特許第6747180号(P6747180)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6747180
(24)【登録日】2020年8月11日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20200817BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20200817BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20200817BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20200817BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D5/04
   B62D101:00
   B62D119:00
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-167250(P2016-167250)
(22)【出願日】2016年8月29日
(65)【公開番号】特開2018-34556(P2018-34556A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年7月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】板倉 光宏
【審査官】 鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−064710(JP,A)
【文献】 特開平06−263054(JP,A)
【文献】 特開2007−055452(JP,A)
【文献】 特開2012−025246(JP,A)
【文献】 特許第3915610(JP,B2)
【文献】 特開2014−122017(JP,A)
【文献】 特開平06−127406(JP,A)
【文献】 特開2005−75026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動源とする操舵力補助装置により操舵機構にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵制御装置において、
操舵トルクに基づき前記操舵力補助装置に発生させるべき前記アシスト力の基本アシスト成分を演算する基本アシスト演算部と、
前記操舵機構の操舵位置が特定の操舵範囲にある場合にトルク変動が繰り返し発生する異常の有無を判定する異常判定部と、
前記トルク変動に基づく補償アシスト成分を演算する補償アシスト演算部と、
前記異常判定部により前記異常が有ると判定された場合には、前記操舵機構の操舵位置が前記特定の操舵範囲にあるときに、前記補償アシスト成分に基づいて前記基本アシスト成分を補正して前記アシスト力を制御するアシスト制御部とを備えた操舵制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の操舵制御装置において、
前記操舵機構は、ステアリング操作に伴うステアリングシャフトの回転をラックアンドピニオン機構によりラック軸の往復動に変換するものであり、
前記異常判定部は、前記ラック軸に作用する実ラック軸力又は該実ラック軸力に換算可能な値と、前記操舵機構の操舵位置に基づく規範ラック軸力又は該規範ラック軸力に換算可能な値との偏差又は該偏差に基づくパラメータを該操舵機構の操舵位置と関係付けて記憶し、
前記補償アシスト演算部は、前記異常判定部に記憶された前記偏差又は前記パラメータに基づき、前記操舵機構の操舵位置と関係付けて前記補償アシスト成分を演算する操舵制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の操舵制御装置において、
前記操舵力補助装置は、前記モータの回転をボール螺子機構により前記ラック軸の軸方向移動に変換することで前記操舵機構にアシスト力を付与するものであり、
前記ボール螺子機構は、前記ラック軸の外周に形成された螺子溝と、前記モータにより回転駆動されるボール螺子ナットの内周に形成された螺子溝とを対向させてなる螺旋状のボール軌道内に複数のボールを配設することにより構成され、前記ボール軌道の延伸方向に沿って前記各ボールを所定間隔で転動可能に保持するリテーナを有する操舵制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の操舵制御装置において、
前記操舵力補助装置に生じる振動を検出する振動検出部を備え、
前記異常判定部は、前記振動検出部により検出される振動の振幅が連続して閾値を超えた操舵範囲が有る場合に、該操舵範囲を前記特定の操舵範囲とする前記異常が有ると判定する操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用のパワーステアリング装置として、モータを駆動源とする操舵力補助装置を備えた電動パワーステアリング装置(EPS)がある。こうした操舵力補助装置には、モータの回転をボール螺子機構により転舵軸の軸方向移動に変換することで操舵機構にアシスト力を付与する形式もの等が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
