(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一態様は、下記式(1)で表される環状シロキサン化合物を含有する非水電解質である。
【0016】
上記式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して炭素数1〜12の有機基である。但し、R
1及びR
2のうちの少なくともいずれかが、1以上の水素がフッ素で置換された炭化水素基である。nは、3〜10の整数である。複数のR
1は、同一でも異なっていてもよい。複数のR
2は、同一でも異なっていてもよい。
【0017】
当該非水電解質によれば、蓄電素子の内部抵抗を低いものとすることができる。このような効果が生じる理由は定かではないが、当該非水電解質が上記環状シロキサン化合物を含有することにより、負極の表面に酸化ケイ素及びフッ素原子を含有する炭化水素基を有する化合物が共存する被膜が形成される。この被膜の抵抗が低い結果、蓄電素子の内部抵抗を低いものとする効果が得られると推察される。また、当該非水電解質に含有される上記環状シロキサン化合物がフッ素原子を含有することにより、当該非水電解質は蓄電素子の高率放電性能を向上させる効果も有すると考えられる。
【0018】
上記炭化水素基としては、飽和フルオロアルキル基が好ましい。上記炭化水素基が、飽和フルオロアルキル基であることで、蓄電素子の内部抵抗をより効果的に低いものとすることができる。
【0019】
本発明の他の一態様は、当該非水電解質と、Mnを含有する正極活物質を含む正極とを備える蓄電素子である。正極活物質がMnを含有する場合、Mnが地球資源として豊富であることから、他の遷移金属と比較して比較的安価である点で優れる。しかし、Mnは正極から非水電解質へと溶出しやすく、正極から溶出したMnが負極表面に析出して高抵抗の被膜を形成する結果、蓄電素子の内部抵抗が高くなり、高率放電性能が低下するおそれがある。これに対して、当該蓄電素子が当該非水電解質を備えることにより、当該非水電解質による蓄電素子の内部抵抗を低いものとする効果とともに、正極からのMn溶出や析出したMnによる負極表面での高抵抗被膜の生成を抑制する効果が得られると推測される。
【0020】
当該蓄電素子の通常使用時の充電終止電圧における正極電位としては、4.4V(vs.Li/Li
+)以上が好ましい。当該蓄電素子は、通常使用時の充電終止電圧における正極電位を上記範囲にした場合に、当該非水電解質による蓄電素子の内部抵抗を低いものとする効果をより一層効果的に発揮することができる。ここで、通常使用時とは、当該蓄電素子について推奨され、又は指定される充電条件を採用して当該蓄電素子を使用する場合であり、当該蓄電素子のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該蓄電素子を使用する場合をいう。
【0021】
本発明の他の一態様は、当該非水電解質を用いる蓄電素子の製造方法である。当該蓄電素子の製造方法によれば、当該非水電解質を用いるため、内部抵抗が低い蓄電素子を得ることができる。
【0022】
<非水電解質>
本発明の一実施形態に係る非水電解質は、蓄電素子に用いられ、上記式(1)で表される環状シロキサン化合物を含有する。当該非水電解質は、通常、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解している電解質塩を含有する。また、当該非水電解質は、液体であってもよく、ゲル状又は固体であってもよい。
【0023】
上記式(1)中、上記R
1及びR
2で表される炭素数1〜12の有機基としては特に限定されないが、例えば炭素数1〜12の1価の炭化水素基、この炭化水素基の炭素−炭素間又は結合手側の末端にヘテロ原子又はヘテロ原子含有基を含む1価の基(a)、上記炭化水素基及び基(a)が有する水素原子の一部又は全部をヘテロ原子又はヘテロ原子含有基で置換した1価の基等が挙げられる。
【0024】
炭素数1〜12の1価の炭化水素基としては、例えば鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基を有する基等が挙げられる。
鎖状炭化水素基としては、
メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等のアルキル基;
エテニル基、プロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基;
エチニル基、プロピニル基、ブチニル基等のアルキニル基などが挙げられる。
脂環式炭化水素基としては、
シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;
シクロプロペニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基;
ノルボルニル基、アダマンチル基等の橋かけ環炭化水素基などが挙げられる。
芳香族炭化水素基を有する基としては、
フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;
ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基などが挙げられる。
【0025】
