特許第6747801号(P6747801)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6747801
(24)【登録日】2020年8月11日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】内燃機関の軸受構造
(51)【国際特許分類】
   F16C 9/02 20060101AFI20200817BHJP
   F16C 17/04 20060101ALI20200817BHJP
【FI】
   F16C9/02
   F16C17/04 Z
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-240870(P2015-240870)
(22)【出願日】2015年12月10日
(65)【公開番号】特開2017-106561(P2017-106561A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2018年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162031
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 豊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175721
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 秀文
(72)【発明者】
【氏名】新崎 晋也
【審査官】 西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】 実開平04−127415(JP,U)
【文献】 特開2013−238277(JP,A)
【文献】 実開平06−069432(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 9/02
F16C 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸を径方向一側から支持して、前記クランク軸のスラストカラーと対向する第一スラスト面を有する第一支持部材と、
前記第一支持部材と対向するように配置されると共に前記クランク軸を径方向他側から支持して、前記クランク軸の前記スラストカラーと対向する第二スラスト面を有する第二支持部材と、
前記第一支持部材の前記第一スラスト面側に配置されて、前記第一スラスト面及び前記第二スラスト面に対して前記クランク軸の軸線方向に突出した位置で前記スラストカラーと摺動する摺動面を有するワッシャと、
を具備し、
前記ワッシャの前記摺動面と前記第二支持部材の前記第二スラスト面との間の前記軸線方向における最大距離が、0.2mm以下であり、
前記ワッシャの前記摺動面と前記第一支持部材の前記第一スラスト面との間の前記軸線方向における最大距離が、0.2mm以下である、
内燃機関の軸受構造。
【請求項2】
前記第一支持部材及び前記第二支持部材は、それぞれ前記クランク軸を上方及び下方から支持する、
請求項1に記載の内燃機関の軸受構造。
【請求項3】
前記ワッシャは、
半円環板状に形成されると共に、その周方向における端面が前記第二支持部材の前記第一支持部材との対向面に突き合うように配置され、
前記周方向において前記第二支持部材との突合せ部分に向かうにつれて厚みが小さくなるように、且つ、前記突合せ部分において前記第二スラスト面に対して前記軸線方向に突出しないように、前記摺動面の一部が傾斜して形成されたスラストリリーフを具備する、
請求項1又は請求項2に記載の内燃機関の軸受構造。
【請求項4】
前記第二スラスト面は、前記突合せ部分において前記スラストリリーフに対して前記軸線方向に突出するように形成されている、
請求項3に記載の内燃機関の軸受構造。
【請求項5】
クランク軸を径方向一側から支持して、前記クランク軸のスラストカラーと対向する第一スラスト面を有する第一支持部材と、
前記第一支持部材と対向するように配置されると共に前記クランク軸を径方向他側から支持して、前記クランク軸の前記スラストカラーと対向する第二スラスト面を有する第二支持部材と、
前記第一支持部材の前記第一スラスト面側に配置されて、前記第一スラスト面及び前記第二スラスト面に対して前記クランク軸の軸線方向に突出した位置で前記スラストカラーと摺動する摺動面を有するワッシャと、
を具備し、
前記ワッシャは、
半円環板状に形成されると共に、その周方向における端面が前記第二支持部材の前記第一支持部材との対向面に突き合うように配置され、
