(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
(実施形態)
図1は、実施形態にかかる第1の集積回路が備える電流バッファ1の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、電流バッファ1は、分流部2及び利得調整部3を有し、第1利得調整信号に応じて利得を変更可能にされている。なお、電流バッファの利得は、入力電流に対する出力電流の増倍率である。電流バッファ1は、例えばCMOSプロセスの集積回路などにおいて形成され、他の回路とともに集積されてもよい。
【0009】
分流部2は、入力された電流を複数の電流経路に分流する。利得調整部3は、分流部2が複数の電流経路に分流した電流を外部からの第1利得調整信号に応じた組合せで合成することにより、分流部2に入力された電流の利得を調整する。また、利得調整部3は、分流部2が複数の電流経路に電流を分流する分流比を外部からの第1利得調整信号に応じて変更することにより、分流部2に入力された電流の利得を調整するように構成されてもよい。
【0010】
次に、実施形態にかかる第1の集積回路が備える電流バッファの具体的な構成例について説明する。
図2は、電流バッファの第1構成例(電流バッファ1a)を示す図である。
図2に示すように、電流バッファ1aは、分流部2a及び利得調整部3aを有し、第1利得調整信号に応じて入力電流I
inに対する出力電流I
outの利得を変更可能にされている。
【0011】
分流部2aは、M
1からM
NまでのN個のトランジスタと、レギュレーションアンプ4とを有する。レギュレーションアンプ4は、非反転入力が任意のバイアス電圧(基準電圧)V
biasに固定され、反転入力がM
1からM
Nまでのトランジスタのソース端子とショートされ、出力端子がM
1からM
Nまでのトランジスタのゲート端子に接続されている。このように、分流部2aは、レギュレーテッドカスコード構成の分流回路となっており、入力された電流をN個に分流する。なお、M
1からM
Nまでの各トランジスタのサイズの係数mは、例えば1とする。
【0012】
利得調整部3aは、外部から入力される第1利得調整信号に応じて、S
1からS
NまでのN個のスイッチのON/OFFを切り替えることにより、分流部2aの出力であるM
1からM
NまでのN個のトランジスタの各ドレイン端子を、接地させるか、出力端に接続するかを切替える。ドレイン端子が接地されたトランジスタに流れるドレイン電流は破棄される。
【0013】
利得調整部3aは、接地が選択されたスイッチの個数により、出力電流の利得を変化させる。例えば、接地が選択されたスイッチの個数がk個とすると、出力電流の利得は(N−k)/N倍となる。また、各トランジスタは、接地か出力のみが選択されるため、入力インピーダンスはM
1からM
Nまでのトランジスタの相互コンダクタンスを合成したgmと、レギュレーションアンプ4の利得Aにより、1/(A×gm)で表される。なお、レギュレーションアンプ4などのアンプの利得は、入力電圧に対する出力電圧の増倍率である。
【0014】
電流バッファ1aは、入力インピーダンスと寄生容量によって入力帯域が決められるので、入力を広帯域化することが可能となっている。なお、電流バッファ1aは、M
1からM
Nまでの各トランジスタのサイズの係数mが重みづけされ、スイッチの選択による利得の変動関数が変更されてもよい。
【0015】
図3は、電流バッファ1aを備える集積回路100の外観の概要を示す斜視図である。電流バッファ1aは、例えばCMOSプロセスのチップ内に集積され、パッケージ内に封止される。
【0016】
以下、電流バッファ1の複数の構成例について説明する。
図4は、電流バッファの第2構成例(電流バッファ1b)及び変形例(電流バッファ1c)を示す図である。
図4(a)に示すように、電流バッファ1bは、分流部2b及び利得調整部3aを有し、第1利得調整信号に応じて入力電流I
inに対する出力電流I
outの利得を変更可能にされている。
【0017】
電流バッファ1bは、
