(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
駆動側の第1プーリと、従動側の第2プーリと、サドル面を有する胴部および前記サドル面の幅方向における両側に位置するように前記胴部から延出された一対のピラー部を含む複数のエレメント、および前記複数のエレメントの前記一対のピラー部間に配置されるリングを有すると共に前記第1および第2プーリのV字状溝に巻き掛けられる伝動ベルトとを含む無段変速機において、
前記第1および第2プーリの一方の溝幅が最小である際に、該第1および第2プーリの一方に巻き掛かっている前記リングの厚み方向における少なくとも一部が、前記第1および第2プーリの一方の前記V字状溝の表面の最外周よりも径方向外側に突出し、
前記エレメントは、前記V字状溝の前記表面に接触する一対のトルク伝達面を含み、
前記トルク伝達面は、前記V字状溝の前記表面の前記最外周よりも径方向外側に突出しない無段変速機。
サドル面を有する胴部および前記サドル面の幅方向における両側に位置するように前記胴部から延出された一対のピラー部を含む複数のエレメントと、前記複数のエレメントの前記一対のピラー部間に配置されるリングとを有すると共に無段変速機の第1および第2プーリのV字状溝に巻き掛けられる伝動ベルトにおいて、
前記第1および第2プーリの一方の溝幅が最小である際に、該第1および第2プーリの一方に巻き掛かっている前記リングの厚み方向における少なくとも一部が、前記第1および第2プーリの一方の前記V字状溝の表面の最外周よりも径方向外側に突出し、
前記エレメントは、前記V字状溝の前記表面に接触する一対のトルク伝達面を含み、
前記トルク伝達面は、前記V字状溝の前記表面の前記最外周よりも径方向外側に突出しない伝動ベルト。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
図1は、本開示の無段変速機(CVT)1を示す概略構成図である。同図に示す無段変速機1は、車両に搭載されるものであり、駆動側回転軸としてのプライマリシャフト(第1シャフト)2と、当該プライマリシャフト2に設けられたプライマリプーリ(第1プーリ)3と、プライマリシャフト2と平行に配置される従動側回転軸としてのセカンダリシャフト(第1シャフト)4と、当該セカンダリシャフト4に設けられたセカンダリプーリ(第2プーリ)5と、伝動ベルト10とを含む。図示するように、伝動ベルト10は、プライマリプーリ3のプーリ溝(V字状溝)とセカンダリプーリ5のプーリ溝(V字状溝)とに巻き掛けられる。
【0011】
プライマリシャフト2は、車両のエンジン(内燃機関)といった動力発生源に連結されたインプットシャフト(図示省略)に図示しない前後進切換機構を介して連結される。プライマリプーリ3は、プライマリシャフト2と一体に形成された固定シーブ3aと、ボールスプライン等を介してプライマリシャフト2により軸方向に摺動自在に支持される可動シーブ3bとを含む。また、セカンダリプーリ5は、セカンダリシャフト4と一体に形成された固定シーブ5aと、ボールスプライン等を介してセカンダリシャフト4により軸方向に摺動自在に支持されると共にリターンスプリング8により軸方向に付勢される可動シーブ5bとを含む。
【0012】
更に、無段変速機1は、プライマリプーリ3の溝幅を変更するための油圧式アクチュエータであるプライマリシリンダ6と、セカンダリプーリ5の溝幅を変更するための油圧式アクチュエータであるセカンダリシリンダ7とを含む。プライマリシリンダ6は、プライマリプーリ3の可動シーブ3bの背後に形成され、セカンダリシリンダ7は、セカンダリプーリ5の可動シーブ5bの背後に形成される。プライマリシリンダ6とセカンダリシリンダ7とには、プライマリプーリ3とセカンダリプーリ5との溝幅を変化させるべく図示しない油圧制御装置から作動油が供給される。また、セカンダリシャフト4は、ギヤ機構、デファレンシャルギヤおよびドライブシャフトを介して車両の駆動輪(何れも図示省略)に連結される。
【0013】
