(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
<本開示の一態様に至った経緯>
有機EL表示パネルの透光性電極には、可視光の高い透過率と低い電気抵抗が必要とされる。光取り出し効率の向上には、透光性電極の可視光透過率が高いことが好ましい。その一方で、有機EL表示パネルが大型化すると、パネルに沿った向きの電極の電気抵抗(以下、「シート抵抗」と呼ぶ)に起因する電圧降下によって素子ごとの駆動電圧にバラつきが生じうるため、電極のシート抵抗は低いことが好ましい。そこで、透光性電極のシート抵抗を低減するための方法として、導電性の高い銀(Ag)の薄膜を透光性電極として用いることが検討されている。
【0011】
均質な銀薄膜を形成するためには、
図2(a)に示すように被積層体301の表面に銀原子の膜302が層状に形成されることが望ましい(層状形状モード)。
しかしながら、銀の薄膜を透光性電極として用いるためには、その膜厚を10nm〜20nm程度とする必要がある。銀薄膜層の膜厚が10nm未満になると、層状に形成したとしてもそのシート抵抗値が、ITO、IZOを使用した場合よりも大きくなるので、10nm以上であることが望ましく、また、同様に銀薄膜層の膜厚の上限値が20nmを超えると、層状に形成したとしても可視光に対する透光性が、ITO、IZOを使用した場合よりも劣化するので、20nm以下であることが望ましいからである。
【0012】
従来、このような銀の薄膜を透光性電極として形成しようとする場合において、
図2(b)に示すような被積層体301の表面に銀原子の島状の塊(以下、「アイランド」という。)303が形成される島状成長モードになって、不均質な銀薄膜が形成されてしまうという現象が生じていた(アイランド化現象)。
図3は、例えば、スパッタリング法で銀を積層する際におけるアイランド化現象の発生原理を模式的に示す図であり、図の左から右に向かってアイランドが成長する過程を示している。
【0013】
(1)基板などの被積層体301に入射した原子は、一部は反射し、一部は吸着される。この吸着原子は被積層体301の表面を移動しながら、一部は再蒸発する。
(2)吸着して表面を移動している原子が、他の原子と衝突して二体粒子となり、さらに複数個の結合体であるクラスタを形成する。
(3)クラスタには、基板に入射して表面を移動する原子の出入りがあり、分散消失する場合と、拡大成長する場合がある。拡大成長すると臨界核を形成する。
【0014】
(4)臨界核にさらに入射原子線の原子が衝突して拡大成長し安定核となって、アイランドが形成される。
このようなアイランド現象は、特に、膜厚が50nm以下の銀薄膜を作成しようとする場合に発生する。
したがって、薄膜の表面はアイランドによる凸部と、アイランド間部分の凹部を多数有することとなり、膜厚の局所的なバラつきが生じる。そのため、可視光の透過率、反射率ともに低下が発生し、シート抵抗の不均質化が生じる。
【0015】
加えて、銀薄膜の膜厚に対してアイランドの大きさが粗大であるため、アイランド内部(結晶の内部)とアイランド外部(結晶粒界)で電気抵抗率が異なることにより、銀薄膜内で電気伝導率が均一とならない。したがって、アイランドでは電気抵抗率が低く膜厚も大きいためシート抵抗が小さい一方で、アイランド間部分では電気抵抗率が高く膜厚も小さいためシート抵抗がさらに高くなる。よって、銀薄膜のシート抵抗の局所的なバラつきが大きく、電極として使用すると、複数の有機EL素子の間で、駆動電圧のバラつきが生じる。また、アイランドの表面にプラズモンが局在する現象が発生するため、プラズモンによる可視光の光吸収(プラズモン吸収)が発生し、可視光の特定の波長について、光透過率が顕著に低下することがある。
【0016】
これらの問題に対処するため、本願発明者は、アイランド現象は、被積層体301に吸着した銀原子の移動量が大きいことに起因すると考え、当該銀原子の移動量を制限するように、被積層面の状態を調整するという着想を得た。
<開示の態様>
本開示の一態様に係る有機EL素子は、基板の上方に、第1電極、発光層、下地層、光透過性の第2電極の順に積層されてなる有機EL素子であって、前記下地層は、光透過性および導電性を有すると共に、その第2電極が積層された面の表面粗さRaが、0.3nm以上2.7nm以下であり、前記第2電極が、銀または銀を主成分とする銀薄膜層である。
【0017】
また、本開示の一態様に係る有機EL素子は、基板の上方に、第1電極、発光層、下地層、光透過性の第2電極の順に積層されてなる有機EL素子であって、前記下地層は、透光性および導電性を有すると共に、その第2電極が積層された面の表面自由エネルギーが、33mJ/m
2以上97mJ/m
2以下であり、前記第2電極が、銀または銀を主成分とする銀薄膜層である。
【0018】
上記態様の有機EL素子によれば、透光性電極である第2電極の銀薄膜層の均質化が向上する。したがって、第2電極からの光取り出し効率が向上するとともに、有機EL表示パネルにおいて、第2電極の電気抵抗により有機EL素子の駆動電圧が低下する領域が発生することを抑止することができる。
ここで、前記銀薄膜層の膜厚は、10nm以上20nm以下であることが望ましい。
【0019】
これにより、第2電極の光透過率を向上させ、高い光取り出し効率を実現することができる。
また、前記下地層は、有機層であるとしてもよい。
また、前記第2電極は、陰極であって、前記下地層は、電子注入層または電子輸送層であるとしてもよい。
【0020】
前記下地層の材料は、ITOまたはIZOのいずれかから選択されるとしてもよい。
ここで、前記第1電極の前記発光層側の面と、前記下地層と前記第2電極との界面とに囲まれる領域が、前記両面を反射面とする光共振器を構成しているとしてもよい。
これにより、光共振器によってさらに光取り出し効率を向上させることができる。