図2に示した電流バッファ1aに対して、分流部2bにレギュレーションアンプ4が設けられていない点が異なる。即ち、電流バッファ1bは、分流部2bにレギュレーションアンプ4が設けられず、任意のバイアス電圧V
biasがM
1からM
NまでのN個のトランジスタのゲート端子に印加されるゲート接地増幅回路の構成を備えている。
【0018】
図4(b)に示すように、電流バッファ1cは、分流部2b及び利得調整部3bを有し、第1利得調整信号に応じて入力電流I
inに対する出力電流I
outの利得を変更可能にされている。利得調整部3bは、外部から入力される第1利得調整信号に応じて、S
1からS
N−1までのN−1個のスイッチのON/OFFを切り替えることにより、例えば分流部2bの出力であるM
2からM
NまでのN−1個のトランジスタの各ドレイン端子を、接地させるか、Vddに接続するかを切替える。
【0019】
利得調整部3bは、接地が選択されたスイッチの個数により、M
1のトランジスタに流れるドレイン電流(即ち出力電流I
out)の入力電流I
inに対する分流比を変化させる。また、利得調整部3bは、トランジスタのドレイン端子がVddに接続された場合、
図2に示した利得調整部3aとは利得調整幅が異なることとなる。
【0020】
図5は、電流バッファ1aの変形例(電流バッファ1d)を示す図である。
図5(a)に示した電流バッファ1aの利得調整部3aは、
図5(b)に示した電流バッファ1dにおいて、上述した利得調整部3bに替えられている。
【0021】
図6は、電流バッファの第3構成例(電流バッファ1e)を示す図である。
図6に示すように、電流バッファ1eは、分流部2b及び利得調整部3cを有し、第1利得調整信号に応じて入力電流I
inに対する出力電流I
outの利得を変更可能にされている。
【0022】
電流バッファ1eは、
図4(a)に示した電流バッファ1bに対して、利得調整部3cにおけるS
1からS
NまでのN個のスイッチの接地側に、それぞれダイオードとして機能するトランジスタ5が設けられている点が異なる。つまり、利得調整部3cは、トランジスタ5を介して分流された電流を破棄することにより、分流部2bに入力された電流の利得を調整する。
【0023】
トランジスタ5は、例えば電流バッファ1eの後段に接続されるトランジスタ(出力電流I
outが入力される後段の回路のトランジスタ)の大きさに応じて設けられる。電流バッファ1eは、S
1からS
NまでのN個のスイッチにトランジスタ5が設けられることにより、M
1からM
Nまでの各トランジスタのインピーダンスが揃えられる。なお、トランジスタ5は、上述した電流バッファ1のいずれの構成例にも設けられてよい。
【0024】
図7は、電流バッファの第4構成例(電流バッファ1f)を示す図である。
図7に示すように、電流バッファ1fは、分流部2c及び利得調整部3dを有し、第1利得調整信号に応じて入力電流I
inに対する出力電流I
outの利得を変更可能にされている。
【0025】
分流部2cは、M
1及びM
2のトランジスタと、抵抗R
1と、レギュレーションアンプ4とを有する。レギュレーションアンプ4は、非反転入力が任意のバイアス電圧(基準電圧)V
biasに固定され、反転入力がM
1及びM
2のトランジスタのソース端子とショートされている。また、レギュレーションアンプ4は、出力端子がM
1及び抵抗R
1を介して可変電流源である利得調整部3dによりバイアスされたM
2のトランジスタのゲート端子に接続されている。このように、分流部2cは、レギュレーテッドカスコード構成の分流回路により、入力された電流の分流を行う。なお、M
1及びM
2のトランジスタのサイズの係数mは例えば1とする。
【0026】
ここで、M
1のゲート電位をVg1とし、利得調整部3dの電流値をI
adjとすると、M
2のゲート電位Vg2は、Vg2=Vg1−R
1×I
adjとなる。
【0027】
利得調整部3dは、外部から入力される第1利得調整信号に応じて、自身が流す電流I
adjを変化させることにより、M
1から出力された電流を、入力電流I
inからVg2/Vg1の比率で分流された結果として出力させる。
【0028】
図8は、電流バッファの第5構成例(電流バッファ1g)を示す図である。
