特許第6747355号(P6747355)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6747355
(24)【登録日】2020年8月11日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】遠心圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/056 20060101AFI20200817BHJP
   F04D 17/10 20060101ALI20200817BHJP
   F04D 29/053 20060101ALI20200817BHJP
   F04D 29/059 20060101ALI20200817BHJP
【FI】
   F04D29/056 B
   F04D17/10
   F04D29/053 A
   F04D29/059
【請求項の数】1
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-68904(P2017-68904)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-168829(P2018-168829A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】福山 了介
(72)【発明者】
【氏名】竹内 花帆
【審査官】 山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−140682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/056
F04D 17/10
F04D 29/053
F04D 29/059
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低速側シャフトの回転に伴って回転するものであって環状部を有するリング部材と、
前記環状部の内側に配置された高速側シャフトと、
前記環状部と前記高速側シャフトとの間に設けられ、オイルを介して前記環状部及び前記高速側シャフトに接触する複数のローラと、
前記高速側シャフトと一体回転するインペラと、
前記リング部材、前記ローラ、及び、前記高速側シャフトの一部が収容された増速機ハウジングと、
前記インペラが収容されたインペラハウジングと、を備え、
前記高速側シャフトは、
前記ローラの回転軸線方向の両端面のうちの一方の面である第1端面に向かい合う第1フランジ部と、
前記高速側シャフトの回転軸線方向において、前記第1フランジ部よりも前記インペラから離れて設けられ、前記両端面のうち前記第1端面とは異なる第2端面に向かい合い、前記複数のローラの前記第2端面に押し付けられる第2フランジ部と、を備え、
前記ローラの外周面は、
前記高速側シャフトの周面のうち、前記第1フランジ部と前記第2フランジ部との間の部分に接触する接触面と、
前記ローラの外周面のうち前記接触面の縁から前記第1端面までの部分であり、前記高速側シャフトの周面から離間することで前記第1端面の周りを囲む環状の第1非接触面と、
前記ローラの外周面のうち前記接触面の縁から前記第2端面までの部分であり、前記高速側シャフトの周面から離間することで前記第2端面の周りを囲む環状の第2非接触面と、に区画され、
前記ローラの回転軸線方向における前記接触面の中心位置は、前記ローラの中心位置よりも前記第1フランジ部寄りであり、
前記第1非接触面と前記接触面との境界から、前記第1非接触面と前記第1端面との境界までの前記ローラの径方向の寸法を第1寸法とし、
前記第2非接触面と前記接触面との境界から、前記第2非接触面と前記第2端面との境界までの前記ローラの径方向の寸法を第2寸法とすると、
前記第2寸法は、前記第1寸法よりも長い遠心圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
増速機を備える遠心圧縮機としては、例えば、特許文献1に記載されている。遠心圧縮機は、インペラが収容されたインペラハウジングと、増速機構が収容された増速機ハウジングとを備える。増速機構は、低速側シャフトの回転に伴って回転するリング部材と、リング部材の内側に配置された高速側シャフトと、リング部材と高速側シャフトとの間に設けられ、リング部材及び高速側シャフトの双方に当接した複数のローラを備える。高速側シャフトにおいて、インペラハウジング内に挿入された部分にはインペラが一体化されている。増速機構には、潤滑のためのオイルが供給されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−194251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高速側シャフトが傾くと、インペラがインペラハウジングの内面に接触するおそれがある。このため、増速機を備える遠心圧縮機においては、高速側シャフトを安定して支持することが望まれている。
