(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、遠心圧縮機の一実施形態について説明する。なお、本実施形態の遠心圧縮機は増速機を備えており、この遠心圧縮機は燃料電池を電力源として走行する燃料電池車両(FCV)に搭載され、燃料電池に対して空気を供給する。
【0014】
図1に示すように、遠心圧縮機10は、低速側シャフト11及び高速側シャフト12と、低速側シャフト11を回転させる電動モータ13と、低速側シャフト11の回転を増速させて高速側シャフト12に伝達する増速機60と、高速側シャフト12の回転によって流体(本実施形態では空気)を圧縮するインペラ52とを備える。両シャフト11,12は、例えば金属で構成されており、詳細には鉄又は鉄の合金で構成されている。
【0015】
遠心圧縮機10は、当該遠心圧縮機10の外郭を構成するものであって、両シャフト11,12、電動モータ13、及び、増速機60の一部を構成する増速機構61が収容されるハウジング20を備える。ハウジング20は、例えば全体として略筒状(詳細には円筒状)となっている。
【0016】
ハウジング20は、電動モータ13が収容されたモータハウジング21と、増速機構61が収容された増速機ハウジング23と、流体が吸入される吸入口50aが形成されたコンプレッサハウジング50とを備える。吸入口50aは、ハウジング20の軸線方向の一端面20aに設けられている。吸入口50aから見てハウジング20の軸線方向に、コンプレッサハウジング50、増速機ハウジング23及びモータハウジング21の順に配列されている。本実施形態では、増速機構61と、増速機ハウジング23によって増速機60が構成されている。
【0017】
モータハウジング21は、全体として底部22を有する筒状(詳細には円筒状)である。モータハウジング21の底部22の外面が、ハウジング20の軸線方向の両端面20a,20bのうち、吸入口50aがある一端面20aとは反対側の他端面20bを構成している。増速機ハウジング23は、底部24を有する筒状(詳細には円筒状)である本体部25と、本体部25の軸線方向において底部24とは反対側に設けられた閉塞部26と、を備える。
【0018】
モータハウジング21と増速機ハウジング23とは、モータハウジング21の開口端が本体部25の底部24に突き合わさった状態で連結されている。モータハウジング21の内面と、本体部25の底部24におけるモータハウジング21側の底面24aとによって、電動モータ13が収容されたモータ収容室S1が形成されている。当該モータ収容室S1には、低速側シャフト11の回転軸線方向とハウジング20の軸線方向とが一致する状態で、低速側シャフト11が収容されている。
【0019】
低速側シャフト11は、回転可能な状態でハウジング20に支持されている。遠心圧縮機10は、第1軸受31を備える。第1軸受31は、モータハウジング21の底部22に設けられており、低速側シャフト11の第1端部11aは、第1軸受31に支持されている。第1端部11aの一部は、第1軸受31を挿通して、モータハウジング21の底部22に挿入されている。
【0020】
本体部25の底部24は、低速側シャフト11の第1端部11aとは反対側の第2端部11bよりも一回り大きく形成された貫通孔27を備える。遠心圧縮機10は、貫通孔27内に第2軸受32、及び、シール部材33を備える。低速側シャフト11の第2端部11bは第2軸受32に支持されている。シール部材33は、増速機ハウジング23内に存在するオイルOがモータ収容室S1に流れるのを規制している。
【0021】
低速側シャフト11の第2端部11bは、本体部25の貫通孔27に挿通されており、低速側シャフト11の一部は、増速機ハウジング23内に配置されている。
電動モータ13は、低速側シャフト11に固定されたロータ41と、ロータ41の外側に配置されるものであってモータハウジング21の内面に固定されたステータ42とを備える。ステータ42は、円筒形状のステータコア43と、ステータコア43に捲回されたコイル44とを備える。コイル44に電流が流れることによって、ロータ41と低速側シャフト11とが一体的に回転する。
【0022】
増速機ハウジング23を構成する閉塞部26は、例えば、増速機ハウジング23と同一径の円板状である。増速機ハウジング23は、本体部25の開口端と閉塞部26の軸線方向の両板面26a,26bのうち第1板面26aとが突き合わさった状態で組み付けられている。これにより、閉塞部26の第1板面26aと増速機ハウジング23の内面とによって、増速機構61が収容された増速機室S2が形成されている。
