(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基板上に配列された光透過性材料からなる光透過領域と、前記光透過領域の隙間に充填された光吸収性材料からなる光吸収領域と、を有し、前記光吸収領域が前記基板を通過する光の光線方向を制限する光線方向制御素子であって、
前記光吸収領域は、基板面内で互いに直角の角度を成す第一の方向及び第二の方向に延在して設けられ、前記第一の方向に延在する前記光吸収領域と前記第二の方向に延在する前記光吸収領域とがL字状またはT字状に交差する交差部分を有するとともに、前記交差部分ではない、前記第一の方向又は前記第二の方向に延在する前記光吸収領域の部分に、前記光吸収領域を分断する複数の構造物を有しており、
前記複数の構造物と前記光透過領域とにより、前記光吸収領域が第一の方向及び第二の方向に対して閉じた領域となっていることを特徴とする光線方向制御素子。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置は、薄型軽量や低消費電力であるという特徴から、薄型テレビ、携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistants)、ノートパソコンなど、あらゆる機器の表示装置として広く採用されている。特に、携帯性に優れる携帯情報端末は、会議などにおいて情報端末の表示画面を複数の人達で共有する状況で使用される場合や、鉄道車両の車内や航空機の機内などの公共の場所において情報を入力する状況で使用される場合がある。このように、携帯情報端末は種々な環境下で使用されている。
【0003】
ここで、前者のような共有して使用する環境下では、複数の人達の間で表示画面を共有するために、携帯情報端末の画面の視野角はできるだけ広い方が好ましい。その一方で、後者のような公共の場所での使用では、画面の視野角があまりに広いと他の人から覗き見られ、情報の保全やプライバシーの保護ができなくなる。したがって、このような使用環境下では、視野角は使用者だけが画面を見ることができる範囲であることが望ましい。
【0004】
このような要求に応えるものとして、光源、あるいは、表示装置から出射する光の広がりを制御するマイクロルーバーフィルムがある。マイクロルーバーフィルムとは、フィルム面に光吸収性のルーバーが等間隔で配置された構造である。ルーバーは、フィルム面に垂直な方向に対してある程度の高さを有している。そのため、ルーバーの向きにほぼ平行な入射光線、すなわちフィルム面に対してほぼ垂直に入射する光線は透過できる。しかし、ルーバーの向きに対して大きい角度で入射する光、すなわちフィルム面に対して斜めに入射する光は、ルーバーによって吸収され透過できない。このようなマイクロルーバーフィルムの製造方法としては、例えば特許文献1乃至特許文献5に開示されたものがある。
【0005】
特許文献1及び特許文献2には、透明なフィルムと光吸収性の薄いフィルムとを交互に積層して溶融、圧着して所望の厚さとしたブロックとし、積層面に対して垂直方向から薄くスライスすることでマイクロルーバーフィルムを作製する方法が開示されている。特許文献3には、射出成型装置を用いて、1枚で複数方向の視野角制御を行うことができる機能を有するマイクロルーバーフィルム及びその製造方法が開示されている。特許文献4には、透明な基板上にフォトリソグラフィープロセスによって透明パターン(パターン化された透明感光性樹脂材料)を形成して光透過領域とし、透明パターン間の間隙部分に光吸収性流動体を充填硬化して光吸収領域とすることで、マイクロルーバーフィルムを製造する方法が開示されている。また、光透過領域と光吸収領域の配置周期を適正化することで、表示パネルとマイクロルーバーフィルムとの空間周波数の位相差に伴うモアレ縞の発生を抑制する技術が開示されている。さらに、特許文献5には、液晶パネルを構成する種々の部材を積層する際に用いる接着剤層にルーバー機能を持たせたものが提案されている。すなわち透光性シート状基材の一方の面に接着剤層が積層され、接着剤層が、透光性シート状基材と接着剤層との積層界面に対しほぼ直交する複数の光吸収性領域と複数の透光性領域とを有する接着性光学フィルタが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来技術には、いくつかの問題点がある。
