(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6748422
(24)【登録日】2020年8月12日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】アルカリ電池用セパレータ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 2/16 20060101AFI20200824BHJP
【FI】
H01M2/16 P
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-240866(P2015-240866)
(22)【出願日】2015年12月10日
(65)【公開番号】特開2017-107752(P2017-107752A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2018年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川野 明彦
(72)【発明者】
【氏名】村田 修一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康博
【審査官】
鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−126595(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/012281(WO,A1)
【文献】
特開昭53−040829(JP,A)
【文献】
特開昭53−026931(JP,A)
【文献】
特開2015−112784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンを芯成分とし、ポリエチレンを鞘成分とする芯鞘型複合繊維からなる不織布形態のセパレータであり、前記鞘成分であるポリエチレンはスルホン酸基を有し、かつ前記芯成分であるポリプロピレンの結晶化度が48%以上、50%以下であることを特徴とする、アルカリ電池用セパレータ(ただし、無機物が存在するものを除く)。
【請求項2】
ポリプロピレンを芯成分とし、ポリエチレンを鞘成分とする芯鞘型複合繊維を用いて不織布を形成した後、スルホン化処理により、芯成分であるポリプロピレンの結晶化度が48%以上、50%以下であるように、前記鞘成分であるポリエチレンにスルホン酸基を導入することを特徴とする、アルカリ電池用セパレータ(ただし、無機物が存在するものを除く)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ電池用セパレータ及びその製造方法に関する。より具体的には、アルカリマンガン電池、水銀電池、酸化銀電池、空気電池などのアルカリ一次電池や、ニッケル−カドミウム電池、銀−亜鉛電池、銀−カドミウム電池、ニッケル−亜鉛電池、ニッケル−水素電池、充電式アルカリマンガン電池などのアルカリ二次電池に使用できるセパレータに関するものであり、特にニッケル−カドミウム電池やニッケル−水素電池などの過充電時に酸素を発生する電池に好適に使用できるセパレータ、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルカリ電池の正極と負極とを分離して短絡を防止すると共に、電解液を保持して起電反応を円滑に行うことができるように、セパレータが使用されている。このセパレータは水酸化カリウムなどからなる電解液を保持する必要があるため、耐アルカリ性に優れるポリオレフィン系繊維からなる不織布が使用されてきた。しかしながら、ポリオレフィン系繊維は電解液との親和性が低く、電解液の保持性が悪いため、ポリオレフィン系繊維からなる不織布を様々な方法で親水化処理して、電解液の保持能を付与していた。
【0003】
例えば、本願出願人は、高密度ポリエチレンを鞘成分とし、ポリプロピレンを芯成分とした、引張り強さが4.5cN/dtex以上の芯鞘型高強度ポリプロピレン系繊維のみから構成され、この芯鞘型高強度ポリプロピレン系繊維が融着した不織布からなり、スルホン化処理が施された、平均5%モジュラス強度が50〜120N/5cm幅であるセパレータ(特許文献1)、を提案した。このセパレータは耐アルカリ性に優れるとともに、電解液の保持性に優れるものであったが、過充電時に発生する酸素によって、セパレータが劣化して短絡が発生したり、酸素による劣化物が極板に影響を及ぼし、電池の寿命を短くする恐れがあった。