【0023】
閉塞部26は、増速機構61の一部を構成する高速側シャフト12を挿通可能な閉塞部貫通孔28を備える。高速側シャフト12の一部は、閉塞部貫通孔28を介してコンプレッサハウジング50内に配置されている。
【0024】
遠心圧縮機10は、閉塞部貫通孔28の内面と高速側シャフト12との間に、増速機ハウジング23内のオイルOがコンプレッサハウジング50内に流出するのを規制するシール部材34を備える。
【0025】
コンプレッサハウジング50は、軸線方向に貫通したコンプ貫通孔51を有する略筒状である。コンプレッサハウジング50の軸線方向の一端面50bがハウジング20の軸線方向の一端面20aを構成しており、コンプ貫通孔51における上記一端面50b側にある開口が吸入口50aとして機能する。
【0026】
コンプレッサハウジング50と閉塞部26とは、コンプレッサハウジング50の軸線方向の一端面50bとは反対側の他端面50cと、閉塞部26における第1板面26aとは反対側の第2板面26bとが突き合わさった状態で、組み付けられている。これにより、コンプ貫通孔51の内面と閉塞部26の第2板面26bとによって、インペラ52が収容されたインペラ室S3が形成されている。つまり、コンプ貫通孔51は、吸入口50aとして機能するとともに、インペラ室S3を区画するものとして機能する。吸入口50aとインペラ室S3とは連通している。
【0027】
ここで、コンプ貫通孔51は、吸入口50aから軸線方向の途中位置までは一定の径であり、上記途中位置から閉塞部26に向かうに従って徐々に拡径した略円錐台形状となっている。このため、コンプ貫通孔51の内面によって区画されるインペラ室S3は、略円錐台形状となっている。
【0028】
インペラ52は、基端面52aから先端面52bに向かうに従って徐々に縮径した筒状である。インペラ52は、インペラ52の回転軸線方向に延び、且つ、高速側シャフト12を挿通可能な挿通孔52cを備える。インペラ52は、高速側シャフト12におけるコンプ貫通孔51内に突出している部分が挿通孔52cに挿通された状態で、高速側シャフト12と一体回転するように高速側シャフト12に取り付けられている。これにより、高速側シャフト12が回転することによってインペラ52が回転して、吸入口50aから吸入された流体が圧縮される。
【0029】
また、遠心圧縮機10は、インペラ52によって圧縮された流体が流入するディフューザ流路53と、ディフューザ流路53を通った流体が流入する吐出室54とを備える。ディフューザ流路53は、コンプレッサハウジング50におけるコンプ貫通孔51の第2板面26b側の開口端と連続し且つ当該第2板面26bと対向する面と、閉塞部26の第2板面26bとによって区画された流路である。ディフューザ流路53は、インペラ室S3よりも高速側シャフト12の径方向外側に配置されており、インペラ52(及びインペラ室S3)を囲むように環状(詳細には円環状)に形成されている。吐出室54は、ディフューザ流路53よりも高速側シャフト12の径方向外側に配置された環状である。インペラ室S3と吐出室54とはディフューザ流路53を介して連通している。インペラ52によって圧縮された流体は、ディフューザ流路53を通ることによって、更に圧縮されて吐出室54に流れ、当該吐出室54から吐出される。
【0030】
次に、増速機60について説明する。本実施形態の増速機60は、所謂トラクションドライブ式(摩擦ローラ式)である。
図2及び
図3に示すように、増速機60の増速機構61は、低速側シャフト11の第2端部11bに連結されたリング部材62を備える。リング部材62は、低速側シャフト11の第2端部11bに連結された円板状のベース63と、当該ベース63の縁部から起立した円環状の環状部64とを備える。環状部64の内径は、低速側シャフト11の第2端部11bの直径よりも長く設定されている。
【0031】
本実施形態において、リング部材62は、ベース63の回転軸線方向(リング部材62の回転軸線方向)と低速側シャフト11の回転軸線方向とが一致するように低速側シャフト11に連結されている。なお、環状部64の回転軸線方向も低速側シャフト11の回転軸線方向と一致している。リング部材62は、低速側シャフト11の回転に伴って回転する。
【0032】
