(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
X線光子の入射に応じて光子計数型の検出器が出力した信号によって計測されたエネルギーを、複数の第1のエネルギー帯のいずれかに振り分けることで、前記複数の第1のエネルギー帯それぞれの計数データである第1データ群を収集するデータ収集部と、
撮影部位における弁別対象の物質である弁別対象物質に応じて、前記複数の第1のエネルギー帯をグループ化した複数の第2のエネルギー帯を決定する決定部と、
前記複数の第2のエネルギー帯のいずれかに前記第1データ群を振り分けることで第2データ群を生成する振分部と、
前記第2データ群を用いて、前記弁別対象物質の分布に関する画像を生成する生成部と、
を備え、
前記複数の第2のエネルギー帯の幅は、それぞれが互いに異なり、
前記決定部は、前記撮影部位におけるX線の吸収率の、前記複数の第2のエネルギー帯それぞれでの積分値が同じになるように、前記複数の第2のエネルギー帯の幅を選択する、光子計数型X線CT装置。
前記決定部は、前記弁別対象物質が前記撮影部位に存在するか否かを判定し、前記撮影部位に前記弁別対象物質が存在すると判定した場合に、前記複数の第1のエネルギー帯の少なくとも一部をグループ化した第2のエネルギー帯を決定する、請求項1に記載の光子計数型X線CT装置。
前記決定部は、前記弁別対象物質に固有の所定のエネルギーが、隣接する前記複数の第2のエネルギー帯の略境界となるように前記複数の第2のエネルギー帯を決定する、請求項1又は請求項2に記載の光子計数型X線CT装置。
前記決定部は、前記第1データ群に基づいてエネルギースペクトルを推定し、当該推定したエネルギースペクトルに基づいて、前記弁別対象物質が前記撮影部位に存在するか否かを判定し、前記撮影部位に前記弁別対象物質が存在すると判定した場合に、前記複数の第2のエネルギー帯を決定し、
前記生成部は、前記決定部が前記弁別対象物質が存在すると判定した場合に、前記弁別対象物質の分布に関する画像を生成する、請求項1又は請求項2に記載の光子計数型X線CT装置。
前記入力部は、前記弁別対象物質の候補となる少なくとも1つの物質が対応付けられた入力受付パーツを少なくとも1つ有し、ユーザが操作した入力受付パーツに対応付けられた物質に関する情報を受け付ける、請求項6に記載の光子計数型X線CT装置。
前記入力部は、前記弁別対象物質となる物質を、ユーザからの求めに応じて1以上組み合わせた識別子を生成して前記識別子の情報を表示部に表示させ、前記表示部を参照したユーザから、前記弁別対象物質となる物質に関する情報を受け付ける、請求項6に記載の光子計数型X線CT装置。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、実施形態に係る光子計数型X線CT装置を説明する。
【0009】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1aの構成について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1aの構成例を示す図である。
図1に示すように、第1の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1aは、架台装置10aと、寝台装置20と、画像処理装置30aとを有する。
【0010】
架台装置10aは、被検体PにX線を照射して後述する投影データを収集する。架台装置10aは、架台制御部11と、X線発生装置12と、検出器13と、データ収集部14aと、回転フレーム15とを備える。
【0011】
架台制御部11は、後述するスキャン制御部33による制御のもと、X線発生装置12及び回転フレーム15の動作を制御する。架台制御部11は、高電圧発生部111と、コリメータ調整部112と、架台駆動部113とを備える。高電圧発生部111は、後述するX線管球121に管電圧を供給する。コリメータ調整部112は、コリメータ123の開口度及び位置を調整することにより、X線発生装置12から被検体Pに照射されるX線の照射範囲を調整する。例えば、コリメータ調整部112は、コリメータ123の開口度を調整することにより、X線の照射範囲、すなわち、X線のファン角及びコーン角を調整する。架台駆動部113は、回転フレーム15を回転駆動させることにより、被検体Pを中心とした円軌道上で、X線発生装置12及び検出器13を旋回させる。
【0012】
X線発生装置12は、被検体Pに照射するX線を発生する。X線発生装置12は、X線管球121と、ウェッジ122と、コリメータ123とを備える。X線管球121は、X線を発生させる。X線管球121は、高電圧発生部111により供給される管電圧により、被検体Pに照射するビーム状のX線を照射する。X線管球121は、被検体Pの体軸方向に沿って、円錐状、角錐状の広がりを有するビーム状のX線を発生させる真空管である。このビーム状のX線は、コーンビームとも呼ばれる。X線管球121は、回転フレーム15の回転に伴って、コーンビームを被検体Pに対して照射する。ウェッジ122は、X線管球121から照射されたX線のX線量を調節するためのX線フィルタである。コリメータ123は、コリメータ調整部112の制御により、ウェッジ122によってX線量が調節されたX線の照射範囲を絞り込むためのスリットである。
【0013】
検出器13は、被検体Pを透過したX線光子を計数するための複数の検出素子を有する。一例を挙げれば、第1の実施形態に係る検出器13が有する各検出素子は、テルル化カドミウム(CdTe)系の半導体である。すなわち、第1の実施形態に係る検出器13は、入射したX線を光に直接変換して、X線に由来する光を計数する直接変換型の半導体検出器である。
【0014】
図2は、検出器の一例を説明するための図である。例えば、第1の実施形態に係る検出器13は、
図2に示すように、テルル化カドミウムにより構成される検出素子40が、チャンネル方向(
図1中のY軸方向)にN列、体軸方向(
図1中のZ軸方向)にM列配置された面検出器である。検出素子40は、光子が入射すると、1パルスの電気信号を出力する。検出素子40が出力した個々のパルスを弁別することで、検出素子40に入射したX線に由来する光子(X線光子)の数を計数することができる。また、個々のパルスの強度に基づく演算処理を行なうことで、計数した光子のエネルギーを計測することができる。
【0015】
なお、以下では、検出器13が直接変換型の半導体検出器である場合について説明するが、第1の実施形態は、例えば、シンチレータと光センサとにより構成される間接変換型の検出器が検出器13として用いられる場合でも適用可能である。なお、光センサは、光電子増倍管や、アバランシェフォトダイオード(APD:Avalanche Photodiode)を用いたシリコンフォトマルチプライアー(SiPM:Silicon Photomultiplier)等である。
【0016】
データ収集部14aは、X線光子の入射に応じて光子計数型の検出器13が出力した信号によって計測されたエネルギーを、複数のエネルギー帯に振り分けたデータ群を収集する。具体的には、第1の実施形態に係るデータ収集部14aは、X線光子の入射に応じて光子計数型の検出器13が出力した信号によって計測されたエネルギーを、複数の第1のエネルギー帯のいずれかに振り分けることで、前記複数の第1のエネルギー帯それぞれの計数データである第1データ群を収集する。複数の第1のエネルギー帯としては、例えば、データ収集部14aで設定可能な最小限の個数の複数のエネルギー帯が設定される。例えば、データ収集部14aは、検出器13が出力したアナログデータであるパルスを、A/D(アナログ/デジタル)変換によりデジタルデータに変換し、十分数のエネルギーBIN(区間)として設定された複数の第1のエネルギー帯に振り分ける。
【0017】
データ収集部14aは、検出素子40が出力した各パルスを弁別して計数したX線光子の入射位置(検出位置)と、当該X線光子のエネルギーとを計数結果として、X線管球121の位相(管球位相、ビュー)ごとに収集する。データ収集部14aは、例えば、計数に用いたパルスを出力した検出素子40の位置を、入射位置とする。また、データ収集部14aは、例えば、パルスのピーク値とシステム固有の応答関数とから、エネルギーを演算する。或いは、データ収集部14aは、例えば、パルスの強度を積分することで、エネルギーを演算する。
【0018】
そして、データ収集部14aは、計数結果を、複数の第1のエネルギー帯のいずれかに振り分けることで、第1データ群を収集する。第1データ群は、例えば、『管球位相「α1」では、入射位置「P11」の検出素子40において、エネルギー範囲「E1L〜E1R」を有する光子の計数値が「N1」であり、エネルギー範囲「E2L〜E2R」を有する光子の計数値が「N2」である』といった情報となる。或いは、第1データ群は、計数結果は、『管球位相「α1」では、入射位置「P11」の検出素子40において、エネルギー範囲「E1L〜E1R」を有する光子の単位時間当たりの計数値が「n1」であり、エネルギー範囲「E2L〜E2R」を有する光子の単位時間当たりの計数値が「n2」である』といった情報となる。
【0019】
なお、複数の第1のエネルギー帯は、例えば、エネルギー分解能で定まるエネルギー帯であっても良い。かかる場合、計数結果が第1データ群を構成するデータとなり、第1データ群は、例えば、『管球位相「α1」では、入射位置「P11」の検出素子40において、エネルギー「E1」を有する光子の計数値が「NN1」である』といった情報となる。なお、例えば、検出器13がSiPMを用いた間接型検出器であり、エネルギー弁別の結果を示すデジタルデータを出力する検出器系システムの場合は、データ収集部14aは、検出器13が出力したデータを、第1データ群として収集する。
【0020】
回転フレーム15は、X線発生装置12と検出器13とを被検体Pを挟んで対向するように支持する円環状のフレームである。回転フレーム15は、架台駆動部113によって駆動され、被検体Pを中心とした円軌道上で高速で回転する。
【0021】
寝台装置20は、被検体Pを載せる装置であり、天板22と、寝台駆動装置21とを有する。天板22は、被検体Pが載置される板であり、寝台駆動装置21は、天板22をZ軸方向へ移動して、被検体Pを回転フレーム15内に移動させる。
【0022】
なお、架台装置10aは、例えば、天板22を移動させながら回転フレーム15を回転させて被検体Pをらせん状にスキャンするヘリカルスキャンを実行する。または、架台装置10aは、天板22を移動させた後に被検体Pの位置を固定したままで回転フレーム15を回転させて被検体Pを円軌道にてスキャンするコンベンショナルスキャンを実行する。または、架台装置10aは、天板22の位置を一定間隔で移動させてコンベンショナルスキャンを複数のスキャンエリアで行なうステップアンドシュート方式を実行する。
【0023】
画像処理装置30aは、ユーザによる光子計数型X線CT装置1aの操作を受け付けるとともに、架台装置10aによって収集された計数結果に基づくデータ群を用いてCT画像を再構成する装置である。画像処理装置30aは、
図1に示すように、入力部31と、表示部32と、スキャン制御部33と、前処理部34と、投影データ記憶部35と、画像再構成部36と、画像記憶部37と、データベース38aと、制御部39aと、決定部51と、振分部52とを有する。
【0024】
入力部31は、光子計数型X線CT装置1aのユーザが各種指示や各種設定の入力に用いるマウスやキーボード等を有し、ユーザから受け付けた指示や設定の情報を、制御部39aに転送する。例えば、入力部31は、ユーザからCT画像を再構成する際の再構成条件や、CT画像に対する画像処理条件等を受け付ける。
【0025】
表示部32は、ユーザによって参照されるモニタであり、制御部39aによる制御のもと、CT画像をユーザに表示したり、入力部31を介してユーザから各種指示や各種設定等を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)を表示したりする。
【0026】
スキャン制御部33は、制御部39aによる制御のもと、架台制御部11、データ収集部14a及び寝台駆動装置21の動作を制御する。具体的には、スキャン制御部33は、架台制御部11を制御することにより、光子計数型CT撮影を行う際に、回転フレーム15を回転させ、X線管球121からX線を照射させ、コリメータ123の開口度及び位置の調整を行う。また、スキャン制御部33は、制御部39aによる制御のもと、データ収集部14aを制御する。また、スキャン制御部33は、制御部39aによる制御のもと、被検体Pの撮像時において、寝台駆動装置21を制御することにより、天板22を移動させる。
【0027】
前処理部34は、データ収集部14aから送信されたデータ群に対して、対数変換処理、オフセット補正、感度補正、ビームハードニング補正等の補正処理を行なうことで、投影データを生成する。本実施形態では、前処理部34は、上記した第1データ群から投影データを生成する。
【0028】
投影データ記憶部35は、前処理部34により第1データ群から生成された投影データを記憶する。なお、以下では、第1データ群から生成された投影データを第1投影データ群と記載する。
【0029】
決定部51は、撮影部位における弁別対象の物質である弁別対象物質に応じて、複数の第1のエネルギー帯をグループ化した複数の第2のエネルギー帯を決定する。グループ化手続きとしては、例えば、弁別対象物質に固有の所定のエネルギーが、隣接する複数の第2のエネルギー帯の略境界となるようなグループ化を行う。すなわち、決定部51は、弁別対象物質に固有の所定のエネルギー情報をもとに、弁別対象物質の弁別に最適となる複数の第2のエネルギー帯を決定する。決定部51は、制御部39aを介して、入力部31やデータベース38aから、複数の第2のエネルギー帯を決定するための所定の情報を取得する。例えば、決定部51は、制御部39aを通じて、入力部31等から、弁別対象物質の候補の中から弁別対象物質を選択するユーザ操作を受け付ける。決定部51は、決定した複数の第2のエネルギー帯についての情報を、振分部52に通知する。複数の第2のエネルギー帯を決定する処理については後述する。グループ化手続きは、例えば制御部39aに記憶されており、決定部51は、必要に応じて、制御部39aから、グループ化手続きのパターンを取得してもよい。
