(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
パネル状ワークの縁部に外側から嵌まるフックと、ベルト又はその他の吊り上げ手段で吊り上げられる吊り具と、前記吊り具による吊り上げに伴って前記ワークを上から押さえる押さえ部材とを有しており、
前記フックは、前記ワークを下方から支える下部と、前記ワークの上に位置している上部とを有しており、前記フックの上部と前記押さえ部材とが前記吊り具に嵌まっている構成であって、
前記吊り上げ手段及び吊り具は、吊り上げにより、前記ワークに対するフックの嵌め込み方向に向いた方向に向けて傾いた姿勢で引かれるようになっており、
前記フックの上部と前記押さえ部材とは、非吊り上げ状態では独立して上下動及び回動可能な状態で前記吊り具に嵌まっている一方、吊り上げ状態では、前記吊り具が前記傾いた姿勢に変化することに伴って前記押さえ部材と吊り具との間にこじれが発生して前記押さえ部材が吊り具と一緒に前記傾いた姿勢になることにより、前記押さえ部材によって前記ワークが押さえられるように設定されている、
吊り上げ装置。
【背景技術】
【0002】
例えば、鉄骨建築物の床を構成する部材として、長方形の押し出し式セメント板が使用されている。この押し出し式セメント板は、軽量化のために長手方向に長い貫通穴が並列して複数形成されており、隣り合った押し出し式セメント板の長手側縁同士を当接又は近接させた状態で敷設されている。
【0003】
そして、この押し出し式セメント板は相当の重量があって人手で持ち運ぶのは困難であるため、クレーン等の吊り上げ装置で吊り上げて所定の場所に配置している。具体的には、例えば2階に敷設する場合を例にとると、複数枚の押し出し式セメント板を平積みした状態で吊り上げて2階の仮り置き場所に降ろし、次いで、平積みした押し出し式セメント板を、クレーン等で1枚ずつ吊り上げて所定の敷設場所に移動させるようにしている。
【0004】
複数枚の押し出し式セメント板を平積みした状態で吊り上げるには、例えば環状のベルトが使用されており、平積みされた押し出し式セメント板の群の一端寄り部位と他端寄り部位とにベルトを外側から嵌め入れ、2本のベルトをクレーンのフックで直接に又は水平状のバーを介して吊り上げている。従って、押し出し式セメント板の群は、その一端部と他端部とに間にベルトを嵌め入れできるように、スペーサに載置している。
【0005】
他方、平積みした押し出し式セメント板を1枚ずつ吊り上げて移動させるには、押し出し式セメント板の一方の長手側縁を吊支する一方のリンク体と、押し出し式セメント板の他方の長手側縁を吊支する他方のリンク体とを有するリンク式の吊り上げ治具が使用されており、このリンク式の吊り上げ装置では、押し出し式セメント板を吊り上げると、2つのリンク体で押し出し式セメント板がクランプされるようになっている。その簡単な例が特許文献1に開示されている。
【0006】
この吊り上げ装置は、押し出し式セメント板の下面を支持するタイプと、押し出し式セメント板の長手側面を支持するタイプとがあり、前者の場合は、押し出し式セメント板は、スペーサを介して重ね合わせられている(そうでないと、リンク体の支持片を押し出し式セメント板の下面に当てることができない。)。
【0007】
側面を支持するタイプは、押し出し式セメント板の長手両側面の上端又は上下両端に外向きのフランジが形成されていることを利用しており、リンク体に設けた支持片で、上端のフランジを下方から支持している。
【0008】
他方、押し出し式セメント板には複数の貫通穴が空いていて、この貫通穴は押し出し式セメント板の短手端面に開口しているが、特許文献2には、貫通穴を利用した吊り上げ装置が開示されている。すなわち、特許文献2のものは、押し出し式セメント板の短辺部に重なる当接板に、押し出し式セメント板の貫通穴に嵌入する突出片を水平方向に離反して2本設け、当接板を、クレーン等で吊り上げられる吊り具本体に、水平姿勢の回動軸にて水平回動自在に連結したものであり、このものでは、押し出し式セメント板は、回動軸を中心にして表裏を反転させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2のものは、貫通穴に嵌め入れた突出片で吊支するものであるため、側面にフランジがない押し出し式セメント板であっても、多数枚を上下に密着させて平積みした状態から1枚ずつ移動させることができる利点がある。また、リンク式に比べて構造は遥かに簡単であり、それだけコストを抑制できると共に作業性も向上できる。
【0011】