高速側シャフト12の一部は、環状部64の内側に配置されている。増速機構61は、高速側シャフト12と環状部64との間に設けられ、環状部64及び高速側シャフト12の双方に当接した3つのローラ71を備える。本実施形態では、3つのローラ71は同一形状である。各ローラ71は、円柱状のローラ部72と、ローラ部72の回転軸線方向の第1端面72aから突出する円柱状の第1突起73と、ローラ部72の回転軸線方向の第2端面72bから突出する円柱状の第2突起74と、を備える。ローラ部72の回転軸線方向、第1突起73の回転軸線方向、及び、第2突起74の回転軸線方向は一致している。以下、ローラ部72の回転軸線方向をローラ71の回転軸線方向Zとする。
【0033】
ローラ部72の直径(回転軸線方向Zと直交する方向の長さ)は高速側シャフト12の直径よりも長く設定されている。回転軸線方向Zと高速側シャフト12の回転軸線方向とは一致している。複数のローラ71は、高速側シャフト12の周方向に間隔を隔てて並んで配置されている。なお、各ローラ71は例えば金属で構成されており、詳細には高速側シャフト12と同一金属、例えば鉄又は鉄の合金で構成されている。
【0034】
図2及び
図4に示すように、増速機構61は、閉塞部26と協働して各ローラ71を回転可能に支持する支持部材80を備える。支持部材80は環状部64内に配置されている。支持部材80は、環状部64よりも一回り小さく形成された円板状の支持ベース81と、支持ベース81から起立した柱状の3つの柱状部材82とを備える。支持ベース81は、閉塞部26に対して回転軸線方向Zに対向配置されている。3つの柱状部材82は、支持ベース81における閉塞部26の第1板面26aと対向する対向板面81aから閉塞部26に向けて起立しており、環状部64の内周面と、隣り合う2つのローラ部72の外周面とによって区画された3つの空間を埋めるように形成されている。
【0035】
図2に示すように、各柱状部材82は、ボルト83が螺合可能なネジ孔84を備える。閉塞部26は、ネジ孔84に対応させて、ネジ孔84と連通するネジ穴85を備える。各柱状部材82は、ネジ孔84とネジ穴85とが連通し、且つ、当該各柱状部材82の先端面が第1板面26aに突き合わさった位置に配置されており、その状態でネジ孔84とネジ穴85とに跨るようにボルト83が螺合されることによって閉塞部26に固定されている。
【0036】
増速機60は、ローラ71を回転可能な状態で支持する第1ローラ軸受76と第2ローラ軸受77とを備える。第1ローラ軸受76は、閉塞部26に配置されている。第2ローラ軸受77は、支持ベース81に配置されている。ローラ71は、第1ローラ軸受76と第2ローラ軸受77に支持されることで、閉塞部26と支持ベース81との間に配置されている。
【0037】
図4に示すように、ローラ71とリング部材62と高速側シャフト12とは、ローラ部72と高速側シャフト12及び環状部64とが互いに押し付けあっている状態でユニット化されており、高速側シャフト12は、3つのローラ部72によって回転可能に支持されている。ローラ部72の外周面と環状部64の内周面との当接箇所であるリング側当接箇所Pa、及び、ローラ部72の外周面と高速側シャフト12の外周面との当接箇所であるシャフト側当接箇所Pbには、押し付け荷重が付与されている。各当接箇所Pa,Pbは、回転軸線方向Zに延びている。
【0038】
なお、
図1に示すように、高速側シャフト12は、当該高速側シャフト12の回転軸線方向に離間して対向配置された一対のフランジ部12aを備える。ローラ部72は一対のフランジ部12aによって挟持されている。これにより、高速側シャフト12の回転軸線方向における高速側シャフト12とローラ部72との位置ずれが抑制されている。
【0039】
図2に示すように、増速機60を閉塞部26に固定した状態で、環状部64の開口端側の端面64aと、閉塞部26の第1板面26aとの間には排出路65が区画されている。排出路65は、環状部64の内外を連通させている。
【0040】
図1に示すように、遠心圧縮機10は、増速機構61にオイルOを供給するためのオイル供給機構100を備える。オイル供給機構100は、ポンプ101と、オイル流路102とを備え、ポンプ101の駆動によりオイル流路102を通じて増速機室S2にオイルを循環させるものである。
【0041】
ポンプ101は、モータハウジング21の底部22に設けられている。本実施形態のポンプ101は、容積型である。ポンプ101は、底部22に設けられた収容部103と、回転体104とを備える。回転体104には、低速側シャフト11の第1端部11aが連結されている。
【0042】