【0005】
本発明の目的は、高速側シャフトを安定して支持することができる遠心圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する遠心圧縮機は、低速側シャフトの回転に伴って回転するものであって環状部を有するリング部材と、前記環状部の内側に配置された高速側シャフトと、前記環状部と前記高速側シャフトとの間に設けられ、オイルを介して前記環状部及び前記高速側シャフトに接触する複数のローラと、前記高速側シャフトと一体回転するインペラと、前記リング部材、前記ローラ、及び、前記高速側シャフトの一部が収容された増速機ハウジングと、前記インペラが収容されたインペラハウジングと、を備え、前記高速側シャフトは、前記ローラの回転軸線方向の両端面のうちの一方の面である第1端面に向かい合う第1フランジ部と、前記高速側シャフトの回転軸線方向において、前記第1フランジ部よりも前記インペラから離れて設けられ、前記両端面のうち前記第1端面とは異なる第2端面に向かい合う第2フランジ部と、を備え、前記ローラの外周面は、前記高速側シャフトの周面のうち、前記第1フランジ部と前記第2フランジ部との間の部分に接触する接触面と、前記ローラの外周面のうち前記接触面の縁から前記第1端面までの部分であり、前記高速側シャフトの周面から離間した第1非接触面と、前記ローラの外周面のうち前記接触面の縁から前記第2端面までの部分であり、前記高速側シャフトの周面から離間した第2非接触面と、に区画され、前記ローラの回転軸線方向における前記接触面の中心位置は、前記ローラの中心位置よりも前記第1フランジ部寄りである。
【0007】
これによれば、接触面の中心位置をローラの中心位置よりも第1フランジ部寄りにすることで、第2非接触面の面積を、第1非接触面の面積よりも大きくすることができる。これにより、第2非接触面と高速側シャフトの周面との間に区画される隙間を、第1非接触面と高速側シャフトの周面との間に区画される隙間よりも大きくすることができる。隙間が大きいと、オイルが入り込みやすく、結果として、第2フランジ部には第1フランジ部に比べてオイルが供給されやすくなる。
【0008】
ここで、遠心圧縮機においては、インペラの回転に伴い発生するスラスト力により、第2フランジ部がローラの第2端面に押し付けられる。よって、第2フランジ部は、第1フランジ部に比べて、発熱しやすく、摩耗しやすい。第2フランジ部が摩耗し、第2端面との隙間が大きくなると、高速側シャフトが回転軸線方向に移動する原因や、高速側シャフトが傾く原因となる。第2フランジ部にオイルを供給しやすくすることで、第2フランジ部の摩耗を抑制することができ、高速側シャフトが回転軸線方向に移動したり、高速側シャフトが傾くことを抑制することができる。したがって、高速側シャフトの摩耗を抑制することで、高速側シャフトを安定して支持することができる。
【0009】
また、第1非接触面及び第2非接触面を設けていることで、ローラの外周面と高速側シャフトの周面との接触面積を小さくすることができる。オイルを介して、ローラと高速側シャフトを接触させるトラクションドライブ式の増速機においては、ローラの外周面と高速側シャフトの周面のオイルを固化させる必要がある。オイルを固化させるためには、ローラの外周面から高速側シャフトに加わる面圧を上げることが望ましい。一方で、この面圧を上げるためにローラの回転軸線方向の全体寸法を短くし、高速側シャフトの周面と、ローラの外周面との接触面積を小さくすると、高速側シャフトが傾いたときに、インペラとインペラハウジングの内面とが接触しやすくなり、好ましくない。
【0010】
第1非接触面及び第2非接触面を備えつつも、接触面の位置をずらすことで、ローラの回転軸線方向の全体寸法を短くすることなく、ローラの外周面と高速側シャフトの周面との接触面積を小さくすることで、オイルを固化させる面圧を確保しつつ、インペラとインペラハウジングの内面との接触を抑止することができる。
【0011】
上記遠心圧縮機について、前記第1非接触面と接触面との境界から、前記第1非接触面と前記第1端面との境界までの前記ローラの径方向の寸法を第1寸法とし、前記第2非接触面と接触面との境界から、前記第2非接触面と前記第2端面との境界までの前記ローラの径方向の寸法を第2寸法とすると、前記第2寸法は、前記第1寸法よりも長くてもよい。
【0012】
