【実施例】
【0066】
後述の実施例又は比較例に係るウエイトローラーを実際に作製し、ヒートサイクル試験及び摩擦摩耗試験によって評価した結果について、以下説明する。これらの実施例によって本発明が限定的に解釈されることはない。
【0067】
−ウエイトローラーの作製−
上述したディスクゲート方式又はピンゲート方式の製造方法に従って、実施例1〜10に係るウエイトローラーと、比較例1〜19、21、23に係るウエイトローラーとを作製した。具体的には、実施例1、2、比較例1〜3に係るウエイトローラーをピンゲート方式で、実施例3〜10、比較例4〜19、21、23に係るウエイトローラーをディスクゲート方式で作製した。成形時の金型温度はいずれも90℃とした。
【0068】
比較例20、22に係るウエイトローラーは、被覆部材を金型を用いて成形した後、重量調整部材を被覆部材に圧入することにより形成した。
【0069】
実施例5〜7、比較例8〜13、20、21に係るウエイトローラーの外径は、18mmとし、高さは14mmとした。実施例8〜10、比較例14〜19、22、23に係るウエイトローラーの外径は、20mmとし、高さは15mmとした。
【0070】
重量調整部材の構成材料は、いずれの実施例、比較例においても快削鋼(SUM22、23)とした。被覆部材を構成する樹脂の組成は、実施例及び比較例ごとに後述するようにそれぞれ変更した。以下の実施例及び比較例では、カーボン繊維やアラミド繊維等の含有率が下記の値になるように、カーボン繊維等及び/又はPTFEが混合された樹脂材料、アラミド繊維が混合された樹脂材料等をドライブレンドした後、成形することにより被覆部材を形成した。
【0071】
<実施例1>
ベース樹脂としてナイロン46(以下の表では「PA46」と表記)を、無機繊維としてカーボン繊維(以下の表では「CF」と表記)を用いた。
【0072】
有機繊維としては、長さ1mmのパラ系アラミド繊維(帝人社製、商品名「テクノーラ」)のカットファイバーを用いた。当該アラミド繊維は、コポリパラフェニレン−3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミドからなり、引張弾性率が73.5GPa、引張強度が3400MPaである。有機繊維の引張弾性率は、JIS L1017に準拠した方法で測定された値である。
【0073】
カーボン繊維の含有率は、樹脂組成物全体の3.1質量%とし、有機繊維の含有率は、樹脂組成物全体の2.4%とした。
【0074】
潤滑剤としては、樹脂組成物全体の15.4質量%のPTFEを用いた。
【0075】
<実施例2>
ベース樹脂としてナイロン46を、無機繊維としてガラス繊維(以下の表では「GF」と表記)を用いた。有機繊維としては、長さ1mmの系アラミド繊維(帝人社製、商品名「テクノーラ」)のカットファイバーを用いた。
【0076】
ガラス繊維の含有率は、樹脂全体の5.0質量%とし、アラミド繊維の含有率は、樹脂全体の6.3質量%とした。
【0077】
潤滑剤としては、樹脂全体の13.5質量%のPTFEを用いた。
【0078】
<実施例3>
ベース樹脂としてナイロン46を、無機繊維としてカーボン繊維を用いた。有機繊維としては、長さ1mmのアラミド繊維(帝人社製、商品名「テクノーラ」)のカットファイバーを用いた。
【0079】
カーボン繊維の含有率は、樹脂全体の3.0質量%とし、アラミド繊維の含有率は、樹脂全体の2.1質量%とした。
【0080】
潤滑剤としては、樹脂全体の13.8質量%のPTFEと、0.7質量%のポリエチレンとを用いた。
【0081】
<実施例4>
ベース樹脂としてナイロン46を、無機繊維としてカーボン繊維を用いた。有機繊維としては、長さ1mmのアラミド繊維(帝人社製、商品名「テクノーラ」)のカットファイバーを用いた。
【0082】
カーボン繊維の含有率は、樹脂全体の3.0質量%とし、アラミド繊維の含有率は、樹脂全体の2.4質量%とした。
【0083】
潤滑剤としては、樹脂全体の15.4質量%のPTFEと、0.8質量%のポリエチレンとを用いた。
【0084】
<実施例5>
ベース樹脂としてナイロン66(BASF社製、商品名「ULTRAMID A3W」;以下の表では「PA66」と表記)を、無機繊維としてカーボン繊維を用いた。当該ベース樹脂は、融点が260℃、23℃、湿度50%下での吸水率は、2.50〜3.10%である。
【0085】
