(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記外回転体及び前記内回転体が回転していない状態において、前記隙間の前記径方向における大きさが、前記回転軸方向の一方から他方へ向かうにつれて大きくなることを特徴とする請求項1に記載のプーリ構造体。
前記外回転体及び前記内回転体が回転していない状態において、前記隙間の前記径方向における大きさが、前記回転軸方向において連続的に変化することを特徴とする請求項1又は2に記載のプーリ構造体。
前記ねじりコイルばねの拡径方向のねじり角度が、前記ねじりコイルばね全体の拡径変形が規制される最大ねじり角度の10%以上になったときに、前記中領域の前記外周面の一部が前記当接面に接触するように、前記ねじりコイルばね及び前記外回転体が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプーリ構造体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、外回転体202及び内回転体203が回転していない状態において、ばね204の中領域243の各巻条と、外回転体202の環状面221との隙間の大きさZは、外回転体の回転軸方向において一定である。このため、ばね204の中領域243が拡径し始めてから、外周面244が外回転体202の環状面221に接触するまでの間は、中領域243の全体が環状面221から離れている。中領域243が拡径していくと、
図10(b)に示すように、中領域243の外周面244全体と環状面221とが、略同時に一斉に接触する。すなわち、中領域243が拡径し始めてから拡径が規制されるまでの間、ばね204の有効巻数(ばね全長から変形が拘束される部分を除いた、変形しうる範囲の巻数)はほぼ一定になる。この有効巻数は、ばね204のばね定数(ねじりトルク/ねじり角度)に反比例するので、有効巻数が一定になるようなばね204のねじり角度の範囲においては、上記ばね定数も一定になる。言い換えると、中領域243の拡径開始から環状面221による拡径規制までの間、ばね204のねじり方向の固有振動数がほぼ一定になる。
【0007】
ところで、エンジンの補機駆動システムにおいて、エンジンのクランク軸の回転速度が周期的に変動したときに、その変動の周波数が上記固有振動数に近いと、広いねじり角度の範囲にわたってばね204が径方向に共振しやすくなる。特に、ばね204が環状面221に接触するかしないかの状態でばね204が共振すると、拡径変形やその最大化が過度に繰り返され、ばね204が破損しやすくなる等のおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、ねじりコイルばねのねじり方向の共振を抑制して、ねじりコイルばねの破損を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明のプーリ構造体は、ベルトが巻き掛けられ、前記ベルトを介して与えられるトルクによって回転する筒状の外回転体と、前記外回転体の径方向の内側に設けられ、前記外回転体に対して前記外回転体と同一の回転軸を中心として相対回転可能な内回転体と、前記外回転体と前記内回転体との間に配置されたねじりコイルばねと、を備え、前記ねじりコイルばねは、前記外回転体及び前記内回転体が回転していない状態において、前記外回転体と前記内回転体との一方に接触する第1領域と、前記外回転体と前記内回転体との他方に接触する第2領域と、前記第1領域と前記第2領域との間に位置し、前記外回転体と前記内回転体のいずれにも接触しない中領域と、を有し、前記外回転体は、前記ねじりコイルばねの拡径に伴い前記ねじりコイルばねの前記中領域の外周面に当接することで、前記ねじりコイルばねの拡径変形を規制する当接面を有し、前記外回転体及び前記内回転体が回転していない状態において、前記ねじりコイルばねの前記中領域の前記外周面と前記外回転体の前記当接面との隙間の前記径方向における大きさが、前記外回転体の回転軸方向において変化することを特徴とするものである。
【0010】