これによれば、第2寸法を大きくすることで、第2フランジ部において、隙間に露出する面積を大きくすることができる。第2フランジ部の摩耗をより抑制することができ、高速側シャフトを安定して支持することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高速側シャフトを安定して支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】遠心圧縮機の概略断面図。
図2】増速機の一部を示す図1の2−2線断面図。
図3】ローラと高速側シャフトとの関係を示す斜視図。
図4】増速機構の一部を破断して示す図2の4−4線断面図。
図5】比較例のローラを示す断面図。
図6】増速機構の変形例を示す断面図。
図7】増速機構の変形例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、遠心圧縮機の一実施形態について説明する。なお、遠心圧縮機は燃料電池を電力源として走行する燃料電池車両(FCV)に搭載され、燃料電池に対して空気を供給する。
【0016】
図1に示すように、遠心圧縮機10は、低速側シャフト11及び高速側シャフト12と、低速側シャフト11を回転させる電動モータ13と、低速側シャフト11の回転を増速させて高速側シャフト12に伝達する増速機60と、高速側シャフト12の回転によって流体(本実施形態では空気)を圧縮するインペラ52とを備える。
【0017】
高速側シャフト12は、円柱状のシャフト本体14と、シャフト本体14から径方向に突出した円環状の第1フランジ部15と、シャフト本体14から径方向に突出した円環状の第2フランジ部16とを備える。第1フランジ部15と、第2フランジ部16とは、高速側シャフト12の回転軸線方向に離間して配置されている。シャフト本体14は、第1フランジ部15と第2フランジ部16との間の部分である支持部17と、第1フランジ部15から回転軸線方向に支持部17とは反対に延びる突出部18とを備える。第2フランジ部16は、高速側シャフト12の回転軸線方向の両端のうち、インペラ52側の端部とは反対の端部に設けられている。第1フランジ部15は、高速側シャフト12の回転軸線方向において、第2フランジ部16よりインペラ52寄りに設けられている。両シャフト11,12は、例えば金属で構成されており、詳細には鉄又は鉄の合金で構成されている。
【0018】
遠心圧縮機10は、当該遠心圧縮機10の外郭を構成するものであって、両シャフト11,12、電動モータ13、及び、増速機60の一部を構成する増速機構61が収容されたハウジング20を備える。ハウジング20は、例えば全体として略筒状(詳細には円筒状)となっている。
【0019】
ハウジング20は、電動モータ13が収容されたモータハウジング21と、増速機構61が収容された増速機ハウジング23と、流体が吸入される吸入口50aが形成されたインペラハウジング50とを備える。吸入口50aは、ハウジング20の軸線方向の一端面20aに設けられている。吸入口50aから見てハウジング20の軸線方向に、インペラハウジング50、増速機ハウジング23及びモータハウジング21の順に配列されている。本実施形態では、増速機構61と、増速機ハウジング23によって増速機60が構成されている。
【0020】
モータハウジング21は、全体として底部22を有する筒状(詳細には円筒状)である。モータハウジング21の底部22の外面が、ハウジング20の軸線方向の両端面20a,20bのうち、吸入口50aがある一端面20aとは反対側の他端面20bを構成している。増速機ハウジング23は、底部24を有する筒状(詳細には円筒状)である本体部25と、本体部25の軸線方向において底部24とは反対側に設けられた閉塞部26と、を備える。
【0021】
モータハウジング21と増速機ハウジング23とは、モータハウジング21の開口端が本体部25の底部24に突き合わさった状態で連結されている。モータハウジング21の内面と、本体部25の底部24におけるモータハウジング21側の底面24aとによって、電動モータ13が収容されたモータ収容室S1が形成されている。当該モータ収容室S1には、低速側シャフト11の回転軸線方向とハウジング20の軸線方向とが一致する状態で、低速側シャフト11が収容されている。
【0022】
低速側シャフト11は、回転可能な状態でハウジング20に支持されている。遠心圧縮機10は、第1軸受31を備える。第1軸受31は、モータハウジング21の底部22に設けられており、低速側シャフト11の第1端部11aは、第1軸受31に支持されている。第1端部11aの一部は、第1軸受31を挿通して、モータハウジング21の底部22に挿入されている。
【0023】
本体部25の底部24は、低速側シャフト11の第1端部11aとは反対側の第2端部11bよりも一回り大きく形成された貫通孔27を備える。遠心圧縮機10は、貫通孔27内に第2軸受32、及び、シール部材33を備える。低速側シャフト11の第2端部11bは第2軸受32に支持されている。シール部材33は、増速機ハウジング23内に存在するオイルOがモータ収容室S1に流れるのを規制している。
