(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様は、細孔径D30が0.28μm以下である多孔質のセパレータと、ハロゲン化トルエンを含有する非水電解質とを備える蓄電素子である。
【0012】
当該蓄電素子は、過充電時における十分なシャットダウン機能を有する。このような効果が生じる理由は以下のとおりと推測する。過充電時には、ハロゲン化トルエンが酸化分解し、分解物が生じる。この分解物がセパレータの細孔を塞ぎ、電解質中のイオンの流れが遮断される。セパレータの細孔径D30が0.28μmを超える場合は、分解物による細孔の閉塞が不十分となり、十分なシャットダウン機能が発現しない。なお、同じ程度の透気度でも細孔のサイズ(細孔径D30)が大きく異なるセパレータがあり、透気度と細孔のサイズ・分布との間に相関関係はみられない。
【0013】
ここで、セパレータの細孔径D30は、セパレータの全細孔容積(積算細孔容積)にて大きい径からの累計30%に相当する細孔径を意味する。セパレータの目詰まりは小さい細孔から生じていく。例えば、D30=0.28μmのセパレータの場合では、0.28μmの細孔が目詰まりを生じたときは、全細孔容積の約70%が目詰まりを起こしていると考えられる。全細孔容積の70%を閉塞させることで、良好なシャットダウン機能が得られる。すなわち、セパレータの全細孔容積の大部分の細孔が含まれる細孔径D30の上限値を定めることが、良好なシャットダウン機能が発現されることを表す好適な指標となる。
【0014】
上記のように、セパレータの細孔の細孔径D30とは、セパレータの全細孔容積(積算細孔容積)の細孔径分布において、大きい径からの累積30%に相当する細孔径を意味する。具体的には以下の方法による測定値とすることができる。細孔分布を測定する装置としてAutoPore 9400(Micromeritics社製)を用い、水銀圧入法にて細孔容積分布を測定する。水銀の接触角を130°、表面張力を484dynes/cmに設定する。測定する細孔径範囲は10〜0.0055μmとして、この範囲の細孔容積の積算が積算細孔容積である。
【0015】
当該蓄電素子は、上記セパレータと対向する正極をさらに備え、上記セパレータが、上記正極との対向面側に形成されている無機層を有することが好ましい。さらに、無機層の空隙率が樹脂層のそれより高いことが好ましい。上記過充電時のハロゲン化トルエンの分解反応は、正極近傍で生じる。一方、セパレータが正極側に無機層を有することで、正極近傍に存在する非水電解質、すなわちハロゲン化トルエンの量を増やすことができる。これにより、過充電時におけるハロゲン化トルエンの酸化分解量が増え、セパレータの細孔の閉塞がより効果的に生じる。
【0016】
上記非水電解質におけるハロゲン化トルエンの含有量が2質量%以上であることが好ましい。これにより、過充電時に特に十分な量の分解物が生じ、セパレータの細孔の閉塞がより効果的に生じる。
【0017】
上記ハロゲン化トルエンがo−フルオロトルエン(オルトフルオロトルエン)であることが好ましい。o−フルオロトルエンは、他の添加剤と比較して酸化電圧が高い。従って、通常の充放電時における分解物の発生を抑制し、良好な特性を維持することなどができる。
【0018】
<蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、正極、負極、上記正極と負極と間に介在するセパレータ、及び非水電解質を有する。以下、蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池について説明する。上記正極、セパレータ及び負極は、通常、積層又は巻回により重畳された電極体を形成する。上記電極体はケースに収納され、このケース内に上記非水電解質が充填される。当該二次電池において、上記非水電解質は、正極と負極との間に介在している。また、上記非水電解質は、正極と負極との間に配設されているセパレータに含浸している。上記ケースとしては、二次電池のケースとして通常用いられる公知のアルミニウムケース、樹脂ケースなどを用いることができる。
【0019】
(正極)
上記正極は、正極基材、及びこの正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層を有する。上記正極は、上記積層構造のシート(フィルム)である。
【0020】
上記正極基材は、導電性を有する。基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS−H−4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0021】
中間層は、正極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。なお、「導電性」を有するとは、JIS−H−0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10
7Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が10
7Ω・cm超であることを意味する。
【0022】
正極活物質層は、正極活物質を含むいわゆる正極合材から形成される。また、正極活物質層を形成する正極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0023】
上記正極活物質としては、例えばLi
