特許第6748871号(P6748871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱農機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6748871-作業車両 図000002
  • 特許6748871-作業車両 図000003
  • 特許6748871-作業車両 図000004
  • 特許6748871-作業車両 図000005
  • 特許6748871-作業車両 図000006
  • 特許6748871-作業車両 図000007
  • 特許6748871-作業車両 図000008
  • 特許6748871-作業車両 図000009
  • 特許6748871-作業車両 図000010
  • 特許6748871-作業車両 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6748871
(24)【登録日】2020年8月13日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   G05G 25/04 20060101AFI20200824BHJP
   B60K 23/02 20060101ALI20200824BHJP
   B60T 7/04 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
   G05G25/04 Z
   B60K23/02 B
   B60T7/04 A
   B60T7/04 C
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-156030(P2016-156030)
(22)【出願日】2016年8月9日
(65)【公開番号】特開2018-25893(P2018-25893A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2019年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】矢藤 博隆
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭58−134150(JP,U)
【文献】 実開昭55−083450(JP,U)
【文献】 実開平04−034125(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05G 25/04
B60K 23/02
B60T 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから駆動輪への動力伝達を切断するクラッチペダルと、駆動輪を制動するブレーキペダルの各踏面を、操縦部を覆うキャビンのフロア上に配置する作業車両において、前記クラッチペダル又はブレーキペダルは、そのペダルアームをフロアに形成するペダル溝を通して、フロア下方の車体に回動自在に軸支する一方、該ペダル溝の下方となるペダルアームの外周部に幅狭な帯状のシールを貼り付け、このペダルが踏み込まれていない場合には、シールがフロアの下面と密着又は近接して、ペダルアームとペダル溝との間に生ずる隙間を塞ぐように構成すると共に、前記ペダルアームの、ペダルの踏み込む前後においてペダル溝内を移動する部位を、ペダルアームの回動支点を中心とする円弧状に形成してペダル溝に対するペダルアームの貫通する部位の前後位置が変化しないように構成したことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記ペダルアームを平板を用いて形成すると共に、前記シールを貼り付ける位置のペダルアームの外周部を側面視で矩形状に形成して、シールの貼り付け位置を画一化できるように構成したことを特徴とする請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記ペダルアームを、車体に回動自在に軸支するボス部を備える第1ペダルアームと、踏面を備える第2ペダルアームを着脱自在連結して構成すると共に、前記シールを貼り付ける第2ペダルアームの外周部は、円弧状とする部位の前後幅より広く形成することを特徴とする請求項2に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタやコンバイン等の作業車両に係り、詳しくは、操縦部を覆うキャビンのフロア上にクラッチペダルやブレーキペダルを配置する作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用の作業車両であるトラクタは、エンジンからの動力を後車軸、或いは前車軸に伝達する走行伝動装置を備え、この走行伝動装置は車体を構成するミッションケース等に内装する。また、作業者の作業環境を改善すべく車体にキャビンを搭載し、キャビン内に操縦部を設けるトラクタでは、エンジンから駆動輪(後輪、又は前輪)への動力伝達を切断するクラッチペダルと、駆動輪を制動するブレーキペダルを運転席前方のキャビンのフロア上に配置する。