【0024】
低速側シャフト11の第2端部11bは、本体部25の貫通孔27に挿通されており、低速側シャフト11の一部は、増速機ハウジング23内に配置されている。
電動モータ13は、低速側シャフト11に固定されたロータ41と、ロータ41の外側に配置されるものであってモータハウジング21の内面に固定されたステータ42とを備える。ステータ42は、円筒形状のステータコア43と、ステータコア43に捲回されたコイル44とを備える。コイル44に電流が流れることによって、ロータ41と低速側シャフト11とが一体的に回転する。
【0025】
閉塞部26は、例えば、増速機ハウジング23と同一径の円板状である。増速機ハウジング23は、本体部25の開口端と閉塞部26の軸線方向の両板面26a,26bのうち第1板面26aとが突き合わさった状態で組み付けられている。これにより、閉塞部26の第1板面26aと増速機ハウジング23の内面とによって、増速機構61が収容された増速機室S2が形成されている。
【0026】
増速機ハウジング23を構成する閉塞部26は、増速機構61の一部を構成する高速側シャフト12を挿通可能な挿通孔28を備える。高速側シャフト12の突出部18は、挿通孔28を挿通して、増速機室S2から突出している。第1フランジ部15、第2フランジ部16、及び、支持部17は、増速機室S2内に配置されている。遠心圧縮機10は、挿通孔28の内面と高速側シャフト12との間に、増速機ハウジング23内のオイルOがインペラハウジング50内に流出するのを規制するシール部材34を備える。
【0027】
インペラハウジング50は、軸線方向に貫通したコンプ貫通孔51を有する略筒状である。インペラハウジング50の軸線方向の一端面50bがハウジング20の軸線方向の一端面20aを構成しており、コンプ貫通孔51における上記一端面50b側にある開口が吸入口50aとして機能する。
【0028】
インペラハウジング50と閉塞部26とは、インペラハウジング50の軸線方向の一端面50bとは反対側の他端面50cと、閉塞部26における第1板面26aとは反対側の第2板面26bとが突き合わさった状態で、組み付けられている。これにより、コンプ貫通孔51の内面と閉塞部26の第2板面26bとによって、インペラ52が収容されたインペラ室S3が形成されている。つまり、コンプ貫通孔51は、吸入口50aとして機能するとともに、インペラ室S3を区画するものとして機能する。吸入口50aとインペラ室S3とは連通している。増速機室S2とインペラ室S3との間に位置する閉塞部26は、両者を仕切る仕切壁となる。
【0029】
ここで、コンプ貫通孔51は、吸入口50aから軸線方向の途中位置までは一定の径であり、上記途中位置から閉塞部26に向かうに従って徐々に拡径した略円錐台形状となっている。このため、コンプ貫通孔51の内面によって区画されるインペラ室S3は、略円錐台形状となっている。
【0030】
インペラ52は、基端面52aから先端面52bに向かうに従って徐々に縮径した筒状である。インペラ52は、インペラ52の回転軸線方向に延び、且つ、高速側シャフト12を挿通可能なシャフト挿通孔52cを備える。
【0031】
インペラ52は、高速側シャフト12の突出部18がシャフト挿通孔52cに挿通された状態で、高速側シャフト12と一体回転するように高速側シャフト12に取り付けられている。
【0032】
インペラ52の基端面52aと、閉塞部26の第2板面26bとの間には、背面領域S4が区画されている。高速側シャフト12が回転することによってインペラ52が回転して、吸入口50aから吸入された流体が圧縮される。
【0033】
また、遠心圧縮機10は、インペラ52によって圧縮された流体が流入するディフューザ流路53と、ディフューザ流路53を通った流体が流入する吐出室54とを備える。ディフューザ流路53は、インペラハウジング50におけるコンプ貫通孔51の第2板面26b側の開口端と連続し且つ当該第2板面26bと対向する面と、閉塞部26の第2板面26bとによって区画された流路である。ディフューザ流路53は、インペラ室S3よりも高速側シャフト12の径方向外側に配置されており、インペラ52(及びインペラ室S3)を囲むように環状(詳細には円環状)に形成されている。吐出室54は、ディフューザ流路53よりも高速側シャフト12の径方向外側に配置された環状である。インペラ室S3と吐出室54とはディフューザ流路53を介して連通している。インペラ52によって圧縮された流体は、ディフューザ流路53を通ることによって、更に圧縮されて吐出室54に流れ、当該吐出室54から吐出される。
【0034】