【0008】
第1の問題点は、光の広がりを制限する方向、角度が限定されてしまう点である。特許文献1及び特許文献2に記載のものでは、透明フィルムと光吸収性を有する薄いフィルムとが交互に積層されたブロックを形成するため、積層面に対して垂直方向からスライスした面は、光透過領域と光吸収領域とが交互に繰り返された直線パターンとなるものしか作製できない。すなわち左右あるいは上下のいずれか一方向での光の広がりしか制御できない。これを解決する方法として、2枚のマイクロルーバーを90°回転させて積層配置することで上下及び左右の2方向での光の広がりを制限することができる。しかしながらこの方法では、少なくとも2枚のマイクロルーバーを使用するため、全体としてフィルムの厚みが厚くなってしまう。特許文献3に記載のマイクロルーバーは、1枚で上下及び左右の2方向の視野角制御を行うことができるが、金型等を用いる射出成形装置による製造方法を使用するため、光吸収領域の幅や深さのサイズはフォトリソグラフィープロセスを用いる場合と比べ微細化が難しい。
【0009】
第2の問題点は、製造タクトが長く生産性が悪い点である。特許文献4に記載の実施形態のマイクロルーバーは、一方の透明な基板上に光透過領域を成す光透過性材料を配置し、フォトリソグラフィープロセスによって透明パターンを形成する透明パターン形成工程と、もう一方の透明な基板を前記透明パターンの凸部に密着させて重ね合わせる基板積層工程と、透明パターン間の間隙部分に光吸収領域となる硬化性を有する光吸収性流動体を充填する流動体充填工程と、からなる製造方法により製造される。この場合、光吸収性流動体の充填は毛細管現象を利用して充填するため、大気下では全間隙部分が充填されるまでに長時間掛かってしまう。また真空あるいは減圧下で行うには設備仕様が割高となり、さらには減圧状態と大気状態を交互に繰り返すために製造タクトも長くなる。さらに特許文献5では、レーザー光の照射により変色するレーザー光感応性粘着剤シートを利用し、レーザー光をスキャン式あるいはマスク式にて部分的にシートに対して照射する方法で製造されるため、製造設備の大規模化・高額化、さらには光吸収性を担うべき変色部位の遮光能力不足が課題となる。
【0010】
第3の問題点は、マイクロルーバーに反りが生じる点である。特許文献4に記載の他の実施形態のマイクロルーバーは、
図12A、
図12Bに示すように、透明な基板1上に光透過領域2をなす透明パターン3を形成する透明パターン形成工程と、光吸収領域4をなす光吸収性流動体を充填する流動体充填工程と、充填された光吸収性流動体を硬化させ光吸収領域4を形成する流動体硬化工程と、からなる製造方法により製造される。この場合、透明パターン3の間隙部分に充填された光吸収性流動体が、もう一方の透明な基板と重ね貼り合せる前に紫外線または熱により硬化されるため、光吸収性流動体自身の収縮により、透明な基板1そのものが膜面を上として凹状に反り5が生じてしまう。また、特許文献4で記載されている
図12C、
図12D及び
図12Eのような光透過領域2と光吸収領域4の周期配置の場合においても、光吸収領域4の配置がある特定方向(X方向あるいはY方向)への指向性を有しているため、熱あるいは光による収縮が特定方向に蓄積されて反りが発現してしまう。さらに特許文献5で開示されているような六角形ハニカム状の周期配置の場合であっても、光吸収領域の収縮に起因する反りの蓄積は、程度差はあれ発現してしまう。光吸収領域の収縮蓄積を効果的に抑制させるには、六角形ハニカムのようなY字形状よりも、L字状あるいはT字状のように収縮蓄積を一旦せき止めるような形状が周期配置されていることが必要である。
【0011】
第4の問題点は、マイクロルーバー構成層の接着力が弱く、マイクロルーバーの信頼性が悪い点である。第3の問題点でも述べたように、特許文献4に記載のマイクロルーバー(
図12A、