本実施形態において、プライマリシャフト2のエンジン側とは反対側の端部(
図1における左側の端部)には、段部が形成されている。そして、当該段部とプライマリシリンダ6のプライマリピストン60との間には、プライマリプーリ3の可動シーブ3bのエンジン側とは反対側の端部(
図1における左側の端部)と当接可能となるように、環状のエンドプレート65が介設されている。更に、プライマリシャフト2には、可動シーブ3bの内周面に形成されたスプライン歯3sの固定シーブ3a側の端部と当接可能となるようにストッパ部2sが形成されている。
【0014】
図2は、伝動ベルト10を示す部分断面図である。同図に示すように、伝動ベルト10は、弾性変形可能な複数(本実施形態では、例えば9個)のリング材11を厚み方向(リング径方向)に積層することにより構成された1個の積層リング12と、1個のリテーナリング15と、積層リング12の内周面に沿って環状に配列(結束)される複数(例えば、数百個)のエレメント20とを含む。
【0015】
積層リング12を構成する複数のリング材11は、それぞれ鋼板製のドラムから切り出された弾性変形可能なものであって、概ね同一の厚みおよびそれぞれについて予め定められた異なる周長を有するように加工されている。リテーナリング15は、例えば鋼板製のドラムから切り出された弾性変形可能なものであり、リング材11と概ね同一若しくはそれよりも薄い厚みを有する。また、リテーナリング15は、積層リング12の最外層リング材11oの外周長よりも長い内周長を有する。これにより、積層リング12とリテーナリング15とが同心円状に配置された状態(張力が作用しない無負荷状態)では、
図2に示すように、最外層リング材11oの外周面とリテーナリング15の内周面との間に、環状のクリアランスが形成される。
【0016】
各エレメント20は、例えばプレス加工により鋼板から打ち抜かれたものであり、
図2に示すように、図中水平に延びる胴部21と、当該胴部21の両端部から同方向に延出された一対のピラー部22と、各ピラー部22の遊端側に開口するように一対のピラー部22の間に画成された単一のリング収容部(凹部)23とを有する。一対のピラー部22は、リング収容部23の底面であるサドル面23sの幅方向における両側から積層リング12の径方向における外側(伝動ベルト10(積層リング12)の内周側から外周側に向かう方向、すなわち図中上方)に延出されており、各ピラー部22の遊端部には、サドル面23sの幅方向に突出するフック部22fが形成されている。
【0017】
一対のフック部22fは、積層リング12(リング材11)の幅よりも若干長く、かつリテーナリング15の幅よりも短い間隔をおいて互いに対向する。また、エレメント20の各ピラー部22は、積層リング12の径方向における外側に向かうにつれてサドル面23sから離間するように傾斜した平坦な内面22iを有し、サドル面23sと各ピラー部22の内面22iとの間には、両者に滑らかに連続する凹曲面(例えば、凹円柱面)が形成されている。
【0018】
リング収容部23内には、
図2に示すように、積層リング12が配置され、当該リング収容部23のサドル面23sは、積層リング12すなわち最内層のリング材11の内周面に接触する。サドル面23sは、幅方向における中央部を頂部Tとして幅方向外側に向かうにつれて図中下方に緩やかに傾斜した左右対称の凸曲面形状(クラウニング形状)を有する。これにより、サドル面23sとの摩擦により積層リング12に頂部Tに向かう求心力を付与して、当該積層リング12をセンタリングすることが可能となる。ただし、サドル面23sは、積層リング12の径方向における外側に湾曲する凸曲面を複数含むものであってもよい。
【0019】