前記周方向において前記第二支持部材との突合せ部分に向かうにつれて厚みが小さくなるように、且つ、前記突合せ部分において前記第二スラスト面に対して前記軸線方向に突出しないように、前記摺動面の一部が傾斜して形成されたスラストリリーフを具備し、
前記ワッシャの前記摺動面と前記第一支持部材の前記第一スラスト面との間の前記軸線方向における最大距離が、0.2mm以下である、
燃機関の軸受構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の軸受構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の軸受構造の技術は公知となっている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1には、シリンダブロックと、当該シリンダブロックの下部に設けられた軸受キャップと、シリンダブロックと軸受キャップとの内周面に配置されてクランク軸を回転可能に支持する半割部材と、シリンダブロックに配置されたスラストワッシャとを具備するすべり軸受が開示されている。当該スラストワッシャは、クランク軸のスラストカラーと摺動するように配置されることで、クランク軸の軸線方向の力を受けることができる。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のすべり軸受においては、軸受キャップのスラスト面とクランク軸のスラストカラーとの隙間から潤滑油が垂れ流れることや、軸受キャップのスラスト面とワッシャの摺動面との間の段差により、ワッシャの摺動面に潤滑油を供給し難くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−169293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、ワッシャの摺動面に潤滑油を供給し易くすることができる内燃機関の軸受構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、クランク軸を径方向一側から支持して、前記クランク軸のスラストカラーと対向する第一スラスト面を有する第一支持部材と、前記第一支持部材と対向するように配置されると共に前記クランク軸を径方向他側から支持して、前記クランク軸の前記スラストカラーと対向する第二スラスト面を有する第二支持部材と、前記第一支持部材の前記第一スラスト面側に配置されて、前記第一スラスト面及び前記第二スラスト面に対して前記クランク軸の軸線方向に突出した位置で前記スラストカラーと摺動する摺動面を有するワッシャと、を具備し、前記ワッシャの前記摺動面と前記第二支持部材の前記第二スラスト面との間の前記軸線方向における最大距離が、0.2mm以下であり、前記ワッシャの前記摺動面と前記第一支持部材の前記第一スラスト面との間の前記軸線方向における最大距離が、0.2mm以下であるものである。
【0009】
請求項2においては、前記第一支持部材及び前記第二支持部材は、それぞれ前記クランク軸を上方及び下方から支持するものである。
【0010】
請求項3においては、前記ワッシャは、半円環板状に形成されると共に、その周方向における端面が前記第二支持部材の前記第一支持部材との対向面に突き合うように配置され、前記周方向において前記第二支持部材との突合せ部分に向かうにつれて厚みが小さくなるように、且つ、前記突合せ部分において前記第二スラスト面に対して前記軸線方向に突出しないように、前記摺動面の一部が傾斜して形成されたスラストリリーフを具備するものである。
【0011】
請求項4においては、前記第二スラスト面は、前記突合せ部分において前記スラストリリーフに対して前記軸線方向に突出するように形成されているものである。
【0013】
請求項においては、クランク軸を径方向一側から支持して、前記クランク軸のスラストカラーと対向する第一スラスト面を有する第一支持部材と、前記第一支持部材と対向するように配置されると共に前記クランク軸を径方向他側から支持して、前記クランク軸の前記スラストカラーと対向する第二スラスト面を有する第二支持部材と、前記第一支持部材の前記第一スラスト面側に配置されて、前記第一スラスト面及び前記第二スラスト面に対して前記クランク軸の軸線方向に突出した位置で前記スラストカラーと摺動する摺動面を有するワッシャと、を具備し、前記ワッシャは、半円環板状に形成されると共に、その周方向における端面が前記第二支持部材の前記第一支持部材との対向面に突き合うように配置され、前記周方向において前記第二支持部材との突合せ部分に向かうにつれて厚みが小さくなるように、且つ、前記突合せ部分において前記第二スラスト面に対して前記軸線方向に突出しないように、前記摺動面の一部が傾斜して形成されたスラストリリーフを具備し、前記ワッシャの前記摺動面と前記第一支持部材の前記第一スラスト面との間の前記軸線方向における最大距離が、0.2mm以下であるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