【0030】
振分部52は、複数の第2のエネルギー帯のいずれかに第1データ群を振り分けることで第2データ群を生成する。本実施形態では、振分部52は、複数の第2のエネルギー帯のいずれかに第1投影データ群を振り分けることで第2投影データ群を生成する。第2データ群(第2投影データ群)の生成方法については後述する。振分部52は、投影データ記憶部35から第1投影データ群を取得し、決定部51から複数の第2のエネルギー帯に関する情報を取得する。振分部52は、振分け処理を行なって、第2投影データ群を生成したのち、第2投影データ群を画像再構成部36に送信する。なお、振分部52は、第2投影データ群を、投影データ記憶部35に格納することも可能である。
【0031】
画像再構成部36は、投影データ群の再構成処理を行う。再構成処理としては、例えば、FBP(Filtered Back Projection)法による逆投影処理が挙げられる。また、画像再構成部36は、再構成処理で得たCT画像から、各種画像を生成する。本実施形態では、画像再構成部36は、第2データ群(第2投影データ群)を用いて、撮影部位における弁別対象物質の分布に関する画像を生成する。すなわち、画像再構成部36は、最適なエネルギー帯に振り分けられた第2投影データ群をもとに、弁別対象物質を強調した画像を生成する。画像再構成部36は、再構成したCT画像や、各種画像処理により生成した画像を画像記憶部37に格納する。なお、画像再構成部36は、生成部とも呼ばれる。
【0032】
ここで、光子計数型CTで得られる投影データには、被検体Pを透過することで減弱されたX線のエネルギーの情報が含まれている。このため、画像再構成部36は、例えば、特定のエネルギー成分のCT画像を再構成することができる。また、画像再構成部36は、例えば、複数のエネルギー成分それぞれのCT画像を再構成することができる。
【0033】
また、画像再構成部36は、例えば、各エネルギー成分のCT画像の各画素にエネルギー成分に応じた色調を割り当て、エネルギー成分に応じて色分けされた複数のCT画像を重畳した画像を生成することができる。また、画像再構成部36は、物質固有のK吸収端を利用して、当該物質の同定が可能となる画像を生成することができる。画像再構成部36が生成する他の画像としては、単色X線画像や密度画像、実効原子番号画像等が挙げられる。
【0034】
データベース38aは、複数の物質それぞれのX線吸収スペクトルに関する情報を記憶するデータベースである。すなわち、データベース38aは、分析化学的情報を記憶するデータベースである。データベース38aは、外部の分析化学データベースの情報を用いて、分析化学的な様々な情報を更新して保持することが可能である。例えば、データベース38aは、元素ごとにそれぞれのX線に対する特異的なエネルギーをテーブルとして記憶する。分子や複数の物質からなる構成物質の場合は、このエネルギーテーブルから特異的なエネルギーを計算することができる。
【0035】
制御部39aは、架台装置10a、寝台装置20及び画像処理装置30aの動作を制御することによって、光子計数型X線CT装置1aの全体制御を行う。具体的には、制御部39aは、スキャン制御部33を制御することで、架台装置10aで行なわれるCTスキャンを制御する。また、制御部39aは、前処理部34や、画像再構成部36を制御することで、画像処理装置30aにおける画像再構成処理や画像生成処理を制御する。また、制御部39aは、画像記憶部37が記憶する各種画像を、表示部32に表示するように制御する。制御部39aは、投影データ記憶部35、決定部51、振分部52、画像再構成部36を制御し、データベース38a、入力部31、表示部32との所定の情報のやりとりを媒介する。
【0036】
次に、第1の実施形態に係る光子計数型X線CT装置で行われる物質弁別について概略を説明する。
【0037】
従来のX線CT装置では、積分型検出器により、エネルギーに関して積分したX線の強度が得られるため、撮像部位内の各部分がどのような物質で構成されているかは、CT値を用いて大まかにわかるに過ぎなかった。一方、光子計数型X線CT装置では、被検体Pを透過したX線の光子の数をカウントし、そのエネルギーを計測することで、複数のエネルギー帯ごとの投影データを得ることができる。ここで、原子は、量子力学的な固有のエネルギー準位を持ち、X線に対する原子のX線吸収率の、エネルギーの関数としてみたときの非連続な振る舞いは、その固有のエネルギー準位に対応する。従って、X線吸収率のエネルギー依存性を利用することで、X線が照射された被検体P内が、どのような元素で構成されているかを推定することができる。光子計数型X線CT装置においては、弁別対象物質が与えられたとき、例えば、弁別対象物質の密度分布画像等、弁別対象物質が存在する領域を示す画像を生成することができる。弁別対象物質としては、Ca、I等の元素や、水等の分子、また、骨や合金といった複数の物質からなる構成要素が具体例として挙げられる。
【0038】
一例として、弁別対象物質に固有な所定のエネルギー値を略境界として隣接する低エネルギー側の区間である区間Aと、高エネルギー側の区間である区間Bとを考える。弁別対象物質に固有な所定のエネルギー値の前後では、弁別対象物質のX線吸収率が大きく変動する。よって、区間Aの投影データから再構成した画像Aと、区間Bの投影データから再構成した画像Bとを生成し、例えば、画像Aから画像Bを差し引くことで、X線吸収率が大きく変動する弁別対象物質が存在する領域が主に抽出された画像を得ることができる。或いは、例えば、ビュー単位で、区間Aの投影データであるデータAから区間Bの投影データであるデータBを差し引いた差分投影データ群を再構成することで、弁別対象物質が存在する領域が主に抽出された画像を得ることができる。或いは、撮像部位内に、複数の弁別対象物質のみが存在するという仮定の元、エネルギー帯ごとに連立方程式をたて、この連立方程式を解くことで、直接、弁別対象物質に関する空間密度分布を求めても良い。
【0039】
なお、前述の差分画像が、着目する弁別対象物質を示す画像となる理由は以下の通りである。一般に、物質のX線吸収率のエネルギー依存性は、K吸収端のような弁別対象物質に固有なエネルギー値の場合を除いて、連続的なエネルギー依存性を示すことが期待される。従って、弁別対象物質以外の物質に対しては、例えば、前述のデータAからデータBを差し引くと、その値は小さな値になると期待される。しかしながら、弁別対象物質の場合には、弁別対象物質に固有のエネルギーを挟んでX線吸収率が大きく変化するため、前述のデータAの値と、データBの値が大きく異なる。従って、データAからデータBを差し引くと、その値は大きな値になると期待される。以上のことより、前述の差分投影データ群は、弁別対象物質の密度に応じて、弁別対象物質が存在するときにのみ大きな値をとり、弁別対象物質が存在しないときは値が小さくなる。従って、差分投影データ群は、弁別対象物質に由来する信号を示すデータ群であると考えることができる。
【0040】
このようにして、光子計数型X線CT装置は、予め指定(プリセット)された弁別対象物質(着目物質)に応じて、弁別対象物質の密度分布に対応する画像を生成し出力することができる。
【0041】
しかし、物質弁別のために最適となるエネルギー帯は、弁別対象物質ごとに異なる。
図3は、弁別対象物質に対して設定された最適なエネルギー帯を説明するための図であり、
図4は、弁別対象物質に対して設定された不適切なエネルギー帯を説明するための図である。
【0042】
原子は、例えば1s軌道等、固有のエネルギー準位を持っている。X線を原子に照射すると、原子に固有のエネルギー準位に対応するエネルギーでは、X線に対する吸収が大きくなる。従って、X線の吸収率(線減弱係数)を、入射X線のエネルギーの関数としてプロットすると、X線の吸収率が、エネルギーの関数として、非連続に変化する。そのような例として、例えば、K吸収端が良く知られている。X線が、原子の1s軌道の束縛状態にある電子をたたき出して光電効果を起こすのに伴い、当該束縛状態のエネルギーに対応するX線を物質が吸収する。K吸収端とは、このような状態に対応した物質に固有のエネルギー値である。弁別対象物質に固有の所定のエネルギー値としては、K吸収端の他に、L吸収端、M吸収端等がある。
【0043】
図3の上図に示すグラフG1は、物質AのX線の吸収率を、X線のエネルギーの関数として表した時の、期待される振る舞いの一例を表したグラフである。この例では、物質AのX線の吸収率は、低エネルギーから高エネルギー側に行くに従って小さくなった後、エネルギー値Ev3で急激に上昇した後、再度、高エネルギー側に行くに従って小さくなっていくことを示している。エネルギー値Ev3が、物質Aに固有の所定のエネルギー値である。この例では、物質Aに固有の所定のエネルギー値であるエネルギー値Ev3が、隣接するエネルギー帯の略境界となる4つのエネルギー帯(エネルギー帯E11、エネルギー帯E12、エネルギー帯E13、エネルギー帯E14)が定められている。
【0044】
1番目のエネルギー帯E11は、エネルギー値が、エネルギー値Ev1以上であり、エネルギー値Ev2未満であるエネルギー帯を表す。同様に、2番目のエネルギー帯E12は、エネルギー値Ev2以上であり、エネルギー値Ev3未満であるエネルギー帯を表わし、3番目のエネルギー帯E13は、エネルギー値Ev3以上であり、エネルギー値Ev4未満であるエネルギー帯を表し、4番目のエネルギー帯E14は、エネルギー値Ev4以上であり、エネルギー値Ev5未満であるエネルギー帯を表す。
【0045】
図3の下図は、エネルギー帯E11、エネルギー帯E12、エネルギー帯E13、エネルギー帯E14それぞれの物質AのX線の吸収率を各エネルギー帯で積分した積分値のヒストグラムを示す。長方形L121の高さ及び長方形L131の高さは、物質Aに固有の所定のエネルギー値Ev3を境にした低エネルギー側のエネルギー帯E12での積分値と、高エネルギー側のエネルギー帯E13での積分値とを示している。各エネルギー帯の幅が一定の場合、X線の吸収率は、X線のエネルギーが大きくなるにしたがって減少していくのが普通であるところ、エネルギー帯E12とエネルギー帯E13とでは、積分値の大小関係が通常と逆転していることがわかる。このことから、エネルギー帯E12の投影データと、エネルギー帯E13の投影データとを用いることで、物質Aを適切に画像化することができる。
【0046】
一方、
図4は、物質Aでは最適であるエネルギー帯E11、エネルギー帯E12、エネルギー帯E13、エネルギー帯E14を、物質Bに適用した場合を示している。
図4の上図のグラフG2は、物質BのX線の吸収率を、X線のエネルギーの関数として表した時の、期待される振る舞いの一例を表したグラフである。
図4の上図では、エネルギー値80が、物質Bに固有の所定のエネルギー値である。
図4の上図に示す一例では、エネルギー帯E13の中に、物質Bに固有のエネルギーEv4が存在している。すなわち、
図4の上図に示す一例では、物質Bに固有のエネルギーEv4が、隣接するエネルギー帯の略境界となってはいない。
【0047】
図4の下図は、エネルギー帯E11、エネルギー帯E12、エネルギー帯E13、エネルギー帯E14それぞれでの物質BのX線の吸収率を各エネルギー帯で積分した積分値のヒストグラムを示す。
【0048】
長方形L122の高さ及び長方形L132の高さそれぞれは、エネルギー帯E12での積分値と、固有のエネルギーEv4を含むエネルギー帯E13での積分値とを示している。
図3のように、物質Aに固有のエネルギーEv3が、隣接するエネルギー帯の略境界となっている場合と異なり、
図4では、弁別対象物質である物質Bに固有のエネルギーEv4が、隣接するエネルギー帯の略境界となっていないため、X線吸収率のエネルギー帯E13での積分値は、隣接するエネルギー帯E12での積分値と、大きく値が異ならないものになっている。このことは、エネルギー帯E13の投影データと、エネルギー帯E12の投影データとを用いても、物質Bを適切に画像化できないことを示している。従って、物質Aの弁別に最適な複数のエネルギー帯は、物質Bの弁別にとっては、不適切となる。
【0049】
換言すると、上述した内容は、物質を適切に画像化にするためには、少なくとも、弁別対象物質に固有の所定のエネルギー値が、隣接するエネルギー帯の略境界となるように、エネルギー帯を決定することで実現可能であることを示している。
【0050】
そこで、決定部51は、弁別対象物質に固有の所定のエネルギー情報をもとに、第1投影データ群を、弁別対象物質の弁別に最適となる複数の第2のエネルギー帯を決定する。具体的には、複数の第2のエネルギー帯は、撮影部位における弁別対象の物質である弁別対象物質に応じて、複数の第1のエネルギー帯をグループ化したエネルギー帯である。グループ化手続きの例としては、例えば、弁別対象物質に固有の所定のエネルギー値が、隣接する複数の第2のエネルギー帯の略境界となるようなグループ化が行われる。
【0051】
図5から
図7は、グループ化手続きについて説明する図である。なお、以下では、物質A及び物質Bの2つの物質が、入力部31を用いたユーザの操作により弁別対象物質として選択されたことに伴い、制御部39aが、物質A及び物質Bそれぞれに固有なエネルギー値をデータベース38aから取得して、決定部51に通知したとする。
【0052】
第1投影データ群は、第1のエネルギー帯ごとに振り分けられた投影データ群として、投影データ記憶部35に保存されている。
図5の点線は、第1投影データ群が振り分けられている、第1のエネルギー帯の境界を表している。例えば、第1のエネルギー帯E1〜E12は、第1投影データ群が振り分けられている一つの第1のエネルギー帯を表す。複数の第1のエネルギー帯ごとに、当該複数の第1のエネルギー帯それぞれの計数データが、投影データ記憶部35に、第1投影データ群として、記憶されている。
【0053】
図5において、グラフG11は、物質AのX線吸収率のエネルギー依存性を表す。物質Aは、エネルギーEAにおいて、物質Aに固有の所定のエネルギーを持つ。グラフG12は、物質BのX線吸収率のエネルギー依存性を表したものである。物質Bは、物質Aの固有の所定のエネルギーとは異なるエネルギーEBにおいて、物質Bに固有の所定のエネルギーを持つ。上述したように、決定部51は、弁別対象物質に応じて、複数の第2のエネルギー帯を定める。例えば、決定部51は、弁別対象の物質である弁別対象物質に固有の所定のエネルギーが、隣接するエネルギー帯の略境界となるように複数の第2のエネルギー帯を定める。すなわち、物質Aについては、エネルギーEAが、物質Bについては、エネルギーEBが、第2のエネルギー帯の略境界となるように、複数の第2のエネルギー帯が定められる。
