特許第6749042号(P6749042)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6749042汚染物質たる宿主細胞タンパク質を含む材料からの組換えヒトα−ガラクトシダーゼAの精製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6749042
(24)【登録日】2020年8月13日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】汚染物質たる宿主細胞タンパク質を含む材料からの組換えヒトα−ガラクトシダーゼAの精製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/40 20060101AFI20200824BHJP
   C07K 1/36 20060101ALI20200824BHJP
   B01D 15/36 20060101ALI20200824BHJP
   B01D 15/32 20060101ALI20200824BHJP
   B01D 15/38 20060101ALI20200824BHJP
   B01D 15/34 20060101ALI20200824BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20200824BHJP
   A61K 38/47 20060101ALN20200824BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20200824BHJP
   A61P 13/12 20060101ALN20200824BHJP
   A61P 17/00 20060101ALN20200824BHJP
   A61P 9/00 20060101ALN20200824BHJP
   A61P 9/10 20060101ALN20200824BHJP
   A61P 9/04 20060101ALN20200824BHJP
【FI】
   C12N9/40ZNA
   C07K1/36
   B01D15/36
   B01D15/32
   B01D15/38
   B01D15/34
   C12N15/56
   !A61K38/47
   !A61P43/00 111
   !A61P13/12
   !A61P17/00
   !A61P9/00
   !A61P9/10
   !A61P9/04
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-538733(P2017-538733)
(86)(22)【出願日】2016年1月21日
(65)【公表番号】特表2018-504121(P2018-504121A)
(43)【公表日】2018年2月15日
(86)【国際出願番号】JP2016000296
(87)【国際公開番号】WO2016117341
(87)【国際公開日】20160728
【審査請求日】2019年1月15日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2015/000290
(32)【優先日】2015年1月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228545
【氏名又は名称】JCRファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104639
【弁理士】
【氏名又は名称】早坂 巧
(72)【発明者】
【氏名】福井 剛
(72)【発明者】
【氏名】川崎 敦子
(72)【発明者】
【氏名】秦野 勇吉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 八重
(72)【発明者】
【氏名】三原 和敏
(72)【発明者】
【氏名】杉村 厚
【審査官】 藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/017088(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/016873(WO,A1)
【文献】 特表2008−519010(JP,A)
【文献】 特表平10−506924(JP,A)
【文献】 国際公開第94/012628(WO,A1)
【文献】 国際公開第98/011206(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/108451(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00
C07K 1/00−19/00
B01D 15/00
A61K 38/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
Science Direct
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えヒトα-ガラクトシダーゼAの製造方法であって,
(a)無血清培地中で組換えヒトα-GalA産生哺乳類細胞を培養して組換えヒトα-GalAを培地中に分泌させるステップ,
(b)上記ステップ(a)で得られた培養物から細胞を除去することにより培養上清を回収するステップ,
(c)上記ステップ(b)で回収された培養上清を,陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに付して組換えヒトα-GalA活性画分を回収するステップ,
(d)上記ステップ(c)で回収された画分を,疎水性カラムクロマトグラフィーに付して組換えヒトα-GalA活性画分を回収するステップ,
(e)上記ステップ(d)で回収された画分を,リン酸残基に親和性を有する材料を固相として用いたカラムクロマトグラフィーに付して組換えヒトα-GalA活性画分を回収するステップ,
(f)上記ステップ(e)で回収された画分を,陽イオン交換カラムクロマトグラフィーに付して組換えヒトα-GalA活性画分を回収するステップ,
(g)上記ステップ(f)で回収された画分を,100〜150 mMの塩化ナトリウムを加えたリン酸緩衝液によってpH 6.8〜7.2で平衡化された色素親和性クロマトグラフィーカラムを用いた色素親和性カラムクロマトグラフィーに付し,400〜750 mMの塩化ナトリウム及び40〜60 mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを加えたリン酸緩衝液で溶出することにより組換えヒトα-GalA活性画分を回収するステップ,及び
(h)上記ステップ(g)で回収された画分をゲル濾過カラムクロマトグラフィーに付して組換えヒトα-GalA活性画分を回収するステップ
をこの順序で含んでなるものである,方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって,該陽イオン交換カラムクロマトグラフィーに用いられる陽イオン交換樹脂が弱陽イオン交換樹脂である,方法。
【請求項3】
請求項2の方法であって,該弱陽イオン交換樹脂が疎水性相互作用と水素結合形成との双方に基づく選択性を有するものである,方法。
【請求項4】
請求項2又は3の方法であって,該弱陽イオン交換樹脂が,フェニル基,アミド結合及びカルボキシル基を有するものである,方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかの方法であって,色素親和性クロマトグラフィーにおいて用いられる色素がブルートリアジン色素である,方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかの方法であって,リン酸残基に親和性を有する材料がハイドロキシアパタイト及びフルオロアパタイトからなる群より選ばれるものである,方法。
【請求項7】