図8に示すように、電流バッファ1gは、分流部2d及び利得調整部3eを有し、第1利得調整信号に応じて入力電流I
inに対する出力電流I
outの利得を変更可能にされている。
【0029】
分流部2dは、M
1及びM
2のトランジスタと、固定抵抗R
1と、レギュレーションアンプ4とを有する。固定抵抗R
1は、一方がM
1のソースに接続され、他方がレギュレーションアンプ4の入力端に接続されている。レギュレーションアンプ4は、非反転入力が任意のバイアス電圧V
biasに固定され、反転入力が分流部2dの入力端子とショートされ、出力端子がM
1及びM
2のトランジスタのゲート端子に接続されている。M
1及びM
2のトランジスタのサイズの係数mは1とする。このように、分流部2dは、レギュレーテッドカスコード構成の分流回路により、入力された電流の分流を行う。
【0030】
利得調整部3eは、一方がM
2のソース端子に接続され、他方が分流部2dの入力端に接続された可変抵抗R
2であり、外部から入力される第1利得調整信号に応じて、抵抗値を変化させることにより、M
1から出力された電流を分流された結果として出力させる。ここで、R
1の抵抗値をr、R
2の抵抗値をr
adjとすると、M
1に流れるドレイン電流、つまり出力電流I
outは、I
in×r
adj/(r+r
adj)となる。
【0031】
図9は、電流バッファの第6構成例(電流バッファ1h)を示す図である。
図9に示すように、電流バッファ1hは、分流部2e及び利得調整部3fを有し、第1利得調整信号に応じて入力電流I
inに対する出力電流I
outの利得を変更可能にされている。
【0032】
分流部2eは、M
1及びM
2のトランジスタと、固定抵抗R
2と、レギュレーションアンプ4とを有する。固定抵抗R
2は、一方がM
2のソースに接続され、他方が分流部2eの入力端に接続されている。レギュレーションアンプ4は、非反転入力が任意のバイアス電圧V
biasに固定され、反転入力が分流部2eの入力端子とショートされ、出力端子がM
1及びM
2のトランジスタのゲート端子に接続されている。M
1及びM
2のトランジスタのサイズの係数mは1とする。このように、分流部2eは、レギュレーテッドカスコード構成の分流回路により、入力された電流の分流を行う。
【0033】
利得調整部3fは、一方がM
1のソース端子に接続され、他方がレギュレーションアンプ4の入力端に接続された可変抵抗R
1であり、外部から入力される第1利得調整信号に応じて、抵抗値を変化させることにより、M
1から出力された電流を分流された結果として出力させる。ここで、R
2の抵抗値をr、R
1の抵抗値をr
adjとすると、M
1に流れるドレイン電流、つまり出力電流I
outは、I
in×r
adj/(r+r
adj)となる。
【0034】
このように、電流バッファ1は、分流部2が複数の電流経路に分流した電流を外部からの第1利得調整信号に応じた組合せで合成すること、又は分流部2が複数の電流経路に電流を分流する分流比を外部からの第1利得調整信号に応じて変更することにより、分流部2に入力された電流の利得を調整するので、消費電力を抑えつつ、広帯域で出力電流の利得を調整することができる。
【0035】
次に、実施形態にかかる第2の集積回路が備える電流積分器について説明する。
図10は、実施形態にかかる第2の集積回路が備える電流積分器200の構成を示す図である。
図10に示すように、電流積分器200は、上述した電流バッファ1と、利得調整機能を備えた可変利得積分器6とを有し、第1利得調整信号及び第2利得調整信号に応じて利得を変更可能にされている。なお、可変利得積分器6の利得とは、入力電流に対する出力電圧の変換倍率であるとする。
【0036】
可変利得積分器6は、切替部7と、蓄積部8とを有する。切替部7は、S
s1からS
sNまでのN個の選択スイッチと、積分ノード70とを有し、蓄積部8が蓄積した電荷の総和を電圧として積分ノード70を介して出力する。蓄積部8は、C
1からC
NまでのN個のキャパシタと、S
r1からS
rNまでのN個のリセットスイッチとを有し、切替部7の各選択スイッチ、及び各リセットスイッチの動作に応じて、電流電圧変換(電荷の蓄積)及びリセットを行う。そして、可変利得積分器6は、外部から入力される第2利得調整信号に応じて選択スイッチをONする個数を変えることにより、電流電圧変換利得を変えることが可能にされている。