モータハウジング21は、オイル流路102の一部となる第1油路111、及び、第2油路112を備える。第1油路111の一端は収容部103に開口しており、第1油路111の他端はモータハウジング21の開口端側の端面21aのうち、底面24aに接している箇所に開口している。第2油路112の一端は収容部103に開口しており、第2油路112の他端はモータハウジング21の端面21aのうち、底面24aに接している箇所に開口している。
【0043】
本体部25は、オイル流路102の一部となる第3油路113及び第4油路114を備える。第3油路113は、本体部25の軸線方向の両端面に開口している。第3油路113の一端は、本体部25の端面のうち第1油路111に向かい合う位置に開口しており、第1油路111に連通している。第4油路114の一端は、本体部25の端面のうち第2油路112に向かい合う位置に開口しており、第2油路112に連通している。第4油路114は、本体部25の内周面に開口する開口部114aを他端に備える。
【0044】
閉塞部26は、オイル流路102の一部となる第5油路115を備える。第5油路115の一端は、第1板面26aのうち第3油路113に向かい合う位置に開口しており、第3油路113に連通している。第5油路115の他端は、第1板面26aのうち、柱状部材82に向かい合う位置に連通している。
【0045】
柱状部材82は、オイル流路102の一部となる第6油路116を備える。第6油路116の一端は、柱状部材82の端面のうち、第5油路115に向かい合う位置に開口しており、第5油路115に連通している。第6油路116の他端は、柱状部材82の外周面のうちローラ部72に向かい合う位置に開口している。なお、図示は省略するが、第5油路115及び第6油路116は、第3油路113から分岐するように2つ設けられている。そして、3つの柱状部材82のうち、2つの柱状部材82に設けられた第6油路116からリング部材62内にオイルOは供給される。
【0046】
遠心圧縮機10は、増速機ハウジング23における第4油路114の連通する箇所が鉛直方向下方に位置する態様で使用される。第4油路114の開口部114aは鉛直方向上方を向く。増速機ハウジング23内においては、第4油路114が連通する箇所に重力によってオイルOが貯留されることになる。
【0047】
そして、ポンプ101が駆動されると、第4油路114→第2油路112→収容部103→第1油路111→第3油路113→第5油路115→第6油路116の経路でオイルOが流れる。第6油路116に流れたオイルOは、リング部材62内に供給され、各ローラ71の潤滑を行う。そして、リング部材62内のオイルOは、排出路65からリング部材62外に排出される。リング部材62外に排出されたオイルOは、増速機室S2内に貯まる。増速機室S2は、オイルOが貯留される貯留室として兼用されているといえる。リング部材62の下部は、増速機室S2内のオイルOに浸漬する。このため、リング部材62の回転時には、オイルOはリング部材62の回転の抵抗となる。
【0048】
かかる構成によれば、ローラ71が回転すると、リング側当接箇所Pa及びシャフト側当接箇所Pbにて、固化されたオイルOの薄膜(弾性流体潤滑膜(EHL))が形成される。換言すれば、ローラ部72の外周面と環状部64の内周面とはオイルOの薄膜を介して接する。同様に、高速側シャフト12の外周面とローラ部72の外周面とは固化されたオイルOの薄膜を介して接する。そして、ローラ71の回転力が、高速側シャフト12の外周面とローラ部72の外周面との間に形成された固化されたオイルOの薄膜を介して高速側シャフト12に伝達され、その結果、高速側シャフト12が回転することとなる。環状部64は、低速側シャフト11と同一速度で回転し、各ローラ71は低速側シャフト11よりも高速で回転する。更に、ローラ部72よりも径が短い高速側シャフト12は、ローラ部72よりも高速で回転する。以上のことから、増速機60によって、高速側シャフト12が低速側シャフト11よりも高速で回転する。増速機60は、高速側シャフト12に取り付けられたインペラ52と、低速側シャフト11を回転させる電動モータ13とを連結しているともいえる。
【0049】
リング部材62が回転すると、環状部64によってオイルOが掻き上げられ、増速機室S2のオイルOは撹拌される。この際の撹拌抵抗を低減させるため、本実施形態の増速機60は隔壁90を備える。
【0050】
図2及び
