(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、遠心圧縮機の一実施形態について説明する。なお、遠心圧縮機は燃料電池を電力源として走行する燃料電池車両(FCV)に搭載され、燃料電池に対して空気を供給する。
【0016】
図1に示すように、遠心圧縮機10は、低速側シャフト11及び高速側シャフト12と、低速側シャフト11を回転させる電動モータ13と、低速側シャフト11の回転を増速させて高速側シャフト12に伝達する増速機60と、高速側シャフト12の回転によって流体(本実施形態では空気)を圧縮するインペラ52とを備える。
【0017】
高速側シャフト12は、円柱状のシャフト本体14と、シャフト本体14から径方向に突出した円環状の第1フランジ部15と、シャフト本体14から径方向に突出した円環状の第2フランジ部16とを備える。第1フランジ部15と、第2フランジ部16とは、高速側シャフト12の回転軸線方向に離間して配置されている。シャフト本体14は、第1フランジ部15と第2フランジ部16との間の部分である支持部17と、第1フランジ部15から回転軸線方向に支持部17とは反対に延びる突出部18とを備える。第2フランジ部16は、高速側シャフト12の回転軸線方向の両端のうち、インペラ52側の端部とは反対の端部に設けられている。第1フランジ部15は、高速側シャフト12の回転軸線方向において、第2フランジ部16よりインペラ52寄りに設けられている。両シャフト11,12は、例えば金属で構成されており、詳細には鉄又は鉄の合金で構成されている。
【0018】
遠心圧縮機10は、当該遠心圧縮機10の外郭を構成するものであって、両シャフト11,12、電動モータ13、及び、増速機60の一部を構成する増速機構61が収容されたハウジング20を備える。ハウジング20は、例えば全体として略筒状(詳細には円筒状)となっている。
【0019】
ハウジング20は、電動モータ13が収容されたモータハウジング21と、増速機構61が収容された増速機ハウジング23と、流体が吸入される吸入口50aが形成されたインペラハウジング50とを備える。吸入口50aは、ハウジング20の軸線方向の一端面20aに設けられている。吸入口50aから見てハウジング20の軸線方向に、インペラハウジング50、増速機ハウジング23及びモータハウジング21の順に配列されている。本実施形態では、増速機構61と、増速機ハウジング23によって増速機60が構成されている。
【0020】
モータハウジング21は、全体として底部22を有する筒状(詳細には円筒状)である。モータハウジング21の底部22の外面が、ハウジング20の軸線方向の両端面20a,20bのうち、吸入口50aがある一端面20aとは反対側の他端面20bを構成している。増速機ハウジング23は、底部24を有する筒状(詳細には円筒状)である本体部25と、本体部25の軸線方向において底部24とは反対側に設けられた閉塞部26と、を備える。
【0021】
モータハウジング21と増速機ハウジング23とは、モータハウジング21の開口端が本体部25の底部24に突き合わさった状態で連結されている。モータハウジング21の内面と、本体部25の底部24におけるモータハウジング21側の底面24aとによって、電動モータ13が収容されたモータ収容室S1が形成されている。当該モータ収容室S1には、低速側シャフト11の回転軸線方向とハウジング20の軸線方向とが一致する状態で、低速側シャフト11が収容されている。
【0022】
低速側シャフト11は、回転可能な状態でハウジング20に支持されている。遠心圧縮機10は、第1軸受31を備える。第1軸受31は、モータハウジング21の底部22に設けられており、低速側シャフト11の第1端部11aは、第1軸受31に支持されている。第1端部11aの一部は、第1軸受31を挿通して、モータハウジング21の底部22に挿入されている。
【0023】