ところで、例えば経年劣化により転舵軸の螺子溝に錆やピッチング(欠け)等が発生することがある。その結果、転舵軸における錆等が発生した部位を介してモータからのアシスト力が伝達される場合に、当該アシスト力が適切に伝達されず、例えば運転者に引っ掛かり感を与えるおそれがある。そこで、例えば特許文献2には、モータ回転数、操舵トルク、及び操舵角(操舵速度)の所定周波数範囲内における周期的な変化の有無に基づいてラック軸の錆等を検出する操舵制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−25246号公報
【特許文献2】特開2016−64710号公報
【特許文献3】特許第3915610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献2の構成では、錆等の異常を検出した場合に、警告灯を点灯させたり、警告音を発したりして運転者に異常の発生を知らせる、又は次にイグニッションがオンされた際にはアシスト力を付与しないといった構成を開示しているのみである。そのため、錆等の異常が発生した場合において、当該異常が発生した部位がアシスト力の伝達経路となる操舵範囲で操舵フィーリングが低下することは避けられない。
【0006】
なお、こうした問題は、ボール螺子機構を用いたEPSに限らず、例えばモータの回転をウォーム減速機により減速してステアリングシャフトにアシスト力を付与する形式のもの(例えば、特許文献3)においても、例えばウォームホイールに欠け等が発生した場合に同様に生じ得る。
【0007】
本発明の目的は、操舵フィーリングの低下を抑制できる操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する操舵制御装置は、モータを駆動源とする操舵力補助装置により操舵機構にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵制御装置において、操舵トルクに基づき前記操舵力補助装置に発生させるべき前記アシスト力の基本アシスト成分を演算する基本アシスト演算部と、前記操舵機構の操舵位置が特定の操舵範囲にある場合にトルク変動が繰り返し発生する異常の有無を判定する異常判定部と、前記トルク変動に基づく補償アシスト成分を演算する補償アシスト演算部と、前記異常判定部により前記異常が有ると判定された場合には、前記操舵機構の操舵位置が前記特定の操舵範囲にあるときに、前記補償アシスト成分に基づいて前記基本アシスト成分を補正して前記アシスト力を制御するアシスト制御部とを備える。
【0009】
上記構成によれば、操舵機構の操舵位置が特定の操舵範囲にある場合にトルク変動が繰り返し発生する異常が検出された場合、基本アシスト成分をトルク変動に基づく補償アシスト成分により補正してモータ(操舵力補助装置)が制御される。そのため、例えば錆等の異常が発生した場合に、当該異常が発生した部位がアシスト力の伝達経路となる特定の操舵範囲で操舵フィーリングが低下することを抑制できる。
【0010】
上記操舵制御装置において、前記操舵機構は、ステアリング操作に伴うステアリングシャフトの回転をラックアンドピニオン機構によりラック軸の往復動に変換するものであり、前記異常判定部は、前記ラック軸に作用する実ラック軸力又は該実ラック軸力に換算可能な値と、前記操舵機構の操舵位置に基づく規範ラック軸力又は該規範ラック軸力に換算可能な値との偏差又は該偏差に基づくパラメータを該操舵機構の操舵位置と関係付けて記憶し、前記補償アシスト演算部は、前記異常判定部に記憶された前記偏差又は前記パラメータに基づき、前記操舵機構の操舵位置と関係付けて前記補償アシスト成分を演算することが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、実ラック軸力又はこれに換算可能な値と規範ラック軸力又はこれに換算可能な値との偏差又は該偏差に基づくパラメータを用い、操舵機構の操舵位置と関係付けて補償アシスト成分を演算するため、適切な補償アシスト成分を演算して好適に操舵フィーリングの低下を抑制できる。
【0012】
上記操舵制御装置において、前記操舵力補助装置は、前記モータの回転をボール螺子機構により前記ラック軸の軸方向移動に変換することで前記操舵機構にアシスト力を付与するものであり、前記ボール螺子機構は、前記ラック軸の外周に形成された螺子溝と、前記モータにより回転駆動されるボール螺子ナットの内周に形成された螺子溝とを対向させてなる螺旋状のボール軌道内に複数のボールを配設することにより構成され、前記ボール軌道の延伸方向に沿って前記各ボールを所定間隔で転動可能に保持するリテーナを有することが好ましい。
【0013】
通常、ボール螺子機構では、各ボールの円滑な転動を確保するため、隣り合うボール間に若干の隙間ができるよう、該ボール軌道内に余裕を持ってボールが充填されている。そのため、車両の走行時等において、一部のボールがボール軌道内で偏って存在してしまうことがある。その結果、例えば転舵軸の螺子溝に錆等の異常が発生した場合において、各ボールが当該異常の発生した部位を転動する態様が、操舵する度に異なる可能性がある。この点、上記構成によれば、リテーナにより各ボールがボール軌道の延伸方向に所定間隔で保持されるため、各ボールが異常の発生した部位を転動する態様が、操舵する度に異なることを抑制できる。これにより、操舵機構の操舵位置が特定の操舵範囲にある場合に繰り返し発生するトルク変動が、同様の傾向を示すようになる。そのため、上記構成のように、例えば実ラック軸力と規範ラック軸力との偏差又は該偏差に基づくパラメータを用い、操舵機構の操舵位置と関係付けて演算された補償アシスト成分を用いることで、より好適に操舵フィーリングの低下を抑制できる。