【0054】
この点について、
図6及び
図7を用いて説明する。
図6は、弁別対象物質として、物質Aが選択された場合における、グループ化手続き(グループ化処理)について説明した図である。エネルギー帯E101、E102、E103、E104は、それぞれが物質Aに対して決定された第2のエネルギー帯である。ここで、グループ化手続きにより、第1のエネルギー帯が、第2のエネルギー帯に束ねられる。例えば、第1のエネルギー帯E1、E2、E3は束ねられて第2のエネルギー帯E101となる。他の区間についても同様である。
【0055】
物質Aが存在する領域が主に抽出された画像を生成する方法の一例として、例えば、画像再構成部36は、第2のエネルギー帯E102の第2の投影データから再構成した画像A1と、第2のエネルギー帯E103の第2の投影データから再構成した画像A2とを生成する。そして画像再構成部36は、画像A1から画像A2を差し引くことで、物質Aが存在する領域が主に抽出された画像を得ることができる。
【0056】
図7は、弁別対象物質として、物質Bが選択された場合における、グループ化手続きについて説明した図である。エネルギー帯E201、E202、E203、E204は、それぞれが、物質Bに対して決定された第2のエネルギー帯である。ここで、グループ化手続きにより、第1のエネルギー帯が、第2のエネルギー帯に束ねられる。例えば、第1のエネルギー帯E3、E4、E5は束ねられて第2のエネルギー帯E202となる。他の区間についても同様である。
【0057】
物質Bが存在する領域が主に抽出された画像を生成する方法の一例として、例えば、画像再構成部36は、第2のエネルギー帯E202の第2の投影データから再構成した画像B1と、第2のエネルギー帯E203の第2の投影データから再構成した画像B2とを生成する。そして画像再構成部36は、画像B1から画像B2を差し引くことで、物質Bが存在する領域が主に抽出された画像を得ることができる。
【0058】
グループ化手続きにおいて、
図6及び
図7では、第2のエネルギー帯それぞれが等間隔になるグループ化手続きが定められる例を示したが、実施形態はこれに限られない。例えば、本実施形態は、第2のエネルギー帯それぞれが互いに異なる間隔になるようにグループ化手続きが定められてもよい。
【0059】
例えば、第2のエネルギー帯それぞれにおける、X線の吸収率の複数の第2のエネルギー帯それぞれでの積分値がおおよそ同じ程度になるように、第2のエネルギー帯の幅を選択することにより、グループ化手続きを定めてもよい。また、例えば、X線の強度そのものが小さく、そのままでは信号雑音強度が低いと期待されるエネルギーでは、第2のエネルギー帯の幅を広くとるようにグループ化手続きを定めてもよい。
【0060】
また、第2のエネルギー帯として、すべてのエネルギー範囲を第2のエネルギー帯として複数の第2のエネルギー帯が定められる例を示したが、実施形態はこれに限られない。例えば、弁別対象物質に固有の所定のエネルギーが、隣接するエネルギー帯の略境界となる2つの第2のエネルギー帯のみを定めて複数の第2のエネルギー帯とし、その他のエネルギー範囲のデータは、画像再構成に使用しなくともよい。
【0061】
また、エネルギーが、弁別対象物質に固有の所定のエネルギーに近い、所定の数の第2のエネルギー帯のみを定めて複数の第2のエネルギー帯とし、その他のエネルギー範囲のデータは、画像再構成に使用しなくともよい。また、エネルギーが、入射X線強度が所定の強度以上であるようなエネルギー値に対応する第2のエネルギー帯のみを定めて複数の第2のエネルギー帯とし、その他のエネルギー範囲のデータは、画像再構成に使用しなくともよい。
【0062】
次に、
図8を用いて、弁別対象物質の指定を受け付けることで行われる、決定部51の処理について、説明する。
図8は、第1の実施形態に係る複数の第2のエネルギー帯の決定処理の一例を示すフローチャートである。
図8に例示するように、制御部39aは、弁別対象物質の指定を受け付けたかどうかを判定する(ステップS101)。弁別対象物質の指定を受け付けていないと判定した場合(ステップS101否定)、制御部39aは、弁別対象物質の指定を受け付けるまで待機する。弁別対象物質の指定を受け付けたと判定した場合(ステップS101肯定)、制御部39aは、データベース38aに、指定を受け付けた弁別対象物質に固有のエネルギーを送信するように要求する旨の信号を送信する。データベース38aは、制御部39aから信号を受信すると、データベースを検索し、弁別対象物質に対応する固有のエネルギーの値を取得し、制御部39aに送信する。この結果、制御部39aは、弁別対象物質に固有のエネルギー値を取得する(ステップS102)。制御部39aは、取得した弁別対象物質に固有のエネルギーの値を、決定部51に送信する。
【0063】
決定部51は、制御部39aから、弁別対象物質に固有のエネルギーの値を取得すると、各弁別対象物質に対して、複数の第2のエネルギー帯を決定する(ステップS103)。決定部51は、複数の第2のエネルギー帯を決定すると、その結果を振分部52に通知し(ステップS104)、処理を終了する。
【0064】
次に、
図9を用いて、複数の第2のエネルギー帯が決定された後に行われる画像生成処理について説明する。
図9は、第1の実施形態に係る画像生成処理の一例を示すフローチャートである。
【0065】
図9に例示するように、制御部39aは、第1データ群に基づく第1投影データ群が投影データ記憶部35に格納されたかを判定する(ステップS201)。ここで、第1投影データ群が格納されていないと判定した場合(ステップS201否定)、制御部39aは、第1投影データ群が投影データ記憶部35に格納されるまで待機する。
【0066】
一方、第1投影データ群が投影データ記憶部35に格納された場合(ステップS201肯定)、決定部51は、弁別対象物質を選択する(ステップS202)。振分部52は、決定部51で決定された複数の第2のエネルギー帯をもとに、選択された弁別物質に対応する第2の各エネルギー帯に、第1データ群を振り分ける(ステップS203)。そして、画像再構成部36は、振分部52によって第2のエネルギー帯に分割されたデータをもとに、画像を生成する(ステップS204)。生成された画像は、必要に応じて、表示部32で表示される。
【0067】
ステップS202で選択された弁別対象物質に関する画像の再構成が終了すると、制御部39aは、すべての弁別対象物質について処理が行われたか否かを判定する(ステップS205)。制御部39aが、すべての弁別物質について処理が行われたと判定した場合には(ステップS205肯定)、一連の処理は終了する。制御部39aが、すべての弁別物質について処理が行われていないと判定した場合には(ステップS205否定)、処理はステップS202へと戻り、決定部51は、弁別対象物質を選択する(ステップS202)。この一連の処理は、制御部39aが、ステップS205肯定と判断するまで続けられる。
【0068】
上述したように、第1の実施形態では、弁別対象の物質に固有の所定のエネルギーが、隣接するエネルギー帯の略境界となるようにエネルギー帯のグループ化が行われ、グループ化されたエネルギー帯中のエネルギーに基づいて物質弁別された画像の再構成が行われる。これにより、弁別対象物質(着目物質)の空間密度分布画像を生成することができる。
【0069】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。第1の実施形態では、弁別対象として指定された物質全てに対して、画像生成処理を行う場合について説明した。これに対して、第2の実施形態では、積分型検出器を用いたCT装置と同様の再構成でCT値を求め、弁別対象として指定された物質が撮影範囲に存在すると判断された場合に、画像生成処理を行う。
【0070】
第2の実施形態に係る光子計数型X線CT装置の画像再構成部36は、第1データ群の全て又は第1データ群の一部を用いた再構成処理によりCT画像を生成する。そして、第2の実施形態に係る光子計数型X線CT装置の決定部51は、CT画像のCT値と、弁別対象物質に対応するCT値とに基づいて、弁別対象物質が撮影部位に存在するか否かを判定し、撮影部位に弁別対象物質が存在すると判定した場合に、複数の第2のエネルギー帯を決定する。また、第2の実施形態に係る光子計数型X線CT装置の画像再構成部36は、決定部51が弁別対象物質が存在すると判定した場合に、弁別対象物質の分布に関する画像を生成する。
【0071】
上記の処理について、
図10を用いて説明する。
図10は、第2の実施形態に係る光子計数型X線CT装置の処理の一例を説明するためのフローチャートである。なお、複数の第2のエネルギー帯の決定処理については、第1の実施形態において
図8のフローチャートで説明したのと同様であるので、説明を省略する。
【0072】
図10に例示するように、第2の実施形態に係る光子計数型X線CT装置の制御部39aは、第1データ群に基づく第1投影データ群が投影データ記憶部35に格納されたかを判定する(ステップS301)。ここで、第1データ群に基づく第1投影データ群が格納されていないと判定した場合(ステップS301否定)、制御部39aは、第1投影データ群が投影データ記憶部35に格納されるまで待機する。
【0073】
一方、第1投影データ群が投影データ記憶部35に格納された場合(ステップS301肯定)、決定部51は、画像再構成部36に、CT画像を再構成するよう要求する信号を送信する。決定部51から、要求信号を受信すると、画像再構成部36は、投影データ記憶部35から、第1投影データ群を取得する。第1投影データ群をもとに、画像再構成部36は、全てのエネルギー帯又は一部のエネルギー帯について積分することで生成した投影データ群から、CT画像を再構成する(ステップS302)。このステップについては後述する。
【0074】
画像再構成部36は、CT画像を生成すると、その結果を決定部51に通知する。また、画像再構成部36は、必要に応じて、表示部32に、再構成したCT画像を表示してもよい。
【0075】
次に、決定部51は、弁別対象物質を選択する(ステップS303)。ここで、決定部51は、必要に応じて、制御部39aを通じて、入力装置31から、ユーザの入力を受け付け、その結果を基に弁別対象物質を選択してもよい。決定部51は、CT画像のCT値と、弁別対象物質に対応するCT値とに基づいて、弁別対象物質が撮影部位に存在するか否かを判定する(ステップS304)。このステップについては後述する。決定部51が、弁別対象物質が撮影部位に存在しないと判定した場合(ステップS304否定)、当該弁別対象物質が撮影部位に存在しないのであるから、第1投影データ群を第2のエネルギー帯に振分け、さらに画像再構成を行う価値はないと判断し、当該弁別対象物質に対する処理は終了し、ステップS307へと進む。
【0076】
決定部51が、弁別対象物質が撮影部位に存在すると判定した場合(ステップS304肯定)。振分部52は、決定部51で決定された複数の第2のエネルギー帯をもとに、選択された弁別物質に対応する第2の各エネルギー帯に、第1データ群を振り分ける(ステップS305)。振分部52は、生成した第2データ群を、画像再構成部36に通知する。振分部52から第2投影データ群を取得した画像生成部36は、第2投影データ群を用いて、撮影部位における弁別対象物質の分布に関する画像を生成する(ステップS306)。必要に応じて、画像生成部36は、生成した画像を、画像記憶部37に記憶させてもよく、また、制御部39aを通じて生成した画像を表示部32を通じて表示させてもよい。画像再構成部36は、弁別物質に関する画像の再構成が終わると、その結果を制御部39aに通知する。
【0077】
ステップS304否定またはステップS306が終了すると、制御部39aは、全ての弁別対象物質について処理を行ったか否かを判定する(ステップS307)。制御部39aは、必要に応じて、入力部31を通じて、ユーザからの入力を受け付け、その結果をもとに、全ての弁別対象物質について処理を行ったか否かを判断してもよい。制御部39aが、全ての弁別対象物質について処理を行ったと判断すると(ステップS307肯定)、第2の実施形態に係る光子計数型X線装置は、処理を終了する。制御部39aが、全ての弁別対象物質については処理を行っていないと判断すると(ステップS307否定)、制御部39aは、ステップS303に戻り、決定部51に、弁別対象物質を選択させる。制御部39aは、以上の処理を、全ての弁別対象物質について処理を行ったと判断するまで行う。
【0078】
次に、ステップS302の処理に関して説明する。ステップS302では、画像再構成部36は、投影データ記憶部35から取得した第1データ群の全て、または一部を用いた再構成処理によりCT画像を生成する。ここでいう、第1データ群の全てを用いた再構成処理では、例えば、従来型のX線CT装置のように、CT値の空間分布画像を示す画像が再構成される。
【0079】
第2の実施形態において、この操作を行う理由は、以下の通りである。X線吸収率のエネルギー依存性を考慮した画像再構成は、従来のような、エネルギー依存性を考慮しない積分型の画像再構成に比べ、精度よく物質弁別を行うことを可能にする。しかしながら、エネルギー依存性を考慮した画像再構成は、従来型の画像再構成に比べ、計算時間や計算機資源を多く必要とする。したがって、第2の実施形態においては、第1段階として、より簡便な方法で、弁別対象物質に関する弁別をCT値を用いて大まかに行い、より詳しい計算を行う価値があるかどうかを判定する。より詳しい計算を行う価値があると認められる場合にのみ、第1の実施形態で述べた振分け処理を行い画像再構成を行う。
【0080】
また、画像再構成部36が、「投影データ記憶部35から取得した第1投影データ群の一部を用いた再構成処理を行う」とは、例えば、各検出器ごとに算出されたX線吸収率を、一部のエネルギーに関してのみ積分し、その後例えばFBPのような再構成手法を用いて、CT値の空間分布画像を生成することなどが挙げられる。ここでいう一部のエネルギーの具体例としては、例えば、X線の強度そのものが大きいようなエネルギー領域を選択する、などの例が挙げられる。X線の強度が小さいエネルギー領域のデータを利用しない理由としては、例えば、検出する光子の個数が十分な統計量ないために、当該エネルギーでは信号雑音強度比が小さくなるため、信号雑音強度比が小さいデータを除いて再構成をすることがその理由としてあげられる。