上記ヘテロ原子又はヘテロ原子含有基を構成するヘテロ原子としては、例えば酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子、ハロゲン原子等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0026】
上記式(1)中、上記R
1及びR
2としては、これらの中でアルキル基が好ましい。アルキル基としては、中でもメチル基、エチル基及びプロピル基が好ましい。
【0027】
但し、R
1及びR
2のうちの少なくともいずれかは、1以上の水素がフッ素で置換された炭化水素基である。上記R
1及びR
2のうちの少なくともいずれかが1以上の水素がフッ素で置換された炭化水素基であることにより、蓄電素子の内部抵抗を低いものとするとともに蓄電素子の高率放電性能を向上させることができる。具体的には、上記R
1及びR
2の両方が1以上の水素がフッ素で置換された炭化水素基であってもよく、一方、上記R
1及びR
2のうちのいずれか一方のみが1以上の水素がフッ素で置換された炭化水素基であってもよい。
【0028】
上記1以上の水素がフッ素で置換された炭化水素基としては、蓄電素子の内部抵抗を低いものとする効果を向上する観点から、飽和フルオロアルキル基が好ましい。飽和フルオロアルキル基としては、例えば2−フルオロエチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3−フルオロプロピル基、3,3−ジフルオロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基等が挙げられる。中でも、2,2,2−トリフルオロエチル基及び3,3,3−トリフルオロプロピル基がより好ましい。
【0029】
上記式(1)中、nは、3〜10の整数である。上記nとしては、3又は4が好ましい。
【0030】
上記化合物としては、例えば1,3,5−トリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)−1,3,5−トリメチルシクロトリシロキサン、1,3,5,7−テトラキス(3,3,3−トリフルオロプロピル)−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン又はこれらの組み合わせであることが好ましい。
【0031】
当該非水電解質の総質量に対する上記化合物の質量(含有量)は特に限定されないが、この下限としては、0.01質量%が好ましく、0.1質量%がより好ましい。化合物の含有量を上記下限以上とすることで、蓄電素子の内部抵抗を低いものとする効果をより十分に発揮させることができる。一方、当該非水電解質の総質量に対する化合物の質量(含有量)の上限としては、化合物の過剰分解による抵抗増大の抑制の点から2質量%が好ましく、1質量%がより好ましい。
【0032】
(非水溶媒)
上記非水溶媒としては、一般的な蓄電素子の非水電解質における非水溶媒として通常用いられる公知の非水溶媒を用いることができる。上記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エステル、エーテル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。これらの中でも、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを少なくとも用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、特に限定されないが、例えば5:95以上50:50以下とすることが好ましい。
【0033】
上記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1−フェニルビニレンカーボネート、1,2−ジフェニルビニレンカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもECが好ましい。
【0034】
上記鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもEMCが好ましい。
【0035】
(電解質塩)
上記電解質塩としては、一般的な蓄電素子の非水電解質における電解質塩として通常用いられる公知の電解質塩を用いることができる。上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。
【0036】
上記リチウム塩としては、LiPF
6、LiPO
2F
2、LiBF
4、LiClO
4、LiN(SO
2F)
2等の無機リチウム塩、LiSO
3CF
3、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiN(SO
2CF
3)(SO
2C
4F
9)、LiC(SO
2CF
3)
3、LiC(SO
2C
2F
5)
3等の水素がフッ素で置換された炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF
6がより好ましい。
【0037】
当該非水電解質における上記電解質塩の含有量の下限としては、0.1Mが好ましく、0.3Mがより好ましく、0.5Mがさらに好ましく、0.7Mが特に好ましい。一方、この上限としては、特に限定されないが、2.5Mが好ましく、2Mがより好ましく、1.5Mがさらに好ましい。
【0038】