【0004】
【特許文献1】特開2004−296355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような状況下においてなされたもので、耐アルカリ性及び電解液の保持性に加えて、耐酸化性にも優れるセパレータ、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1にかかる発明は、「ポリプロピレンを芯成分とし、ポリエチレンを鞘成分とする芯鞘型複合繊維からなる不織布形態のセパレータであり、前記鞘成分であるポリエチレンはスルホン酸基を有し、かつ前記芯成分であるポリプロピレンの結晶化度が46%以上であることを特徴とする、アルカリ電池用セパレータ。」である。
【0007】
本発明の請求項2にかかる発明は、「ポリプロピレンを芯成分とし、ポリエチレンを鞘成分とする芯鞘型複合繊維を用いて不織布を形成した後、スルホン化処理により、芯成分であるポリプロピレンの結晶化度が46%以上であるように、前記鞘成分であるポリエチレンにスルホン酸基を導入することを特徴とする、アルカリ電池用セパレータの製造方法。」である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の請求項1にかかる発明は、ポリエチレンを鞘成分とする芯鞘型複合繊維からなるセパレータであるため、耐アルカリ性に優れている。また、鞘成分であるポリエチレンはスルホン酸基を有しているため、電解液の保持性にも優れている。更に、芯成分であるポリプロピレンの結晶化度が46%以上であることによって、耐酸化性にも優れている。
【0009】
本発明の請求項2にかかる発明は、請求項1にかかる耐アルカリ性、電解液の保持性、及び耐酸化性の優れるセパレータを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のアルカリ電池用セパレータ(以下、単に「セパレータ」と表記することがある)は、耐アルカリ性に優れているように、ポリプロピレンを芯成分とし、ポリエチレンを鞘成分とする芯鞘型複合繊維からなる不織布形態のセパレータである。
【0011】
本発明の芯鞘型複合繊維の芯成分であるポリプロピレンは、プロピレンの単独重合体であることができるし、プロピレンとα−オレフィン(例えば、エチレン、ブテン−1など)との共重合体であることもできる。より具体的には、例えば、結晶性を有するアイソタクチックプロピレン単独重合体、エチレン単位の含有量の少ないエチレン−プロピレンランダム共重合体、プロピレン単独重合体からなるホモ部とエチレン単位の含有量の比較的多いエチレン−プロピレンランダム共重合体からなる共重合部とから構成されたプロピレンブロック共重合体、更に、前記プロピレンブロック共重合体における各ホモ部または共重合部が、更にブテン−1などのα−オレフィンを共重合したものからなる結晶性プロピレン−エチレン−α−オレフィン共重合体などを挙げることができる。これらの中でもアイソタクチックポリプロピレン単独重合体は結晶化度が高くなりやすいため、好適であり、特に、アイソタクチックペンタッド分率(IPF)が90%以上、分子量分布の指標であるQ値(重量平均分子量/数平均分子量=Mw/Mn比)が6以下、メルトインデックスMI(温度230℃、荷重2.16kg)が3〜50g/10分であるのが好ましい。このようなポリプロピレンは、チーグラー・ナッタ型触媒又はメタロセン系触媒などを用いて、プロピレンを単独重合又はプロピレンと他のα−オレフィンとを共重合させて得ることができる。
【0012】
一方、芯鞘型複合繊維の鞘成分は耐アルカリ性に優れているばかりでなく、鞘成分が溶融し、固化することによって繊維同士が融着したとしても、芯成分が溶融せず、繊維形態を維持してセパレータの形態安定性に優れているように、鞘成分はポリプロピレンよりも融点の低いポリエチレンからなる。ポリエチレンとしては特に限定するものではないが、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどを挙げることができる。これらの中でも高密度ポリエチレンは比較的融点が高く、セパレータを高温下で使用しやすいばかりでなく、高密度ポリエチレンはある程度の硬さを有するため、張りや腰のあるセパレータとすることができ、取り扱い性に優れるため好適である。