請求項6の方法であって,リン酸残基に親和性を有する材料がハイドロキシアパタイトである,方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかの方法であって,該哺乳類細胞が,EF−1(α)プロモーターの制御下に組換えヒトα-GalAを発現するように設計された発現ベクターでトランスフェクトされたCHO細胞である,方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,一般的には,宿主細胞を用いたヒトα−ガラクトシダーゼA(rh α-GalA)の製造方法,及びそれにより製造されたrh α-GalAを,汚染物質たる宿主細胞タンパク質を含んだ材料から精製する方法に関する。より具体的には,本発明は,rh α-GalA産生哺乳類細胞を無血清培地中で培養することによるrh α-GalAの製造方法に,並びにこうして製造されたrh α-GalAを培養上清から,色素アフィニティーカラムクロマトグラフィーを含むカラムクロマトグラフィーを用いて,高収率で,且つ精製済タンパク質が医薬品として直接に使用可能である高純度にまで,精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−ガラクトシダーゼA(α-GalA)は,糖脂質及び糖タンパク質の末端α−ガラクトシル結合を加水分解する活性を有するライソソーム酵素である。トリヘキソシルセラミドは,3個のヘキソース部分を含んでおり,α−ガラクトシダーゼAの基質の1つであり,当該酵素により末端ヘキソース部分で加水分解を受ける。ヒトα−ガラクトシダーゼAは429個のアミノ酸を含んでなる前駆体ペプチドとして発現され,そのうちN−末端の31個のアミノ酸はシグナルペプチドを構成する。この前駆体はプロセシングされて成熟ペプチドとなり,これは,シグナルペプチドの除去後に残された398個のアミノ酸からなり,そして一対の成熟ペプチド分子は,条件が許せばいつでも容易にホモ二量体を形成し,これがヒトα−ガラクトシダーゼAの酵素としての活性型である。ヒトのα-GalAは,マンノース−6−リン酸残基を含んだオリゴ糖鎖を有しており,マンノース−6−リン酸受容体を介してライソソームへと標的化させることができる。
【0003】
ファブリー病はX連鎖性の遺伝的ライソソーム病の1つであり,α-GalAをコードする遺伝子の異常を遺伝的に受け継ぐことによって引き起こされる。この酵素の活性欠如は種々の組織においてトリヘキソシルセラミドの蓄積を引き起こし,腎不全,血管皮膚病変,及び心室肥大や僧帽弁不全を含む心血管異常をもたらす。
【0004】
1960年代には既に,ファブリー病患者の組織中においてα−ガラクトシダーゼAの酵素活性が,殆ど又は僅かにしか検出されないことが報告されていた。このため,α-GalAをコードする遺伝子の何らかの遺伝的異常がファブリー病の原因であろうと推測されていた。この推測に基づいて,ヒト血漿又は脾臓から抽出又は精製したα-GalAを患者に注入することによる,ファブリー病のα-GalA補充療法が行われ,その結果,α-GalA補充療法によってファブリー病患者の血中のトリヘキソシルセラミドのレベルを低下させ得ることが確認された(非特許文献1〜3を参照のこと)。従って,α-GalA酵素補充療法は,ファブリー病に対して有望に違いないと考えられていた。しかしながら,実際のα-GalA補充療法の適用は,この酵素の供給欠如のため,極度に限定されていた。
【0005】
1986年に,ヒトα-GalAをコードする遺伝子が単離され(非特許文献4を参照のこと),更に1988年にはヒトα-GalA発現ベクターで形質転換したCHO細胞を用いてrh α-GalAを発現させ産生させるための方法が報告された(非特許文献5を参照のこと)。これらの発見は,組換え技術を利用してヒトα-GalAを大規模に製造しファブリー病の治療のための酵素補充療法に医薬として使用することを可能にした。rh α-GalAはまた,昆虫細胞中においても発現された(特許文献1)。
【0006】
更に,疎水性カラムクロマトグラフィー,ヘパリンセファロースカラムクロマトグラフィー,ヒドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー,陰イオン交換カラムクロマトグラフィー,及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーの使用を含むrh α-GalAの精製方法が幾つか報告された(特許文献2,特許文献3)。特許文献2又は特許文献3に記載された精製方法によって得られるrh α-GalAの純度は十分に高いことが示されたが,ヒトへの使用には完全には受け入れられないものと考えられていた。その理由は,患者に注入される如何なる医薬も,汚染物,特に例えば,使用した宿主細胞由来のタンパク質のような汚染物を含まないことが要求される一方で,特許文献2及び特許文献3は,精製されたrh α-GalAにそのような汚染物質が残っているか否かを示せていないからである。更には,陰イオン交換カラムクロマトグラフィー,疎水性カラムクロマトグラフィー,リン酸残基に対する親和性を有する材料を固相として用いたカラムクロマトグラフィー,陽イオン交換カラムクロマトグラフィー,及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーをこの順で用いたrh α-GalAの精製方法が報告されている(特許文献4)。しかしながら,これらの特許文献は,宿主細胞タンパク質によるrh α-GalAの汚染について何も述べていない。
【0007】
現在,活性成分としてrh α-GalAを含有するファブリー病のための医薬品が,ReplagelTM及びFabrazymeTM等の名で市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO 90/011353
【特許文献2】WO 98/011206
【特許文献3】WO 00/053730
【特許文献4】WO 14/017088
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Mapes et al: Science 169: 987-9 (1970)
【非特許文献2】Brady et al: N. Engl. J. Med. 289: 9-14 (1973)
【非特許文献3】Desnick et al: Proc Natl Acad Sci USA 76: 5326-30 (1979).
【非特許文献4】Bishop et al: Proc Natl Acad Sci USA 83: 4859-63 (1986)
【非特許文献5】Bishop et al: Lipid Storage Disorders - Biological and Medical Aspects, NY Plenum Press P809-823 (1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記背景の下で,本発明の一目的は,無血清培地中でのrh α-GalA産生哺乳類細胞の培養から開始して,組換えヒトα−ガラクトシダーゼA(rh α-GalA)を製造し精製するための方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の一目的は,汚染物である宿主細胞タンパク質を含んだ培養上清から,色素親和性カラムクロマトグラフィーを含むカラムクロマトグラフィーにより,rh α-GalAを,高収率で,且つ精製されたタンパク質を医薬として直接に用いることができるような高い純度で,精製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは,無血清培地中におけるrh α-GalA産生細胞の培養物の上清中に含まれるrh α-GalAが,陰イオン交換カラムクロマトグラフィー,疎水性カラムクロマトグラフィー,リン酸残基に親和性を有するカラムを用いたクロマトグラフィー,陽イオン交換カラムクロマトグラフィー,色素親和性カラムクロマトグラフィー,及びゲル濾過クロマトグラフィーを含む精製工程に当該rh α-GalAを付すことによって,宿主細胞タンパク質を含んだ上清から,非常に高い純度で,且つ非常に高い収率で,精製できることを見出した。本発明は,この発見に基づく更なる研究を通じて完成されたものである。
【0013】
即ち本発明は,次のものを提供する。
1.組換えヒトα-ガラクトシダーゼAの製造方法であって,