xMO
y(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(層状のα−NaFeO
2型結晶構造を有するLi
xCoO
2,Li
xNiO
2,Li
xMnO
3,Li
xNi
αCo
(1−α)O
2,Li
xNi
αMn
βCo
(1−α−β)O
2等、スピネル型結晶構造を有するLi
xMn
2O
4,Li
xNi
αMn
(2−α)O
4等)、Li
wMe
x(XO
y)
z(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO
4,LiMnPO
4,LiNiPO
4,LiCoPO
4,Li
3V
2(PO
4)
3,Li
2MnSiO
4,Li
2CoPO
4F等)が挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは、他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極活物質層においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
上記導電剤としては、電池性能に悪影響を与えない導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、天然又は人造の黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。
【0025】
上記バインダー(結着剤)としては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0026】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0027】
上記フィラーとしては、電池性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が挙げられる。
【0028】
(負極)
上記負極は、負極基材、及びこの負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層を有する。上記負極は、上記積層構造のシート(フィルム)である。上記中間層は正極の中間層と同様の構成とすることができる。
【0029】
上記負極基材は、正極基材と同様の構成とすることができるが、材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0030】
負極活物質層は、負極活物質を含むいわゆる負極合材から形成される。また、負極活物質層を形成する負極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極活物質層と同様のものを用いることができる。
【0031】
負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材質が用いられる。具体的な負極活物質としては、例えばSi、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;ポリリン酸化合物;黒鉛(グラファイト)、非晶質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。
【0032】
さらに、負極合材(負極活物質層)は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
【0033】
(セパレータ)
上記セパレータは、細孔径D30が0.28μm以下である多孔質のシート(フィルム)である。
【0034】
上記セパレータの細孔径D30の上限は、0.28μmであるが、0.18μmがより好ましい。セパレータの細孔径D30を上記上限以下とすることで、過充電時におけるシャットダウン機能を高めることができる。一方、この下限としては、例えば0.03μmが好ましく、0.05μmがより好ましい。セパレータの細孔径D30を上記下限以上とすることで、通常時における十分なイオンの移動性等を確保することなどができる。
【0035】
上記セパレータの細孔径D10の上限は、0.75μmが好ましく、0.37μmがより好ましく、0.3μmがさらに好ましい。セパレータの細孔径D10を上記上限以下であるとき、大部分の細孔の径は、上記上限以下ということになる。従って、細孔径D10を上記上限以下とすることで、過充電が生じた際に、分解物が大部分の細孔を閉塞する確実性を高め、シャットダウン機能をより高めることができる。なお、この細孔径D10の下限としては、例えば0.1μmであり、0.2μmが好ましい。セパレータの細孔径D10は、上述した細孔径D30の測定方法に準じて測定される容積基準の細孔径分布において、大きい径からの累積10%に相当する細孔径を意味する。
【0036】
また、上記セパレータの細孔径D50(メジアン径)の上限は、0.15μmが好ましく、0.11μmがさらに好ましい。セパレータの細孔径D50を上記上限以下とすることで、シャットダウン機能をより高めることができる。なお、この細孔径D50の下限としては、例えば0.01μmであり、0.03μmが好ましい。セパレータの細孔径D50は、上述した細孔径D30の測定方法に準じて測定される容積基準の細孔径分布において、大きい径からの累積50%に相当する細孔径を意味する。
【0037】