【0013】
なお、芯鞘型複合繊維において、芯成分であるポリプロピレンは偏芯した状態にあっても良いが、繊維横断面において、同芯円状に芯成分が配置していると均等に融着できるため好適である。
【0014】
また、芯成分と鞘成分の体積比は特に限定するものではないが、繊維同士が強固に融着できるように、また、融着時に繊維形態を維持できるように、芯成分と鞘成分の体積比は8:2〜2:8であるのが好ましく、3:7〜7:3であるのがより好ましく、4:6〜6:4であるのが更に好ましい。
【0015】
本発明の芯鞘型複合繊維の鞘成分であるポリエチレンはスルホン酸基を有する。そのため、電解液の保持性に優れている。このようにスルホン酸基を有するポリエチレンを鞘成分とする芯鞘型複合繊維は、繊維の状態で、又は不織布状態で、常法によりスルホン化処理を実施することにより得ることができる。なお、ポリエチレンはスルホン酸基以外の親水性基(例えば、カルボキシル基、カルボニル基など)も有していても良い。また、電解液の注液性に優れるように、スルホン酸基を含む親水性基以外に、界面活性剤を更に含んでいても良い。
【0016】
更に、本発明の芯鞘型複合繊維の芯成分であるポリプロピレンの結晶化度が46%以上であるため、耐酸化性にも優れている。これは酸素によって酸化されやすい非晶質部分が少ないためである。このポリプロピレンは芯成分であることから、繊維表面に露出しているのが、繊維の両末端部のみであり、露出面積が非常に少ないにもかかわらず、芯成分であるポリプロピレンの結晶化度がセパレータとして使用した場合の耐酸化性に大きな影響を与えることは驚くべきことである。このポリプロピレンの結晶化度が高ければ高い程、耐酸化性に優れているため、ポリプロピレンの結晶化度は47%以上であるのがより好ましく、48%以上であるのが更に好ましく、49%以上であるのが更に好ましく、50%以上であるのが更に好ましい。
【0017】
本発明における「結晶化度」は、芯成分であるポリプロピレンの融解熱量(記号=Hc、単位=J/g)の、完全結晶のポリプロピレンの融解熱量(記号=Hp、209J/g)に対する百分率を意味する。つまり、結晶化度(Cd)は、次の式から得られる。
Cd=(Hc/Hp)×100=0.478×Hc
なお、芯成分であるポリプロピレンの融解熱量は、示差走査熱量計(DSC)により、窒素ガス雰囲気下において、室温から200℃程度まで、10℃/分の速度で昇温させて得られる値を意味する。
【0018】
本発明のセパレータを構成する芯鞘型複合繊維の繊維径は特に限定するものではないが、5〜32μmであるのが好ましく、8〜17μmであるのがより好ましい。芯鞘型複合繊維の繊維径が5μm未満であると、不織布の強度が不十分である傾向があり、繊維径が32μmを超えると、芯鞘型複合繊維が均一に分散しにくく、均一に電解液を保持することが困難になる傾向があるためである。
【0019】
また、芯鞘型複合繊維の繊維長は、芯鞘型複合繊維が均一に分散しており、均一に電解液を保持しやすいように、1〜20mmであるのが好ましく、2〜15mmであるのがより好ましく、3〜10mmであるのが更に好ましい。
【0020】
なお、本発明のセパレータは1種類の芯鞘型複合繊維から構成されていても良いし、芯成分であるポリプロピレンの種類、鞘成分であるポリエチレンの種類、芯成分であるポリプロピレンの繊維横断面における配置状態、芯成分と鞘成分の体積比、スルホン酸基量、芯成分であるポリプロピレンの結晶化度、繊維径、及び/又は繊維長の点で異なる、2種類以上の芯鞘型複合繊維から構成されていても良い。
【0021】
本発明のセパレータである不織布は上述のような芯鞘型複合繊維からなるが、セパレータ(不織布)の形態安定性に優れているように、芯鞘型複合繊維の鞘成分の融着により不織布形態を保持しているのが好ましい。なお、芯鞘型複合繊維の鞘成分の融着に加えて、又は替えて、水流絡合などによって形成できる三次元絡合によって形態を保持していることもできる。
【0022】
本発明のセパレータの目付は特に限定するものではないが、目付が高いと繊維量が多くなり、地合いが良く、信頼性の高いセパレータであることができるため、40g/m
2以上であるのが好ましく、60g/m
2以上であるのがより好ましく、80g/m