【0037】
次に、実施形態にかかる第2の集積回路の変形例について説明する。
図11は、実施形態にかかる第2の集積回路の変形例が備える電流積分器200の可変利得積分器6周辺の構成を示す図である。
図11に示すように、第2の集積回路の変形例においては、可変利得積分器6の前段に設けられたスイッチS
inと、可変利得積分器6の後段にスイッチS
traを介して接続された変換部9が設けられている。
【0038】
スイッチS
inは、外部から入力される積分ゲート信号に応じて、電流バッファ1と可変利得積分器6とを短絡する。つまり、スイッチS
inがONになると、電流バッファ1が出力したI
outが、可変利得積分器6に対する入力電流I
inとなる。
【0039】
変換部9は、アンプ(増幅器)90と、アンプ90の帰還部に設けられた可変容量(又は固定容量)Cfと、スイッチS
rstとを有し、可変利得積分器6が変更した電圧の利得を変換するとともに、可変利得積分器6のインピーダンスを変換する。可変容量Cfは、外部から入力される第3利得調整信号に応じて、容量値が変更される。スイッチS
rstは、外部から入力されるリセットゲート信号に応じてON/OFFが切替えられ、ONになった場合に変換部9をリセットする。スイッチS
traは、外部から入力される転送ゲート信号に応じて、可変利得積分器6と変換部9とを短絡させる。
【0040】
可変利得積分器6は、第2利得調整信号に応じて、積分ノード70に対して接続されるキャパシタCの数が変更されることにより、電流電圧変換利得が変えられる。変換部9は、第3利得調整信号に応じて、アンプ90の帰還容量である可変容量Cfの容量値が変更されることにより、積分ノード70に充電された電荷を転送する場合の出力電圧の利得を変換する。例えば、S
s1がONにされてC
1が積分ノード70に接続されている場合、C
1に充電された電荷によって出力される電圧は、変換部9によって利得がCf/C
1倍に変換される。
【0041】
図12は、
図11に示した第2の集積回路の変形例における可変利得積分器6等の動作を示すタイミングチャートである。
図12に示すように、積分ゲート信号に応じてスイッチS
inがONしている間に、入力電流I
in(電流バッファ1の出力電流I
out)が積分ノード70に入力され、入力電流I
inによる電荷が蓄積部8に蓄積される。つまり、積分ノード70が充電される。
【0042】
積分ゲート信号に応じてスイッチS
inがOFFになると、転送ゲート信号に応じてスイッチS
traがONにされる。すると、積分ノード70に充電されている電荷が電圧変換されて変換部9へ出力される。転送ゲート信号に応じてスイッチS
traがOFFにされると、リセットゲート信号に応じてスイッチS
rstがONにされ、変換部9がリセットされる。
【0043】
次に、電流積分器200を有する光子検出装置300について説明する。
図13は、電流積分器200を有する光子検出装置300の構成例を示す図である。光子検出装置300は、光子検出部(光電変換部)301、電源(電圧供給部)302、電流積分器200、A/D変換器303及び制御部304を有する。
【0044】
光子検出部301は、例えばクエンチング抵抗をそれぞれ直列に接続された複数のアバランシェフォトダイオード(APD)が二次元に配置されたシリコンフォトマルチプライヤ(SiPM)などである。光子検出部301は、例えば入射される光子数に応じた電荷量を示すパルス(フォトンカウンター信号)を生成し、パルスを組み合わせた電流を出力することにより、光子数の計数を可能にする。また、光子検出部301は、光電子増倍管などキャリア増倍機構を有する他の検出器であってもよい。
【0045】
電源302は、光子検出部301に対して所定の電圧を供給する。A/D変換器303は、電流積分器200が出力した電圧をA/D変換する。制御部304は、光子検出装置300を構成する各部を制御する。特に、制御部304は、A/D変換器303に入力される電圧範囲がA/D変換器303のダイナミックレンジと異なる場合に、電流積分器200に対して第1利得調整信号及び第2利得調整信号の少なくともいずれかを出力することにより、A/D変換器303に入力される電圧範囲をA/D変換器303のダイナミックレンジに近付けるように制御する。