また、本開示の一態様に係る有機EL表示パネルは、本開示のいずれかの態様に係る有機EL素子を備える、としてもよい。
【0021】
また、本発明の一態様は、基板の上方に、第1電極、発光層、下地層、光透過性の第2電極をこの順に積層する有機EL表示パネルの製造方法であって、前記下地層は、光透過性、導電性を有する材料で形成され、その第2電極が積層される面の表面粗さRaが、0.3nm以上2.7nm以下であり、前記第2電極は、銀または銀を主成分とする銀薄膜層によって形成されることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の一態様は、基板の上方に、第1電極、発光層、下地層、光透過性の第2電極をこの順に積層する有機EL表示パネルの製造方法であって、前記下地層は、光透過性、導電性を有する材料で形成され、その第2電極が積層される面の表面自由エネルギーが、33mJ/m
2以上97mJ/m
2以下であり、前記第2電極は、銀また銀を主成分とする銀薄膜層によって形成されることを特徴とする。
【0023】
上記銀薄膜層の膜厚は、10nm以上20nm以下であることが望ましい。
<第1実施の形態>
1.有機EL表示パネルの概略構成
図1は、第1実施の形態に係る有機EL表示パネル100の概略構成を示す一部拡大断面図である。有機EL表示パネル100は、基板11上にマトリクス状に配置された複数の有機EL素子1を有する。1つの有機EL素子は、1つのサブ画素(サブピクセル)に相当し、R(赤色)、G(緑色)、B(青色)の何れかの発光色に対応している。そして、R,G,Bそれぞれに対応する3つのサブ画素(サブピクセル)により1つの画素(ピクセル)が構成される。即ち、1つの画素は、R色に対応した有機EL素子1(R)、G色に対応した有機EL素子1(G)、およびB色に対応した有機EL素子1(B)の3つの有機EL素子1から成る。有機EL表示パネル100は、同図上側を表示面とする、いわゆるトップエミッション型のカラーディスプレイパネルである。
【0024】
なお、構成要素を発光色により特に区別する必要が無い場合には、(R),(G),(B)は付さない。例えば、発光色を特に区別しない場合には、単に有機EL素子1という。
有機EL表示パネル100は、基板11、層間絶縁層12、下部電極13、正孔注入層14、隔壁層15、正孔輸送層16、発光層17(17(R),17(G),17(B))、電子輸送層18、上部電極19、および封止層20を備える。
【0025】
これらのうち基板11、層間絶縁層12、電子輸送層18、上部電極19、および封止層20は、複数の画素に共通して形成されている。
続いて、有機EL表示パネル100の各部構成について説明する。
(1) 基板
基板11は、絶縁材料である基材111と、TFT(Thin Film Transistor)層112とを含む。TFT層112には、サブ画素毎に駆動回路(不図示)が形成されている。基材111が形成される材料としては、例えば、ガラスが用いられる。ガラス材料としては、具体的には例えば、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英等のガラスなどが挙げられる。
【0026】
(2) 層間絶縁層
層間絶縁層12は、基板11上に形成されている。層間絶縁層12は、樹脂材料からなり、TFT層112の上面の段差を平坦化するためのものである。層間絶縁層12が形成される樹脂材料としては、例えば、ポジ型の感光性材料が用いられる。また、このような感光性材料としては、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シロキサン系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。
【0027】
(3) 下部電極(陽極)
第1電極としての下部電極13は、導電材料からなり、層間絶縁層12上にサブ画素毎に形成される。下部電極13は、陽極であって、バリアメタル層13aおよびバリアメタル層13a上に積層された下部電極層13bから成る。バリアメタル層13aは、例えば、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)等の遷移金属元素を含有する金属あるいは合金からなる。本実施の形態においては、バリアメタル層13aは、タングステンから成る。
【0028】
また、本実施の形態に係る有機EL表示パネル100は、トップエミッション型であるので、下部電極層13bは、光反射性を具備した導電材料により形成されるとよい。光反射性を具備する導電材料としては、金属が挙げられる。具体的には、Ag(銀)、Al(アルミニウム)、アルミニウム合金、Mo(モリブデン)、APC(銀、パラジウム、銅の合金)、ARA(銀、ルビジウム、金の合金)、MoCr(モリブデンとクロムの合金)、MoW(モリブデンとタングステンの合金)、NiCr(ニッケルとクロムの合金)等を用いることができる。本実施の形態においては、下部電極層13bは、アルミニウムを含む金属材料から成り、より具体的には、ACL(アルミニウムとコバルトとランタンの合金)から成る。
【0029】
なお、バリアメタル層13aは、なくても構わない。
この断面図には現れていないが、層間絶縁層12には、コンタクトホールがサブ画素毎に形成されている。当該コンタクトホールにはTFT接続配線が埋め込まれており、下部電極13は、TFT接続配線を介して、TFT層112に形成された駆動回路と電気的に接続されている。
【0030】
(4) 正孔注入層
正孔注入層14は、下部電極13から発光層17への正孔の注入を促進させる機能を有する。正孔注入層14は、例えば、金属酸化物から成り、下部電極13上に配置される。正孔注入層14の形成は、例えば、スパッタリング法により行われる。