また、リンク式の吊り上げ装置の場合は、押し出し式セメント板をクランプするものであるため、吊り上げ可能な押し出し式セメント板の幅寸法は概ね決まっており、異なる幅寸法の押し出し式セメント板については、個別に吊り上げ治具を製造せねばならない問題があるが、特許文献2の吊り上げ装置は、互いに分離した2つの吊り上げ装置を使用して吊り上げるものであるため、1種類の吊り上げ装置を、長さや幅寸法が異なる各種の押し出し式セメント板に適用できる利点がある。
【0012】
しかし、改良すべき点も見られる。例えば、吊り具本体は押し出し式セメント板の外側に位置するため、吊り具本体をクレーンで吊り上げると、突出片は、その先端が下方に向くように傾斜する傾向を呈することになり、このため、突出片の先端が貫通穴の下面の狭い部位に集中的に当たって、押し出し式セメント板が傷付きやすくなる問題が懸念される。
【0013】
また、吊り上げによって突出片が傾斜すると、突出片が抜けやすくなるという問題があり、これに対処するために突出片の長さを長くすると、突出片を抜き外すためには押し出し式セメント板の短手端面の外側に大きなスペースが空いてなくてはならないが、施工現場では、押し出し式セメント板を所定位置に配置すると、押し出し式セメント板の短手端面の外側にはあまりスペースがないことが殆どであるため、突出片の長さを長くすることは現実には困難であり、このため、実用性が低いという問題があった。
【0014】
本願発明はこのような現状に鑑み成されたものであり、吊り上げ装置を連結式でない(リンク式でない)構成とすることは特許文献2の考え方を踏襲しつつ、コンパクトでありながらパネル状ワークを安定的に吊り上げできる構成で提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明は様々な構成を有しており、その典型例を各請求項で特定している。このうち請求項1の発明は、
「パネル状ワークの縁部に外側から嵌まるフックと、ベルト又はその他の吊り上げ手段で吊り上げられる吊り具と、前記吊り具による吊り上げに伴って前記ワークを上から押さえる押さえ部材とを有しており、
前記フックは、前記ワークを下方から支える下部と、前記ワークの上に位置している上部とを有しており、前記フックの上部と前記押さえ部材とが前記吊り具に嵌まっている」
という基本構成において、
「
前記吊り上げ手段及び吊り具は、吊り上げにより、前記ワークに対するフックの嵌め込み方向に向いた方向に向けて傾いた姿勢で引かれるようになっており、
前記フックの上部と前記押さえ部材とは、非吊り上げ状態
では独立して上下動及び回動可能な状態で前記吊り具に嵌まっている一方、
吊り上げ状態では、前記吊り具が前記傾いた姿勢に変化することに伴って前記押さえ部材と吊り具との間にこじれが発生して前記押さえ部材が吊り具と一緒に前記傾いた姿勢になることにより、前記押さえ部材によって前記ワークが押さえられるように設定されている」
という特徴を有している。
【0016】
請求項2の発明は、
「パネル状ワークの縁部に外側から嵌まるフックと、前記フックに嵌合した吊り具と、前記吊り具の吊り上げに伴って前記ワークを押さえる押さえ部材とを有しており、
前記フックは、前記ワークを下方から支える下部と、前記ワークの上に位置する上部とを有しており、前記上部が前記吊り具に嵌合している」
という基本構成において、
「前記フックの上部は上向きに立ち上がった起立状部を有している一方、前記吊り具は、U字状鉤体を有するシャックルであり、前記フックの起立状部に設けた吊り穴に、前記シャックルのU字状鉤体が嵌合している一方、
前記押さえ部材は、前記シャックルのU字状鉤体に嵌まった上向き部と、前記ワークの上面に当接可能な押さえ部とを有しており、前記吊り具の吊り上げ時に、前記フックの上向き部の押圧作用又はシャックルの姿勢変化による押圧作用若しくは両方により、前記吊り具は回動作用を受けて押さえ部にてワークの上面が押さえられるように設定されている
」
という特徴を有している。
【0017】
請求項3の発明は請求項2の展開例であり、この発明では、
「前記フックの起立状部と押さえ部材の上向き部とは、前記ワークへのフックの嵌め込み方向を向いた状態で、前記押さえ部材の上向き部がフック
における起立状部の
後ろ側に位置するようにして配置されている
」
という構成になっている。
【0018】
請求項4の発明はフックの形態を特徴にしている。すなわち、
請求項1〜3のうちのいずれかにおいて、
「前記フックは、前記下部と上部とを繋ぐ背部とを有していて、これら下部と上部と背部とでコ字状の形態を成しており、前記上部に、
