(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、特許文献1に記載の技術では、温度センサ材料と歪センサ材料とを積層するために、これらの間に絶縁性膜を形成する必要があり、全体の工程数が増大してしまう不都合があった。
また、特許文献2に記載の技術では、樹脂等の高分子母材中に圧電セラミック粉末を混入した平板状複合圧電体であるため、高温で使用することができないという不都合があった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、振動センサ機能と温度センサ機能とを有し、簡易なプロセスで作製できると共に、高温でも使用可能な電子デバイス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係る電子デバイスは、圧電特性を有した材料で形成された第1金属窒化膜と、サーミスタ特性を有した材料で形成され前記第1金属窒化膜に積層された第2金属窒化膜と、前記第1金属窒化膜に形成された少なくとも1以上の第1電極と、前記第2金属窒化膜に形成された少なくとも2以上の第2電極とを備え、前記第1金属窒化膜と前記第2金属窒化膜との結晶構造が、いずれも六方晶系のウルツ鉱型の単相であることを特徴とする。
【0008】
この電子デバイスでは、第1金属窒化膜に形成された少なくとも1以上の第1電極と、第2金属窒化膜に形成された少なくとも2以上の第2電極とを備え、第1金属窒化膜と第2金属窒化膜との結晶構造が、いずれも六方晶系のウルツ鉱型の単相であるので、第1金属窒化膜と第2金属窒化膜とが互いに同じ結晶構造であることで、後から成膜した金属窒化膜がより良好な結晶性で積層される。特に、第1金属窒化膜と第2金属窒化膜とが両方とも六方晶系のウルツ鉱型の単相であるので、窒化する金属元素に応じて、圧電特性を有する膜とサーミスタ特性を有する膜とを積層状態で得ることができる。
また、樹脂等の高分子材料に比べて耐熱性に優れた金属窒化膜の積層構造を有することで、高温での使用が可能になる。また、第1金属窒化膜と第2金属窒化膜との積層構造と、第1電極と2以上の第2電極との電極構造とによって、温度センサと振動センサとを一体化した複合センサデバイスとすることができる。
【0009】
第2の発明に係る電子デバイスは、第1の発明において、前記第1金属窒化膜が、結晶性Al−Nであり、前記第2金属窒化膜が、一般式:M
xA
yN
z(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni及びCuの少なくとも1種を示すと共に、AはAl又は(Al及びSi)を示す。0.70≦y/(x+y)≦0.98、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなることを特徴とする。
すなわち、この電子デバイスでは、結晶性Al−Nの第1金属窒化膜が、圧電層かつ第2金属窒化膜の下地層となるので、結晶性Al−Nと同じ結晶系の第2金属窒化膜が第1金属窒化膜上に成膜されていることで、成膜開始直後のサーミスタ用M
xA
yN
zの初期結晶成長時より、M
xA
yN
z結晶は十分に窒化させることが可能であり、窒素欠陥量が極めて少ない柱状結晶化膜となり、さらに結晶配向度が高くなって、より高いB定数が得られる。
また、結晶性Al−Nの第1金属窒化膜と上記M
xA
yN
zの第2金属窒化膜とが、比較的柔軟な膜であるため、柔軟な基材に形成した第1電極上に形成することで全体としてフレキシブル性を得ることが可能になる。
更に、M
xA
yN
zの第2金属窒化膜より結晶性Al−Nの第1金属窒化膜の方が絶縁性がきわめて高いため、第2金属窒化膜のサーミスタ特性は第1金属窒化膜の影響を殆どうけることがなく、第1金属窒化膜と第2金属窒化膜との間に第3の絶縁性膜が不要となる。
【0010】
なお、上記「y/(x+y)」(すなわち、A/(M+A))が0.70未満であると、ウルツ鉱型の単相が得られず、NaCl型相との共存相又はNaCl型のみの結晶相となってしまい、十分な高抵抗と高B定数とが得られない。
また、上記「y/(x+y)」(すなわち、A/(M+A))が0.98を超えると、抵抗率が非常に高く、きわめて高い絶縁性を示すため、サーミスタ材料として適用できない。
また、上記「z」(すなわち、N/(M+A+N))が0.4未満であると、金属の窒化量が少ないため、ウルツ鉱型の単相が得られず、十分な高抵抗と高B定数とが得られない。