本発明によれば、外回転体及び内回転体が回転していない状態において、ねじりコイルばねの中領域の外周面と、外回転体の当接面との隙間の前記径方向における大きさが、外回転体の回転軸の軸方向において変化する。このため、外回転体と内回転体との相対回転によりねじりコイルばねがねじられて拡径すると、上記中領域の外周面と上記当接面とは、上記隙間が小さい部分から順次接触していく。ねじりコイルばねの拡径方向のねじり角度が大きくなるにつれて、接触部分(すなわち、拡径変形が規制される部分)が増えるため、上記外周面と上記当接面との接触が始まってから上記中領域全体が上記当接面に接触するまでの間に、ねじりコイルばねの有効巻数が減少する。それに反比例して、ねじりコイルばねのばね定数は大きくなる。言い換えると、上記接触が始まってから拡径変形が最大化するまでのねじり角度の範囲において、ねじり角度の変化に伴いねじりコイルばねのねじり方向の固有振動数が変化する。
【0011】
上記のようなねじり角度の範囲において、外回転体の回転速度が変動し、その周波数が、あるねじり角度において、仮にねじりコイルばねの固有振動数と一致しても、ねじり角度が変化すればねじりコイルばねの固有振動数も変化することから、外部の回転変動の周波数とねじりコイルばねの固有振動数が一致する状態が続かない。そのため、ねじりコイルばねの共振が抑えられる。このようにしてねじり方向の共振が抑制されることで、ねじりコイルばねの拡径変形やその最大化が過度に繰り返されることを防止できる。したがって、ねじりコイルばねのねじり方向の共振を抑制して、ねじりコイルばねの破損を防止することができる。
【0012】
第2の発明のプーリ構造体は、前記第1の発明において、前記外回転体及び前記内回転体が回転していない状態において、前記隙間が、前記回転軸方向の一方から他方へ向かうほど大きくなることを特徴とするものである。
【0013】
本発明によれば、ねじりコイルばねの中領域の拡径にしたがって、中領域の外周面と外回転体の当接面とが、回転軸方向の一方(上記隙間が小さい側)から順次接触していく。このため、回転軸方向の他方や途中部分等にも上記隙間が小さい部分がある場合と比べて、ねじりコイルばねの有効巻数を、ねじり角度に応じて徐々に変化させることができる。したがって、ばね定数(すなわち、ねじりコイルばねのねじりトルク特性)をねじり角度に応じて徐々に変化させることができ、急激な変化を抑制できる。
【0014】
第3の発明のプーリ構造体は、前記第1又は第2の発明において、前記外回転体及び前記内回転体が回転していない状態において、前記隙間が、前記回転軸方向において連続的に変化することを特徴とするものである。
【0015】
本発明によれば、ねじりコイルばねの中領域が拡径するにつれて、中領域の外周面と外回転体の当接面との接触部分の面積が徐々に連続的に増加し、ねじりコイルばねの有効巻数が緩やかに変化する。したがって、ねじりコイルばねのばね定数を緩やかに変化させることができる。
【0016】
第4の発明のプーリ構造体は、前記第1〜第3のいずれかの発明において、前記ねじりコイルばねの拡径方向のねじり角度が、前記ねじりコイルばね全体の拡径変形が規制される最大ねじり角度の10%以上になったときに、前記中領域の前記外周面の一部が前記当接面に接触するように、前記ねじりコイルばね及び前記外回転体が形成されていることを特徴とするものである。
【0017】
本発明によれば、ねじりコイルばねの拡径方向のねじり角度が比較的小さい段階から、上記中領域の外周面と上記当接面が接触し始める。これにより、広いねじり角度の範囲にわたってねじりコイルばねの固有振動数を変化させることができ、ねじりコイルばねの拡径変形やその最大化の過度の繰り返しをさらに起こりにくくすることができる。
【0018】
第5の発明のプーリ構造体は、前記第1〜第4のいずれかの発明において、前記当接面は、前記回転軸方向の一方から他方に向かうほど径が拡大するテーパ面であることを特徴とするものである。
【0019】
本発明によれば、外回転体の当接面が単純なテーパ面になるので、外回転体の製造コストの増加を抑えることができる。
【0020】
第6の発明のプーリ構造体は、前記第1〜第4のいずれかの発明において、前記当接面は、前記回転軸方向のピッチが前記ねじりコイルばねの巻線の前記回転軸方向のピッチと等しい螺旋面であることを特徴とするものである。
【0021】
本発明によれば、中領域が拡径したときに、中領域の外周面と外回転体の当接面との接触部分の面積が増えやすくなる。したがって、接触部分に生じる応力が分散しやすくなるので、ねじりコイルばね及び外回転体の摩耗等を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1実施形態>
次に、本発明の第1実施形態について、
図1〜
図6を参照しながら説明する。
【0024】
(ベルト伝動機構の概略構成)