正孔注入層14の形成材料である金属酸化物としては、例えば、酸化タングステン(WOx)、酸化モリブデン(MoOx)や、銀(Ag)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、イリジウム(Ir)等の酸化物を用いることができる。
【0031】
(5) 隔壁層
隔壁層15は、正孔注入層14の上面の一部の領域を露出させ、その周辺の領域を被覆した状態で正孔注入層14上に形成されている。正孔注入層14の上面において隔壁層15で被覆されていない領域(以下、「開口部」という。)は、サブピクセルに対応している。即ち、隔壁層15は、サブピクセル毎に設けられた開口部15aを有する。
【0032】
隔壁層15は、例えば、絶縁性の有機材料(例えば、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック樹脂、フェノール樹脂等)からなる。隔壁層15は、発光層17を塗布法で形成する場合には、塗布されたインクがあふれ出ないようにするための構造物として機能し、発光層17を蒸着法で形成する場合には、蒸着マスクを載置するための構造物として機能する。
【0033】
本実施の形態では、隔壁層15は、樹脂材料からなり、例えば、ポジ型の感光性材料を用いることができる。このような感光性材料として、具体的には、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シロキサン系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。
(6) 正孔輸送層
正孔輸送層16は、正孔注入層14から注入された正孔を発光層17へ輸送する機能を有し、正孔を正孔注入層14から発光層17へと効率よく輸送するため、正孔移動度の高い有機材料で形成されている。
【0034】
正孔輸送層16の形成は、有機材料溶液の塗布および乾燥により行われる。正孔輸送層16を形成する有機材料としては、ポリフルオレンやその誘導体、あるいはポリアリールアミンやその誘導体等の高分子化合物を用いることができる。
また、正孔輸送層16はトリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ポルフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、ブタジエン化合物、ポリスチレン誘導体、ヒドラゾン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、テトラフェニルベンゼン誘導体を用いて形成されてもよい。特に好ましくは、ポリフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物等を用いてもよい。この場合、正孔輸送層16は、真空蒸着法により形成される。
【0035】
(7) 発光層
発光層17は、有機発光材料を含み、下部電極13の上方に位置する開口部15a内に形成されている。発光層17は、正孔と電子の再結合によりR、G、Bの各色の光を出射する機能を有する。
本実施の形態に係る有機EL表示パネル100においては、発光層17は、有機発光材料を含むインクがインクジェットにより開口部15a内に塗布されて形成される。
【0036】
発光層17に含まれる有機発光材料としては、例えば、オキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物およびアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体等の蛍光物質を用いることができる。
【0037】
また、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウムなどの燐光を発光する金属錯体等の公知の燐光物質を用いることができる。また、発光層17は、ポリフルオレンやその誘導体、ポリフェニレンやその誘導体、あるいはポリアリールアミンやその誘導体等の高分子化合物等、もしくは前記低分子化合物と前記高分子化合物の混合物を用いて形成されてもよい。
【0038】
(8) 電子輸送層
電子輸送層18は、複数の画素に共通して発光層17および隔壁層15上に設けられており、上部電極19から注入された電子を発光層17へと輸送する機能を有する。電子輸送層18は、例えば、オキサジアゾール誘導体(OXD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、フェナンスロリン誘導体(BCP、Bphen)などを用い形成されている。
【0039】
なお、次に積層される銀の上部電極19の膜質の均質性を得るため、電子輸送層18の表面粗さRaは、0.3nm以上2.7nm以下の範囲内に設定される。詳しくは後述する。
(9) 上部電極(陰極)
第2の電極としての上部電極19は、電子輸送層18上に複数の画素に共通して設けられており、陰極である。上部電極19は、銀をターゲットにしたスパッタリング法により成膜される。上部電極19は、厚さ10nm〜20nmの銀薄膜で形成されている。上部電極19が光透過性を有する厚みで形成されることにより、発光層17で発生した光を、上部電極19側から取り出すことができる。
【0040】
(10) 封止層
上部電極19の上には、封止層20が設けられている。封止層20は、基板11の反対側から不純物(水,酸素)が上部電極19,電子輸送層18,発光層17等へと侵入するのを防ぎ、不純物によるこれらの層の劣化を抑制する機能を有する。
本実施の形態に係る有機EL表示パネル100はトップエミッション型の表示パネルであるため、封止層20の材料としては、例えばSiN(窒化シリコン)、SiON(酸窒化シリコン)等の光透過性材料が用いられる。
【0041】
(11) その他
なお、
図1には図示されていないが、封止層20の上にカラーフィルタや上部基板を載置し、接合してもよい。上部基板を設けることにより、上部電極19,電子輸送層18,発光層17等に対する不純物からのさらなる保護を図ることができる。