さらに、上記「z」(すなわち、N/(M+A+N))が0.5を超えると、ウルツ鉱型の単相を得ることができない。このことは、ウルツ鉱型の単相において、窒素サイトにおける欠陥がない場合の化学量論比が0.5(すなわち、N/(M+A+N)=0.5)であることに起因する。
【0011】
第3の発明に係る電子デバイスは、第2の発明において、前記第1電極が形成された前記第1金属窒化膜及び前記第2電極が形成された前記第2金属窒化膜が積層された基材を備え、前記基材が、絶縁性フィルムであることを特徴とする。
すなわち、この電子デバイスでは、基材が、絶縁性フィルムであると共に、第1金属窒化膜及び第2金属窒化膜が柔軟性を有した膜であるので、全体としてフレキシブル性を得ることができ、測定対象物に押し当てた際に柔軟に湾曲して測定対象物と面接触させることが可能になるので、デバイスの設置自由度が向上すると共に、柔軟性と高い振動応答性と高い温度応答性を兼ね備えた電子デバイスが得られる。
【0012】
第4の発明に係る電子デバイスは、第2又は第3の発明において、前記第2金属窒化膜が、Ti−Al−Nであることを特徴とする。
すなわち、この電子デバイスでは、第2金属窒化膜が、Ti−Al−Nであるので、結晶性Al−Nの第1金属窒化膜とAlを共通元素としており、より結晶性の高い膜が得られる。
【0013】
第5の発明に係る電子デバイスの製造方法は、第2から第4の発明のいずれかの電子デバイスを製造する方法であって、前記第1電極上にAlスパッタリングターゲットを用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って前記第1金属窒化膜を形成する第1窒化膜成膜工程と、前記第1金属窒化膜上にM−A合金スパッタリングターゲット(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni及びCuの少なくとも1種を示すと共に、AはAl又は(Al及びSi)を示す。)を用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って前記第2金属窒化膜を成膜する第2窒化膜成膜工程と、前記第2金属窒化膜上に前記第2電極を形成する第2電極形成工程とを有していることを特徴とする。
すなわち、この電子デバイスの製造方法では、結晶性Al−Nの第1金属窒化膜上に、M−A合金スパッタリングターゲット(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni及びCuの少なくとも1種を示すと共に、AはAl又は(Al及びSi)を示す。)を用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って成膜するので、結晶性が良く、結晶配向度の強い上記M
xA
yN
zからなる第2金属窒化膜をエピタキシャル成長させることができる。また、熱処理が不要で、サーミスタとして高B定数を得ることができる。
結晶性Al−Nも熱処理が不要で、圧電特性を有するので、熱処理することなく圧電特性を有する第1金属窒化膜とサーミスタ特性を有する第2金属窒化膜との積層構造が得られ、温度センサと振動センサとが一体化された複合センサデバイスを容易に得ることができる。
【0014】
第6の発明に係る電子デバイスの製造方法は、第2から第4の発明のいずれかの電子デバイスを製造する方法であって、前記第2電極上にM−A合金スパッタリングターゲット(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni及びCuの少なくとも1種を示すと共に、AはAl又は(Al及びSi)を示す。)を用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って前記第2金属窒化膜を成膜する第2窒化膜成膜工程と、
前記第2金属窒化膜上にAlスパッタリングターゲットを用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って前記第1金属窒化膜を形成する第1窒化膜成膜工程と、
前記第1金属窒化膜上に前記第1電極を形成する第1電極形成工程とを有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る電子デバイスによれば、圧電特性を有した第1金属窒化膜に形成された第1電極と、サーミスタ特性を有した第2金属窒化膜に形成された少なくとも2以上の第2電極とを備え、第1金属窒化膜と第2金属窒化膜との結晶構造が、いずれも六方晶系のウルツ鉱型の単相であるので、膜間に絶縁性膜が不要となると共に、高温での使用が可能になる。また、上記積層構造と上記電極構造とにより温度センサと振動センサとを一体化したことで、全体を小型化することも可能になる。