ワークの上方において上向きに立ち上がった起立状部を設
けている」
という構成になっている。
【0019】
請求項5の発明は請求項1〜4のいずれにも適用可能な具体例であり、この発明では、
「前記
フックの上部に、前記ワークの上面に直接に当接するか又は補助板を介して当接するボルトを設けている
」
という構成になっている。
【0020】
請求項6の発明は請求項
1〜5のいずれにも適用可能な具体例であり、この発明では、
「複数の貫通穴が並列して形成されてい
るパネルとしての前記ワークに使用されるものであり、前記フ
ックの下部は、
前記パネルにおける隣り合った貫通穴に嵌まるように二股状に形成されている
」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明によると、セメント板等のワークは、フックの下部で支持されつつ押さえ部材が上から押さえられているため、ワークに対するフックの嵌合深さを過度に大きくすることなく、ワークの支持安定性を向上できる。しかも、押さえ部材は、吊り具の吊り上げに伴ってワークを上から押さえるものであるため、フックをワークに嵌め込むに際して、押さえ部材が邪魔になることを回避できる。従って、請求項1の発明では、コンパクトな押さえ部材でありながら、ワークへの取り付けの容易性とワークの支持安定性とを向上させることができる。
【0022】
吊り具の吊り上げ時に押さえ部材でワークの上面を押さえる方法は種々考えられるが、請求項2のように、フックの押圧作用やシャックルの押圧作用を利用すると、押さえ部材によるワークの押さえをより確実化できる利点がある。
【0023】
請求項3の発明を採用すると、実施形態のとおり、フックによる押圧作用とシャックルによる押圧作用とを利用して、押さえ部材を的確に回動させることができるため、ワークの押さえ機能をより確実化できる利点がある。
【0024】
請求項4の発明では、起立状部がワークの上に位置しているため、起立状部を吊り上げると、フックの下部が前面に亙ってワークに下方から当たる。すなわち、フックの下部がワークに対して面接触する。このため、狭い部位に荷重(ワークの自重)が作用することを防止して、ワークの変形や破損を防止できる。
【0025】
また、この種の吊り上げ装置は、ワークの平行な2つの縁部にそれぞれ嵌め入れて、ベルトやチェーン等の細長い吊り上げ手段で吊り上げるものであり、ベルトやチェーン等の細長い吊り上げ手段は山形の形態になるため、2つの吊り上げ装置は互いに引き寄せられる作用を受けることになり、その結果、ワークに対すフックの嵌合深さを過度に大きくすることなく、ワークを安定した状態で吊り上げることができる。
【0026】
従って、請求項4の発明では、簡単な構造でかつコンパクトな吊り上げ装置でありながら、ワークを安定的に吊支することができる。このため、吊り上げ装置の着脱のためのスペースをできるだけ小さくすることができて、実用的な価値は非常に高
い。
【0027】
請求項5の発明では、ボルトを締め込むことで、ワークをフックにしっかりと固定できるため、吊り上げに際しての安全性をより一層向上できる。このため、高所での作業でも安心であるし、地震等でワークが揺れ動いても高い安全性を確保できる。
【0028】
本願発明の吊り上げ装置は、少なくとも縁部がパネル状になっている各種のワークに適用できるが、特許文献2と同様に、押し出し式セメント板を吊り上げるための吊り上げ装置に適用すると、真価が強く発揮されると云える。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(1).実施形態の構造
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、特許文献2と同様に長方形の押し出し式セメント板の吊り上げ装置に適用している。
図1及び
図3のとおり、押し出し式セメント板1は、2つの短手端面2に開口した複数(6つ)の貫通穴3を有している。
【0031】
本実施形態では、方向を特定するため、便宜的に前後・左右の文言を使用するが、この前後・左右は、
図1に明示するように、押し出し式セメント板1の長手方向を前後方向として、幅方向を左右方向として定義している。正面視は前後方向から見た状態であり、側面視は左右方向から見た状態である。押し出し式セメント板1の前後中央部に向いた方向を奥方向としている。
【0032】
押し出し式セメント板1における各貫通穴3の断面形状は概ね四角形であり、各貫通穴3の1つのコーナー部に隅肉4を形成している。また、押し出し式セメント板1の長手側面5の下端部には、外向きのフランジ5を形成している。