【0003】
さらに、キャビンのフロア上にクラッチペダルやブレーキペダルを配置する場合、これらのペダルを吊り下げ式(ペンダント式)にする場合と、立上がり式(オルガンペダル式)にする場合があり、前者の吊り下げ式は、操縦部に余裕がある比較的大型のトラクタで採用し、小型のトラクタでは主に立上がり式を採用する。
【0004】
そして、各ペダルによって操作するクラッチやブレーキは、走行伝動装置の変速装置とともに車体側のミッションケース等に設けており、ペダルを吊り下げ式にする場合は、各ペダルとクラッチやブレーキとを機械的な連係機構を介在させて連結する。また、立上がり式にする場合は、ペダルアームを車体側に軸支してペダルの踏面をキャビンのフロア上に臨むように配置する。
【0005】
そのため、キャビンのフロアに孔を開けて上記連係機構を通したり、フロアにペダル溝を開けてペダルアームを通すことになり、この場合、フロアに設ける孔やペダル溝を通してキャビン室内と室外が少なからず連通し、キャビンの気密性を低下させて空調性能を悪くしたり、エンジン音等がキャビン内に入って室内騒音を高くし、或いはキャビン内に塵埃が侵入するといった問題がある。
【0006】
そこで、連係機構と孔、或いはペダルアームとペダル溝との間に生ずる隙間を塞ぐシール構造が採用され、例えば、吊り下げ式のペダルの場合、連係ロッドとそのロッドが貫通するフロアの貫通部とに亘ってシールを介装することが知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、立上がり式の場合、ペダル溝(開口部)をシールによって閉塞することが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−301790号公報
【特許文献2】特開2005−329730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のようにペダルの連係機構とフロアに形成する孔、或いはペダルアームとフロアに形成するペダル溝との間に生ずる隙間をシールによって塞ぐことは、キャビンの気密性等を高めるために有効である。しかし、気密性等を高めるために複雑なシール構造を採用すると、コストアップとなることを避けることができない。また、吊り下げ式のペダルを採用する場合は、立上がり式のペダルを採用する場合より、余分な連係機構等を設ける必要があるため全体的にコストアップとなる。
【0009】
すなわち、前記特許文献1に記載のシール構造は、連係機構を構成するロッドの貫通孔の下面に円筒状の圧縮可能な軟質発泡性樹脂からなるシールを貼付すると共に、ロッドにシールの受け座となる円形プレートを固着し、円形プレートの上面とシールとを常時圧接させることによりロッドと貫通孔との間に生ずる隙間を塞ぐものであるから、打ち抜き加工した専用の円筒状のシールを用意しなければならないと共に、円形プレート等の余分な部材を必要とする。
【0010】
また、このものではペダルの踏面の移動量(踏み込みストローク)に対して、連係機構のリンク比によってロッドの移動量を少なくしているため、シールの圧縮状態を維持して常時隙間を塞ぐことができる。しかし、立上がり式のペダルにこのシール構造を採用して、そのペダル溝の下面にシールを貼付しても、ペダル溝を貫通するペダルアームの移動量は、ペダル踏面の移動量と略等しく、ロッドの移動量よりはるかに大きくなるから、その移動量をカバーする伸縮性を備えるシールを用意することは現実的に困難である。
【0011】
さらに、立上がり式のペダルを採用する前記特許文献2に記載のシール構造は、ペダル溝となるフロア開口部に軟質ゴムと起毛材とゴム板からなるシールを装着して、この開口部を閉塞するものであるから、多数の部材を用意してシールを製作しなければならないと共に、開口部へのシールの装着に時間を取られ、組み立て性に劣るという問題がある。
【0012】
そこで、本発明は、上記のような問題点に鑑み、ペダルアームとフロアに形成するペダル溝との間に生ずる隙間をシールによって塞ぐために、複雑なシール構造を採用してコストアップを招くことなく、また、シール性が多少劣ることになっても、キャビンの気密性を実用上支障なく確保でき、しかも、組み立て性に優れた作業車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するため第1に、エンジンから駆動輪への動力伝達を切断するクラッチペダルと、駆動輪を制動するブレーキペダルの各踏面を、操縦部を覆うキャビンのフロア上に配置する作業車両において、前記クラッチペダル又はブレーキペダルは、そのペダルアームをフロアに形成するペダル溝を通して、フロア下方の車体に回動自在に