したがって、本発明の電子デバイスでは、従来よりも低コストかつ小型に作製可能であると共に、高温環境下でも使用が可能であり、例えばTPMS(Tire Pressure Monitoring System:タイヤ空気圧監視システム)等の温度と圧力とを両方同時に検出するモジュールに好適である。エネルギーハーベスタとしての使用も可能で、圧電特性を有した第1金属窒化膜で振動発電し、その電力を、サーミスタ特性を有した第2金属窒化膜で温度検出するための測定用電源または無線電源として利用することが可能である。
また、本発明に係る電子デバイスの製造方法では、結晶性Al−Nの第1金属窒化膜上に、上記M−A合金スパッタリングターゲットを用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って成膜するので、結晶性が良く、結晶配向度の強い上記M
xA
yN
zからなる第2金属窒化膜をエピタキシャル成長させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る電子デバイス及びその製造方法における第1実施形態を、
図1から
図3を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、各部を認識可能又は認識容易な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している。
【0018】
本実施形態の電子デバイス1は、サーミスタと振動センサとを一体化した複合センサデバイスであり、
図1及び
図2に示すように、基材2上に形成されており、圧電特性を有した材料で形成された第1金属窒化膜3と、サーミスタ特性を有した材料で形成され第1金属窒化膜3に積層された第2金属窒化膜4と、第1金属窒化膜3の下面に形成された第1電極5と、第2金属窒化膜4の上面に形成された少なくとも2以上の第2電極6,7,8とを備えている。
【0019】
上記第1金属窒化膜3と第2金属窒化膜4との結晶構造は、いずれも六方晶系のウルツ鉱型の単相であると共に、膜厚方向にa軸配向度よりc軸配向度が大きい結晶配向をもつ金属窒化膜である。
なお、結晶相の同定は、視斜角入射X線回折(Grazing Incidence X−ray Diffraction)により実施し、管球をCuとし、入射角を1度とする。なお、膜の表面に対して垂直方向(膜厚方向)にa軸配向(100)が強いかc軸配向(002)が強いかの判断は、上記X線回折(XRD)を用いて結晶軸の配向性を調べ、(100)(a軸配向を示すhkl指数)と(002)(c軸配向を示すhkl指数)とのピーク強度比から、「(100)のピーク強度」/「(002)のピーク強度」が1未満である場合、c軸配向が強いものとする。TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて、膜断面の電子線回折像を取得し、第1金属窒化膜3と第2金属窒化膜4いずれも膜厚方向にc軸配向度が高いことが確認されている。
また、上記第1金属窒化膜3と第2金属窒化膜4とは、いずれも緻密な膜であり、基板面に垂直な方向に柱状の結晶が成長している様子が観測されている。なお、結晶形態の評価は、断面SEMおよび断面TEMにて実施している。
以上の結果より、上記第1金属窒化膜3と第2金属窒化膜4とは、いずれも基板面に垂直な方向(膜厚方向)にc軸配向度が大きい結晶配向をもつ緻密な柱状結晶化膜であることがわかる。
本実施形態では、第1金属窒化膜3が、結晶性Al−Nである。
【0020】
この結晶性Al−Nは、圧電定数がd
33=6pm/V程度である。
なお、d
33は、圧電歪定数であり、aixACCT社製のDouble Beam Laser Interferometer(DBLI)で評価した。DBLI装置では第1電極と第2電極の間に与えた電位差に対し、デバイスの上面と下面から照射するレーザーにより圧電層を含むデバイスの膜厚方向の変位量を測定し、電圧あたりのデバイスの膜厚方向の変位量の平均値として、d
33を求める事ができる。具体的には電位差を最大100V、周波数1kHzの条件で測定を行った。
なお、第1金属窒化膜3として、結晶性Al−N以外にウルツ鉱型の圧電材料として知られている結晶性Sc−Al−Nや結晶性A−B−Al−N(A=Mg,Zn、B=Ti,Zr,Hf)等も採用可能である。
【0021】
また、第2金属窒化膜4は、一般式:M
xA
yN