請求項1においては、ワッシャの摺動面に潤滑油を供給し易くすることができる。また、ワッシャの径方向外側へ潤滑油が排出されてしまうのを抑制することができる。
【0016】
請求項2においては、スラストカラーと第二支持部材の第二スラスト面との隙間から潤滑油が下方へ垂れ流れるのを抑制することができる。
【0017】
請求項3においては、スラストリリーフを介してワッシャの摺動面に潤滑油を引き込み易くすることができる。
【0018】
請求項4においては、スラストリリーフを介してワッシャの摺動面に潤滑油をより引き込み易くすることができる。
【0020】
請求項においては、ワッシャの摺動面に潤滑油を供給し易くすることができる。また、ワッシャの径方向外側へ潤滑油が排出されてしまうのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る軸受構造を有する軸受装置の一部の分解斜視図。
図2】同じく、横断面図。
図3】同じく、左側からの部分側面図。
図4】ワッシャの正面図。
図5図2のA−A断面図。
図6】第二実施形態に係る軸受構造を有する軸受装置の左側からの部分側面図。
図7】第三実施形態に係る軸受構造を有する軸受装置の左側からの部分側面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下では、図中の矢印U、矢印D、矢印F、矢印B、矢印L及び矢印Rで示した方向を、それぞれ上方向、下方向、前方向、後方向、左方向及び右方向と定義して説明を行う。
【0023】
まず、図1から図4を用いて、本発明の一実施形態に係る軸受装置1の構成の概要について説明する。なお、図3においては、ワッシャ40の摺動面41を明確に示すため、当該摺動面41とクランク軸2のスラストカラー2cとの間に隙間があるように描かれているが、実際には摺動面41とスラストカラー2cとは互いに油膜を介して当接している。
【0024】
本発明の一実施形態に係る軸受装置1は、エンジン(内燃機関)に設けられる。軸受装置1は、主としてクランク軸2及び軸受構造3を具備する。
【0025】
クランク軸2は、正面視において時計回りに回転するように、前記エンジンのコンロッド(不図示)に連結される。クランク軸2は、主としてクランクジャーナル2a、クランクアーム2b及びスラストカラー2cを具備する。
【0026】
クランクジャーナル2aは、クランク軸2の回転軸を構成する部分である。クランクジャーナル2aは、円柱状に形成される。クランクジャーナル2aは、軸線方向を前後方向へ向けて配置される。
【0027】
クランクアーム2bは、クランクジャーナル2aとクランクピン(不図示)とを連結する部分である。クランクアーム2bは、上下方向に延びる板状に形成される。クランクアーム2bは、板面を前後方向へ向けた状態で、クランクジャーナル2aの前端及び後端にそれぞれ配置される。なお、図1においては、前側のクランクアーム2bの図示を省略している。
【0028】
スラストカラー2cは、円環板状に形成される部分である。スラストカラー2cは、クランクジャーナル2aの外周面側に当該クランクジャーナル2aと一体的に形成される。スラストカラー2cは、クランクジャーナル2aの前端及び後端にそれぞれ配置される。
【0029】
軸受構造3は、クランク軸2を支持するものである。軸受構造3は、軸受部10、軸受キャップ20、主軸受30及びワッシャ40を具備する。
【0030】
軸受部10は、シリンダブロック(不図示)の下部に形成されて、クランク軸2を上方から支持する部分である。軸受部10には、スラスト面11、軸受孔12、受座13及び内部油路14が形成される。
【0031】
スラスト面11は、軸受部10の前側及び後側の面であって、スラストカラー2cと対向する面である。スラスト面11は、スラストカラー2cに対して軸線方向(前後方向)に間隔を空けて形成される。
【0032】
軸受孔12は、クランク軸2を上方から支持するものである。また、軸受孔12は、後述する主軸受30を収容する部分である。軸受孔12は、軸受部10を前後方向に貫通するように形成される。軸受孔12は、正面視において下方が開放された半円状に形成される。
【0033】