【0014】
上記操舵制御装置において、前記操舵力補助装置に生じる振動を検出する振動検出部を備え、前記異常判定部は、前記振動検出部により検出される振動の振幅が連続して閾値を超えた操舵範囲が有る場合に、該操舵範囲を前記特定の操舵範囲とする前記異常が有ると判定することが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、異常判定部は、振動検出部により検出される振動の振幅に基づいて異常の有無を判定するため、異常による振動で操舵フィーリングが低下する場合に、該異常が有ると適切に判定できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、操舵フィーリングの低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】電動パワーステアリング装置の概略構成図。
図2】操舵力補助装置の断面図。
図3】ECUのブロック図。
図4】ナット回転角と異常検出回数とのデータテーブルの一例を示す模式図。
図5】異常判定部によるデータテーブル生成処理手順を示すフローチャート。
図6】異常判定部による異常の検出処理手順を示すフローチャート。
図7】ナット回転角と偏差電流とのマップの一例を示す模式図。
図8】操舵角と規範ラック軸力との関係を示す模式図。
図9】異常判定部による偏差電流マップ生成処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、操舵制御装置を搭載した電動パワーステアリング装置(EPS)の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、EPS1は、運転者によるステアリングホイール2の操作に基づいて転舵輪3を転舵させる操舵機構4と、操舵機構4にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置5と、操舵力補助装置5の作動を制御するECU6とを備えている。
【0019】
操舵機構4は、ステアリングホイール2が固定されるステアリングシャフト11と、ステアリングシャフト11の回転に応じて軸方向に往復動する転舵軸としてのラック軸12と、ラック軸12が往復動可能に挿通されるラックハウジング13とを備えている。なお、ステアリングシャフト11は、ステアリングホイール2側から順にコラム軸14、中間軸15、及びピニオン軸16を連結することにより構成されている。
【0020】
ラックハウジング13は、円筒状に形成された第1ハウジング13aと、円筒状に形成されるとともに第1ハウジング13aの軸方向一端側(図1中、左側)に固定された第2ハウジング13bとを備えている。ラック軸12とピニオン軸16とは、第1ハウジング13a内に所定の交差角をもって配置されており、ラック軸12に形成されたラック歯12aとピニオン軸16に形成されたピニオン歯16aとが噛合されることでラックアンドピニオン機構17が構成されている。また、ラック軸12の両端には、タイロッド18が連結されており、タイロッド18の先端は、転舵輪3が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。したがって、EPS1では、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト11の回転がラックアンドピニオン機構17によりラック軸12の軸方向移動に変換され、この軸方向移動がタイロッド18を介してナックルに伝達されることにより、転舵輪3の転舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0021】
操舵力補助装置5は、駆動源であるモータ21と、モータ21の回転を伝達する伝達機構22と、伝達機構22を介して伝達された回転をラック軸12の往復動に変換するボール螺子機構23とを備えており、第1ハウジング13aと第2ハウジング13bとの連結部分に設けられている。なお、本実施形態のモータ21には、三相のブラシレスモータが採用されている。
【0022】
詳しくは、図2に示すように、モータ21は、ラック軸12と平行となるように第1ハウジング13aに固定されている。
伝達機構22は、モータ21の回転軸21aに同軸上で一体回転可能に連結された駆動プーリ31と、ラック軸12の外周に同軸配置された従動プーリ32と、駆動プーリ31及び従動プーリ32に巻き掛けられたベルト33とを備えている。
【0023】