軸支する一方、該ペダル溝の下方となるペダルアームの外周部に幅狭な帯状のシールを貼り付け、このペダルが踏み込まれていない場合には、シールがフロアの下面と密着又は近接して、ペダルアームとペダル溝との間に生ずる隙間を塞ぐように構成すると共に、前記ペダルアームの、ペダルの踏み込む前後においてペダル溝内を移動する部位を、ペダルアームの回動支点を中心とする円弧状に形成してペダル溝に対するペダルアームの貫通する部位の前後位置が変化しないように構成したことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、第2に、前記ペダルアームを平板を用いて形成すると共に、前記シールを貼り付ける位置のペダルアームの外周部を側面視で矩形状に形成して、シールの貼り付け位置を画一化できるように構成したことを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明は、第3に、前記ペダルアームを、車体に回動自在に軸支するボス部を備える第1ペダルアームと、踏面を備える第2ペダルアームを着脱自在連結して構成すると共に、前記シールを貼り付ける第2ペダルアームの外周部は、円弧状とする部位の前後幅より広く形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の作業車両によれば、クラッチペダル又はブレーキペダルは、そのペダルアームをキャビンのフロアに形成するペダル溝を通して、フロア下方の車体に回動自在に軸支するから、クラッチペダル又はブレーキペダルを操縦部を覆うキャビンに立上がり式にして設置することができ、吊り下げ式のペダルを採用するものより安価な作業車両を提供することができる。
【0017】
また、ペダル溝の下方となるペダルアームの外周部に幅狭な帯状のシールを貼り付け、このペダルが踏み込まれていない場合には、シールがフロアの下面と密着又は近接して、ペダルアームとペダル溝との間に生ずる隙間を塞ぐように構成するから、ペダルアームとペダル溝との間に生ずる隙間をシールによって塞ぐことができ、キャビンの気密性を向上させて空調性能を高めることができる。
【0018】
さらに、シールは幅狭な帯状となすテープ状のシールを使用することができるから、打ち抜き加工等を施した専用のシールを用いる必要がなく、一般に市販されている安価なシールを用いることができる。また、このシールをペダルアームの外周部に接着又は粘着して貼り付けるだけで済むから、シールを保持する余分な部材を全く必要とせず、シール構造を極めてシンプルにしてコストダウンを図ることができる。
【0019】
また、前記ペダルアーム少なくともペダル溝内を移動する部位を、その回動支点を中心とする円弧状に形成するすると、ペダルを踏み込む前後において、ペダル溝に対するペダルアームの貫通する前後位置が変化しないようにできる。さらに、ペダルアームを平板とし、前記シールを貼り付けるペダルアームの外周部を側面視で矩形状に形成して、シールの貼り付け位置を画一化できるように構成すると、ペダル溝を細長い矩形状に形成して、ペダルアームとの間に生ずる隙間を可能な限り少なくすることができると共に、両者の間に生じた隙間はシールによって塞ぐことができる。
【0020】
そして、ペダルアームへのシール貼り付け作業は、側面視で矩形状に形成したペダルアームの外周部にシールの縁を合致させて貼り付けるだけでよく、これによって貼り付けられたシールは、ペダルが踏み込まれていない場合に、その上縁がフロア下面と平行となり、且つこれに密着又は近接する適正な位置に貼り付けることができる。
【0021】
また、上記のような側面視で矩形状の外周部を設けず、ペダルアームの円弧状に形成した外周面にシールを貼り付けようとすると、その前面側及び後面側においてシールが浮き上がったり歪んでしまい、シールの貼り付けが不十分になったり隙間が生ずる虞がある。しかし、ペダルアームの外周部を側面視で矩形状に形成して、全体として直方体状の外周部になすと、シールを綺麗に確実に貼り付けることができる。
【0022】
さらに、車体に回動自在に軸支するボス部を備える第1ペダルアームと、踏面を備える第2ペダルアームを着脱自在連結してペダルアームを構成すると共に、前記シールを貼り付ける第2ペダルアームの外周部は、円弧状とする部位の前後幅より広く形成すると、第1ペダルアームに連結する第2ペダルアームの基部側が、前後方向に幅広になって強度を増すことができ、ペダル踏力によるペダルアームの破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】トラクタの側面図である。
図2】操縦部の斜視図である。
図3】キャビンのフロアにペダルを配置する斜視図である。