次に、増速機60について説明する。本実施形態の増速機60は、所謂トラクションドライブ式(摩擦ローラ式)である。
図1及び図2に示すように、増速機60の増速機構61は、低速側シャフト11の第2端部11bに連結されたリング部材62を備える。リング部材62は、低速側シャフト11の第2端部11bに連結された円板状のベース63と、当該ベース63の縁部から起立した円環状の環状部64とを備える。環状部64の内径は、低速側シャフト11の第2端部11bの直径よりも長く設定されている。
【0035】
本実施形態において、リング部材62は、ベース63の回転軸線方向(リング部材62の回転軸線方向)と低速側シャフト11の回転軸線方向とが一致するように低速側シャフト11に連結されている。なお、環状部64の回転軸線方向も低速側シャフト11の回転軸線方向と一致している。リング部材62は、低速側シャフト11の回転に伴って回転する。
【0036】
高速側シャフト12の一部は、リング部材62の径方向において、環状部64の内側に配置されている。増速機構61は、高速側シャフト12と環状部64との間に設けられ、環状部64及び高速側シャフト12の双方に当接した3つのローラ71を備える。
【0037】
図3及び図4に示すように、3つのローラ71は同一形状である。各ローラ71は、円柱状のローラ部72と、ローラ部72の回転軸線方向の第1端面72aから突出する円柱状の第1突起73と、ローラ部72の回転軸線方向の第2端面72bから突出する円柱状の第2突起74と、を備える。ローラ部72の第1端面72a及び第2端面72bは、ローラ71の回転軸線方向の両端面となる。
【0038】
第1突起73と第2突起74とは、回転軸線方向の寸法が同一である。ローラ部72の回転軸線方向、第1突起73の回転軸線方向、及び、第2突起74の回転軸線方向は一致している。以下、ローラ部72の回転軸線方向をローラ71の回転軸線方向Zとする。
【0039】
ローラ部72は、円柱状の接触部75と、接触部75から第1端面72aに向けて徐々に直径が小さくなる第1非接触部76と、接触部75から第2端面72bに向けて徐々に直径が小さくなる第2非接触部77とを備える。接触部75の直径(回転軸線方向Zと直交する方向の長さ)は高速側シャフト12の支持部17の直径よりも長く設定されている。第1端面72aは、第1非接触部76の回転軸線方向Zの端面といえる。第2端面72bは、第2非接触部77の回転軸線方向Zの端面といえる。第1端面72aと第2端面72bとの回転軸線方向Zの離間距離は、支持部17の回転軸線方向の寸法よりも若干短い。
【0040】
ローラ部72は、外周面に接触面Aと、第1非接触面B1と、第2非接触面B2とを備える。接触面Aは、接触部75の外周面であり、第1非接触面B1は第1非接触部76の外周面であり、第2非接触面B2は第2非接触部77の外周面である。
【0041】
第1非接触面B1は、接触面Aの縁から第1端面72aまで延びる面である。第1非接触面B1は、径方向の外側に向けて凸となるアール形状(円弧形状)である。第2非接触面B2は、接触面Aの縁から第2端面72bまで延びる面である。第2非接触面B2は、径方向の外側に向けて凸となるアール形状(円弧形状)である。
【0042】
第1非接触面B1の回転軸線方向Zの寸法は、第2非接触面B2の回転軸線方向Zの寸法よりも短い。これにより、接触面Aの回転軸線方向Zの中心位置CP1は、ローラ71の回転軸線方向Zの中心位置CP2よりも第1端面72a寄りとなっている。
【0043】
第1非接触面B1と接触面Aとの境界P1から、第1非接触面B1と第1端面72aとの境界P2までのローラ71の径方向の寸法を第1寸法L1とし、第2非接触面B2と接触面Aとの境界P3から、第2非接触面B2と第2端面72bとの境界P4までのローラ71の径方向の寸法を第2寸法L2とする。第2寸法L2は、第1寸法L1よりも長い。換言すれば、第2非接触部77の最小径である第2端面72bの直径は、第1非接触部76の最小径である第1端面72aの直径よりも短い。各ローラ71は例えば金属で構成されており、詳細には高速側シャフト12と同一金属、例えば鉄又は鉄の合金で構成されている。
【0044】
ローラ部72の回転軸線方向Zと高速側シャフト12の回転軸線方向とは一致している。複数のローラ71は、高速側シャフト12の周方向に間隔を隔てて並んで配置されている。
【0045】
ローラ71は、第1フランジ部15と第2フランジ部16との間に、ローラ部72が入り込むように配置されている。ローラ部72は、第1端面72aが第1フランジ部15に向かい合い、第2端面72bが第2フランジ部16に向かい合うように配置されている。接触面Aを挟んで、第1非接触面B1は第1フランジ部15側、第2非接触面B2は第2フランジ部16側に位置している。また、接触面Aの回転軸線方向Zの中心位置CP1は、ローラ71の回転軸線方向Zの中心位置CP2よりも第1フランジ部15側寄りに位置する。