ボール螺子機構23は、ラック軸12の外周に同軸配置された円筒状のボール螺子ナット41を備えている。ボール螺子ナット41の外周には、従動プーリ32が一体回転可能に嵌合されるとともに、軸受42を介して第2ハウジング13bの内周に回転可能に支持されている。また、ボール螺子ナット41の内周には、螺子溝43が形成されている。一方、ラック軸12の外周には、螺子溝43に対応する螺子溝44が形成されている。そして、螺子溝43,44が互いに対向することによって螺旋状のボール軌道R1が形成されている。ボール軌道R1内には、各ボール45がボール螺子ナット41の螺子溝43とラック軸12の螺子溝44とに挟まれた状態で配設されている。つまり、ボール螺子ナット41は、ラック軸12の外周に各ボール45を介して螺合されている。
【0024】
また、ボール螺子機構23は、ラック軸12とボール螺子ナット41との間に配置される円筒状のリテーナ(保持器)46を備えている。リテーナ46には、各ボール45を転動可能に保持する複数の保持溝47が形成されている。各保持溝47は、リテーナ46の内外に貫通するとともに、ラック軸12に対して所定角度傾斜して延びる長孔状に形成されている。なお、隣り合う保持溝47同士は、ボール45よりも十分に小さい間隔を周方向に均等に空けて形成されている。
【0025】
これにより、各ボール45は、ラック軸12とボール螺子ナット41(従動プーリ32)との間の相対回転に伴い、その負荷(摩擦力)を受けつつ、隣り合うボール45同士の間隔が略均等に保たれた状態でボール軌道R1内を転動する。そして、各ボール45の転動によってラック軸12とボール螺子ナット41との軸方向の相対位置が変位することにより、モータ21のトルクがアシスト力として操舵機構4に付与される。なお、ボール軌道R1内を転動するボール45は、ボール螺子ナット41に設けられた該ボール軌道R1の二点間を短絡する循環路(図示略)を通過することで無限循環する。
【0026】
次に、本実施形態のEPS1の電気的構成について説明する。
図1に示すように、ECU6には、EPS1が搭載される車両の車速SPDを検出する車速センサ51、及びステアリングシャフト11に付与された操舵トルクTを検出するトルクセンサ52が接続されている。なお、本実施形態のトルクセンサ52は、ピニオン軸16近傍に設けられている。また、ECU6には、ステアリングホイール2の操舵角θsを検出するステアリングセンサ(操舵角センサ)53、及びラックハウジング13(ボール螺子機構23)に発生する振動の振幅Amを検出する振動センサ54が接続されている。なお、本実施形態のステアリングセンサ53には、ステアリングホイール2の操舵角θsを360°を超える範囲の絶対角で検出可能なセンサが採用されている。また、振動センサ54は、ボール螺子機構23の振動を検出しやすいように、第2ハウジング13bにおけるボール螺子機構23の近傍に設けられている。そして、ECU6は、これら各センサから入力される各状態量を示す信号及びモータ21の状態量を示す信号に基づいて、モータ21に駆動電力を供給することにより、操舵力補助装置5の作動、すなわち操舵機構4に付与するアシスト力を制御する。つまり、本実施形態では、振動センサ54から出力される振幅Amを示す信号及びECU6により振動検出部が構成されている。
【0027】
図3に示すように、ECU6は、モータ制御信号を出力するマイコン61と、モータ制御信号に基づいてモータ21に駆動電力を供給する駆動回路62とを備えている。なお、本実施形態の駆動回路62には、直列に接続された一対のスイッチング素子(例えば、FET等)を基本単位とし、これらをモータ21の各相のモータコイル21u,21v,21wに対応させて並列に接続してなる周知のPWMインバータが採用されている。そして、マイコン61の出力するモータ制御信号は、各スイッチング素子のオンオフ状態を規定するものとなっている。これにより、モータ制御信号に応答して各スイッチング素子がオンオフし、各相のモータコイル21u,21v,21wへの通電パターンが切り替わることにより、三相の駆動電力がモータ21へと出力される。
【0028】
マイコン61には、上記車速SPD、操舵トルクT、操舵角θs及び振幅Amが入力される。また、マイコン61には、駆動回路62とモータコイル21u,21v,21wとの間の各接続線に設けられた電流センサ63u,63v,63wにより検出されるモータ21の各相電流値Iu,Iv,Iw、及びレゾルバなどの回転角センサ64により検出されるモータ21のモータ回転角θmが入力される。そして、マイコン61は、これら各状態量に基づいてモータ制御信号を出力する。なお、マイコン61は、所定のサンプリング周期(検出周期)で各状態量を検出し、所定周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行することにより、モータ制御信号を生成する。
【0029】
マイコン61は、モータ21に対する電力供給の目標値、すなわち目標アシスト力に対応する電流指令値(q軸電流指令値Iq*)を演算するアシスト制御部としての電流指令値演算部71と、電流指令値に基づいてモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部72とを備えている。また、マイコン61は、ボール螺子ナット41のナット回転角θnを絶対角で検出するナット回転角検出部73と、ラック軸12の螺子溝44に生じる錆やピッチング等により操舵機構4の操舵位置が特定の操舵範囲にある場合にトルク変動が繰り返し発生する異常の有無を判定する異常判定部74とを備えている。
【0030】