本体部25の底部24は、低速側シャフト11の第1端部11aとは反対側の第2端部11bよりも一回り大きく形成された貫通孔27を備える。遠心圧縮機10は、貫通孔27内に第2軸受32、及び、シール部材33を備える。低速側シャフト11の第2端部11bは第2軸受32に支持されている。シール部材33は、増速機ハウジング23内に存在するオイルOがモータ収容室S1に流れるのを規制している。
【0024】
低速側シャフト11の第2端部11bは、本体部25の貫通孔27に挿通されており、低速側シャフト11の一部は、増速機ハウジング23内に配置されている。
電動モータ13は、低速側シャフト11に固定されたロータ41と、ロータ41の外側に配置されるものであってモータハウジング21の内面に固定されたステータ42とを備える。ステータ42は、円筒形状のステータコア43と、ステータコア43に捲回されたコイル44とを備える。コイル44に電流が流れることによって、ロータ41と低速側シャフト11とが一体的に回転する。
【0025】
閉塞部26は、例えば、増速機ハウジング23と同一径の円板状である。増速機ハウジング23は、本体部25の開口端と閉塞部26の軸線方向の両板面26a,26bのうち第1板面26aとが突き合わさった状態で組み付けられている。これにより、閉塞部26の第1板面26aと増速機ハウジング23の内面とによって、増速機構61が収容された増速機室S2が形成されている。
【0026】
増速機ハウジング23を構成する閉塞部26は、増速機構61の一部を構成する高速側シャフト12を挿通可能な挿通孔28を備える。高速側シャフト12の突出部18は、挿通孔28を挿通して、増速機室S2から突出している。第1フランジ部15、第2フランジ部16、及び、支持部17は、増速機室S2内に配置されている。遠心圧縮機10は、挿通孔28の内面と高速側シャフト12との間に、増速機ハウジング23内のオイルOがインペラハウジング50内に流出するのを規制するシール部材34を備える。
【0027】
インペラハウジング50は、軸線方向に貫通したコンプ貫通孔51を有する略筒状である。インペラハウジング50の軸線方向の一端面50bがハウジング20の軸線方向の一端面20aを構成しており、コンプ貫通孔51における上記一端面50b側にある開口が吸入口50aとして機能する。
【0028】
インペラハウジング50と閉塞部26とは、インペラハウジング50の軸線方向の一端面50bとは反対側の他端面50cと、閉塞部26における第1板面26aとは反対側の第2板面26bとが突き合わさった状態で、組み付けられている。これにより、コンプ貫通孔51の内面と閉塞部26の第2板面26bとによって、インペラ52が収容されたインペラ室S3が形成されている。つまり、コンプ貫通孔51は、吸入口50aとして機能するとともに、インペラ室S3を区画するものとして機能する。吸入口50aとインペラ室S3とは連通している。増速機室S2とインペラ室S3との間に位置する閉塞部26は、両者を仕切る仕切壁となる。
【0029】
ここで、コンプ貫通孔51は、吸入口50aから軸線方向の途中位置までは一定の径であり、上記途中位置から閉塞部26に向かうに従って徐々に拡径した略円錐台形状となっている。このため、コンプ貫通孔51の内面によって区画されるインペラ室S3は、略円錐台形状となっている。
【0030】
インペラ52は、基端面52aから先端面52bに向かうに従って徐々に縮径した筒状である。インペラ52は、インペラ52の回転軸線方向に延び、且つ、高速側シャフト12を挿通可能なシャフト挿通孔52cを備える。
【0031】
インペラ52は、高速側シャフト12の突出部18がシャフト挿通孔52cに挿通された状態で、高速側シャフト12と一体回転するように高速側シャフト12に取り付けられている。
【0032】
インペラ52の基端面52aと、閉塞部26の第2板面26bとの間には、背面領域S4が区画されている。高速側シャフト12が回転することによってインペラ52が回転して、吸入口50aから吸入された流体が圧縮される。