更に、リング収容部23内には、弾性変形させられたリテーナリング15が各エレメント20の一対のフック部22fの間から嵌め込まれる。リテーナリング15は、積層リング12の最外層リング材11oの外周面と各エレメント20のフック部22fとの間に配置されて当該積層リング12を包囲し、一対のピラー部22と共に、各エレメント20が積層リング12から脱落したり、エレメント20から積層リング12が脱落したりするのを規制する。これにより、複数のエレメント20は、積層リング12の内周面に沿って環状に結束(配列)される。本実施形態において、リテーナリング15には、図示しない単一または複数の開口(長穴)が形成されており、これにより、リテーナリング15を弾性変形し易くしてエレメント20に対する組付性を確保することができる。
【0020】
図2に示すように、エレメント20の正面(一方の表面)には、一対のロッキングエッジ部(接触領域)25、非接触部27、テーパ面(傾斜面)21s、および1個の突起(ディンプル)21pが形成されている。一対のロッキングエッジ部25は、それぞれ対応するピラー部22と胴部21とに跨がるようにサドル面23sの幅方向に間隔をおいてエレメント20の正面に形成されている。また、非接触部27は、一対のロッキングエッジ部25の上記幅方向における間に形成されている。更に、テーパ面21sは、非接触部27および一対のロッキングエッジ部25から各ピラー部22の突出方向と反対側、すなわちベルト内周側(
図2における下側)に延在するように胴部21の正面(一方の表面)に形成されている。突起21pは、胴部21の正面の幅方向における中央部でテーパ面21sから突出する。
【0021】
本実施形態において、各ロッキングエッジ部25および非接触部27よりもベルト外周側に位置するエレメント20の正面(主にピラー部22の正面)と、エレメント20の背面(他方の表面)とは、
図3に示すように、それぞれ平坦に形成されており、エレメント20のピラー部22は、一定の厚みteを有する。また、各ロッキングエッジ部25および非接触部27よりもベルト内周側(
図2および
図3における下側)に位置するテーパ面21sは、
図3に示すように、ピラー部22から離間するにつれて(ベルト内周側に向かうにつれて)背面(裏面)に近接する。更に、エレメント20(胴部21)の背面には、突起21pの裏側に位置するように窪み部21rが形成されている。伝動ベルト10が組み立てられた際、当該窪み部21rには、隣り合うエレメント20の突起21pが遊嵌される。
【0022】
各ロッキングエッジ部25は、短尺帯状の凸曲面であり、本実施形態では、予め定められた曲率半径を有すると共に径方向に幅をもった円柱面(曲面)とされている。各ロッキングエッジ部25は、隣り合うエレメント20同士を接触させて両者の回動の支点となる接触線25c(
図3参照)を含むものであり、接触線25cの位置は、無段変速機1の変速比γに応じてロッキングエッジ部25の範囲内で変動する。本実施形態において、ロッキングエッジ部25の径方向外側(図中上側すなわちピラー部22側)の端部は、サドル面23sの径方向外側に位置し、ロッキングエッジ部25の径方向内側(図中下側すなわちテーパ面21s側)の端部は、サドル面23sの径方向内側に位置する。
【0023】
また、非接触部27は、サドル面23sで開口すると共に当該サドル面23sに沿って幅方向に延在して一対のロッキングエッジ部25を分断するように胴部21の正面(一方の表面)に形成された帯状の凹部である。非接触部27の表面(底面)は、各ロッキングエッジ部25の表面よりも背面側に窪んでおり、これにより、サドル面23sの厚みは、ピラー部22の厚みteよりも小さくなる。また、非接触部27(凹部)の隅部や、非接触部27を画成する胴部21のエッジ部には、面取り加工等によりR形状が付与されている。このような非接触部27を各エレメント20に形成することで、伝動ベルト10では、隣り合うエレメント20とのロッキングエッジ部25以外での接触、すなわち隣り合うエレメント20と非接触部27との接触を良好に抑制することが可能となる。この結果、大きなモーメントが作用するエレメント20の幅方向における中央部からの荷重が隣り合うエレメント20に加えられて当該エレメント20が変形するのを抑制し、各エレメント20の耐久性をより向上させることが可能となる。
【0024】