2以上であるのが更に好ましい。一方で、目付が高くなると、セパレータが厚くなり、電池の高容量化に対応しにくいため、100g/m
2以下であるのが好ましく、90g/m
2以下であるのがより好ましく、85g/m
2以下であるのが更に好ましい。本発明における「目付」はJIS P 8124:2011(紙及び板紙−坪量測定法)に規定されている方法に基づいて得られる坪量を意味する。
【0023】
また、本発明のセパレータの厚さとしては0.30mm以下であることができ、好ましくは0.25mm以下である。本発明の「厚さ」は、JIS B 7502:1994に規定されている外側マイクロメーター(0〜25mm)を用いた5N荷重時の測定を、無作為に選んだ10点について行い、その算術平均値をいう。
【0024】
本発明のセパレータは例えば、次の方法により製造することができる。つまり、ポリプロピレンを芯成分とし、ポリエチレンを鞘成分とする芯鞘型複合繊維を用いて不織布を形成した後、スルホン化処理により、芯成分であるポリプロピレンの結晶化度が46%以上であるように、前記鞘成分であるポリエチレンにスルホン酸基を導入して製造することができる。
【0025】
芯鞘型複合繊維としては、前述のような芯鞘型複合繊維を使用することができ、特に、高密度ポリエチレンを鞘成分とする芯鞘型複合繊維を使用するのが好ましい。また、スルホン化処理後における芯鞘型複合繊維の芯成分であるポリプロピレンの結晶化度が46%以上であるように、スルホン化処理前における結晶化度が48%以上であるポリプロピレンを芯成分とする芯鞘型複合繊維を使用するのが好ましい。
【0026】
次いで、芯鞘型複合繊維を用いて不織布を形成するが、不織布は芯鞘型複合繊維を用いて繊維ウエブを形成した後に、芯鞘型複合繊維同士を結合して形成できる。なお、繊維ウエブの形成方法は、例えば、乾式法、湿式法、メルトブロー法などの直接法を挙げることができるが、芯鞘型複合繊維が均一に分散して、均一に電解液を保持できるように、湿式法により繊維ウエブを形成するのが好ましい。この好適である湿式法として、例えば、水平長網方式、傾斜ワイヤー型短網方式、円網方式、又は長網・円網コンビネーション方式を挙げることができる。
【0027】
また、芯鞘型複合繊維同士の結合は、例えば、芯鞘型複合繊維の鞘成分であるポリエチレンの融着により実施することができる。このように、芯鞘型複合繊維の鞘成分であるポリエチレンを融着させる場合、無圧下で行なっても良いし、加圧下で行なっても良いし、無圧下で鞘成分を溶融させた後に加圧しても良い。このような融着を実施できる装置として、例えば、熱カレンダー、熱風貫通式熱処理器、シリンダ接触型熱処理器などがある。加熱温度は、加熱と加圧を同時に行なう場合には、芯鞘型複合繊維の鞘成分の軟化温度から融点までの範囲内の温度であるのが好ましく、加熱と加圧を同時に行なわない場合には、芯鞘型複合繊維の鞘成分の軟化温度から融点よりも30℃高い温度までの範囲内で行なうのが好ましい。なお、芯鞘型複合繊維の鞘成分であるポリエチレンの融着により芯鞘型複合繊維同士を結合する前に、水流などの流体流により、芯鞘型複合繊維同士を三次元的に絡合させても良い。或いは、芯鞘型複合繊維の鞘成分であるポリエチレンの融着により芯鞘型複合繊維同士を結合することなく、水流などの流体流により、芯鞘型複合繊維同士を三次元的に絡合させても良い。
【0028】
そして、スルホン化処理により、芯成分であるポリプロピレンの結晶化度が46%以上であるように、前記鞘成分であるポリエチレンにスルホン酸基を導入して、本発明のセパレータを製造することができる。例えば、スルホン化処理は、発煙硫酸、硫酸、クロロ硫酸、又は塩化スルフリルなどの溶液中に浸漬することにより、SO
3ガスと接触させることにより、或いはSOガス及び/又はSO
2ガス存在下で放電を作用させることにより実施することができるが、スルホン化条件が強いと、鞘成分であるポリエチレンに多くのスルホン酸基を導入できるものの、芯成分であるポリプロピレンを劣化させてしまい、結晶化度が低くなり、耐酸化性が悪くなる傾向があるため、比較的温和な条件で実施するのが好ましい。例えば、発煙硫酸溶液中に不織布を浸漬して実施する場合、発煙硫酸溶液の温度を60℃以下程度に低くする、発煙硫酸溶液における三酸化硫黄濃度を15%以下程度に低くする、及び/又は不織布の浸漬時間を2分間以下程度に短くする、などの方法により、芯成分であるポリプロピレンの結晶化度が46%以上であるようにスルホン酸基を導入するのが好ましい。
