特許第6748873号(P6748873)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6748873
(24)【登録日】2020年8月13日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】マルチ移植機用カッター
(51)【国際特許分類】
   A01G 13/00 20060101AFI20200824BHJP
   B26D 1/02 20060101ALI20200824BHJP
   A01C 11/02 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
   A01G13/00 303
   B26D1/02 D
   A01C11/02 311V
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-244042(P2016-244042)
(22)【出願日】2016年12月16日
(65)【公開番号】特開2018-93828(P2018-93828A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 生吾
(74)【代理人】
【識別番号】100166659
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 和也
(72)【発明者】
【氏名】鐵見 幸一
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭56−101758(JP,U)
【文献】 特開平11−196682(JP,A)
【文献】 特開2016−169044(JP,A)
【文献】 米国特許第04513530(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 13/00
A01C 11/02
B26D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体(1)の後方に植付作業機(9)を連結し、該植付作業機(9)に走行機体(1)の植付走行に伴って繰り出され水平な圃場面を被覆するロール状のシート(13)と、該シート(13)を被覆終了位置で上方から打ち降して切断する左右方向の鋸歯状に形成された下向きの切断歯(24)を有するカッター(21)を設けたマルチ移植機カッターにおいて、上記切断歯(24)の歯先を結ぶ線を左右対称な上向きの山形の単一又は複数のカーブに形成させることにより、少なくとも上記切断歯(24)の左右両端側を含む各カーブの左右両端側における歯(25)の歯先の高さ位置に対し前記カーブの中心側に向う程中心側の歯(25)の歯先の高さ位置を順次高位置に変位させ、上記切断時に各カーブの左右両端側から中心側に向う順序で切断歯(24)による切断が行われる機構としたマルチ移植機用カッター。
【請求項2】
歯先の変位を表わすカーブが切断歯(24)の左右長内で複数のアーチを形成する請求項1に記載のマルチ移植機用カッター。
【請求項3】
切断歯(24)の歯(25)を相対的に歯高が高い大歯(25a)と歯高が低い小歯(25b)とで構成し、大歯(25a)と小歯(25b)を交互に設けるとともに大歯(25a)と小歯(25b)の歯先の変位を表わすカーブをそれぞれアーチ形に形成させた請求項1又は2に記載のマルチ移植機用カッター。
【請求項4】
切断歯(24)内で最高位置の大歯(25a)の歯先を最下位置の小歯(25b)の歯先より低位置に形成した請求項3に記載のマルチ移植機用カッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は田植機等のマルチ移植機用カッターに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に圃場面に対してマルチシートを敷設しながら苗の移植を行うマルチ移植機としては、特許文献1に示すように走行機機体に植付作業機を連結し、作業機側に左右方向のロール状のマルチシートを支持して走行に伴ってシートを繰り出しながら同時に移植を行うものが知られている。
【0003】
そして上記マルチ移植機は圃場の端部等で植付が終了した時にその位置でシートを切断するカッターを備えている。このカッターは鋸歯状に歯を形成した左右方向に長い切断歯を備えており、植付終了位置で圃場に敷設されたシート上にカッターを打ち降ろして敷設済のシートとロール側シートを切離すものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−196682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし上記特許文献1に示すような従来のカッターの切断歯の歯の並びは、作業機の幅に対応する左右長全体にわたって歯先が直線状に通直に揃えられている。このため圃場面に敷設されたシートにカッターを押し当てた際、硬い圃場や水の少ない圃場では切断歯の一部が土中に挿入されず、シートが切断されないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明のカッターは、第1に、走行機体1の後方に植付作業機9を連結し、該植付作業機9に走行機体1の植付走行に伴って繰り出され水平な圃場面を被覆するロール状のシート13と、該シート13を被覆終了位置で上方から打ち降して切断する左右方向の鋸歯状に形成された下向きの切断歯24を有するカッター21を設けたマルチ移植機カッターにおいて、上記切断歯24の歯先を結ぶ線を左右対称な上向きの山形の単一又は複数のカーブに形成させることにより、少なくとも上記切断歯24の左右両端側を含む各カーブの左右両端側における歯25の歯先の高さ位置に対し前記カーブの中心側に向う程中心側の歯25の歯先の高さ位置を順次高位置に変位させ、上記切断時に各カーブの左右両端側から中心側に向う順序で切断歯24による切断が行われる機構としたことを特徴としている。