また、エレメント20は、積層リング12の内周側から外周側(積層リング12の径方向における外側)に向かうにつれて互いに離間するように形成された一対の側面20sを有する。
図2に示すように、各側面20sは、ピラー部22側すなわち当該ピラー部22の内面22iの反対側(外側)に位置する第1側面20saと、第1側面20saに連続するように形成されて当該第1側面20saよりも積層リング12の径方向における内側に位置する第2側面20sbとを含む。本実施形態において、一対の第1側面20saは、第2側面20sbと同様に、積層リング12の径方向における外側に向かうにつれて互いに離間するように形成される。これにより、各ピラー部22の強度を良好に確保することができる。
【0025】
更に、一対の第2側面20sbがなす角度θbは、
図2に示すように、プライマリプーリ3やセカンダリプーリ5のプーリ溝の開き角度θ0と概ね等しく(本実施形態では、開き角度θ0の設計値よりも僅かに大きく)なるように定められ、かつ一対の第1側面20saがなす角度θaは、一対の第2側面20sbがなす角度θbよりも小さく定められている。これにより、エレメント20の第2側面20sbは、プライマリプーリ3のプーリ溝やセカンダリプーリ5のプーリ溝の表面に摩擦接触してプーリ3,5からの挟圧力を受け、摩擦力によりプライマリプーリ3からセカンダリプーリ5へとトルクを伝達するトルク伝達面(フランク面)となる。これに対して、一対の第1側面20saは、伝動ベルト10によってプライマリプーリ3からセカンダリプーリ5へとトルクが伝達される際、基本的に、プーリ溝の表面に接触しないことになる。また、本実施形態において、各第2側面20sbの表面には、各エレメント20とプライマリプーリ3やセカンダリプーリ5との接触部を潤滑・冷却するための作動油を保持するための図示しない凹凸(複数の溝)が形成されている。
【0026】
次に、
図2、
図4および
図5を参照しながら、上述の無段変速機1の動作について説明する。
【0027】
無段変速機1を搭載した車両の走行に際して、プライマリシリンダ6には、図示しない油圧制御装置から車両のアクセル開度(スロットル開度)、車速およびエンジン回転数から定まる当該無段変速機1の目標変速比に応じた油圧が供給される。また、セカンダリシリンダ7には、当該油圧制御装置から伝動ベルト10の滑りが抑制されるように調圧された油圧が供給される。これにより、車両のエンジン(動力発生源)からインプットシャフトや前後進切換機構を介してプライマリシャフト2に伝達されたトルクを無段階に変速してセカンダリシャフト4に出力することが可能となる。
【0028】
また、車両の発進時等には、プライマリシリンダ6およびセカンダリシリンダ7への油圧の調整によりプライマリプーリ3の可動シーブ3bが固定シーブ3aから離間し、当該可動シーブ3bのエンジン側とは反対側の端部(
図1における左側の端部)がエンドプレート65に当接することで、プライマリシャフト2に対する可動シーブ3bの固定シーブ3aから離間する方向への移動が規制される。これにより、可動シーブ3bの端部がエンドプレート65に当接した際、プライマリプーリ3のプーリ溝の幅が最大になり、それに伴って伝動ベルト10によりセカンダリプーリ5のプーリ溝の幅が最小に設定されることで、無段変速機1の変速比γが最大になる。
【0029】
ここで、無段変速機1では、伝動ベルト10によりプライマリプーリ3からセカンダリプーリ5にトルクが伝達される際にエレメント20のリング収容部23がプライマリプーリ3やセカンダリプーリ5の外周よりも径方向外側に突出したとしても、一対のピラー部22やリテーナリング15によってエレメント20から積層リング12が脱落するのを規制することができる。これを踏まえて、無段変速機1の諸元(プーリ3,5の外径や伝動ベルト10の周長等)は、プライマリプーリ3のプーリ溝の幅が最大になり、かつセカンダリプーリ5のプーリ溝の幅が最小になって変速比γが最大になる際に、
図2および