図12B)は、光透過領域2と光吸収領域4を有する透明な基板1に反り5が生じているため、もう一方の透明な基板と重ね貼り合わせた際、反りによるストレスで接着力が弱くなり、極端の場合はマイクロルーバーフィルムが破断してしまうリスクを内在している。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、生産性を落とすことなく、光吸収性材料の熱収縮による反りを抑制し、透明な基板同士の接着力を高め信頼性を向上させた、光線方向制御素子(マイクロルーバー)及び当該光線方向制御素子を備える表示装置の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の光線方向制御素子は、基板上に配列された光透過性材料からなる光透過領域と、前記光透過領域の隙間に充填された光吸収性材料からなる光吸収領域と、を有し、前記光吸収領域が前記基板を通過する光の光線方向を制限する光線方向制御素子であって、前記光吸収領域は、基板面内で互いに直角の角度を成す第一の方向及び第二の方向に延在して設けられ、前記第一の方向に延在する前記光吸収領域と前記第二の方向に延在する前記光吸収領域とがL字状またはT字状に交差する交差部分を有するとともに、前記交差部分以外の、前記光吸収領域が前記第一の方向又は前記第二の方向に延在する領域上に、前記光吸収領域を分断する少なくとも一つの構造物を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の表示装置は、上記光線方向制御素子を表示パネルの前面あるいは背面に設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生産性を落とすことなく、光吸収性材料の熱収縮による反りを抑制し、透明な基板同士の接着力を高め信頼性を向上させた、光線方向制御素子及び当該光線方向制御素子を備える表示装置の実現が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施形態の光線方向制御素子の構造を示す断面図である。
【
図2A】
図1に示す光線方向制御素子における光吸収領域の配置を示す上面図である。
【
図2B】
図1に示す光線方向制御素子における光吸収領域の配置を示すA−A断面図である。
【
図2C】
図1に示す光線方向制御素子における光吸収領域の配置を示すB−B断面図である。
【
図3】
図2Aに示す光吸収領域の配列形態の最小構成を表す平面図である。
【
図4A】
図1に示す光線方向制御素子の製造方法を示す断面図である。
【
図4B】
図1に示す光線方向制御素子の製造方法を示す断面図である。
【
図4C】
図1に示す光線方向制御素子の製造方法を示す断面図である。
【
図4D】
図1に示す光線方向制御素子の製造方法を示す断面図である。
【
図4E】
図1に示す光線方向制御素子の製造方法を示す断面図である。
【
図4F】
図1に示す光線方向制御素子の製造方法を示す断面図である。
【
図5A】本発明の第2の実施形態の光線方向性制素子における光吸収領域の配置を示す上面図である。
【
図5B】本発明の第2の実施形態の光線方向性制素子における光吸収領域の配置を示すC−C断面図である。
【
図6】本発明の第3の実施形態の光線方向制御素子における光吸収領域の配置を示す図である。
【
図7A】本発明の第4の実施形態の光線方向制御素子の製造方法を示す断面図である。
【
図7B】本発明の第4の実施形態の光線方向制御素子の製造方法を示す断面図である。
【
図7C】本発明の第4の実施形態の光線方向制御素子の製造方法を示す断面図である。
【
図7D】本発明の第4の実施形態の光線方向制御素子の製造方法を示す断面図である。
【
図7E】本発明の第4の実施形態の光線方向制御素子の製造方法を示す断面図である。
【
図7F】本発明の第4の実施形態の光線方向制御素子の製造方法を示す断面図である。
【
図7G】本発明の第4の実施形態の光線方向制御素子の製造方法を示す断面図である。
【
図8】本発明の第4の実施形態の光線方向制御素子における位置合わせマークの配置を示す平面図である。
【
図9】本発明の第5の実施形態の光線方向制御素子における位置合わせマークの配置を示す平面図である。
【
図10】本発明の第6の実施形態の光線方向制御素子の構造を示す断面図である。