図4】ブレーキの連係機構を示す斜視図である。
図5】ブレーキペダルのストッパを示す斜視図である。
図6】左右ブレーキペダルの連結状態を示す斜視図である。
図7】右ブレーキペダルの側面図である。
図8】右ブレーキペダルにシールを張り付けた状態を示し、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は断面図である。
図9】右ブレーキペダルを踏み込まない状態を示す側面図である。
図10】右ブレーキペダルを踏み込んだ状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1乃至図4に示すように農業用のトラクタ1は、前方からエンジン2、クラッチハウジング3、HSTケース4、ミッションケース5等を一体的に連結して車体を構成する。また、車体の前部側には、エンジン2、バッテリ、及びラジエータ等を覆うボンネット6を設け、このボンネット6は、後部に設けたヒンジを介して前部側を開閉自在に構成する。なお、ボンネット6の前部にはアッパグリル7、ヘッドライト8、及びロアグリル9を設ける。
【0025】
さらに、エンジン2に固定して前方に延びるフロントアクスルブラケツト10には、フロントアクスルケースを左右揺動自在に軸支する。このフロントアクスルケースの左右端には、ファイナルケースを介して前車軸を軸支し、この前車軸に取り付けた左右の前輪11を操縦部に設けるステアリングホイール12によって操舵する。一方、車体の後部側にはミッションケース5の左右にリアアクスルケース13を連結し、このリアアクスルケース13に後車軸を軸支し、この左右の後車軸に後輪14を取り付ける。
【0026】
また、車体の後部には、トップリンク15、及び左右のロワリンク16からなる周知の三点リンク機構やドローバ17を設ける。この内、三点リンク機構はモーアやロータリ耕耘装置等の作業機を連結するものであり、作業機はミッションケース5の上部に取り付けた油圧ハウジングの左右リフトアームによって昇降自在に構成する。また、ミッションケース5の後部に軸支したPTO軸(動力取出軸)から作業機にエンジン動力を伝達する。
【0027】
さらに、エンジン2より後方の車体には、防振ゴム18を介して操縦部を覆うキャビン19を搭載する。ここで、キャビン19は、左右一対の前側の支柱であるフロントピラー20と、左右一対の後側の支柱であるリアピラー21と、この上下方向に延びる4本の各支柱20、21の上端部間を連結固定する方形枠状のルーフフレーム22と、各支柱20、21の下端部間を連結固定する下部フレーム23等によってキャビンフレームを構成する。
【0028】
そして、キャビンフレームには、左右のドアガラス24を後部側に設けるヒンジ25を介して開閉自在に装着すると共に、前面側にフロントガラス26を、また、後面側にリヤガラス27を設ける。また、左右のリアピラー21の下端部から、前方斜め下方のフロア28側に向けて後輪14の前側上方を覆うフェンダー29を延設する。
【0029】
さらに、前記ルーフフレーム22にはインナールーフ30とアウタールーフ31を取り付け、このインナールーフ30とアウタールーフ31との間に、空調装置を構成するエアコンユニット(エバポレータと送風ファン)を設ける。
【0030】
また、前記下部フレーム23には、左右のフェンダー29間に位置させて、車体側から設ける操作レバー等を通すサイドカバーや運転席32を取り付けるシートアンダーカバーを設け、さらに、運転席32の前方に床板33と床板33の前部側に設ける開口を塞ぐ足元板34を設け、この床板33と足元板34でキャビン19のフロア28を形成する。
【0031】
なお、上記足元板34の上方には、車体側から設けるステアリングコラム等を覆うリヤパネルカバー35やメーターバネル36等を配設する。また、足元板34には前後方向に細長い矩形状の3つのペダル溝34a、34b、34cを穿設し、各ペダル溝34a、34b、34cにそれぞれペダルアームを通して、エンジン2から駆動輪(2駆状態では後輪14、4駆状態では前輪11と後輪14)への動力伝達を切断するクラッチペダル37と、駆動輪を制動する左右のブレーキペダル38、39を配置する。
【0032】
すなわち、クラッチペダル37と左右のブレーキペダル38、39は、図4乃至図6に示すように、それぞれ第1ペダルアーム40と第2ペダルアーム41を備え、第1ペダルアーム40の先端に第2ペダルアーム41の下端をボルト42で取り付ける。また、第1ペダルアーム40はその後端にボス部40aを設け、このボス部40aをクラッチハウジング3に回動自在に軸支するブレーキシャフト43に外嵌する。なお、左ブレーキペダル38のボス部40aはブレーキシャフト43に外嵌すると共に、ピンでブレーキシャフト43に固定する。
【0033】
