレッド部の端部を通り前記カーカス層に垂直に交わる直線と前記カーカス層との交点を中心とする半径30mmの円の内側に位置することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
子午線断面において前記サイド補強層のタイヤ径方向内側端部が前記カーカス層の巻き上げ部の端部を中心とする半径30mmの円の内側に位置することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記サイド補強層を構成する補強コードのタイヤ周方向に対する配向角度θが15°〜35°であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性を損なうことなく、空気充填中のバーストや外傷に起因するカーカス層の損傷を防止することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
長時間走行後の空気入りタイヤや修理後の空気入りタイヤに空気を充填する際に、タイヤにバーストが生じる虞があることが知られている(例えば、特許文献1を参照)。このようなバーストの原因の一つとして、走行中のスチールコードの損傷を挙げることができる。即ち、例えば低圧状態で走行した場合などにスチールコードの一部に折れや座屈が発生する虞があるが、この折れや座屈が生じたままの状態でタイヤに空気を充填すると、この折れや座屈が生じた箇所を起点としてカーカスコードが破断して、瞬間的にタイヤが圧力容器としての機能を完全に喪失して、バーストを起こすことになる。
【0003】
このような空気充填中のバーストに対して、例えば特許文献1では、バースト自体を防止することはせずに、バーストが生じた場合であっても爆風や飛散する破片の影響を抑えるという観点に基づいて、空気充填中のタイヤの周囲を覆う安全カバーが提案されている。しかしながら、より安全性を高めることを考えるとバースト自体を防止する方が好ましく、空気入りタイヤにおいて空気充填中のバースト、特にカーカスコードの折れや座屈に起因するバーストを抑制し、かつ外傷に起因する故障を防止するための対策が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016‐084122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐久性を損なうことなく、空気充填中のバーストや外傷に起因するカーカス層の損傷を防止することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部と、該一対のビード部間に装架された1層以上のカーカス層とを備えた空気入りタイヤにおいて、前記カーカス層を構成するカーカスコードが有機繊維コードであり、前記カーカス層は前記ビード部に配置されたビードコアの廻りにタイヤ内側から外側に巻き上げられており、前記カーカス層は前記一対のビード部間に位置する本体部と前記ビードコアの外側に巻き上げられた巻き上げ部とからなり、前記サイドウォール部における前記カーカス層の本体部のタイヤ幅方向外側にゴム緩衝層を介して隣接するサイド補強層が設けられ、該サイド補強層を構成する補強コードがスチールコードであり、前記サイド補強層のタイヤ径方向の引張剛性が前記カーカス層のタイヤ径方向の引張剛性の0.7倍〜1.3倍であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の空気入りタイヤでは、上述のようにサイドウォール部におけるカーカス層の外周側にサイド補強層を備えて、カーカス層が有機繊維コードで構成される一方でサイド補強層はスチールコードで構成され、且つ、サイド補強層はカーカス層と同等のタイヤ径方向の引張剛性を有しているので、これらカーカス層とサイド補強層とによって重荷重用タイヤとして充分な骨格を形成しながら、カーカスコードが有機繊維コードであるため低圧状態で走行したとしてもカーカスコードに折れや座屈は生じず、スチールコードからなるカーカスコードを用いた場合のように、空気充填中にスチールコードの座屈箇所を起点としてカーカスコードが破断してバーストを起こすことは防止することができる。尚、サイド補強層に折れや座屈が生じていて空気充填中にサイド補強層を構成するスチールコードに破断が生じても、サイド補強層は圧力容器の骨格として略半分の張力しか分担していないため、瞬間的な圧力容器の機能喪失は発生せず、バーストには至らない。また、サイド補強層はサイドウォール部においてカーカス層の外周側に所定の間隔をおいて位置しているためカーカス層を外傷から保護することができ、外傷に起因するカーカス層の損傷を防止することができる。