【0033】
押し出し式セメント板1は、前後短手端面2の個所の縁部に嵌め込んだ前後の吊り上げ装置6によって吊り上げられて、敷設位置に配置される。吊り上げ装置6は、主要部材として、フック7とシャックル8と押さえ部材9と有している。フック7は鋼板を材料にした板金加工品であり、隣り合った2つの貫通穴3に嵌まる2枚の下部10と、押し出し式セメント板1の上に位置する上部11と、これらを一体に繋ぐ背部12とを有している。
下部10は二股状の形態になっているので、押し出し式セメント板1の隣り合った2つの貫通穴3に嵌め込むと、左右方向に移動不能に保持される。下部10と上部11とは、概ね同じ程度の前後幅寸法になっている。
【0034】
なお、フック7の下部10は、押し出し式セメント板1の1つの貫通穴3に嵌まる1枚のみであってもよいし、3つ以上の貫通穴3に嵌まるように3枚以上で構成されていてもよい。隣り合った下部10の間は、押し出し式セメント板1における隣り合った貫通穴3の間のリブ2a(
図1参照)に嵌まる空間になっているが、この空間の個所に、押し出し式セメント板1のリブ2aに当接するストッパーを設けることも可能である。
【0035】
フック7は、上部11と背部12と下部10とでコ字形の形態を成しており、上部11のうち押し出し式セメント板1に入り込んだ前端に、上向きの起立状部13を曲げ形成している。下部10と上部11とは殆ど平行である一方、上部11と起立状部13とが成す角度θは鈍角になっている。従って、起立状部13が少し後ろに傾いている。
【0036】
また、起立状部13は正面視で凸形に形成されており、概ね幅狭の上部に、シャックル8のU字状鉤体14が嵌まる吊り穴15が開口している。なお、起立状部13は、正面視で四角形や台形、半円形などに形成することも可能である。
【0037】
シャックル8は市販品であり、U字状鉤体14と、その上端に設けた水平状の吊り棒16とから成っている。実施形態では、吊り棒16には、吊り上げ手段の一例としてループ状のベルト17が吊り懸けられている。1本のベルト17に2つの吊り上げ装置が吊り懸けられている。吊り棒16はU字状鉤体14にねじ込まれているので、吊り棒16をU字状鉤体14からいったん取り外すことにより、ベルト17を吊り棒16に吊り懸けることができる。
【0038】
押さえ部材9も鋼板を材料にした板金加工品であり、略鉛直状の姿勢の上向き部18と、略水水平状の姿勢の押さえ部19とを有している。従って、側面視で略L形の形態を成しており、上向き部18にもシャックル8に嵌まる穴18aが空いており、穴18aとシャックル8のU字状鉤体14との間には、若干のクリアランスを設けている。
従って、押さえ部材18の穴18aは、シャックル8のU字状鉤体14の外径よりも少し大径になっている。
【0039】
押さえ部材9はフック7の左右横幅よりも小さい左右幅寸法であり、上向き部18は、フック7の起立状部13の前後外側に位置している。そこで、フック7のうち上部11と起立部13との連接部に左右長手の逃がし穴20を形成して、押さえ部19を逃がし穴20に嵌め入れることにより、押さえ部19が押し出し式セメント板1の上方において、押し出し式セメント板1の中央部方向に延びるように(フック7から離れるように)設定している。従って、押さえ部材9の押さえ部19は、フック7における下部10の先端よりも奥側に位置している。
また、フック7と押さえ部材9とは、独立した状態でシャックル8のU字状鉤体14に嵌まっている。従って、
非吊り上げ状態では、それぞれシャックル8のU字状鉤体14に対して上下動及び回動可能になっている。
【0040】
フック7には、フェールセーフ手段として、補助板(補助部材)21と、これを押さえるボルト22とを設けている。補助板21は、フック7における
起立状部13の後面の側に位置した上向き部21aと、その下端から手前に向けて延びる水平状部21bとから成っており、ボルト22をねじ込むと、水平状部21bが押し出し式セメント板1の上面に当接する。補助板21の上向き部21aにも、シャックル8のU字状鉤体14に嵌まる穴24と、押さえ部材9が嵌まる逃がし穴25とが空いている。なお、補助板21の上向き部21aは、フック7の起立状部13に溶接等で固定することも可能である。
【0041】
本実施形態では、シャックル8のU字状鉤体14は、側面視でU形の形態になっている。従って、シャックル8の吊り棒16は、前後方向に長い姿勢になっている。
【0042】
(2).第1実施形態のまとめ