上記セパレータの平均厚さとしては特に限定されないが、下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、この平均厚さの上限としては、40μmが好ましく、30μmがより好ましい。セパレータの平均厚さを上記範囲とすることで、セパレータの機能を十分に確保しつつ、過充電時のシャットダウン機能をより十分に発揮させることなどができる。なお、平均厚さとは、任意の十点で測定した厚さの平均値をいう(以下、同様)。
【0038】
上記セパレータは、例えば樹脂層単独で構成されていてもよいし、樹脂層と無機層とを備える層構造であってもよい。この樹脂層及び無機層のいずれも多孔質である。
【0039】
上記樹脂層の材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。上記セパレータの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。
【0040】
上記樹脂層は、融点又は軟化点が100℃以上、より好ましくは130℃以上の樹脂から形成されていることが好ましい。このような樹脂層を有するセパレータを用いることで、高温環境下での良好な出力特性を発揮することなどができる。
【0041】
上記セパレータが上記樹脂層と共に無機層を有する場合、通常、この無機層は正極との対向面側に配置される。この無機層は、例えば樹脂層の表面に無機層形成材料を塗工し、乾燥させることで形成することができる。
【0042】
上記無機層は、通常、無機粒子と、この無機粒子を結着させるバインダーとを含む。無機粒子としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の無機酸化物、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の無機窒化物、その他、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、アルミノシリケート、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂、ガラス等を挙げることができる。
【0043】
バインダーは、無機粒子を固定でき、非水溶媒に溶解せず、かつ使用範囲で電気化学的に安定であるものが、通常用いられる。上記バインダーとしては、正極活物質層に用いられるバインダーとして上述したもの等を挙げることができる。
【0044】
この無機層の平均厚さとしては特に限定されないが、下限としては1μmが好ましく、3μmがより好ましい。また、この上限としては、10μmが好ましく、6μmがより好ましい。無機層の平均厚さを上記下限以上とすることで、無機層中に十分な量の非水電解質(ハロゲン化トルエン)を含浸させることができ、過充電時におけるハロゲン化トルエンの分解量を増やすことができる。また、無機層の平均厚さを上記上限以下とすることで、電極体全体の薄膜化、ひいては蓄電素子の高エネルギー密度化を図ること等ができる。
【0045】
上記セパレータは、公知の方法で製造することができ、細孔サイズの調整も公知の方法により行うことができる。また、上記セパレータは、販売されているものを用いることができる。
【0046】
(非水電解質)
上記非水電解質は、非水溶媒に電解質塩が溶解したものである。上記非水電解質は、ハロゲン化トルエンを含有する。
【0047】
(ハロゲン化トルエン)
上記ハロゲン化トルエンとは、トルエンの有する水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換された化合物をいう。ハロゲン化トルエンは、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0048】
上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等を挙げることができるが、フッ素原子が好ましい。上記ハロゲン原子がフッ素原子である場合、過充電の際の分解反応及び分解物のセパレータへの付着がより好適に生じ、シャットダウン機能を高めることができる。
【0049】
上記ハロゲン化トルエンにおけるハロゲン原子の数としては特に限定されず、例えば1以上4以下であり、1及び2が好ましく、1がより好ましい。1つのハロゲン化トルエンが複数のハロゲン原子を有する場合、複数種のハロゲン原子は同一であっても異なっていてもよい。
【0050】
上記ハロゲン化トルエンとしては、ベンゼン環(芳香環)上の水素原子が、ハロゲン原子に置換されたハロゲン化トルエンが好ましい。このようなハロゲン化トルエンの場合、ハロゲン原子の結合位置としては、メチル基に対して、オルト位及びパラ位が好ましく、オルト位であることがより好ましい。
【0051】
上記ハロゲン化トルエンの具体例としては、フルオロトルエン(o−フルオロトルエン、m−フルオロトルエン、p−フルオロトルエン)、クロロトルエン、ブロモトルエン、ジフルオロトルエン、ジクロロトルエン、ジブロモトルエン、トリフルオロトルエン、トリクロロトルエン、トリブロモトルエン、クロロフルオロトルエン、ブロモフルオロトルエン等を挙げることができる。
【0052】
これらの中でもフルオロトルエンが好ましく、o−フルオロトルエン(2−フルオロトルエン)及びp−フルオロトルエン(4−フルオロトルエン)が好ましく、o−フルオロトルエンがより好ましい。このようなハロゲン化トルエンは、他の添加剤と比較して酸化電圧が高い。従って、通常の充放電時における分解物の発生を抑制し、良好な特性を維持することなどができる。