受座13は、軸受孔12の径方向外側に形成される凹状部である。受座13は、軸受部10の前側のスラスト面11と後側のスラスト面11とにそれぞれ形成される。前側の受座13は、前側のスラスト面11から後方へ凹むように形成される。後側の受座13は、後側のスラスト面11から前方へ凹むように形成される。受座13は、正面視(背面視)において、軸受孔12の周縁部に隣接する半円環状に形成される。受座13は、その軸線が軸受孔12の軸線と一致するように形成される。受座13は、その両端部が軸受部10の下面(後述する軸受キャップ20との対向面)側に開放されるように形成される。
【0034】
図2に示す内部油路14は、前記エンジンのオイルポンプ(不図示)から潤滑油をクランク軸2側へ供給するためのものである。内部油路14は、軸受部10の内部を上下方向に延びるように形成される。内部油路14の下端は、軸受孔12に開口される。
【0035】
軸受キャップ20は、軸受部10の下方に配置されて、クランク軸2を下方から支持する部分である。軸受キャップ20は、ブロック状に形成される。軸受キャップ20は、軸受部10と対向するように配置される。具体的には、軸受キャップ20は、その上面が軸受部10の底面に当接するように配置される。軸受キャップ20には、スラスト面21及び軸受孔22が形成される。
【0036】
スラスト面21は、軸受キャップ20の前側及び後側の面であって、スラストカラー2cと対向する面である。スラスト面21は、スラストカラー2cに対して軸線方向(前後方向)に間隔を空けて形成される。前側のスラスト面21は、軸受部10の前側のスラスト面11よりも前方に位置するように形成される。後側のスラスト面21は、軸受部10の後側のスラスト面11よりも後方に位置するように形成される。つまり、スラスト面21は、軸受部10のスラスト面11よりもスラストカラー2cに対して間隔が狭くなるように形成される。
【0037】
軸受孔22は、クランク軸2を下方から支持するものである。また、軸受孔22は、後述する主軸受30を収容する部分である。軸受孔22は、軸受キャップ20の上部を前後方向に貫通するように形成される。軸受孔22は、正面視において上方が開放された半円状に形成される。
【0038】
主軸受30は、クランク軸2を回転可能に支持するものである。主軸受30は、半円筒状に形成される。主軸受30は、クランク軸2のクランクジャーナル2aの上下にそれぞれ配置される。上側の主軸受30は、開放側を下方に向けて軸受孔12に配置される。下側の主軸受30は、開放側を上方に向けて軸受孔22に配置される。これにより、上側の主軸受30及び下側の主軸受30は、クランクジャーナル2aを上下方向からそれぞれ支持するように配置される。上側の主軸受30には、潤滑油路31及び貫通孔32が形成される。そして、上側の主軸受30及び下側の主軸受30には、面取り部33が形成される。
【0039】
潤滑油路31は、上側の主軸受30の内周面に形成される溝である。潤滑油路31は、上側の主軸受30の周方向に沿って延びるように形成される。
【0040】
貫通孔32は、潤滑油路31から上側の主軸受30の外周面に貫通する孔である。貫通孔32は、上側の主軸受30の平面視略中央部に形成される。貫通孔32は、上下方向に延びて、軸受部10に形成される内部油路14と連通する。
【0041】
面取り部33は、上側の主軸受30及び下側の主軸受30の互いの当接面の内側において切り欠かれた部分である(図5参照)。面取り部33は、前記当接面と主軸受30の内周面とを接続するような斜面として形成される。こうして、面取り部33は、クランクジャーナル2aと上側の主軸受30及び下側の主軸受30との間に、正面視において頂点を外方へ向けた略二等辺三角形状となる空間を形成する。前記空間は、クランクジャーナル2aの左右両側に形成される。前記空間の内部は、クランク軸2の軸方向に沿って潤滑油が流通可能となる。
【0042】
図4等に示すワッシャ40は、クランク軸2の軸線方向の力を受けるものである。ワッシャ40は、半円環板状に形成される。ワッシャ40は、一方側の板面がクランク軸2のスラストカラー2cと対向するように、軸受部10の前側の受座13及び後側の受座13にそれぞれ嵌合される。ワッシャ40は、開放側を下方に向けて配置される。ワッシャ40は、その軸線がクランク軸2の軸線と一致するように配置される。ワッシャ40は、その厚みが受座13の深さよりも大きくなるように形成される。ワッシャ40は、摺動面41、周方向端面42、スラストリリーフ43、上流側油溝44及び下流側油溝45を具備する。なお、以下においては、特に断りがない限り、軸受部10の前側に配置されるワッシャ40について説明する。
【0043】