まず、後述するプーリ構造体1が用いられるベルト伝動機構の一例について、
図1を用いて説明する。
図1は、ベルト伝動機構101の正面図である。ベルト伝動機構101は、例えば自動車等のエンジンのクランク軸に連結されるプーリ102と、補機であるオルタネータの駆動軸に連結されるプーリ構造体1と、ウォーターポンプ等の他の補機の駆動軸に連結されるプーリ103と、これらのプーリ間に巻き掛けられるベルトBと、を備える。各プーリは、それぞれ回転可能に支持されている。エンジンが駆動すると、クランク軸の回転動力が、プーリ102からベルトBを介してプーリ構造体1及びプーリ103に伝達される構成になっている。
【0025】
(プーリ構造体の構成)
次に、プーリ構造体1の構成について、
図2〜
図4を用いて説明する。
図2は、第1実施形態に係るプーリ構造体1の断面図である。
図3は、
図2のIII−III断面図である。
図4は、
図2のIV−IV断面図である。なお、
図2における紙面左右方向を前後方向(本発明の「回転軸方向」)とし、紙面左方を前方(本発明の「他方」)、紙面右方を後方(本発明の「一方」)とする。プーリ構造体1が回転する方向を周方向とする。また、後述する外回転体2の径方向を径方向とする。
【0026】
プーリ構造体1は、エンジンのクランク軸の動力をオルタネータ等の補機に伝達するためのものである。
図2に示すように、プーリ構造体1は、ベルトBが巻き掛けられる外回転体2と、外回転体2の内側に設けられており、オルタネータの駆動軸Sに接続される内回転体3と、外回転体2と内回転体3との間に配置されたねじりコイルばね4(以下、単に「ばね4」という)等を備える。
【0027】
まず、外回転体2について説明する。外回転体2は、略円筒状の部材である。
図2に示すように、外回転体2の外周面には、ベルトBが巻き掛けられる。外回転体2は、ベルトBを介してトルクを与えられることで、回転軸Rを中心として回転する構成になっている。外回転体2の後端部の内周には、後述するばね4の後端部の外周面41が接触する圧接面21が形成されている。また、圧接面21の前方には、当接面22が形成されている。当接面22の詳細については、後述する。
【0028】
次に、内回転体3について説明する。内回転体3は、略円筒状の部材であり、外回転体2の径方向内側に設けられている。
図2に示すように、内回転体3は、外回転体2と同一の回転軸Rを中心として、外回転体2に対して相対回転可能な構成になっている。なお、内回転体3の前端は、外回転体2の前端部に取り付けられたエンドキャップ5によって覆われている。
【0029】
内回転体3は、筒本体31と、筒本体31の前端部の径方向外側に配置された外筒部32と、筒本体31と外筒部32とをつなぐ接続部33等を有する。筒本体31は、オルタネータの駆動軸Sに接続される。筒本体31の前端部の外径は、前後方向の他の部分の外径と比べて大きくなっている。この部分における内回転体3の外周面を、接触面35とする。接触面35には、後述するばね4の前端部の内周面42が接触する。
【0030】
外筒部32は、筒本体31の前端部の径方向外側に配置された筒状の部分である。外筒部32は、外回転体2と干渉しない程度に、後方に向かって延びている。外筒部32の内径は、外回転体2の圧接面21の径よりも大きい。接続部33は、筒本体31の前端部の径方向外側に形成され、筒本体31と外筒部32とをつなぐ環状の部分である。
【0031】
内回転体3の前端部において、筒本体31と外筒部32との間には、対向面36が形成されている(
図3参照)。対向面36は、周方向において、後述するばね4の前端面49と対向する。また、外筒部32の内周面には、外筒部32の径方向内側に突出する突起37が形成されている(
図3参照)。突起37は、対向面36に対し、周方向において90°離れた位置付近に形成されている。
【0032】
外回転体2の後端部の内周面と、内回転体3の筒本体31の後端部の外周面との間には、転がり軸受6が介設されている。また、外回転体2の前端部の内周面と、内回転体3の外筒部32の外周面との間には、滑り軸受7が介設されている。転がり軸受6及び滑り軸受7によって、外回転体2及び内回転体3が相対回転可能になっている。転がり軸受6の前方には、環状のスラストプレート8が配置されている。スラストプレート8は、内回転体3に固定され、内回転体3と一体的に回転するためのものである。
【0033】