【0008】
本発明では、サイド補強層のタイヤ径方向長さがタイヤ断面高さの55%〜75%であることが好ましい。これにより、サイド補強層の張力を適度な範囲に設定することができ、カーカス層との協働により圧力容器の骨格を適切に形成することができる。また、カーカス層を外傷から充分に保護することが可能になる。
【0009】
本発明では、サイドウォール部におけるカーカス層の本体部とサイド補強層との層間距離が1.0mm〜2.5mmであることが好ましい。これにより、カーカス層とサイド補強層とが圧力容器の骨格としての張力を適切に分担することができる。また、サイド補強層がカーカス層から適度に離間しているので、サイド補強層が受けた衝撃がカーカス層に達することを充分に防止することができ、カーカス層を外傷から保護するには有利になる。
【0010】
本発明では、子午線断面においてサイド補強層のタイヤ径方向外側端部がトレッド部の端部を通りカーカス層に垂直に交わる直線とカーカス層との交点を中心とする半径30mmの円の内側に位置することが好ましい。このような位置にサイド補強層の端部を配置することで、サイド補強層の張力を適度な範囲に設定することができ、カーカス層との協働により圧力容器の骨格を適切に形成することができる。また、カーカス層を外傷から充分に保護することが可能になる。
【0011】
本発明では、子午線断面においてサイド補強層のタイヤ径方向内側端部がカーカス層の巻き上げ部の端部を中心とする半径30mmの円の内側に位置することが好ましい。このような位置にサイド補強層の端部を配置することで、サイド補強層の張力を適度な範囲に設定することができ、カーカス層との協働により圧力容器の骨格を適切に形成することができる。また、カーカス層を外傷から充分に保護することが可能になる。
【0012】
本発明では、サイド補強層を構成する補強コードのタイヤ周方向に対する配向角度θが15°〜35°であることが好ましい。これにより、サイド補強層が圧力容器の骨格としての張力を適切に分担することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線半断面図である。
図2】カーカス層、ベルト層、サイド補強層を構成するコードの配向角度について模式的に示す説明図である。
図3図1のサイドウォール部を拡大して示す子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。尚、図1において、CLはタイヤ赤道を示す。
【0016】
左右一対のビード部3間には1層以上のカーカス層4(図では2層)が装架されている。各カーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本のカーカスコードを含む。カーカスコードとしては、例えばナイロン繊維コード、ポリエステル繊維コード、アラミド繊維コード等の有機繊維コードが用いられる。カーカスコードのタイヤ周方向に対する配向角度θcは図2に示すように例えば80°〜90°の範囲に設定されている。カーカス層4は、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部4aと折り返し部4bとにより包み込まれている。
【0017】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図1の例では4層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本のベルトコードを含む。ベルトコードとしては、例えばスチールコードが用いられる。ベルトコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度θbは図2に示すように例えば15°〜70°の範囲に設定されている。複数層のベルト層7のうち一部は層間でベルトコードが交差するように配置されている。図示の例の場合は、強度層として機能するタイヤ内周側から2層目と3層目のベルト層間でベルトコードが互いに交差し、タイヤ内周側から1層目と2層目のベルト層間ではベルトコードが同方向に傾斜し、タイヤ内周側から3層目と4層目のベルト層間でもベルトコードが同方向に傾斜している。
【0018】