また、クラッチペダル37と右ブレーキペダル39のそれぞれのボス部40aにアーム40bを設け、この内、クラッチペダル37のアーム40bは、図1に示すようにクラッチハウジング3の左側面において、クラッチロッド44を介してレリーズシャフトの左端に設けたアーム45に連結する。なお、レリーズシャフトにはクラッチレバーを設け、クラッチレバーはクラッチハウジング3に内装する乾式単板クラッチから構成する主クラッチを切断する。
【0034】
一方、右ブレーキペダル39のアーム40bは、図4に示すようにクラッチハウジング3の右側面において、ブレーキロッド46、ジョイント47、ピン48を介して右ブレーキアーム49に連結する。なお、この右ブレーキアーム49は、右リアアクスルケース13に内装する右ディスクブレーキを作動し、右ディスクブレーキは右後輪14を制動する。
【0035】
また、図1に示すようにブレーキシャフト43の左端にアーム43aを設け、このアーム43aはクラッチハウジング3の左側面において、右ブレーキペダル39と同様にブレーキロッド46、ジョイント47、ピン48を介して左ブレーキアーム49に連結する。なお、この左ブレーキアーム49は、左リアアクスルケース13に内装する左ディスクブレーキを作動し、左ディスクブレーキは左後輪14を制動する。
【0036】
さらに、クラッチペダル37と左右のブレーキペダル38、39のボス部40aには、アーム40cをそれぞれ設け、このアーム40cとHSTケース4の側面に取り付けるボルト50との間にペダルの戻しスプリング51を設ける。また、クラッチペダル37と左右のブレーキペダル38、39の第1ペダルアーム40の先端には突部40dを設け、この突部40dは、第1ペダルアーム40がブレーキシャフト43の軸心を中心に上動回動するとき、下部フレーム23に設けるストッパ52に接当して、それ以上の第1ペダルアーム40の上動を阻止する。なお、53はストッパ52に装着したラバーであり、両者の接当時の衝突音を減らす。
【0037】
また、右ブレーキペダル39の第1ペダルアーム40の先端側には係止部40eを設け、この係止部40eは、駐車ブレーキレバー54の入り操作によってパーキングラチェット55が、その戻しスプリング56に抗して引かれた際にそれと係合して、左右のブレーキペダル38、39を踏み込んだ制動位置に保持する。
【0038】
次に、クラッチペダル37と左右のブレーキペダル38、39の第2ペダルアーム41について説明すると、第2ペダルアーム41は平板を、例えば、レーザーカットして所定の厚さを備えた本体とする。なお、右ブレーキペダル39の第2ペダルアーム41の先端側は、更に本体を若干捻りながら右側に向けて折曲して形成する。また、第2ペダルアーム41の先端には、ペダルの踏面37a、38a、39aを溶接して一体になす。そして、この踏面37a、38a、39aには、滑り止めとなるペダルカバー37b、38b、39bを装着する。
【0039】
なお、クラッチペダル37の第2ペダルアーム41の上部側の前部には、ピン57を左右方向を向くように溶接して固着し、このピン57をフロア28に回動自在に軸支するフック58に係合させると、クラッチペダル37を主クラッチの切断状態に保持することができる。また、右ブレーキペダル39の第2ペダルアーム41の上部側には、図6に示すように連結金具59を回動自在に軸支し、一方、左ブレーキペダル38の第2ペダルアーム41の上部側には、連結金具59を受け入れるU字状の凹部を備えるプレート60を溶接して固着する。
【0040】
そのため、連結金具59を回動してプレート60に係合させると、左右のブレーキペダル38、39は一体化して、左右何れか一方のブレーキペダル38を踏み込んでも、他方のブレーキペダル39が共に踏み込まれ、左右のブレーキは共に作動してトラクタ1を停止させることができる。また、連結金具59をプレート60から離脱させると、左右のブレーキペダル38、39を単独で踏み込むことができるようになり、その場合、左右の後輪14の一方を制動してトラクタ1を急旋回させることができる。
【0041】
そして、クラッチペダル37と左右のブレーキペダル38、39の第2ペダルアーム41には、第2ペダルアーム41とフロア28に形成するペダル溝34a、34b、34cとの間に生ずる隙間を塞ぐシール61を装着するが、第2ペダルアーム41の下端寄りの部位41aの前縁と後縁は、その回動支点となるブレーキシャフト43の軸心を中心とする円弧状に形成してアーチ型になす。
【0042】
これはペダル37、38、39を踏み込む前後において、ペダル溝34a、34b、34cに対する第2ペダルアーム41の貫通する前後位置が変化しないように意図するものであり、このように構成すると、ペダル溝34a、34b、34cの前後長さを、第2ペダルアーム41を貫通させてペダル37、38、39を踏み込むことが可能な最小長さにすることができ、それにより、第2ペダルアーム41とペダル溝34a、34b、34cとの間に生ずる前後方向の隙間を出来るだけ少なくしようするものである。
