(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6748711
(24)【登録日】2020年8月12日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】ハイパースペクトル透過による下水油の迅速検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20200824BHJP
【FI】
G01N21/27 Z
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2018-518587(P2018-518587)
(86)(22)【出願日】2015年11月23日
(65)【公表番号】特表2018-535406(P2018-535406A)
(43)【公表日】2018年11月29日
(86)【国際出願番号】CN2015095324
(87)【国際公開番号】WO2017079997
(87)【国際公開日】20170518
【審査請求日】2018年4月10日
(31)【優先権主張番号】201510766035.0
(32)【優先日】2015年11月10日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】516168849
【氏名又は名称】広東省生物資源応用研究所
【氏名又は名称原語表記】GUANGDONG INSTITUTE OF APPLIED BIOLOGICAL RESOURCES
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】鄭 基煥
(72)【発明者】
【氏名】毛 潤乾
(72)【発明者】
【氏名】張 宇宏
(72)【発明者】
【氏名】董 冰雪
【審査官】
平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2015/101992(WO,A2)
【文献】
特開平04−340602(JP,A)
【文献】
特開昭62−159027(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0028859(US,A1)
【文献】
特開昭61−294337(JP,A)
【文献】
Journal of the American Oil Chemists' Society,2000年10月,Vol.77 No.10,p.1083〜1086
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00− 21/01
G01N 21/17− 21/61
G01J 3/00− 3/52
G01N 33/03
G06F 17/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長450〜650nmの白色光ハイパースペクトルで、合格の食用油と検出したい油サンプルそれぞれの透過値データの採取を行い、合格の食用油のハイパースペクトル透過値Yを用いて、波長Xに対して方程式をフィッティングして得られる方程式を、合格の食用油の検量線F(X)とするステップと、検出したい油サンプルのハイパースペクトル透過値Gを用いて、波長Xに対して方程式をフィッティングして得られる方程式を、検出したい油サンプルのハイパースペクトル透過値カーブとして、統計学的方法のT検定で、検出したい油サンプルのハイパースペクトル透過値カーブと検量線における各係数の違いを比較し、検出したい油サンプルのハイパースペクトル透過値カーブが検量線から外れる度合いを分析して、有意水準αは0.05であり、P<0.05の場合、検出したい油サンプルが下水油であると判断するステップと、を含むことを特徴とする、ハイパースペクトル透過による下水油の迅速検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品検出分野に属し、具体的には、ハイパースペクトル透過による下水油の迅速検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水油とは、回収された廃食用油、フライを繰り返した食用油、下水道ゴミから精製された劣悪な油、残りカスから精製された油及び劣悪な動物臓物から精製された油である。商業の利益の駆使で、下水油が食用油の産業チェーンに取り込まれ、食品の安全に深刻な影響を与え、そして、関連する社会的問題を引き起こしている。
【0003】