【0046】
第1非接触面B1が支持部17の周面から離間していることで、支持部17の周面、第1非接触面B1、及び、第1フランジ部15に囲まれる領域には第1隙間C1が区画されている。第2非接触面B2が支持部17の周面から離間していることで、支持部17の周面、第2非接触面B2、及び、第2フランジ部16に囲まれる領域には第2隙間C2が区画されている。第2隙間C2は、第1隙間C1よりも大きい。
【0047】
また、各非接触面B1,B2を設けることで、ローラ部72の外周面の全体を支持部17の周面に接触させる場合に比べて、ローラ部72の外周面と支持部17の周面との接触面積は小さくなっている。したがって、ローラ部72から支持部17に加わる面圧は、ローラ部72の外周面の全体を支持部17の周面に接触させる場合に比べて大きくなっているといえる。
【0048】
ここで、接触面Aの回転軸線方向Zの寸法を過度に短くした場合、面圧が著しく上昇し、高速側シャフト12の塑性変形を招く。詳細にいえば、ローラ71の外周面に外周面が接触する高速側シャフト12は、ローラ71の外周面に内周面が接する環状部64に比べて接触面積が小さくなりやすく、面圧が上昇しやすい。このため、接触面Aの回転軸線方向Zの寸法を過度に小さくすると、面圧が過度に上昇し、塑性変形を招く。
【0049】
更に、高速側シャフト12は、軸受(ベアリング)に支持されておらずローラ71による保持力で支持されていること、ローラ71には製造公差などで微細な寸法差があることなど、遠心圧縮機10には、高速側シャフト12の軸がぶれる要素が数多く存在している。ローラ71と高速側シャフト12の周面との接触面積を過度に小さくすると、インペラ52が回転したときに、高速側シャフト12を安定して支持できないおそれがある。
【0050】
以上の要因から、接触面Aの回転軸線方向Zの寸法は、例えば、支持部17の回転軸線方向Zの寸法の30%〜90%にすることが望ましい。
図1及び図2に示すように、増速機構61は、閉塞部26と協働して各ローラ71を回転可能に支持する支持部材80を備える。支持部材80は環状部64内に配置されている。支持部材80は、環状部64よりも一回り小さく形成された円板状の支持ベース81と、支持ベース81から起立した柱状の3つの柱状部材82とを備える。支持ベース81は、閉塞部26に対して回転軸線方向Zに対向配置されている。3つの柱状部材82は、支持ベース81における閉塞部26の第1板面26aと対向する対向板面81aから閉塞部26に向けて起立しており、環状部64の内周面と、隣り合う2つのローラ部72の外周面とによって区画された3つの空間を埋めるように形成されている。
【0051】
図1及び図2に示すように、支持部材80は、ボルト83が螺合可能なネジ孔84を各柱状部材82に備える。閉塞部26は、ネジ孔84に対応させて、ネジ孔84と連通するネジ穴85を備える。各柱状部材82は、ネジ孔84とネジ穴85とが連通し、且つ、当該各柱状部材82の先端面が第1板面26aに突き合わさった位置に配置されており、その状態でネジ孔84とネジ穴85とに跨るようにボルト83が螺合されることによって閉塞部26に固定されている。
【0052】
増速機60は、ローラ71を回転可能な状態で支持する第1ローラ軸受78及び第2ローラ軸受79を備える。第1ローラ軸受78及び第2ローラ軸受79はベアリングである。第1ローラ軸受78は、閉塞部26に配置されている。第2ローラ軸受79は、支持ベース81に配置されている。ローラ71は、第1ローラ軸受78と第2ローラ軸受79に支持されることで、閉塞部26と支持ベース81との間に配置されている。
【0053】
図2に示すように、ローラ71とリング部材62と高速側シャフト12とは、ローラ部72と高速側シャフト12及び環状部64とが互いに押し付けあっている状態でユニット化されており、高速側シャフト12は、3つのローラ部72によって回転可能に支持されている。ローラ部72の外周面と環状部64の内周面との当接箇所であるリング側当接箇所Pa、及び、ローラ部72の外周面と高速側シャフト12の周面との当接箇所であるシャフト側当接箇所Pbには、押し付け荷重が付与されている。各当接箇所Pa,Pbは、回転軸線方向Zに延びている。
【0054】
図1に示すように、遠心圧縮機10は、増速機構61にオイルOを供給するためのオイル供給機構100を備える。オイル供給機構100は、ポンプ101と、オイル流路102とを備え、ポンプ101の駆動によりオイル流路102を通じて増速機室S2にオイルOを循環させるものである。
【0055】
ポンプ101は、モータハウジング21の底部22に設けられている。本実施形態のポンプ101は、容積型である。ポンプ101は、底部22に設けられた収容部103と、回転体104とを備える。回転体104には、低速側シャフト11の第1端部11aが連結されている。