【0033】
また、遠心圧縮機10は、インペラ52によって圧縮された流体が流入するディフューザ流路53と、ディフューザ流路53を通った流体が流入する吐出室54とを備える。ディフューザ流路53は、インペラハウジング50におけるコンプ貫通孔51の第2板面26b側の開口端と連続し且つ当該第2板面26bと対向する面と、閉塞部26の第2板面26bとによって区画された流路である。ディフューザ流路53は、インペラ室S3よりも高速側シャフト12の径方向外側に配置されており、インペラ52(及びインペラ室S3)を囲むように環状(詳細には円環状)に形成されている。吐出室54は、ディフューザ流路53よりも高速側シャフト12の径方向外側に配置された環状である。インペラ室S3と吐出室54とはディフューザ流路53を介して連通している。インペラ52によって圧縮された流体は、ディフューザ流路53を通ることによって、更に圧縮されて吐出室54に流れ、当該吐出室54から吐出される。
【0034】
次に、増速機60について説明する。本実施形態の増速機60は、所謂トラクションドライブ式(摩擦ローラ式)である。
図1及び
図2に示すように、増速機60の増速機構61は、低速側シャフト11の第2端部11bに連結されたリング部材62を備える。リング部材62は、低速側シャフト11の第2端部11bに連結された円板状のベース63と、当該ベース63の縁部から起立した円環状の環状部64とを備える。環状部64の内径は、低速側シャフト11の第2端部11bの直径よりも長く設定されている。
【0035】
本実施形態において、リング部材62は、ベース63の回転軸線方向(リング部材62の回転軸線方向)と低速側シャフト11の回転軸線方向とが一致するように低速側シャフト11に連結されている。なお、環状部64の回転軸線方向も低速側シャフト11の回転軸線方向と一致している。リング部材62は、低速側シャフト11の回転に伴って回転する。
【0036】
高速側シャフト12の一部は、リング部材62の径方向において、環状部64の内側に配置されている。増速機構61は、高速側シャフト12と環状部64との間に設けられ、環状部64及び高速側シャフト12の双方に当接した3つのローラ71を備える。
【0037】
図3及び
図4に示すように、3つのローラ71は同一形状である。各ローラ71は、円柱状のローラ部72と、ローラ部72の回転軸線方向の第1端面72aから突出する円柱状の第1突起73と、ローラ部72の回転軸線方向の第2端面72bから突出する円柱状の第2突起74と、を備える。ローラ部72の第1端面72a及び第2端面72bは、ローラ71の回転軸線方向の両端面となる。
【0038】
第1突起73と第2突起74とは、回転軸線方向の寸法が同一である。ローラ部72の回転軸線方向、第1突起73の回転軸線方向、及び、第2突起74の回転軸線方向は一致している。以下、ローラ部72の回転軸線方向をローラ71の回転軸線方向Zとする。
【0039】
ローラ部72は、円柱状の接触部75と、接触部75から第1端面72aに向けて徐々に直径が小さくなる第1非接触部76と、接触部75から第2端面72bに向けて徐々に直径が小さくなる第2非接触部77とを備える。接触部75の直径(回転軸線方向Zと直交する方向の長さ)は高速側シャフト12の支持部17の直径よりも長く設定されている。第1端面72aは、第1非接触部76の回転軸線方向Zの端面といえる。第2端面72bは、第2非接触部77の回転軸線方向Zの端面といえる。第1端面72aと第2端面72bとの回転軸線方向Zの離間距離は、支持部17の回転軸線方向の寸法よりも若干短い。
【0040】
ローラ部72は、外周面に接触面Aと、第1非接触面B1と、第2非接触面B2とを備える。接触面Aは、接触部75の外周面であり、第1非接触面B1は第1非接触部76の外周面であり、第2非接触面B2は第2非接触部77の外周面である。
【0041】