サイドウォール部2におけるカーカス層4の外周側にはサイド補強層10が埋設されている。サイド補強層10はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含む。補強コードのタイヤ周方向に対する配向角度θsは図2に示すように例えば15°〜35°に設定される。補強コードとしては撚り合わされたワイヤ素線からなるスチールコードが用いられる。言い換えれば、サイド補強層10とは、撚り合わされたワイヤ素線からなる複数本のスチールコードがタイヤ周方向に対して傾斜した一方向に配列されてゴム母材中に埋設されて構成された層である。
【0019】
カーカス層4とサイド補強層10との間にはゴム緩衝層11が設けられる。言い換えれば、サイド補強層10はゴム緩衝層11を介してカーカス層4と隣り合うように設けられる。ゴム緩衝層11は、カーカス層4の本体部4aに沿うように設けられたサイド補強層10がカーカス層4と直接隣接せずに所定の間隔をおいて配置されるようにするための層であるので、ゴム緩衝層11を構成するゴム組成物の種類は特に限定されない。例えばサイドウォール部2を構成するゴム組成物と同じものを用いてもよい。
【0020】
本発明では、上述のように構成されたカーカス層4とサイド補強層10とにおいて、カーカス層4の層数をL、各カーカスコードの断面積をAc(単位mm2 )、各カーカスコードの弾性率をEc(単位GPa)、各カーカスコードの50mmあたりの打ち込み本数をDc、各カーカスコードのタイヤ周方向に対する配向角度を前述のようにθcとし、サイド補強層10の補強コードの断面積をAs(単位mm2 )、補強コードの弾性率をEs(単位GPa)、補強コードの50mmあたりの打ち込み本数をDs、補強コードのタイヤ周方向に対する配向角度を前述のようにθsとしたとき、下記(1)式で表されるカーカス層4のタイヤ径方向の引張剛性(AE)cと下記(2)式で表されるサイド補強層10のタイヤ径方向の引張剛性(AE)sとが略同等に設定されており、具体的には、サイド補強層10のタイヤ径方向の引張剛性(AE)sがカーカス層4のタイヤ径方向の引張剛性(AE)cの0.7倍〜1.3倍に設定されている。
(AE)c=L×Ac×Ec×Dc×sinθc (1)
(AE)s=As×Es×Ds×sinθs (2)
【0021】
尚、本発明では、カーカスコードの断面積Acとカーカスコードの弾性率Ecとは直接測定せずに、JIS L1017に準拠して中間伸度を測定する際に得られる負荷荷重N(単位N)と中間伸度(単位%)を100で除した歪εとから式(Ac×Ec=N/ε)で換算した値を用いた。また、サイド補強層10の補強コードの断面積Asは、JIS G3510に準拠して測定された素線径d(単位mm)に基づいて算出される素線断面積の合計値であり、補強コードの弾性率Esはゴム被覆された状態で測定された値である。各コードの打ち込み本数Dc,Dsと配向角度θc,θsとはいずれもタイヤ最大幅位置(タイヤが最大幅となるタイヤ径方向の位置)を中心としたタイヤ径方向に±30mmの範囲において測定された値である。
【0022】
このように構成することで、サイドウォール部2ではカーカス層4とサイド補強層10とによって重荷重用タイヤとして充分な骨格を形成することになるが、カーカスコードが有機繊維コードであるため低圧状態で走行したとしてもカーカスコードに折れや座屈は生じず、スチールコードからなるカーカスコードを用いた場合のように、空気充填中にスチールコードの座屈箇所を起点としてカーカスコードが破断してバーストを起こすことは防止することができる。一方、サイド補強層10に折れや座屈が生じていて空気充填中にサイド補強層10を構成するスチールコードに破断が生じても、サイド補強層10は圧力容器の骨格として略半分の張力しか分担していないため、瞬間的な圧力容器の機能喪失は発生せず、バーストには至らない。また、サイド補強層10はサイドウォール部2においてカーカス層4の外周側に所定の間隔をおいて位置しているためカーカス層4を外傷から保護することができ、外傷に起因するカーカス層4の損傷を防止することができる。
【0023】
このとき、カーカスコードがスチールコードであると、圧力容器の骨格としての張力をサイド補強層10と分担し合っているものの、カーカス層4は左右のビード部3間に装架されて空気入りタイヤの基本骨格を成しており、サイド補強層10に比べてタイヤ全体に対する影響が大きいため、上述のバーストを確実に防止することは難しくなる。サイド補強層10を構成する補強コードが有機繊維コードであると充分な圧力容器の骨格を形成することが難しくなり、また、外傷に起因するカーカス層4の損傷を防止することも難しくなる。ゴム緩衝層11を備えずカーカス層4とサイド補強層10とが直接隣接していると、サイド補強層10が受けた衝撃がカーカス層4まで達し易くなりカーカス層4の損傷を防止することが難しくなる。