【0056】
ハウジング20は、オイル流路102の一部となる供給路105と、オイル流路102の一部となる循環路106とを備える。供給路105は、収容部103と、リング部材62内とを繋いでいる。循環路106は、増速機室S2と収容部103とを繋いでいる。遠心圧縮機10は、増速機ハウジング23における循環路106の連通する箇所が鉛直方向下方に位置する態様で使用される。したがって、増速機ハウジング23内においては、循環路106が連通する箇所に重力によってオイルOが貯留されることになる。
【0057】
そして、ポンプ101が駆動されると、循環路106→収容部103→供給路105の順にオイルOが流れ、リング部材62内にオイルOが供給される。
次に、本実施形態の遠心圧縮機10の作用について説明する。
【0058】
電動モータ13の駆動に伴いローラ71が回転すると、リング側当接箇所Pa及びシャフト側当接箇所Pbにて、固化されたオイルOの薄膜(弾性流体潤滑膜(EHL))が形成される。換言すれば、ローラ部72の外周面と環状部64の内周面とはオイルOの薄膜を介して接する。同様に、高速側シャフト12の周面とローラ部72の外周面とは固化されたオイルOの薄膜を介して接する。そして、ローラ71の回転力が、高速側シャフト12の周面とローラ部72の外周面との間に形成された固化されたオイルOの薄膜を介して高速側シャフト12に伝達され、その結果、高速側シャフト12が回転することとなる。環状部64は、低速側シャフト11と同一速度で回転し、各ローラ71は低速側シャフト11よりも高速で回転する。更に、ローラ部72よりも径が短い高速側シャフト12は、ローラ部72よりも高速で回転する。以上のことから、増速機60によって、高速側シャフト12が低速側シャフト11よりも高速で回転する。
【0059】
上記したように、トラクションドライブ式の増速機60においては、各当接箇所Pa,Pbにて、オイルOを固化させて、固化されたオイルOの薄膜によって低速側シャフト11の回転力が高速側シャフト12に伝わることになる。オイルOを固化させるためには、ローラ71から環状部64の内面、及び、高速側シャフト12の周面に加わる面圧を上げることが望ましい。本実施形態では、各非接触面B1,B2を設けることで、ローラ部72と高速側シャフト12の周面との接触面積を小さくしている。このため、非接触面B1,B2を設けない場合に比べて面圧は上昇している。このため、各当接箇所Pa,PbでオイルOが固化しやすい。
【0060】
仮に、ローラ部72の回転軸線方向Zの全体寸法を短くした場合には、高速側シャフト12が傾いたときの支点が第2フランジ部16側に寄る。すると、高速側シャフト12が傾いたときに、突出部18の移動量が多くなり、インペラ52がインペラハウジング50の内面に当たりやすい。
【0061】
これに対し、本実施形態では、ローラ部72の回転軸線方向Zの寸法を短くすることなく、非接触面B1,B2を設けることで接触面積を小さくしているため、面圧を上げることに加えて、高速側シャフト12の傾きによるインペラ52の接触も抑制することができる。
【0062】
図5に示すように、第1非接触面B1、及び、第2非接触面B2を備えるローラ71において、接触面Aの回転軸線方向Zの中心位置CP11と、ローラ71の回転軸線方向Zの中心位置CP12とを一致させた場合には、第1非接触面B1と第2非接触面B2の面積が同一となる。結果として、第1隙間C11と第2隙間C12とが同じ大きさとなる。
【0063】
これに対し、本実施形態のように、接触面Aの回転軸線方向Zの中心位置CP1をローラ71の回転軸線方向Zの中心位置CP2よりも第1フランジ部15に寄せることで、第2隙間C2を第1隙間C1よりも大きくすることができる。これにより、第2隙間C2には第1隙間C1に比べてオイルOが入り込みやすく、第1フランジ部15に供給されるオイルOに比べて、第2フランジ部16に供給されるオイルOの量は多くなる。
【0064】
ここで、遠心圧縮機10においては、インペラ52の基端面52aと閉塞部26との接触を防ぐ必要がある関係上、インペラ52の基端面52aと閉塞部26との間に背面領域S4が区画される。この背面領域S4にはインペラ52によって圧縮された流体が入り込む。すると、圧縮された流体によってインペラ52が吸入口50a側に向けて押され、高速側シャフト12には、増速機室S2からインペラ室S3に向かう方向へのスラスト力が作用する。このスラスト力によって、第2フランジ部16は各ローラ部72の第2端面72bに押し付けられるため、第2フランジ部16は第1フランジ部15に比べて発熱しやすく、摩耗しやすい。この第2フランジ部16にオイルOを供給しやすくすることで、第2フランジ部16の摩耗を抑制している。
【0065】