【0046】
また、光子検出装置300を用いて放射線を検出する場合、シンチレータなどの蛍光体に放射線を入射し、蛍光体が発生させた光子(フォトン)を光子検出装置300が検出する。蛍光体が発生させる光子数は、蛍光体に入射される放射線のエネルギーに比例する。従って、蛍光体が発生させる光子数に応じてアバランシェフォトダイオードなどが発生させるパルスを計数することにより、放射線のエネルギーを測定することが可能である。
【0047】
次に、A/D変換器303に入力される電圧範囲をA/D変換器303のダイナミックレンジに近付けるように光子検出装置300が行う処理(最適化)について説明する。
図14は、A/D変換器303に入力される電圧範囲をA/D変換器303のダイナミックレンジに近付けるように光子検出装置300が行う処理を示す図である。
図15は、A/D変換器303に入力される電圧範囲をA/D変換器303のダイナミックレンジに近付けるように光子検出装置300が行う処理過程を例示するグラフである。
【0048】
A/D変換器303に入力される電圧範囲をA/D変換器303のダイナミックレンジに近付けるように制御する場合、例えば特定のエネルギーの放射線光子を放射する任意の放射線源が参照光源として用いられる。光子検出装置300は、放射線光子を受光した光子検出部301の出力を電流積分器200によって増幅させ、A/D変換器303がA/D変換した結果を光子検出装置300がヒストグラム化(ヒストグラム生成)する(
図14:S100)。
【0049】
制御部304は、A/D変換器303に入力される電圧範囲がA/D変換器303のダイナミックレンジに適した範囲であるか否かを判定(レンジアウト判定)する(S102)。制御部304は、A/D変換器303に入力される電圧範囲がA/D変換器303のダイナミックレンジに適した範囲である場合には、電流積分器200の出力範囲を確定させて範囲の最適化を完了させる(S104)。
【0050】
また、制御部304は、A/D変換器303に入力される電圧範囲がA/D変換器303のダイナミックレンジに適した範囲でない(レンジアウト)場合には、電流積分器200に対して第1利得調整信号及び第2利得調整信号の少なくともいずれかを出力することにより、A/D変換器303に入力される電圧範囲をA/D変換器303のダイナミックレンジに近付けるように制御する。
【0051】
即ち、制御部304は、A/D変換器303に入力される電圧範囲がA/D変換器303のダイナミックレンジに対してオーバーしている(オーバーレンジ)場合(S106)には、電流積分器200の利得を下げ(S108)、S100の処理に戻る。また、制御部304は、A/D変換器303に入力される電圧範囲がA/D変換器303のダイナミックレンジに対して不足している(レンジ不足)場合(S110)には、電流積分器200の利得を上げ(S112)、S100の処理に戻る。
【0052】
例えば、光子検出装置300によって取得したい放射線光子の最大エネルギーレンジが128keVであるとする。また、光子検出装置300におけるA/D変換器303の出力最大値が256binであるとすると、1binに割り当てられるエネルギーは0.5keV/binとなる。
【0053】
ここで、参照光源にコバルトが用いられるとする。コバルトは、122keVにエネルギーピークを有する放射線光子を放射する。このエネルギーピークは、最適化後のA/D変換器303の出力においては244binに相当する。よって、最適化完了の指標を244binに対して±1%以内にコバルトのエネルギーピークが入った時とする。
【0054】
光子検出装置300は、最適化開始前には、電流積分器200の利得が任意値に設定されている。ここで、光子検出装置300は、最適化を開始してヒストグラムを生成する。制御部304は、生成したヒストグラムを用いて、コバルトのピークが244bin±1%に対してレンジアウトしているか否かを判定する。このとき、例えば、