z(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni及びCuの少なくとも1種を示すと共に、AはAl又は(Al及びSi)を示す。0.70≦y/(x+y)≦0.98、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなる。
本実施形態では、第2金属窒化膜4として、結晶性Ti−Al−Nを採用している。
【0022】
上述したように、ウルツ鉱型の結晶構造は、六方晶系の空間群P6
3mc(No.186)であり、MとAとは同じ原子サイトに属し(MはTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni及びCuの少なくとも1種を示すと共に、AはAl又は(Al及びSi)を示す。)、いわゆる固溶状態にある。ウルツ鉱型は、(M,A)N
4四面体の頂点連結構造をとり、(M,A)サイトの最近接サイトがN(窒素)であり、(M,A)は窒素4配位をとる。
【0023】
なお、Ti以外に、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)が同様に上記結晶構造においてTiと同じ原子サイトに存在することができ、Mの元素となり得る。有効イオン半径は、原子間の距離を把握することによく使われる物性値であり、特によく知られているShannonのイオン半径の文献値を用いると、論理的にもウルツ鉱型のM
xA
yN
z(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni及びCuの少なくとも1種を示すと共に、AはAl又は(Al及びSi)を示す。)が得られると推測できる。
以下の表1にAl,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Siの各イオン種における有効イオン半径を示す(参照論文 R.D.Shannon, Acta Crystallogr., Sect.A, 32, 751(1976))。
【0024】
なお、Ti−Al−Nは、ウルツ鉱型の結晶構造をもつ窒化物絶縁体であるAl−NのAlサイトをTiで部分置換することにより、キャリアドーピングし、電気伝導が増加することで、サーミスタ特性が得られるものであるが、V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni及びCuは、Tiと同じ3d遷移金属元素に属することから、ウルツ鉱型のM
xA
yN
z(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni及びCuの少なくとも1種を示すと共に、AはAl又は(Al及びSi)を示す。)において、サーミスタ特性が得ることが可能である。
【0026】
上記基材2は、絶縁性フィルムであり、その上面に第1電極5が形成されている。
上記絶縁性フィルムとしては、他にPET:ポリエチレンテレフタレート,PEN:ポリエチレンナフタレート等でも作製できるが、柔軟性と耐熱性とが要求される用途としては、耐熱性に優れたポリイミドフィルムが望ましい。
なお、基材2として、柔軟性が要求されていない場合、熱酸化膜付きSi基板、ガラス基板、アルミナなどの絶縁性セラミックス基板などを採用しても構わない。
【0027】
上記第1電極5としては、Cr等の金属膜が採用されるが、第1金属窒化膜3の結晶配向性等の観点から材料としてMo膜が好適である。
この第1電極5は、第1金属窒化膜3の下面全体に形成されている。
上記第2電極6,7,8としては、例えばMo等の金属膜が採用されるが、金属窒化膜の結晶配向性等に影響を与えないため、Cr膜の単層や、Cr膜とAu膜との積層金属膜等の種々の金属膜が採用可能である。
【0028】
第2電極6,7は、サーミスタ用電極であり、両者の間に印加される電圧V1と両者の間に流れる電流の比(抵抗値)を測定することで、温度測定を行う。サーミスタ特性は第2金属窒化膜の膜内方向で評価される。また、これらの第2電極6,7は、第2金属窒化膜4上で互いに対向状態とされていると共に、複数の櫛部6a,7aを有した櫛形パターンとされている。なお、第2金属窒化膜4の下に圧電特性を有する第1金属窒化膜があるが、第2金属窒化膜より第1金属窒化膜の方が絶縁性がきわめて高いため、第1金属窒化膜の影響を殆どうけることなく、第2金属窒化膜においてサーミスタ特性を評価することが可能である。
【0029】