第1非接触面B1は、接触面Aの縁から第1端面72aまで延びる面である。第1非接触面B1は、径方向の外側に向けて凸となるアール形状(円弧形状)である。第2非接触面B2は、接触面Aの縁から第2端面72bまで延びる面である。第2非接触面B2は、径方向の外側に向けて凸となるアール形状(円弧形状)である。
【0042】
第1非接触面B1の回転軸線方向Zの寸法は、第2非接触面B2の回転軸線方向Zの寸法よりも短い。これにより、接触面Aの回転軸線方向Zの中心位置CP1は、ローラ71の回転軸線方向Zの中心位置CP2よりも第1端面72a寄りとなっている。
【0043】
第1非接触面B1と接触面Aとの境界P1から、第1非接触面B1と第1端面72aとの境界P2までのローラ71の径方向の寸法を第1寸法L1とし、第2非接触面B2と接触面Aとの境界P3から、第2非接触面B2と第2端面72bとの境界P4までのローラ71の径方向の寸法を第2寸法L2とする。第2寸法L2は、第1寸法L1よりも長い。換言すれば、第2非接触部77の最小径である第2端面72bの直径は、第1非接触部76の最小径である第1端面72aの直径よりも短い。各ローラ71は例えば金属で構成されており、詳細には高速側シャフト12と同一金属、例えば鉄又は鉄の合金で構成されている。
【0044】
ローラ部72の回転軸線方向Zと高速側シャフト12の回転軸線方向とは一致している。複数のローラ71は、高速側シャフト12の周方向に間隔を隔てて並んで配置されている。
【0045】
ローラ71は、第1フランジ部15と第2フランジ部16との間に、ローラ部72が入り込むように配置されている。ローラ部72は、第1端面72aが第1フランジ部15に向かい合い、第2端面72bが第2フランジ部16に向かい合うように配置されている。接触面Aを挟んで、第1非接触面B1は第1フランジ部15側、第2非接触面B2は第2フランジ部16側に位置している。また、接触面Aの回転軸線方向Zの中心位置CP1は、ローラ71の回転軸線方向Zの中心位置CP2よりも第1フランジ部15側寄りに位置する。
【0046】
第1非接触面B1が支持部17の周面から離間していることで、支持部17の周面、第1非接触面B1、及び、第1フランジ部15に囲まれる領域には第1隙間C1が区画されている。第2非接触面B2が支持部17の周面から離間していることで、支持部17の周面、第2非接触面B2、及び、第2フランジ部16に囲まれる領域には第2隙間C2が区画されている。第2隙間C2は、第1隙間C1よりも大きい。
【0047】
また、各非接触面B1,B2を設けることで、ローラ部72の外周面の全体を支持部17の周面に接触させる場合に比べて、ローラ部72の外周面と支持部17の周面との接触面積は小さくなっている。したがって、ローラ部72から支持部17に加わる面圧は、ローラ部72の外周面の全体を支持部17の周面に接触させる場合に比べて大きくなっているといえる。
【0048】
ここで、接触面Aの回転軸線方向Zの寸法を過度に短くした場合、面圧が著しく上昇し、高速側シャフト12の塑性変形を招く。詳細にいえば、ローラ71の外周面に外周面が接触する高速側シャフト12は、ローラ71の外周面に内周面が接する環状部64に比べて接触面積が小さくなりやすく、面圧が上昇しやすい。このため、接触面Aの回転軸線方向Zの寸法を過度に小さくすると、面圧が過度に上昇し、塑性変形を招く。
【0049】
更に、高速側シャフト12は、軸受(ベアリング)に支持されておらずローラ71による保持力で支持されていること、ローラ71には製造公差などで微細な寸法差があることなど、遠心圧縮機10には、高速側シャフト12の軸がぶれる要素が数多く存在している。ローラ71と高速側シャフト12の周面との接触面積を過度に小さくすると、インペラ52が回転したときに、高速側シャフト12を安定して支持できないおそれがある。
【0050】
以上の要因から、接触面Aの回転軸線方向Zの寸法は、例えば、支持部17の回転軸線方向Zの寸法の30%〜90%にすることが望ましい。
図1及び