図15(a)に示したように、オーバーレンジであったとする。
【0055】
オーバーレンジの場合、制御部304は、電流積分器200の利得を下げる。そして、制御部304が再びヒストグラムを生成してレンジアウトしているか否かを判定したときに、例えば、
図15(b)に示したように、レンジ不足であったとする。
【0056】
レンジ不足の場合、制御部304は、電流積分器200の利得を上げる。そして、制御部304が再びヒストグラムを生成してレンジアウトしているか否かを判定したときに、例えば、
図15(c)に示したように、少しオーバーレンジであったとする。
【0057】
そして、制御部304は、再び電流積分器200の利得を下げた結果、
図15(d)に示したように、244binに対して±1%以内にコバルトのエネルギーピークが入ったときに、ダイナミックレンジの最適化が完了したとする。
【0058】
(実施例)
次に、放射線検出装置400として機能する光子検出装置300を有する放射線分析装置について説明する。
図16は、光子検出装置300を備えた放射線検出装置400を有する放射線分析装置の構成例を示す構成図である。
図17は、
図16に示した放射線分析装置における放射線検出装置400の位置を模式的に示した模式図である。放射線分析装置は、フォトンカウンティングCTを実行可能なX線CT装置である。すなわち、放射線分析装置は、放射線検出装置400を備え、フォトンカウンティングによって被検体を透過したX線に由来する光子も計数することにより、SN比の高いX線CT画像データを再構成可能な装置である。
【0059】
個々の光子は、異なるエネルギーを有する。フォトンカウンティングCTでは、光子のエネルギー値の計測を行なうことにより、X線のエネルギー成分の情報を得ることができる。フォトンカウンティングCTでは、1種類の管電圧でX線を照射することで収集されたデータを複数のエネルギー成分に分けて画像化することができる。
【0060】
図16に示すように、放射線分析装置は、架台装置10と、寝台装置20と、コンソール装置30とを有する。
【0061】
架台装置10は、被検体PにX線を照射し、被検体Pを透過したX線を計数する装置であり、X線照射制御部11と、X線発生装置12と、検出器13(放射線検出装置400を含む)と、収集部14と、回転フレーム15と、架台駆動部16とを有する。
【0062】
回転フレーム15は、X線発生装置12と検出器13とを被検体Pを挟んで対向するように支持し、後述する架台駆動部16によって被検体Pを中心とした円軌道にて高速に回転する円環状のフレームである。
【0063】
X線発生装置(放射線源)12は、X線を発生し、発生したX線を被検体Pへ照射する装置であり、X線管12aと、ウェッジ12bと、コリメータ12cとを有する。
【0064】
X線管12aは、後述するX線照射制御部11により供給される高電圧により被検体PにX線ビームを照射する真空管であり、回転フレーム15の回転にともなって、X線ビームを被検体Pに対して照射する。X線管12aは、ファン角及びコーン角を持って広がるX線ビームを発生する。
【0065】
ウェッジ12bは、X線管12aから曝射されたX線のX線量を調節するためのX線フィルタである。具体的には、ウェッジ12bは、X線管12aから被検体Pへ照射されるX線が、予め定められた分布になるように、X線管12aから曝射されたX線を透過して減衰するフィルタである。
【0066】
例えば、ウェッジ12bは、所定のターゲット角度や所定の厚みとなるようにアルミニウムを加工したフィルタである。なお、ウェッジは、ウェッジフィルタ(wedge filter)や、ボウタイフィルタ(bow-tie filter)とも呼ばれる。また、放射線分析装置は、撮影条件に応じて切り替えられる複数種類のウェッジ12bを有する。例えば、後述するX線照射制御部11は、撮影条件に応じてウェッジ12bを切り替える。例えば、X線発生装置12は、2種類のウェッジを有する。
【0067】
コリメータ12cは、後述するX線照射制御部11の制御により、ウェッジ12bによってX線量が調節されたX線の照射範囲を絞り込むためのスリットである。
【0068】