2.電子輸送層18の表面粗さRaと上部電極19の銀薄膜の均質性との関係
前述の本開示の一態様に至った経緯で説明したように、銀薄膜を形成する際にアイランド現象が生じるのは、下地層の表面に吸着された銀原子の移動量が大きいためであると考えられる。
【0042】
そこで、発明者は、下地層の表面粗さに着目した。適度の表面粗さであれば、その凹部に銀原子が入り込んでその移動量が制限され、アイランド現象の発生が抑制されると考えられるからである。
そのため、上部電極19の下地層となる電子輸送層(ETL)18の表面粗さRa(nm)を変化させて、その表面に形成された上部電極19のシート抵抗値(Ω/□)を測定する実験を行った。上述のようにアイランド現象が発生すれば、シート抵抗値が大きくなるので、このシート抵抗値を測定することによりアイランド現象の発生の程度を知ることができる。
【0043】
図4は上記実験の結果を示すテーブルである。
下地層としての電子輸送層18の成膜は、真空蒸着法を用いて行われた。基板温度は25℃と一定のまま、成膜速度を変化させることにより、電子輸送層18の表面粗さRaを変化させた。
ここで、表面粗さRaとは、JISB0601:2001で定義される算術平均粗さであり、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さLだけを抜き取り、この抜取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線を y=f(x) で表したときに、次の式によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう(
図4のテーブルでは便宜上、ナノメートル(nm)で表記している。)。なお、Raは原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)にて測定可能である。
【0044】
【数1】
また、電子輸送層18の膜厚は30nm、上部電極(銀薄膜)19の膜厚は15nmに設定した。
図4のテーブルから次のことが分かる。
【0045】
(1)電子輸送層の成膜速度が速くなるにつれて、その表面粗さが大きくなる。
(2)電子輸送層の表面粗さが大きくなるにつれて、銀の核成長が抑制され連続膜になりやすくなりシート抵抗値が小さくなる。
(3)電子輸送層の表面粗さが大きくなると、銀が連続膜になり、銀薄膜の表面粗さRaが小さくなる。しかし、電子輸送層の表面粗さRaが所定の値(
図4の実験結果では、Ra=0.8)を超えて大きくなると次第に上部電極の表面粗さも大きくなっている。
【0046】
(実験結果の評価)
電子輸送層の表面粗さRaが0.2nmのときには、アイランドが形成されているため、上部電極としての銀薄膜のシート抵抗値が10.3Ω/□と大きな値となり、また、銀薄膜の表面粗さRaも3.9nmと大きくなって、膜質が不均一で実製品には使用できないので、判定としては「×」(不良)とされる。
【0047】
電子輸送層の表面粗さRaが0.3nmから2.7nmまでの範囲では、銀薄膜のシート抵抗値も、表面粗さRaも許容範囲となり、判定としては「○」(良好)となる。
ところが、電子輸送層の表面粗さRaが3.3nmまで大きくなると銀薄膜のシート抵抗値は下がるが、表面粗さRaが、3.7nmと増大してしまう。
このように上部電極の表面粗さRaが大きくなると透光性が劣化すると共に、厚みの大きな箇所に、電界が集中して、過電流が発生し、ダークスポットなどが発生するおそれがあるため、判定としては「×」(不良)とされる。
【0048】
したがって、電子輸送層の表面粗さRaを、0.3nm以上2.7nm以下とすることにより、均質な銀の上部電極を形成することができる。
図5、
図6は、サンプルにおける上部電極19の表面を撮像した電子顕微鏡写真を示す。
図5は、比較例として下地層である電子輸送層の表面粗さRaを0.2nmとして上部電極を形成したときの写真である。この場合、上部電極には、アイランド303が形成され、アイランドとアイランドの間にボイド(空隙)304が発生している。
【0049】
一方、
図6は、下地層としての電子輸送層の表面粗さRaを0.5nmとして、上部電極を形成したときの表面の写真である。ボイドがなく比較的均一な表面となっている。
図4は、上部電極19である銀薄膜層の膜厚が15nmのときの実験結果であったが、発明者は確認のため、銀薄膜層の膜厚が10nmの場合と20nmの場合についても実験を行った。
【0050】
図7は、銀薄膜層の膜厚が10nmのときの実験の結果を示すテーブルである。
銀薄膜層の膜厚以外の実験条件は、
図4の場合と同じである。
(実験結果の評価)
電子輸送層の表面粗さRaが0.2nmのときには、アイランドが形成されているため、上部電極としての銀薄膜のシート抵抗値が13.6Ω/□と大きな値となり、また、銀薄膜の表面粗さRaも4.5nmと大きくなって、膜質が不均一で実製品には使用できないので、判定としては「×」(不良)とされる。
【0051】
電子輸送層の表面粗さRaが0.3nmから2.7nmまでの範囲では、銀薄膜のシート抵抗値も、表面粗さRaも許容範囲となり、判定としては「○」(良好)となる。
ところが、電子輸送層の表面粗さRaが3.3nmまで大きくなると銀薄膜のシート抵抗値は下がるが、表面粗さRaが、3.5nmと増大してしまう。
このように上部電極の表面粗さRaが大きくなると透光性が劣化すると共に、厚みの大きな箇所に、電界が集中して、過電流が発生し、ダークスポットなどが発生するおそれがあるため、判定としては「×」(不良)とされる。
【0052】
したがって、上部電極19の膜厚が10nmの場合でも、電子輸送層の表面粗さRaを、0.3nm以上2.7nm以下とすることにより、均質な銀の上部電極を形成することができる。
図8は、銀薄膜層の膜厚が20nmのときの実験の結果を示すテーブルである。