下水油を迅速で効率よく検出することは、現在、中国政府部門の要解決の重要な民生問題の一つである。いままで多数の下水油検出方法が開示されたが、一般的には、比重、屈折率、導電率、赤外分光等のような物理的検出指標によるものであり、より多くの場合は、多環芳香族炭化水素、アフラトキシン、アルデヒド・ケトン類、トリグリセリドポリマー、特定の遺伝子、コレステロール、水分、調味料類物質、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、重金属、脂肪酸組成、けん化価、酸価、カルボニル価、過酸化価、ヨウ素価、脂肪酸の相対的な不飽和度等のような植物油規格に準拠した化学的指標によるもの及び透明度や色合い、匂い、味等の外見で判別するものである。
【0004】
残念ながら、下水油に人為的な特殊処理をした後、検出したところ、全ての下水油サンプルではないが、多環芳香族炭化水素、調味物質等が除去され得ることが分かる。食用油の物理・化学的指標の検出には、酸価、過酸化価、油の抽出溶媒残留、遊離フェノール(綿実油)、総ヒ素、鉛、アフラトキシン、ベンゾピレン及び農薬残留などの基本指標の検出が含まれており、しかし、下水油でも、これらの指標に合格する可能性があり、下水油を判別することが不可能である。もっと複雑な場合では、精製した下水油と普通の食用油とが一定の比例で混合されると、下水油と普通の食用油とを正確に区別することが一層難しくなり、これが下水油の正確な検出に極大な困難をもたらすことになる。
【0005】
従来の方法の検出結果には、経験が必要であり、主観的な要素に大きく影響され、正確度を保証しづらく、また、物理・化学的分析方法では、手間がかかるだけではなく、高価な分析機器と厳しい実験室条件も必要である。そのため、簡単で、迅速的な食用油と下水油の鑑別技術を考え出すことが要望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、簡単で、迅速的なハイパースペクトル透過による下水油の迅速検出方法を提供することにあり、該方法は、従来技術では、下水油をうまく効率よく検出して、下水油と普通の食用油とを区別することが困難であるという技術課題を効果的に解決することを趣旨とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ハイパースペクトルは、波長域が多く、解像度が高いという特徴を有する。食用油が透明な液体である場合が多いことから、複数の分光波長域でハイパースペクトル透過分析を行うことによって、オイルの品質を検出することができる。一般的に、ハイパースペクトル透過値の採取データが連続して、透過値カーブを形成しており、さらに、本発明は、データ分析の結果から迅速にオイルの品質を反映できるデータ分析方法を提供して、本発明の目的を達成した。
【0008】
本発明のハイパースペクトル透過による下水油の迅速検出方法は、
白色光ハイパースペクトルで、合格の食用油と検出したい油サンプルそれぞれの透過値データの採取を行い、合格の食用油のハイパースペクトル透過値Yを用いて、波長Xに対して方程式をフィッティングして得られる方程式を、合格の食用油の検量線F(X)とするステップと、検出したい油サンプルのハイパースペクトル透過値Gを用いて、波長Xに対して方程式をフィッティングして得られる方程式を、検出したい油サンプルのハイパースペクトル透過値カーブとして、統計学的方法のT検定で、検出したい油サンプルのハイパースペクトル透過値カーブと検量線における各係数の違いを比較し、検出したい油サンプルのハイパースペクトル透過値カーブが検量線から外れる度合いを分析して、検出したい油サンプルが下水油であるかどうかを判断するステップと、を含む。
【0009】
前記の白色光ハイパースペクトルは、波長450〜950nmの白色光ハイパースペクトルであり、さらに好ましくは、波長450〜650nmの白色光ハイパースペクトルである。
【0010】
上記白色光ハイパースペクトル透過値の採取は、関連するハイパースペクトロメータ等で行われる。
【0011】
前記ハイパースペクトルの波長は450〜950nmであり、または透過値の違いによって選ばれる所定の波長域であり、例えば450〜650nmである。
【0012】
前記カーブフィッティングの方法は、最小二乗法であり、MATLAB等の数学ソフトウェアで行われてもよい。
【0013】
前記T検定は統計学的な平均の差の検定方法であり、有意水準αが0.05であるが、必要に応じて変更されてもよく、統計分析をSPSS等の統計ソフトウェアで行ってもよく、P<0.05であると、差が大きく、検出したい油サンプルが下水油であると考えられる。
【発明の効果】
【0014】