図2に示すように、増速機構61は、閉塞部26と協働して各ローラ71を回転可能に支持する支持部材80を備える。支持部材80は環状部64内に配置されている。支持部材80は、環状部64よりも一回り小さく形成された円板状の支持ベース81と、支持ベース81から起立した柱状の3つの柱状部材82とを備える。支持ベース81は、閉塞部26に対して回転軸線方向Zに対向配置されている。3つの柱状部材82は、支持ベース81における閉塞部26の第1板面26aと対向する対向板面81aから閉塞部26に向けて起立しており、環状部64の内周面と、隣り合う2つのローラ部72の外周面とによって区画された3つの空間を埋めるように形成されている。
【0051】
図1及び
図2に示すように、支持部材80は、ボルト83が螺合可能なネジ孔84を各柱状部材82に備える。閉塞部26は、ネジ孔84に対応させて、ネジ孔84と連通するネジ穴85を備える。各柱状部材82は、ネジ孔84とネジ穴85とが連通し、且つ、当該各柱状部材82の先端面が第1板面26aに突き合わさった位置に配置されており、その状態でネジ孔84とネジ穴85とに跨るようにボルト83が螺合されることによって閉塞部26に固定されている。
【0052】
増速機60は、ローラ71を回転可能な状態で支持する第1ローラ軸受78及び第2ローラ軸受79を備える。第1ローラ軸受78及び第2ローラ軸受79はベアリングである。第1ローラ軸受78は、閉塞部26に配置されている。第2ローラ軸受79は、支持ベース81に配置されている。ローラ71は、第1ローラ軸受78と第2ローラ軸受79に支持されることで、閉塞部26と支持ベース81との間に配置されている。
【0053】
図2に示すように、ローラ71とリング部材62と高速側シャフト12とは、ローラ部72と高速側シャフト12及び環状部64とが互いに押し付けあっている状態でユニット化されており、高速側シャフト12は、3つのローラ部72によって回転可能に支持されている。ローラ部72の外周面と環状部64の内周面との当接箇所であるリング側当接箇所Pa、及び、ローラ部72の外周面と高速側シャフト12の周面との当接箇所であるシャフト側当接箇所Pbには、押し付け荷重が付与されている。各当接箇所Pa,Pbは、回転軸線方向Zに延びている。
【0054】
図1に示すように、遠心圧縮機10は、増速機構61にオイルOを供給するためのオイル供給機構100を備える。オイル供給機構100は、ポンプ101と、オイル流路102とを備え、ポンプ101の駆動によりオイル流路102を通じて増速機室S2にオイルOを循環させるものである。
【0055】
ポンプ101は、モータハウジング21の底部22に設けられている。本実施形態のポンプ101は、容積型である。ポンプ101は、底部22に設けられた収容部103と、回転体104とを備える。回転体104には、低速側シャフト11の第1端部11aが連結されている。
【0056】
ハウジング20は、オイル流路102の一部となる供給路105と、オイル流路102の一部となる循環路106とを備える。供給路105は、収容部103と、リング部材62内とを繋いでいる。循環路106は、増速機室S2と収容部103とを繋いでいる。遠心圧縮機10は、増速機ハウジング23における循環路106の連通する箇所が鉛直方向下方に位置する態様で使用される。したがって、増速機ハウジング23内においては、循環路106が連通する箇所に重力によってオイルOが貯留されることになる。
【0057】
そして、ポンプ101が駆動されると、循環路106→収容部103→供給路105の順にオイルOが流れ、リング部材62内にオイルOが供給される。
次に、本実施形態の遠心圧縮機10の作用について説明する。
【0058】