有機繊維としては、長さ1mmのパラ系アラミド繊維(帝人社製、商品名「トワロン1684」)のカットファイバーを用いた。このアラミド繊維は、PPTAからなり、引張弾性率は72GPaで、引張強度は2950MPaである。
【0086】
カーボン繊維の含有率は、樹脂全体の3.0質量%とし、アラミド繊維の含有率は、樹脂全体の2.0質量%とした。潤滑剤としては、樹脂全体の12.0質量%のPTFE(ソルベイスペシャルティポリマーズ社製、商品名「ポリミストF284」)を用いた。
【0087】
なお、実施例6〜10に係るウエイトローラーでは、使用した繊維の種類及び含有率が実施例5に係るウエイトローラーと同じであるが、潤滑剤であるPTFEの含有率が異なっている。
【0088】
<実施例6>
成形に用いる樹脂組成物中、カーボン繊維の含有率を3.0質量%、アラミド繊維の含有率を2.0質量%とし、PTFEの含有率を13.0質量%とした。
【0089】
<実施例7>
成形に用いる樹脂組成物中、カーボン繊維の含有率を3.0質量%、アラミド繊維の含有率を2.0質量%とし、PTFEの含有率を14.0質量%とした。
【0090】
<実施例8>
成形に用いる樹脂組成物中、カーボン繊維の含有率を3.0質量%、アラミド繊維の含有率を2.0質量%とし、PTFEの含有率を12.0質量%とした。
【0091】
<実施例9>
成形に用いる樹脂組成物中、カーボン繊維の含有率を3.0質量%、アラミド繊維の含有率を2.0質量%とし、PTFEの含有率を13.0質量%とした。
【0092】
<実施例10>
成形に用いる樹脂組成物中、カーボン繊維の含有率を3.0質量%、アラミド繊維の含有率を2.0質量%とし、PTFEの含有率を14.0質量%とした。
【0093】
<比較例1>
ベース樹脂としてナイロン66を用い、無機繊維としてカーボン繊維を用いた。成形に用いる樹脂組成物中、カーボン繊維の含有率を3.0質量%とした。有機繊維及び潤滑剤は用いなかった。
【0094】
<比較例2>
ベース樹脂としてナイロン66を用い、無機繊維としてカーボン繊維を用いた。成形に用いる樹脂組成物中、カーボン繊維の含有率を7.0質量%とした。有機繊維及び潤滑剤は用いなかった。
【0095】
<比較例3>
ベース樹脂としてナイロン46を用い、有機繊維として長さ1mmのパラ系アラミド繊維(帝人社製、商品名「テクノーラ」)のカットファイバーを用いた。成形に用いる樹脂組成物中、アラミド繊維の含有率を7.0質量%とした。潤滑剤として、15.0質量%のPTFEを用いた。無機繊維は用いなかった。
【0096】
<比較例4>
ベース樹脂としてナイロン66を用い、無機繊維としてカーボン繊維を用いた。成形に用いる樹脂組成物中、カーボン繊維の含有率を3.1質量%とした。潤滑剤として、8.0質量%のPTFEを用いた。有機繊維は用いなかった。
【0097】
<比較例5>
ベース樹脂としてナイロン66を用い、無機繊維としてカーボン繊維を用いた。成形に用いる樹脂組成物中、カーボン繊維の含有率を7.0質量%とした。潤滑剤として、5.4質量%のPTFEを用いた。有機繊維は用いなかった。
【0098】
<比較例6>
ベース樹脂としてナイロン46を用い、有機繊維として長さ1mmのパラ系アラミド繊維(帝人社製、商品名「テクノーラ」)を用いた。成形に用いる樹脂組成物中、アラミド繊維の含有率を7.0質量%とした。潤滑剤として、15.0質量%のPTFEを用いた。無機繊維は用いなかった。
【0099】
<比較例7>
ベース樹脂としてナイロン66を用い、有機繊維として長さ1mmのパラ系アラミド繊維(帝人社製、商品名「テクノーラ」)を用いた。成形に用いる樹脂組成物中、アラミド繊維の含有率を3.0質量%とした。潤滑剤として、10.0質量%のPTFEを用いた。無機繊維は用いなかった。
【0100】
<比較例8>
ベース樹脂としてナイロン66を、無機繊維としてカーボン繊維を用いた。有機繊維としては、長さ1mmのパラ系アラミド繊維(帝人社製、商品名「トワロン1684」)のカットファイバーを用いた。
【0101】
カーボン繊維の含有率は、樹脂全体の1.0質量%とし、アラミド繊維の含有率は、樹脂全体の2.0質量%とした。潤滑剤としては、樹脂全体の14.0質量%のPTFEを用いた。
【0102】
なお、比較例9〜19に係るウエイトローラーでは、比較例8に係るウエイトローラーと同様に、ベース樹脂はいずれもナイロン66とし、アラミド繊維として2質量%のトワロン1684を用いた。また、比較例9〜19に係るウエイトローラーでは、比較例8で用いたカーボン繊維と同一のカーボン繊維を用い、潤滑剤として同一のPTFEを用いた。