【0053】
上記非水電解質の総質量に対するハロゲン化トルエンの質量(含有量)は特に限定されず、下限としては、2質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。ハロゲン化トルエンの含有量を上記下限以上とすることで、過充電時に特に十分な量の分解物が生じ、セパレータの細孔の閉塞がより効果的に生じる。
【0054】
上記非水電解質の総質量に対するハロゲン化トルエンの質量(含有量)の上限としては、例えば10質量%であってもよいが、7質量%が好ましい。ハロゲン化トルエンの含有量を上記上限以下とすることで、通常使用時の非水電解質の機能を十分に発揮させることなどができる。
【0055】
(非水溶媒)
上記非水溶媒としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の非水溶媒として通常用いられる公知の非水溶媒を用いることができる。上記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エステル、エーテル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。これらの中でも、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを少なくとも用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、特に限定されないが、例えば5:95以上50:50以下とすることが好ましい。
【0056】
また、上記非水溶媒における環状カーボネート及び鎖状カーボネート以外の非水溶媒の含有量の上限としては、30体積%が好ましいことがあり、10体積%が好ましいことがあり、1体積%が好ましいこともある。環状カーボネート及び鎖状カーボネート以外の非水溶媒の含有量を上記上限以下とすることで、過充電時におけるハロゲン化トルエンの酸化分解や分解物のセパレータへの付着が抑制され難く、シャットダウン機能がより確実性高く発現される。
【0057】
上記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1−フェニルビニレンカーボネート、1,2−ジフェニルビニレンカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもECが好ましい。
【0058】
上記鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもEMCが好ましい。
【0059】
(電解質塩)
上記電解質塩としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の電解質塩として通常用いられる公知の電解質塩を用いることができる。上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。
【0060】
上記リチウム塩としては、LiPF
6、LiPO
2F
2、LiBF
4、LiClO
4、LiN(SO
2F)
2等の無機リチウム塩、LiSO
3CF
3、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiN(SO
2CF
3)(SO
2C
4F
9)、LiC(SO
2CF
3)
3、LiC(SO
2C
2F
5)
3等のフッ化炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF
6がより好ましい。
【0061】
上記非水電解質における上記電解質塩の含有量の下限としては、0.1Mが好ましく、0.3Mがより好ましく、0.5Mがさらに好ましく、0.7Mが特に好ましい。一方、この上限としては、特に限定されないが、2.5Mが好ましく、2Mがより好ましく、1.5Mがさらに好ましい。
【0062】
上記非水電解質は、本発明の効果を阻害しない限り、上記ハロゲン化トルエン、非水溶媒、及び電解質塩以外の他の成分を含有していてもよい。上記他の成分としては、一般的な蓄電素子用非水電解質に含有される各種添加剤を挙げることができる。但し、これらの他の成分の含有量としては、5質量%以下が好ましいこともあり、1質量%以下がより好ましいこともある。
【0063】
上記非水電解質は、上記非水溶媒に上記電解質塩及びハロゲン化トルエンを添加し、溶解させることにより得ることができる。
【0064】
<蓄電素子の製造方法>
当該蓄電素子は、公知の蓄電素子の製造方法に準じた方法により得ることができる。例えば、当該蓄電素子の製造方法は、正極及び負極(電極体)をケースに収容する工程、及び上記ケースに上記非水電解質を注入する工程を備える。
【0065】
上記注入は、公知の方法により行うことができる。注入後、注入口を封止することにより蓄電素子を得ることができる。当該製造方法によって得られる蓄電素子(二次電池)を構成する各要素についての詳細は上述したとおりである。
【0066】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、上記正極又は負極において、中間層を設けなくてもよい。また、上記実施の形態においては、蓄電素子が二次電池である形態を中心に説明したが、その他の蓄電素子であってもよい。その他の蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。
【0067】