第2電極8は、圧電検出用電極であり、第1電極5との間に一定の電圧V2を印加して変位量(歪み)を測定することで、圧電定数の測定を行う。圧電特性は第1金属窒化膜の膜厚方向で評価される。第2電極8と第1金属窒化膜3の間には、サーミスタ特性を有する第2金属窒化膜があるが、第1金属窒化膜より第2金属窒化膜の方が、導電性がきわめて高いため、第2金属窒化膜の影響を殆どうけることなく、第2電極8と第1電極5を用いて、第1金属窒化膜において圧電特性を評価することが可能である。
なお、第2電極8は、圧電信号を大きく検出するために、できるだけ大きな面積にすることが好ましく、第2電極6,7よりも広い面積で矩形状に形成されている。
【0030】
上記基材2の上面には、対応する第2電極6,7,8に接続された取り出し配線であるパターン配線9,10,11がパターン形成されている。また、基材2の上面には、第1電極5に接続された取り出し配線であるパターン配線12がパターン形成されている。
これらパターン配線9〜12の端部には、リード線接続用のパッド部9a〜12aが形成されている。
【0031】
次に、本実施形態の電子デバイス1の製造方法について、
図3を参照して説明する。
電子デバイス1の製造方法は、第1電極5上にAlスパッタリングターゲットを用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って第1金属窒化膜3を形成する第1窒化膜成膜工程と、第1金属窒化膜3上にM−A合金スパッタリングターゲット(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni及びCuの少なくとも1種を示すと共に、AはAl又は(Al及びSi)を示す。)を用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って第2金属窒化膜4を成膜する第2窒化膜成膜工程と、第2金属窒化膜上に第2電極6,7,8を形成する第2電極形成工程とを有している。
【0032】
より具体的には、まずポリイミド樹脂の基材2上にMoスパッタリングターゲットでMo膜を例えば100〜200nm程度の厚さでパターン形成する。このときのスパッタ条件は、到達真空度4.0×10
−5Pa、スパッタガス圧0.4Pa、ターゲット投入電力(出力)300Wで、Arガス雰囲気下において行う。
さらに、このように成膜したMo膜を、
図3の(a)に示すように、レジストを用いた露光パターニング等により第1電極5をパターン形成する。
また、このときパターン配線9〜12も同時に基材2上にパターン形成する。
【0033】
次に、第1電極5上にAlスパッタリングターゲットを用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行い、
図3の(b)に示すように、Al−N圧電膜の第1金属窒化膜3を800〜1200nm程度の厚さで成膜する。このときのスパッタ条件は、到達真空度4×10
−5Pa、スパッタガス圧0.2Pa、ターゲット投入電力(出力)200Wで、Arガス+窒素ガスの混合ガス雰囲気下において、窒素ガス分率を35%とした。
【0034】
さらに、第1金属窒化膜3上に、Ti−Al合金スパッタリングターゲットを用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行い、
図3の(c)に示すように、サーミスタ膜(Ti−Al−N膜)の第2金属窒化膜4を200nm程度の厚さで成膜する。スパッタ条件は、到達真空度4×10
−5Pa、スパッタガス圧0.2Pa、ターゲット投入電力(出力)200Wで、Arガス+窒素ガスの混合ガス雰囲気下において、窒素ガス分率を30%とした。
【0035】
なお、第1金属窒化膜3形成前に、結晶性Al−Nの自然酸化膜除去工程として逆スパッタによるプラズマ表面処理を行ってもよい。逆スパッタ条件は、例えば到達真空度:4×10
−5Pa、ターゲット印加電力:50Wで、Arガス雰囲気下において5分間とする。なお、逆スパッタ時に用いられるガス種は、窒素ガス、Arガスと窒素ガスとの混合ガスを用いてもよい。
また、第1金属窒化膜3及び第2金属窒化膜4は、メタルマスク又はレジストを用いた露光パターニング等によって第1電極5に対応した所望の形状にパターン形成される。
【0036】
次に、第2金属窒化膜4上に再びMoスパッタリングターゲットで第2電極用のMo膜を100〜200nm程度の厚さで形成する。このときのスパッタ条件は、到達真空度4.0×10
−5Pa、スパッタガス圧0.4Pa、ターゲット投入電力(出力)300Wで、Arガス雰囲気下において行う。
【0037】
さらに、成膜したMo膜を、レジストを用いた露光パターニング等により、