銀薄膜層の膜厚以外の実験条件は、
図4、
図7の場合と同じである。
【0053】
(実験結果の評価)
電子輸送層の表面粗さRaが0.2nmのときには、アイランドが形成されているため、上部電極としての銀薄膜のシート抵抗値が9.3Ω/□と大きな値となり、また、銀薄膜の表面粗さRaも3.5nmと大きくなって、膜質が不均一で実製品には使用できないので、判定としては「×」(不良)とされる。
【0054】
電子輸送層の表面粗さRaが0.3nmから2.7nmまでの範囲では、銀薄膜のシート抵抗値も、表面粗さRaも許容範囲となり、判定としては「○」(良好)となる。
ところが、電子輸送層の表面粗さRaが3.3nmまで大きくなると銀薄膜のシート抵抗値は下がるが、表面粗さRaが、3.9nmと増大してしまう。
このように上部電極の表面粗さRaが大きくなるとやはり透光性が劣化すると共に、厚みの大きな箇所に、電界が集中して、過電流が発生し、ダークスポットなどが発生するおそれがあるため、判定としては「×」(不良)とされる。
【0055】
したがって、上部電極19の膜厚が20nmの場合でも、電子輸送層の表面粗さRaを、0.3nm以上2.7nm以下とすることにより、均質な銀の上部電極を形成することができると言える。
(まとめ)
以上説明したように、下地層である電子輸送層の表面粗さRaが、0.3nm以上2.7nm以下である場合には(この条件を、以下「表面粗さ条件」という。)、それに積層された銀による上部電極の膜厚が10nm〜20nmの範囲において、シート抵抗値が小さく、膜質が均一であり、透光性電極としての陰極の膜質を安定化させることができる。
【0056】
3.有機EL表示パネル100の製造方法
次に、有機EL表示パネル100の製造方法の一例を、
図9〜
図12を用いて説明する。なお、
図9〜
図11は、有機EL表示パネル100の製造過程を模式的に示す部分断面図であり、
図12は、有機EL表示パネル100の製造過程を示す概略工程図である。
先ず、
図9(a)に示すように、基材111上にTFT層112を形成して、基板11を形成する(
図12のステップS1)。
【0057】
次に、
図9(b)に示すように、基板11上に層間絶縁層12を成膜し焼成する(
図12のステップS2)。層間絶縁層12の材料である層間絶縁層用樹脂には、本実施の形態においては、ポジ型の感光性材料であるアクリル樹脂を用いる。層間絶縁層12は、層間絶縁層用樹脂であるアクリル樹脂を層間絶縁層用溶媒(例えば、PGMEA)に溶解させた層間絶縁層用溶液を基板11上に塗布して成膜した後、焼成を行う。焼成は、例えば、150℃以上210℃以下の温度で180分間行う。
【0058】
続いて、
図9(c)に示すように、層間絶縁層12上にバリアメタル材料層131を一様に形成する(
図12のステップS3)。バリアメタル材料層131は、例えば、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)等の遷移金属元素を含有する金属あるいは合金からなる。バリアメタル材料層131の成膜方法としては、例えば、スパッタリング法が利用できる。スパッタリング法では、例えば、遷移金属元素を含有する金属あるいは合金製の平板をターゲット部材に使用し、不活性ガスとしてアルゴンガスを使用してもよい。
【0059】
本実施の形態では、バリアメタル材料層131は、例えば、タングステンを材料として40nmの膜厚で形成する。
さらに続いて、
図9(d)に示すように、バリアメタル材料層131上に下部電極レイヤー132を形成する。下部電極レイヤー132は、光反射性の導電材料を用いてスパッタリング法により層間絶縁層12上に一様に形成する(
図12のステップS4)。
【0060】
下部電極レイヤー132を形成する光反射性の導電材料は、本実施の形態においてはアルミニウムを含む金属材料であり、より具体的には、ACL(アルミニウムとコバルトとランタンの合金)である。また、下部電極レイヤー132の厚さは、例えば、50nm以上300nm以下であり、本実施の形態においては、200nmである。
本実施の形態においては、
図9(d)に示すように、下部電極レイヤー132およびバリアメタル材料層131により下部電極材料層130が構成される。
【0061】
続いて、
図9(e)に示すように、下部電極レイヤー132およびバリアメタル材料層131から成る下部電極材料層130上に正孔注入材料層140を形成する(
図12のステップS5)。本実施の形態に係る有機EL表示パネル100においては、正孔注入材料層140は、酸化タングステンの層であり、反応性スパッタリング法により形成される。
そして、
図9(f)に示すように、下部電極材料層130および正孔注入材料層140をエッチングによりパターニングして、サブピクセルごとに区画された複数の下部電極13および正孔注入層14を形成する(
図12のステップS6)。
【0062】
本実施の形態においては、正孔注入材料層140はドライエッチングによりパターニングされ、下部電極材料層130はウェットエッチングによりパターニングされるが、パターニングの方法としては特にこれに限定されるものではない。
続いて、
図10(a)に示すように、正孔注入層14および層間絶縁層12上に、隔壁層15の材料である隔壁層用樹脂を塗布し、隔壁材料層150を形成する。隔壁層用樹脂には、例えば、ポジ型の感光性材料であるフェノール樹脂が用いられる。隔壁材料層150は、隔壁層用樹脂であるフェノール樹脂を溶媒(例えば、乳酸エチルとGBLの混合溶媒)に溶解させた溶液を正孔注入層14上および層間絶縁層12上にスピンコート法などを用いて一様に塗布することにより形成される。
【0063】
そして、隔壁材料層150にパターン露光と現像を行うことで隔壁層15を形成し(
図10(b),
図12のステップS7)、隔壁層15を焼成する(
図12のステップS8)。これにより、発光層17の形成領域となる開口部15aが規定される。隔壁層15の焼成は、例えば、150℃以上210℃以下の温度で60分間行う。