【0043】
従って、第2ペダルアーム41とペダル溝34a、34b、34cとの間に生ずる隙間は、先ずもって第2ペダルアーム41のアーチ型に形成する部位41aによって必要最小限になるように工夫が施され、ここで生じた隙間をシール61で塞ぐことになり、具体的にはシール61は、第2ペダルアーム41に装着して、ペダル37、38、39が踏み込まれていない場合に、フロア28の下面と密着又は近接する位置に設ける。
【0044】
そこで、シール61は、第2ペダルアーム41の円弧状に形成してアーチ型になした部位41aの下方となる外周部41bに貼り付けて装着する。しかし、シール61の装着面となる外周部41bが上方のアーチ型になした部位41aと連続するアーチ型に形成すると、シール61の貼り付け作業においてシール61の適正な貼り付け位置を俄かに特定することができない。
【0045】
また、ペダルアーム41のアーチ型に形成した部位41aにシール61を貼り付けようとすると、その前面側及び後面側においてシール61が浮き上がったり歪んでしまい、シール61の貼り付けが不十分になったり隙間が生ずる虞がある。そのため、シール61を貼り付ける第2ペダルアーム41の外周部41bは、側面視で矩形状に形成する。
【0046】
より詳細に説明すると、第2ペダルアーム41の外周部41bは、ペダル37、38、39を踏み込まない状態において、外周部41bの上縁41cと下縁41dはフロア28の下面に平行となり、前縁41eと後縁41fはフロア28の下面に垂直となる矩形(全体として直方体)に形成する。また、上方のアーチ型に形成した部位41aに対して、外周部41bの前縁41eは前方にs1だけ突出させ、また、外周部41bの後縁41fは後方にs2だけ突出させて形成し、全体に外周部41bはアーチ型に形成した部位41aの前後幅より広く形成する。
【0047】
そのため、第1ペダルアーム40と連結する第2ペダルアーム41の下部側(基部側)の強度を増すことができ、ペダル踏力による第2ペダルアーム41の破損を防止することができる。なお、側面視で矩形状に形成する外周部41bは、応力集中を避けるため湾曲形成する部位41aに対してアールを持って接続する。
【0048】
一方、第2ペダルアーム41の外周部41bに装着するシール61は、幅狭な帯状となすテープ状のシールを使用し、例えば、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)系の発泡ゴムの裏面に粘着剤を塗工したテープ状のシールを用いる。なお、シール61としては、柔軟で圧縮応力が小さく、また、耐候性に優れ、圧縮しても復元性が高いシール61であれば、上記のシール61に限らず使用することができ、さらに、シール61に接着剤を塗布して第2ペダルアーム41の外周部41bに貼り付けるようにしてもよい。
【0049】
そして、第2ペダルアーム41の外周部41bに上記シール61を貼り付ける際、シール61から剥離紙を取り除いて、シール61の長手方向の上縁61aと下縁61bを外周部41bの上縁41cと下縁41dに合致させて巻回し、その後、シール61の両端同士を、例えば、外周部41bの後縁41fの後方で粘着させて貼り付ける。
【0050】
このようにシール61を側面視で矩形状に形成する外周部41bの上縁41cと下縁41dを目当てに貼り付けると、シール61は、ペダル37、38、39が踏み込まれていない場合に、その上縁61aがフロア28下面と平行となり、且つこれに密着又は近接する適正な位置に貼り付けることができ、シール61の貼り付け位置を画一化することができる。また、シール61を直方体の外周に一周させて貼り付けることになるから、シール61を外周部41bに隙間なく綺麗に確実に貼り付けることができる。
【0051】
そして以上のように構成するトラクタ1は、圃場で耕起作業等を行う場合、ロータリ耕耘装置等の作業機を下降させて、HSTケース4に内装する静油圧式無段変速装置(Hydro Static Transmission)のフロア28上に配設する前進用ペダル62(図2参照)を踏み込むと、トラクタ1を前進させて作業を行うことができる。そして、圃場端に至って機体を旋回させて次の行程に進む。
【0052】
この場合、作業機を上昇させてステアリングホイール12を回して機体を次の行程に向かうよう操舵するが、左右のブレーキペダル38、39の内、旋回側となるブレーキペダルを踏み込むと旋回側となる後輪14を制動して機体を急旋回させることができる。また、トラクタ1を停止させる場合は、HSTの前進用ペダル62の踏み込みを解除し、HSTが中立に戻って機体は停止する。
【0053】