詳しくは、電流指令値演算部71には、基本アシスト演算部81が設けられており、基本アシスト演算部81には、上記操舵トルクT及び車速SPDが入力される。そして、基本アシスト演算部81は、操舵トルクT及び車速SPDに基づいて、目標アシスト力に対応する基本アシスト成分としての基本アシスト電流Ibを演算する。具体的には、基本アシスト演算部81は、操舵トルクTの絶対値が大きいほど、また車速SPDが遅いほど、より大きな値(絶対値)を有する基本アシスト電流Ibを演算する。このように演算された基本アシスト電流Ibは、後述する補償アシスト演算部82で演算された補償アシスト成分としての補償アシスト電流Icとともに加算器83に入力される。そして、電流指令値演算部71は、加算器83にてこれら各電流を足し合わせた値をq軸電流指令値Iq*としてモータ制御信号出力部72に出力する。なお、d軸電流指令値Id*はゼロに固定される(Id*=0)。
【0031】
モータ制御信号出力部72には、上記電流指令値演算部71の演算するq軸電流指令値Iq*とともに、各相電流値Iu,Iv,Iw及びモータ回転角θmが入力される。そして、モータ制御信号出力部72は、これらの状態量に基づいてd/q座標系における電流フィードバック制御を実行することにより、駆動回路62に出力するモータ制御信号を演算する。
【0032】
具体的には、モータ制御信号出力部72に入力された各相電流値Iu,Iv,Iwは、d/q変換部91に入力される。d/q変換部91は、モータ回転角θmに基づいて各相電流値Iu,Iv,Iwをd/q座標上に写像することにより、d軸電流値Id及びq軸電流値Iqを演算する。続いて、q軸電流値Iqは、電流指令値演算部71から入力されたq軸電流指令値Iq*とともに減算器92qに入力され、d軸電流値Idは、d軸電流指令値Id*とともに減算器92dに入力される。そして、各減算器92d,92qは、d軸電流偏差ΔId及びq軸電流偏差ΔIqを演算する。
【0033】
d軸電流偏差ΔId及びq軸電流偏差ΔIqは、それぞれ対応するF/B(フィードバック)制御部93d,93qに入力される。そして、各F/B制御部93d,93qは、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*に実電流値であるd軸電流値Id及びq軸電流値Iqを追従させるべく、d軸電流偏差ΔId及びq軸電流偏差ΔIqにそれぞれ所定のゲインを乗算することにより、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を演算する。
【0034】
d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*は、モータ回転角θmとともにd/q逆変換部94に入力される。d/q逆変換部94は、モータ回転角θmに基づいてd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を三相の交流座標上に写像することにより三相の相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算する。続いて、各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*は、PWM変換部95に入力される。PWM変換部95は、各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づくDUTY指令値を演算するとともに、その各DUTY指令値に示されるオンDUTY比を有するモータ制御信号を生成し、上記駆動回路62に出力する。これにより、モータ制御信号に応じた駆動電力がモータ21に出力され、駆動電力(通電電流量)に応じたモータトルクがアシスト力として操舵機構4に付与される。
【0035】
ナット回転角検出部73には、上記操舵角θs及びモータ回転角θmが入力される。ナット回転角検出部73は、絶対角で検出される操舵角θsを基準(例えば、ステアリング中立位置)にモータ回転角θmの変化を積算(カウント)し、伝達機構22の伝達比に応じた所定の係数を乗ずることにより、ボール螺子ナット41のナット回転角θnを絶対角で演算する。つまり、ナット回転角θnは、操舵角θsやステアリングシャフト11の回転角(絶対角)、ラック軸12の軸方向位置と一義的に対応しており、操舵機構4の操舵位置に相当する。さらに、ナット回転角検出部73は、演算したナット回転角θnとともにモータ回転角θmに基づくモータ21の回転方向、すなわち運転者によるステアリング操作が切り込み操舵であるか切り戻し操舵であるかのステアリング操作状態信号Sswを出力する。
【0036】
異常判定部74には、ナット回転角θn及びステアリング操作状態信号Sswに加え、q軸電流値Iq、振幅Am及び操舵トルクTが入力される。異常判定部74には、予め振幅の閾値Amthが設定されており、異常判定部74は、入力された振幅Amと閾値Amthとの大小比較に基づいて、ラック軸12の螺子溝44に錆等の異常が発生しているか否かを判定する。なお、モータ21のアシスト力がラック軸12における錆等の異常が発生した部位を介して操舵機構4に伝達される際に生じる振動の振幅は、予め実験やシミュレーション等により求めており、閾値Amthは当該振動の振幅に基づいて定められている。そして、異常判定部74は、異常が有ると判定した場合、当該異常が有ると判定した特定の操舵範囲において、ラック軸12に作用する実ラック軸力Frrと規範ラック軸力Frbとの偏差である軸力偏差ΔFに基づく偏差電流Irを、ナット回転角θnと関係付けて記憶する。なお、偏差電流Irが軸力偏差ΔFに基づくパラメータに相当する。