【0103】
<比較例9>
成形に用いる樹脂組成物中、カーボン繊維の含有率を2.0質量%、アラミド繊維の含有率を2.0質量%とし、PTFEの含有率を10.0質量%とした。
【0104】
<比較例10>
成形に用いる樹脂組成物中、カーボン繊維の含有率を2.0質量%、アラミド繊維の含有率を2.0質量%とし、PTFEの含有率を12.0質量%とした。
【0105】
<比較例11>
成形に用いる樹脂組成物中、カーボン繊維の含有率を2.0質量%、アラミド繊維の含有率を2.0質量%とし、PTFEの含有率を13.0質量%とした。
【0106】
<比較例12>
成形に用いる樹脂組成物中、カーボン繊維の含有率を2.0質量%、アラミド繊維の含有率を2.0質量%とし、PTFEの含有率を14.0質量%とした。
【0107】
<比較例13>
成形に用いる樹脂組成物中、カーボン繊維の含有率を3.0質量%、アラミド繊維の含有率を2.0質量%とし、PTFEの含有率を10.0質量%とした。
【0108】
<比較例14>
成形に用いる樹脂組成物中、カーボン繊維の含有率を1.0質量%、アラミド繊維の含有率を2.0質量%とし、PTFEの含有率を14.0質量%とした。
【0109】
<比較例15>
成形に用いる樹脂組成物中、カーボン繊維の含有率を2.0質量%、アラミド繊維の含有率を2.0質量%とし、PTFEの含有率を10.0質量%とした。
【0110】
<比較例16>
成形に用いる樹脂組成物中、カーボン繊維の含有率を2.0質量%、アラミド繊維の含有率を2.0質量%とし、PTFEの含有率を12.0質量%とした。
【0111】
<比較例17>
成形に用いる樹脂組成物中、カーボン繊維の含有率を2.0質量%、アラミド繊維の含有率を2.0質量%とし、PTFEの含有率を13.0質量%とした。
【0112】
<比較例18>
成形に用いる樹脂組成物中、カーボン繊維の含有率を2.0質量%、アラミド繊維の含有率を2.0質量%とし、PTFEの含有率を14.0質量%とした。
【0113】
<比較例19>
成形に用いる樹脂組成物中、カーボン繊維の含有率を3.0質量%、アラミド繊維の含有率を2.0質量%とし、PTFEの含有率を10.0質量%とした。
【0114】
<比較例20〜23>
被覆部材を構成する樹脂組成物の組成は、比較例3と同じとした。被覆部材の厚みは1.5mmとした。
【0115】
−ヒートサイクル試験−
実施例1〜10及び比較例1〜19に係るウエイトローラーに対し、−20℃で30分間、130℃で30分間の処理を1サイクルとして、1000サイクルまでの処理を行い、ヒートショック耐性を評価した。約200サイクルごとにクラック及び破断の有無を目視により確認した。
【0116】
実施例1〜4及び比較例1〜7に係るウエイトローラーの処理は、冷熱衝撃装置(エスペック社製、型番:TSA−41L−A)を用いて行い、実施例5〜10、比較例8〜19に係るウエイトローラーの処理は、冷熱衝撃装置(エスペック社製、型番:TSE−11−A)を用いて行った。
【0117】
−摩擦摩耗試験−
JIS K 7218−1986に準拠した摩擦摩耗試験を行った。
【0118】
図6は、樹脂の摩擦摩耗試験を説明するための図である。同図に示すように、被覆部材と同じ組成の樹脂を用いて内径が20mmで外径が25.6mmの円筒形の試験片62を作製した。この試験片62を、ADC12(銅、ケイ素、アルミニウム等を含む合金)からなる円板状の相手材60に接触させ、1600Nの荷重をかけた状態で、20mm/sの速度で回転摺動させる。この処理を20時間行った後、試験片62の摩耗量を測定し、比摩耗量を求めた。
【0119】
<実施例11〜13>
実施例5、8における被覆部材と同じ組成の樹脂を用いて試験片62を作製し、これを実施例11とした。実施例6、9における被覆部材と同じ組成の樹脂を用いて試験片62を作製し、これを実施例12とした。実施例7、10における被覆部材と同じ組成の樹脂を用いて試験片62を作製し、これを実施例13とした。
【0120】
<比較例24>
また、比較例13、19における被覆部材と同じ組成の樹脂を用いて試験片62を作製し、これを比較例24とした。
【0121】
−吸水時の寸法変化測定−
一部の実施例及び比較例に係るウエイトローラーについて、吸水時の軸方向長さ(全長)の変化率を測定した。具体的には、ウエイトローラーを50℃、湿度95%の環境下に置き、所定の期間の経過時に軸方向の長さを測定した。吸水による全長変化率は、{(測定時のウエイトローラーの軸方向長さ)−(ウエイトローラーの初期の軸方向長さ)}/(ウエイトローラーの初期の軸方向長さ)により算出した。