X線照射制御部11は、高電圧発生部として、X線管12aに高電圧を供給する装置であり、X線管12aは、X線照射制御部11から供給される高電圧を用いてX線を発生する。X線照射制御部11は、X線管12aに供給する管電圧や管電流を調整することで、被検体Pに対して照射されるX線量を調整する。
【0069】
また、X線照射制御部11は、ウェッジ12bの切り替えを行なう。また、X線照射制御部11は、コリメータ12cの開口度を調整することにより、X線の照射範囲(ファン角やコーン角)を調整する。なお、放射線分析装置は、複数種類のウェッジを、操作者が手動で切り替えるものであってもよい。
【0070】
架台駆動部16は、回転フレーム15を回転駆動させることによって、被検体Pを中心とした円軌道上でX線発生装置12と検出器13とを旋回させる。
【0071】
検出器13は、
図17に示した位置に放射線検出装置400を備え、X線が入射するごとに、当該X線のエネルギー値を計測可能な信号を出力する。放射線検出装置400は、図示しない蛍光体に入射されたX線により発生した光子を複数のAPDピクセルによって検出する構成となっている。X線は、例えば、X線管12aから照射され被検体Pを透過したX線である。放射線分析装置は、演算処理を行なうことで、放射線検出装置400が検出した放射線のエネルギー値を計測することができる。
【0072】
収集部14(
図16)は、検出器13の出力信号を用いた計数処理の結果である計数情報を収集する。すなわち、収集部14は、検出器13から出力される個々の信号を弁別して、計数情報を収集する。計数情報は、X線管12aから照射され被検体Pを透過したX線が入射するごとに検出器13が出力した個々の信号から収集される情報である。具体的には、検出器13に入射したX線の計数値とエネルギー値とが対応付けられた情報である。収集部14は、収集した計数情報を、コンソール装置30に送信する。
【0073】
寝台装置20は、被検体Pを載せる装置であり、天板22と、寝台駆動装置21とを有する。天板22は、被検体Pが載置される板であり、寝台駆動装置21は、天板22をZ軸方向へ移動して、被検体Pを回転フレーム15内に移動させる。
【0074】
なお、架台装置10は、例えば、天板22を移動させながら回転フレーム15を回転させて被検体Pをらせん状にスキャンするヘリカルスキャンを実行する。または、架台装置10は、天板22を移動させた後に被検体Pの位置を固定したままで回転フレーム15を回転させて被検体Pを円軌道にてスキャンするコンベンショナルスキャンを実行する。または、架台装置10は、天板22の位置を一定間隔で移動させてコンベンショナルスキャンを複数のスキャンエリアで行なうステップアンドシュート方式を実行する。
【0075】
コンソール装置30は、操作者による放射線分析装置の操作を受け付けるとともに、架台装置10によって収集された計数情報を用いてX線CT画像データを再構成する装置である。コンソール装置30は、入力装置31と、表示装置32と、スキャン制御部33と、前処理部34と、投影データ記憶部35と、画像再構成部36と、画像記憶部37と、制御部38とを有する。
【0076】
入力装置31は、放射線分析装置の操作者が各種指示や各種設定の入力に用いるマウスやキーボード等を有し、操作者から受け付けた指示や設定の情報を、制御部38に転送する。例えば、入力装置31は、操作者から、X線CT画像データの撮影条件や、X線CT画像データを再構成する際の再構成条件や、X線CT画像データに対する画像処理条件等を受け付ける。
【0077】
表示装置32は、操作者によって参照されるモニタであり、制御部38による制御のもと、X線CT画像データを操作者に表示したり、入力装置31を介して操作者から各種指示や各種設定等を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)を表示したりする。
【0078】
スキャン制御部33は、後述する制御部38の制御のもと、X線照射制御部11、架台駆動部16、収集部14及び寝台駆動装置21の動作を制御することで、架台装置10における計数情報の収集処理を制御する。
【0079】
