【実施例】
【0020】
図1は本発明の一実施例によるBIDの概略構成図である。
【0021】
本実施例のBIDは、その内部にプラズマ生成ガスが流通される誘電体円筒管111を備えている。以下では説明の便宜上、誘電体円筒管111内におけるガスの流通方向(
図1中の下向きの矢印で示す方向)における上流側を上、下流側を下として上下方向を定義するが、これによりBIDの使用時の方向が限定されるものではない。
【0022】
誘電体円筒管111の外壁面には、前記ガスの流通方向に沿って、例えばSUSや銅などの導電体からなる環状の電極が3個周設されている。
【0023】
上記3個の電極の中で中央の電極112には励起用高圧交流電源115が接続され、電極112の上下に配置された2個の電極113、114はいずれも接地されている。以下、電極112を「高圧電極」、電極113を「上流側接地電極」、114を「下流側接地電極」とよび、これらを総称して「プラズマ生成用電極」とよぶ。励起用高圧交流電源115は、周波数が1 kHz〜100 kHzの範囲、更に好ましくは5 kHz〜30 kHz程度(低周波数)で、電圧が5 kV〜10 kV程度である高圧交流電圧を発生する。なお、交流電圧の波形形状は、正弦波、矩形波、三角波、鋸歯状などのいずれでもよい。
【0024】
また、誘電体円筒管111の上端に設けられた管路先端部材116にはガス供給管116aが接続され、このガス供給管116aを通して、誘電体円筒管111の内部に希釈ガスを兼ねるプラズマ生成ガス(Arガス、Heガス、又はArを微量に含むHeガス等の不活性ガス)が供給される。プラズマ生成用電極112、113、114と前記プラズマ生成ガスとの間には誘電体円筒管111の壁面が存在するから、この壁面自体がプラズマ生成用電極112、113、114の表面を被覆する誘電体被覆層として機能し、後述する誘電体バリア放電を可能としている。
【0025】
誘電体円筒管111の下流には、同一内径の円筒形状体である接続部材121、バイアス電極122、及び収集電極123が、アルミナ、PTFE樹脂などの絶縁体125a、125bを間に介挿してガスの流通方向に沿って配置されている。更に、収集電極123の下流側には絶縁体125cを介挿して有底円筒形状の管路末端部材124が配置されている。これらの接続部材121、バイアス電極122、収集電極123、管路末端部材124、及び絶縁体125a、125b、125cにより形成される内部空間は、前記誘電体円筒管111の内部空間と連通している。
【0026】
なお、本実施例のBIDでは、接続部材121の上端よりも上側の領域が放電部110であり、接続部材121の上端よりも下側の領域が電荷収集部120である。また、誘電体円筒管111と管路先端部材116が本発明における「第1ガス流路」に相当し、前記の接続部材121、バイアス電極122、収集電極123、管路末端部材124、及び絶縁体125a、125b、125cにより形成される流路が本発明における「第2ガス流路」に相当する。
【0027】
接続部材121の周面にはプラズマ生成ガスの一部を外部に排出するバイパス排気管121aが接続されており、管路末端部材124の周面には試料排気管124aが接続されている。更に、管路末端部材124の下面には、細径の試料導入管126が挿通されており、この試料導入管126を通して電荷収集部120内に試料ガスが供給される。なお、電荷収集部120は、試料ガスの気化状態を保つため、図示しない外部ヒータによって最大450℃程度まで加熱される。
【0028】
接続部材121は接地されており、ガス流に乗って移動するプラズマ中の荷電粒子が収集電極123に到達することを防止するための反跳電極として機能する。バイアス電極122はバイアス直流電源127に接続され、収集電極123は電流アンプ128に接続されている。
【0029】
このBIDにおける、試料ガスに含まれる試料成分の検出動作を概略的に説明する。
図1中に右向き矢印で示すように、誘電体円筒管111中にはガス供給管116aを通して希釈ガスを兼ねるプラズマ生成ガスが供給される。プラズマ生成ガスは誘電体円筒管111中を下向きに流れ、一部はバイパス排気管121aを通して外部に排出され、その残りは希釈ガスとして電荷収集部120中を下向きに流れ試料排気管124aを通して外部に排出される。一方、試料成分を含む試料ガスは試料導入管126を通して供給され、その末端の試料ガス吐出口から電荷収集部120中に吐き出される。試料ガス吐出口からは前記希釈ガスの流通方向とは逆方向に試料ガスが吐き出されるが、
図1中に矢印で示すように、試料ガスはすぐに押し返され、希釈ガスと合流して下方向に進む。
【0030】
上述したようにプラズマ生成ガスが誘電体円筒管111中を流通しているときに、励起用高圧交流電源115は、高圧交流電圧を高圧電極112と上流側接地電極113との間及び高圧電極112と下流側接地電極114との間に印加する。これにより、誘電体円筒管111中で誘電体バリア放電が起こり、プラズマ生成ガスが電離されてプラズマ(大気圧非平衡プラズマ)が発生する。大気圧非平衡プラズマから放出された励起光は、放電部110及び電荷収集部120中を通って試料ガスが存在する部位まで到達し、その試料ガス中の試料成分をイオン化する。こうして生成されたイオンは、バイアス電極122に印加されている直流電圧によって形成される電場の作用によって収集電極123に近づくように移動し、収集電極123において電子を授受する。これにより、前記励起光の作用により生成された、試料成分由来のイオンの量、つまりは試料成分の量に応じたイオン電流が電流アンプ128に入力され、電流アンプ128はこれを増幅して検出信号を出力する。このようにして、本実施例に係るBIDでは、試料導入管126を通して導入された試料ガスに含まれる試料成分の量(濃度)に応じた検出信号が出力される。
【0031】