また、隔壁層15の形成工程においては、さらに、隔壁層15の表面を所定のアルカリ性溶液や水、有機溶媒等によって表面処理するか、プラズマ処理を施すこととしてもよい。これは、開口部15aに塗布するインク(溶液)に対する隔壁層15の接触角を調節する目的で、もしくは、表面に撥水性を付与する目的で行われる。
【0064】
次に、
図10(c)に示すように、隔壁層15が規定する開口部15aに対し、正孔輸送層16の構成材料を含むインクを、インクジェットヘッド401のノズル4030から吐出して開口部15a内の正孔注入層14上に塗布し、焼成(乾燥)を行って、正孔輸送層16を形成する(
図12のステップS9)。
そして、
図10(d)に示すように、発光層17の構成材料を含むインクを、インクジェットヘッド401のノズル4030から吐出して開口部15a内の正孔輸送層16上に塗布し、焼成(乾燥)を行って発光層17を形成する(
図12のステップS10)。
【0065】
続いて、
図11(a)に示すように、発光層17上および隔壁層15上に、電子輸送層18を構成する材料を真空蒸着法またはスパッタリング法により各サブピクセルに共通して成膜し、電子輸送層18を形成する(
図12のステップS11)。
この際、電子輸送層18の表面粗さRaが、例えば、0.5nmになるようにその成膜速度が1.0Å/Sに制御される(
図4のテーブル参照)。
【0066】
そして、
図11(b)に示すように、電子輸送層18上に、上部電極19を形成する。具体的には、Agを用い、スパッタリング法により成膜して、上部電極19を形成する(
図12のステップS12)。
続いて、
図11(c)に示すように、上部電極19上に、SiNを材料にスパッタリング法,CVD(Chemical Vapor Deposition)法等により成膜し、封止層20を形成する(
図12のステップS13)。
【0067】
なお、封止層20の上にカラーフィルタや上部基板を載置し、接合してもよい。
以上の工程を経ることにより有機EL表示パネル100が完成する。このように、本実施の形態に係る有機EL表示パネル100においては、上部電極19の下地層としての電子輸送層18の表面粗さRaを、上部電極19にアイランド現象が生じないような一定の範囲内に設定することを特徴としている。
【0068】
4.有機EL表示装置の全体構成
図13は、有機EL表示パネル100を備えた有機EL表示装置1000の構成を示す模式ブロック図である。
図13に示すように、有機EL表示装置1000は、有機EL表示パネル100と、これに接続された駆動制御部200とを含む構成である。駆動制御部200は、4つの駆動回路210〜240と、制御回路250とから構成されている。
【0069】
なお、実際の有機EL表示装置1000では、有機EL表示パネル100に対する駆動制御部200の配置については、これに限られない。
<第2実施の形態>
上記第1実施の形態では、上部電極19の下地層としての電子輸送層18の表面粗さRaを所定の範囲内に調整することにより、下地層に吸着した銀原子の移動量を抑制して上部電極19形成時のアイランド現象の発生を抑制するようにしたが、本願発明者は、別の方法によっても銀原子の移動量を抑制できることを見出した。
【0070】
すなわち、固体の表面自由エネルギーが大きいほど,気体や微粒子を吸着しやすく、他の固体と付着しやすくなる点に着目し、電子輸送層の表面自由エネルギーを異ならせて、上部電極を積層する実験を行った。固体の表面自由エネルギーの制御は、例えばUVオゾン処理による表面改質によって可能である。
図14は、このときの実験結果を示すテーブルである。
【0071】
電子輸送層の成膜速度は、0.2Å/S、基板温度は、25℃で共に一定に維持し、電子輸送層に対するUVオゾン処理時間のみ変化させ、上部電極のシート抵抗値、表面粗さRa、および異物付着の有無について評価した。
なお、ここでの表面自由エネルギーの測定方法は、表面自由エネルギー接触角測定法による。この接触角測定法は、一般の測定方法として用いられるものであり、例えばD.H. KAELBLE,JOURNAL OF APPLIED POLYMER SCIENCE Vol.18.PP.1869−1889(1974)に記載されているものが挙げられる。
【0072】
具体的な方法については測定対象となる固体表面上に表面自由エネルギーが既知の液体を一滴垂らし、その接触角を測定する。測定した接触角から表面自由エネルギーを算出する。
具体的な測定方法は以下のように定義される。
γ
L=γ
Ld+γ
Lp
γ
S=γ
Sd+γ
Sp
γ
L(1+cosθ)=2(γ
Sd γ
Ld)
1/2+2(γ
Sp γ
Lp)
1/2
γ
Ld :液体の表面自由エネルギーの分散成分
γ
Lp :液体の表面自由エネルギーの極性成分
γ
Sd :固体の表面自由エネルギーの分散成分
γ
Sp :固体の表面自由エネルギーの極性成分
γ
L :液体の表面自由エネルギー
γ
S :固体の表面自由エネルギー
θ :接触角
表面自由エネルギーの成分(γ
L、γ
Ld、γ
Lp)が既知の液体(例えば水、ホルムアミド)を用いて接触角θを測定し、上記の式からγ
Sdとγ
Spを導出することでγ
Sが求められる。なお、接触角θの測定には、協和界面科学株式会社製の自動接触角計DM−501を用いた。
【0073】
図14のテーブルから分かるように、
(1)UVオゾン処理時間を長くするにつれて、電子輸送層の表面自由エネルギーが大きくなる。
(2)電子輸送層の表面自由エネルギーが大きくなるにつれて、銀の核成長が抑制され連続膜になりやすくなりシート抵抗が小さくなる。
【0074】
(3)電子輸送層の表面自由エネルギーが大きくなり、銀が連続膜になると銀薄膜の表面粗さRaが小さくなる。
(4)電子輸送層の表面自由エネルギーが大きくなりすぎると、銀薄膜形成前に電子輸送層に異物が付着しやすくなる。