【0029】
以上は、芯鞘型複合繊維を用いて不織布を形成した後にスルホン化処理を実施して、鞘成分であるポリエチレンにスルホン酸基を導入するセパレータの製造方法であるが、芯鞘型複合繊維に対してスルホン化処理を実施し、芯成分であるポリプロピレンの結晶化度が46%以上である、スルホン化芯鞘型複合繊維とした後に、このスルホン化芯鞘型複合繊維を用いて不織布を形成し、この不織布をセパレータとすることもできる。
【0030】
本発明のセパレータは耐アルカリ性、電解液の保持性、及び耐酸化性に優れているため、本発明のセパレータを使用すれば、電解液が枯れにくく、短絡が発生しにくく、寿命の長いアルカリ電池を製造することができる。例えば、円筒形、角型又はボタン型で、寿命の長いアルカリ電池を製造することができる。より具体的には、アルカリマンガン電池、水銀電池、酸化銀電池、又は空気電池などの一次電池、或いはニッケル−カドミウム電池、銀−亜鉛電池、銀−カドミウム電池、ニッケル−亜鉛電池、ニッケル−水素電池又は鉛蓄電池などの二次電池、特にニッケル−カドミウム電池、ニッケル−水素電池を好適に製造できる。なお、本発明のセパレータを使用したアルカリ電池は常温下での使用は勿論のこと、酸化劣化しやすい高温下で使用しても、寿命の長いものである。
【実施例】
【0031】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
芯成分がアイソタクチックポリプロピレン単独重合体(融点:168℃、結晶化度:49%)からなり、鞘成分が高密度ポリエチレン(融点:135℃)からなる芯鞘型複合繊維(繊維径:11μm、繊維長:5mm、繊維横断面において、同芯円状に芯成分が配置、芯対鞘の体積比:6:4)を用意した。
【0033】
次いで、前記芯鞘型複合繊維のみを分散させてスラリーを形成した後、湿式法により繊維ウエブを形成した。
【0034】
次いで、この繊維ウエブを無加圧下、温度135℃に設定した熱風循環式熱処理機で乾燥すると同時に、芯鞘型複合繊維の鞘成分である高密度ポリエチレンで融着して、融着不織布を形成した。
【0035】
次いで、融着不織布を温度57℃の発煙硫酸溶液(比重15%SO
3溶液)中に3分間浸漬した後、十分に水洗し、乾燥して、芯鞘型複合繊維の鞘成分である高密度ポリエチレンにスルホン酸基を導入し、更に常温のカレンダーで厚さ調整して、目付84g/m
2、厚さ0.22mmのセパレータを製造した。
【0036】
(実施例2)
前記実施例1と同様に製造した融着不織布を、温度55℃の発煙硫酸溶液(比重15%SO
3溶液)中に3分間浸漬した後、十分に水洗し、乾燥して、芯鞘型複合繊維の鞘成分である高密度ポリエチレンにスルホン酸基を導入し、更に常温のカレンダーで厚さ調整して、目付84g/m
2、厚さ0.22mmのセパレータを製造した。
【0037】
(実施例3)
前記実施例1と同様に製造した融着不織布を、温度53℃の発煙硫酸溶液(比重15%SO
3溶液)中に2分間浸漬した後、十分に水洗し、乾燥して、芯鞘型複合繊維の鞘成分である高密度ポリエチレンにスルホン酸基を導入し、更に常温のカレンダーで厚さ調整して、目付84g/m
2、厚さ0.22mmのセパレータを製造した。
【0038】
(比較例1)
前記実施例1と同様に製造した融着不織布を、温度60℃の発煙硫酸溶液(比重15%SO
3溶液)中に3分間浸漬した後、十分に水洗し、乾燥して、芯鞘型複合繊維の鞘成分である高密度ポリエチレンにスルホン酸基を導入し、更に常温のカレンダーで厚さ調整して、目付84g/m
2、厚さ0.22mmのセパレータを製造した。
【0039】
(物性評価)
次の手順により、各セパレータのポリプロピレンの結晶化度、加圧保液率、耐アルカリ性及び耐酸化性(化学的酸素要求量)について評価した。これらの結果は表1に示す通りであった。
【0040】
[1]ポリプロピレン(芯成分)の結晶化度;
各セパレータにおけるポリプロピレン(芯成分)の融解熱量(=Hc)を、前述の条件で示差走査熱量計(DSC)を用いて測定し、完全結晶のポリプロピレンの融解熱量(=Hp、209J/g)とから、次の式からポリプロピレン(芯成分)の結晶化度(=Cd)を算出した。この測定は1種類のセパレータに対して3回測定し、その平均値を結晶化度とした。
Cd=(Hc/Hp)×100=0.478×Hc
【0041】
[2]加圧保液率;