以上の構成において、押し出し式セメント板1の吊り上げは、
図3(B)に模式的に示すように、1本のベルト17に取り付けた2つの吊り上げ装置6
のフック7を、押し出し式セメント板1の一方の短手端面2の個所と他方の短手端面2の個所とにおいて押し出し式セメント板1に
前後方向から嵌め入れて、次いで、ベルト17を、クレーン等で吊り上げる、という手順で行われる。ベルト17は側面視で山形の形態になる。
【0043】
図3(B)では、2つの吊り上げ装置6を、押し出し式セメント板1の縦長中心線から左右にずらして配置しており、従って、ベルト17はタスキ掛けの状態になっているが、両吊り上げ装置6は、それぞれ押し出し式セメント板1の左右中間部に配置してもよい。要は、クレーンにおけるフック26の下方に押し出し式セメント板1の重心が位置していたらよい。
【0044】
図2では、フック7の下部10を水平にした状態を表示しているが、フック7及び押さえ部材9が自由状態の場合は、フック7の起立状部13と押さえ部材9の上向き部18とがほぼ鉛直姿勢になっていると云える。
【0045】
いずれにしても、フック7及び押さえ部材9とシャックル8のU字状鉤体14との間には若干のクリアランスがあるので、
図3(A)に示すように、押さえ部材9の押さえ板19を押し出し式セメント板1の上に少し浮かせた状態にしつつ、フック7の
下部10を押し出し式セメント板1の貫通穴3に簡単に嵌め入れることができる。
【0046】
なお、フック7の
下部10を貫通穴3に嵌め入れただけの状態では、シャックル8やフック7や押さえ部材9は、クリアランスの
範囲内で自由に動き得る状態になっているため、それらの相対的な姿勢は一定していない(相対的な姿勢が一定していないため、
下部10を貫通穴3に容易に嵌め込みできると云える。)。
実際の嵌め込み作業では、シャックル8は掴まずにフック7だけを掴んで、その下部10を押し出し式セメント板1の管轄穴3に嵌め入れることが多いが、この状態では、シャックル8はフリーの状態になっているので、横向きに開口した姿勢になることも多い。
【0047】
そして、吊り上げ装置6をベルト17で吊り上げると、フック7の下部10が押し出し式セメント板1における貫通穴3の上面に当たって、押し出し式セメント板1が持ち上げられる。すると、押し出し式セメント板1の重量がフック7に対して下向き荷重として作用するため、
図4に示すように、フック7の起立状部13が、安定性を求めて、シャックル8におけるU字状鉤体14の中心線27の個所に移動する傾向を呈する。
【0048】
すると、
図4の矢印28で示すように、押さえ部材9の上向き部18の下端が、フック7の起立状部13の下端によって手前側に押されるが、上向き部18はその上端部がシャックル8のU字状鉤体14に嵌まっていて手前に移動不能に保持されているため、押さえ部材9は、押さえ部19の先端が下向き動するように、
図4の状態で時計回り方向に回動させられる作用を受ける。このため、押さえ部19の先端が押し出し式セメント板1の面に強く当接す
る。
【0049】
図4では、押さえ部材9の押さえ部19が弾性変形した状態を表示しているが、押さえ部材9の強度とフック7の強度との関係により、押さえ部19は弾性変形せずに、フック7と押さえ部材9との姿勢がバランスすることもあり得る。
【0050】
図4に示すように、ベルト17は、
前後方向に傾くように側面視で山形の姿勢に傾斜す
る。従って、シャックル8も
、ベルト17に引っ張られて、図4に矢印29で示すように、ベルト17と同様の姿勢に傾斜する。すると、押さえ部材9の上向き部18の上端部が、矢印30で示すように、シャックル8のU字状鉤体14によって奥側に押される傾向を呈することになり、これにより、押さえ部材9は、その押さえ部19が押し出し式セメント板1を押さえる方向に回動するような押圧作用を強く受ける。従って、押し出し式セメント板1の安定性は一層高くなる。
【0051】
フック7の上部11と起立状部13との成す角度θは鈍角になっているため、起立状部
13は後傾しているが、このように
起立状部13が後傾していることにより、当該
起立状部13の下端部で押さえ部材9の上向き部18を矢印30のように押す作用がより確実化される。また、
起立状部13の傾斜姿勢とベルト17の傾斜姿勢とが略同じになるように設定しているため、シャックル8のU字状鉤体14とフック7の起立状部13とベルト17とが一直線状になる部状態になって、安定性は一層高くなる。
【0052】