【0024】
サイド補強層10のタイヤ径方向の引張剛性(AE)sがカーカス層4のタイヤ径方向の引張剛性(AE)cの0.7倍よりも小さいと、カーカス層4が分担しなければならない張力が増加し、カーカス層4の耐疲労性が低下する。また、サイド補強層10の補強コードの断面積As、補強コードの弾性率Es、補強コードの50mmあたりの打ち込み本数Dsのいずれかを過度に小さく設定する必要が生じ、特殊な材質、撚線構造等を採用することになり、生産性やコストに悪影響が出る。サイド補強層10のタイヤ径方向の引張剛性(AE)sがカーカス層4のタイヤ径方向の引張剛性(AE)cの1.3倍よりも大きいと、サイド補強層10に作用する張力が過度に大きくなり、サイド補強層10のエッジからクラックが発生する虞がある。
【0025】
カーカス層4の本体部4aとサイド補強層10とは層間にゴム緩衝層11が介在することで離間しているが、これらカーカス層4の本体部4aとサイド補強層10との層間距離は1.0mm〜2.5mmであることが好ましい。言い換えればゴム緩衝層11の厚さが1.0mm〜2.5mmであるとよい。より詳しくは、カーカス層4の本体部4aとサイド補強層10との層間で隣り合うカーカスコードと補強コードとのコード間距離が任意の位置で1.0mm〜2.5mmであることが好ましい。このようにカーカス層4の本体部4aとサイド補強層10との層間でカーカスコードと補強コードとを適度に離間させることで、圧力容器の骨格としての張力をカーカス層4とサイド補強層10とで適切に分担させながら、サイド補強層10が受けた衝撃がカーカス層4に達することを効果的に防止することができる。このとき、層間距離が1.0mmよりも小さいと、サイド補強層10とゴム緩衝層11とで衝撃を吸収または抑制しきれず衝撃がカーカス層4まで達してしまうため、外傷に起因するカーカス層4の損傷を抑制することができない。層間距離が2.5mmよりも大きいとサイド補強層10に対してカーカス層4の本体部4aが分担する張力が過度に大きくなりカーカス層4の耐疲労性が低下する。
【0026】
図3に示すように、サイド補強層10のタイヤ径方向長さをH、タイヤ断面高さをSHとしたとき、サイド補強層10のタイヤ径方向長さHはタイヤ断面高さSHの55%〜75%であることが好ましい。このようにサイド補強層10の寸法を設定することで、サイド補強層10の張力を適度な範囲に設定することができ、カーカス層4との協働により圧力容器の骨格を適切に形成することができる。また、カーカス層4を外傷から充分に保護することが可能になる。このとき、サイド補強層10のタイヤ径方向長さHがタイヤ断面高さSHの55%よりも小さいと、サイド補強層10の張力が過度に増加してサイド補強層10のエッジからクラックが誘発される虞がある。サイド補強層10のタイヤ径方向長さHがタイヤ断面高さSHの75%よりも大きいと、ベルト層端部、若しくはカーカス層端部にサイド補強層の端部が近づくことになり、ベルト層端部、カーカス層端部、サイド補強層端部からのクラックが誘発される虞がある。
【0027】
サイド補強層10はサイドウォール部2の任意の位置に配置することができるが、好ましくは、図3に示すように、子午線断面においてトレッド部1の端部を通りカーカス層4に垂直に交わる直線L1とカーカス層4との交点P1を中心とする半径30mmの円C1の内側にサイド補強層10のタイヤ径方向外側端部を配置するとよい。また、図3に示すように、子午線断面においてカーカス層4の巻き上げ部の端部P2を中心とする半径30mmの円C2の内側にサイド補強層10のタイヤ径方向内側端部を配置するとよい。このような位置にサイド補強層10の各端部を配置することで、サイド補強層10の張力を適度な範囲に設定することができ、カーカス層4との協働により圧力容器の骨格を適切に形成することができる。また、カーカス層4を外傷から充分に保護することが可能になる。サイド補強層10の各端部がこれら円C1,C2の外側に位置すると、サイド補強層10の各端部が、動きの大きい領域、即ちひずみの大きい領域に位置することになり、サイド補強層10の各端部からのクラックが誘発される虞がある。
【実施例】
【0028】