電動モータ13の駆動に伴いローラ71が回転すると、リング側当接箇所Pa及びシャフト側当接箇所Pbにて、固化されたオイルOの薄膜(弾性流体潤滑膜(EHL))が形成される。換言すれば、ローラ部72の外周面と環状部64の内周面とはオイルOの薄膜を介して接する。同様に、高速側シャフト12の周面とローラ部72の外周面とは固化されたオイルOの薄膜を介して接する。そして、ローラ71の回転力が、高速側シャフト12の周面とローラ部72の外周面との間に形成された固化されたオイルOの薄膜を介して高速側シャフト12に伝達され、その結果、高速側シャフト12が回転することとなる。環状部64は、低速側シャフト11と同一速度で回転し、各ローラ71は低速側シャフト11よりも高速で回転する。更に、ローラ部72よりも径が短い高速側シャフト12は、ローラ部72よりも高速で回転する。以上のことから、増速機60によって、高速側シャフト12が低速側シャフト11よりも高速で回転する。
【0059】
上記したように、トラクションドライブ式の増速機60においては、各当接箇所Pa,Pbにて、オイルOを固化させて、固化されたオイルOの薄膜によって低速側シャフト11の回転力が高速側シャフト12に伝わることになる。オイルOを固化させるためには、ローラ71から環状部64の内面、及び、高速側シャフト12の周面に加わる面圧を上げることが望ましい。本実施形態では、各非接触面B1,B2を設けることで、ローラ部72と高速側シャフト12の周面との接触面積を小さくしている。このため、非接触面B1,B2を設けない場合に比べて面圧は上昇している。このため、各当接箇所Pa,PbでオイルOが固化しやすい。
【0060】
仮に、ローラ部72の回転軸線方向Zの全体寸法を短くした場合には、高速側シャフト12が傾いたときの支点が第2フランジ部16側に寄る。すると、高速側シャフト12が傾いたときに、突出部18の移動量が多くなり、インペラ52がインペラハウジング50の内面に当たりやすい。
【0061】
これに対し、本実施形態では、ローラ部72の回転軸線方向Zの寸法を短くすることなく、非接触面B1,B2を設けることで接触面積を小さくしているため、面圧を上げることに加えて、高速側シャフト12の傾きによるインペラ52の接触も抑制することができる。
【0062】
図5に示すように、第1非接触面B1、及び、第2非接触面B2を備えるローラ71において、接触面Aの回転軸線方向Zの中心位置CP11と、ローラ71の回転軸線方向Zの中心位置CP12とを一致させた場合には、第1非接触面B1と第2非接触面B2の面積が同一となる。結果として、第1隙間C11と第2隙間C12とが同じ大きさとなる。
【0063】
これに対し、本実施形態のように、接触面Aの回転軸線方向Zの中心位置CP1をローラ71の回転軸線方向Zの中心位置CP2よりも第1フランジ部15に寄せることで、第2隙間C2を第1隙間C1よりも大きくすることができる。これにより、第2隙間C2には第1隙間C1に比べてオイルOが入り込みやすく、第1フランジ部15に供給されるオイルOに比べて、第2フランジ部16に供給されるオイルOの量は多くなる。
【0064】
ここで、遠心圧縮機10においては、インペラ52の基端面52aと閉塞部26との接触を防ぐ必要がある関係上、インペラ52の基端面52aと閉塞部26との間に背面領域S4が区画される。この背面領域S4にはインペラ52によって圧縮された流体が入り込む。すると、圧縮された流体によってインペラ52が吸入口50a側に向けて押され、高速側シャフト12には、増速機室S2からインペラ室S3に向かう方向へのスラスト力が作用する。このスラスト力によって、第2フランジ部16は各ローラ部72の第2端面72bに押し付けられるため、第2フランジ部16は第1フランジ部15に比べて発熱しやすく、摩耗しやすい。この第2フランジ部16にオイルOを供給しやすくすることで、第2フランジ部16の摩耗を抑制している。
【0065】
また、各当接箇所Pa,Pbでは、摩擦による熱が生じるため、シャフト側当接箇所Pbでも熱が生じることになる。接触面Aの回転軸線方向Zの中心位置CP1を第1フランジ部15寄りにすることで、シャフト側当接箇所Pbで生じた熱が第2フランジ部16に伝わりにくい。結果として、摩耗しやすい第2フランジ部16に熱が伝わるのを抑制することができ、第2フランジ部16の摩耗をより抑制することができる。