外回転体2と内回転体3との間には、空間9が形成されている。より具体的には、空間9は、外回転体2の内周面及び内回転体3の外筒部32の内周面と、筒本体31の外周面と、接続部33の後面と、スラストプレート8の前面とによって形成されている。この空間9に、ばね4が収容される。
【0034】
次に、ばね4について説明する。ばね4は、ばね線を螺旋状に巻回して形成されたねじりコイルばねである。ばね4は、左巻き(前端から後端に向かって反時計回り)である。ばね4の巻き数は、
図2に示すように、例えば7巻きであるが、これに限定されるものではない。ばね4は、外回転体2及び内回転体3が回転していない状態(すなわち、ばね4がねじられるような外力が、ばね4に加えられていない状態)において、全長にわたって径が略一定である。ばね4は、内回転体3の接続部33の後面とスラストプレート8の前面との間に挟まれることで、軸方向に若干圧縮された状態で空間9に収容されている。なお、ばね4の自然長に対する圧縮率は、例えば約20%である。
【0035】
ばね4は、外周面41と内周面42とを有しており、ばね線の断面形状は、例えば
図2に示すように台形状になっている。外周面41及び内周面42は、外回転体2の回転軸Rと略平行になっている。また、ばね4は、外回転体2及び内回転体3が回転していない状態で、後端部において、外周面41が外回転体2の圧接面21に接触する後端側領域43(本発明の「第1領域」)と、前端部において、内周面42が内回転体3の接触面35に接触する前端側領域44(本発明の「第2領域」)と、後端側領域43と前端側領域44との間に位置し、外回転体2と内回転体3のいずれにも接触しない中領域45とを有する。
【0036】
後端側領域43は、ばね4の後端から1周以上(回転軸周りに360°以上)の領域である。外回転体2及び内回転体3が回転していない状態で、後端側領域43は、若干縮径された状態で空間9に収容されている。後端側領域43の外周面41は、ばね4の拡径方向の自己弾性復元力によって、圧接面21に押し付けられている(
図2及び
図4参照)。
【0037】
前端側領域44は、ばね4の前端から1周以上(回転軸周りに360°以上)の領域である。前端側領域44は、外回転体2及び内回転体3が回転していない状態において、若干拡径された状態で空間9に収容されている。前端側領域44の内周面42は、接触面35に押し付けられている(
図2及び
図3参照)。また、前端側領域44は、三つの部分からなる。すなわち、
図3に示すように、前端側領域44は、周方向において内回転体3の突起37よりもばね4の前端側(
図3の矢印と同じ方向)の第1部分46と、径方向において突起37に対向する第2部分47と、第2部分47よりも後端側(
図3の矢印と同じ方向)の第3部分48とを有する。
図3において、ばね4のうち二点鎖線に挟まれた部分が、第2部分47である。また、第1部分46の前端部には、内回転体3の対向面36と周方向において対向する前端面49が形成されている。
【0038】
図2に示すように、中領域45は、後端側領域43と前端側領域44との間の領域である。外回転体2及び内回転体3が回転していない状態で、中領域45は、外回転体2と内回転体3のいずれにも接触していない。また、中領域45の外周面41は、径方向において、外回転体2の当接面22と対向する。詳細については後述する。
【0039】
(外回転体の当接面の詳細)
次に、外回転体2の当接面22の詳細について説明する。
【0040】
図2に示すように、当接面22は、外回転体2の内周面のうち、圧接面21の前方においてテーパ状に形成されたテーパ面である。当接面22の径は、圧接面21の径よりも大きく、後方から前方へ向かうにつれて連続的に大きくなっている。当接面22は、径方向において、中領域45の外周面41と対向する。
【0041】
外回転体2及び内回転体3が回転していない状態における、ばね4の中領域45の外周面41と外回転体2の当接面22との隙間の径方向における大きさをX1とする。前述したように、当接面22の径は、後方から前方へ向かうにつれて連続的に大きくなっており、また、外回転体2及び内回転体3が回転していない状態において、ばね4の径は、全長にわたって略一定である。このため、上記隙間の大きさX1は、中領域45の後端において最も小さく、後方から前方へ向かうにつれて連続的に大きくなっている。すなわち、上記隙間の大きさX1は、前後方向において連続的に変化する。
【0042】
(プーリ構造体の動作)
次に、プーリ構造体1の動作について、
図3〜
図5を用いて説明する。