摺動面41は、ワッシャ40の前側の板面であって、スラストカラー2cと対向する面である。摺動面41は、ワッシャ40の厚みが受座13の深さよりも大きいため、軸受部10のスラスト面11よりも前方に位置するように形成される。また、摺動面41は、軸受キャップ20のスラスト面21よりも前方に位置するように形成される(図3参照)。これにより、摺動面41は、クランク軸2の回転の際にスラストカラー2cと摺動するように形成される。また、摺動面41は、クランク軸2の軸線方向の力を受けるように形成される。
【0044】
ここで、摺動面41と軸受キャップ20のスラスト面21との間の軸線方向の距離h1は、従来と比べて非常に小さな値に設定される。具体的には、摺動面41及びスラスト面21は、前記距離h1が最大でも0.2mm以下となるように形成される。
【0045】
周方向端面42は、ワッシャ40の周方向における端面である。周方向端面42は、ワッシャ40の左右両側の周方向端部それぞれに形成される。周方向端面42は、水平方向に対して平行となるように形成される。周方向端面42は、軸受キャップ20の上面(軸受部10との対向面)に突き合うように形成される。
【0046】
スラストリリーフ43は、正面視において周方向端面42と隣接する部分に形成される面取り部である。スラストリリーフ43は、摺動面41の一部が傾斜して形成される。スラストリリーフ43は、ワッシャ40の周方向において周方向端面42側(ワッシャ40と軸受キャップ20との突合せ部分)に向かうに従い厚みが小さく(薄肉と)なるように形成される(図1及び図3参照)。スラストリリーフ43は、ワッシャ40と軸受キャップ20との突合せ部分において、軸受キャップ20のスラスト面21に対して軸線方向(前後方向)に突出しないように形成される。本実施形態においては、スラストリリーフ43は、前記突合せ部分において、軸受キャップ20のスラスト面21に対して軸線方向の位置が同じとなるように形成される。
【0047】
上流側油溝44は、潤滑油を適宜案内するものである。上流側油溝44は、摺動面41が凹むことにより形成される。上流側油溝44は、その一端(下端)がワッシャ40の内周面側に開放されるように形成される。上流側油溝44は、その他端(上端)がワッシャ40の外周面側に開放されるように形成される。上流側油溝44は、ワッシャ40の内周面から外周面まで上下方向に延びるように形成される。上流側油溝44は、摺動面41のうちクランク軸2の回転方向上流側(以下、単に上流側という)の領域(正面視においてワッシャ40の中心よりも左側の領域)に形成される。
【0048】
下流側油溝45は、潤滑油を適宜案内するものである。下流側油溝45は、摺動面41が凹むことにより形成される。下流側油溝45は、その一端(下端)がワッシャ40の内周面側に開放されるように形成される。下流側油溝45は、その他端(上端)がワッシャ40の外周面側に開放されるように形成される。下流側油溝45は、ワッシャ40の内周面から外周面まで上下方向に延びるように形成される。下流側油溝45は、摺動面41のうちクランク軸2の回転方向下流側(以下、単に下流側という)の領域(正面視においてワッシャ40の中心よりも右側の領域)に形成される。
【0049】
このように構成される軸受装置1においては、主軸受30の前端部と、ワッシャ40の内周面と、クランクジャーナル2aと、前側のスラストカラー2cとに囲まれた領域に、内周隙間Gが形成される(図2及び図4参照)。また、主軸受30の後端部と、ワッシャ40の内周面と、クランクジャーナル2aと、後側のスラストカラー2cとに囲まれた領域にも、内周隙間Gが形成される。
【0050】
次に、図2及び図5を用いて、潤滑油が流れる流路について説明する。なお、以下においては、特に断りがない限り、軸受部10の前側に配置されるワッシャ40における潤滑油の流路について説明する。
【0051】
前記エンジンのオイルポンプ(不図示)から吐出された潤滑油は、軸受部10の内部油路14を流通する。次いで、潤滑油は、主軸受30の貫通孔32を流通し、潤滑油路31に供給される。潤滑油路31に供給された潤滑油の一部は、当該潤滑油路31に沿って(主軸受30の周方向に沿って)流通すると共に、主軸受30の内周面(当該内周面とクランクジャーナル2aの外周面との間)に供給される。また、潤滑油路31に供給された潤滑油の他の一部は、図示せぬクランク軸2の内部油路を流通してクランクピン(不図示)に供給される。また、潤滑油路31に供給された潤滑油の他の一部は、上側と下側の主軸受30の当接面同士の隙間(特に、面取り部33により形成された前記空間)を前後方向へ流通して、内周隙間Gに流出する。
【0052】