図1に、本発明に係る蓄電素子の一実施形態である矩形状の二次電池1の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。
図1に示す二次電池1は、電極体2が電池容器3に収納されている。電極体2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0068】
本発明に係る蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を
図2に示す。
図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の二次電池1を備えている。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
[実施例1]
(非水電解質の作製)
ECとEMCとを30:70の体積比で混合した溶媒にLiPF
6を1.0Mの濃度で溶解させた。これに、さらに添加剤としてo−フルオロトルエン(OFT)を5質量%となるように添加し、非水電解質を得た。
【0071】
(蓄電素子の作製)
正極活物質としてLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2、導電助剤としてアセチレンブラック、及び結着剤としてポリフッ化ビニリデンを混合したスラリーをアルミ箔に塗布して、乾燥することで正極板を作製した。正極活物質、導電助剤及び結着剤の質量比率をそれぞれ94:3:3とした。また、負極活物質としてグラファイト、結着剤としてスチレンブタジエンゴム、及び増粘剤としてCMCを混合したスラリーを銅箔に塗布して、乾燥することで負極板を作製した。グラファイト及び結着剤の質量比率をそれぞれ97:3とした。次いで、ポリエチレン製微多孔膜からなる樹脂層(軟化点135℃)の一方の面に、厚さ5μmの多孔質の無機層が積層されたセパレータ(全体厚さ21μm)を用意した。セパレータの細孔径D10は0.25μm、細孔径D30は0.13μm、細孔径D50は0.07μmであった。これらの測定は、上述した方法で行ったものである。また、セパレータの透気度をJIS−P8117:2009に準じて測定した。
【0072】
リードを取付けた上記正極板、セパレータ及びリードを取付けた負極板をこの順に積層して、電極体を作製した。なお、セパレータの無機層が正極板に対向するように積層させた。この電極体をラミネート外装体に収納し、このとき、正極リード及び負極リードが外装体から外部にでるようにした。この外装体内部に上記非水電解質を注入した後、封口し、実施例1の蓄電素子(リチウムイオン二次電池)を得た。
【0073】
[実施例2〜4、比較例1〜4]
表1に記載の添加剤、並びに表1に記載の厚さ及び細孔径を有するセパレータを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜4及び比較例1〜4の蓄電素子を得た。なお、表中無機層の欄の「−」は、無機層が無い樹脂層単層のセパレータを用いたことを示す。また、表中添加剤の欄の「−」は、対応する添加剤を添加していないことを示す。また、表中、OFTはo−フルオロトルエンを示し、FBはフルオロベンゼンを示し、CHBはシクロヘキシルベンゼンを示す。
【0074】
[評価]
得られた各蓄電素子について、SOC(充電状態)100%まで充電後、過充電状態とするため、さらに25℃の環境下、充電電流0.1CAにて8時間定電流充電した。この後、放電し、蓄電素子を解体してセパレータを取り出した。取り出した過充電後のセパレータの透気度を上記と同様に測定した。初期のセパレータの透気度、及び初期のセパレータの透気度に対する過充電後のセパレータの透気度の増加率(%)を表1に示す。なお、セパレータの単位厚さあたりの透気度の増加率(%/μm)も合せて表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
上記表1に示されるように、実施例1〜4の蓄電素子においては、過充電後のセパレータの透気度が大きく上昇している。すなわち、実施例1〜4の蓄電素子によれば、過充電の際に細孔が塞がり、優れたシャットダウン機能が生じることがわかる。一方、セパレータの細孔径D30が0.29μmである比較例1は、過充電後の透気度が大きくは増加していない。これに対し、細孔径D30が0.28μmである実施例3は、過充電後に透気度が大きく増加している。特に、これらは単位厚さあたりの透気度の増加率で比較すると顕著であり、細孔径D30を0.28μm以下とすることで顕著な効果が生じることが示される。
【0077】
また、添加剤を添加していない比較例2、及びハロゲン化トルエン以外の添加剤を添加した比較例3、4は、いずれも過充電後のセパレータの透気度は大きくは上昇していない。すなわち、過充電の際の優れたシャットダウン機能は、細孔径D30が0.28μm以下である多孔質のセパレータと、ハロゲン化トルエンを含有する非水電解質とを組み合わせて用いたときに初めて発現されるものであるといえる。
【0078】
また、セパレータ全体の厚さ及び無機層の厚さが等しい実施例2と実施例3とを比較すると、透気度の小さい実施例2の方が、過充電後の透気度の増加率が大きくなっている。つまり、シャットダウン機能は透気度の大小に依存しておらず、セパレータの細孔径D30に依存していることがわかる。このことから透気度が同程度であっても、シャットダウン機能を発現するセパレータと発現しないセパレータとが存在するものと考えられる。