【0122】
−評価結果−
表1に、実施例1〜4及び比較例1〜7に係るウエイトローラーのヒートサイクル試験結果を示す。また、表2に、実施例5〜10及び比較例8〜19に係るウエイトローラーのヒートサイクル試験結果を示す。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
比較例1、3の比較、及び比較例4、5の比較から、補強繊維としてカーボン繊維のみを用いる場合、3質量%の含有率では成形方法によらず、破断が生じたのに対し、7質量%の含有率では、いずれの成形方法であってもクラックや破断が生じないことが分かった。
【0126】
また、比較例3、6、7の結果から、補強繊維としてアラミド繊維のみを用いた場合には、繊維の含有率を高くしてもクラック又は破断の発生を防ぐことができないことが分かった。
【0127】
これに対し、実施例1、3、4の結果より、無機繊維の含有率を3%程度にしても、1質量%以上7質量%以下のアラミド繊維と共に用いることで、クラックや破断の発生を効果的に防ぐことができることが確認された。
【0128】
また、実施例2の結果から、カーボン繊維だけでなくガラス繊維であっても、アラミド繊維と共に用いることで、優れた補強効果を発揮できることが分かった。
【0129】
なお、比較例9、10及び比較例15、16の比較から、PTFEの含有率が大きくなると、クラックや破断を生じやすくなることが示唆された。
【0130】
しかし、実施例1〜10の結果から、無機繊維の含有率を3%以上とし、アラミド繊維の含有率を1質量%以上7質量%以下とすることで、PTFEの含有率が15%以上の場合でも、クラックや破断の発生を効果的に防ぐことができることが分かった。
【0131】
表3は、摩擦摩耗試験の結果を示している。また、
図7は、表3に記載された結果に基づき、樹脂組成物中のPTFEの含有率(配合率)と比摩耗量との関係を示す図である。
【0132】
【表3】
【0133】
表3及び
図7に示す結果から、潤滑剤であるPTFEの含有率が12質量%以上の場合、PTFEの含有率が10質量%の場合に比べて比摩耗量が大幅に低減されることが分かった。また、PTFEの含有率が少なくとも12質量%以上14質量%以下の範囲では、PTFEの含有率が大きくなっても比摩耗量の減少量は比較的小さいことが確認できた。
【0134】
表4には、外径が18mmである実施例及び比較例に係るウエイトローラーについての吸水時の軸方向長さ変化率(すなわち、全長変化率)を示し、表5には、外径が20mmである実施例及び比較例に係るウエイトローラーについての吸水時の全長変化率を示す。
【0135】
また、
図8は、表4に記載された結果を示す図であり、
図9は、表5に記載された結果を示す図である。
【0136】
【表4】
【0137】
【表5】
【0138】
表4、5及び
図8、9に示す結果から、ウエイトローラーの外径によらず、ベース樹脂をナイロン66とし、被覆部材にカーボン繊維が2質量%〜3質量%、アラミド繊維が2質量%程度含まれていれば、吸水による寸法変化を小さく抑えることができることが確認できた。
【0139】
これに対し、比較例20〜23に係るウエイトローラーでは、実施例5〜10及び比較例9、10、12、13、15、16、18、19に係るウエイトローラーに比べて吸水による全長変化率が非常に大きくなっていた。これは、実施例5〜10及び比較例9、10、12、13、15、16、18、19に係るウエイトローラーでは、ベース樹脂として吸水性の低いナイロン66を使用しているためと考えられる。
【0140】
また、比較例20と比較例21との比較、比較例22と比較例23との比較から、被覆部材を構成する樹脂組成物が同じ組成を有していても、インサート成形により作製されたウエイトローラーの方が圧入工程により作製されたウエイトローラーよりも吸水時の全長変化率を小さくできることが分かった。
【0141】
これは、インサート成形によれば、径方向だけでなく軸方向にも成形収縮力が発生するので、被服部材の構成材料が同じである場合でも、寸法変化が抑えられたためと考えられる。
【0142】
また、被覆部材中カーボン繊維の含有率が3質量%である場合には、カーボン繊維の含有率が2質量%である場合に比べて吸水による寸法変化を若干抑えられることも確認できた。