図3に示すように、隔壁90は、円環状の隔壁本体91と、隔壁本体91の軸線方向の一端に設けられた円環状の隔壁フランジ92とを備える。隔壁本体91は、径方向に貫通している孔93を備える。排出路65と孔93とは、環状部64の径方向及び軸線方向に重なり合わないように配置されている。
【0051】
隔壁本体91の軸線方向の寸法は、リング部材62の軸線方向の寸法よりも長い。隔壁本体91の軸線方向の寸法は、増速機室S2の回転軸線方向Zの寸法、即ち、回転軸線方向Zに対向した増速機ハウジング23の内面間の距離よりも短い。隔壁本体91の内径は、リング部材62の環状部64の外径よりも大きい。
【0052】
隔壁90は、隔壁フランジ92が図示しないボルトなどにより閉塞部26に固定されることで増速機ハウジング23に取り付けられている。隔壁90は、リング部材62の外周面と、増速機ハウジング23の内周面との間に配置されている。隔壁90は、隔壁本体91とリング部材62とが同心円状となるように配置されている。隔壁90は、開口部114aとリング部材62(環状部64)との間を遮るように位置している。
【0053】
増速機60は、隔壁本体91の軸線方向の端部のうち隔壁フランジ92とは反対側の端部と、本体部25の底部24との間には連通路96を備える。以下の説明において、径方向とは、高速側シャフト12の径方向を示す。なお、隔壁90の径方向と、環状部64の径方向と、高速側シャフト12の径方向とは一致する。軸線方向とは、高速側シャフト12の軸線方向を示す。なお、隔壁90の軸線方向と、環状部64の軸線方向と、高速側シャフト12の軸線方向と、ローラ71の軸線方向とは一致する。
【0054】
増速機室S2において、隔壁90よりも径方向の内側の空間を撹拌領域94とし、隔壁90よりも径方向の外側の空間を貯留領域95とする。撹拌領域94と貯留領域95とは、連通路96によって連通している。また、撹拌領域94と貯留領域95とは、孔93によって連通している。貯留領域95には、第4油路114が連通している。排出路65からリング部材62外に排出されたオイルOは、撹拌領域94に排出される。そして、連通路96及び孔93を通って貯留領域95に流れる。連通路96の大きさ、孔93の数や開口面積は、ポンプ101の容量や、増速機60に求められている潤滑性能などに応じて定められる。
【0055】
次に、本実施形態の増速機60、及び、遠心圧縮機10の作用について説明する。
電動モータ13が駆動されると、低速側シャフト11の回転によりポンプ101が駆動されてオイルOがリング部材62内に供給される。リング部材62内に供給されたオイルOは、排出路65からリング部材62外に排出される。排出路65からリング部材62外に排出されたオイルOは、リング部材62の回転によって環状部64に掻き上げられることで撹拌される。この際、撹拌されたオイルOは、遠心力によって径方向の外側に向けて飛散していく。撹拌領域94内において、全周に亘ってオイルOは流れることになる。飛散したオイルOは、隔壁90によって、隔壁90よりも径方向外側に飛散することが抑制されている。したがって、オイルOの勢いは、隔壁90によって減衰されることになる。オイルOは、撹拌領域94から連通路96を介して貯留領域95に排出される。また、オイルOは、孔93からも貯留領域95に排出される。
【0056】
リング部材62によって撹拌されるオイルOは、撹拌領域94内のオイルOが主であり、貯留領域95のオイルOはリング部材62の回転によって撹拌されにくい。したがって、リング部材62の回転により撹拌されるオイルOの絶対量は、隔壁90を設けていない場合に比べて少なくなる。
【0057】
また、貯留領域95に貯留されているオイルOを、撹拌されにくくすることで、撹拌によってオイルOに気体が含まれることが抑制されている。隔壁90を設けず、増速機室S2内のオイルO全体を撹拌すると、オイルO全体に気体が含まれることになる。すると、ポンプ101によって汲み上げられるオイルOには気体が含まれることになり、流量が低下する。一方で、本実施形態のポンプ101は、気体が含まれにくい貯留領域95のオイルOを汲み上げる。このため、流量の低下を抑制することができる。
【0058】
更に、撹拌領域94内で撹拌されるオイルOは、リング部材62の回転によってリング部材62の回転方向に付勢されている。このため、撹拌領域94内での撹拌抵抗は少ない。
【0059】