大量の実験により、異なるオイルの透過値は、ある波長域で有意差を有し、得られる透過値カーブも異なることが検証される。本発明の方法によれば、合格の食用油サンプルのハイパースペクトル透過値の検量線を用いて、全てのサンプルのデータベースを作成し、検出したい油サンプルを対比することにより、検出したい油サンプルが合格の食用油であるかどうかを判別することができる。そのため、この特徴では、数理統計の方法で確認を行い、当業者がハイパースペクトル走査を行い、カーブ方程式の違いによってオイルの品質を対比すればよく、操作が簡単で、信頼性が高く、判別しやすい。本発明で用いる方法は、簡単で、効果的であり、ハイパースペクトル走査で透過値データの採取を行うだけで、迅速で効率よく下水油サンプルを検出するという要求を満たすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の実施例が本発明の更なる説明であり、本発明を制限するものではない。
【0016】
(実施例1)
魯花落花生油と下水油の透過値カーブの違いを比較する。
【0017】
HEADWALLシステムによって、波長450nmから650nmの白色光ハイパースペクトルで魯花落花生油の透過値データを採取し、5回繰り返した後、MATLABソフトウェアで、魯花落花生油のハイパースペクトル透過値(Y)を用いて、波長(X)に対して方程式をフィッティングして、得られた方程式を魯花落花生油の検量線F(X)とする。
【0018】
5回繰り返して得られたデータフィッティング方程式が、
F
1(x)=−0.0064x4+0.3038x3−4.3174x2+10.68x+703.28 (R2=0.9831)
F
2(x)=−0.0041x4+0.2052x3−3.4192x2+19.75x+638.3 (R2=0.6913)
F
3(x)=−0.0075x4+0.344x3−4.8345x2+14.492x+692.53 (R2=0.9751)
F
4(x)=−0.0033x4+0.1752x3−3.0803x2+18.966x+636.49 (R2=0.57)
F
5(x)=0.0015x4−0.0748x3+1.4277x2−14.566x+718.85 (R2=0.7277)
である。
【0019】
下水油についても、上記の魯花落花生油と同様にしてハイパースペクトル透過値の採取を行い、5回繰り返した後、MATLABソフトウェアで、下水油のハイパースペクトル透過値(G)を用いて、波長(X)に対して方程式をフィッティングして、得られた方程式を下水油のカーブG(X)とする。
【0020】
5回繰り返して得られたデータフィッティング方程式が、
G
1(x)=−0.0416x4+2.0721x3−31.582x2+92.353x+1681.5 (R2=0.9653)
G
2(x)=−0.0379x4+1.9066x3−29.179x2+83.147x+1661.3 (R2=0.9699)
G
3(x)=−0.0398x4+1.9962x3−30.748x2+94.917x+1627.1 (R2=0.9692)
G
4(x)=−0.0378x4+1.8848x3−28.61x2+78.47x+1653.2 (R2=0.9651)
G
5(x)=−0.0373x4+1.8837x3−29.051x2+85.983x+1637.2 (R2=0.969)
である。
【0021】
T検定で各係数の違いを比較すると、有意水準αが0.05であり、有意性検定から明らかなように、カーブの方程式では有意差(P<)0.05を有しているから、下水油と魯花落花生油の間に大きな違いがあると考えられる。そのため、地溝油サンプルが食用油ではなく、下水油であると判定する。
【0022】
(付記)
(付記1)
白色光ハイパースペクトルで、合格の食用油と検出したい油サンプルそれぞれの透過値データの採取を行い、合格の食用油のハイパースペクトル透過値Yを用いて、波長Xに対して方程式をフィッティングして得られる方程式を、合格の食用油の検量線F(X)とするステップと、検出したい油サンプルのハイパースペクトル透過値Gを用いて、波長Xに対して方程式をフィッティングして得られる方程式を、検出したい油サンプルのハイパースペクトル透過値カーブとして、統計学的方法のT検定で、検出したい油サンプルのハイパースペクトル透過値カーブと検量線における各係数の違いを比較し、検出したい油サンプルのハイパースペクトル透過値カーブが検量線から外れる度合いを分析して、検出したい油サンプルが下水油であるかどうかを判断するステップと、を含むことを特徴とする、ハイパースペクトル透過による下水油の迅速検出方法。
【0023】
(付記2)
前記白色光ハイパースペクトルが波長450〜950nmの白色光ハイパースペクトルであることを特徴とする、付記1に記載のハイパースペクトル透過による下水油の迅速検出方法。
【0024】
(付記3)
前記白色光ハイパースペクトルが波長450〜650nmの白色光ハイパースペクトルであることを特徴とする、付記2に記載のハイパースペクトル透過による下水油の迅速検出方法。