左側の面取り部33により形成された空間から内周隙間Gに流出した潤滑油は、クランク軸2の回転に伴って、内周隙間Gをクランク軸2の回転方向(正面視における時計回り方向)に沿って流通する。内周隙間Gを流通する潤滑油の一部は、上流側油溝44に進入し、当該上流側油溝44を介して、上流側油溝44の下流側に隣接する摺動面41に供給される。当該潤滑油は、当該摺動面41をクランク軸2の回転方向に沿って流通する。また、上流側油溝44に進入した潤滑油の一部は、当該上流側油溝44に沿ってワッシャ40の径方向外側へ流通した後、クランク軸2の回転に伴ってワッシャ40の外周面に沿って流通する。
【0053】
上流側油溝44の下流側に隣接する摺動面41を流通する潤滑油は、クランク軸2の回転方向に沿って流通し、その大部分は当該下流側油溝45を通過して、そのまま下流側油溝45の下流側に隣接する摺動面41に供給される。また、ワッシャ40の外周面に沿って流通する潤滑油は、下流側油溝45に進入し、当該下流側油溝45を介して、下流側油溝45の下流側に隣接する摺動面41に供給される。当該潤滑油は、クランク軸2の回転方向に沿って流通し、軸受キャップ20側に進入する。また、上流側油溝44に進入せず内周隙間Gを流通する潤滑油も同様に、クランク軸2の回転方向に沿って流通し、軸受キャップ20側に進入する。
【0054】
軸受キャップ20側に進入した潤滑油は、クランク軸2の回転に引き摺られて、クランク軸2の下方を流通する。また、右側の面取り部33により形成された空間から内周隙間Gに流出した潤滑油もまた、同様にクランク軸2の回転に引き摺られて、クランク軸2の下方を流通する。クランク軸2の下方を流通する潤滑油は、クランク軸2の回転に引き摺られてさらに下流側へ流通し、ワッシャ40の上流側(左側)のスラストリリーフ43を介して摺動面41に供給される。
【0055】
ここで、クランク軸2の下方を流通する潤滑油はクランク軸2の回転に引き摺られて流通するため、クランク軸2が比較的低速で回転している場合、クランク軸2の下方を流通する潤滑油は、比較的流速が小さくなる。よって、当該潤滑油は、重力の影響を受け易い。このため、潤滑油は、スラストカラー2cと軸受キャップ20のスラスト面21との間から下方へ垂れ流れ易い(排出され易い)状態となる。しかしながら、本実施形態においては、図3に示す如く、ワッシャ40の摺動面41とスラスト面21との間の軸線方向の距離h1が0.2mm以下と非常に小さく設定されているので、スラスト面21とスラストカラー2cとの隙間が非常に小さくなっている(h1+油膜の厚さ)。したがって、潤滑油は、スラスト面21とスラストカラー2cとの隙間から下方へ排出され難い。これにより、排出されてしまう潤滑油の量を減らすことができるため、ワッシャ40の摺動面41へ供給される潤滑油を確保することができ、摺動面41へと潤滑油を供給し易くすることができる。
【0056】
一方、クランク軸2が比較的高速に回転している場合、比較的流速が大きくなる。これに伴い、当該潤滑油に働く遠心力は大きくなる。このため、潤滑油は、遠心力により径方向外側へ飛散し易い状態となる。しかしながら、本実施形態においては、前述の如く前記距離h1が0.2mm以下と非常に小さく設定されているので、スラスト面21とスラストカラー2cとの隙間が非常に小さくなっている。したがって、潤滑油は、径方向外側へ飛散し難い。これにより、排出されてしまう潤滑油の量を減らすことができるため、ワッシャ40の摺動面41へ供給される潤滑油を確保することができ、摺動面41へと潤滑油を供給し易くすることができる。
【0057】
また、軸受部10と軸受キャップ20との左側の当接部近傍においては、ワッシャ40と軸受キャップ20との突合せ部分において、スラストリリーフ43の下端部とスラスト面21の上端部との軸線方向(前後方向)の位置が同じとなるように形成されており、スラストリリーフ43の下端部がスラスト面21に対して前方に突出していない。したがって、クランク軸2の下方を流通して左側の突合せ部近傍に到達した潤滑油は、ワッシャ40の周方向端面42に衝突することなく、スラストリリーフ43を流通することができる。したがって、ワッシャ40の摺動面41へ潤滑油をスムーズに供給することができる。
【0058】
このように本実施形態に係る軸受構造3においては、ワッシャ40の摺動面41に潤滑油を供給し易くすることができ、摺動面41に供給される潤滑油の量を増やすことができる。したがって、ワッシャ40の低フリクション化を達成することができ、ワッシャ40の焼き付きや摩耗量の増加を防止することができる。
【0059】