【
図11】本発明の光線方向制御素子を用いた表示装置を示す図である。
【
図12A】従来の光線方向制御素子の構成の一例を示す上面図である。
【
図12B】従来の光線方向制御素子の構成の一例を示すD−D断面図である。
【
図12C】従来の光線方向制御素子の構成の一例を示す上面図である。
【
図12D】従来の光線方向制御素子の構成の一例を示す上面図である。
【
図12E】従来の光線方向制御素子の構成の一例を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照して説明する。
【0018】
[実施形態1]
図1は、本発明の第1の実施形態の光線方向制御素子(マイクロルーバー)の構造を示す断面図であり、
図2Aはこの光線方向制御素子の平面図、
図2BはA−A線における断面図、
図2CはB−B線における断面図である。本実施形態の光線方向制御素子11は、透明基板12上に光吸収性材料からなる光吸収領域13と光透過性材料からなる光透過領域14とを交互に配置し(透明基板12上に配列した光透過領域14と光透過領域14の隙間を埋める光吸収領域13とを有し)、この透明基板12にもう一方の透明基板15を、接着剤16を介して重ね貼り合わせた構成となっている。
【0019】
この光線方向制御素子では、透明基板12または透明基板15を通して光透過領域14に入射した光のうち、入射角度が小さい光、すなわち基板面に対して垂直に近い光は光透過領域14を通過するが、入射角度が大きい光は光吸収領域13に吸収されることになる。したがって、光吸収領域13は出射光の光線方向を制限するルーバーとして機能しており、光線方向制御素子11を通過させることで通過可能な入射光の角度分布を制限することが可能となる。
【0020】
この光線方向制御素子11での通過可能な入射光の角度分布の制限範囲は、光透過領域14を形成している材料の屈折率と光透過領域14の透明パターンのアスペクト比とで決まる。例えば、光透過領域14の屈折率を1.5、光透過領域14の幅を30μm、光透過領域14の高さを90μm、光吸収領域13の幅を5μmとすれば、透明パターンのアスペクト比が3となり、基板面の法線方向に対して30度以上傾斜した入射光の通過を制限することができる。通過可能な入射光の角度分布制限を大きくするためには基本的に透明パターンのアスペクト比を大きくすればよく、角度分布制限を受けずに基板面に対して垂直方向に通過する入射光の透過率を高くするためには光吸収領域13の幅を狭くすればよい。
【0021】
また、接着剤16は熱硬化性透明材料からなり、膜厚は5〜10μm程度である。但し入射光の接着剤16に対する透過率を上げる点からは膜厚は薄いほうが望ましい。この接着剤16は、光透過領域14及び光吸収領域13の上部全面を覆い、接着面積を最大限確保しているため、透明基板12、透明基板15同士は強固な接着力で保持されている。
【0022】
本発明の特徴は、
図2Aに示すような光線方向制御素子の光吸収領域13の配置パターン(言い換えると、光透過領域14の隙間のパターン)である。光吸収領域13は、透明基板12上のX方向(第一の方向)及びY方向(第二の方向)に少なくとも2回以上の屈曲部17(L字状又はT字状に交差する交差部分)を有しながら延在しており、この屈曲部17(交差部分)以外の、光透過領域14が第一の方向又は第二の方向に延在する領域に、
図2Aに示すように、光透過領域14の隙間を埋めて、光吸収領域13を分断する構造物18を有している。この屈曲部17の基点となる構造物18は、光透過領域14の透明パターンを利用して形成されている。言い換えるなら、透明基板12上に形成される光吸収領域13は、X方向に対して、構造物18により一つの直線状配列(1本の直線として延在する形状)にならないように分断され、かつY方向に対しても、光透過領域14により一つの直線状配列にならないように分断されている。すなわちY方向に対しては、光透過領域14自身が分断のための構造物となっている。さらに言えば、透明基板12上で光吸収領域13が延在する経路上に、少なくとも一つ以上の分断のための構造物を有しているということである。なお、構造物18は光吸収領域13を分断することができればよく、その形状や大きさは