【0037】
詳しくは、異常判定部74は、ステアリング操作時において、演算周期毎に入力された振幅Amと閾値Amthとの大小比較を行い、振幅Amが閾値Amthを超えた場合、当該振幅Amが入力されたときのナット回転角θnを記憶するとともに、当該ナット回転角θnで振幅Amが閾値Amthを超えた異常検出回数を記憶する。そして、車両の走行中に振幅Amと閾値Amthとの大小比較を継続して行うことで、例えば図4に示すようなナット回転角θnと異常検出回数とのデータテーブルを作成する。
【0038】
具体的には、異常判定部74による異常検出回数のデータテーブル生成処理は、図5のフローチャートに示すように、各種状態量を取得すると(ステップ101)、ナット回転角θnの変化の有無に基づいて操舵中であるか否かを判定する(ステップ102)。続いて、操舵中である場合には(ステップ102:YES)、振幅Amが閾値Amthよりも大きいか否かを判定する(ステップ103)。そして、振幅Amが閾値Amthよりも大きい場合には(ステップ103:YES)、当該振幅Amが入力されたときのナット回転角θnを記憶し、データテーブルを作成する(ステップ104)。なお、操舵中でない場合(ステップ102:NO)、及び振幅Amが閾値Amth以下の場合には(ステップ103:NO)には、ステップ104の処理を実行しない。
【0039】
また、異常判定部74は、所定のトリガが入力された場合に、上記データテーブルに基づいて、異常検出回数が所定回数以上となるナット回転角θnが連続して(回転角センサ64の検出可能な角度毎に)存在するか否かを判定する。そして、異常判定部74は、例えば図4に示すように異常検出回数が所定回数以上となるナット回転角θnが連続する範囲が存在する場合には、当該範囲を特定の操舵範囲とする異常が有ると判定し、異常判定信号Serを補償アシスト演算部82に出力する。なお、所定のトリガとしては、例えばイグニッションスイッチのオン状態を示す信号が入力された時や、上記データテーブルの作成開始から所定期間が経過した時等が挙げられるが、各種のトリガを採用可能である。
【0040】
具体的には、異常判定部74による異常の検出処理は、図6のフローチャートに示すように、所定のトリガが入力されると(ステップ201:YES)、異常検出回数が所定回数以上で、かつ連続するナット回転角θn(操舵範囲)が存在するか否かを判定する(ステップ202)。そして、異常検出回数が所定回数以上で、かつ連続するナット回転角θnが存在する場合には(ステップ202:YES)、図4に示すようにナット回転角θnが連続する操舵範囲を特定の操舵範囲とする異常が有ると判定する(ステップ203)。なお、所定のトリガが入力されない場合(ステップ201:NO)、異常検出回数が所定回数以上で、かつ連続するナット回転角θnが存在しない場合には(ステップ202:NO)、ステップ203の処理を実行しない。
【0041】
そして、異常判定部74は、異常が有ると判定した場合、ステアリング操作によりナット回転角θnが当該異常の有る特定の操舵範囲内になったときに、入力されるナット回転角θn毎に実ラック軸力Frrと規範ラック軸力Frbとの偏差である軸力偏差ΔFを演算する。そして、基本アシスト電流Ibに加えることで当該軸力偏差がゼロとなるような偏差電流Irを、実ラック軸力Frr及び規範ラック軸力Frbを演算したナット回転角θnと同一のナット回転角θnでの値として記憶することにより、例えば図7に示すような偏差電流マップを生成する。
【0042】
実ラック軸力Frrは、運転者のステアリング操作により付与されるマニュアルトルクに基づくマニュアル軸力と、モータ21の駆動力により操舵機構4に付与されるアシストトルクに基づくアシスト軸力の和により表される。マニュアル軸力は、トルクセンサ52から入力された操舵トルクT(マニュアルトルク)に、ピニオン軸16の軸径及びラックアンドピニオン機構17の減速比等に基づくマニュアル換算係数を乗算することにより演算される。アシスト軸力は、q軸電流値Iqに予め記憶されたモータ係数を乗算して得られるモータトルクに、伝達機構22の伝達比及びボール螺子機構23の変換係数に基づくアシスト換算係数を乗算することにより演算される。なお、マニュアル換算係数及びアシスト換算係数は、予め異常判定部74に記憶されている。
【0043】
規範ラック軸力Frbは、ステアリングセンサ53から入力された操舵角θs及び車速センサ51から入力された車速SPDを周知の規範伝達関数に代入することにより演算される。なお、規範伝達関数は、入力となる操舵角θs及び車速SPDを、出力となる規範ラック軸力Frbに応答性を持たせて変換する関数である。そして、図8に示すように、規範伝達関数は、同一の操舵角θsであっても、運転者によるステアリング操作が切り込み状態であるか切り戻し状態であるかによってヒステリシスが生じるように定められている。また、規範伝達関数は、ステアリングホイール2の右回転方向における規範ラック軸力Frbと左回転方向における規範ラック軸力Frbとの間にもヒステリシスを生じさせるように設定されている。なお、規範ラック軸力Frbの演算に際しては、適宜の状態量に基づいて補正を行ってもよい。
