【文献】
Bernard Castagnede、Achour Aknine、Bruno Brouard、Viggo Tarnow,“Effects of compression on the sound absorption of fibrous materials”,Applied Acoustics,NL,Elsever Science Ltd.,2000年,Ver.61,No.2,pp.173-182
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
自動車、OA機器、家電製品、住宅といった様々な製品の付加価値の一つとして、「静粛性」が求められるようになってきている。この静粛性を高めるためには、吸音、遮音といった作用を持つ材料が用いられることが多い。このような材料は音響材料と呼ばれている。音響材料は、単一材料である場合もあれば、複数の材料を層状に積み重ねた積層材料である場合もある。
【0003】
ここで、吸音とは、ある材料に入射した音が反射せずに当該材料に吸収される、または透過することをいう。吸音の性能は吸音率という値で評価される。また、遮音とは、ある材料に入射した音が当該材料を通り抜けないことをいう。遮音の性能は音響透過損失という値で評価される。吸音率及び音響透過損失はいずれも周波数の関数である。吸音率と音響透過損失とをまとめて音響性能と呼ぶ。
【0004】
音響材料を開発する場合には、実際に試作してみて、当該試作材料の音響性能を実測してその測定結果が所望のものかどうかを確認し、所望の結果が得られるまで試作と実測とを繰り返すことが一般的である。ただ、試作を複数回行うことになるため材料のコストがかさむ。また、試作材料の音響性能を実測するためには、専用の設備が必要となる。さらに、試作と実測とを繰り返すため、開発期間が長期化することが多い。
【0005】
そこで、試作及び実測を繰り返すという手法に代えて、音響材料を数理モデルとして数学的に表現し、その数理モデルにしたがって当該音響材料の音響性能を計算するという手法がとられることもある。この手法の場合、モデル化しようとする材料の特性、例えば当該材料の密度、厚さといった材料パラメータの値を決め、それらの値を用いて当該材料の音響性能を計算する。数理モデルにはいくつかあり、モデル化の対象となる材料の種類によって、使用する数理モデルが異なる。また、数理モデルによって必要となる材料パラメータの種類も異なる。もちろん、音響材料が積層材料である場合には、材料ごとに異なる数理モデルを用いることができる。特許文献1には、数理モデルの一つであるビオモデルが記載されている。
【0006】
音響材料の例として、繊維系多孔質材料が挙げられる。繊維系多孔質材料の骨格となる繊維をそれ単体で見たときに、ポリエステル等の高分子材料や綿などの繊維は非常に柔らかい。その一方で、ガラス繊維や岩綿などの人造鉱物繊維等で構成されている繊維は非常に硬い。ゆえに、多孔質材料全体の弾性は骨格の弾性に少なからず影響される。
【0007】
この多孔質材料の弾性が非常に柔らかいとみなせるときは、音波が多孔質材料に入射すると該材料が音波によって励振され音波と同じように振動し、骨格の振動が多孔質材料の音響性能に与える影響は小さいと考えられる。他方、多孔質材料の弾性が硬いとみなせるときは、該材料に音波が入射しても骨格は容易に振動せず、その骨格の振動を無視できると考えられる。
【0008】
このように多孔質材料の骨格が柔らかい場合や硬い場合、多孔質材料の弾性を無視してモデル化することがある。特に繊維系の多孔質材料は弾性を無視しても差し支えないことが多い。骨格の硬い多孔質材料の弾性を無視したモデルを提唱したのがJohnson氏、Champoux氏、Allard氏に代表される研究者たちである。この弾性を無視したモデルは、3人の名前の頭文字をとって「JCAモデル」と呼ばれている。
【0009】
骨格が硬いために多孔質材料全体の弾性を無視したモデルは広く剛骨格モデル(rigid frame model)と呼ばれている。JCAモデルは剛骨格モデルに属する。また、骨格が柔らかいために弾性を無視したモデルは柔骨格モデル(limp frame model)と呼ばれている。
【0010】