図4に示すように、セカンダリプーリ5に巻き掛かっている積層リング12の厚み方向における概ね全体が当該セカンダリプーリ5(固定シーブ5aおよび可動シーブ5b)のプーリ溝の表面の最外周Xよりも径方向外側に突出するように定められる。これにより、セカンダリプーリ5に対する伝動ベルト10の最大巻き掛け半径をより大きくすることができるので、無段変速機1の変速比幅をより大きくすることが可能となる。
【0030】
一方、プライマリシリンダ6およびセカンダリシリンダ7への油圧の調整により可動シーブ3bの内周面に形成されたスプライン歯3sの固定シーブ3a側の端部がプライマリシャフト2に形成されたストッパ部2sに当接すると、プライマリシャフト2に対する可動シーブ3bの固定シーブ3aに接近する方向への移動が規制される。可動シーブ3bのスプライン歯3sの端部がプライマリシャフト2のストッパ部2sに当接した際、プライマリプーリ3のプーリ溝の幅が最小になり、それに伴って伝動ベルト10によりセカンダリプーリ5のプーリ溝の幅が最大に設定されることで、無段変速機1の変速比γが最小になる。そして、本実施形態の無段変速機1の諸元(プーリ3,5の外径や伝動ベルト10の周長等)は、プライマリプーリ3のプーリ溝の幅が最小になり、かつセカンダリプーリ5のプーリ溝の幅が最大になって変速比γが最小になる際に、
図2および
図5に示すように、プライマリプーリ3に巻き掛かっている積層リング12の概ね全体が当該プライマリプーリ3(固定シーブ3aおよび可動シーブ3b)のプーリ溝の表面の最外周Xよりも径方向外側に突出するように定められる。これにより、プライマリプーリ3に対する伝動ベルト10の最大巻き掛け半径をより大きくすることができるので、無段変速機1の変速比幅をより大きくすることが可能となる。
【0031】
このように、無段変速機1では、プライマリプーリ3およびセカンダリプーリ5の一方のプーリ溝の幅が最小である際に、当該プライマリプーリ3およびセカンダリプーリ5の一方に巻き掛かっている積層リング12の厚み方向における概ね全体がプライマリプーリ3およびセカンダリプーリ5のプーリ溝の表面の最外周Xよりも径方向外側に突出する。この結果、プライマリプーリ3およびセカンダリプーリ5に対する伝動ベルトの最大巻き掛け半径をより大きくすることができるので、無段変速機1の変速比幅をより一層大きくすることが可能となる。なお、本実施形態において、プライマリプーリ3やセカンダリプーリ5のプーリ溝の表面は、円錐面であり、当該プーリ溝の表面の最外周Xは、当該プーリ溝の表面(円錐面)と固定シーブ3a,5aおよび可動シーブ3b,5bのエッジ部に形成された面取り部との境界となる。
【0032】
また、本実施形態において、無段変速機1は、プライマリプーリ3のプーリ溝の幅が最大になり、かつセカンダリプーリ5のプーリ溝の幅が最小になって変速比γが最大になる際に、セカンダリプーリ5に巻き掛かっているエレメント20同士の接触線25cが当該セカンダリプーリ5のプーリ溝の表面の最外周Xよりも径方向外側に位置しないように、好ましくは最外周Xあるいはそれよりも若干径方向内側に定められた実用上の最外周と同径上に位置するように構成される。更に、無段変速機1は、プライマリプーリ3のプーリ溝の幅が最小になり、かつセカンダリプーリ5のプーリ溝の幅が最大になって変速比γが最小になる際に、プライマリプーリ3に巻き掛かっているエレメント20同士の接触線25cが当該プライマリプーリ3のプーリ溝の表面の最外周Xよりも径方向外側に位置しないように、好ましくは最外周Xあるいはそれよりも若干径方向内側に定められた実用上の最外周と同径上に位置するように構成される。
【0033】
すなわち、無段変速機1において、プライマリプーリ3およびセカンダリプーリ5の一方のプーリ溝の幅が最小になった際、エレメント20のロッキングエッジ部25よりもベルト外周側に位置する面(主にピラー部22の正面)と当該ロッキングエッジ部25との境界線が最外周Xを超えて径方向外側に位置することはない。これにより、エレメント20同士の接触線25cをより径方向外側に位置させてセカンダリプーリ5に対する伝動ベルト10の最大巻き掛け半径をより大きくしつつ、隣り合うエレメント20から接触線25cを介して押されたエレメント20に作用するピッチング方向のモーメント(