(a)無血清培地中で組換えヒトα-GalA産生哺乳類細胞を培養して組換えヒトα-GalAを培地中に分泌させるステップ,
(b)上記ステップ(a)で得られた培養物から細胞を除去することにより培養上清を回収するステップ,
(c)上記ステップ(b)で回収された培養上清を,陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに付して組換えヒトα-GalA活性画分を回収するステップ,
(d)上記ステップ(c)で回収された画分を,疎水性カラムクロマトグラフィーに付して組換えヒトα-GalA活性画分を回収するステップ,
(e)上記ステップ(d)で回収された画分を,リン酸残基に親和性を有する材料を固相として用いたカラムクロマトグラフィーに付して組換えヒトα-GalA活性画分を回収するステップ,
(f)上記ステップ(e)で回収された画分を,陽イオン交換カラムクロマトグラフィーに付して組換えヒトα-GalA活性画分を回収するステップ,
(g)上記ステップ(f)で回収された画分を,色素親和性カラムクロマトグラフィーに付して組換えヒトα-GalA活性画分を回収するステップ,及び
(h)上記ステップ(g)で回収された画分をゲル濾過カラムクロマトグラフィーに付して組換えヒトα-GalA活性画分を回収するステップ
をこの順序で含んでなるものである,方法。
2.前記1の方法であって,該陽イオン交換カラムクロマトグラフィーに用いられる陽イオン交換樹脂が弱陽イオン交換樹脂である,方法。
3.前記2の方法であって,該弱陽イオン交換樹脂が疎水性相互作用と水素結合形成との双方に基づく選択性を有するものである,方法。
4.前記2又は3の方法であって,該弱陽イオン交換樹脂が,フェニル基,アミド結合及びカルボキシル基を有するものである,方法。
5.前記1〜4の何れかの方法であって,色素親和性クロマトグラフィーにおいて用いられる色素がブルートリアジン色素である,方法。
6.前記1〜5の何れかの方法であって,リン酸残基に親和性を有する材料がハイドロキシアパタイト及びフルオロアパタイトからなる群より選ばれるものである,方法。
7.上記6の方法であって,リン酸残基に親和性を有する材料がハイドロキシアパタイトである,方法。
8.前記1〜7の何れかの方法であって,該哺乳類細胞が,EF−1(α)プロモーターの制御下に組換えヒトα-GalAを発現するように設計された発現ベクターでトランスフェクトされたCHO細胞である,方法。
9.上記1〜8の何れかの方法により製造される組換えヒトα-GalA組成物。
10.前記9の組成物を含んでなる,患者に定期的に投与される医薬。
11.前記10の医薬であって,注射により患者に投与されるものである医薬。
【発明の効果】
【0014】
本発明は,汚染物である宿主細胞タンパク質を含んだ材料からのrh α-GalAの精製を可能にする。こうして精製された組換えヒトα-GalAは,ファブリー病の酵素補充療法(ERT)において医薬として使用するのに適している。この療法においては,rh α-GalAはファブリー病の患者に定期的に投与されなければならない。従って,もしα-GalA医薬が宿主細胞タンパク質を含んでいると,その医薬を用いたERTには,患者に重篤な抗原抗体反応(即ち,アナフィラキシー)を誘発するという潜在的なリスクがあり得る。そのようなリスクは,本発明により精製されるrh α-GalAを医薬として用いることにより,最小限にすることができる。また,本発明は,細胞の無血清培養から開始してrh α-GalAを製造することを可能にしたことから,ウイルスやプリオンのような病原因子等の如何なる血清由来の汚染物も含まないrh α-GalAを提供する。従って,本発明により得られるrh α-GalAは,そのよう病原因子に曝露する如何なるリスクも実質的に伴わない安全な医薬として人体に投与することができる。更には,本発明は,如何なる有機溶媒の使用も実質的に回避しつつrh α-GalAの精製を可能にしたことから,そうでなければ使用した有機溶媒への曝露によって引き起こされ得るrh α-GalAの変性のリスクを,本発明は取り除く。尚も更には,本発明による精製工程を行った後に残された廃液が有機溶媒を含有しないことから,本発明は,環境に好適であり,また,さもなければ排液に含まれることとなっていた有機溶媒を処理するための施設を,本発明は必要としないから,経済的意味においても好適である。
【0015】
更には,本発明は,オリゴ糖鎖中にマンノース−6−リン酸残基を有するrh α-GalAの高度に選択的な精製を可能にする。人体に投与された後にその酵素活性を発揮するためには,rh α-GalAは関係する細胞に,その表面上に発現されているマンノース−6−受容体を介して取り込まれなければならない。従って,本発明により達成される高度に選択的な精製は,劇的に増大した有効性を有する医薬としてrh α-GalAを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は,ベクターpE-neo/hGHpAを構築するための方法を図解した模式図を示す。
図2-1】図2−1は,ベクターpE-neo/hGHpA(α-GalA)を構築するための方法を図解した模式図の第1の部分を示す。
図2-2】図2−2は,ベクターpE-neo/hGHpA(α-GalA)を構築するための方法を図解した模式図の第2の部分を示す。
図3図3は,rh α-GalAの発現用の組換え細胞の増殖曲線及び培地中のrh α-GalAの濃度を示す。
図4図4は,精製された組換えrh α-GalAのSDA-PAGE電気泳動結果を示す。レーン1では,5μgの精製されたrh α-GalAが適用された。
図5図5は,精製されたrh α-GalAのSE-HPLCチャートを示す。縦軸及び横軸は,215nmでの吸光度及び保持時間を,それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明においては,組換えヒトα-ガラクトシダーゼA(rh α-GalA)は好ましくは,ヒトの野生型のα-GalAの組換えタンパク質であるが,rh α-GalAが,ヒトの野生型α-GalAの配列と比べて,1個又は2個以上のアミノ酸の,1個又は2個所以上の置換,欠失,付加及び/又は挿入を有する変異型のタンパク質であることを排除はしない。ヒトの野生型α-GalAのDNA配列及びそれによってコードされるアミノ酸配列が,N末端シグナル配列を含んで,配列番号13及び配列番号14に,それぞれ示されている。このN末端シグナル配列は,31個のアミノ酸からなり,翻訳後に除去される。
【0018】
本発明において,「組換えヒトα-GalA産生哺乳類細胞」又は「rh α-GalA産生哺乳類細胞」の語は,ヒトのα-GalAをコードする遺伝子を発現するように,又は強く発現するように人工的に操作された哺乳動物細胞を意味する。一般には,そのような強く発現される遺伝子は,当該遺伝子が組み込まれた発現ベクターを用いて哺乳類細胞に導入(形質転換)される遺伝子であるが,強く発現されるように人工的に改変された固有の遺伝子であってもよい。強く発現するように遺伝子を人工的に改変する手段の例としては,固有の遺伝子の上流のプロモーターを当該遺伝子の発現を強く誘導するプロモーターで置換することが挙げられるが,これに限定されない。そのような方法は数種の文献に開示されている(即ち,WO94/12650,WO95/31560)。哺乳類細胞としてどれを用いるかについて特に限定なはいが,好ましいのはヒト,マウス,又はチャイニーズハムスター由来のものであり,それらのうちでも,CHO細胞が特に好ましく,これはチャイニーズハムスター卵巣細胞由来である。
【0019】
本発明において,「組換えヒトα−ガラクトシダーゼA」又は「rh α-GalA」の語は,上述の組換えヒトα-GalA産生哺乳類細胞によって培養中に培地に分泌されるヒトα-GalAを意味する。
【0020】
本発明において,「オリゴ糖鎖」の語は,α-GalAのペプチド鎖に共有結合で結合しているオリゴ糖の鎖を意味しており,アスパラギン型の糖鎖を包含し,これはα-GalAのアスパラギン残基に共有結合で結合している。
【0021】