図5は、ばね4の中領域45の拡径を示す説明図である。まず、外回転体2の回転速度が内回転体3の回転速度よりも大きい場合(すなわち、外回転体2が加速する場合)について説明する。なお、
図3及び
図4の矢印方向を正方向とする。
【0043】
まず、外回転体2が、内回転体3に対して正方向に相対回転し始める。ここで、外回転体2の圧接面21には、ばね4の後端側領域43の外周面41が圧接されているため(
図4参照)、外回転体2の相対回転に伴って、ばね4の後端側領域43が圧接面21と共に正方向に移動し、内回転体3に対して正方向に相対回転する。これにより、ばね4が拡径方向にねじり変形(以下、単に拡径変形という)する。なお、圧接面21に対するばね4の後端側領域43の圧接力は、ばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなるほど増大する。
【0044】
ばね4の拡径方向のねじり角度が、0°以上且つ所定の角度θ1(例えば3°)未満の場合、ばね4のうち、前端側領域44の第2部分47において最も大きなねじり応力が発生するようになっており、第2部分47が最も拡径変形しやすくなっている。このため、ばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなると、第2部分47の内周面42が、拡径変形によって最初に接触面35から離れる。第2部分47が接触面35から離れると略同時に、又は、ばね4の拡径方向のねじり角度がさらに大きくなったときに、第2部分47の外周面が突起37に当接し、第2部分47の拡径変形が規制される。なお、このとき、第1部分46及び第3部分48は、まだ接触面35に接触している。
【0045】
第2部分47が突起37に当接すると同時に、又は、ばね4の拡径方向のねじり角度がさらに大きくなったときに、第3部分48の接触面35に対する圧接力が略ゼロとなる。このときのばね4の拡径方向のねじり角度が、前述したθ1である。ねじり角度がθ1を超えると、第3部分48は、拡径変形により接触面35から離れていく。
【0046】
ばね4の拡径方向のねじり角度がθ1以上の場合、ばね4の前端側領域44の拡径変形が突起37によって規制されており、前端側領域44は円弧状、すなわち突起37に対して摺動し易い形状に維持されている。このため、ねじり角度がさらに大きくなってばね4に作用するねじりトルクが増加すると、前端側領域44は、突起37に対する第2部分47の圧接力及び接触面35に対する第1部分46の圧接力に抗して、突起37及び接触面35に対して周方向に摺動する。そして、ばね4の前端面49が対向面36に当接して対向面36を押圧することにより、外回転体2と内回転体3との間で確実にトルクが伝達される。なお、このとき、前端側領域44の第3部分48が接触面35から離れているため、ねじり角度がθ1未満のとき(第3部分48が接触面35に押し付けられていたとき)と比べて、ばね4の有効巻数(ばね4の全長から固定部分を除いた、変形しうる範囲の巻数)が大きくなる。
【0047】
次に、ばね4の拡径方向のねじり角度がθ1以上の場合における、中領域45の拡径変形について、
図5を用いて説明する。まず、ばね4の中領域45が拡径変形する前の状態では、中領域45の外周面41と外回転体2の当接面22との隙間の径方向における大きさは、前述したとおりX1である(
図5(a)参照)。ねじり角度が大きくなるにつれて、ばね4の中領域45が拡径し、上記隙間が小さくなっていく。但し、ねじり角度が所定の角度θ2(例えば5°)未満の場合、中領域45の外周面41と当接面22とはまだ接触していない。このため、ねじり角度がθ1〜θ2の範囲においては、ばね4の有効巻数は変化しない。
【0048】
ばね4の拡径方向のねじり角度がθ2を超えると、
図5(b)に示すように、ばね4の中領域45の外周面41のうち、当接面22との隙間が最も小さい後端部分(すなわち、後端側領域43に最も近い部分)が、当接面22に当接する。つまり、ねじり角度がθ2を超えると、中領域45の一部の拡径変形が当接面22によって規制され始める。ねじり角度がさらに大きくなるにつれて、ばね4の中領域45のうち拡径変形が規制されていない部分は、さらに拡径変形を続ける。そして、中領域45の外周面41は、後端側領域43に近い部分から順次、当接面22に対して徐々に連続的に当接していき(
図5(b)〜(d)参照)、当接した部分のそれ以上の拡径変形が規制される。このため、ねじり角度が大きくなるにつれて、ばね4の有効巻数は、徐々に連続的に減少する。