【0066】
したがって、上記実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)接触面Aの回転軸線方向Zの中心位置CP1をローラ71の回転軸線方向Zの中心位置CP2よりも第1フランジ部15寄りとしている。これにより、第2隙間C2は第1隙間C1よりも大きくなっており、第1フランジ部15よりも発熱しやすい第2フランジ部16にオイルOが供給されやすい。このため、第2フランジ部16が摩耗しにくく、第2フランジ部16と第2端面72bとの間に隙間が生じにくい。これにより、第2フランジ部16と第2端面72bとの隙間を原因として、高速側シャフト12が回転軸線方向へ移動したり、高速側シャフト12が傾くことを抑制することができる。即ち、高速側シャフト12を安定して支持することができる。
【0067】
(2)また、接触面Aは、第2フランジ部16よりも第1フランジ部15に寄っている。このため、シャフト側当接箇所Pbで生じた熱が第2フランジ部16に伝わりにくく、第2フランジ部16の摩耗を更に抑制することができる。
【0068】
(3)非接触面B1,B2を設けることで、ローラ部72の回転軸線方向Zの寸法を短くすることなく、オイルOを固化させるための面圧を確保することができる。このため、ローラ部72の回転軸線方向Zの全体寸法を短くすることを原因として、インペラ52がインペラハウジング50の内面に接触することが抑止されている。
【0069】
(4)増速機60を備える遠心圧縮機10においては、高速側シャフト12の軸がぶれる要素が数多く存在している。接触面Aの回転軸線方向Zの寸法を過度に短くしていないため、高速側シャフト12を安定して支持することができる。
【0070】
(5)第2寸法L2を第1寸法L1よりも長くしている。これにより、第2フランジ部16において、第2隙間C2に露出する面積を大きくすることができる。第2フランジ部16にオイルOが接しやすく、第2フランジ部16の摩耗をより抑制することができる。このため、高速側シャフト12をより安定して支持することができる。
【0071】
なお、実施形態は以下のように変更してもよい。
○
図6に示すように、第2隙間C2を大きくするために、第2寸法L2を大きくする場合、第2端面72bと第2フランジ部16とが対向するように第2フランジ部16の径方向の寸法を大きくしてもよい。
【0072】
○第1寸法L1と第2寸法L2とは同一であってもよい。この場合、
図7に示すように、第1非接触面B1と接触面Aとの境界P1から第1非接触面B1と第1端面72aとの境界P2までの回転軸線方向Zの寸法を第3寸法L3とし、第2非接触面B2と接触面Aとの境界P3から第2非接触面B2と第2端面72bとの境界P4までの回転軸線方向Zの寸法を第4寸法L4とした場合、第4寸法L4を第3寸法L3より長くする。この場合も、第2隙間C2は、第1隙間C1よりも大きく、第2フランジ部16にオイルOが供給されやすい。
【0073】
○非接触面B1,B2は、円弧状でなくてもよく、接触面Aの縁から各端面72a,72bまで直線状に延びるテーパ面であってもよい。
○ポンプは、遠心圧縮機10に内蔵されていなくてもよく、外部ポンプを用いてもよい。
【0074】
○ローラ71の数は複数であればよく、適宜変更してもよい。例えば、4つや5つにしてもよい。
○増速機60として、くさび作用を利用したものを用いてもよい。この場合、ローラ71のうち少なくとも1つは、リング部材62の回転により移動する可動ローラが用いられる。
【0075】
○遠心圧縮機10の適用対象及び圧縮対象の流体は任意である。例えば、遠心圧縮機10は空調装置に用いられていてもよく、圧縮対象の流体は冷媒であってもよい。また、遠心圧縮機10の搭載対象は、車両に限られず任意である。
【0076】
○第1フランジ部15と第2フランジ部16の形状は、適宜変更してもよい。例えば、六角環状や四角環状にしてもよい。