【0044】
具体的には、異常判定部74による偏差電流マップ生成処理は、図9のフローチャートに示すように、各種状態量を取得すると(ステップ301)、ナット回転角θnが特定の操舵範囲内にあるか否かを判定する(ステップ302)。ナット回転角θnが特定の操舵範囲内にある場合には(ステップ302:YES)、実ラック軸力Frrを演算し(ステップ303)、ナット回転角θn、ステアリング操作の方向及び車速SPDに基づいて規範ラック軸力Frbを演算し(ステップ304)、軸力偏差ΔFを演算する(ステップ305)。そして、この軸力偏差ΔFがゼロとなるような偏差電流Irを演算し(ステップ306)、実ラック軸力Frr及び規範ラック軸力Frbを演算したナット回転角θnと同一のナット回転角θnでの値として偏差電流Irを記憶することで偏差電流マップを生成する(ステップ307)。なお、ナット回転角θnが特定の操舵範囲内にない場合には(ステップ302:NO)、ステップ303〜307の処理を実行しない。
【0045】
補償アシスト演算部82には、ナット回転角θn、ステアリング操作状態信号Ssw、及び異常判定信号Serが入力される。そして、補償アシスト演算部82は、異常判定信号Serにより異常が有ると判定された場合、入力されるナット回転角θnと同一のナット回転角θnに記憶された偏差電流Irを異常判定部74から取得し、同入力されたナット回転角θnの補償アシスト電流Icとして加算器83に出力する。これにより、異常が有る場合には、基本アシスト電流Ibがトルク変動に基づく補償アシスト電流Icにより補正されてモータ21(操舵力補助装置5)が制御される。なお、補償アシスト演算部82は、異常が無いと判定された場合、補償アシスト電流Icをゼロとして、基本アシスト電流Ibを補正しない。
【0046】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)電流指令値演算部71は、異常判定部74により異常が検出された場合には、ナット回転角θnが特定の操舵範囲にあるときに、基本アシスト電流Ibを補償アシスト電流に基づいて補正してq軸電流指令値Iq*を演算し、モータ21を制御するようにした。そのため、例えば錆等の異常が発生した場合に、当該異常が発生した部位がアシスト力の伝達経路となる特定の操舵範囲で操舵フィーリングが低下することを抑制できる。
【0047】
(2)異常判定部74は、実ラック軸力Frrと規範ラック軸力との軸力偏差ΔFに基づく偏差電流Irをナット回転角θnと関係付けて記憶し、補償アシスト演算部82は、入力されるナット回転角θnと同一のナット回転角θnに記憶された偏差電流Irを補償アシスト電流Icとして出力するようにした。そのため、適切な補償アシスト電流Icを演算して好適に操舵フィーリングの低下を抑制できる。
【0048】
(3)ボール螺子機構23をボール軌道R1の延伸方向に沿って各ボール45を所定間隔で転動可能に保持するリテーナ46を有する構成としたため、車両の走行時等において、一部のボール45がボール軌道R1内で偏って存在してしまうことを抑制できる。その結果、例えば錆等の異常が発生した場合において、各ボール45が異常の発生した部位を転動する態様が、操舵する度に異なることを抑制できる。これにより、ナット回転角θnが特定の操舵範囲にある場合に繰り返し発生するトルク変動が、同様の傾向を示すようになる。そのため、本実施形態のように実ラック軸力Frrと規範ラック軸力Frbとの偏差に基づく偏差電流Irを用い、ナット回転角θnと関係付けて演算された補償アシスト電流Icを用いることで、より好適に操舵フィーリングの低下を抑制できる。
【0049】
(4)異常判定部74は、振動の振幅Amに基づいて異常の有無を判定するため、異常による振動(トルク変動)で操舵フィーリングが低下する場合に、該異常が有ると適切に判定できる。
【0050】
(5)異常判定部74は、振動の振幅Amが連続して閾値Amthを超えた操舵範囲が存在し、かつ該操舵範囲における全域で振幅Amが閾値Amthを超えた回数が所定回数以上となった場合に、該操舵範囲を特定の操舵範囲とする異常が有ると判定するようにした。そのため、特定の操舵範囲における全域で振動の振幅Amが閾値Amthを超えた回数が所定回数以上となるまでは異常が有ると判定しないため、正確に異常の有無を判定できる。
【0051】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、異常判定部74は、異常が有ると判定した特定の操舵範囲において、実ラック軸力Frrと規範ラック軸力Frbとの軸力偏差ΔFに基づく偏差電流Irをナット回転角θnと関係付けて記憶した。しかし、これに限らず、例えば軸力偏差ΔFを記憶し、補償アシスト演算部82が軸力偏差ΔFに基づいて補償アシスト電流Icを演算してもよい。
【0052】
・上記実施形態では、実ラック軸力Frrと規範ラック軸力Frbとの偏差である軸力偏差ΔFに基づいてパラメータとしての偏差電流Irを演算した。しかし、これに限らず、例えば実ラック軸力Frrに換算可能な値(例えばアシストトルクとマニュアルトルクとの和等)と、規範ラック軸力Frbに換算可能な値(例えば操舵機構4の操舵位置に基づく規範トルク等)との偏差に基づいてパラメータとしての偏差電流Irを演算してもよい。