図2A〜
図2Cの構成に限定されない。
図3には、光吸収領域13の配列形態のなかで、構造物18によって分断された光吸収領域13の最小構成の実施例(すなわち、光透過領域14の中にL字状の屈曲部17を有する光吸収領域13が形成された構成)を示している。
【0023】
次に、本実施形態の光線方向制御素子の製造方法について、
図4を用いて説明する。
【0024】
まず、
図4Aに示すように、透明基板12上に光透過領域14をなす可視光領域で透明な光硬化性材料19を塗布する。透明基板12としては、少なくとも365nm以上の波長の光を透過させるものであればよく、ガラス基板であっても樹脂等のフィルム基板であっても構わない。また、光硬化性材料19の塗布方法としては、スピンコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、インクジェット法などがある。またはドライフィルムレジストを透明基板12に転写しても構わない。光硬化性材料19としては、例えば100μm厚でアスペクト比3程度あるいはそれ以上のパターニングが可能である材料が望ましい。光硬化性材料19を塗布した後に、オーブンやホットプレートなどを用いてプリベーク処理をしても構わない。本実施形態では、透明基板12として100μm厚のPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを使用し、光硬化性材料19として日本化薬(株)の化学増幅型フォトレジスト(商品名:SU−8)を使用し、光硬化性材料19の塗布方法としてはバーコート法を用いて90μm厚に塗布し、プリベーク処理はオーブンで95℃60分行った。
【0025】
次に、
図4Bに示すように、所望の開口パターンを有するフォトマスク20を介して、透明基板12上に形成した光硬化性材料19を紫外線21で露光する。このとき、透明基板面に対して垂直な方向から紫外線21を照射するようにする。これにより、光硬化性材料19のうち、紫外線21で照射された部分は光硬化するが、フォトマスク20で遮光された部分は未硬化のままである。その後、必要に応じてポストベーク処理をしても構わない。本実施形態では、波長365nmの紫外光を露光量350mJ/cm
2で照射し、ポストベーク処理はオーブンで95℃20分行った。ここで、光吸収領域13が透明基板12上でX方向及びY方向に直線的配置になる(1本の直線として延在する)ことを避けるため、光吸収領域13を屈曲させるための基点となる構造物18のパターンをあらかじめフォトマスク20に挿入しておく。なお、ここでは、光透過領域14の材料としてネガ型のフォトレジスト(光硬化性材料19)を使用する場合を示したが、光透過領域14の材料としてポジ型のフォトレジストを用いることもできる。その場合は、光吸収領域13となる部分を開口パターンとするフォトマスクを使用すればよい。
【0026】
次に、
図4Cに示すように、専用の現像液を用いて現像処理を行い、未硬化の光硬化性材料19を除去し、その後、ポストベーク処理を行う。このようにして、フォトリソグラフィープロセスを用いて透明基板12上に高アスペクト比の透明パターン22が形成され、光線方向制御素子11の光透過領域14が完成する(透明パターン形成工程)。このとき、光吸収領域13を屈曲させるための基点となる構造物18のパターンも同時に形成される。したがって、構造物18は製造工程数を増やすことなく、光透過領域14をなす透明パターン22と同一材料で形成することができる。本実施形態では、現像液としてPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)を使用し、現像方式としてスプレー現像方式を用い、ポストベーク処理はオーブンで120℃30分行った。
【0027】
次に、