(実験結果の評価)
具体的に、UVオゾン処理を全く行わない場合(0秒)には、電子輸送層の表面自由エネルギーは、25mJ/m
2であり、このときの異物の付着は見られなかったものの、上部電極のシート抵抗値は、10.3Ω/□、表面粗さRaは3.9nmと共に大きくなり、アイランドが形成されていると判定されるので、「×」(不良)と評価される。
【0075】
UVオゾン処理時間が1秒から5秒の間では、表面自由エネルギーは33mJ/m
2〜97mJ/m
2になり、いずれの場合にも上部電極のシート抵抗値、表面粗さRaともに許容範囲内となり、異物の付着も見られなかったので、判定結果は「○」(良好)とした。
ところが、UVオゾン処理時間を10秒にすると、表面自由エネルギーが150mJ/m
2にもなり、上部電極のシート抵抗値、表面粗さRaともに許容範囲内となったが、電子輸送層の表面に異物の付着が発見された。あまりにも表面自由エネルギーが大きすぎると雰囲気中の微小な異物までも吸着して、その後の上部電極19の形成に支障を来すので、判定結果は「×」(不良)と評価される。
【0076】
すなわち、下地層としての電子輸送層の表面自由エネルギーが、33mJ/m
2〜97mJ/m
2であれば、銀原子の移動量を抑制力が生じてアイランドの形成が制限され、銀の連続膜を形成することができ、しかも異物の付着を排除することができ、均質な上部電極を形成することができる。
因みに、電子輸送層の成膜速度が、0.2Å/Sで基板温度が25℃のとき、
図4の表面粗さRaの実験では、評価が「×」だったので、この第2の実施の形態で求めた表面自由エネルギーの最適範囲は、電子輸送層の表面粗さRaとは別個に決定されたパラメータと解することができる。
【0077】
図14では、上部電極19である銀薄膜層の膜厚が15nmのときの実験結果を示したが、発明者は確認のため、銀薄膜層の膜厚が10nmの場合と20nmの場合についても同様の実験を行った。
図15は、銀薄膜層の膜厚が10nmのときの実験結果を示すテーブルである。
銀薄膜層の膜厚以外の実験条件は、
図14の場合と同じである。
【0078】
(実験結果の評価)
UVオゾン処理を全く行わない場合(0秒)には、電子輸送層の表面自由エネルギーは、25mJ/m
2であり、このときの異物の付着は見られなかったものの、上部電極のシート抵抗値は、13.6Ω/□、表面粗さRaは4.5nmと共に大きくなり、アイランドが形成されていると判定されるので、「×」(不良)と評価される。
【0079】
UVオゾン処理時間が1秒、5秒では、表面自由エネルギーは33mJ/m
2〜97mJ/m
2になり、いずれの場合にも上部電極のシート抵抗値、表面粗さRaともに許容範囲内となり、異物の付着も見られなかったので、判定結果は「○」(良好)とした。
ところが、UVオゾン処理時間を10秒にすると、表面自由エネルギーが150mJ/m
2にもなり、上部電極のシート抵抗値、表面粗さRaともに許容範囲内となったが、
図14の場合と同様、電子輸送層の表面に異物の付着が発見された。あまりにも表面自由エネルギーが大きすぎると雰囲気中の微小な異物までも吸着して、その後の上部電極19の形成に支障を来すので、判定結果は「×」(不良)と評価される。
【0080】
また、
図16は、銀薄膜層の膜厚が20nmのときの実験結果を示すテーブルである。
銀薄膜層の膜厚以外の実験条件は、
図14、
図15の場合と同じである。
(実験結果の評価)
UVオゾン処理を全く行わない場合(0秒)には、電子輸送層の表面自由エネルギーは、25mJ/m
2であり、このときの異物の付着は見られなかったものの、上部電極のシート抵抗値は、9.3Ω/□、表面粗さRaは3.5nmと共に大きくなり、アイランドが形成されていると判定されるので、「×」(不良)と評価される。
【0081】
UVオゾン処理時間が1秒、5秒では、表面自由エネルギーは33mJ/m
2〜97mJ/m
2になり、いずれの場合にも上部電極のシート抵抗値、表面粗さRaともに許容範囲内となり、異物の付着も見られなかったので、判定結果は「○」(良好)とした。
ところが、UVオゾン処理時間を10秒にすると、表面自由エネルギーが150mJ/m
2にもなり、上部電極のシート抵抗値、表面粗さRaともに許容範囲内となったが、やはり、電子輸送層の表面に異物の付着が発見され、判定結果は「×」(不良)と評価される。
【0082】
(まとめ)
上記実験結果より、上部電極19の膜厚が10nm〜20nmの範囲において、下地層としての電子輸送層の表面自由エネルギーが、33mJ/m
2〜97mJ/m
2(この条件を、以下「表面自由エネルギー条件」という。)であれば、銀原子の移動量を抑制力が生じてアイランドの形成が制限され、銀の連続膜を形成することができ、しかも異物の付着を排除することができ、均質な上部電極を形成することができることが分かる。
【0083】
なお、本実施の形態では、第1の実施の形態における
図11(a)および
図12のステップS11の電子輸送層を表面粗さRaを0.5nmにして形成する内容に代えて、電子輸送層を形成後、UVオゾン処理を例えば、2秒間施して電子輸送層の表面自由エネルギーを、56mJ/m
2に調整することになる。
他の構成については、第1実施の形態と全て同じであるので説明を省略する。
【0084】
<変形例>
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は、上述の実施の形態に限定されないのは勿論であり、以下のような変形例が考えられる。
1.表面粗さRaの他の制御方法
上記第1実施の形態では、電子輸送層18の表面粗さRaが表面粗さ条件を満たすため、その成膜速度を制御するようにしたが、成膜速度は一定のままで、基板の温度を調整することによっても表面粗さRaを調整することができる。
【0085】
図17は、その実験例を示すテーブルである。