【0081】
また、ステップS304の処理に関して説明する。ステップS304では、決定部51は、CT画像のCT値と、弁別対象物質に対応するCT値とに基づいて、弁別対象物質が撮影部位に存在か否かを判定する。ここで、CT画像のCT値と、弁別対象物質に対応するCT値に基づく、という意味は、例えば、単純にCT画像のCT値の中に、弁別対象物質に対応するCT値に近い値が存在するか否かをもとに判定する。同じような性質の物質であれば、CT値はおおむね同じような値となることから、CT値のおおまかな値がわかれば、それがどのような物質であるのかはおおむね推測することができる。したがって、CT値から、おおよその構成物質を推定することができる。しかしながら、CT値は、例えばK吸収端を利用する方法に比べ、物質弁別性に乏しいことから、第2のエネルギー帯を用いた後段の処理を用いることで、物質弁別を精度よく行うことができる。
【0082】
上述したように、第2の実施形態では、第2データ群を生成しそれを用いて画像再構成を行う前に、予備的に画像再構成を用いて、弁別対象物質が撮影領域に存在するか否かを判断する。これにより、弁別対象物質が撮影領域に存在しない場合の、ユーザの待ち時間を短縮できる。
【0083】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。第2の実施形態では、第1データ群のすべて又は一部を用いた再構成処理によりCT画像を簡易な方法で再構成し、その結果をもとに、第2データ群を生成しそれを用いて弁別対象物質に対する画像再構成を行うか否かを決定した。第3の実施形態では、あらかじめ簡易な方法で画像を再構成し、その結果を基に、第2データ群を生成しそれを用いて弁別対象物質に対する画像再構成を行うか否かを決定する点では同じであるが、画像を再構成する簡易な方法として、第2の実施形態とは異なる方法を用いる。
【0084】
第3の実施形態に係る光子計数型X線CT装置は、決定部51が、第1データ群に基づいてエネルギースペクトルを推定する。次に、決定部51が、推定したエネルギースペクトルに基づいて、弁別対象物質が撮影部位に存在するか否かを判定し撮影部位に弁別対象物質が存在すると判定した場合に、複数の第2のエネルギー帯を決定する。画像再構成部は、決定部51が、弁別対象物質が存在すると判定した場合に、弁別対象物質の分布に関する画像を生成する。
【0085】
第3の実施形態では、ステップS302及びステップS304を除いては、第2の実施形態と同じ手続きで処理が行われる。
【0086】
第2の実施形態におけるステップS302に代えて、第3の実施形態では、ステップS302において、画像再構成部36が、第1データ群に基づいてエネルギースペクトルを推定する。
【0087】
ここで、決定部51が、第1投影データ群に基づいてエネルギースペクトルを推定するとは、具体的には、例えば各検出器で検出したエネルギーごとの光子計数結果を、X線エネルギー吸収率に変換し、それを単純にすべての検出素子40について和をとり、吸収率に対応する量のエネルギー依存性、すなわちエネルギースペクトルを推定してもよい。また別の方法として、全ての検出素子40について、エネルギー吸収率に対応した量の和を取るのではなく、特定の検出素子40のみ、例えば信号強度の大きい検出素子40のみ、和を取り、エネルギースペクトルを推定してもよい。また例えば、いわゆる1-viewでの計数結果に基づいて、エネルギースペクトルを簡易的に推定してもよい。
【0088】
第2の実施形態におけるステップS304に代えて、第3の実施形態では、ステップS304において、決定部51が、推定されたエネルギースペクトルに基づいて、弁別対象物質が撮影部位に存在するか否かを判定する(ステップS304)。決定部51が、弁別対象物質が撮影部位に存在すると判定した場合は(ステップS304肯定)、第2の実施形態におけるステップS304肯定の場合と同じ処理が行われ、決定部51が、弁別対象物質が撮影部位に存在しないと判断した場合は(ステップS304否定)、第2の実施形態におけるステップS304否定の場合と同じ処理が行われる。
【0089】
ここで、決定部51が、弁別対象物質が撮影部位に存在するか否かを判定する方法としては、例えば、決定部51が推定したエネルギースペクトルが、当該弁別対象物質に固有の所定のエネルギー値の付近で、エネルギーの関数として非連続に振る舞うか否かを判定すればよい。これにより、弁別対象物質が撮影部位に存在するかを、一定の精度を持って判定することができる。
【0090】
このように、第3の実施形態では、弁別対象物質が存在しない場合、さらにユーザの待ち時間を短縮することができる。
【0091】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。第4の実施形態では、弁別対象物質の指定を受け付けるためのユーザ出入力インタフェースの一例について説明する。第4の実施形態では、表示部32は、データベース38aから、弁別対象物質の候補となる物質の一覧を取得し、ユーザに弁別対象物質の候補となる物質の一覧を表示する。入力部31は、表示部32を参照したユーザから、弁別対象物質名の選択又は入力を受け付け、決定部51に通知する。
【0092】
図11は、第4の実施形態に係るX線CT装置の備えるユーザインタフェースの一例を説明した図である。モニタは表示部32として機能し、データベース38aから、弁別対象物質の候補となる物質の一覧を取得し、ユーザに弁別対象物質の候補となる物質の一覧を表示する。キーボード及びマウスは、入力部31として機能し、表示部32を参照したユーザから、弁別対象物質名の選択又は入力を受け付ける。入力部31は、ユーザのキー入力またはマウス操作を感知すると、決定部51に通知する。
【0093】
表示態様の第1の例としては、表示部32は、弁別対象物質の候補となる物質の一覧を、モニタに表示させることによりユーザに情報を通知する。表示態様の第2の例としては、表示部32は、タブレット端末のように、表示装置が入力装置と一体化した表示装置を用いて、ユーザに情報を通知する。
【0094】
入力部31により入力装置がユーザから情報を受け付ける方法の例としては、例えば、入力装置をキーボードとして、キーボードからユーザのキー入力を受け付けてもよい。入力装置をマウスとして、クリック、ドラッグ&ドロップなどのユーザのマウス入力を受け付けてもよい。入力装置をタブレット端末として、タブレット端末上に表示されるボタンをユーザがタッチすることで、ユーザからの入力を受け付けてもよい。入力装置をハードウェアスイッチとして、ユーザがハードウェアスイッチを動かすことによりユーザからの入力を受け付けてもよい。入力装置として、例えばトグルスイッチ、ラジオボタンなどを用いて、ユーザからの選択入力を受け付けてもよい。
【0095】
このように、第4の実施形態に係る光子計数型X線CT装置は、ユーザ入力インタフェースを備えることにより、ユーザの指示を効率的に決定部51に伝達することができる。また、ユーザ出力インタフェースを備えることにより、ユーザは、決定部51への指示内容や、決定部51の出力結果を確認することができる。その結果、ユーザの利便性を高めることができる。
【0096】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態について説明する。第5の実施形態に係る光子計数型X線CT装置は、ユーザ入力インタフェースとして、キーボードのキーに代表される入力受付パーツ(ハードウェアスイッチなど)を備え、それを用いて着目物質の情報を入力する。
【0097】
第5の実施形態では、入力部31は、弁別対象物質の候補となる少なくとも一つの物質が対応付けられた入力受付パーツを少なくとも一つ有し、ユーザが操作した入力受付パーツに対応付けられた物質を、弁別対象物質として受け付ける。入力部31は、受け付けた情報を、制御部39aを通じて、決定部51に通知する。
【0098】
図12は、第5の実施形態に係るX線CT装置の備えるユーザインタフェースの一例を説明した図である。タブレット端末におけるタッチパネルが、入力部31として機能し、ユーザから弁別対象物質の選択入力を受け付ける。「Gd」「I」「H
2O」「Ca」「その他の物質」と表示されたタッチパネル上のボタンが、それぞれ入力受付パーツとして機能する。例えば、「Gd」は、「ガドリウム」という弁別対象物質に、「I」は「ヨウ素」という弁別対象物質に対応する。タブレット端末は、受け付けた情報を、通信回線を通じて、決定部51に通知する。
【0099】
上記の例とは別の入力受付パーツの第1の例としては、キーボードのキー一つ一つが挙げられる。例えば、キーボードのキー「1」に、弁別対象物質Aが対応づけられ、キーボードのキー「2」に、弁別対象物質Bが対応づけられている。ユーザが、弁別対象物質に対応づけられたキーボードのキーを押すと、入力部31は、ユーザが操作したキーに対応付けられた物質を、情報として受け付ける。
【0100】
入力受付パーツの第2の例としては、表示画面上に表示されたボタンが挙げられる。例えば、表示画面上に表示された「第1のボタン」に、弁別対象物質Aが対応づけられ、「第2にボタン」に、弁別対象物質Bが対応づけられている。ユーザが、弁別対象物質に対応づけられたボタンを、マウス操作により選択すると、入力部31は、ユーザが操作したボタンに対応付けられた物質を、情報として受け付ける。
【0101】
入力受付パーツの第3の例としては、例えば、トグルスイッチのように、電気回路を流れる電流をコントロールするスイッチが挙げられる。例えば、スイッチが「ON」であるとき、弁別対象物質Aが選択され、スイッチが「OFF」であるとき、弁別対象物質が選択されない。入力部31は、ユーザがスイッチを「ON」にすると、対応付けられた弁別対象物質を、情報として受け付ける。
【0102】
このように、第5の実施形態に係る光子計数型X線CT装置は、ユーザ入力インタフェースとして、入力受付パーツを備えることで、ユーザの利便性を高めることができる。
【0103】
(第6の実施形態)
次に、第6の実施形態について説明する。第6の実施形態に係る光子計数型X線CT装置の入力部31は、弁別対象物質となる物質を、ユーザからの求めに応じて1以上組み合わせた識別子を生成して当該識別子の情報を表示部32に表示させ、表示部32を参照したユーザから、情報を受け付ける。一つの側面を例示すると、弁別対象物質となる物質を1以上組み合わせた識別子をユーザからの求めに応じて生成して選択ボタンとし、選択ボタンに対応する弁別対象物質を選択できるようにすることで、ユーザがよく使用する着目物質を選択しやすくすることがあげられる。
【0104】
前述した、「弁別対象物質となる物質を、ユーザからの求めに応じて1以上組み合わせた識別子」とは、例えば、「第1の設定」という識別子が、「第1の弁別対象物質名」、「第2の弁別対象物質名」、及び「第3の弁別対象物質名」という3つの変数と対応づけられているような例を表す。
【0105】
すなわち、「第1の設定」という識別子に対応して、第1の弁別対象物質名の値が所定の値であり、第2の弁別対象物質名の値が所定の値であり、第3の弁別対象物質名の値が所定の値である状況と関連づけられている。第1の弁別対象物質名の値としては、例えば、"Gd"といった文字列型の値をとっても良いし、"1"といった数値型の値を取ってもよい。変数は、必要に応じて論理式型の値を取っても良い。
【0106】
入力部31は、制御部39aを通じて、必要に応じて、ユーザからの求めに応じて1以上組み合わせた識別子の情報を、表示部32に表示させる。例えば、表示部32は、「第1の設定」という識別子に対して、「第1の弁別対象物質」「第2の弁別対象物質」「第3の弁別対象物質」という変数が関連付けられている旨を表示する。また、表示部32は、「第1の弁別対象物質」の値が所定の値であり、「第2の弁別対象物質」の値が所定の値であり、「第3の弁別対象物質」の値が所定の値である旨の情報を表示する。
【0107】
入力部31は、識別子の情報が表示部32に表示されると、ユーザから情報を受け付ける。例えば、ユーザが、「第1の設定を撮影パラメータとして登録する」と書かれたボタンの上に、カーソルをあわせ、ユーザがマウスを押下すると、入力部31は、「第1の設定」という識別子に対応する情報を、撮影パラメータとして受け付ける。具体的には、入力部31は、「第1の設定」という識別子にどのような情報が対応づけられているかを解釈し、弁別対象物質が全部で3つある旨の情報及び「第1の弁別対象物質」「第2の弁別対象物質」「第3の弁別対象物質」の所定の値を、制御部39aに通知する。制御部39aが取得した変数の値は、決定部51に通知される。また、入力部31は、弁別対象物質の変更をユーザから受け付けてもよい。
【0108】
また、第6の実施形態の変形例として、ユーザが良く使用する弁別対象物質が、表示画面上に容易に識別可能に配置され、ユーザが良く使用する弁別対象物質を選択しやすくできるようにしてもよい。第1の例として、ユーザが良く使用する弁別対象物質に対応する識別子が、容易に識別可能に表示装置に表示されてもよい。第2の例として、目立つ位置に表示装置に表示されてもよい。第3の例として、ユーザが良く使用する、弁別対象物質を1以上組み合わせた識別子が、目立つ色で若しくは目立つ位置に表示装置に表示されてもよい。第4の例として、ユーザが良く使用する、弁別対象物質に対応する識別子若しくは弁別対象物質を1以上組み合わせた識別子が、デフォルト値として初期設定されていてもよい。
【0109】
このように、第6の実施形態に係る光子計数型X線CT装置は、弁別対象物質となる物質を、ユーザからの求めに応じて1以上組み合わせた識別子を生成し、識別子の情報を表示装置に表示させる。表示装置を参照したユーザが、当該識別子を選択すると、対応する弁別対象物質の情報が、決定部51に通知される。この結果、ユーザは、弁別対象物質の情報をいちいち入力しなくて済むので、ユーザの利便性を高めることができる。
【0110】
(第7の実施形態)