シャックル8の吊り上げによって押さえ部材9で押し出し式セメント板1を上から押さえる要因としては、フック7によって押さえ部材9を回動させようとする作用と、シャックル8の姿勢変化によって押さえ部材9を回動させようとする作用との2つの作用があり得るが、本実施形態では、押さえ部材9とU字状鉤体14との間にこじれがあっ
て、押さえ部材9がシャックル8に連れ回動しようとするため、フック7による回動作用と、シャックル8による回動左右との2つの作用とが、一緒に働いていると云える。
【0053】
本実施形態では、ベルト17が側面視で山形になって傾斜していることから、フック7は、
図4に矢印31に示すように、押し出し式セメント板1の奥側に引かれる作用を受けており、従って、フック7は、押し出し式セメント板1との嵌合を深くするような作用を受けている。
【0054】
更に、シャックル8が嵌合している起立状部13は、押し出し式セメント板1の短手端面2よりも奥側に位置しているため、ベルト17による吊り上げ力は下部10を上向きに引っ張るように作用しており、下部10には、
図4に点線矢印32で示す方向に回動させるような外力は生じない。従って、下部10は常に押し出し式セメント板1に面接触していて、押し出し式セメント板1の狭い部位に強い負荷が集中すること
はない。従って、下部10の前後幅寸法(奥行き寸法)が短くても、押し出し式セメント板1の変形や破損を招来することはない。
【0055】
より高い安全性を確保したい場合は、フック7を押し出し式セメント板1に嵌め入れてから、ボルト22をねじ込んで、補助板21の水平状部21bで押し出し式セメント板1を押さえたらよい。
【0056】
本実施形態では、フック7の下部10による押し出し式セメント板1の支持位置と、押さえ部材9による押し出し式セメント板1の押さえ位置とが前後方向にずれているが、フック7の下部10による支持位置と押さえ部材9による押さえ位置とが、起立状部13及び上向き部18を挟んで前後両側に位置しているため、フック7と押さえ部材9とで押し出し式セメント板1をいわば曲げるように作用している。このため、押し出し式セメント板1の同じ個所を上下から挟持した場合に比べて、ずれ防止機能は高いと云える。
【0057】
(3).他の実施形態
図5では、第2実施形態を示している。この実施形態では、押さえ部材9の上向き部18を、フック7における起立状部13の奥側に配置している。そして、押さえ部材9における上向き部18の上端部に、シャックル8におけるU字状鉤体14の奥側内面に当接する屈曲部18bと、
起立状部13の上端に上から当接する傾斜部18cとを形成している。
【0058】
この実施形態では、シャックル8が吊り上げられると、まず、フック7がシャックル8の中心部に移動しようとすることにより、押さえ部材9の上向き部18が奥側に押されて、押さえ部材9は時計回り方向に回動するような作用を受ける。また、シャックル8が、その中心線27が一点鎖線から二点鎖線の二点で示す姿勢になるように回動すると、U字状鉤体14と上向き部18との間のこじ
れに起因して、押さえ部材9がシャックル8に連れ回動しようとする。これら2つの作用により、上向き部18は時計回り方向に回動しようとして、押さえ部材9の押さえ部19で押し出し式セメント板1が上から押圧される。
【0059】
従って、第2実施形態においても、押し出し式セメント板1を安定的に吊り上げることができる。なお、図面では省略しているが、第1実施形態と同様に補助板21とボルト22とを設けることは可能である。また、第1実施形態及び第2実施形態とも、ボルト22及び補助板21に代えて、押し出し式セメント板1の上面に対して弾性的に当接する弾性押さえ部材を設けることも可能である。この、弾性押さえ部材は、例えば、板ばねを構成することができる。
【0060】
本願発明は、上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例え
ば、背板から
起立状部を傾斜姿勢で立ち上げてもよい。また、実施形態ではフックと押さえ部材とを金属板で構成しているが、いずれか一方又は両方を、線材(或いは棒材)やダイキャスト品などで構成することも可能である。
【0061】
吊り具としてシャックルをしようする必然性もない。例えば、クレーンの鉤状フックを吊り具として使用することも可能である。吊り上げによって押さえ部材でワークを押さえる手段も様々に具体化でき
る。
【0062】
また、本願発明の吊り上げ装置は、各種パネル等の様々なワークの吊り上げに使用できる。ワークは必ずしも貫通穴が形成されている必要はない。敢えて述べるまでもないが、貫通穴がないワークの場合は、フックの下部をワークの下面に当てたらよい。