本発明において,rh α-GalA産生哺乳類細胞が培養される好ましい血清不含培地の一例として,3〜700 mg/mL のアミノ酸,0.001〜50 mg/L のビタミン類,0.3〜10 g/Lの単糖類,0.1〜10000 mg/L の無機塩類,0.001〜0.1 mg/L の微量元素,0.1〜50 mg/L のヌクレオシド類,0.001〜10 mg/L の脂肪酸,0.01〜1 mg/L のビオチン, 0.1〜20 μg/L のハイドロコーチゾン,0.1〜20 mg/L のインスリン,0.0〜10 mg/L のビタミンB12, 0.01〜1 mg/Lのプトレシン,10〜500 mg/L のピルビン酸ナトリウム,及び水溶性鉄化合物を含んでなる培地が挙げられる。所望により,チミジン,ヒポキサンチン,慣用のpH指示薬,及び抗生物質も加えてよい。
【0022】
更に,DMEM/F12培地,即ちDMEMとF12とからなる混合培地も,基本的な無血清培地として用いてよい。これらの培地は両方とも当業者に周知である。無血清培地としては,DMEM(HG)HAM改良(R5)培地もまた使用でき,これは炭酸水素ナトリウム,L-グルタミン, D-グルコース,インスリン,亜セレン酸ナトリウム,ジアミノブタン,ハイドロコーチゾン,硫酸鉄(II),アスパラギン,アスパラギン酸,セリン,及びポリビニルアルコールを含む。尚も更には,市販の無血清培地も基本培地として使用でき,例えば,CDoptiCHOTM, CHO-S-SFM II 又は CD CHO (Invitrogen), IS CHO-VTM 又は IS CHO-V-GSTM (Irvine Scientific), EX-CELLTM 325 PF CHO or EX-CELLTM CD (SIGMA)等が挙げられる。
【0023】
本発明において,rh α-GalA産生哺乳類細胞は,rh α-GalAの産生のために培地中で少なくとも5日間,より好ましくは8〜14日間培養される。次いでrh α-GalAを含む培養上清が回収されrh α-GalAの精製のための方法に供される。
【0024】
汚染物である宿主細胞タンパク質を含んだ培養上清からrh α-GalAを精製するためのクロマトグラフィー手順の各々は,必要なら,当該タンパク質の非特異的結合を防止するために非イオン性界面活性剤の存在下に行うことができる。どの非イオン性界面活性剤を用いるかにつき特段の限定はないが,ポリソルベート系界面活性剤が好ましく用いられ,より好ましくはポリソルベート80又はポリソルベート20が用いられる。そのような非イオン性界面活性剤の濃度は,好ましくは0.005% (w/v)〜0.05% (w/v),より好ましくは約0.01% (w/v)である。
【0025】
rh α-GalAの精製のための方法は,室温でも又はより低温でも行うことができるが,好ましくはより低温,特に1〜10℃で行うことができる。
【0026】
精製方法の第1のクロマトグラフィーステップにおいて,培養上清のpHは,好ましくは7.0〜8.0,より好ましくは7.2〜7.8,更に好ましくは約pH7.5に調整される。この培養上清は,rh α-GalAをカラムに結合させるために塩類を補充したリン酸緩衝液で平衡化された陰イオン交換カラムに適用される。このリン酸緩衝液のpHは好ましくは7.0〜8.0,より好ましくは7.2〜7.8,尚もより好ましくは約7.5である。リン酸緩衝液にどの塩類を加えるについて特段の限定はないが,塩化ナトリウム及び塩化カリウムが好ましい。塩化ナトリウムが用いられる場合,その濃度は好ましくは5〜100mMの範囲,より好ましくは10〜60mMの範囲,尚もより好ましくは約50mMである。
【0027】
rh α-GalAの結合した陰イオン交換カラムを洗浄後,rh α-GalAは,塩類濃度を高めたリン酸緩衝液を用いて溶出される。どの塩類を用いるかについて特段の制限はないが,塩化ナトリウム及び塩化カリウムが好ましい。塩化ナトリウムを用いる場合,その濃度は好ましくは125〜500mMの範囲,より好ましくは175〜350mMの範囲,尚もより好ましくは約225mMである。
【0028】
更には,どの陰イオン交換樹脂を用いるかについて特段の限定はないが,市販のQ Sepharose Fast Flow (GE Healthcare)等のような強陰イオン交換樹脂が好ましく使用できる。
【0029】
疎水性カラムクロマトグラフィーは,精製方法の第2ステップであり,rh α-GalAと当該樹脂に取り付けられた疎水性リガンドとの間の疎水性相互作用を利用して汚染物を除去するためのステップである。疎水性カラムクロマトグラフィーにおいてどの疎水性リガンドを用いるかについて特段の制限はないが,好ましくはフェニル基を有するリガンドであり,より好ましくはスペーサーアームを介して樹脂に取り付けられたフェニル基を含むリガンドであり,例えば,式R−O−CH−CH(OH)−CH−O−C(ここに,Rは樹脂を表す)で示される。このための特に好ましいカラム材料は,Phenyl Sepharose 6 Fast Flow(GE Healthcare)であり,これにおいてフェニル基は,スペーサーアームを介してSepharose 6 Fast Flowマトリックスに共有結合で固定化されている。
【0030】
疎水性カラムクロマトグラフィーのカラムは,塩類を補充したリン酸緩衝液で平衡化される。このリン酸緩衝液のpHは,好ましくは6.5〜7.5,より好ましくは約6.7〜7.3,尚もより好ましくは約7.0である。このリン酸緩衝液にどの塩類を加えるかについて特段の限定はないが,塩化ナトリウム及び塩化カリウムが好ましい。塩化ナトリウムが用いられる場合,その濃度は好ましくは500mM〜1Mの範囲,より好ましくは700〜800mMの範囲,尚もより好ましくは約750mMである。リン酸緩衝液には,同時に,トリス緩衝液も,好ましくは30〜70mM,より好ましくは約50mMの濃度で加えることができる。
【0031】
第1のステップで得られた溶出液のrh α-GalA含有画分が,次いで,このカラムに適用される。rh α-GalAの結合したカラムは,洗浄後,rh α-GalAが溶出される。溶出は,塩類を補充していないリン酸緩衝液によって行うことができ,ここでの塩類非補充のリン酸緩衝液の濃度は,好ましくは3〜10mM,より好ましくは約5mMである。リン酸緩衝液には,同時に,トリス緩衝液も,好ましくは30〜70mM,より好ましくは約50mMの濃度で加えてよい。代わりとして,溶出は,純水で行うこともできる。
【0032】
リン酸残基に親和性を有する固相を用いたカラムクロマトグラフィーは,精製の第3ステップであり,カルボキシルペプチダーゼ等のような汚染物タンパク質を除去するためのステップである。リン酸残基に親和性を有する固相としてどれを用いるかについて特段の制限はないが,ハイドロキシアパタイト及びフルオロアパタイトを好ましく用いることができ,ヒドロキシアパタイトが特に好ましい。
【0033】
ハイドロキシアパタイトカラムを用いる場合,それは塩類を補充したリン酸緩衝液で平衡化される。このリン酸緩衝液のpHは,好ましくは6.5〜7.5,より好ましくは約6.8〜約7.2,尚もより好ましくは約7.0であり,リン酸塩の濃度は,好ましくは3.0〜20mM,より好ましくは約3〜15mM,更に好ましくは約10mMである。このリン酸緩衝液にどの塩類を加えるかについて制限はないが,塩化ナトリウム,及び塩化カリウムが好ましい。塩化ナトリウムを用いる場合において,その濃度は,好ましくは800mM未満であり,より好ましくは10〜200mMの範囲であり,特に好ましくは約50mMである。同時に,リン酸緩衝液には,トリス緩衝液を,好ましくは30〜70mM,より好ましくは約50mMの濃度で加えてもよい。
【0034】
次いで,第2ステップで得られた溶出液のrh α-GalA含有画分が,カラムに加えられる。rh α-GalAの結合したカラムを洗浄後,rh α-GalAは溶出される。溶出は,塩類を含んだリン酸緩衝液によって行われる。このリン酸緩衝液のpHは,好ましくは6.5〜7.5,より好ましくは約6.7〜7.3,尚もより好ましくは約7.0であり,リン酸塩の濃度は,好ましくは30〜80mMの範囲,より好ましくは40〜60mMの範囲,尚もより好ましくは約45mMである。どの塩類を用いるかについて特段の限定はないが,塩化ナトリウム及び塩化カリウムが好ましい。塩化ナトリウムが用いられる場合,その濃度は,好ましくは300mM未満,より好ましくは10〜200mMの範囲,尚もより好ましくは約50mMである。