【0049】
そして、ばね4の拡径方向のねじり角度が所定の角度θ3(例えば45°)に到達すると、
図5(d)に示すように、ばね4の中領域45全体の外周面41が当接面22に当接する。また、このとき、ばね4の前端側領域44も内回転体3の外筒部32に接触する。これにより、ばね4全体のそれ以上の拡径変形が規制され、ばね4のねじり角度はθ3よりも大きくならず、外回転体2及び内回転体3が一体的に回転する。このように、プーリ構造体1においてロック機構が働くことで、ばね4の過度の拡径変形による破損が防止されるようになっている。
【0050】
次に、上記のようなねじり角度の範囲(0°〜θ3)における、ばね4のねじり角度とばね4に作用するねじりトルクとの関係について、
図6のグラフを用いて説明する。まず、ばね4の拡径方向のねじり角度が0°〜θ1の範囲では、ばね4の前端側領域44の第3部分48が接触面35に接触しており、ばね4の有効巻数が変化しないので、有効巻数に反比例するばね定数(ねじりトルク/ねじり角度)は、上記範囲において一定である。つまり、ねじり角度が0°〜θ1の範囲では、ねじりトルクはねじり角度に比例し、グラフは直線状になっている。
【0051】
ばね4の拡径方向のねじり角度がθ1〜θ2の場合、ばね4の前端側領域44の第3部分48が接触面35から離れているため、ねじり角度がθ1未満の場合に比べると、ばね4の有効巻数が大きくなり、ばね4のばね定数が小さくなる。なお、ねじり角度がθ1〜θ2の範囲においても、前述したように有効巻数は変化せず、ばね定数は一定である。
【0052】
ばね4の拡径方向のねじり角度がθ2〜θ3の場合、ねじり角度が大きくなるにつれて、外回転体2の当接面22に対するばね4の中領域45の外周面41の当接部分が、徐々に連続的に増加していく。このため、ねじり角度が大きくなるにつれて、ばね4の有効巻数が徐々に連続的に減少し、それに反比例して、ばね4のばね定数は徐々に連続的に大きくなっていく。ここで、前述したように、ばね4の中領域45の外周面41が当接面22に当接し始めるねじり角度θ2の値は、例えば5°である。また、ばね4全体の拡径変形が規制される最大ねじり角度(すなわち、θ3)の値は、例えば45°である。つまり、ばね4の拡径方向のねじり角度が上記最大ねじり角度の概ね10%以上になったときに、中領域45の外周面41の一部が当接面22に当接し、ばね定数が変化し始める。
【0053】
なお、従来のように、ねじり角度がθ2〜θ3の範囲においてもばね定数が一定である場合(
図6のグラフの破線参照。上述したプーリ構造体201において、このような特性になる)と比べて、プーリ構造体1のばね4は拡径変形しにくい。例えば、従来のプーリ構造体201のばね204の拡径変形が最大化するような(すなわち、拡径方向のねじり角度がθ3になるような)ねじりトルクTがばね4に作用しても、ばね4の拡径方向のねじり角度はθ3よりも小さいθ4にとどまり、拡径変形は最大化しない。
【0054】
次に、外回転体2の回転速度が内回転体3の回転速度よりも小さい場合(すなわち、外回転体2が減速する場合)について説明する。この場合、外回転体2は、内回転体3に対して逆方向(
図2及び
図3の矢印方向と逆の方向)に相対回転する。外回転体2の相対回転に伴って、ばね4の後端側領域43が、圧接面21と共に移動し、内回転体3に対して相対回転する。これにより、ばね4が縮径方向にねじり変形する(以下、単に縮径変形という)。
【0055】
ばね4の縮径方向のねじり角度が所定の角度θ5(
図6参照。例えば、θ5=10°)未満の場合、後端側領域43の圧接面21に対する圧接力は、ねじり角度がゼロの場合に比べて若干低下するものの、後端側領域43は圧接面21に圧接している。また、前端側領域44の接触面35に対する圧接力は、ねじり角度がゼロの場合に比べて若干増大する。ばね4の縮径方向のねじり角度がθ5以上の場合、後端側領域43の圧接面21に対する圧接力は略ゼロとなり、後端側領域43は圧接面21に対して外回転体2の周方向に摺動する。したがって、外回転体2と内回転体3との間でトルクは伝達されない。このようにして、ばね4は、トルクを一方向に伝達又は遮断する。なお、ばね4の前後方向の後端部は、内回転体3と一体的に回転するスラストプレート8の前面に接触しているため、ばね4がさらに縮径して後端側領域43が圧接面21から離れた場合、ばね4は内回転体3と一体に動き、且つ、外回転体2と接触していない状態になる。このように、ばね4が縮径する場合、ばね4と外回転体2との擦過による両者の摩耗が抑えられるようになっている。