タイヤサイズが11R22.5であり、図1に示す基本構造を有し、カーカス層を構成するカーカスコードの材質、カーカスコードが有機繊維コードである場合にその中間伸度の測定時に得られる負荷荷重N、中間伸度、カーカスコードがスチールコードである場合にその弾性率Ec、カーカスコードの引張剛性、カーカスコードの打ち込み本数Dc、カーカスコードの配向角度θc、カーカス層のタイヤ径方向の引張剛性(AE)c、サイド補強層の有無、サイド補強層を構成する補強コードの材質、補強コードの弾性率Es、補強コードの実断面積As、補強コードの引張剛性、補強コードの打ち込み本数Ds、補強コードの配向角度θs、サイド補強層のタイヤ径方向の引張剛性(AE)s、タイヤ径方向長さ、比(AE)c/(AE)s、カーカス層とサイド補強層との層間距離をそれぞれ表1〜2のように設定した従来例1、比較例1〜5、実施例1〜13の19種類の空気入りタイヤを作製した。
【0029】
尚、表1〜2のカーカスコードの材質および補強コードの材質の欄について、コード構造が3+8×0.215HTであるスチールコードを用いた場合を「スチール1」、コード構造が4×6×0.25であるスチールコードを用いた場合を「スチール2」、コード構造が1670T/2であるポリエステルコードを用いた場合を「PE1」、コード構造が2200T/2であるポリエステルコードを用いた場合を「PE2」と示した。また、サイド補強層の径方向外側端部位置の欄について、この端部が子午線断面においてトレッド部の端部を通りカーカス層に垂直に交わる直線とカーカス層との交点を中心とする半径30mmの円C1の内側に位置する場合を「C1内」、外側に位置する場合を「C1外」と示した。同様に、サイド補強層の径方向内側端部位置の欄について、この端部が子午線断面においてカーカス層の巻き上げ部の端部を中心とする半径30mmの円C2の内側に位置する場合を「C2内」、外側に位置する場合を「C2外」と示した。
【0030】
これら19種類の空気入りタイヤについて、下記の評価方法により、低圧走行後の空気充填時におけるバーストが発生する可能性(耐バースト性)、外傷に起因するカーカス層の損傷に対する耐久性(耐外傷性)、サイド補強層エッジからのセパレーションに対する耐久性(耐セパレーション性)を評価し、その結果を表1〜2に併せて示した。
【0031】
耐バースト性
各試験タイヤをリムサイズ22.5×7.50のホイールに組み付けて、空気圧を規格空気圧の30%として試験車両に装着し、規格荷重の30%を負荷した状態で速度40km/hの条件で10時間走行した後、タイヤ内に高圧で水を注入してバーストまで至らせる水圧試験を実施し、バースト発生時の水圧を測定した。評価結果は、従来例1の測定値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどバーストが生じ難く、耐バースト性に優れることを意味する。
【0032】
耐外傷性
各試験タイヤを6本ずつ作製し、それぞれをリムサイズ22.5×7.50のホイールに組み付けて、空気圧を800kPaとしてダンプ車両のフロント、およびリア1軸目、2軸目の外側に装着し、砕石場にて2時間走行させた後、外傷に起因する故障が発生したタイヤの本数を測定した。評価結果は5段階評価にて示した。この指数値が大きいほど外傷に起因する故障が発生したタイヤの本数が小さく、耐外傷性に優れることを意味する。
【0033】
耐セパレーション性
各試験タイヤをリムサイズ22.5×7.50のホイールに組み付けて、ドラム試験機を用いて、空気圧を規格空気圧−200kPa、荷重を規格荷重の140%、速度を40km/hの条件として、サイド補強層エッジからのセパレーションによる故障が発生するまでの走行距離を測定した。評価結果は、比較例4の測定値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどセパレーションが生じ難く、耐セパレーション性に優れることを意味する。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
表1〜2から明らかなように、実施例1〜13はいずれも、従来例1に対して、耐バースト性、耐外傷性を向上し、比較例4に対して耐セパレーション性を向上した。
【0037】
一方、比較例1〜5はいずれも従来例1に対して耐バースト性は高めることができるものの、比(AE)c/(AE)sが大き過ぎるため、耐セパレーション性が著しく悪化した。
【符号の説明】
【0038】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
4a 本体部
4b 折り返し部
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
10 サイド補強層
11 ゴム緩衝層
CL タイヤ赤道
図1
図2
図3