【0035】
陽イオン交換カラムクロマトグラフィーは,精製方法の第4ステップであり,汚染物タンパク質を除去するステップである。この陽イオン交換カラムクロマトグラフィーにおいてどの陽イオン交換樹脂を用いるかについて特段の限定はないが,弱陽イオン交換樹脂が好ましく,より好ましいのは,疎水性相互作用と水素結合形成の双方に基づく選択性を有する陽イオン交換樹脂である。例えば,フェニル基,アミド結合及びカルボキシル基を有し且つ疎水性相互作用と水素結合形成の双方に基づく選択性を有する弱陽イオン交換樹脂,例えばCapto MMC (GE Healthcare)等を用いることができる。
【0036】
この陽イオン交換カラムクロマトグラフィーにおいて,カラムは,塩類を補充した酢酸緩衝液によって平衡化される。この酢酸緩衝液のpHは,好ましくは4.5〜6.5,より好ましくは約5.0〜6.0,尚も更に好ましくは約5.5である。この緩衝液にどの塩類を加えるかについて特段の制限はないが,塩化ナトリウム,塩化カリウム及び塩化カルシウムが好ましい。塩化ナトリウムが用いられる場合,その濃度は好ましくは50〜250mMの範囲,より好ましくは100〜200mMの範囲,尚もより好ましくは約150mMである。
【0037】
次いで,第3ステップで得られた溶出液のrh α-GalA含有画分が,カラムに適用される。rh α-GalAの結合したカラムを洗浄後,rh α-GalAが,高めたpH,好ましくは約5.5〜7.5の範囲,より好ましくは約6.0〜7.0の範囲,尚もより好ましくは約6・5のリン酸緩衝液を用いて溶出される。
【0038】
色素親和性クロマトグラフィーは,精製の第5ステップであり,諸々の汚染物,例えば宿主細胞タンパク質(HCP)を除去するステップである。ブルートリアジン色素が好ましく用いられるが,他のトリアジン色素も使用できる。特に好ましいのは,次の概略式で示されるBlue Sepharose 6 FF, Fast Flow (GE Healthcare)であり,これは色素CibacronTM Blue F3GAが共有結合で取り付けられたSepharose 6 FF, Fast Flowマトリックスからなる。
【0039】
【化1】
【0040】
色素親和性クロマトグラフィーカラムは,塩類を補充したリン酸緩衝液によって中性pH付近,好ましくはpH6.8〜7.2,より好ましくは約pH7.0で平衡化される。どの塩類をリン酸緩衝液に加えるかについて特段の制限はないが,塩化ナトリウム及び塩化カリウムが好ましい。塩化ナトリウムが用いられる場合,その濃度は,好ましくは,50〜150mMの範囲内,より好ましくは100〜150mMの範囲内であり,尚もより好ましくは約125mMである。
【0041】
次いで,第4ステップで得られた溶出液の画分がカラムに適用される。rh α-GalAの結合したカラムを洗浄後,塩類濃度を高めたリン酸緩衝液を用いてrh α-GalAが溶出される。どの塩類をリン酸緩衝液に加えるかについて特段の制限はないが,塩化ナトリウム及び塩化カリウムが好ましい。塩化ナトリウムが用いられる場合,その濃度は,好ましくは400〜750mMの範囲,より好ましくは400〜500mMの範囲,尚もより好ましくは約450mMである。トロメタモール〔トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン〕を,同時に緩衝液に,好ましくは40〜60mM,より好ましくは約50mMの濃度で加えることができる。
【0042】
ゲル濾過カラムクロマトグラフィーは,精製方法の第6ステップであり,低分子量の汚染物,例えばエンドトキシン,並びにrh α-GalAの多量化複合体又は分解産物を除去するためのステップである。こうして,精製方法の第1〜第6のステップによって,実質的に純粋なrh α-GalAが得られる。
【0043】
加えて,1種又は2種以上のカラムクロマトグラフィーを,陰イオン交換カラムクロマトグラフィー,色素親和性カラムクロマトグラフィー,疎水性カラムクロマトグラフィー,リン酸残基に親和性を有する固相を用いたカラムクロマトグラフィー,陽イオン交換カラムクロマトグラフィー,及びゲル濾過を含む上記精製方法に組み込んでもよい。そのような追加のカラムクロマトグラフィーは,好ましくは色素親和性カラムクロマトグラフィーであり,これは本発明の精製工程の隣接する2つのステップの間で用いてよい。
【0044】
ウイルス不活化のためのステップを所望により本発明の精製方法に加えてもよい。ウイルス不活化のためのどのようなステップを適用するかについて特段の制限はないが,溶媒−界面活性剤法が好ましく適用できる。このためには,rh α-GalAを含有する溶液に非イオン性界面活性剤が加えられ,次いで得られた混合物が3時間以上インキュベートされる。どの界面活性剤を用いるかについて特段の制限はないが,ポリソルベート20,ポリソルベート80,トリトンX−100,及びリン酸トリ(n−ブチル)を,単独で又は任意の組合せで,好ましく用いることができ,より好ましくは,ポリソルベート80とリン酸トリ(n−ブチル)との組合せを用いることができる。
【0045】
ウイルス不活化のためのそのような追加のステップは,精製方法に先立って,又は上述の精製方法の任意の隣接ステップ間で,用いることができる。
【0046】
更に,本発明は,汚染物である宿主細胞タンパク質を含んだ材料からのrh α-GalAの精製方法も提供する。当該方法は,rh α-GalAとrh α-GalAの産生に用いた宿主細胞に固有のタンパク質とを含んだ溶液を,色素親和性カラムクロマトグラフィーに付すステップを含む。このステップの主たる目的は,汚染物質である宿主細胞のタンパク質を除去することである。このステップは,他の精製ステップ,即ち,陽イオン交換カラムクロマトグラフィー,疎水性カラムクロマトグラフィー,陰イオン交換カラムクロマトグラフィー,リン酸残基に親和性を有する固相を用いたカラムクロマトグラフィー(即ち,ハイドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー),及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーから選ばれるステップと,任意の順序で組み合わせることができる。好ましくは,この組合せは,陰イオン交換カラムクロマトグラフィー,疎水性カラムクロマトグラフィー,リン酸残基に親和性を有する固相を用いたカラムクロマトグラフィー,陽イオン交換カラムクロマトグラフィー,色素親和性カラムクロマトグラフィー,及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーで,この順である。
【0047】
本発明の方法により製造される組換えヒトα-GalA組成物は,患者に定期的に投与される医薬製剤の調製のために使用するのに適している。この医薬は患者に,好ましくは静脈注射で,より好ましくは静脈内注入で投与され,そして患者に,好ましくは週1回から2〜4週毎に1回,より好ましくは2週間に1回投与される。患者への1回の投与におけるrh α-GalAの量は,好ましくは0.1〜2mg/kg体重である。この医薬は,充填済みシリンジの形態で共有してよい。
【0048】
以下,実施例を参照して本発明を更に詳細に説明する。しかしながら,本発明がそれらの実施例に限定されることは意図しない。
【実施例1】
【0049】
rh α-GalA発現ベクターpE-gs/hGHpA(α-GalA)の構築
pEF/myc/nuc ベクター(Invitrogen)をKpnI及びNcoIで消化してEF-1(α)プロモーターとその第1イントロンとを含んだ断片を切り出し,これをT4 DNAポリメラーゼで平滑末端化した。こうして調製されたDNA断片を,BglIIとEcoRIで消化し次いでT4 DNAポリメラーゼ平滑末端化しておいたpC1-neoベクター(Invitrogen)に挿入した。これに,上述のEF-1(α)プロモーター及びその第1イントロンを含んだ平滑末端化断片を挿入し,pE-neo7ベクターを得た(図1)。
【0050】