当該非水電解質は、本発明の効果を阻害しない限り、上記化合物、上記非水溶媒及び上記電解質塩以外の他の成分を含有していてもよい。上記他の成分としては、一般的な蓄電素子の非水電解質に含有される各種添加剤を挙げることができる。但し、これらの他の成分の含有量としては、5質量%以下が好ましいこともあり、1質量%以下がより好ましいこともある。
【0039】
当該非水電解質は、上記非水溶媒に上記電解質塩及び化合物を添加し、溶解させることにより得ることができる。
【0040】
<蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、正極、負極及び非水電解質(電解液)を有する。以下、蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池について説明する。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体を形成する。この電極体はケースに収納され、このケース内に上記非水電解質が充填される。当該非水電解質二次電池においては、非水電解質として、上述した当該非水電解質が用いられている。上記非水電解質は、正極と負極との間に介在する。また、上記ケースとしては、非水電解質二次電池のケースとして通常用いられる公知の金属製ケース等を用いることができる。
【0041】
当該非水電解質二次電池(蓄電素子)によれば、上記化合物を含有する非水電解質を用いているため、内部抵抗が低いものとなる。
【0042】
(正極)
上記正極は、正極基材及びこの正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層を有する。
【0043】
上記正極基材は、導電性を有する。基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS−H−4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0044】
中間層は、正極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。なお、「導電性」を有するとは、JIS−H−0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10
7Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が10
7Ω・cm超であることを意味する。
【0045】
正極活物質層は、正極活物質を含むいわゆる正極合材から形成される。また、正極活物質層を形成する正極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0046】
上記正極活物質としては、例えばLi
xMO
y(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(層状のα−NaFeO
2型結晶構造を有するLi
xCoO
2,Li
xNiO
2,Li
xMnO
3,Li
xNi
αCo
(1−α)O
2,Li
xNi
αMn
βCo
(1−α−β)O
2等、スピネル型結晶構造を有するLi
xMn
2O
4,Li
xNi
αMn
(2−α)O
4等)、Li
wMe
x(AO
y)
z(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Aは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO
4,LiMnPO
4,LiNiPO
4,LiCoPO
4,Li
3V
2(PO
4)
3,Li
2MnSiO
4,Li
2CoPO
4F等)が挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは、他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極活物質層においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0047】
上記正極活物質としては、Mnが地球資源として豊富であり、他の遷移金属と比較して比較的安価である観点から、Mnを含有することが好ましい。特に、複合酸化物において、充放電時の平均電位が貴になる、活物質の熱分解温度が高くなるといった観点から、Mnを含有することが好ましい。この場合において、当該蓄電素子が当該非水電解質を備えることにより、正極からのMn溶出や析出したMnによる負極表面での高抵抗被膜の生成が抑制されると考えられる。すなわち、正極活物質としては、Li
xMnO
3、Li
xNi
αMn
βCo
(1−α−β)O
2(0<α<1、0<β<1)、Li
xMn
2O
4、Li
xNi
αMn
(2−α)O
4(0<α<2)、LiMnPO
4、Li
2MnSiO
4等が好ましく、なかでも高い放電容量が得られるという観点から、Li
xNi
αMn
βCo
(1−α−β)O
2(0<α<1、0<β<1)が好ましい。また、さらに高い放電容量が得られるという観点から、Li
1+αMe
1−αO
2(Meは少なくともNi、Mnを含む遷移金属元素、α>0、Mn/Me>0.5)も好ましい。
【0048】
上記導電剤としては、電池性能に悪影響を与えない導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、天然又は人造の黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。