図3における矢印参照)を低減化することが可能となる。
【0034】
更に、無段変速機1において、各エレメント20の側面20sは、伝動ベルト10によってプライマリプーリ3からセカンダリプーリ5へとトルクが伝達される際に、基本的にプーリ溝の表面に接触しない第1側面20saと、プライマリプーリ3およびセカンダリプーリ5からの挟圧力を受けて摩擦力によりトルクを伝達するトルク伝達面となる第2側面20sbとを含む。これにより、無段変速機1の変速比γが変更されても、各エレメント20とプーリ溝の表面との接触面積を一定に保つことができるので、荷重中心が変化することによる各エレメント20の挙動の悪化を抑制することが可能となる。
【0035】
なお、上記無段変速機1では、可動シーブ3bの端部がプライマリシャフト2に対して固定されたエンドプレート65に当接してプライマリシャフト2に対する可動シーブ3bの固定シーブ3aから離間する方向への移動が規制されることで、伝動ベルト10を介してセカンダリプーリ5のプーリ溝の幅が最小に設定されるが、これに限られるものではない。すなわち、セカンダリプーリ5のプーリ溝の幅は、可動シーブ5bの端部がセカンダリシャフト4に形成された図示しないストッパ部に当接して当該セカンダリシャフト4に対する可動シーブ5bの固定シーブ5aに接近する方向への移動が規制されることで、最小に設定されてもよい。また、プライマリシリンダ6およびセカンダリシリンダ7へ供給される油圧を調整して両者の可動シーブ3b,5bの位置を無段変速機1において予め定められた限界位置とすることで、セカンダリプーリ5のプーリ溝の幅が最小に設定されてもよい。
【0036】
更に、上記無段変速機1では、可動シーブ3bのスプライン歯3sの端部がプライマリシャフト2に形成されたストッパ部2sに当接してプライマリシャフト2に対する可動シーブ3bの固定シーブ3aに接近する方向への移動が規制されることで、プライマリプーリ3のプーリ溝の幅が最小に設定されるが、これに限られるものではない。すなわち、プライマリプーリ3のプーリ溝の幅は、可動シーブ5bの端部がセカンダリシャフト4に対して固定された図示しないエンドプレート(あるいはセカンダリピストン)に当接してセカンダリシャフト4に対する可動シーブ5bの固定シーブ5aから離間する方向への移動が規制されることで、最小に設定されてもよい。そして、プライマリシリンダ6およびセカンダリシリンダ7へ供給される油圧を調整して両者の可動シーブ3b,5bの位置を無段変速機1において予め定められた限界位置とすることで、プライマリプーリ3のプーリ溝の幅が最小に設定されてもよい。
【0037】
また、無段変速機1では、プライマリプーリ3およびセカンダリプーリ5の一方のプーリ溝の幅が最小である際に、当該プライマリプーリ3およびセカンダリプーリ5の一方に巻き掛かっている積層リング12の厚み方向における概ね全体がプライマリプーリ3およびセカンダリプーリ5の一方のプーリ溝の表面の最外周Xよりも径方向外側に突出するが、これに限られるものではない。すなわち、プライマリプーリ3およびセカンダリプーリ5の一方のプーリ溝の幅が最小である際に、当該プライマリプーリ3およびセカンダリプーリ5の一方に巻き掛かっている積層リング12の少なくとも最外層リング材11oが上記最外周Xよりも径方向外側に突出してもよく、積層リング12の全体が最外周Xよりも径方向外側に突出してもよい。また、プライマリプーリ3およびセカンダリプーリ5の一方のプーリ溝の幅が最小である際に、当該プライマリプーリ3およびセカンダリプーリ5の一方に巻き掛かっている積層リング12の外周側における半数程度のリング材11が上記最外周Xよりも径方向外側に突出してもよい。
【0038】