【0056】
以上のように、外回転体2が加速する場合にばね4の中領域45が拡径していくと、中領域45の外周面41と当接面22とは、隙間が小さい部分から順次接触していく。ばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなるにつれて接触部分が増えるため、中領域45の外周面41と当接面22との接触が始まってから中領域45全体が当接面22に接触するまでの間に、ばね4の有効巻数が減少し、それに反比例してばね定数は大きくなる。言い換えると、上記接触が始まってから拡径変形が最大化するまでのねじり角度の範囲において、ねじり角度の変化に伴いばね4のねじり方向の固有振動数が変化する。上記ねじり角度の範囲において、例えばクランク軸の回転速度の変動等により外回転体2の回転速度が変動し、その周波数が、あるねじり角度において、仮にばね4の固有振動数と一致しても、ねじり角度が変化すればばね4の固有振動数も変化することから、外回転体2の回転変動の周波数とばね4の固有振動数が一致する状態が続かない。そのため、ばね4の共振が抑えられる。このようにしてねじり方向の共振が抑制されることで、ばね4の拡径変形やその最大化が過度に繰り返されることを防止できる。したがって、ばね4のねじり方向の共振を抑制して、ばね4の破損を防止することができる。また、ばね4の外周面41と当接面22との接触が過度に繰り返されることを抑制できるため、部材の摩耗を抑えることができる。
【0057】
また、外回転体2及び内回転体3が回転していない状態で、上記隙間が、後方から前方へ向かうにつれて大きくなる。このため、ばね4の中領域45の拡径変形にしたがって、中領域45の外周面41と当接面22とが、上記隙間が小さい側、すなわち後端側領域43に近い側から順次接触していく。このため、ばね4の有効巻数を、ねじり角度に応じて徐々に変化させることが確実にできる。したがって、ばね4のばね定数をねじり角度に応じて徐々に変化させることができ、急激な変化を抑制できる。
【0058】
また、外回転体2及び内回転体3が回転していない状態で、前後方向において上記隙間の大きさが連続的に変化する。このため、ばね4の中領域45が拡径変形するにつれて、中領域45の外周面41と当接面22との接触部分の面積が徐々に連続的に増加し、ばね4の有効巻数が緩やかに変化する。したがって、ばね4のばね定数を緩やかに変化させることができる。
【0059】
また、ばね4の拡径方向のねじり角度が、ばね4全体の拡径変形が規制される最大ねじり角度の10%以上になったときに、中領域45の外周面41の一部が当接面22に当接する。つまり、ねじり角度が比較的小さい段階から、中領域45の外周面41と当接面22が接触し始める。これにより、広いねじり角度の範囲にわたってばね4の固有振動数を変化させることができ、ばね4の拡径変形やその最大化の過度の繰り返しをさらに起こりにくくすることができる。
【0060】
また、外回転体2の当接面22が単純なテーパ面になるので、外回転体2の製造コストの増加を抑えることができる。
【0061】
また、中領域45が拡径変形するねじり角度の範囲においてばね定数が一定である従来のプーリ構造体201と比べて、プーリ構造体1のばね4のばね定数は大きくなりやすいため、ばね4は拡径変形しにくい。このため、例えばプーリ構造体1に接続されるオルタネータの容量が大きくても(すなわち、オルタネータの慣性モーメントが大きく、オルタネータの駆動軸を回転させるために必要なトルクが大きくても)、ばね4の拡径方向のねじり角度は、従来のプーリ構造体201と比べて最大化しにくい。つまり、プーリ構造体1においては、容量が小さいオルタネータに接続される場合は勿論のこと、容量が比較的大きいオルタネータに接続された場合でも、ばね4の拡径変形やその最大化が過度に繰り返されにくいため、ばね4が破損しにくくなる。したがって、例えば自動車の車種ごとにオルタネータの容量を変更する必要があっても、オルタネータの容量によらず同じプーリ構造体1を兼用しやすくなるので、プーリ構造体の設計を車種ごとに変更する手間を軽減させることができる。
【0062】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について、
図7及び
図8を参照しながら説明する。但し、第1実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0063】