【0049】
上記バインダー(結着剤)としては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0050】
当該蓄電素子の通常使用時の充電終止電圧における正極電位の下限としては、4.2V(vs.Li/Li
+)が好ましく、4.3V(vs.Li/Li
+)がより好ましく、4.4V(vs.Li/Li
+)がさらに好ましい。一方、上記充電終止電圧における正極電位の上限としては、5.0V(vs.Li/Li
+)が好ましく、4.6V(vs.Li/Li
+)がより好ましい。当該蓄電素子は、通常使用時の充電終止電圧における正極電位を上記範囲にした場合に、内部抵抗が低い蓄電素子とすることができる。
【0051】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0052】
上記フィラーとしては、電池性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が挙げられる。
【0053】
(負極)
上記負極は、負極基材及びこの負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層を有する。上記中間層は正極の中間層と同様の構成とすることができる。
【0054】
上記負極基材は、正極基材と同様の構成とすることができるが、材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0055】
負極活物質層は、負極活物質を含むいわゆる負極合材から形成される。また、負極活物質層を形成する負極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極活物質層と同様のものを用いることができる。
【0056】
負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材質が用いられる。具体的な負極活物質としては、例えば
Si、Sn等の金属又は半金属;
Si酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;
ポリリン酸化合物;
黒鉛(グラファイト)、非晶質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料;
チタン酸リチウム等のリチウム金属複合酸化物等が挙げられる。
【0057】
さらに、負極合材(負極活物質層)は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
【0058】
(セパレータ)
上記セパレータの材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。上記セパレータの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。
【0059】
<蓄電素子の製造方法>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子の製造方法は、正極、負極及び非水電解質(電解液)を有する非水電解質二次電池の製造方法であって、上記非水電解質として、当該非水電解質を用いる。当該製造方法は、例えば、正極及び負極(電極体)をケースに収容する工程及び上記ケースに上記非水電解質を注入する工程を備える。
【0060】
上記注入は、公知の方法により行うことができる。注入後、注入口を封止することにより非水電解質二次電池を得ることができる。当該製造方法によって得られる非水電解質二次電池を構成する各要素についての詳細は上述したとおりである。当該製造方法によれば、当該非水電解質を用いることで、内部抵抗が低い非水電解質二次電池(蓄電素子)を得ることができる。
【0061】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、上記正極又は負極において、中間層を設けなくてもよい。また、上記実施形態においては、蓄電素子が非水電解質二次電池である形態を中心に説明したが、その他の蓄電素子であってもよい。その他の蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。
【0062】
図1に、本発明に係る蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質二次電池1の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。
図1に示す非水電解質二次電池1は、電極体2が電池容器3に収納されている。電極体2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。また、電池容器3内に、本発明の一実施形態に係る非水電解質が注入されている。
【0063】
本発明に係る蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を
図2に示す。
図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質二次電池1を備えている。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
[実施例1]
(非水電解質の作製)
ECとEMCとを30:70の体積比で混合した溶媒にLiPF