ヒト成長ホルモン遺伝子のポリアデニル化シグナル配列を含んだDNA断片を,次の4つの合成オリゴヌクレオチドをアニーリングすることによって合成した:(a) hGH-f1(配列番号1),(b) hGH-r1(配列番号2),(c) hGH-f2(配列番号3),及び (d) hGH-r2(配列番号4)。こうして調製されたDNA断片をpE-neo7のMluI及びKpnI部位に挿入して,pE-neo/hGHpAベクター(図1)を得た。
【0051】
チャイニーズハムスターのグルタミン合成酵素(「Ch GS」又は「GS」)のコード領域の5’側半分を,PCRにより,プライマーセットとしてGS-1(配列番号5)及びGS-3(配列番号6)を,そして鋳型としてCHO細胞から抽出されたRNAから調製した一本鎖DNAを用いて,増幅した。Ch GSのコード領域の3’側半分を,PCRにより,プライマーセットとしてGS-2(配列番号7)及びGS-4(配列番号8)を,そして鋳型としてCHO細胞から抽出されたRNAから調製した一本鎖DNAを用いて,増幅した。増幅したCh GSコード領域の5’側半分を,pT7blue-Tベクター(EMD Millipore)にライゲーションした。こうして得られたベクターをEcoRV及びBamHで消化し,次いで,消化されたベクターに,増幅されたCh GSコード領域の3’側半分をEcoRV及びBamHIで消化後に挿入して,Ch-Gsの全長cDNAを含んだプラスミドベクターを得た。このプラスミドをpT7blue(GS)と命名した(図2−1)。
【0052】
ヒトα-GalAコード領域の5’側半分を,PCRで,プライマーセットとしてGAL-Mlu(配列番号9)及びGAL-Sca2(配列番号10)を,また鋳型としてヒト胎盤Quick-CloneTM cDNA(Clontech)を用いて,増幅した。ヒトα-GalAコード領域の3’側半分を,PCRにより,プライマーセットとしてGAL-Sca1(配列番号11)及びGAL-Xba(配列番号12)を,また鋳型としてヒト胎盤Quick-CloneTM cDNA (Clontech)を用いて増幅した。次いで,両PCR産物をpBluescriptSK(+) ベクターのEcoRV部位にライゲーションした。こうして得られたベクターから,MluI及びScaI消化によりヒトα-GalAコード領域の5’側半分を切り出し,またScaI及びNotIで消化することによりベクターからヒトα-GalAコード領域の3’側半分を切り出した。次いで,切り出したこれら断片を,pE-neoベクターのマルチクローニングサイトのMluI及びNotI部位に同時に挿入して,ヒトα-GalAの全長cDNAを得た。こうして得られたプラスミドを,pE-neo(α-GalA)と命名した(図2−2)。
【0053】
pE-neo/hGHpAをAfIII及びBstXIで消化し,こうして消化されたベクターに,pT7blue(GS)からAfIII及びBstXIによる消化で切り出しておいたCh-GS cDNAを挿入した。得られたプラスミドをpE-gs/hGHpAと命名した(図2−1)。pE-gs/hGHpAベクターをMluI及びNotIで消化し,この消化されたベクターに,pE-neo(α-GalA)からMluI及びNotIにより切り出しておいたヒトα-GalA DNAを挿入した。得られたこのプラスミドをpE-gs/hGHpA(α-GalA)と命名し,これをrh α-GalA発現ベクターとして更なる実験に用いた(図2−2)。
【実施例2】
【0054】
rh α-GalAの発現用の組換え細胞の製造
CHO細胞(CHO-K1:アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションより入手)を,次の方法により,LipofectamineTM 2000 (Invitrogen)を用いて上述の発現ベクターpE-gs/hGHpA(α-GalA)で,トランスフェクトした。概略するに,トランスフェクションの2日前に,5%FCSを含有するD-MEM/F12培地FCS (D-MEM/F12/5%FCS) 3mLを含んだ3.5cmの培養皿に2.5×105 個のCHO-K1細胞を播種し,細胞を5%CO及び95%空気からなる湿潤雰囲気下37℃で培養した。2日間の培養の後,細胞をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄し,新鮮な血清不含D-MEM/F12培地1mLを加えた。次いで,細胞を,Opti-MEMTM I培地(Life Technologies)で20倍稀釈したLipofectamine%TM 2000溶液とOpti-MEMTM I培地で20μg/mLに希釈したpE-gs/hGHpA(α-GalA)溶液との1:1混合液の200μLを添加してトランスフェクトし,続いて,5%CO及び95%空気の加湿雰囲気下に37℃で5時間培養した。トランスフェクション後,培地をD-MEM/F12/5%FCSに交換し,更に24時間培養した。
【0055】
次いで,培地を,1×GSサプリメント(SIGMA),10%透析FBS及び30μmol/Lのメチオニンスルホキシミン(MSX)を補充したグルタミン不含GMEM-S培地(SIGMA)に交換し,5%CO及び95%空気の湿潤雰囲気下で選択培養を行った。選択培養用の培地中で増殖した細胞を当該培地中で数回の連続した継代培養に付し,組換え細胞を得た。挿入された組換え遺伝子を増幅させるために,選択培養の過程で,培地中のMSXの濃度が段階的に高められた。高めたMSX濃度(100及び300μmol/L MSX)での2ステップの継代培養の後,最終的に,300μmol/L MSXを含む培地中において安定して増殖する細胞が得られた。
【0056】
次いで,限界稀釈法により,増幅された組換え遺伝子を有する細胞を,96ウェルプレートに,ウェルあたり1個以下の細胞となるように播種した。細胞を,次いで,約10日間培養してそれらの各々にモノクローナルコロニーを形成させた。モノクローナルコロニーが形成されたウェルの培養上清を各々サンプリングしてヒトα-GalA活性を下記のようにして調べ,ヒトα-GalAについて高活性を発現していることの判明した細胞株を選択した。
【0057】
無血清懸濁細胞培養への順化のために,選択された細胞株をそれぞれ,10 mg/Lのインスリン,40 mg/Lのチミジン,100 mg/Lのヒポキサンチン及び100 μmol/LのMSXを補充した市販の無血清培地CD-OptiCHOTM培地(Invitrogen)で,5%CO及び95%空気の加湿雰囲気下に37℃にて,細胞が安定して増殖するまで培養した。次いで,細胞を,10 mg/Lのインスリン,40 mg/Lのチミジン,100 mg/Lのヒポキサンチン,100 μmol/LのMSX,及び10%のDMSOを補充したCD-OptiCHOTM培地(Invitrogen)に懸濁させ,液体窒素中に種細胞として貯蔵した。
【実施例3】
【0058】
rh α-GalAの発現用の組換え細胞の培養
上記の細胞を解凍して4×105 個/mLの密度に希釈し,10 mg/Lのインスリン,40 mg/Lのチミジン,100 mg/Lのヒポキサンチン及び100 μmol/LのMSXを補充したCD-OptiCHOTM培地(CD培地)で3〜4日間培養し,次いでCD培地で2×105 個/mLの密度に希釈し,3〜4日間培養した。これらの細胞を,再度CD培地で2×105 個/mLの密度に希釈し,更に3〜4日間培養した。
【0059】
こうして培養した細胞の個数をカウントし,細胞培養物をCD培地で2×105 個/mLの密度に希釈し,次いで希釈した培地1L中の細胞を,数日間振盪培養した。培養液量が200Lに達するまで,培養規模を拡大した。
【0060】
次いで細胞数をカウントし,10 mg/Lのインスリン,40 mg/Lのチミジン,100 mg/Lのヒポキサンチン,及び0.1%のHY soy (Invitrogen)を補充したCD-OptiCHOTM培地1800Lで細胞を2×105個/mLの密度に希釈し,11日間培養した。CD-OptiCHOTM培地中に8.84 gのインスリン,35.2 mmolのヒポキサンチン, 5.6 mmolのチミジン,及び1.8 kgのHY soyを含有するフィード溶液の22.4Lが,第3,第5,第7及び第9日目に添加された。サンプリングは培養中毎日行い,細胞数,生存率,グルコース濃度,及び発現されたrh α-GalAの量を測定した。グルコース濃度が3g/Lを下回った場合,濃度が3.5g/Lに達するように30%グルコース溶液を添加した。11日に及ぶ培養中,生存細胞密度及びrh α-GalA濃度を毎日モニターした。培養の第6又は7日目に,生存細胞密度は約6×106 個/mLに達し,このことは,高密度細胞培養が首尾よく達成されたことを示している(図3)。下記のようにしてELIZAによって測定したこところによると,細胞によって分泌されたrh α-GalAの培地中濃度は,経時的に上昇して第6日目にはほぼ140 mg/Lに達した(図3)。