図4Dに示すように、透明パターン22の間隙に光吸収性材料23を塗布し、光吸収領域13を形成する(光吸収材形成工程)。光吸収性材料23としては、透明パターン22と屈折率が同程度であり、遮光能力として光学濃度(OD(Optical Density)値)が3以上のもの、更には揮発性がない(小さい)無溶剤タイプのものが望ましい。光吸収性材料23の塗布方法としては、バーコート法、スクリーン印刷法、インクジェット法などがあるが、透明パターン22の間隙の深さ方向へ気泡を巻き込まずに光吸収性材料23を必要量のみ効率的に充填できるスクリーン印刷法が好ましい。このスクリーン印刷法は、用いるスクリーン版のメッシュ形状や深度で塗布量を大面積に渡って容易に制御できる特徴も有する。本実施形態では、光吸収性材料23としてSU−8と同等の屈折率1.55を持つエポキシ系樹脂にカーボンブラックを分散させたものを使用し、塗布方法としてはスクリーン印刷法を用い、透明パターン22の頭頂部に残った余分な光吸収性材料23をウエスによる拭取りを行った後、オーブンで80℃30分のベーク処理を行った。
【0028】
次に、
図4Eに示すように、透明パターン22と光吸収性材料23の上部全面に接着剤16を塗布形成する(接着剤形成工程)。接着剤16としては、透明パターン22や光吸収性材料23で用いる材料種と同程度の屈折率を持つ透明な樹脂材料であることが望ましい。塗布方法としては、接着剤が液体状であればバーコート法、スクリーン印刷法などを用いることができ、接着剤がシート状であればラミネート法などを用いることができる。本実施形態では、接着剤16としてエポキシ系樹脂をベースとしたものを使用し、塗布方法としてはスクリーン印刷法を用い、接着剤16の厚みは10μmとした。スクリーン印刷法は、比較的高粘度の接着剤まで印刷塗布できるため、接着剤形成領域のエッジ部でのだれが生じにくく、エッジ部を直線状に制御しやすいという特徴がある。ここで、接着剤16の塗布形成においては、吸着ステージ、引っ張りガイド、あるいは加熱ステージなどを用いて塗布対象物を水平に保持しながら行うことは言うまでもない。
【0029】
次に、
図4Fに示すように、接着剤形成工程まで行った
図4Eの基板と、もう一方の透明基板15とを重ね貼り合わせ(基板貼り合わせ工程)、その後、接着剤16を硬化させるためにオーブンで90℃10分のベーク処理を行った。
【0030】
以上説明したように、本実施形態における製造方法では、透明基板12上に光透過領域14をなす透明パターン22と、光吸収領域13を屈曲させるための基点となる、光吸収領域13を分断するための構造物18のパターンとを同一工程にて形成し、それらの間隙に光吸収性材料23を充填形成することから、光吸収性材料23の熱収縮の応力が、ある特定の直線方向(X方向あるいはY方向)に集中、蓄積するのでなく、構造物18のパターンを基点としてX方向及びY方向に分散させることが可能である。その結果、透明基板12の反りの発生を抑制し、透明基板同士の接着力を高め、光線方向制御素子の信頼性を向上させることができる。
【0031】
[実施形態2]
次に、本発明の第2の実施形態について
図5A、
図5Bを用いて説明する。第2の実施形態の光線方向制御素子は、
図1〜
図3に示した第1の実施形態の光線方向制御素子と同様のものであるが、光吸収領域13を屈曲させるために、光透過領域14の形状及び配置パターンを変化させている。
【0032】
図5Aに、第2の実施形態の光線方向制御素子の平面図、
図5BにC−C線における断面図を示す。本実施形態の特徴は、光透過領域14として形状の異なるパターンを使用し、これらを適正配置することで、光吸収領域13の屈曲部17を生み出していることである。したがって、第1の実施形態のような特定の構造物18のパターンは必要としていない。本実施形態の光線方向制御素子の製造方法としては、
図4A〜
図4Fに示す第1の実施形態と同様のプロセスを適用することができ、また同様の効果を得ることができる。
【0033】
なお、
図5A、
図5Bの光透過領域14の形状及び配置パターンは一例であり、光吸収領域13が、X方向に対して一つの直線状にならず、かつY方向に対しても一つの直線状にならず、光吸収領域13の経路の幅が略一定になる構成であればよい。この例では、X方向、Y方向の両方向に対して、光透過領域14により光吸収領域13が一つの直線状配列にならないように分断されている。すなわち光透過領域14自身が分断のための構造物となっている。ここで、
図5A、