図3の(d)に示すように、温度測定用の櫛型電極である第2電極6,7と、圧電効果検出用電極である第2電極8とにパターン形成する。
このとき、第2電極6,7,8を、基材2上の対応するパターン配線9,10,11と接続させることで、本実施形態の電子デバイス1が作製される。
【0038】
なお、Crスパッタリングターゲットを用いてCrの第2電極6,7,8を形成する場合、そのスパッタ条件は、到達真空度4.0×10
−5Pa、スパッタガス圧0.1Pa、ターゲット投入電力(出力)300Wで、Arガス雰囲気下において行う。
また、上記工程では、パターン配線9,10,11を予め基材2上に形成したが、第2電極6,7,8と同時にパターン形成しても構わない。
【0039】
このように本実施形態の電子デバイス1では、第1金属窒化膜3の下面に形成された少なくとも1以上の第1電極5と、第2金属窒化膜4に形成された少なくとも2以上の第2電極6,7,8とを備え、第1金属窒化膜3と第2金属窒化膜4との結晶構造が、いずれも六方晶系のウルツ鉱型の単相であるので、第1金属窒化膜と第2金属窒化膜とが互いに同じ結晶構造であることで、後から成膜した金属窒化膜がより良好な結晶性で積層される。特に、第1金属窒化膜3と第2金属窒化膜4とが両方とも六方晶系のウルツ鉱型の単相であるので、窒化する金属元素に応じて、圧電特性を有する膜とサーミスタ特性を有する膜とを積層状態で得ることができる。
【0040】
また、樹脂等の高分子材料に比べて耐熱性に優れた金属窒化膜の積層構造を有することで、高温での使用が可能になる。また、第1金属窒化膜3と第2金属窒化膜4との積層構造と、第1電極5と2以上の第2電極6,7,8との電極構造とによって、温度センサと振動センサとを一体化した複合センサデバイスとすることができる。
【0041】
また、結晶性Al−Nの第1金属窒化膜3が、圧電層かつ第2金属窒化膜4の下地層となるので、結晶性Al−Nと同じ結晶系の第2金属窒化膜4が第1金属窒化膜3上に成膜されていることで、成膜開始直後のサーミスタ用M
xA
yN
zの初期結晶成長時より、M
xA
yN
z結晶は十分に窒化させることが可能であり、窒素欠陥量が極めて少ない柱状結晶化膜となり、さらに結晶配向度が高くなって、より高いB定数が得られる。
特に、第2金属窒化膜4が、Ti−Al−Nであることで、結晶性Al−Nの第1金属窒化膜3とAlを共通元素としており、より結晶性の高い膜が得られる。
更に、M
xA
yN
zの第2金属窒化膜4より結晶性Al−Nの第1金属窒化膜3の方が絶縁性がきわめて高いため、第2金属窒化膜4のサーミスタ特性は第1金属窒化膜3の影響を殆どうけることがなく、第1金属窒化膜3と第2金属窒化膜4との間に第3の絶縁性膜が不要となる。
【0042】
また、結晶性Al−Nの第1金属窒化膜3と上記M
xA
yN
zの第2金属窒化膜4とが、比較的柔軟な膜であるため、柔軟な基材2に形成した第1電極5上に形成することで全体としてフレキシブル性を得ることが可能になる。
特に、基材2が、絶縁性フィルムであることで、全体としてフレキシブル性を得ることができ、測定対象物に押し当てた際に柔軟に湾曲して測定対象物と面接触させることが可能になるので、デバイスの設置自由度が向上すると共に、柔軟性と高い振動応答性と高い温度応答性を兼ね備えた電子デバイスが得られる。
【0043】
また、本実施形態の電子デバイス1の製造方法では、結晶性Al−Nの第1金属窒化膜3上に、M−A合金スパッタリングターゲット(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni及びCuの少なくとも1種を示すと共に、AはAl又は(Al及びSi)を示す。)を用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って成膜するので、結晶性が良く、結晶配向度の強い上記M
xA
yN
zからなる第2金属窒化膜4をエピタキシャル成長させることができる。また、熱処理が不要で、高B定数をもつサーミスタを得ることができる。
結晶性Al−Nも熱処理が不要で、圧電特性を有するので、熱処理することなく圧電特性を有する第1金属窒化膜とサーミスタ特性を有する第2金属窒化膜との積層構造が得られ、温度センサと振動センサとが一体化された複合センサデバイスを容易に得ることができる。
【0044】
次に、本発明に係る電子デバイスの第2実施形態について、
図4を参照して以下に説明する。なお、以下の実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0045】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、3つの第2電極6,7,8が形成されているのに対し、第2実施形態の電子デバイス21では、