各セパレータから、直径30mmの試験片を採取し、温度20℃、相対湿度65%の状態下で、水分平衡状態に至らせた後、質量(M
0)を測定した。
【0042】
次に、セパレータ中の空気を水酸化カリウム溶液で置換するために、比重1.30(20℃)の水酸化カリウム溶液中に1時間以上浸漬し、水酸化カリウム溶液を保持させた。
【0043】
続いて、各セパレータを上下3枚ずつのろ紙(40mm角)で挟み、加圧ポンプにより、5.7MPaの圧力を30秒間作用させた後、セパレータの質量(M
1)を測定した。
【0044】
そして、次の式から、加圧保液率(=Hp、単位:%)を算出した。この測定は1種類のセパレータに対して3枚の試験片について行い、その平均値を加圧保液率とした。この加圧保液率が大きい程、電解液の保持性に優れていることを意味する。
Hp=[(M
1−M
0)/M
0]×100
【0045】
[3]耐アルカリ性試験;
各セパレータから、20cm角の試験片を3枚ずつ採取し、水分平衡状態に至らせた状態の質量(M)を1mgまで測定した後、温度20±2℃で比重1.3の水酸化カリウム溶液で、各試験片を1時間煮沸した。
【0046】
その後、中和点に達するまで水洗した後、乾燥し、再び水分平衡状態に至らせた状態の質量(M
1)を測定し、次式により質量減少率(=Mr、単位:%)を算出した。この測定を3枚の試験片について行い、その平均値を質量減少率とした。この質量減少率が小さい程、耐アルカリ性に優れていることを意味する。
Mr=(M−M
1)/M×100
【0047】
[4]化学的酸素要求量の測定;
各セパレータの化学的酸素要求量を、次の方法により測定した。
(1)酸化剤として作用する後述の過マンガン酸カリウムの20〜40%が消費されるような大きさ(5cm角)に、セパレータを裁断し(面積:0.0025m
2)、水分平衡状態に至らせた状態の質量(M)を1mgまで測定した。
(2)上記のセパレータを更に1〜2cm角程度の大きさに裁断した後、300mLのフラスコに入れた。
(3)メスシリンダーにて100mLの純水をフラスコに注入した。
(4)硫酸1容量に対して蒸留水2容量からなる硫酸水10mLを、振り混ぜながらフラスコに注入した。
(5)5mmol/L(N/40)の過マンガン酸カリウム溶液10mLを、ピベットでフラスコに注入して振り混ぜ、直ちに80℃の湯浴中に入れ、30分間反応させた。なお、この際に、湯浴の水面がフラスコ内の水面よりも上にくるようにして、十分に反応させた。また、30分間反応させた後に、過マンガン酸カリウムの紅色が残っていることを確認した。
(6)湯浴からフラスコを取り出し、12.5mmol/L(N/40)のシュウ酸ナトリウム溶液10mLをピペットでフラスコに注入し、振り混ぜてよく反応させた。この時、過マンガン酸カリウムの紅色が消えて無色になっていることを確認した。
(7)フラスコ内の溶液を60〜80℃に保ちながら、5mmol/L(N/40)の過マンガン酸カリウム溶液で滴定した。終点は微紅色を30秒間以上保つ時とした。この時に要した過マンガン酸カリウム溶液の量a(mL)を測定した。
(8)別に、純水100mLを三角フラスコに取り、(4)〜(7)の操作を行った(空試験)。この時に要した過マンガン酸カリウム溶液の量b(mL)を測定した。
(9)以上の結果から、次式によって化学的酸素要求量(=COD、単位:mg−O/g)を算出した。この測定は1種類のセパレータに対して3枚の試験片について行い、その平均値をCOD値とした。このCOD値が小さい程、耐酸化性に優れていることを意味する。
COD=(a−b)×f×0.2×1/M
ここで、aは滴定に要した過マンガン酸カリウムの量(mL)、bは空試験の滴定に要した過マンガン酸カリウムの量(mL)、fは5mmol/L過マンガン酸カリウム溶液のファクター、Mはセパレータの重量(g)をそれぞれ意味する。
【0048】
【表1】
【0049】
表1の結果から、芯鞘型複合繊維の芯成分であるポリプロピレンの結晶化度が46%以上であると、耐アルカリ性、電解液の保持性、及び耐酸化性(化学的酸素要求量)に優れ、寿命の長いアルカリ電池を製造できると推定できた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のアルカリ電池用セパレータは、特にニッケル−カドミウム電池やニッケル−水素電池などの過充電時に酸素を発生する電池に好適である。