本実施例のBIDの基本的な構成要素は一般的なBIDと同じである。また、上述した基本的な検出動作は一般的なBIDと同様である。本実施例に係るBIDの構成上の特徴は、放電部110を加熱するためのヒータ131(本発明における「加熱手段」に相当)を設けた点にある。
【0032】
なお、
図1の例では、誘電体円筒管111、高圧電極112、上流側接地電極113、及び下流側接地電極114を囲繞するようにヒータ131を配設しているが、ヒータ131の位置はこれに限定されず、誘電体円筒管111の内部温度を上昇させることができればよい。例えば、後述する
図2のように管路先端部材216の上部(又は周面)にヒータ231を設け、誘電体円筒管111を上端から加熱するようにしてもよい。
【0033】
更に、誘電体円筒管111の外壁には、誘電体円筒管111の温度を測定するための温度センサ132が取り付けられている。温度センサ132とヒータ131は、それぞれ温度制御部133に接続されており、温度制御部133は、温度センサ132による測定値が80℃〜130℃の範囲となるように、ヒータ131を制御する。
【0034】
[試験例]
以下、本発明に係るBIDの効果を確認するために行った試験について説明する。この試験では、放電部を加熱するヒータを備えたBID(以下、「試験例」とよぶ)と、該ヒータを有しないBID(以下、「比較例」とよぶ)とを使用した。試験例及び比較例における放電部の電極配置を
図2に示す。なお、図中のヒータ231は、試験例のみに配設した(温度センサ及び温度制御部は図示を省略している)。試験例及び比較例のいずれにおいても、誘電体円筒管211は外径が4 mm、内径が2 mm、長さが92 mmの石英から成る管であり、該誘電体円筒管211の外周に銅箔を巻き付けることにより高圧電極212と、上流側接地電極213と、下流側接地電極214とを構成した。
【0035】
試験例では、誘電体円筒管211の外壁温度が100℃となるようヒータ231による加熱を行った。また、比較例における誘電体円筒管211の外壁温度を測定したところ、室温よりやや高い35℃であった。これは、上述したように、誘電体円筒管211の下部に接続された電荷収集部(
図1の120)が、図示しないヒータで加熱されているためである。
【0036】
なお、試験例及び比較例のBIDでは、下流側接地電極214の長さが上流側接地電極213の長さよりも大きくなっている。これは、高圧電極212と、誘電体円筒管211の下部に取り付けられた接続部材221との間における沿面放電を抑制するためであるが、本発明とは直接関係がないため詳細は省略する。
【0037】
上記の各BIDをGCの検出器として使用し、誘電体円筒管211にArガス(純度99.9999%以上)を導入しつつ、励起用高圧交流電源215を駆動して周波数約40 kHz、電圧振幅約5 kVp-p、電流波形サイン波の交流高電圧を印加して、標準試料(ドデカン)溶液の面積感度を実測した。また、それぞれについてノイズの測定値から検出限界を計算した。実測結果及びそれに基づく計算結果を次の表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1によると、試験例の面積感度は、比較例よりも僅かに低下しているものの、ノイズは大きく低減されており、結果的に検出限界及びSN比は比較例よりも改善することが確認された。
【0040】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明を行ったが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で適宜変更が可能である。
【0041】
例えば、
図1の例では、誘電体円筒管111の外周に、高圧電極112と上流側接地電極113、及び下流側接地電極114を周設した構成のBIDに本発明を適用したが、これに限らず、本発明は種々の構成のBID、例えば、特許文献3に記載された構成のBIDに本発明を適用することもできる。特許文献3に記載のBIDに本発明を適用した例を
図3に示す。なお、同図において
図1に示すBIDと対応する構成要素には下二桁が共通する符号を付し、適宜説明を省略する。
図3のBIDは、外部誘電体管311の外周に高圧電極312を周設すると共に、内部誘電体管3
41で被覆され且つ電気的に接地された金属管3
42(接地電極に相当)と、金属管3
42の内部に収容された絶縁体管3
43と、絶縁体管3
43で被覆された金属線322と、を含む電極構造体334を、外部誘電体管311に挿入した構成から成る。なお、同図のBIDでは、電極構造体334に含まれる金属線322の下端に、絶縁体管3
43で被覆されない部分(露出部)が設けられており、金属線322の上端はバイアス直流電源327に接続されている。また、電荷収集部320に設けられたフランジ付金属管323は電流アンプ328に接続されている。つまり、このBIDでは、前記金属線322の露出部がバイアス電極として機能し、フランジ付金属管323の上部に設けられた円筒部323aがイオン収集電極として機能する。すなわち、円筒部323aの内壁と金属線322の露出部との間の空間が実質的なイオン収集領域となる。このBIDにおいては、内部誘電体管3
41の下端よりも上流側が放電部310に相当し、それよりも下流側が電荷収集部320に相当する。また、外部誘電体管311の放電部310に含まれる領域及び管路先端部材316が、本発明における第1ガス流路に相当し、プラズマ生成ガスの流路の内、前記第1ガス流路よりも下流且つ試料排気管324aの末端までの領域が第2ガス流路に相当する。前記第1ガス流路には、外部誘電体管311及び高圧電極312を囲繞するようにヒータ331が取り付けられ、更に、外部誘電体管311の表面温度を測定する温度センサ332と、ヒータ331及び温度センサ332に接続された温度制御部333が配設される。