【0007】
第2に、歯先の変位を表わすカーブが切断歯24の左右長内で複数のアーチを形成することを特徴としている。
【0008】
第3に、切断歯24の歯25を相対的に歯高が高い大歯25aと歯高が低い小歯25bとで構成し、大歯25aと小歯25bを交互に設けるとともに大歯25aと小歯25bの歯先の変位を表わすカーブをそれぞれアーチ形に形成させたことを特徴としている。
【0009】
第4に、切断歯24内で最高位置の大歯25aの歯先を最下位置の小歯25bの歯先より低位置に形成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明は以上のように構成されるので、カッターの左右両側端からの切断歯の歯先が機体中心に近付くに伴って順次高位置に変位していることにより、圃場に敷設されたシートに向ってカッターを打ち降ろした時、カッターの歯先が機体の外側の歯から内側の歯に向う順でシートに徐々に突き刺さるため、シート自体が左右両側に引き広げられながら切断される。このためすべての切断歯を同時に押し付ける場合に比して少ない抵抗でシート自体も皺を作ることなくスムース且つ確実に切断される。
【0011】
歯列の歯先を結ぶ線が複数のアーチ型に形成されることにより、カッターの左右両端以外の位置でも先行してシートに突き刺さる切断歯とこれに続いて順次突き刺さる高位置の切断歯との組合せが形成され、カッターの押し込み圧力が複数に分散されるので先行して突き刺さる切断歯に過大な荷重が掛かるのが防止され、より浅い差込深さでのシート切断が可能となる。
【0012】
切断歯が交互に配置される大歯と小歯により構成されることにより、シート切断時に先ず大歯が突き刺された後小歯が突き刺さるので、歯に対する押し込み抵抗(荷重)が大小間で分散され、過大な負荷が避けられる。また最高位置の大歯の歯先を最下位置の小歯の歯先より低くしているために、すべての大歯が突き刺された後で小歯の差込みが開始し且つ終了するので、2段階の差込切断により、差込切断の抵抗(負荷)がより確実に分散される利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のカッターを適用した移植機の全体側面図である。
図2】同じく移植機の全体平面図である。
図3】(A),(B)はカッターの正面図と背面図,(C)はカッターの部分拡大背面図である。
図4】(A),(B),(C)はそれぞれ異なる実施例におけるカッターの切断作業時の切断に必要な押し込み深さを対比した背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1図2は本発明のカッターが適用されたマルチ移植機(田植機)の全体側面図と平面図であり、走行機体1は前後輪2,3によって走行可能に支持されており、走行機体1上の前方にはエンジンを収容するボンネット4が、その後方には操縦部を構成するステアリングハンドル6とオペレーターが着席する座席シート7が配置されており、走行機体1の後方には昇降リンク8を介して植付作業機9が昇降可能に連結されている。この植付作業機9(以下単に「作業機」と称する)には上部で前傾して背面にマット苗(図示しない)を載せる苗のせ台11,その下端後方で上記マット苗を複数条に分けて順次掻き取って圃場に植付ける公知の植付部12が作業機フレーム10と一体的に取付けて設けられている。
【0015】
本発明の移植機はマルチ移植機なので、植付作業機の下端側前方にはロール状に巻かれた再生紙等からなるマルチシート(以下単に「シート」と称する)13を収容し、作業機幅に対応して走行及び植付作業に伴って該シート13を後方に繰り出す筒状のシートケース14が作業機フレームの一部を構成するように横設されている。上記植付部12による苗の植付は、圃場面に繰り出されるシート13上から行われる。
【0016】
シートケース14の下部には、繰り出されるシート13を下側から後方に案内する複数本のシートガイド16が後端を昇降揺動可能に軸支して後方に突設され、その上部には上下に揺動昇降する一対の円筒体よりなるローラーフロート(センサーフロート)17がイコライザーアーム18に軸支されて横設され、さらにその後方には、繰り出されるシート13を圃場面に押接する鎮圧ローラ19が回転自在に軸支して設置されている。該鎮圧ローラ19の後方には、植付作業の作業サイクル終了毎に当該位置でシート13を左右方向に切断するカッター21が昇降揺動可能に設けられている。
【0017】
カッター21は、作業機9の両外側に後方に突出する基端部がT字形に形成された棒状のカッターフレーム22の基端部側を揺動自在に軸支している。両カッターフレーム22の後端には、左右方向の補強プレート23(図3(A)参照)を介してプレート状の切断歯24が下向きに架設されている。上記カッターフレーム22の基端部にはカッターフレーム22を揺動操作する操作ワイヤ26のインナーワイヤが連結され、該操作ワイヤ26を牽引繰出しすることにより、後端の切断歯24を打ち降し作動させてシート13を所定位置でカットする。シート13をカットした後カッターフレーム22の後端は、基端部側と作業機フレーム10側との間に張設されたスプリング27により上昇復帰する。
【0018】
一方走行機体1上の座席シート7の後方には、山形に湾曲形成したパイプよりなるマルチフレーム28に取付けたブラケット29を介して、オペレーターにより前後揺動操作する操作レバー31が軸支され、該操作レバー31の基端部には前記操作ワイヤ26の一端が連結されている。