次に、第7の実施形態について説明する。第7の実施形態に係る光子計数型X線CT装置の決定部51は、弁別対象物質を、ユーザが設定しなくても自動的に設定可能に構成される。すなわち、一つの例として、決定部51は、ユーザが、常に選択しておきたいと思う弁別対象物質をデフォルトで選択する。また、もう一つの例として、決定部51は、使用頻度に応じて弁別対象物質を自動的に設定可能に構成される。
【0111】
第7の実施形態では、決定部51は、撮影の度にユーザが弁別対象物質を毎回入力するまでもなく、弁別対象物質の候補を自動的に選択する。具体的には、第7の実施形態に係る光子計数型X線CT装置の決定部51は、過去に行われた撮影の撮影条件と撮影条件下で弁別対象物質として選択された物質とが対応付けられたデータから、現時点で行われる撮影の撮影条件に該当する物質を推定し、推定した物質を弁別対象物質として複数の第2のエネルギー帯を決定する。
【0112】
ここで、過去に行われた撮影の撮影条件とは、例えば、使用した造影剤の種類、撮影対象の臓器、被検体の性別や年齢、身長、体重、病名、撮影時間、患者ID,治療を行った医師名、病院名などである。第7の実施形態において、制御部39aは、撮影が行われるたびに、その時の撮影条件を取得し、データベース38aに通知する。また、制御部39aは、決定部51で弁別対象物質が決定されると、弁別対象物質に関する情報を、決定部51から取得し、弁別対象物質の情報を、データベース38aに通知する。
【0113】
データベース38aは、制御部39aを通じて取得した撮影条件に関する条件と、その撮影の時に決定部51で選択された弁別物質に対する情報を、対応づけて記憶する。決定部51は、撮影条件及び撮影条件に関連付けられて記憶された、選択された弁別物質に関する情報をもとに、撮影の撮影条件に該当する物質を推定し、推定した物質を弁別対象物質と推定する。
【0114】
推定方法の第1の例として、決定部51は、使用頻度の高い弁別対象物質を、弁別対象物質として選択する。推定方法の第2の例として、使用された造影剤の種類の情報を基に弁別対象物質を選択する。推定方法の第3の例として、疾患名の情報を基に弁別対象物質を選択する。推定方法の第4の例として、撮影対象の患者を治療する医師が、過去に多く選択している弁別対象物質を、弁別対象物質として選択する。推定方法の第5の例として、用いている造影剤に含まれる元素を弁別対象物質として自動的に選択する。
【0115】
決定部51は、このようにして弁別対象物質を決定すると、第1の実施形態で述べた手続きにより、複数の第2のエネルギー帯を決定する。複数の第2のエネルギー帯を決定した決定部51は、振分部52に複数の第2のエネルギー帯の情報を通知する。振分部52は第2データ群を生成し、画像再構成部36が生成された第2データ群をもとに画像再構成を行う。
【0116】
上述したように、第7の実施形態では、撮像のたびに、ユーザが弁別対象物質を選択するまでもなく、決定部51が、弁別対象物質の候補を推定し、それにより着目物質のプリセットが行われる。ユーザがいちいちパラメータを入力しなくても、自動的に弁別対象物質が選択されるので、ユーザの利便性を高めることができる。
【0117】
また、第7の実施形態の変形例として、決定部51は、推定方法として、過去に行われた撮影条件と撮影条件下で弁別対象物質として選択された物質とが対応付けられたデータを基に推定する方法とともに、入力部31を通じて、ユーザから、「常に選択しておきたい弁別対象物質」の入力を受け付ける。決定部51は、これらのデータ及びユーザからの入力を基に、弁別対象物質として選択する。
【0118】
なお、決定部51は、推定方法として、過去のデータを利用せず、ユーザから入力を受け付けた、「常に選択しておきたい弁別対象物質」のみを基に、弁別対象物質を選択しても良い。
【0119】
(第8の実施形態)
次に、第8の実施形態について説明する。これまでの実施形態では、弁別対象物質に固有の所定のエネルギーの値は、データベース38aが保持しきてきた。しかしながら、弁別対象物質が分子や混合物の場合、すべての弁別物質対象に対して、当該弁別物質対象に固有の所定のエネルギー値を、データベース38aが保持できるとは限らない。第8の実施形態に係る光子計数型X線CT装置における決定部51は、このような場合でも、弁別物質に固有のエネルギー値を算出する。具体的には、第8の実施形態に係る光子計数型X線CT装置は、弁別対象物質の組成をもとに算出された値を、弁別対象物質に固有のエネルギー値として用いる。
【0120】
算出方法の第1の例として、分子や複数の物質からなる構成物質の特異的なエネルギーを計算する方法として、元素の組成比や、重量比から、弁別対象物質に特異的なエネルギーを算出する。算出方法の第2の例として、弁別対象物質が、既知の物質に少量の不純物が混じっている混合物である場合、当該既知の物質に特徴的な固有のエネルギーを基準として、混じっている不純物の量に比例する比例定数に、混じっている不純物の量を乗じた値を、既知の物質に特徴的な固有のエネルギーに加えたものを、弁別対象物質に固有のエネルギーを推定する。
【0121】
第8の実施形態が適用可能な場面の一つの例として、被検体に埋め込まれた金属、特に合金の物質弁別が挙げられる。金属はX線を散乱させいわゆるメタルアーチファクトを生じさせる。金属、特に合金に特徴的な固有のエネルギーを推定することで、物質弁別が可能になる。その結果、生成された被検体の画像から、メタルアーチファクトの寄与を正しく差し引くことが可能になる。
【0122】
上述したように、第8の実施形態では、決定部51は、弁別対象物質の組成をもとに、弁別対象物質に固有の所定のエネルギーを算出する。これにより、弁別対象物質に固有のエネルギーが、データベース38aに存在しない場合であっても、弁別対象物質を算出することができる。
【0123】
なお、上記の第1の実施形態から第8の実施形態では、前処理部34が第1データ群から生成した第1投影データ群を、振分部52が振り分けることで第2データ群としての第2投影データ群を生成する場合について説明した。しかし、上記の第1の実施形態から第8の実施形態は、振分部52が第1データ群を振り分けることで第2データ群を生成し、前処理部34が第2データ群から第2投影データ群を生成する場合であっても良い。かかる場合、振分部52は、画像処理装置30aにおいて前処理部34の前段に設置される場合であっても、架台装置10aにおいてデータ収集部14aの後段に設置される場合であっても良い。また、上記の第1の実施形態から第8の実施形態では、決定部51が、グループ化手続きとして、弁別対象の物質である弁別対象物質に固有の所定のエネルギー値が、隣接する第2のエネルギー帯の略境界となるようなグループ化手続きを用いる例を説明した。しかし、グループ化手続きの例としては、弁別対象物質に固有の所定のエネルギーそのものが、生成された第2のエネルギー帯の境界と一致しないようなグループ化手続きを採用してもよい。例えば、複数の第2のエネルギー帯のうちの一つの区間が、K吸収端の上端付近から始まる区間とし、また、複数の第2のエネルギー帯のうち他の一つの区間が、K吸収端の下端付近から始まる区間とするようなグループ化手続きを採用してもよい。例えば、
図6において、エネルギー帯E101,E102,E103,E104を、第2のエネルギー帯として決定する例について説明したが、エネルギー帯E102の代わりに、エネルギー帯E4及びエネルギー帯E5を束ねた区間を一つの第2のエネルギー帯とし、エネルギー帯E103の代わりに、エネルギー帯E8及びエネルギー帯E9を束ねた区間を一つの第2のエネルギー帯としてもよい。かかる場合には、信号強度の変化の激しいK吸収端そのものからデータを取得することを避けることにより、確実にK吸収端より低エネルギー側であるデータ及び、確実にK吸収端より高エネルギー側であるデータを得ることができる。すなわち、上記の例では、弁別対象物質のK吸収端の測定値が理想値から揺らぐ場合でも、弁別対象物質を弁別可能な複数の第2のエネルギー帯を決定することができる。その結果、上記の例では、弁別対象物質を確実に弁別可能な画像を得ることができる。また、例えば、複数の第2のエネルギー帯のうちの一つの区間と、複数の第2のエネルギー帯のうちの他の一つの区間とが、それぞれの区間の有する「ノイズ総量」がおおむね等しくなるように、エネルギー帯をグループ化するようなグループ化手続きを採用してもよい。かかる場合には、各々のエネルギー帯の有する誤差が同程度になることで、最終的に出力される画像の有する誤差を軽減することができる。
【0124】
また、上記の第1の実施形態から第8の実施形態で説明した光子計数型イメージング方法は、光子計数型X線CT装置とは独立に設置された画像処理装置において実行される場合であっても良い、かかる画像処理装置は、光子計数型X線CT装置から第1データ群を取得することで、上記の第1の実施形態から第8の実施形態で説明した光子計数型イメージング方法を実行することができる。
【0125】
(第9の実施形態)
まず、
図13を参照しながら、第9の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bの構成について説明する。
図13は、第9の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bの構成を示す図である。光子計数型X線CT装置1bは、
図13に示すように、架台装置10bと、寝台装置20と、画像処理装置30bとを備える。第9の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bは、光子計数型CT撮影を実行可能な装置である。なお、光子計数型X線CT装置1bの構成は、下記の構成に限定されるものではない。また、以下の説明では、上述した構成についての説明は適宜省略する。
【0126】
架台装置10bは、被検体PにX線を照射して後述する投影データを収集する。架台装置10bは、架台制御部11と、X線発生装置12と、検出器13と、データ収集部14bと、回転フレーム15とを備える。
【0127】
検出器13は、入射したX線に基づく信号を出力する複数の検出素子を有する。すなわち、検出器13は、チャンネル方向及びスライス方向に複数の検出素子を有する多列検出器である。チャンネル方向は回転フレーム15の円周方向、スライス方向は被検体Pの体軸方向である。検出器13が有する検出素子は、X線の光子が一つ入射するごとに、光子のエネルギーの計測及び数の計数が可能なパルス状の電気信号を出力する。後述するデータ収集部14bは、この電気信号の数を計数することで、それぞれの検出素子に入射した光子の数を計数することができる。また、後述するデータ収集部14bは、パルスの波形に基づいた演算処理を行うことで、その電気信号の出力を引き起こした光子のエネルギーを計測することができる。
【0128】
検出器13が有する検出素子は、例えば、テルル化カドミウム(CdTe)系の半導体素子であり、検出器13は、所謂、直接変換型の検出器である。直接変換型の検出器とは、検出素子に入射した光子を直接、電気信号に変換する検出器である。検出器13から出力される電気信号は、光子の入射によって発生する電子が正電位の集電電極に向かって走行すること及び光子の入射によって発生する正孔が負電位の集電電極に向かって走行することの少なくとも一方で出力される。なお、
図13に示す検出器13は、所謂、間接変換型の検出器でもよい。間接変換型の検出器とは、検出素子に入射した光子をシンチレータによりシンチレータ光に変換し、シンチレータ光を光電子増倍管等の光センサにより電気信号に変換する検出器である。
【0129】
データ収集部14bは、検出器13が出力する電気信号を用いて計数処理を行った結果である計数情報を収集する。計数情報は、光子の計数値と、X線管球121の位置、光子が入射した検出素子の位置及び光子のエネルギーとが互いに対応付けられた情報である。ここで、X線管球121の位置は、ビューと呼ばれる。さらに、データ収集部14bは、電気信号から計測した各光子のエネルギーに応じて、光子の計数値を予め設定された複数のエネルギー帯に振り分けることで、所定の幅を持ったエネルギー帯ごとの投影データを生成する。投影データの各点の輝度値は、光子数を表す。なお、計数情報が含んでいる光子の計数値は、単位時間当たりの値でもよい。単位時間当たりの光子の計数値は、計数率と呼ばれる。なお、光子の計数値を予め設定された複数のエネルギー帯に振り分ける処理は、画像処理装置30bで行われてもよい。
【0130】
図14は、第9の実施形態で用いられる複数のエネルギー帯を示す図である。例えば、
図14に示したように、光子計数型X線CT装置1bは、X線管球121から照射されるX線のエネルギー分布上に、同じエネルギー幅のエネルギー帯E10、エネルギー帯E20、エネルギー帯E30、エネルギー帯E40、エネルギー帯E50及びエネルギー帯E60を設定することができる。なお、エネルギー帯の設定は、データ収集部14bや画像処理装置30bで行われる。
【0131】
データ収集部14bは、例えば、X線管球121の各位置での各検出素子において、収集した光子の計数値を光子のエネルギーごとに分類し、
図14に示したエネルギー帯E10、エネルギー帯E20、エネルギー帯E30、エネルギー帯E40、エネルギー帯E50、エネルギー帯E60のいずれか一つに振り分ける。これにより、データ収集部14bは、エネルギー帯E10、エネルギー帯E20、エネルギー帯E30、エネルギー帯E40、エネルギー帯E50及びエネルギー帯E60の投影データを生成する。
【0132】
なお、X線管球121から照射されるX線のエネルギー分布上にエネルギー帯を設定する方法は、
図14に示したものに限定されない。エネルギー帯の数、エネルギー帯の幅等は、任意に設定することができる。また、複数のエネルギー帯は、一部重複していてもよい。さらに、第9の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bは、複数のエネルギー帯の設定が、ユーザにより任意に変更できるように構成されてもよい。例えば、後述する制御部39bは、エネルギー帯の設定情報を架台装置10bに通知することで、データ収集部14bが行う光子の計数値の振り分けを制御する。
【0133】