図7は、第2実施形態に係るプーリ構造体1aの断面図である。プーリ構造体1aにおいては、外回転体2aの形状が、第1実施形態の外回転体2の形状と異なる。それ以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0064】
外回転体2aの後端部の内周には、圧接面21aが形成されており、圧接面21aの前方には、当接面22aが形成されている。圧接面21aの形状は、第1実施形態の圧接面21と同様である。
【0065】
当接面22aは、全体にわたって螺旋状に形成された螺旋面である。この螺旋の前後方向のピッチは、ばね4の巻線のピッチと略等しい。また、この螺旋面は、回転軸Rに対して略平行である。外回転体2及び内回転体3が回転していない状態における、当接面22aと中領域45の外周面41との隙間の径方向における大きさを、X2とする。X2は、第1実施形態の隙間の大きさX1と同様に、後方から前方へ向かうにつれて連続的に大きくなっている。
【0066】
上記のようなプーリ構造体1aにおいても、ばね4の拡径方向のねじり角度がθ2〜θ3の場合、ばね4の中領域45が拡径するにつれて、中領域45の外周面41と当接面22aとが、後端側領域43に近い側から順次接触する。この第2実施形態においては、第1実施形態(
図5参照)と比較して、
図8に示すように、中領域45の外周面41と当接面22aとの接触部分の面積が増える。したがって、接触部分に生じる応力が分散しやすくなるので、ばね4及び外回転体2の摩耗等を抑制することができる。
【0067】
次に、前記までの実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記までの実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0068】
(1)外回転体2等の構成は、上述したものに限られない。例えば、前記までの実施形態においては、当接面22等がテーパ形状又は螺旋状に形成されているものとしたが、例えば階段状等でも良い。また、前記までの実施形態においては、当接面22等の径は後方から前方へ向かうにつれて大きくなるものとしたが、これには限られない。例えば
図9(a)に示すように、プーリ構造体1bの外回転体2bにおいて、当接面22bの径が、前方から後方へ向かうにつれて大きくなっていても良い。さらに、前後方向において一方から他方へ向かうにつれて、当接面22等の径が必ずしも大きくなっていなくても良い。例えば、
図9(b)に示すように、プーリ構造体1cの外回転体2cにおいて、ばね4の後端側領域43側と前端側領域44側の両方において当接面22cの径が小さく、それらの間の領域において当接面22cの径が大きくなっていても良い。この場合でも、中領域45の外周面41と当接面22cとは、ばね4の拡径に伴い、隙間が小さい部分から順次接触していく。これにより、中領域45の拡径中にばね4のばね定数が変化しやすく、すなわち固有振動数が変化しやすくなるため、ばね4のねじり方向の共振を抑えることができる。
【0069】
(2)前記までの実施形態において、ばね4は、外回転体2及び内回転体3が回転していない状態において、全長にわたって径が略一定であるものとしたが、これには限られない。例えば、円錐形や樽形等のものでも良く、外回転体2及び内回転体3が回転していない状態において、前後方向において中領域45の外周面と当接面22等との隙間が変化する構成になっていれば良い。
【0070】
(3)ばね4の断面形状は、
図2等に示されるような台形状でなくても良い。例えば円形等、様々な形状であって良い。
【0071】
(4)前記までの実施形態において、ばね4は、外回転体2及び内回転体3が回転していない状態において、後端側領域43の外周面が外回転体に押し付けられ、前端側領域44の内周面が内回転体に押し付けられるものとしたが、これには限られない。例えば、外回転体2及び内回転体3が回転していない状態において、ばね4の後端側領域43の内周面が外回転体に押し付けられ、前端側領域44の外周面が内回転体に押し付けられるような構成でも良い(上述した特許文献1(特開2014−114947号公報)の
図5等参照)。或いは、後端側領域43の外周面が内回転体に押し付けられ、前端側領域44の内周面が外回転体に押し付けられるような構成等になっていても良い。つまり、ばね4を介して、外回転体と内回転体との間でトルクを伝達できる構成であれば良い。