【0019】
上記操作レバー31を前後揺動することにより、カッター21が弾力的に揺動駆動され、前記シート13の手動によるカッティング操作が行われる。この他上記ブラケット29内には上記操作ワイヤ26を動力により牽引駆動する図示しないモーター又はソレノイド等のアクチュエーターにより操作することも可能であり、この場合はセンサー等を用いて作業機9の動作に連動させてカッター21を駆動させ、手動と自動を選択的に行うことができる。
【0020】
前記マルチフレーム28の左右両端には、ロール状の予備シート13を支持するロールホルダー32が、ロールを前向きから横向きに突出させる姿勢に水平回動可能に軸支され、ロールホルダー32はロール状シート13の一端を上下から把持して片持状に水平支持する把持爪32a,32bを備えている。この機構により、補充交換用の予備ロール(シート)13を走行機体1の左右両側に前後方向に支持させてストックし、ロール交換時は図2に示すように約90°横方向に水平回動させ、ロールケース14上に移動させてロールを取外し、ロールケース14に交換補充することができる。
【0021】
図3図5は本発明のカッター21に使用する切断歯24の実施例を示し、このうち図3図4はいずれも本発明の第1実施例を示す。この第1実施例では図示するように切断歯24の鋸歯状の歯25は、歯高及び歯幅共に異なる2種類の大歯25aと小歯25bが交互に形成されており、小歯25bと大歯25aの歯高と歯幅の寸法比は概ね2.3〜2.4程度に形成されている。
【0022】
さらにこの実施例では、それぞれの歯先を結ぶ線(以下「歯列曲線」La,Lbで表わす)が円弧状のアールで上向きの山形からなるアーチ状に形成され、図3に示すようにこの例では左右対称で同一曲率の円弧からなる2つのアーチを形成している。そしてこの例では左右両端と中央には大歯25aが揃って最下位置まで突出し、左右2個2重の歯列曲線La,Lbが形成されており、各歯列曲線La,Lbは共に同心円であるほか、切断歯24内の最高位置の大歯25aの歯先を、最下位置の小歯25bの歯先より低位置に形成している。
【0023】
即ち、圃場面に敷設されたシート13の上面GLを水平面とすると、図3(C)に示すように最高位置の大歯25a´の歯先高さHaは、最下位置の小歯25b´の歯先高さ25b´よりΔHだけ低位置にある。その結果カッター21が打ち降ろされた時、シート13の水平上面GLに対して最高位置の大歯25a´が突き刺さった後に最低位置の小歯25b´が突き刺さる設計になっている。
【0024】
また、この時切断歯24における大歯25a,小歯25bのシート13上面GLへの突き刺さりは、いずれも左右端の最外側の大歯25a,小歯25bから、順次内側(切断歯24の左右幅の中心側)に向う順序で突き刺さることになり、シート13は左右幅全体ではなく少なくとも外側から内側に向う順序で切断される。
【0025】
そして全幅同時に切断される場合に比して、シート13やその下の圃場面に凹凸があっても、全体的に歯列曲線La,Lbの各アーチの外側に向って引き広げられながら切断されるので、カッター打ち降ろし時にシート13が皺にならず、歯25a,25bの打ち込み(突き刺し)抵抗も少なくスムース且つ確実にシート切断が行われる。
【0026】
尚、図3に示す例では歯列曲線La,Lbのアーチが左右に分割されてそれぞれ2個ずつ形成されるので、各アーチの両端(即ち切断歯24の左右両端と中心位置)の3箇所の最下位置の大歯25a,小歯25bからシート13上面GLへの突き刺さりが開始され、各アーチの中央に向う順序で切断が進行する。
【0027】
図4(A)〜(C)は同一左右幅(長さ)の切断歯24において、歯25の歯型とその組合せ例及び歯列曲線の形成例を示す正面図で、図示する円弧状の歯列曲線L,La,Lbのアーチの曲率はいずれも共通するものとして示しており、符号La,Lbで示す歯列曲線は図3(B)にLa,Lbで示すアーチと同一曲率の円弧であることを意味する。
【0028】
この内、同図(A),(B)は共に歯25の歯型を前述した大歯25aのみで構成した切断歯24の第2実施例と第3実施例を示しており、同図(A)の第2実施例においては、歯列曲線Lを単一の円弧状アーチを左右対称に形成し、同図(B)の第3実施例は歯列曲線Lが左右対称に分割された状態で且つ歯列の最下点が左右両端と中央に形成された例を示している。図4(C)は同図(A),(B)と対比するために前記第1実施例の切断歯を示している。
【0029】
図4に示すように(A),(B),(C)において最下位置に突出する歯25aの歯先と最高位置に突出する歯25a又は25bの歯先との間の高さの差H〜Hは、それぞれの切断歯24でシート13のカットする際の切断開始から終了するまでに必要な圃場面への押し込み(突き刺し)深さを表わしている。そして図4(A)の歯列曲線Lが単一円弧(アーチ)の場合の高さの差Hが最も大きく、次に同図(B)に示す高さの差H,同図(C)に示す高さの差Hの順に小さくなっており、この高さの差H〜Hは同一条件下のシート13及び圃場に対する差込み抵抗の大小にも対応するが、これらのいずれを選択するかは圃場の硬さや凹凸の大小その他の条件に応じて決められる。
尚、いずれの場合も歯列曲線は厳密に曲線である必要はなく、複数の直線の組合せであってもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 走行機体
9 植付作業機
13 シート
24 カッター
24 切断歯
25 歯
25a 大歯
25b 小歯
L,La,Lb 歯列曲線
,H,H 押し込み(突き刺し)深さ
GL シート上面
図1
図2
図3
図4