JCAモデルにおいては、(1)多孔度、(2)流れ抵抗、(3)迷路度、(4)粘性特性長、(5)熱的特性長の5つの材料パラメータが用いられる。これらの材料パラメータは、音響材料の流体特性、すなわち、空気伝搬音に関するものである。具体的には、多孔度は、音響材料中の空気の占める割合である。空隙の占める割合が大きいほど音響材料の多孔度は大きくなる。次に、流れ抵抗は、音響材料中の空気の流れにくさを表す数値である。音は空気の振動であるため、音響材料の流れ抵抗が大きい場合には、当該材料内では空気が流れにくくなり、つまり、当該材料は音を伝えにくい材料であると言える。この流れ抵抗は、材料パラメータの中でも、非常に大きなウェイトをしめるものである。また、迷路度は、空隙により生まれる空気の経路の形状の複雑さを表す数値である。迷路度が大きければ、それだけ音が材料中を長く伝わるため、より吸音されることになる。粘性特性長及び熱的特性長は、それぞれ、粘性損失及び熱交換損失の大きさを表す数値である。
【0011】
上述のJCAモデルにより多孔質材料の音響性能を推定するには、それぞれに適切な5つの材料パラメータが必要となる。この材料パラメータは、一般的に、同一の材料であっても成型加工などの圧縮等による変形が生じた場合には、全ての材料パラメータの値が変わってしまう。したがって、音響性能を推定したい多孔質材料の状態全てに対してその都度材料パラメータを求め直さねばならず、非常な労力を伴うこととなる。
【0012】
そのため、多孔質材料の変形による材料パラメータの値の変化を容易に推定する手段が望まれる。そのような手段の例が、非特許文献1及び2に記載されている。非特許文献1では、5つ全ての材料パラメータについて、多孔質材料が圧縮される場合の推定が試みられている。また、非特許文献2では、流れ抵抗について検討が加えられている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に、繊維系の多孔質材料の断面を示している。多孔質材料1は、骨格2と、骨格2の間の空隙3とを有している。多孔質材料1が、成型加工等による圧縮又は膨張といった変形をする場合、骨格2の間の空隙3が変形することが多く、骨格2自体が変形することは稀である。そこで、多孔質材料の変形に伴って空隙のみが変形すると仮定する。
【0025】
変形前の多孔質材料において、骨格が占める体積をV
f、空隙が占める体積をV
a、全体の体積をV
Tとすると、以下のような関係がある。
V
T=V
f+V
a
【0026】
そして、多孔質材料の変形後における全体の体積V
T(P)は、以下のように表される。
V
T(P):=PV
T=V
f+PV
a
ただし、Pは、変形に伴う多孔質材料の体積変化率である。P>1のとき体積は増加し、P<1のとき体積は減少する。また、変形後における空隙の体積V
a(P)は以下のように表される。
V
a(P):=PV
a
【0027】
以上を踏まえた本発明の実施形態を以下に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態によって限定されるものではない。
【0028】
[多孔度]
多孔質材料の変形前における多孔度φ
(1)は、その定義より、以下のように表される。
【数7】
である。そして、多孔質材料の変形後における多孔度φ
(P)は、以下のように表される。
【数8】
【0029】
このように、変形前の多孔度φ
(1)と変形に伴う体積変化率Pとによって、変形後の多孔度φ
(P)を求めることができる。また、体積変化率Pが未知であって、変形前の多孔度φ
(1)と変形後の多孔度φ
(P)とが与えられている場合は、式(2)から、以下のように体積変化率Pを求めることができる。
【数9】
【0030】
図2に、変形前の多孔度φ
(1)=0.99における、変形後の多孔度φ
(P)と体積変化率Pとの関係を示している。
【0031】
図3に、多孔度を含む材料パラメータの、変形後における値を推定する材料パラメータ推定装置5の機能構成例を示している。材料パラメータ推定装置5は、受付部51と推定部52とを備えている。受付部51及び推定部52の機能は後述する。
【0032】
図4は、材料パラメータ推定装置5のコンピュータハードウエア構成例を示している。材料パラメータ推定装置5は、CPU510と、インタフェース装置520と、表示装置530と、入力装置540と、ドライブ装置550と、補助記憶装置560と、メモリ装置570とを備えており、これらがバス580により相互に接続されている。
【0033】