【0053】
・上記実施形態では、異常判定部74は、ステアリング操作時において、演算周期毎に入力された振幅Amと閾値Amthとの大小比較を行うようにしたが、これに限らず、ステアリング操作時以外(例えば、保舵時等)に振幅Amと閾値Amthとの大小比較を行うようにしてもよい。
【0054】
・上記実施形態において、振動の振幅Amが連続して閾値Amthを超えた操舵範囲が存在すれば、振幅Amが閾値Amthを超えた回数が1回のみのナット回転角θnが存在しても、異常が有ると判定してもよい。
【0055】
・上記実施形態では、ナット回転角θnと異常検出回数とのデータテーブルを生成し、これに基づいて異常の有無を判定したが、これに限らず、異常検出回数が所定回数以上となるナット回転角θnが連続して存在するか否かを判定できれば、他の方法を用いてもよい。また、異常の有無を振動センサ54により検出される振動の振幅Amに基づいて判定したが、これに限らず、例えば特許文献2のようにモータ回転数、操舵トルク、及び操舵角(操舵速度)の所定周波数範囲内における周期的な変化の有無に基づいて判定してもよく、その方法は適宜変更可能である。
【0056】
・上記実施形態において、ボール螺子機構23がリテーナ46を有さない構成であってもよい。
・上記実施形態では、補償アシスト演算部82は、異常判定信号Serにより異常が有ると判定された場合、入力されるナット回転角θnと同一のナット回転角θnに記憶された偏差電流Irを異常判定部74から取得し、同入力されたナット回転角θnでの補償アシスト電流Icとして出力するようにした。しかし、これに限らず、例えば入力されるナット回転角θnと同一のナット回転角θnに記憶された偏差電流Irを異常判定部74から取得し、入力されたナット回転角θnから微少角度だけずれたナット回転角θnでの補償アシスト電流Icとして出力してもよく、偏差電流Irと補償アシスト電流Icとは所定の関係で対応付けられていればよい。
【0057】
・上記実施形態では、補償アシスト演算部82は、異常判定信号Serにより異常が有ると判定された場合に、入力されるナット回転角θnと同一のナット回転角θnに記憶された偏差電流Irを異常判定部74から取得し、補償アシスト電流Icとして出力した。しかし、これに限らず、例えば振動センサ54により検出される振動の振幅Amをナット回転角θnに関係付けて記憶し、振幅Amの大きさに応じた補償アシスト電流Icをナット回転角θnに関係付けて出力するようにしてもよく、補償アシスト電流Icの演算方法は適宜変更可能である。
【0058】
・上記実施形態では、ステアリングホイール2の操舵角θsを絶対値で検出可能なステアリングセンサ53を用いたが、これに限らず、例えば相対角のみを検出可能なステアリングセンサ53を用い、中点位置を学習する制御を実行することにより、絶対角を検出するようにしてもよい。
【0059】
・上記実施形態では、操舵機構4の操舵位置として、ナット回転角θnを用いたが、これに限らず、例えばステアリングシャフト11の回転角(絶対角)やラック軸12の軸方向位置等を検出し、操舵位置として用いてもよい。
【0060】
・上記実施形態において、例えばモータの回転をウォーム減速機により減速してステアリングシャフトにアシスト力を付与する形式のEPSに本実施形態の制御を適用し、ウォームホイールに欠け等の異常の有無を判定し、アシスト力を補正してもよい。
【0061】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(イ)前記異常判定部は、前記振動検出部により検出される振動の振幅が連続して閾値を超えた操舵範囲が存在し、かつ該操舵範囲における全域で前記振幅が前記閾値を超えた回数が所定回数以上となった場合に、該操舵範囲を前記特定の操舵範囲とする前記異常が有ると判定する操舵制御装置。上記構成によれば、特定の操舵範囲における全域で振動の振幅が閾値を超えた回数が所定回数以上となるまでは異常が有ると判定しないため、正確に異常の有無を判定できる。
【符号の説明】
【0062】
1…EPS、4…操舵機構、5…操舵力補助装置、6…ECU(振動検出部)、11…ステアリングシャフト、12…ラック軸、13…ラックハウジング、16…ピニオン軸、17…ラックアンドピニオン機構、21…モータ、23…ボール螺子機構、41…ボール螺子ナット、43,44…螺子溝、45…ボール、46…リテーナ、51…車速センサ、52…トルクセンサ、53…ステアリングセンサ、54…振動センサ、61…マイコン、71…電流指令値演算部(アシスト制御部)、72…モータ制御信号出力部、73…ナット回転角検出部、74…異常判定部、81…基本アシスト演算部、82…補償アシスト演算部、Am…振幅(振動検出部)、Amth…閾値、Ib…基本アシスト電流、Ic…補償アシスト電流、Frb…規範ラック軸力、Frr…実ラック軸力、R1…ボール軌道、Id*…d軸電流指令値、Iq*…q軸電流指令値、Ser…異常判定信号、SPD…車速、Ssw…ステアリング操作状態信号、T…操舵トルク、ΔF…軸力偏差、Ir…偏差電流、θm…モータ回転角、θn…ナット回転角(操舵位置)、θs…操舵角。
図1
図2
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図9