また、各当接箇所Pa,Pbでは、摩擦による熱が生じるため、シャフト側当接箇所Pbでも熱が生じることになる。接触面Aの回転軸線方向Zの中心位置CP1を第1フランジ部15寄りにすることで、シャフト側当接箇所Pbで生じた熱が第2フランジ部16に伝わりにくい。結果として、摩耗しやすい第2フランジ部16に熱が伝わるのを抑制することができ、第2フランジ部16の摩耗をより抑制することができる。
【0066】
したがって、上記実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)接触面Aの回転軸線方向Zの中心位置CP1をローラ71の回転軸線方向Zの中心位置CP2よりも第1フランジ部15寄りとしている。これにより、第2隙間C2は第1隙間C1よりも大きくなっており、第1フランジ部15よりも発熱しやすい第2フランジ部16にオイルOが供給されやすい。このため、第2フランジ部16が摩耗しにくく、第2フランジ部16と第2端面72bとの間に隙間が生じにくい。これにより、第2フランジ部16と第2端面72bとの隙間を原因として、高速側シャフト12が回転軸線方向へ移動したり、高速側シャフト12が傾くことを抑制することができる。即ち、高速側シャフト12を安定して支持することができる。
【0067】
(2)また、接触面Aは、第2フランジ部16よりも第1フランジ部15に寄っている。このため、シャフト側当接箇所Pbで生じた熱が第2フランジ部16に伝わりにくく、第2フランジ部16の摩耗を更に抑制することができる。
【0068】
(3)非接触面B1,B2を設けることで、ローラ部72の回転軸線方向Zの寸法を短くすることなく、オイルOを固化させるための面圧を確保することができる。このため、ローラ部72の回転軸線方向Zの全体寸法を短くすることを原因として、インペラ52がインペラハウジング50の内面に接触することが抑止されている。
【0069】
(4)増速機60を備える遠心圧縮機10においては、高速側シャフト12の軸がぶれる要素が数多く存在している。接触面Aの回転軸線方向Zの寸法を過度に短くしていないため、高速側シャフト12を安定して支持することができる。
【0070】
(5)第2寸法L2を第1寸法L1よりも長くしている。これにより、第2フランジ部16において、第2隙間C2に露出する面積を大きくすることができる。第2フランジ部16にオイルOが接しやすく、第2フランジ部16の摩耗をより抑制することができる。このため、高速側シャフト12をより安定して支持することができる。
【0071】
なお、実施形態は以下のように変更してもよい。
図6に示すように、第2隙間C2を大きくするために、第2寸法L2を大きくする場合、第2端面72bと第2フランジ部16とが対向するように第2フランジ部16の径方向の寸法を大きくしてもよい。
【0072】
○第1寸法L1と第2寸法L2とは同一であってもよい。この場合、図7に示すように、第1非接触面B1と接触面Aとの境界P1から第1非接触面B1と第1端面72aとの境界P2までの回転軸線方向Zの寸法を第3寸法L3とし、第2非接触面B2と接触面Aとの境界P3から第2非接触面B2と第2端面72bとの境界P4までの回転軸線方向Zの寸法を第4寸法L4とした場合、第4寸法L4を第3寸法L3より長くする。この場合も、第2隙間C2は、第1隙間C1よりも大きく、第2フランジ部16にオイルOが供給されやすい。
【0073】
○非接触面B1,B2は、円弧状でなくてもよく、接触面Aの縁から各端面72a,72bまで直線状に延びるテーパ面であってもよい。
○ポンプは、遠心圧縮機10に内蔵されていなくてもよく、外部ポンプを用いてもよい。
【0074】
○ローラ71の数は複数であればよく、適宜変更してもよい。例えば、4つや5つにしてもよい。
○増速機60として、くさび作用を利用したものを用いてもよい。この場合、ローラ71のうち少なくとも1つは、リング部材62の回転により移動する可動ローラが用いられる。
【0075】
○遠心圧縮機10の適用対象及び圧縮対象の流体は任意である。例えば、遠心圧縮機10は空調装置に用いられていてもよく、圧縮対象の流体は冷媒であってもよい。また、遠心圧縮機10の搭載対象は、車両に限られず任意である。
【0076】
○第1フランジ部15と第2フランジ部16の形状は、適宜変更してもよい。例えば、六角環状や四角環状にしてもよい。
【符号の説明】
【0077】
A…接触面、B1…第1非接触面、B2…第2非接触面、L1…第1寸法、L2…第2寸法、10…遠心圧縮機、11…低速側シャフト、12…高速側シャフト、15…第1フランジ部、16…第2フランジ部、50…インペラハウジング、71…ローラ、72a…第1端面、72b…第2端面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7