材料パラメータ推定装置5の機能を実現するプログラムは、CD−ROM等の記録媒体590によって提供される。プログラムを記録した記録媒体590がドライブ装置550にセットされると、プログラムが記録媒体590からドライブ装置550を介して補助記憶装置560にインストールされる。あるいは、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体590により行う必要はなく、ネットワークを介して他のコンピュータからダウンロードすることもできる。補助記憶装置560は、インストールされたプログラムを格納すると共に、必要なファイルやデータ等を格納する。
【0034】
メモリ装置570は、プログラムの起動指示があった場合に、補助記憶装置560からプログラムを読み出して格納する。CPU510は、メモリ装置570に格納されたプログラムにしたがって材料パラメータ推定装置5の機能を実現する。インタフェース装置520は、ネットワークを通して他のコンピュータに接続するためのインタフェースとして用いられる。表示装置530はプログラムによるGUI(Graphical User Interface)等を表示する。入力装置540はキーボード及びマウス等である。
【0035】
多孔度の推定にあたり、材料パラメータ推定装置5内の受付部51は、変形前の多孔度φ
(1)の入力と、変形に伴う体積変化率Pの入力とを受け付ける。そして、推定部52は、式(2)により、変形後の多孔度φ
(P)を推定する。
【0036】
なお、変形前の多孔度φ
(1)は、実測値及び計算値のいずれでもよい。
【0037】
[迷路度]
発明者は、コンピュータによる数値流体解析(以下2次元CFDと表す)を事前に行った。具体的には、複素変数境界要素法(CVBEM)を用いた、非圧縮性非粘性流体の2次元理想流体定常流解析を行った。その結果、変形後の迷路度α
∞(P)は、変形後の多孔度φ
(P)に対する1次式で表現できることを見いだした。この1次式の傾きをaとし、式(1)も用いると、以下のようにして、変形後の迷路度α
∞(P)を求めることができる。
【数10】
ただし、α
∞(1)は、変形前の多孔度である。
【0038】
図5に、4種の繊維径の多孔質材料に対する、変形後の迷路度α
∞(P)と変形後の多孔度φ
(P)との関係を示している。繊維径とは、
図1(A)の符号Dとして示しているように、円形断面を有する骨格2の直径である。
【0039】
図5において、丸印(○)の点は、2次元CFDにより得られた、繊維径10μmの場合の迷路度を表している。四角形(□)の点は、2次元CFDにより得られた、繊維径5μmの場合の迷路度を表している。三角形(△)の点は、2次元CFDにより得られた、繊維径2.5μmの場合の迷路度を表している。ひし形(◇)の点は、2次元CFDにより得られた、繊維径1μmの場合の迷路度を表している。なお、同図において、丸印の点と四角形の点と三角形の点とは、ひし形の点と重なっているため、明瞭に表されていない。
【0040】
同じく
図5において、グラフG11は、繊維径10μmの場合の、式(4)を用いた、迷路度の推定値を表している。グラフG12は、繊維径5μmの場合の、式(4)を用いた、迷路度の推定値を表している。グラフG13は、繊維径2.5μmの場合の、式(4)を用いた、迷路度の推定値を表している。グラフG14は、繊維径1μmの場合の、式(4)を用いた、迷路度の推定値を表している。
【0041】
このように、変形後の迷路度α
∞(P)は、変形後の多孔度φ
(P)に対する1次式で表現することができる。変形後の多孔度φ
(P)が0.9以上の場合においては特に、推定精度が高いことがわかる。
【0042】
迷路度の推定にあたり、材料パラメータ推定装置5内の受付部51は、変形前の迷路度α
∞(1)の入力と、変形に伴う体積変化率Pの入力とを受け付ける。そして、推定部52は、式(4)により、変形後の迷路度α
∞(P)を推定する。
【0043】
なお、変形前の迷路度α
∞(1)は、実測値及び計算値のいずれでもよい。
【0044】
[熱的特性長]
変形前における熱的特性長をΛ’
(1)は、その定義より、以下のように表される。
【数11】
ただし、S
fは骨格の表面積を表しているとともに、V
T(1)=V
Tである。つまり、熱的特性長とは、空隙の体積と骨格の表面積の比の2倍である。変形後の多孔質材料の熱的特性長Λ’
(P)は、式(2)と式(5)から、以下のように表すことができる。
【数12】
【0045】
このように、変形前の熱的特性長Λ’
(1)が既知であれば、体積変化率Pと変形前における多孔度φ
(1)から、変形後の熱的特性長Λ’
(P)を求めることができる。
【0046】
図6に、円形断面の4種の繊維径の多孔質材料における、変形後の熱的特性長Λ’
(P)と変形後の多孔度φ