以上の如く、本実施形態に係る軸受構造3は、クランク軸2を径方向一側から支持して、前記クランク軸2のスラストカラー2cと対向するスラスト面11(第一スラスト面)を有する軸受部10(第一支持部材)と、前記軸受部10と対向するように配置されると共に前記クランク軸2を径方向他側から支持して、前記クランク軸2の前記スラストカラー2cと対向するスラスト面21(第二スラスト面)を有する軸受キャップ20(第二支持部材)と、前記軸受部10の前記スラスト面11側に配置されて、前記スラスト面11及び前記スラスト面21に対して前記クランク軸2の軸線方向に突出した位置で前記スラストカラー2cと摺動する摺動面41を有するワッシャ40と、を具備し、前記ワッシャ40の前記摺動面41と前記軸受キャップ20の前記スラスト面21との間の前記軸線方向における最大距離h1が、0.2mm以下であるものである。
このように構成されることにより、ワッシャ40の摺動面41に潤滑油を供給し易くすることができる。
【0060】
また、前記軸受部10及び前記軸受キャップ20は、それぞれ前記クランク軸2を上方及び下方から支持するものである。
このように構成されることにより、スラストカラー2cと軸受キャップ20のスラスト面21との隙間から潤滑油が下方へ垂れ流れるのを抑制することができる。
【0061】
また、前記ワッシャ40は、半円環板状に形成されると共に、その周方向端面42(周方向における端面)が前記軸受キャップ20の前記軸受部10との対向面に突き合うように配置され、前記周方向において前記軸受キャップ20との突合せ部分に向かうにつれて厚みが小さくなるように、且つ、前記突合せ部分において前記スラスト面21に対して前記軸線方向に突出しないように、前記摺動面41の一部が傾斜して形成されたスラストリリーフ43を具備するものである。
このように構成されることにより、スラストリリーフ43を介してワッシャ40の摺動面41に潤滑油を引き込み易くすることができる。
【0062】
また、本実施形態に係る軸受構造3は、クランク軸2を径方向一側から支持して、前記クランク軸2のスラストカラー2cと対向するスラスト面11(第一スラスト面)を有する軸受部10(第一支持部材)と、前記軸受部10と対向するように配置されると共に前記クランク軸2を径方向他側から支持して、前記クランク軸2の前記スラストカラー2cと対向するスラスト面21(第二スラスト面)を有する軸受キャップ20(第二支持部材)と、前記軸受部10の前記スラスト面11側に配置されて、前記スラスト面11及び前記スラスト面21に対して前記クランク軸2の軸線方向に突出した位置で前記スラストカラー2cと摺動する摺動面41を有するワッシャ40と、を具備し、前記ワッシャ40は、半円環板状に形成されると共に、その周方向端面42(周方向における端面)が前記軸受キャップ20の前記軸受部10との対向面に突き合うように配置され、前記周方向において前記軸受キャップ20との突合せ部分に向かうにつれて厚みが小さくなるように、且つ、前記突合せ部分において前記スラスト面21に対して前記軸線方向に突出しないように、前記摺動面41の一部が傾斜して形成されたスラストリリーフ43を具備するものである。
このように構成されることにより、ワッシャ40の摺動面41に潤滑油を供給し易くすることができる。
【0063】
なお、本実施形態に係る軸受部10は、本発明に係る第一支持部材の一形態である。
また、本実施形態に係るスラスト面11は、本発明に係る第一スラスト面の一形態である。
また、本実施形態に係る軸受キャップ20は、本発明に係る第二支持部材の一形態である。
また、本実施形態に係るスラスト面21は、本発明に係る第二スラスト面の一形態である。
【0064】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0065】
例えば、本実施形態においては、軸受部10にワッシャ40が配置されるものとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、軸受キャップ20にワッシャ40が配置されるものであってもよい。この場合、ワッシャ40の摺動面41と軸受部10のスラスト面11との間の軸線方向における最大距離が、0.2mm以下とされる。
【0066】
また、本実施形態においては、ワッシャ40は半円環状に形成されるものとしたが、ワッシャ40の形状はこれに限定されるものではなく、任意の形状とすることができる。
【0067】
また、本実施形態においては、ワッシャ40の摺動面41と軸受キャップ20のスラスト面21との間の軸線方向の距離h1を0.2mm以下とし、且つ、スラストリリーフ43の突合せ部がスラスト面21の突合せ部に対して軸線方向(前後方向)に突出しないように形成されるものとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、前者の構成のみを採用してもよく、或いは後者の構成のみを採用してもよい。