データ収集部14bは、収集した各エネルギー帯の投影データを画像処理装置30bに送信する。例えば、データ収集部14bは、X線管球121の各位置における投影データを、サイノグラムのデータ形式にまとめて送信する。サイノグラムとは、X線管球121の各位置において検出器13が検出した信号を並べたデータである。サイノグラムは、X線管球121の位置であるビュー方向及び上述したチャンネル方向を軸とする二次元直交座標系に、検出器13が検出した信号を割り当てたデータである。なお、データ収集部14bは、スライス方向の列単位で、サイノグラムを生成する。以下の説明では、投影データがサイノグラムである場合を例として説明する。なお、データ収集部14bは、DAS(Data Acquisition System)とも呼ばれる。
【0134】
寝台装置20は、寝台駆動装置21と、天板22とを備え、被検体Pが載置される。寝台駆動装置21は、後述するスキャン制御部33による制御のもと、被検体Pが載置される天板22をZ軸方向へ移動させることにより、被検体Pを回転フレーム15内で移動させる。なお、架台装置10bは、架台装置10aが行うスキャンと同様のスキャンを実行することができる。
【0135】
画像処理装置30bは、入力部31と、表示部32と、スキャン制御部33と、前処理部34と、投影データ記憶部35と、画像再構成部36と、画像記憶部37と、データ処理部38bと、制御部39bとを備える。
【0136】
スキャン制御部33は、制御部39bによる制御のもと、第1の実施形態に係るスキャン制御部33と同様の制御を行う。
【0137】
前処理部34は、データ収集部14bによって生成された投影データに対して、対数変換、オフセット補正、感度補正、ビームハードニング補正、散乱線補正等の補正処理を施し、これを投影データ記憶部35に格納する。なお、前処理部34により補正処理が施された投影データは、生データ(Raw Data)とも呼ばれる。
【0138】
投影データ記憶部35は、生データ、すなわち前処理部34によって補正処理が施された投影データを記憶する。画像再構成部36は、投影データ記憶部35に記憶された投影データを再構成し、再構成画像を生成する。再構成方法としては、種々の方法があり、例えば、逆投影処理が挙げられる。また、逆投影処理としては、例えば、FBP(Filtered Back Projection)法が挙げられる。なお、画像再構成部36は、例えば、逐次近似法により、再構成処理を行っても良い。画像再構成部36は、生成した再構成画像を画像記憶部37に格納する。
【0139】
なお、上述した投影データ記憶部35及び画像記憶部37は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等で実現することができる。また、上述したスキャン制御部33、前処理部34、画像再構成部36及び制御部39bは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路又はCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)等の電子回路で実現することができる。
【0140】
データ処理部38bは、取得部381bと、特定部382bと、生成部383bとを備える。取得部381bは、X線管球121から照射されるX線のエネルギー分布上に設定された複数のエネルギー帯の投影データが収集された被検体Pの内部の所定の領域に存在し得る物質の中から物質弁別すべき対象物質に関する情報を取得する。取得部381bが取得する物質弁別すべき対象物質に関する情報には、ユーザが選択した物質弁別の対象物質が含まれる。特定部382bは、複数のエネルギー帯の中から、物質弁別に使用するエネルギー帯を特定する。生成部383bは、特定部382bが特定したエネルギー帯の投影データを用いて物質弁別を行い、物質弁別の結果を表示するための画像を生成する。
【0141】
制御部39bは、架台装置10b、寝台装置20及び画像処理装置30bの動作を制御することによって、光子計数型X線CT装置1bを制御する。制御部39bは、スキャン制御部33を制御してスキャンを実行させ、架台装置10bから投影データを収集する。制御部39bは、前処理部34を制御して投影データに上述した補正処理を施す。制御部39bは、投影データ記憶部35が記憶する投影データや画像記憶部37が記憶する画像を表示部32に表示するように制御する。制御部39bは、データ処理部38bを制御して物質弁別を行う。
【0142】
以下、
図15から
図19を参照しながら、データ処理部38bが行う物質弁別について、詳細に説明する。
図15は、第9の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bが行う物質弁別の手順を示すフローチャートである。
図16は、第9の実施形態における投影データ群の一例を示す図である。
図17は、第9の実施形態における再構成画像の一例を示す図である。
図18は、
図15のステップS13で行われる手順を示すフローチャートである。
図19は、第9の実施形態における選択用画像の一例を示す図である。
【0143】
図15に示すように、制御部39bは、架台装置10b、寝台装置20及び画像処理装置30bを制御して光子計数型CT撮影を実行させて投影データ群を収集し、前処理部34を制御して投影データ群が含む各投影データに上述した補正処理を施す(ステップS11)。
図16に示すように、投影データ群PJは、複数のエネルギー帯の投影データを含む。すなわち、投影データ群PJは、
図14に示したエネルギー帯E10、エネルギー帯E20、エネルギー帯E30、エネルギー帯E40、エネルギー帯E50及びエネルギー帯E60の投影データを含む。各エネルギー帯の投影データは、
図16に示すように、縦方向がビュー方向、横方向がチャンネル方向となっている。なお、
図16では、各エネルギー帯の投影データは、ビュー方向及びチャンネル方向をそろえた状態で、エネルギー方向に並べて示されている。収集された投影データ群PJは、投影データ記憶部35に記憶される。
【0144】
図15に示すように、画像再構成部36は、投影データ記憶部35に記憶された投影データ群PJが含む各投影データを再構成し、
図17に示した再構成画像群Imを生成する(ステップS12)。
図17に示すように、再構成画像群Imは、複数のエネルギー帯の再構成画像を含む。すなわち、再構成画像群Imは、
図14に示したエネルギー帯E10、エネルギー帯E20、エネルギー帯E30、エネルギー帯E40、エネルギー帯E50及びエネルギー帯E60の再構成画像を含む。各エネルギー帯の再構成画像は、
図17に示すように、第1方向と、第1方向と直交する第2方向とを軸とする二次元直交座標系に、線減弱係数、CT値等を割り当てたデータである。つまり、再構成画像の各画素の輝度値は、線減弱係数、CT値等を表している。なお、
図17では、各エネルギー帯の再構成画像は、第1方向及び第2方向をそろえた状態で、エネルギー方向に並べて示されている。生成された再構成画像群Imは、画像記憶部37に記憶される。
【0145】
図15に示すように、制御部39bは、データ処理部38bを制御して物質弁別を行い、物質弁別の結果を表示するための画像を生成する(ステップS13)。ここで、物質弁別の結果を表示するための画像とは、物質弁別の対象物質に関する情報を表示する画像を表示するためのデータを指す。物質弁別の対象物質に関する情報としては、種別、存在量、密度等が挙げられる。表示部32は、画像を受信し、物質弁別の結果を示す画像を表示する(ステップS14)。次に、ステップS13の詳細について説明する。
【0146】
図18に示すように、表示部32は、
図19に示した選択用画像Sを表示する(ステップS401)。
図19に示すように、選択用画像Sは、ポインタPo、表示領域D、ボタンB並びに複数のエネルギー帯の投影データが収集された被検体Pの内部の所定の領域に存在し得る物質と共に表示されるチェックボックスCK1、チェックボックスCK2、チェックボックスCK3及びチェックボックスCK4を備える。複数のエネルギー帯の投影データが収集された被検体Pの内部の所定の領域に存在し得る物質とは、物質弁別の対象の候補を意味する。選択用画像Sに表示される物質弁別の候補は、予め設定されており、その数は特に限定されない。
【0147】
図19に示すように、選択用画像Sは、複数のエネルギー帯の投影データから導出される再構成画像が表示される表示領域Dを含む。表示領域Dには、例えば、全エネルギー再構成画像が表示される。全エネルギー再構成画像とは、再構成画像群Imが含む全ての再構成画像の各画素の輝度値を合算することで得られる再構成画像である。なお、表示領域Dに表示される画像は、全エネルギー再構成画像に限定されない。例えば、制御部39bは、表示部32に、エネルギー帯E10、エネルギー帯E20、エネルギー帯E30、エネルギー帯E40、エネルギー帯E50、エネルギー帯E60それぞれに対応する投影データのうち少なくとも二つの投影データ各画素の光子の計数値を合算した投影データを再構成することで得られる再構成画像を表示してもよい。また、制御部39bは、過去に収集したX線の線量が大きな全エネルギー再構成画像を表示してもよい。
【0148】
物質弁別の対象物質とは、線減弱係数及びそのエネルギー依存性が分かっている物質や組織を意味する。また、チェックボックスと共に表示されるものは、物質や組織に限定されない。例えば、選択用画像にチェックボックスと共に臓器や疾患の名称を表示し、臓器や疾患を選択すると、選択した臓器や疾患に関連した物質弁別の対象物質の候補がチェックボックスと共に表示されるようにしてもよい。
【0149】
図18に示すように、制御部39bは、ユーザが物質弁別を行う画素上で、選択用画像Sを用いて選択した物質弁別の対象物質を受け付けたか否かを判定する(ステップS402)。
【0150】
まずユーザは、表示領域Dに表示された全エネルギー再構成画像上で、ポインタPoを用いて物質弁別を行う画素を選択する。次にユーザは、
図19に示したチェックボックスCK1、チェックボックスCK2、チェックボックスCK3及びチェックボックスCK4を用いて、物質弁別の対象物質を選択する。ユーザは、チェックボックスCK1にチェックを入れると、物質弁別の対象物質に空気を含めることができる。ユーザは、チェックボックスCK2にチェックを入れると、物質弁別の対象物質に血液を含めることができる。ユーザは、チェックボックスCK3にチェックを入れると、物質弁別の対象物質にヨード造影剤を含めることができる。ユーザは、チェックボックスCK4にチェックを入れると、物質弁別の対象物質にプラークを含めることができる。
【0151】
制御部39bが、ユーザが物質弁別を行う画素上で、選択用画像Sを用いて選択した物質弁別の対象物質を受け付けた場合(ステップS402肯定)、ステップS403に進む。制御部39bが、ユーザが物質弁別を行う画素上で、選択用画像Sを用いて選択した物質弁別の対象物質を受け付けていない場合(ステップS402否定)、ステップS402に戻る。
【0152】
図18に示すように、取得部381bは、ステップS402でユーザが選択した物質弁別の対象物質に関する情報を取得する(ステップS403)。なお、取得部381bが取得しない物質や組織は、ユーザがポインタPoを用いて選択した物質弁別を行う画素に存在しないものとして取り扱われる。
【0153】
図18に示すように、取得部381bは、表示領域Dに表示された再構成画像上において物質弁別の対象物質の選択が終了した旨を受け付けたか否かを判断する(ステップS404)。ユーザは、物質弁別の対象物質の選択が終了した場合、ポインタPoを用いてボタンBを押下し、物質弁別の対象物質の選択が終了した旨の情報を入力する。つまり、取得部381bは、ユーザによって、表示領域Dに表示された再構成画像上において物質弁別の対象物質の選択が終了した旨の情報が入力されたか否かを判断する。取得部381bが、表示領域Dに表示された再構成画像上において物質弁別の対象物質の選択が終了した旨の情報を受け付けていない場合(ステップS404否定)、ステップS402に戻る。取得部381bが、表示領域Dに表示された再構成画像上において物質弁別の対象物質の選択が終了した旨の情報を受け付けた場合(ステップS404肯定)、ステップS405へ進む。
【0154】
なお、取得部381bは、表示領域Dに表示された再構成画像上で一括して選択された複数の画素において、物質弁別の対象物質に関する情報を取得してもよい。表示領域Dに表示された再構成画像上で複数の画素を一括して選択する方法としては、ユーザが選択した画素を含む領域を、閾値処理を用いた領域拡張法により抽出し、抽出した領域内の画素を選択する方法、ユーザが描画ツールを用いて設定した領域内の画素を選択する方法等が挙げられる。また、ユーザが、表示領域Dに表示された再構成画像上の全ての画素を一括して選択してもよい。
【0155】
図18に示すように、特定部382bは、X線管球121から照射されるX線のエネルギー分布上に設定された複数のエネルギー帯の中から物質弁別に使用するエネルギー帯を特定する(ステップS405)。一般的に、X線のエネルギーが高い程、検出器13が収集する計数情報に含まれる光子のエネルギー及び光子の計数値の精度は高くなる。そこで、特定部382bは、複数のエネルギー帯の中からエネルギーが高い順に、複数のエネルギー帯の総数より少ない数のエネルギー帯を、物質弁別に使用するエネルギー帯として特定する。また、特定部382bは、複数のエネルギー帯の中から、弁別対象物質のK吸収端と重複しないエネルギー帯を、物質弁別に使用するエネルギー帯として特定してもよい。線減弱係数の値は、K吸収端の両側で大きく異なるため、後述する式(2)に含まれる二つの式の独立性が向上する。このため、特定部382bの処理により、データ処理部38bは、高い精度で物質弁別を行うことができる。
【0156】
図18に示すように、生成部383bは、画素ごとに物質弁別を行い、物質弁別の結果を表示するための画像を生成する(ステップS406)。例えば、生成部383bは、物質弁別を行う画素ごとに、物質弁別の弁別対象物質の密度を算出する。生成部383bは、例えば、以下に述べる方法で、物質弁別の弁別対象物質の密度を算出し、画像を生成する。
【0157】
一般的に、被検体Pに照射するX線のエネルギーをE、物質弁別の弁別対象物質の線減弱係数をμ(E)、物質弁別の弁別対象物質の質量弱係数をα
n(E)、物質弁別の弁別対象物質の密度をρ
n、物質弁別の弁別対象物質の数をNとすると、次の式(1)が成立する。式(1)は、線減弱係数μ(E)が、X線管球121から放出され、検出器13の検出素子の一つに入射したX線が透過した物質の質量弱係数と密度との積α