図4の(d)に示すように、2つの第2電極6,27が形成されている点である。
すなわち、第1実施形態では、サーミスタ用電極の2つの第2電極6,7と圧電検出用電極の第2電極8とを別々に形成しているが、第2実施形態では、2つのサーミスタ用電極の一方を圧電検出用電極として共用し、第2電極27を圧電検出用電極としても使用している点で異なっている。
【0046】
また、第2実施形態では、サーミスタ用電極の一方と圧電検出用電極とが共用されているので、第1実施形態の第2電極7に接続されていたパターン配線11が削除されている。
すなわち、第2実施形態の電子デバイス21を作製する際には、
図4の(a)に示すように、第1電極5及びパターン配線を形成する工程でパターン配線11を設けていない。
【0047】
本実施形態では、第1電極5上に、
図4の(b)(c)に示すように、第1金属窒化膜3及び第2金属窒化膜4をパターン形成した後、
図4の(d)に示すように、第2電極6,27を形成する。
第2電極27は、複数の櫛部7aを有する櫛歯電極部分に広い矩形状の圧電検出用電極部27bが接続されたパターンとされる。
また、圧電検出用電極部27bは、対応するパターン配線10に連結部27cを介して接続されている。
【0048】
このように第2実施形態の電子デバイス21では、サーミスタ用電極の一方と圧電検出用電極とが共用されているが、第1実施形態と同様に、温度測定と圧電検出とを同時に行うことができる。
【0049】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0050】
例えば、上記各実施形態では、基材の上に第1電極、第1金属窒化膜、第2金属窒化膜及び第2電極をこの順に形成し、積層しているが、逆に
図5に示すように、基材2の上に第2電極6、第2金属窒化膜4、第1金属窒化膜3及び第1電極5をこの順に形成し、積層しても構わない。この場合でも、上記各実施形態と同様に、温度センサと振動センサとの両機能を得ることができる。
【0051】
なお、この他の実施形態の製造方法は、基材2上にパターン形成した第2電極6上にM−A合金スパッタリングターゲット(但し、MはTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni及びCuの少なくとも1種を示すと共に、AはAl又は(Al及びSi)を示す。)を用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って第2金属窒化膜4を成膜する第2窒化膜成膜工程と、第2金属窒化膜4上にAlスパッタリングターゲットを用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って第1金属窒化膜3を形成する第1窒化膜成膜工程と、第1金属窒化膜3上に第1電極5を形成する第1電極形成工程とを有している。これらの各工程における成膜条件は、上記第1実施形態と同様に設定される。
【0052】
例えば、第2金属窒化膜4を結晶性Ti−Al−Nとし、その上に結晶性Al−Nである第1金属窒化膜3が形成された場合であっても、第1金属窒化膜3と第2金属窒化膜4との結晶構造は、いずれも六方晶系のウルツ鉱型の単相であると共に、膜厚方向にa軸配向度よりc軸配向度が大きい結晶配向をもつ金属窒化膜である。いずれも緻密な膜であり、基板面に垂直な方向に柱状の結晶が成長している様子が観測されている。
【0053】
また、この場合であっても、上記第2金属窒化膜4、第1金属窒化膜3は、いずれも比較的柔軟な膜であるため、全体としてフレキシブル性を得ることが可能になり、特に、基材2が、絶縁性フィルムであることで、測定対象物に押し当てた際に柔軟に湾曲して測定対象物と面接触させることが可能になるので、デバイスの設置自由度が向上すると共に、柔軟性と高い振動応答性と高い温度応答性を兼ね備えた電子デバイスが得られる。
【0054】
また、用途に応じたデバイス構造設計の際、第1金属窒化膜3および第2金属窒化膜4の成膜する順番を適宜変更である。例えば、本実施例では電極材料としてMoを採用したが、圧電特性を有する第1金属窒化膜3用の優れた電極材料と、サーミスタ特性を有する第2金属窒化膜4用の優れた電極材料がそれぞれ見出され、それら電極材料が異なっていた場合であっても、第1電極および第2電極のパターン配線における電極材料の選択エッチング性に応じて、第1金属窒化膜3および第2金属窒化膜4の成膜する順番を変えることが可能である。