【0068】
次に、図6を用いて、本発明の第二実施形態に係る軸受構造4について説明する。
【0069】
第二実施形態に係る軸受構造4が、第一実施形態に係る軸受構造3と異なる点は、ワッシャ40に代えてワッシャ140を具備し、ワッシャ140がスラストリリーフ43に代えてスラストリリーフ143を具備する点である。よって以下では、第二実施形態に係る軸受構造4のうち第一実施形態に係る軸受構造3と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0070】
スラストリリーフ143は、正面視において周方向端面42と隣接する部分に形成される面取り部である。スラストリリーフ143は、第一実施形態に係るスラストリリーフ43と比べて、摺動面41に対する傾斜角度が急勾配となるように形成される。これにより、スラストリリーフ143は、ワッシャ140と軸受キャップ20との突合せ部分において、軸受キャップ20のスラスト面21に対して後方に位置するように形成される。つまり、スラスト面21は、前記突合せ部分においてスラストリリーフ143に対して軸線方向(前方に)に突出するように形成される。
【0071】
このようにスラストリリーフ143が形成されることにより、スラストリリーフ143と軸受キャップ20の上面との間に、左側面視において三角形状の空間Sが形成される。空間Sには負圧が生じるため、クランク軸2の下方を流通してワッシャ40の左側のスラストリリーフ143へと向かう潤滑油は、前記負圧により当該空間Sに引き込まれ易くなる。その結果、潤滑油をワッシャ140の摺動面41に引き込み易くすることができる。
【0072】
以上の如く、第二実施形態に係る軸受構造4においては、前記スラスト面21は、前記突合せ部分においてスラストリリーフ143に対して前記軸線方向に突出するように形成されているものである。
このように構成されることにより、スラストリリーフ143を介してワッシャ140の摺動面41に潤滑油をより引き込み易くすることができる。
【0073】
次に、図7を用いて、本発明の第三実施形態に係る軸受構造5について説明する。
【0074】
第三実施形態に係る軸受構造5が、第一実施形態に係る軸受構造3と異なる点は、軸受部10に代えて軸受部110を具備し、軸受部110がスラスト面11及び受座13に代えてスラスト面111及び受座113を具備する点である。よって以下では、第三実施形態に係る軸受構造5のうち第一実施形態に係る軸受構造3と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0075】
スラスト面111は、軸受部110の前側及び後側の面であって、スラストカラー2cと対向する面である。スラスト面111は、第一実施形態に係るスラスト面11と比べて、前方に位置するように形成される。具体的には、スラスト面111は、軸受キャップ20のスラスト面21と面一となるように形成される。
【0076】
受座113は、軸受孔12の径方向外側に形成される凹状部である。受座113は、第一実施形態に係るスラスト面11と比べて、深さが大きくなるように形成される。その結果、受座113は、ワッシャ40の摺動面41とスラスト面111との間の軸線方向の距離h2が最大でも0.2mm以下となるように形成される。
【0077】
このようにスラスト面111及び受座113が形成されることにより、スラスト面111とスラストカラー2cとの隙間が非常に小さくなっている。したがって、潤滑油は、スラスト面111とスラストカラー2cとの隙間から径方向外側へ排出され難い。これにより、スラスト面111とスラストカラー2cとの隙間から径方向外側へ排出される潤滑油の量を減らすことができるため、ワッシャ40の摺動面41へ供給される潤滑油の量を確保する(増やす)ことができる。
【0078】
以上の如く、第三実施形態に係る軸受構造5においては、前記ワッシャ40の前記摺動面41と軸受部110のスラスト面111との間の前記軸線方向における最大距離h2が、0.2mm以下であるものである。
このように構成されることにより、ワッシャ40の径方向外側へ潤滑油が排出されてしまうのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0079】
2 クランク軸
2c スラストカラー
3、4、5 軸受構造
10、110 軸受部
11、111 スラスト面
20 軸受キャップ
21 スラスト面
40、140 ワッシャ
41 摺動面
42 周方向端面
43、143 スラストリリーフ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7