【0061】
上記培養の完了後,細胞培養物を集め,Millistak+TM HC Pod Filter grade D0HC, (Millipore), Millistak+TM HC Pod Filter grade X0HC (Millipore), 及び次いでDurapore OpticapTM XLT20 (0.22μm, Millipore)で順次濾過して,培養上清を得た。得られた培養上清をPS膜(ポリスルホン膜)を備えた中空繊維モジュールによって元の液量の1/13まで濃縮した。
【実施例4】
【0062】
ウイルス不活化
約75Lの上記濃縮培養上清に,リン酸トリ−n−ブチル(TNBP)及びポリソルベート80を,それらの終濃度がそれぞれ0.3%(v/v)及び1%(v/v)となるように加え,この混合液を次いで,室温にて3〜4時間,緩やかに撹拌した。
【実施例5】
【0063】
rh α-GalAの精製のための方法
上記のウイルス不活化後の溶液のpHを,1Mトリス緩衝液(pH8.8)の添加により7.5に調整し,次いで,1M塩化ナトリウムを含有する50mMリン酸緩衝液(pH7.0)の添加により,電気伝導度を,50 mM塩化ナトリウムを含有する10 mMリン酸緩衝液(pH7.5)のそれに調整した。次いで,Durapore OpticapTM XL10(Millipore)により溶液を濾過し,次いで,50 mM塩化ナトリウムを含む10 mMリン酸緩衝液(pH7.5)で平衡化しておいた陰イオン交換カラムであるQ Sepharose Fast Flow カラム(カラム体積:約19.2 L,ベッド高:約20 cm,GE Healthcare)に流速150 cm/時で負荷して,rh α-GalAをカラムに吸着させた。次いで,カラム体積の3倍量の,同じ流速で供給される同じ緩衝液でカラムを洗浄し,次いで吸着されていたrh α-GalAを,カラム体積の6倍量の225 mM塩化ナトリウム含有10 mMリン酸緩衝液(pH7.5)で,そして引き続きカラム体積の3倍量の1M 塩化ナトリウム含有50 mMリン酸緩衝液(pH7.0)で溶出させ,rh α-GalA含有画分を回収した。
【0064】
上記Q Sepharose Fast Flow カラムクロマトグラフィーで回収された画分に1/4量の2M 塩化ナトリウムを添加して塩化ナトリウム濃度を約500 mMに調整し,続いて酢酸を添加してpHを7.0に調整した。得られた溶液を,750 mM塩化ナトリウムを含有する50 mMトリス塩酸,5 mM リン酸緩衝液(pH7.0)で平衡化しておいた疎水性カラムであるPhenyl Sepharose 6 Fast Flow カラム(カラム体積:19.2 L,ベッド高:約20 cm,GE Healthcare)に負荷し,線流速150 cm/時でrh α-GalAをカラムに吸着させた。次いで,カラム体積の3倍量の同じ緩衝液を同じ流速で供給してカラムを洗浄し,カラム体積の9倍量の50 mMトリス塩酸と5 mMリン酸とからなる緩衝液(pH 7.0)で,そしてこれに続いてカラム体積の3倍量の純水で,吸着されたrh α-GalAを溶出させ,rh α-GalA含有画分を回収した。
【0065】
上記のPhenyl Sepharose 6 Fast Flow カラムクロマトグラフィーのステップで回収された画分を, 50 mM塩化ナトリウムを含有する50 mMトリス塩酸,10 mMリン酸緩衝液(pH7.0)で平衡化させておいたハイドロキシアパタイトカラムであるCHT-Iセラミックハイドロキシアパタイトカラム(カラム体積:19.2 L,ベッド高:約20 cm,Bio-Rad Laboratories)に負荷し,線流速150 cm/時でrh α-GalAをカラムに吸着させた。次いで,カラム体積の5倍量の同じ緩衝液を同じ流速で供給してカラムを洗浄し,次いでカラム体積の9倍量の50 mMトリス塩酸,45 mMリン酸ナトリウム及び50 mM塩化ナトリウムを含む緩衝液(pH7.0)で,続いて,カラム体積の3倍量の200 mMリン酸緩衝液(pH7.0)で,吸着されたrh α-GalAを溶出させて,rh α-GalAを含む画分を回収した。
【0066】
上記のCHT-Iセラミックヒドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィーのステップで回収された画分に酢酸を添加してpHを5.5に調整した。これによって形成された沈殿をOpticapTM SHC XL5(0.22μm, Millipore)を用いた濾過により除去した。得られた溶液を,150 mMの塩化ナトリウムを含有する50 mM酢酸緩衝液(pH5.5)で平衡化させておいた疎水性相互作用及び水素結合形成に基づく選択性を有する陽イオン交換樹脂であるCaptoTM MMCカラム(カラム体積:6.3 L,ベッド高:約20 cm, GE Healthcare)に負荷し,線流速300 cm/時でrh α-GalAをカラムに吸着させた。次いで,カラム体積の4倍量の,同じ流速で供給される同じ緩衝液でカラムを洗浄した後,吸着されたrh α-GalAをカラム体積の5倍量の50 Mmリン酸緩衝液(pH6.5)で,そしてこれに続いてカラム体積の3倍量の1M塩化ナトリウムを含有する50 mMリン酸緩衝液(pH7.0)で溶出させて,rh α-GalAを含む画分を回収した。
【0067】
上記のCaptoTM MMCカラムクロマトグラフィーのステップで回収された画分に,1Mトリス緩衝液(pH8.8)を加えてpHを7.0に調整した。得られた溶液の半量を125 mM塩化ナトリウムを含有する20 mMリン酸緩衝液(pH7.0)で平衡化させておいたBlue Sepharose 6FF カラム(カラム体積:約19.2 L,ベッド高:約20 cm, GE Healthcare)に負荷し,線流速150 cm/時で供給してrh α-GalAをカラムに吸着させた。次いで, 125 mMの塩化ナトリウムを含有する20 mMリン酸緩衝液(pH7.0)を同じ流速でカラム体積の3倍量供給してカラムを洗浄し,次いで,吸着されたrh α-GalAを,450 mMの塩化ナトリウムを含有する50 mMトリス塩酸/5 mMリン酸緩衝液(pH7.0)を同じ流速でカラム体積の4倍量を供給して溶出させ,rh α-GalAを含む画分を回収した。溶液の他の半量は,色素親和性カラムクロマトグラフィーにより,上述したのと同じ仕方で連続して処理した。rh α-GalAを含む回収画分を,更なる精製のために合わせた。
【0068】
上記色素親和性カラムクロマトグラフィーのステップで回収された画分を,BiomaxTM 30 膜(Millipore)を備えたPelliconTM 3 カセットを用いて,全量が1L未満になるまで濃縮した。濃縮後の溶液の1/3を,137 mMの塩化ナトリウムを含有する20 mMリン酸緩衝液(pH5.8)で平衡化させておいたSuperdexTM 200 prep grade カラム(カラム体積:約58 L,ベッド高:約30 cm×2,GE Healthcare)に負荷した。次いで,同じ緩衝液を25 cm/時の線流速で供給し,280 nmの吸光度により観察される主ピークに対応する画分を精製rh α-GalA含有画分として回収した。このクロマトグラフィーは,上記の溶液全てを精製するために3回行い,各回の操作で回収された画分を合わせた。
【0069】
上記のSuperdexTM 200 prep grade カラムクロマトグラフィーのステップでプールされた画分を,PS膜を備えた中空繊維モジュールによって濃縮し,この濃縮液にポリソルベート80を終濃度0.02%となるように加えた。得られた溶液を,ウイルスや微生物による最終製品の如何なる起こり得る汚染をも回避するために,ViresolveTM Pro Modus1.3(0.07 m2 サイズ,Millipore)で濾過した。