前処理部34は、収集部14から送信された計数情報に対して、対数変換処理、オフセット補正、感度補正、ビームハードニング補正等の補正処理を行なうことで、投影データを生成する。
【0080】
投影データ記憶部35は、前処理部34により生成された投影データを記憶する。すなわち、投影データ記憶部35は、X線CT画像データを再構成するための投影データ(補正済み計数情報)を記憶する。なお、以下では、投影データを計数情報として記載する場合がある。
【0081】
画像再構成部36は、投影データ記憶部35が記憶する投影データを用いてX線CT画像データを再構成する。再構成方法としては、種々の方法があり、例えば、逆投影処理が挙げられる。また、逆投影処理としては、例えば、FBP(Filtered Back Projection)法による逆投影処理が挙げられる。また、画像再構成部36は、X線CT画像データに対して各種画像処理を行なうことで、画像データを生成する。画像再構成部36は、再構成したX線CT画像データや、各種画像処理により生成した画像データを画像記憶部37に格納する。
【0082】
ここで、フォトンカウンティングCTで得られる計数情報から生成された投影データには、被検体Pを透過することで減弱されたX線のエネルギー情報が含まれている。このため、画像再構成部36は、例えば、特定のエネルギー成分のX線CT画像データを再構成することができる。また、画像再構成部36は、例えば、複数のエネルギー成分それぞれのX線CT画像データを再構成することができる。
【0083】
また、画像再構成部36は、例えば、各エネルギー成分のX線CT画像データの各画素にエネルギー成分に応じた色調を割り当て、エネルギー成分に応じて色分けされた複数のX線CT画像データを生成することができ、更に、これら複数のX線CT画像データを重畳した画像データを生成することができる。
【0084】
また、画像再構成部36は、物質固有のK吸収端を利用して、当該物質の同定が可能となる画像データを生成することができる。K吸収端の前後では、X線の減弱係数が大きく異なるため、計数値も大きく変化する。例えば、画像再構成部36は、K吸収端より小さいエネルギー領域の計数情報を再構成した画像データと、当該K吸収端より大きいエネルギー領域の計数情報を再構成した画像データとを差分した差分画像データを生成する。例えば、造影剤の主成分のK吸収端を用いて生成された差分画像データは、当該造影剤が存在する領域が主に描出された画像となる。また、画像再構成部36が生成する他の画像データとしては、単色X線画像データや密度画像データ、実効原子番号画像データ等が挙げられる。
【0085】
制御部38は、架台装置10、寝台装置20及びコンソール装置30の動作を制御することによって、放射線分析装置の全体制御を行う。具体的には、制御部38は、スキャン制御部33を制御することで、架台装置10で行なわれるCTスキャンを制御する。また、制御部38は、前処理部34や、画像再構成部36を制御することで、コンソール装置30における画像再構成処理や画像生成処理を制御する。また、制御部38は、画像記憶部37が記憶する各種画像データを、表示装置32に表示するように制御する。
【0086】
なお、放射線検出装置400(光子検出装置300)は、上述したX線CT装置以外にも用いられる。例えば、放射線検出装置400は、X線診断装置、PET(Positron Emission computed Tomography)装置及びSPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)装置等の核医学イメージング装置、並びにX線CT装置と核医学イメージング装置とを組み合わせた「PET−CT装置」及び「SPECT−CT装置」等にも用いられる。また、放射線検出装置400は、PET装置の受光部として用いられ、MRI(磁気共鳴画像装置)が組み合わされた装置を構成してもよい。
【0087】
また、本発明のいくつかの実施形態を複数の組み合わせによって説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規の実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。