6を1.0Mの濃度で溶解させた。これに、さらに1,3,5−トリス(3,3,3−トリフルオロプロピル)−1,3,5−トリメチルシクロトリシロキサンを1.0質量%加えて実施例1の非水電解質を得た。
【0066】
(蓄電素子の作製)
α―NaFeO
2型結晶構造を有するLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2を正極活物質とする正極板を作製した。また、グラファイトを負極活物質とする負極板を作製した。次に、ポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータを介して、上記正極板と上記負極板とを積層し、扁平形状に巻回することにより電極体を作製した。この電極体をアルミニウム製の角形電槽缶に収納し、正極端子及び負極端子を取り付けた。この容器(角形電槽缶)内部に上記非水電解質を注入した後、封口し、蓄電素子(設計容量800mAhの角形リチウムイオン二次電池及び設計容量900mAhの角形リチウムイオン二次電池)を得た。
【0067】
[実施例2、比較例1〜2]
用いた環状シロキサン化合物の種類を表1に記載のようにしたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2及び比較例1〜2の非水電解質、並びに蓄電素子を得た。なお、以下の表1中の「−」は、環状シロキサン化合物を用いなかったことを示す。
【0068】
[評価]
(内部抵抗の測定)
(1)充電終止電圧4.2Vの蓄電素子
得られた蓄電素子(設計容量が800mAhの角形リチウムイオン二次電池)について、充電終止電圧を4.2Vとして初期充放電を行った。なお、このときの充電終止電圧における正極電位は約4.3V(vs.Li/Li
+)であった。25℃において充電電流160mA(0.2C)、充電終止電圧4.2V、総充電時間8時間として定電流定電圧充電を行った。その後、10分間の休止期間を設けた。その後、放電電流160mA(0.2C)、放電終止電圧2.75Vとして定電流放電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。この充放電を2サイクル実施した後、インピーダンスメーターを用いて交流(AC)1kHzを印加することにより「内部抵抗(mΩ)」を測定した。比較例1の蓄電素子の「内部抵抗(mΩ)」に対する各蓄電素子の「内部抵抗(mΩ)」の百分率を「内部抵抗(%)」として求めた。
【0069】
(2)充電終止電圧4.35Vの蓄電素子
得られた蓄電素子(設計容量が900mAhの角形リチウムイオン二次電池)について、充電終止電圧を4.35Vとして初期充放電を行った。なお、このときの充電終止電圧における正極電位は約4.45V(vs.Li/Li
+)であった。25℃において充電電流180mAh(0.2C)、充電終止電圧4.35V、総充電時間8時間として定電流定電圧充電を行ったこと、及び放電電流180mA(0.2C)、放電終止電圧2.75Vとして定電流放電を行ったこと以外は、上記充電終止電圧4.2Vの蓄電素子における内部抵抗の測定と同様の条件で内部抵抗(%)を求めた。
【0070】
(高率放電性能試験)
(1)充電終止電圧4.2Vの蓄電素子
上記蓄電素子(設計容量が800mAhの角形リチウムイオン二次電池)について、25℃において充電電流800mAh(1.0C)、充電終止電圧4.2V、総充電時間3時間として定電流定電圧充電を行い、10分間の休止期間を設けた。その後、放電電流160mA(0.2C)、放電終止電圧2.75Vとして定電流放電を行い、「0.2C放電容量」を測定した。次に、上記蓄電素子について、放電電流800mAh(1.0C)、放電終止電圧2.75Vとして定電流放電を行ったこと以外は、上記0.2C放電容量の測定と同様にして、「1.0C放電容量」を測定した。高率放電性能を示す指標として、0.2C放電容量に対する1.0C放電容量の比率((1.0C放電容量/0.2C放電容量)×100)を算出し、「放電容量比(%)」を求めた。
【0071】
(2)充電終止電圧4.35Vの蓄電素子
上記蓄電素子(設計容量が900mAhの角形リチウムイオン二次電池)について、25℃において充電電流900mAh(1.0C)、充電終止電圧4.35V、総充電時間8時間として定電流定電圧充電を行ったこと、180mAh(0.2C)、放電終止電圧2.75Vとして定電流放電を行い、0.2C放電容量を測定したこと、及び放電電流900mAh(1.0C)、放電終止電圧2.75Vとして定電流放電を行い、1.0C放電容量を測定したこと以外は、上記充電終止電圧4.2Vの蓄電素子における放電容量比と同様の条件で放電容量比を求めた。
【0072】
これらの評価結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
上記表1に示されるように、環状シロキサン化合物を含有しない比較例1及び2,4,6,8−テトラメチル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサンを含有する比較例2に対し、本願発明の環状シロキサン化合物を含有する実施例1〜2においては、蓄電素子の内部抵抗において良好な結果が得られ、特に高電圧作動時の内部抵抗において優れた結果が得られた。さらに、実施例1〜2のように、非水電解質に本願発明の環状シロキサン化合物を添加することで、蓄電素子の高率放電性能も高まることも示された。