さらに、作業機への動力伝達を断ってトラクタ1を緊急に停止させる場合は、クラッチペダル37を踏み込むと共に左右のブレーキペダル38、39を同時に踏み込むと、走行伝動装置と共に作業機への動力伝達が断たれ、また、左右の後輪14が制動され機体は速やかに停止する。そして、クラッチペダル37や左右のブレーキペダル38、39を踏み込まない状態では、図9に示すようにシール61がフロア28下面と密着又は近接して、ペダルアーム41とペダル溝34a、34b、34cとの間に生ずる隙間を塞ぐ。
【0054】
そのため、上記隙間を通してのキャビン室内と室外の連通が阻止され、キャビン19の気密性は保たれる。また、エンジン音等がキャビン内に入って室内騒音を高くすることがなく、或いはキャビン内への塵埃の侵入が阻止される。なお、クラッチペダル37や左右のブレーキペダル38、39を踏み込むと、図10に示すようにシール61はフロア28下面から離れ、ペダルアーム41とペダル溝34a、34b、34cとの間に生ずる隙間を通して、キャビン室内と室外が連通する。
【0055】
しかし、トラクタ1の運転中にクラッチペダル37や左右のブレーキペダル38、39を踏み込んでいる時間は僅かでしかないから、キャビン室内と室外が連通して空調性能を極端に悪くするといったところまで至らず、前記シール構造を採用して実用上支障はなく、寧ろ極めてシンプルなシール構造にしてコストダウンを図ることができるメリットがデメリットより上回る。
【0056】
なお、図2に示すようにフロア28上にはマット63を敷設する。そして、マット63には矩形状の孔63a、63bを形成して、クラッチペダル37や左右のブレーキペダル38、39のペダルアーム41を貫通させる。そこで、フロア28とマット63の間にクラッチペダル37や左右のブレーキペダル38、39に対応するラバー64を介在させ、ペダルアーム41とペダル溝34a、34b、34cとの間に生ずる隙間を、前記シール61とともにラバー64によって塞いでもよい。
【0057】
すなわち、上記ラバー64は、ペダルアーム41のアーチ型に形成した部位41aを通す矩形状の貫通孔64aを中央部に備え、この貫通孔64aから前方又は後方に向けて切り込み64bを入れる。そして、このラバー64をペダル溝34a、34b、34cに対応するフロア28の上面に単に置くか、外周部の一部をフロア28に貼り付け、その上にマット63を敷設する。
【0058】
この状態において、第2ペダルアーム41をマット63の上方側からマット63の孔63a、63bと、ラバー64の貫通孔64aと、フロア28のペダル溝34a、34b、34cを順に通して、第2ペダルアーム41の下端部を第1ペダルアーム40の先端にボルト42で取り付けて組み立てを行う。
【0059】
また、この場合、第2ペダルアーム41に予め貼り付けたシール61は、変形して各孔や溝を通過し、ペダルアーム41のアーチ型に形成した部位41aより幅広の外周部41b等は、ラバー64の貫通孔64aを通す際、切り込み64bを広げて通過する。なお、車体からキャビン19を取り外して、車体の各部をメンテナンスする場合は、上記と逆の手順で第2ペダルアーム41を取り外した後、キャビン19を取り外す。
【0060】
そして、このようにラバー64を設けると、第2ペダルアーム41とラバー64の貫通孔64aとの間に生ずる隙間を少なくすることができ、しかも、ラバー64の外周部はフロア28の上面に密着して隙間がないから、クラッチペダル37や左右のブレーキペダル38、39を踏み込んだ際にもキャビン19の気密性を保つことができる。
【0061】
なお、前述の実施形態において、第2ペダルアーム41の外周部41bはアーチ型に形成する部位41aの前後幅より広く形成するため、組み立て時に第2ペダルアーム41をペダル溝34a、34b、34cに通す際に、その外周部41bを通すことができるように、ペダル溝34a、34b、34cの前後長を余分に若干広げておく必要がある。
【0062】
しかし、飽くまでペダル溝34a、34b、34cの前後長を、第2ペダルアーム41を貫通させてペダル37、38、39を踏み込むことができる最小長さにして、第2ペダルアーム41とペダル溝34a、34b、34cとの間に生ずる前後方向の隙間を出来るだけ少なくしようとする場合は、外周部41bの前後幅をアーチ型に形成した部位41aの前後幅と同じにするか、これより縮めればよい。さらに、前述したペダルのシール構造は全てのペダルではなく、クラッチペダルのみ、或いはブレーキペダルのみに採用することができ、本発明は、前記実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0063】
1 トラクタ
2 エンジン
11 前輪
14 後輪
19 キャビン
28 フロア
37 クラッチペダル
38 左ブレーキペダル
39 右ブレーキペダル
40 第1ペダルアーム
41 第2ペダルアーム
61 シール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10