更に、無段変速機1では、変速比γが最小である際にプライマリプーリ3のプーリ溝の幅が最小になるが、プライマリプーリ3のプーリ溝の幅は、無段変速機1の変速比γが最小ではない際に最小になってもよい。また、無段変速機1では、変速比γが最大である際にセカンダリプーリ5のプーリ溝の幅が最小になるが、セカンダリプーリ5のプーリ溝の幅は、無段変速機1の変速比γが最大ではない際に最小になってもよい。そして、これらの場合、無段変速機1は、プライマリシャフト2およびセカンダリシャフト4が選択的にインプットシャフトに連結されると共に、プライマリシャフト2およびセカンダリシャフト4が選択的に車両のドライブシャフトに連結されるように構成されてもよい。
【0039】
加えて無段変速機1の伝動ベルト10では、各エレメント20に一対のフック部22fが設けられると共に、積層リング12と複数のエレメント20のフック部22fとの間にリテーナリング15が配置されるが、これに限られるものではない。すなわち、伝動ベルト10の各エレメント20からフック部22fが省略されてもよく、当該伝動ベルト10からリテーナリング15が省略されてもよい。
【0040】
以上説明したように、本開示の無段変速機は、駆動側の第1プーリ(3)と、従動側の第2プーリ(5)と、サドル面(23s)を有する胴部(21)および前記サドル面(23s)の幅方向における両側に位置するように前記胴部(21)から延出された一対のピラー部(22)を含む複数のエレメント(20)、および前記複数のエレメント(20)の前記一対のピラー部(22)間に配置されるリング(12)を有すると共に前記第1および第2プーリ(3,5)のV字状溝に巻き掛けられる伝動ベルト(10)とを含む無段変速機(1)において、前記第1および第2プーリ(3,5)の一方の溝幅が最小である際に、該第1および第2プーリ(3,5)の一方に巻き掛かっている前記リング(12)の厚み方向における少なくとも一部が、前記第1および第2プーリ(3,5)の一方の前記V字状溝の表面の最外周(X)よりも径方向外側に突出するものである。
【0041】
本開示の無段変速機では、伝動ベルトにより第1プーリから第2プーリに動力が伝達される際に、一対のピラー部によってエレメントからリングが脱落するのを規制することができる。これにより、第1および第2プーリの一方の溝幅が最小である際に、当該第1および第2プーリの一方に巻き掛かっているリングの厚み方向における少なくとも一部を第1および第2プーリの一方のV字状溝の表面の最外周よりも径方向外側に突出させることが可能となる。この結果、第1プーリや第2プーリに対する伝動ベルトの最大巻き掛け半径をより大きくすることができるので、無段変速機の変速比幅をより大きくすることが可能となる。
【0042】
また、前記第1プーリ(3)は、第1シャフト(2)に一体化された固定シーブ(3a)と、前記第1シャフト(2)により軸方向に摺動自在に支持される可動シーブ(3b)とを含んでもよく、前記第1シャフト(2)に対する前記可動シーブ(3b)の前記固定シーブ(3a)から離間する方向への移動が規制された際に、前記第2プーリ(5)の溝幅が最小になってもよい。この場合、前記可動シーブ(3b)の一部が前記第1シャフト(2)の一部または該第1シャフト(2)に固定された部材(65)に当接することで、前記第1シャフト(2)に対する前記可動シーブ(3b)の前記固定シーブ(3a)から離間する方向への移動が規制されてもよい。
【0043】
更に、前記第1プーリ(3)は、第1シャフト(2)に一体化された固定シーブ(3a)と、前記第1シャフト(2)により軸方向に摺動自在に支持される可動シーブ(3b)とを含んでもよく、前記第1シャフト(2)に対する前記可動シーブ(3b)の前記固定シーブ(3a)に接近する方向への移動が規制された際に、前記第1プーリ(3)の溝幅が最小になってもよい。この場合、前記第1プーリ(3)の前記可動シーブ(3b)の一部(3s)が前記第1シャフト(2)の一部(2s)に当接することで、前記第1シャフト(2)に対する前記可動シーブ(3b)の前記固定シーブ(3a)に接近する方向への移動が規制されてもよい。
【0044】