同テーブルに示すように成膜速度を1.5Å/Sのまま一定にし、基板温度を25℃から300℃まで変化させたところ、次のことが分かった。
(1)電子輸送層の成膜時に基板温度が高くなるにつれて電子輸送層の表面粗さRaが小さくなる。
【0086】
(2)電子輸送層の表面粗さRaが小さくなるにつれて銀薄膜が核成長し島状になりやすくなりシート抵抗が大きくなる。
(3)電子輸送層の表面粗さRaが小さくなり銀薄膜が島状になると銀薄膜の表面粗さが大きくなる。
図17の実験結果では、基板温度が300℃のとき電子輸送層の表面粗さRaが0.2nmとなり、このときの銀薄膜のシート抵抗値、表面粗さRa共に大きく、判定が「×」(不良)となった。基板温度25℃、80℃、150℃では、上部電極19のシート抵抗値、表面粗さRaともに許容範囲内となり、「○」(良好)と判定された。
【0087】
2.電子注入層
上記実施の形態では、電子注入層を形成していなかったが、
図18に示すように電子輸送層18と上部電極19の間に、電子注入層21を介在させても構わない。
この電子注入層21は、電子輸送層18上に複数の画素に共通して設けられており、上部電極19から発光層17への電子の注入を促進させる機能を有する。
【0088】
電子注入層21は、例えば、リチウム、バリウム、カルシウム、カリウム、セシウム、ナトリウム、ルビジウム等の低仕事関数金属や、フッ化リチウム等の低仕事関数金属塩、酸化バリウム等の低仕事関数金属酸化物などの材料を用いて電子輸送層18上に生成される。
この場合には上部電極19に対して電子注入層21が下地層になるので、電子注入層21の表面(上部電極19が積層される側の面)が、上記表面粗さ条件もしくは表面自由エネルギー条件を満たすように形成される。
【0089】
3.光共振器構造
図19のEL素子の模式的な部分拡大断面図に示すように、電子輸送層18と上部電極19の間に、複数の画素に共通する透光性導電層22を介在させるようにしてもよい。
この透光性導電層22は、下部電極13の上面と、上部電極19の下面とをそれぞれ反射面とする、光共振器構造を形成するために設けられる。したがって、透光性導電層22は、可視光の透過率が高く、かつ、屈折率が銀薄膜である上部電極19の屈折率とは異なる金属酸化物であることが好ましく、例えば、ITOやIZOを用いることができる。
【0090】
透光性導電層22は、上部電極19と透光性導電層22の界面と、下部電極13と正孔注入層14界面とをそれぞれ反射面として、その内側に光共振器構造を設けるために、その膜厚が調整される。
図19には、発光層17から出射される光の主な経路を示している。経路C1は、発光層17から上部電極19側に出射された光が、反射されることなく上部電極19を透過する経路である。経路C2は、発光層17から下部電極13側に出射された光が、下部電極13で反射され、発光層17と上部電極19を透過する経路である。経路C3は、発光層17から上部電極19側に出射された光が、上部電極19で反射され、さらに下部電極13で反射され、発光層17と上部電極19を透過する経路である。そして、これら経路C1〜C3のそれぞれの経路により出射された光の間で干渉が生じる。経路C2と経路C3との光学距離の差は、
図19に示す光学膜厚L2に対応する。また、経路C1と経路C3の光学距離の差は、
図19に示す光学膜厚L3に対応する。透光性導電層22は、光学膜厚L2および光学膜厚L3を、光共振器構造を形成するための所望の値に設定するための膜厚を有する。
【0091】
本変形例においては、透光性導電層22が、上部電極19に対する下地層となるので、透光性導電層22の表面が、上記表面粗さ条件もしくは表面自由エネルギー条件を満たすようにすればよい。これにより膜質の均一な銀の上部電極19を形成することができる。
4.上記実施の形態では、上部電極19を銀単体で成膜したが、銀を主成分として他の金属(例えば銅)を含む銀合金で成膜しても構わない。この場合でも上記表面粗さ条件または表面自由エネルギー条件下において、銀を主成分とする限り、
図4や
図14などで示したのと同様な判定結果を得られるからである。
【0092】
なお、銀に代えて、金(Au)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)などの金属で上部電極19を形成することも可能である。
5.上記実施の形態では、下部電極13と上部電極19との間に、正孔注入層14、正孔輸送層16、発光層17、電子輸送層18が存在する構成であったが、本発明はこれに限らない。例えば、正孔注入層14、正孔輸送層16、電子輸送層18を用いずに、下部電極13と上部電極19との間に発光層17および上部電極19の下地層のみが存在する構成でもよい。
【0093】
この場合の下地層は、光透過性と導電性を備えた有機層であればよい。また、ITOやIZOなどの金属酸化物でもよい。
なお、下地層における光透過性は、可視光が50%以上透過するのが望ましく、
また下地層における導電性は、シート抵抗値が10Ω/□以下であることが望ましい。
6.上記実施の形態においては、本開示に係る有機EL表示パネルは、有機の発光材料を用いていたが、これに限らず、無機の発光材料を用いた有機EL表示パネルでもよい。
【0094】
また、表示装置に限られず、有機EL照明装置のようなパネル型の照明装置であってもよい。
7.以上、本開示に係る有機EL表示パネルおよび有機EL表示装置について、実施の形態および変形例に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態および変形例に限定されるものではない。上記実施の形態および変形例に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で実施の形態および変形例における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。