図5Bでは、光透過領域14として上方から見た形状が正方形と長方形の2つの形状の透明パターンを組み合わせたが、3つ以上の形状の透明パターンを組み合わせてもよい。また、L字状あるいはT字状に交差する透明パターンを組み合わせることもできる。
【0034】
[実施形態3]
次に、本発明の第3の実施形態について
図6を用いて説明する。
図6に、第3の実施形態の光線方向制御素子の平面図を示す。第3の実施形態の光線方向制御素子は、第1の実施形態及び第2の実施形態(特に、
図1〜
図3で示した第1の実施形態)において光吸収領域13を屈曲させるための基点となる構造物18のパターンを利用して、光吸収領域13がX方向及びY方向に対して閉じた領域配置(すなわち光吸収領域が構造物18によって孤立した閉パターン)となっていることを特徴としている。この場合も、光吸収性材料23の熱収縮の応力の分散が図られるため、ある特定の直線方向(X方向あるいはY方向)への応力の集中、蓄積を防ぐことができ、透明基板12の反りの発生を抑制し、透明基板同士の接着力を高め、光線方向制御素子の信頼性を向上させることができる。
【0035】
ここで、熱収縮の応力を分散させるという観点からは、光吸収領域13の閉じた領域配置(閉パターンエリア)は透明基板12上に少なくとも2つ以上存在していることが望ましい。また、構造物18の配置数が多くなり過ぎると、相対的に光吸収領域13の面積比率が低くなり、光線方向制御素子(マイクロルーバー)としての遮光能力が落ち、所望の視野角制限効果が得られなくなるため、必要最小限の構造物18で閉じた領域配置(閉パターンエリア)を形成することが望ましい。さらに、光線方向制御素子を通して見る表示パネルの視認性の観点からは、光吸収領域13の閉じた領域配置(閉パターンエリア)は同じ配置の繰り返しである方が違和感なく滑らかな表示が得られる。なお、構造物18は光吸収領域13を分断できればよく、その形状や大きさは
図6の構成に限定されない。
【0036】
[実施形態4]
次に、本発明の第4の実施形態について
図7A〜
図7Gを用いて説明する。
図7A〜
図7Gに、第4の実施形態の光線方向制御素子の各製造工程の断面図を示す。本実施形態の特徴は、貼り合わせる双方の基板に光吸収領域13と光透過領域14とを形成するものであり、本発明の効果をさらに引き上げることができる。具体的には、本実施形態の製造方法は、第1の基板12と第2の基板15に光透過領域をなす透明パターン22を形成する透明パターン形成工程(
図7A〜
図7C)と、透明パターン22の各々の間隙に光吸収領域をなす光吸収性材料23を充填する光吸収材形成工程(
図7D)と、光透過領域と光吸収領域とが形成された第1の基板12及び第2の基板15の少なくとも一方の基板側に接着剤層16を形成する接着剤形成工程(
図7E)と、第1の基板12と第2の基板15の透明パターン同士を位置合わせマークを用いて重ね貼り合わせる基板貼り合わせ工程(
図7F、
図7G)と、からなる。
【0037】
図7A乃至
図7Eまでの製造方法は第1の実施形態と同様の製法により実施されるが、光透過領域14をなす光硬化性材料19の膜厚を第1の実施形態のほぼ半分としている点が異なる。
【0038】
次に、
図7Fに示すように、接着剤形成工程まで行った
図7Eの基板と、光吸収材形成工程まで行った
図7Dの基板とを、両基板の膜面を対向させる。次に、
図7Gに示すように、互いの光吸収領域13が重なるように位置合わせマークを用いて貼り合わせる。
図8に示すように透明基板の外周部に近い光吸収領域13のパターンの矩形部分を位置合わせマーク25としては利用することができ、この矩形部分で位置合わせして両基板を貼り合わせ、その後、接着剤16を硬化させるために90℃10分のベーク処理を行った。
【0039】
なお、ここでは、
図7Dの基板と