【0070】
精製の各ステップにおいて,各材料に含有されるrh α-GalAの量及び集められた画分中に回収されたrh α-GalAの量を後述のようにしてELIZAで定量した。結果を表1に示す。表において,「rh α-GalA回収率/ステップ」は,当該ステップにおいて負荷されたrh α-GalAの量に対する当該ステップで回収された量の割合を意味し,「rh α-GalA回収率/総計」は,精製方法に供されたrh α-GalAの当初量に対する各ステップで回収されたrh α-GalAの量の割合を意味する。精製方法に供されたrh α-GalAの当初量は140.6gであり,そのうち最終的に91.4gが回収され,従って65.0%という高さのrh α-GalA回収率/総計が得られた。これらの結果は,上記の精製方法が,rh α-GalAの非常に高収率且つ大きな生産規模での精製を可能にすることを示している。
【0071】
【表1】
【実施例6】
【0072】
ELIZAによるヒトα-GalAの分析
96ウェルのマイクロタイタープレート(Nunc)の各ウェルに,0.05M炭酸塩−重炭酸塩緩衝液(pH9.6)で25 mg/mLに希釈した100μLのマウス抗ヒトα-GalAモノクローナル抗体を加え,プレートを室温で少なくとも1時間,又は2〜8℃で終夜静置して,抗体をウェルに吸着させた。次いで, PBS-T(0.05%のTween 20を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS),pH7.4)で各ウェルを洗浄した後,1%のBSAを含有するPBS-T 300μLを加え,プレートを室温にて少なくとも1時間静置した。次いで,PBS-Tで各ウェルを3回洗浄した後,0.5%のBSA及び0.05%のTween 20を含んだPBS(PBS-BT)で所望により希釈しておいた試験サンプル又はヒトα-GalA標準の100μLをウェルに加え,プレートを室温にて少なくとも1時間静置した。次いで,各ウェルをPBS-Tで3回洗浄した後,PBS-Tで希釈したセイヨウワサビ・パーオキシダーゼ標識化兎抗ヒトα-GalAポリクローナル抗体の100μLを添加して,プレートを室温にて少なくとも1時間静置した。次いで,各ウェルをPBS-Tで3回洗浄した後,0.009%過酸化水素を含有する0.4 mg/mLのo−フェニレンジアミン含有リン酸−クエン酸緩衝液(pH5.0)をウェルに加え,室温にてプレートを10〜25分間静置した。次いで,各ウェルに1 mol/Lの硫酸0.1 mLを加えて反応を停止させ,96ウェルプレートリーダーにより490 nmでの吸光度を測定した。
【実施例7】
【0073】
rh α-GalAの活性の測定
希釈用緩衝液(26.7 mM クエン酸−44.8mMリン酸緩衝液,pH4.6,0.1 mg/mL BSAを含有)に0〜200μmol/Lの濃度で4−メチルウンベリフェロンを溶解することにより,標準溶液を調製した。基質溶液は,4−メチルウンベリフェリル−α−ガラクトピラノシド(SIGMA)を希釈用緩衝液に終濃度5 mMになるように溶解させることにより,調製した。希釈用緩衝液で希釈した各標準溶液又は標準溶液の10μLを96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに加えた(FluoroNunc Plate, Nunc)。希釈された試験サンプル又は標準溶液を含んだ各ウェルに。75μLの基質溶液を加え,プレートを37℃にて少なくとも1時間,暗所に静置した。このインキュベーションの後,200μLのStop Buffer (0.2M グリシン−水酸化ナトリウム, pH10.6)を各ウェルに加えた。次いで,各ウェルの蛍光強度を,96ウェルプレートリーダーにより,波長335 nmの励起光及び波長460 nmの蛍光で測定した。
【0074】
標準溶液の蛍光強度をプロットし,プロットされたデータ点の間を外挿することにより,標準曲線を作成した。各サンプルの蛍光強度は,この標準曲線を用いて測定される,遊離された4-MUF濃度に対応した。ヒトα-GalAの比活性は,単位/mgとして算出されるが,ここに,1単位の活性は,37℃において1分間あたりに産生される4-MUFの1μmol量に等しい。rh α-GalAの活性の上記測定を行うに当たり,公開された米国出願(公開番号2004-0229250)を参照した。上記方法で精製されたrh α-GalAの比活性は,約50単位/mg(48.3〜53.7単位/mg)であることが判明した。
【実施例8】
【0075】
rh α-GalAの純度の分析
上記で精製されたrh α-GalAの5 mgを,還元性の加熱(70℃10分)条件下でのSDS-PAGE電気泳動に付した。クマシーブリリアントブルーで染色したゲルは,SuperdexTM 200pg 画分中のrh α-GalAに対応する単一バンドを示した(図4)。
【0076】
更に,上記の精製rh α-GalAをサイズ排除HPLC(SE-HPLC)により分析した。HPLCは,LC-20Aシステム,SPD-20AV UV/VIS 検出器((株)島津製作所)を用いて行った。SE-HPLC分析用には,上記で精製されたrh α-GalAを2 mg/mL含有するサンプル溶液の10μLを,25 mMリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で緩衝化させておいたTSKgel G3000SWXL カラム(内径7.8 mm×30 cm, TOSOH)に適用して,流速0.5 mL/分で行った。215 nmの吸光度をモニターすることにより溶出プロフィールを作成した。
【0077】
上記の精製rh α-GalAのSE-HPLC分析は,単一ピークのみを示した(図5)。これらの結果は,上記で得られたrh α-GalAが高度に精製されており,検出し得る汚染物を含んでいないことを明らかにしている。この結果は,上記で精製されたrh α-GalAが医薬としてヒトに直接投与し得るような高い純度のものであることを実証している。
【実施例9】
【0078】
宿主細胞タンパク質(HCPs)の測定
精製ステップ1〜6の各々において回収されたrh α-GalAのプール中に存在する汚染物である宿主細胞タンパク質の量をELIZAにより慣用の仕方で測定し,当該プールに含まれるrh α-GalAの量と比較した。結果を,「HCP/rh α-GalA(ppm)」として表1に示しており,これはrh α-GalAに対するHCPsの質量の比率である。表1に示されたように,この比率は,最終ステップの精製後には,20 ppmと低く,このrh α-GalAを注射により反復してヒトに投与する医薬として使用することを許容するに十分低いレベルである。
【0079】
精製方法のこれらのステップのうち,第5番目の色素親和性クロマトグラフィーは,rh α-GalAからこれと共に含まれるHCPsを除去するのに最も効果的であった。即ち,このステップにおいて,HCPsの殆ど97%が除去され,HCPs/rh α-GalAの比率は8.6×103 ppmから2.5×102 ppmへと低下した。この結果は,rh α-GalA調製物からHCPsを除去するのに色素親和性クロマトグラフィーが効果的な方法であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は,rh α−ガラクトシダーゼA(rh α-GalA)を,大きな規模で,医薬としてファブリー病の患者に投与するのに十分高い純度で,産生するのに利用される。
【配列表フリーテキスト】
【0081】
配列番号1=hGH-f1,合成配列
配列番号2=hGH-r1,合成配列
配列番号3=hGH-f2,合成配列
配列番号4=hGH-r2,合成配列
配列番号5=プライマーGS-1,合成配列
配列番号6=プライマーGS-3,合成配列
配列番号7=プライマーGS-2,合成配列
配列番号8=プライマーGS-4,合成配列
配列番号9=プライマーGAL-Mlu,合成配列
配列番号10=プライマーGAL-Sca2,合成配列
配列番号11=プライマーGAL-Sca1,合成配列
配列番号12=プライマーGAL-Xba,合成配列
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]