n(E)ρ
nの総和に等しいことを表している。
【0159】
例えば、特定部382bが、物質弁別に使用するエネルギー帯として、
図14に示したエネルギー帯E20、エネルギー帯E30、エネルギー帯E40、エネルギー帯E50及びエネルギー帯E60、すなわちエネルギー帯E10以外を特定したとする。エネルギー帯E20、エネルギー帯E30、エネルギー帯E40、エネルギー帯E50、エネルギー帯E60ごとに式(1)を立て、これらを連立させると、次の式(2)を得ることができる。式(2)において、E
kは、第kエネルギー帯のX線(k=2,…,6)のエネルギーを表す。なお、式(2)では、「n=1,3」で表される物質が物質弁別の弁別対象物質である場合の式となっている。
【0161】
生成部383bは、取得部381bがステップS401で取得した物質弁別の弁別対象物質の密度を算出する。例えば、生成部383bは、最小二乗法を適用して式(2)を解き、取得部381bが取得した弁別対象物質の密度を算出する。そして、生成部383bは、例えば、算出した各弁別対象物質の密度を示す画像を生成する。なお、生成部383bは、最小二乗法の代わりに、エネルギー帯の光子数で正規化した誤差による重み付最小二乗法、ロバスト推定法等を適用してもよい。また、上記の説明では、取得部381bが取得した物質の密度を解析的に算出する方法を例に挙げたが、生成部383bは、取得部381bが取得した弁別対象物質の密度を数値的に算出してもよい。
【0162】
さらに、生成部383bは、空間方向の制約条件の下で式(2)を用いて、取得部381bが取得した弁別対象物質の密度を算出してもよい。空間方向の制約条件としては、例えば、全エネルギー再構成画像から得られる構造の情報が挙げられる。全エネルギー再構成画像において、血管壁等の同一の組織や空気等の同一の物質が存在する可能性がある領域内の弁別対象物質の密度は、同程度の値であることが予想される。したがって、空間方向の制約条件の下で式(2)を用いることで、物質弁別の弁別対象物質の密度を精度良く算出することができる。また、例えば、血管壁等の同一の組織や空気等の同一の物質が存在する可能性がある領域内のある画素のある弁別対象物質の密度を、その画素に隣接した画素の当該弁別対象物質の密度としてもよい。なお、空間方向の制約条件やエネルギー方向の制約条件は正則化項とも呼ばれる。
【0163】
以上、第9の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bの処理の一例について説明した。上述したように、第9の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bは、取得部381bが、物質弁別の弁別対象物質の候補の中から物質弁別の弁別対象物質に関する情報を取得する。具体的には、第9の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bは、ユーザが物質弁別の弁別対象物質を選択し、これを取得部381bが取得する。つまり、ユーザが、生成部383bが物質弁別の結果を表示するための画像を生成する際に考慮に入れる対象を絞り込む。このため、第9の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bは、物質弁別の弁別対象物質の密度の算出結果に、物質弁別を行う必要が無い物質に起因する誤差が含まれてしまうことを抑制することができる。また、第9の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bは、ユーザの見解に沿った物質弁別を、より高い精度で行うことができる。
【0164】
また、第9の実施形態では、特定部382bが、被検体に照射するX線に設定された複数のエネルギー帯の中から、物質弁別に使用するエネルギー帯を特定する。具体的には、特定部382bは、複数のエネルギー帯の中からエネルギーが高い順に、複数のエネルギー帯の総数より少ない数のエネルギー帯を、物質弁別に使用するエネルギー帯として特定する。あるいは、特定部382bは、複数のエネルギー帯の中から、弁別対象物質のK吸収端と重複しないエネルギー帯を、物質弁別に使用するエネルギー帯として特定する。つまり、特定部382bは、物質弁別に使用するエネルギー帯として、物質弁別の弁別対象物質ごとにコントラストが付きやすいエネルギー帯を特定する。このため、第9の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bは、高い精度で物質弁別を行うことができる。
【0165】
(第10の実施形態)
第9の実施形態では、
図15のステップS13において、ユーザが物質弁別の弁別対象物質を選択し、これを取得部381bが取得する。しかし、物質弁別の弁別対象物質は、取得部381bが自動で取得してもよい。そこで、第10の実施形態では、
図15のステップS13において、取得部381bが、各平滑化再構成画像と同じ大きさで、かつ各平滑化再構成画像が有する画素と同じ大きさの画素が第1方向及び第2方向に同じ数だけ配置された画像の画素ごとに、物質弁別の弁別対象物質の候補の密度を算出し、この密度の算出結果に基づいて物質弁別の弁別対象物質に関する情報を取得する場合について説明する。なお、第9の実施形態と同様の内容については説明を省略する。
【0166】
図20及び
図21を参照しながら、第10の実施形態に係る光子計数型X線CT装置について説明する。
図20は、第10の実施形態において、
図15のステップS13で行われる手順を示すフローチャートである。
図21は、第10の実施形態において、取得部381bが物質弁別の弁別対象物質を取得する方法を説明するための図である。
【0167】
第10の実施形態では、取得部381bは、物質弁別すべき弁別対象物質に関する情報、すなわち、複数のエネルギー帯の投影データそれぞれを再構成して得られる複数の再構成画像から導出される情報に基づいて弁別対象物質に関する情報を取得する。ここで、情報とは、物質弁別の弁別対象物質の候補の種別、存在量、密度等を指す。また、取得部381bは、複数の再構成画像それぞれを平滑化して得られる複数の平滑化再構成画像から導出される情報に基づいて、弁別対象物質に関する情報を取得する。さらに、取得部381bは、複数の再構成画像を空間方向及びエネルギー方向の少なくとも一つの方向に平滑化する。これらの具体例は、以下に述べる通りである。
【0168】
取得部381bは、再構成画像群Imの各再構成画像を平滑化し、平滑化再構成画像群Imsを生成する(ステップS501、
図21の左図及び
図21の中央図)。具体的には、取得部381bは、再構成画像群Imの各再構成画像を空間方向に平滑化する。より具体的には、取得部381bは、再構成画像群Imの各再構成画像を第1方向及び第2方向に平滑化する。まず、取得部381bは、再構成画像群Imの各再構成画像の第1方向及び第2方向において隣接する画素の輝度値の和、平均値等を算出する。そして、取得部381bは、算出した隣接する画素の輝度値の和、平均値等を、第1方向及び第2方向の長さが各再構成画像の半分で、各再構成画像と同じ大きさの画素が第1方向及び第2方向に同じ数だけ配列された画像上の画素に割り当てる。これらの処理により、
図21に示すように、平滑化再構成画像群Imsの各平滑化再構成画像の第1方向及び第2方向の長さは、再構成画像群Imの各再構成画像の第1方向及び第2方向の長さの半分になる。平滑化再構成画像群Imsは、
図21の中央図に示すように、エネルギー帯E10、エネルギー帯E20、エネルギー帯E30、エネルギー帯E40、エネルギー帯E50、エネルギー帯E60それぞれに対応する平滑化再構成画像を含む。
【0169】
なお、取得部381bが平滑化を行う際に使用する手法は特に限定されない。例えば、取得部381bは、移動平均フィルタ、ガウシアンフィルタ、双線形フィルタ、双三次線形フィルタ等の線形フィルタ、メディアンフィルタ、異方性フィルタ等を使用して、再構成画像群Imの各再構成画像を平滑化することができる。また、取得部381bは、各再構成画像をエネルギー方向に平滑化してもよい。さらに、取得部381bは、各再構成画像に空間方向の平滑化及びエネルギー方向の平滑化の両方を施してもよい。なお、各再構成画像に空間方向の平滑化を施した場合、各平滑化再構成画像の平滑化を行った方向の大きさは、各再構成画像よりも小さくなるが、各再構成画像にエネルギー方向の平滑化のみを施した場合、各平滑化再構成画像の大きさは各再構成画像と同じである。再構成画像群Imの各再構成画像に空間方向の平滑化を施した場合は、空間解像度が低下するが、物質弁別の精度が向上する。再構成画像群Imの各再構成画像にエネルギー方向の平滑化を施した場合は、エネルギー分解能が低下するが、物質弁別の精度が向上する。
【0170】
取得部381bは、各平滑化再構成画像と同じ大きさで、かつ各平滑化再構成画像が有する画素と同じ大きさの画素が第1方向及び第2方向に同じ数だけ配置された画像の画素ごとに、物質弁別の弁別対象物質の候補の密度を算出する(ステップS502、
図21の右図)。取得部381bは、例えば、以下に述べる方法で、物質弁別の弁別対象物質の候補の密度を算出する。
【0171】
取得部381bは、平滑化再構成画像群Imsについて、各エネルギー帯及び物質弁別の弁別対象物質の候補について上述した式(1)を立て、これらを連立させ、次の式(3)を得る。
【0173】
取得部381bは、式(3)を用いて物質弁別の弁別対象物質の候補の密度を算出する。取得部381bが式(3)を解く方法は、第9の実施形態において生成部383bが式(2)を解く方法と同様である。
【0174】
取得部381bは、ステップS502における密度の算出結果に基づいて、物質弁別の弁別対象物質に関する情報を取得する(ステップS503)。例えば、取得部381bは、各平滑化再構成画像と同じ大きさで、かつ各平滑化再構成画像が有する画素と同じ大きさの画素が第1方向及び第2方向に同じ数だけ配列された画像の各画素において、物質弁別の弁別対象物質の候補のうち算出した密度の値が上位n位以内のものを、物質弁別の弁別対象物質として取得する。ここで、nは自然数である。
【0175】
取得部381bは、取得した物質弁別の弁別対象物質を、各再構成画像と同じ大きさで、かつ各平滑化再構成画像が有する画素を、各平滑化再構成画像を各再構成画像と同じ大きさに拡大する際の倍率と同じ倍率で拡大した大きさの領域が、第1方向及び第2方向に隙間無く配列された画像上の各領域に割り当てる(ステップS504)。なお、取得した物質弁別の弁別対象物質が割り当てられる領域は、各平滑化再構成画像が有する画素と同じ大きさの領域を複数含む。なお、第10の実施形態では、取得された物質弁別の弁別対象物質が割り当てられる領域は、各平滑化再構成画像が有する画素を第1方向及び第2方向に二つずつ、合計四つ合わせた大きさを有する。
【0176】
取得部381bは、取得した物質弁別の弁別対象物質が割り当てられた領域ごとに、物質弁別の弁別対象物質の密度を算出する(ステップS505)。取得部381bは、特定部382bが特定した複数のエネルギー帯及び物質弁別の弁別対象物質について上述した式(2)と同様の式を立て、この式を用いて物質弁別の弁別対象物質の密度を算出する。取得部381bが上述した式を解く方法は、第9の実施形態において取得部381bが式(2)を解く方法と同様である。
【0177】
取得部381bは、上述した方法により、各再構成画像と同じ大きさで、かつ各平滑化再構成画像が有する画素を、各平滑化再構成画像を各再構成画像と同じ大きさに拡大する際の倍率と同じ倍率で拡大した大きさの領域が、第1方向及び第2方向に隙間無く配列された画像で領域ごとに、物質弁別の弁別対象物質の密度を算出する。これ以降の手順は、第9の実施形態と同様である。
【0178】
以上、第10の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bの処理の一例について説明した。上述したように、第10の実施形態では、取得部381bは、各平滑化再構成画像と同じ大きさで、かつ各平滑化再構成画像が有する画素と同じ大きさの画素が第1方向及び第2方向に同じ数だけ配置された画像の画素ごとに算出された物質弁別の弁別対象物質の候補の密度に基づいて、生成部383bが物質弁別の結果を表示するための画像を生成する際に考慮に入れる対象を絞り込む。このため、第10の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bは、物質弁別の弁別対象物質の密度の算出結果に、物質弁別を行う必要が無い物質に起因する誤差が含まれてしまうことを抑制することができる。また、第10の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bは、ユーザの手を煩わせることなく、物質弁別を行うべき物質を取得することができる。
【0179】
また、平滑化再構成画像群Imsは、取得部381bが再構成画像群Imに平滑化を施すことによって生成されるため、ノイズが低減された画像となっている。取得部381bは、ノイズが低減された平滑化再構成画像群Imsの各平滑化再構成画像から物質弁別の弁別対象物質の候補の情報を導出し、この情報に基づいて弁別対象物質に関する情報を取得する。このため、第10の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bは、高い精度で物質弁別を行うことができる。
【0180】
第9の実施形態及び第10の実施形態では、データ処理部38bが再構成画像に基づいて物質弁別を行う方法を説明した。しかし、データ処理部38bは、物質弁別を投影データから直接行うこともできる。例えば、光子計数型CT撮影を実行することができる光子計数型X線CT装置1bは、以下に説明する方法で、投影データから直接物質弁別を行うことができる。
【0181】
投影データから直接物質弁別を行う場合、取得部381bは、複数のエネルギー帯の投影データから導出される情報に基づいて、弁別対象物質に関する情報を取得する。ここで、情報とは、物質弁別の弁別対象物質の候補の種別、存在量、密度等を指す。また、取得部381bは、複数のエネルギー帯の投影データそれぞれを平滑化して得られる複数の平滑化投影データから導出される情報に基づいて、弁別対象物質に関する情報を取得する。さらに、取得部381bは、複数の投影データをビュー方向、チャンネル方向及びエネルギー方向の少なくとも一つの方向に平滑化する。これらの具体例は、以下に述べる通りである。