したがって、上記実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)隔壁90は、リング部材62によって撹拌されたオイルOが径方向外側に飛散することを抑制している。これにより、オイルOの勢いは減衰し、増速機室S2内でのオイルOの流れの乱れを抑制することができる。オイルOの流れの乱れは、撹拌抵抗が増大することの一因になるため、オイルOの流れが乱れることを抑制することで、撹拌抵抗を低減することができる。
【0060】
(2)隔壁本体91を環状とすることで、撹拌領域94と貯留領域95とを区分けすることができる。これにより、隔壁90を設けない場合に比べて、リング部材62の回転によって撹拌されるオイルOの絶対量を少なくすることができる。このため、オイルOの撹拌抵抗を低減させることができる。
【0061】
(3)隔壁本体91が孔93を備えることで、孔93を介して撹拌領域94から貯留領域95にオイルOが流れることになる。撹拌領域94から貯留領域95にオイルOが流れることで、撹拌領域94のオイル量を減らして、撹拌抵抗を減らすことができる。また、孔93を通してオイルOを流すことで、孔93から排出されるときに、オイルOの勢いを弱めることができ、オイルOの流れを乱しにくい。
【0062】
(4)排出路65と孔93とは、環状部64の径方向及び軸線方向に重なり合わないため、排出路65から排出されたオイルOは、環状部64の内周面に当たりやすい。したがって、リング部材62外に排出されたオイルOは、撹拌領域94に流れやすく、排出路65から排出されたオイルOが直接貯留領域95に流れることが抑制される。したがって、オイルOの流れの乱れを抑制することができる。
【0063】
(5)第4油路114は、増速機ハウジング23(本体部25)の内周面に開口する開口部114aを他端に備える。隔壁90は、上記開口部114aとリング部材62(環状部64)との間を遮るように位置している。これにより、撹拌されたオイルOが増速機ハウジング23内から直接排出されることを防ぎ、オイルO全体に気体が含まれにくくなる。
【0064】
なお、実施形態は以下のように変更してもよい。
○孔93の位置は、適宜変更してもよい。例えば、排出路65と向かい合う位置に設けられていてもよい。また、孔93の位置は、隔壁本体91のうち、鉛直方向下方の部位や、鉛直方向上方の部位、水平方向の部位など、いずれに設けられていてもよい。
【0065】
○
図5に示すように、隔壁本体91に設けられる孔120は、軸線方向における隔壁フランジ92とは反対側の端部から、軸線方向に延びていてもよい。隔壁本体91に設けられる孔120は、隔壁本体91の軸線方向の全体に亘って延びていてもよい。また、複数の孔のそれぞれの大きさは、適宜異なるものとしてもよい。
【0066】
○隔壁本体91が孔93を備えている場合、連通路96は区画されていなくてもよい。即ち、隔壁本体91の軸線方向の寸法と、増速機室S2の軸線方向の寸法とは同一寸法であってもよい。この場合であっても、孔93を介して、撹拌領域94から貯留領域95にオイルOは流れる。
【0067】
○排出路65と孔93とは、環状部64の径方向又は軸線方向に重なり合わないように配置されていてもよい。
○隔壁本体91は、孔93を備えていなくてもよい。
【0068】
○隔壁90は、本体部25の底部24に固定されていてもよい。
○閉塞部26と、環状部64との間に区画される領域を排出路65としたが、環状部64に孔を設けることで排出路としてもよい。
【0069】
○第5油路115及び第6油路116の数は変更してもよい。全ての柱状部材82からオイルOが供給されるようにしてもよいし、1つの柱状部材82からオイルOが供給されるようにしてもよい。
【0070】
○隔壁本体91は、円環状以外の環状でもよく、四角環状などの多角環状であってもよい。
○隔壁本体91は、環状でなくてもよい。例えば、実施形態における隔壁本体91のうち、周方向における半分を隔壁本体としてもよい。この場合、隔壁本体91は半円弧状になる。また、この場合、隔壁本体91は、増速機室S2内で鉛直方向下方に位置していることが望ましい。
【0071】
○ポンプは、遠心圧縮機に内蔵されていなくてもよく、外部ポンプを用いてもよい。
○ローラ71の数は適宜変更してもよい。例えば、4つや5つにしてもよい。
○増速機60として、くさび作用を利用したものを用いてもよい。この場合、ローラのうち少なくとも1つは、リング部材62の回転により移動する可動ローラが用いられる。
【0072】
○遠心圧縮機10の適用対象及び圧縮対象の流体は任意である。例えば、遠心圧縮機10は空調装置に用いられていてもよく、圧縮対象の流体は冷媒であってもよい。また、遠心圧縮機10の搭載対象は、車両に限られず任意である。