(P)との関係を示している。丸印(○)の点は、2次元CFDにより得られた、繊維径10μmの熱的特性長を表している。四角形(□)の点は、2次元CFDにより得られた、繊維径5μmの熱的特性長を表している。三角形(△)の点は、2次元CFDにより得られた、繊維径2.5μmの熱的特性長を表している。ひし形(◇)の点は、2次元CFDにより得られた、繊維径1μmの熱的特性長を表している。なお、2次元CFDにおいては、迷路度と同様に、複素変数境界要素法(CVBEM)を用いた、非圧縮性非粘性流体の2次元理想流体定常流解析を行った。
【0047】
同じく
図6において、グラフG21は、繊維径10μmの場合の、式(6)を用いた、熱的特性長の推定値を表している。グラフG22は、繊維径5μmの場合の、式(6)を用いた、熱的特性長の推定値を表している。グラフG23は、繊維径2.5μmの場合の、式(6)を用いた、熱的特性長の推定値を表している。グラフG24は、繊維径1μmの場合の、式(6)を用いた、熱的特性長の推定値を表している。
【0048】
このように、4種の繊維径のいずれにおいても、式(6)により変形後の熱的特性長を精度良く推定できることがわかる。
【0049】
熱的特性長の推定にあたり、材料パラメータ推定装置5内の受付部51は、変形前の熱的特性長Λ’
(1)の入力と、変形前の多孔度φ
(1)の入力と、変形に伴う体積変化率Pの入力とを受け付ける。そして、推定部52は、式(6)により、変形後の熱的特性長Λ’
(P)を推定する。
【0050】
なお、変形前の熱的特性長Λ’
(1)及び多孔度φ
(1)は、実測値及び計算値のいずれでもよい。
【0051】
[粘性特性長]
2次元CFDの結果、変形後の粘性特性長Λ
(P)は、変形後の多孔度φ
(P)に対して熱的特性長とほぼ同じ変化をすることを発明者は見いだした。そこで、式(6)を参考にして、変形後の粘性特性長Λ
(P)は以下のように表される。
【数13】
ただし、Λ
(1)は、変形前の粘性特性長である。
【0052】
このように、変形前の粘性特性長Λ
(1)が既知であれば、体積変化率Pと変形前の多孔度φ
(1)から、変形後の粘性特性長Λ
(P)を求めることができる。
【0053】
図7に、円形断面の4種の繊維径の多孔質材料における、変形後の粘性特性長Λ
(P)と変形後の多孔度φ
(P)との関係を示している。丸印(○)の点は、2次元CFDにより得られた、繊維径10μmの粘性特性長を表している。四角形(□)の点は、2次元CFDにより得られた、繊維径5μmの粘性特性長を表している。三角形(△)の点は、2次元CFDにより得られた、繊維径2.5μmの粘性特性長を表している。ひし形(◇)の点は、2次元CFDにより得られた、繊維径1μmの粘性特性長を表している。
【0054】
同じく
図7において、グラフG31は、繊維径10μmの場合の、式(7)を用いた、粘性特性長の推定値を表している。グラフG32は、繊維径5μmの場合の、式(7)を用いた、粘性特性長の推定値を表している。グラフG33は、繊維径2.5μmの場合の、式(7)を用いた、粘性特性長の推定値を表している。グラフG34は、繊維径1μmの場合の、式(7)を用いた、粘性特性長の推定値を表している。
【0055】
このように、4種の繊維径のいずれにおいても、式(7)により変形後の粘性特性長を精度良く推定することが可能である。
【0056】
粘性特性長の推定にあたり、材料パラメータ推定装置5内の受付部51は、変形前の粘性特性長Λ
(1)の入力と、変形前の多孔度φ
(1)の入力と、変形に伴う体積変化率Pの入力とを受け付ける。そして、推定部52は、式(7)により、変形後の粘性特性長Λ
(P)を推定する。
【0057】
なお、変形前の粘性特性長Λ
(1)及び多孔度φ
(1)は、実測値及び計算値のいずれでもよい。
【0058】
[流れ抵抗]
流れ抵抗を測定するときの多孔質材料中を流れる空気の流速は極めて遅く、そのときのレイノルズ数は1よりも十分に小さい。そのため、多孔質材料中の空気の流れを表現する方程式として、ナビエ−ストークス(Navier−Stokes)方程式における慣性項を無視したストークス近似を採用する。この近似におけるストークス方程式は、以下のように表される。
【数14】
【0059】
ただし、μは空気の粘度であり、uは多孔質材料の表面から裏面に向かって流れる空気の、該多孔質材料中の流速である。多孔質材料に浸入する前の与えられた速度をU、その多孔質材料の多孔度をφとすると、u=U/φと表すことができる。また、pは圧力を表し、gradは方向微分である。そのため、圧力pの方向微分(grad p)は、多孔質材料の表裏面における圧力差を表すと考えることができる。すなわち、以下の通りである。