また、前記無段変速機(1)の変速比(γ)が最大である際に、前記第2プーリ(5)の溝幅が最小になってもよい。これにより、無段変速機の変速比幅をより一層大きくすることが可能となる。
【0045】
更に、前記無段変速機(1)の変速比(γ)が最小である際に、前記第1プーリ(3)の溝幅が最小になってもよい。これにより、無段変速機の変速比幅をより一層大きくすることが可能となる。
【0046】
また、前記エレメント(20)は、該エレメント(20)の正面および背面の一方に形成され、隣り合うエレメント(20)同士を接触させて両者の回動の支点となる接触線(25c)を含むロッキングエッジ部(25)を含んでもよく、前記第1および第2プーリ(3,5)の一方の溝幅が最小である際に、該第1および第2プーリ(3,5)の一方に巻き掛かっている前記エレメント(20)同士の前記接触線(25c)は、前記第1および第2プーリ(3,5)の一方のV字状溝の表面の最外周(X)よりも径方向内側に位置してもよい。これにより、エレメント同士の接触線をより径方向外側に位置させて第1プーリや第2プーリに対する伝動ベルトの最大巻き掛け半径をより大きくしつつ、隣り合うエレメントから接触線を介して押されたエレメントに作用するピッチング方向のモーメントを低減化することが可能となる。
【0047】
更に、前記エレメント(20)は、前記リング(12)の内周側から外周側に向かうにつれて互いに離間するように形成された一対の側面(20s)を含んでもよく、前記一対の側面(20s)は、前記ピラー部(22)に設けられた第1側面(20sa)と、前記第1側面(20sa)に連続するように形成されて該第1側面(20sa)よりも前記内周側に位置する第2側面(20sb)とをそれぞれ含んでもよく、一対の前記第2側面(20sb)がなす角度(θb)は、前記第1および第2プーリ(3,5)の前記V字状溝の開き角度(θ0)と概ね等しく、かつ一対の前記第1側面(20sa)がなす角度(θa)は、一対の前記第2側面(20sb)がなす角度(θb)よりも小さくてもよい。かかるエレメントを有する伝動ベルトにより第1プーリから第2プーリに動力が伝達される際には、各エレメントの側面の第2側面をV字状溝の表面に当接させる一方、ピラー部側の第1側面がV字状溝の表面に接触しないようにすることが可能となる。これにより、無段変速機の変速比が変更されても、各エレメントとV字状溝の表面との接触面積を一定に保つことができるので、荷重中心が変化することによる各エレメントの挙動の悪化を抑制することが可能となる。
【0048】
また、前記複数のエレメント(20)は、前記ピラー部(22)の遊端部から前記サドル面(23s)の幅方向に突出して互いに対向する一対のフック部(22f)を更に含んでもよく、前記伝動ベルト(10)は、前記リング(12)と前記複数のエレメント(20)の前記フック部(22f)との間に配置されるリテーナリング(15)を更に有してもよい。
【0049】
本開示の伝動ベルトは、サドル面(23s)を有する胴部(21)および前記サドル面(23s)の幅方向における両側に位置するように前記胴部(21)から延出された一対のピラー部(22)を含む複数のエレメント(20)と、前記複数のエレメント(20)の前記一対のピラー部(22)間に配置されるリング(12)とを有すると共に無段変速機(1)の第1および第2プーリ(3,5)のV字状溝に巻き掛けられる伝動ベルト(10)において、前記第1および第2プーリ(3,5)の一方の溝幅が最小である際に、該第1および第2プーリ(3,5)の一方に巻き掛かっている前記リング(12)の厚み方向における少なくとも一部が、前記第1および第2プーリ(3,5)の一方の前記V字状溝の表面の最外周(X)よりも径方向外側に突出するものである。
【0050】
かかる伝動ベルトを含む無段変速機では、第1プーリや第2プーリに対する伝動ベルトの最大巻き掛け半径をより大きくすることができるので、無段変速機の変速比幅をより大きくすることが可能となる。
【0051】
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。