図7Eの基板とで、光硬化性材料19の膜厚を同じにしたが、双方の基板で光硬化性材料19の膜厚を変えてもよい。例えば、接着剤層を形成する側の基板の光硬化性材料19の膜厚を薄くすることにより、光透過領域14及び光吸収領域13の上部表面の平坦性が向上して接着剤層をより均一な厚さで形成することができる。また、光吸収領域13のパターンの矩形部分を利用して位置合わせを行う場合、光硬化性材料19の膜厚が厚くなると光吸収領域13のエッジが不鮮明になりやすくなることから、位置合わせの基準とする側の光硬化性材料19の膜厚を薄くして光吸収領域13のエッジを鮮明にすることができる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態における製造方法では、光透過領域14及び光吸収領域13が形成された2枚の透明基板12及び透明基板15を、接着剤16を介して貼り合わせて光線方向制御素子24を作製することから、透明基板12及び透明基板15に残存する反りを互いに打ち消すことができ、さらに高アスペクト比の透明パターンが容易に実現できる。
【0041】
[実施形態5]
次に、本発明の第5の実施形態について
図9を用いて説明する。第5の実施形態の光線方向制御素子の製造方法は、第4の実施形態と同様であるが、両透明基板を貼り合わせる際に用いる位置合わせマークが異なっている。
図9は、第5の実施形態の光線方向性制素子における位置合わせマークの配置を示す平面図である。透明基板の外周部に光吸収領域13のパターンがない場合、あるいはパターンはあるが曲線形状のためにマークとしては適さない場合などに、透明基板の外周部に専用の位置合わせマーク26を挿入し、このマーク26を用いて位置合わせを行う。この第5の実施形態の光線方向制御素子では、第4の実施形態とは異なる手法で両透明基板の位置合わせを行うが、第4の実施形態の場合と同様の効果を得ることができる。
【0042】
[実施形態6]
次に、本発明の第6の実施形態について
図10を用いて説明する。第6の実施形態の光線方向制御素子の製造方法は、第4及び第5の実施形態の光線方向制御素子と同様であるが、本実施形態では、接着剤形成工程をなくし、接着剤の機能を光透過領域及び光吸収領域に持たせ、これらを利用して両透明基板を接着させる点を特徴としている。
【0043】
図10は第6の実施形態の光線方向制御素子27の構成を示す断面図である。光透過領域14をなす透明パターンのポストベークを80℃30分とし(第1の実施形態の120℃30分よりも温度を下げ)、光吸収領域13をなす光吸収性材料のベークを60℃30分とする(第1の実施形態の80℃30分よりも温度を下げる)ことで、半硬化状態のまま基板貼り合わせ工程を実施する。この方法の場合、透明基板12及び透明基板15の接着面は同じ材料系同士の貼り合わせとなるため、貼り合わせ後に120℃30分程度の本硬化ベークを行うことで十分な接着力が発現する。なお、透明パターンのポストベーク及び光吸収性材料のベークの条件は例示であり、透明パターン及び光吸収性材料が共に半硬化状態となる条件であればよい。この第6の実施形態の光線方向制御素子27では、第4及び第5の実施形態とは異なる手法で両透明基板の貼り合わせを行うが、第4の実施形態の場合と同様の効果を得ることができる。
【0044】
[実施形態7]
次に、本発明の第7の実施形態について
図11を用いて説明する。
図11に、本発明の光線方向制御素子を使用した表示装置を示す。表示装置34は、カラーフィルタ30が形成された基板とTFT(Thin Film Transistor)などの能動素子31がマトリクス状に形成された基板及びそれらの間隙に液晶32が充填された表示パネル29と、CCFL(Cold Cathode Fluorescent Lamp)やLED(Light Emitting Diode)などの光源33と、第1乃至第6の実施形態で示した光線方向制御素子28とから構成される。
【0045】
光線方向制御素子28を表示パネル29の前面あるいは背面に配置し、光線方向制御素子28を通して表示パネル29を見る場合、垂直方向からは表示パネル29の映像を視認することができるが、斜め方向からは視認しにくくさせることができる。ここでは表示パネル29として液晶表示方式を図示しているが、有機EL(Electro Luminescence)方式やその他の表示方式であっても特段の問題はない。
【0046】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、光線方向制御素子の構成や製造方法は適宜変更可能である。