【数15】
ただし、P
1は多孔質材料の表面における圧力を表し、P
2は多孔質材料の裏面における圧力を表し、Lは多孔質材料の表面から裏面までの長さである。
【0060】
さらに、式(8)におけるΔは方向の2階微分を表す。したがって、式(8)が示すところは、圧力差grad pは、多孔質材料中の流速uに比例し、長さLの2乗に逆比例すると解釈できる。すなわち、以下の通りである。
【数16】
【0061】
他方、変形前の流れ抵抗σ
(1)は、その定義から、式(9)も考慮すると、以下のように表される。
【数17】
【0062】
次に、変形後の流れ抵抗を考えるのだが、変形に伴って体積がP倍になるということは、2次元的な変形を考えると、正方形の多孔質材料の一辺の長さは√P倍となる。ゆえに変形後の流れ抵抗σ
(P)は、式(10)を参照して、以下のように表される。
【数18】
【0063】
3次元的な変形(前後左右上下から力が加わる)の場合は、立方体の多孔質材料の一辺の長さはPの立方根倍となる。そのため、3次元的な変形後の流れ抵抗σ
(P)は、以下のように表される。
【数19】
【0064】
すなわち、式(2)も考えると、変形前の流れ抵抗σ
(1)が既知であるならば、体積変化率Pと変形前の多孔度φ
(1)から、変形後の流れ抵抗σ
(P)を求めることができる。
【0065】
図8に、円形断面の4種の繊維径の多孔質材料における、変形後の流れ抵抗σ
(P)と変形後の多孔度φ
(P)との関係を示している。丸印(○)の点は、2次元CFDにより得られた、繊維径10μmの流れ抵抗を表している。四角形(□)の点は、2次元CFDにより得られた、繊維径5μmの流れ抵抗を表している。三角形(△)の点は、2次元CFDにより得られた、繊維径2.5μmの流れ抵抗を表している。ひし形(◇)の点は、2次元CFDにより得られた、繊維径1μmの流れ抵抗を表している。なお、2次元CFDにおいては、非圧縮性粘性流体の2次元定常流解析を行った。
【0066】
同じく
図8において、グラフG41は、繊維径10μmの場合の、式(11)を用いた、流れ抵抗の推定値を表している。グラフG42は、繊維径5μmの場合の、式(11)を用いた、流れ抵抗の推定値を表している。グラフG43は、繊維径2.5μmの場合の、式(11)を用いた、流れ抵抗の推定値を表している。グラフG44は、繊維径1μmの場合の、式(11)を用いた、流れ抵抗の推定値を表している。
【0067】
このように、4種の繊維径のいずれにおいても、式(11)により変形後の流れ抵抗を精度良く推定することができる。変形後の多孔度φ
(P)が0.9以上の場合においては特に、推定精度が高い。
【0068】
流れ抵抗の推定にあたり、材料パラメータ推定装置5内の受付部51は、変形前の流れ抵抗σ
(1)の入力と、変形前の多孔度φ
(1)の入力と、変形に伴う体積変化率Pの入力とを受け付ける。そして、推定部52は、式(2)により、変形後の多孔度φ
(P)を推定するとともに、式(11)により、変形後の流れ抵抗σ
(P)を推定する。
【0069】
なお、変形前の流れ抵抗σ
(1)及び多孔度φ
(1)は、実測値及び計算値のいずれでもよい。
【0070】
以上のような材料パラメータ推定の手法によれば、多孔質材料の変形後において材料パラメータを再測定せずに、多孔質材料の変形前における材料パラメータを用いて、当該多孔質材料の変形後における材料パラメータを推定することができるとともに、その推定精度を向上させることができる。
【0071】
[その他]
上記5つの材料パラメータは、JCAモデルだけではなく、剛骨格モデル、柔骨格モデル、ビオモデルなどの他の数理モデルでも用いられる。前述した材料パラメータ推定の手法は、5つの材料パラメータを用いる任意の数理モデルに適用可能である。また、本手法が対象とする音響材料は、繊維系多孔質材料を含む任意の多孔質材料とすることができる。多孔質材料中の骨格の分布状態に関わらず、また、骨格の断面形状が円形であるか否かに関わらず、本手法を用いることができる。
【0072】
前述した材料パラメータ推定の手法は、材料パラメータ推定装置としての側面だけではなく、材料パラメータ推定方法及び材料パラメータ推定プログラムとしての側面をも有している。
【0073】
前述した材料パラメータ推定装置の機能的構成及び物理的構成は、前述の態様に限られるものではなく、例えば、各機能や物理資源を統合して実装したり、逆に、さらに分散して実装したりすることも可能である。