【0182】
取得部381bは、
図16に示した投影データ群PJが含む各投影データを平滑化し、平滑化投影データ群を生成する。具体的には、取得部381bは、投影データ群PJが含む各投影データに空間方向の平滑化及びエネルギー方向の平滑化の少なくとも一つを施す。より具体的には、取得部381bは、投影データ群PJが含む各投影データを、ビュー方向、チャンネル方向及びエネルギー方向の少なくとも一つの方向に平滑化する。取得部381bが平滑化を行う際に使用する手法は、上述した方法と同様である。
【0183】
一般的に、被検体Pに照射されるX線の光子数をC
0、検出素子で検出されるX線の光子数をC、X線のエネルギーをE、第kエネルギー帯のX線(k=1,2,…,6)のエネルギーをE
k、物質弁別の弁別対象物質の数をm、物質弁別の各対象の線減弱係数をμ
j、物質弁別の各対象のX線吸収経路長をL
jと定義すると、次の式(4)が成立する。ここで、物質弁別の弁別対象物質のX線吸収経路長とは、X線管球121から放出され、被検体Pを透過し、検出器13の検出素子に入射したX線が、当該物質弁別の弁別対象物質が存在する領域を透過した距離の合計である。
【0185】
図14に示したエネルギー帯E10、エネルギー帯E20、エネルギー帯E30、エネルギー帯E40、エネルギー帯E50、エネルギー帯E60ごとに式(4)を立て、これらを連立させると、次の式(5)を得ることができる。式(5)において、E
kは、第kエネルギー帯のX線(k=1,2,…,6)のエネルギーを表す。
【0187】
取得部381bは、式(5)を用いて物質弁別の弁別対象物質の候補のX線吸収経路長を算出する。取得部381bが式(5)を解く方法は、第9の実施形態において生成部383bが式(2)を解く方法と同様である。
【0188】
取得部381bは、X線吸収経路長を再構成して物質弁別の対象の密度を算出する以後の処理は、上述したステップS503からステップS505と同様である。
【0189】
また、制御部39bは、取得部381bを制御して弁別対象物質に関する情報を取得させ、特定部382bを制御して物質弁別に使用するエネルギー帯を特定させ、生成部383bを制御して特定部382bが特定したエネルギー帯の投影データを用いて物質弁別を行わせ、物質弁別の結果を表示するための画像を生成させることを複数回繰り返してもよい。あるいは、制御部39bは、取得部381bを制御して弁別対象物質に関する情報を取得させ、生成部383bを制御して特定部382bが特定したエネルギー帯の投影データを用いて物質弁別を行わせ、物質弁別の結果を表示するための画像を生成させることを複数回繰り返してもよい。この場合、特定部382bによる物質弁別に使用するエネルギー帯の特定は、繰り返し処理を行う前に行われる。
【0190】
これらの繰り返しの処理は、上述したいずれの実施形態にも適用することができる。さらに、制御部39bは、初めにデータ処理部38bが上述した式(3)又は式(5)を用いて物質弁別の弁別対象物質の候補の密度を算出し、密度の算出結果を表示部32に表示し、次にユーザが密度の算出結果に基づいて物質弁別の弁別対象物質を選択し、その後、
図18に示したステップS403からステップS406を実行するという処理を繰り返してもよい。
【0191】
制御部39bは、これらの処理を繰り返すことにより、生成部383bが物質弁別の結果を表示するための画像を生成する際に考慮に入れる対象を絞り込んでいくことができる。このため、光子計数型X線CT装置1bは、物質弁別の弁別対象物質の密度の算出結果に、物質弁別を行う必要が無い対象に起因する誤差が含まれてしまうことを抑制することができる。したがって、光子計数型X線CT装置1bは、高い精度で物質弁別を行うことができる。
【0192】
なお、取得部381bは、再構成画像群Imの各再構成画像に平滑化を施さず、再構成画像群Imの各再構成画像に対して、上述したステップS502からS505を適用してもよい。この場合、物質弁別の弁別対象物質の候補の密度の算出、物質弁別の弁別対象物質に関する情報の取得及び物質弁別の弁別対象物質の割り当ては、例えば、各再構成画像と同じ大きさで、かつ各再構成画像が有する画素と同じ大きさの画素が第1方向及び第2方向に同じ数だけ配置された画像の画素ごとに行われる。再構成画像群Imの各再構成画像に対して、上述したステップS502からS505を適用した場合でも、生成部383bが物質弁別の結果を表示するための画像を生成する際に考慮に入れる対象を絞り込むことができる。
【0193】
また、第10の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bは、取得部381bが予め物質弁別の弁別対象物質の候補の全ての組み合わせについて、弁別対象物質の各候補の密度を算出しておき、ユーザの要求に応じて、表示部32に表示される物質弁別の結果を示す画像を切り替えてもよい。
【0194】
さらに、上述した物質弁別の手法は、被検体に照射されたX線の強度を検出する検出素子を有する検出器を備え、三つ以上の異なる管電圧を用いて複数のエネルギーの投影データを収集する光子計数型X線CT装置においても実行することができる。この場合、各エネルギー帯に対応する投影データ及び再構成画像ではなく、各管電圧に対応する投影データ及び再構成画像が得られる。
【0195】
また、取得部381bは、ステップS503において、S502における密度の算出結果ではなく、再構成画像や平滑化再構成画像のCT値に基づいて物質弁別の弁別対象物質に関する情報を取得してもよい。なぜなら、CT値は、物質ごとに異なるからである。
【0196】
次に、上述した第1の実施形態から第10の実施形態を組み合わせた実施形態について説明する。
【0197】
第9の実施形態又は第10の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bは、特定部382bが特定した第1のエネルギー帯に対し、第1の実施形態から第8の実施形態に係るグループ化手続きを適用してもよい。この場合、第9の実施形態又は第10の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bは、決定部51及び振分部52と同様の決定部及び振分部を有し、次のような処理を行う。
【0198】
取得部381bは、X線管球121から照射されるX線のエネルギー分布上に設定された複数の第1のエネルギー帯の投影データが収集された被検体内部の所定の領域に存在し得る物質の中から物質弁別すべき弁別対象物質に関する情報を取得する。
【0199】
特定部382bは、弁別対象物質に関する情報に基づき、複数の第1のエネルギー帯の中から、物質弁別に使用する第1のエネルギー帯を特定する。特定部382bは、例えば、
図5に示したグラフG11に係る物質Aに対し、物質弁別に使用する第1のエネルギー帯として、第1のエネルギー帯E4〜E9を特定する。
【0200】
データ収集部14bは、入射したX線に基づく信号に基づいて計測されたエネルギーに応じて、信号を複数の第1のエネルギー帯のいずれかに振り分けることで、複数の第1のエネルギー帯のそれぞれの計数データである第1データ群を収集する。
【0201】
決定部は、取得部381bが情報を取得した弁別対象物質に応じて、特定部382bが特定した複数の第1のエネルギー帯をグループ化した複数の第2のエネルギー帯を決定する。決定部は、例えば、
図5に示したグラフG11に係る物質Aに対し、第1のエネルギー帯E4〜E6をグループ化した第2のエネルギー帯E102及び第1のエネルギー帯E7〜E9をグループ化した第2のエネルギー帯E103を決定してもよい。
【0202】
振分部は、複数の第2のエネルギー帯のいずれかに第1データ群を振り分けることで第2データ群を生成する。生成部383bは、第2データ群を用いて、弁別対象物質の分布に関する画像を生成する。
【0203】
これにより、第9の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bは、取得部381bが取得した弁別対象物質に適したエネルギー帯を使用して物質弁別を行うことができる。このため、第9の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bは、より高い精度で物質弁別を行うことができる。
【0204】
また、第9の実施形態又は第10の実施形態で行われる処理は、第4の実施形態から第8の実施形態のいずれか一つに係るユーザインタフェースにより選択された物質のみを前提として行われてもよい。ここで、これらのユーザインタフェースにより選択された物質は、撮影部位全体、すなわち画像全体のいずれかに存在し得る物質である。一方、取得部381bが取得する物質は、撮影部位の所定の領域に存在し得る物質である。これにより、第9の実施形態又は第10の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bは、第4の実施形態から第8の実施形態のいずれか一つに係るユーザインタフェースにより第9の実施形態又は第10の実施形態の処理を行う物質を絞り込むことができる。したがって、第9の実施形態又は第10の実施形態に係る光子計数型X線CT装置1bは、第9の実施形態又は第10の実施形態の処理を効率的に行うことができる。
【0205】
最後に、上述した第1の実施形態から第10の実施形態以外の実施形態について説明する。
【0206】
第1の実施形態から第10の実施形態においては、光子計数型X線CT装置が各種処理を実行する場合を説明したが、実施形態はこれに限られるものではない。例えば、光子計数型X線CT装置と画像処理装置とを含む画像処理システムが、上述した各種処理を実行してもよい。ここで、画像処理装置とは、例えば、ワークステーション、PACS(Picture Archiving and Communication System)の画像保管装置(画像サーバ)やビューワ、電子カルテシステムの各種装置等である。この場合、例えば、光子計数型X線CT装置は、投影データ等の収集を行う。一方、画像処理装置は、光子計数型X線CT装置によって収集された投影データ等を、光子計数型X線CT装置、若しくは、画像サーバからネットワーク経由で受信することで、あるいは、記録媒体を介してユーザから入力されること等で受け付けて、記憶部に記憶する。そして、画像処理装置は、記憶部に記憶した投影データ等を対象として、上述した各種処理を実行すればよい。
【0207】
第1の実施形態から第10の実施形態の中で示した処理手順に示された指示は、ソフトウェアであるプログラムに基づいて実行されることが可能である。汎用コンピュータが、このプログラムを予め記憶しておき、このプログラムを読み込むことにより、第1の実施形態から第10の実施形態の光子計数型X線CT装置による効果と同様の効果を得ることも可能である。第1の実施形態から第10の実施形態で記述された指示は、コンピュータに実行させることのできるプログラムとして、磁気ディスク(フレキシブルディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD±R、DVD±RWなど)、半導体メモリ、又はこれに類する記録媒体に記録される。コンピュータ又は組み込みシステムが読み取り可能な記憶媒体であれば、その記憶形式は何れの形態であってもよい。コンピュータは、この記録媒体からプログラムを読み込み、このプログラムに基づいてプログラムに記述されている指示をCPUで実行させれば、第1の実施形態から第10の実施形態の光子計数型X線CT装置と同様の動作を実現することができる。また、コンピュータがプログラムを取得する場合又は読み込む場合は、ネットワークを通じて取得又は読み込んでもよい。
【0208】
記憶媒体からコンピュータや組み込みシステムにインストールされたプログラムの指示に基づきコンピュータ上で稼働しているOS(Operating System)や、データベース管理ソフト、ネットワーク等のMW(Middleware)等が、第1の実施形態から第10の実施形態を実現するための各処理の一部を実行してもよい。更に、記憶媒体は、コンピュータあるいは組み込みシステムと独立した媒体に限らず、LAN(Local Area Network)やインターネット等により伝達されたプログラムをダウンロードして記憶又は一時記憶した記憶媒体も含まれる。また、記憶媒体は一つに限られず、複数の媒体から、第1の実施形態から第10の実施形態における処理が実行される場合も、実施形態における記憶媒体に含まれ、媒体の構成は何れの構成であってもよい。
【0209】
なお、実施形態におけるコンピュータ又は組み込みシステムは、記憶媒体に記憶されたプログラムに基づき、上述した実施形態における各処理を実行するためのものであって、パソコン、マイコン等の一つからなる装置、複数の装置がネットワーク接続されたシステム等の何れの構成であってもよい。また、実施形態におけるコンピュータとは、パソコンに限らず、情報処理機器に含まれる演算処理装置、マイコン等も含み、プログラムによって実施形態における機能を実現することが可能な機器、装置を総称している。
【0210】
図22は、第1の実施形態から第10の実施形態以外の実施形態に係る画像処理装置のハードウェア構成を示す図である。第1の実施形態から第10の実施形態に係る画像処理装置は、CPU(Central Processing Unit)40等の制御装置と、ROM(Read Only Memory)50やRAM(Random Access Memory)60等の記憶装置と、ネットワークに接続して通信を行う通信I/F70と、各部を接続するバス80とを備えている。
【0211】
第1の実施形態から第10の実施形態に係る画像処理装置で実行されるプログラムは、ROM50等に予め組み込まれて提供される。また、第1の実施形態から第10の実施形態に係る画像処理装置で実行されるプログラムは、コンピュータを上述した画像処理装置の各部として機能させ得る。このコンピュータは、CPU40がコンピュータ読取可能な記憶媒体からプログラムを主記憶装置上に読み出して実行することができる。
【0212】
以上、説明した通り、実施形態によれば、高い精度で物質弁別を行うことができる。
【0213】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。