(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6749073
(24)【登録日】2020年8月13日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】送風シート
(51)【国際特許分類】
A47C 7/74 20060101AFI20200824BHJP
B60N 2/56 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
A47C7/74 C
B60N2/56
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-265340(P2014-265340)
(22)【出願日】2014年12月26日
(65)【公開番号】特開2016-123533(P2016-123533A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年7月25日
【審判番号】不服2019-8323(P2019-8323/J1)
【審判請求日】2019年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000141598
【氏名又は名称】株式会社吉田製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】100141221
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 和明
(72)【発明者】
【氏名】勝浦 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】下村 義弘
(72)【発明者】
【氏名】竹内 智之
(72)【発明者】
【氏名】戸畑 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】藤掛 勤
(72)【発明者】
【氏名】荒田 和善
【合議体】
【審判長】
島田 信一
【審判官】
藤井 昇
【審判官】
須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】
韓国公開特許第10−2012−0017877(KR,A)
【文献】
特開2004−275370(JP,A)
【文献】
特表2007−533252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 7/74
B60N 2/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションとシートバックを有し、前記シートクッションの着座面と前記シートバックの背凭れ面のいずれか一方又は双方から、送風手段により空気を外部に送風する送風シートにおいて、
前記送風手段は、送風制御手段によって、送風量および送風時間を周期的に制御され、常時送風可能な送風手段であって、
各周期における送風は、所定量の送風を行う第一の期間と、その所定量の送風を徐々に低下させる第二の期間を有し、
送風量を徐々に低下させる前記第二の期間においては、送風を停止させること無く、常に送風を維持するとともに、
前記送風制御手段は、送風量を徐々に低下させる前記第二の期間の後、送風量を急激に前記所定量の送風まで変化させることを特徴とする送風シート。
【請求項2】
前記第二の期間(T2)は15秒より長く120秒より短い範囲である請求項1記載の送風シート。
【請求項3】
前記第一の期間(T1)は15秒より長く120秒より短い範囲である請求項1記載の送風シート。
【請求項4】
着座直後の前記第一の期間(T1´)は240秒より短い範囲である請求項1記載の送風シート。
【請求項5】
前記送風の周期は30秒より長い請求項1記載の送風シート。
【請求項6】
前記送風の周期は240秒より短い範囲である請求項5記載の送風シート。
【請求項7】
前記シートクッションの着座面における着座者の大腿部相当箇所に送風する請求項1記載の送風シート。
【請求項8】
前記シートバックの背凭れ面における着座者の肩部相当箇所、腰部相当箇所の何れか又は双方に送風する請求項1記載の送風シート。
【請求項9】
前記送風手段は電気的送風装置で、前記送風制御手段は送風手段の回転数を制御する請求項1記載の送風シート。
【請求項10】
前記送風制御手段は送風手段へ供給する電圧を制御する請求項9記載の送風シート。
【請求項11】
前記送風制御手段は送風手段をPWM制御する請求項9記載の送風シート。
【請求項12】
前記送風手段はコンプレッサーで、前記送風制御手段は流路途中の開口率を制御する請求項1記載の送風シート。
【請求項13】
前記送風手段はコンプレッサーで、前記送風制御手段は送風手段の圧力を制御する請求項1記載の送風シート。
【請求項14】
シートクッションとシートバックを有し、前記シートクッションの着座面と前記シートバックの背凭れ面のいずれか一方又は双方から、送風手段により空気を外部に送風する送風シートにおいて、前記送風手段は、送風制御手段によって、風速および送風時間を周期的に制御され、常時送風可能な送風手段であって、
各周期における風速は、所定の風速での送風を行う第一の期間と、その所定の風速を徐々に低下させる第二の期間を有し、
風速を徐々に低下させる前記第二の期間においては、送風を停止させること無く、常に送風を維持するとともに、
前記送風制御手段は、風速を徐々に低下させる前記第二の期間の後、風速を急激に前記所定の風速まで変化させることを特徴とする送風シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートクッションとシートバックを有し、シートクッションの着座面とシートバックの背凭れ面のいずれか一方から又は双方から、送風手段により空気を外部に送風する送風シートに関し、詳しくは送風量及び送風時間を周期的に制御することにより、着座者に対する快適性が得られる送風シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用、医療用、美容用のシートにおいては、シート内部に送風手段を内蔵し、着座者に送風を行うことで快適な着座感を提供する送風シートがあり、一般的には、送風を連続的に行っているが、送風を断続的に行うことにより着座者の快適感を向上させるようにすることが提案されている。
このような、送風シートの一例として、特開2003−299550号公報(特許文献1)に示すものがあり、かかる送風シートは、送風手段の運転、停止を制御手段によって繰り返すことにより、着座者の皮膚の冷点を断続的に刺激し、着座者の冷涼感を高め、車内の室温が高くても、着座者の体感温度が低く感じられ、着座者に対する快適性を提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−299550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来の送風シートでは、断続的に送風、送風停止を繰り返すことにより着座者に対する快適性を提供しているが、断続的に送風、送風停止という制御方法では、送風停止の際には、送風が全く無く着座者の体感温度が上がり、その結果、送風、送風停止の間における着座者の体感温度差が大きくなるので、着座者は快適感が得られず、着座者の快適感が維持できずに満足感が得られないという課題が生じている。
【0005】
本発明は、効率的な送風により、常時、着座者に対する快適感が維持できる送風シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成すべく、本発明に係る送風シートは、シートクッションとシートバックを有し、前記シートクッションの着座面と前記シートバックの背凭れ面のいずれか一方又は双方から、送風手段により空気を外部に送風する送風シートにおいて、
前記送風手段は、送風制御手段によって、送風量および送風時間を周期的に制御され、
各周期における送風は、所定量の送風を行う第一の期間と、その所定量の送風を徐々に低下する第二の期間(T2)を有する。前記第一の期間は着座直後の一周期目の第一の期間(T1´)と二周期目以降の第一の期間(T1)を有する。
【0007】
この送風シートでは、所定量の送風を行う第一の期間で、着座者に送風することによりシート接触部の温湿度を低下させ冷涼感を与えるが、この送風を一定のまま継続すると、シート接触部の温湿度の変化幅が小さくなり時間と共に送風の効果を感じにくくなり快適感が低下する。これに対して急激に送風を停止した場合、シート接触部の温湿度が大きく上昇し不快感を与える。このため第二の期間において、所定量の送風を徐々に低下させることにより、着座者に対しての冷涼感を維持させ、この第一の期間と第二の期間とにおける送風量と送風時間とを周期的に制御することにより、着座者の冷涼感を継続することができるので、常時、着座者に対しての快適感の維持ができる。
【0008】
着座直後においては、暑熱時など着座者の皮膚温や衣服内温湿度が高い場合、シート接触部の温湿度も大きく上昇するため、着座直後の一周期目の第一の期間の送風を長くすることで、シート接触部の温湿度の上昇を小さくすることができる。ただし、送風時間が長すぎるとシート接触部の温湿度の変化幅が小さくなり時間と共に送風の効果を感じにくくなり快適感が低下する。
【0009】
前記送風制御手段は、送風量を徐々に低下させる前記第二の期間の後、送風量を急激に前記所定の送風量まで変化させることが好ましい。
送風量を徐々に低下させる前記第二の期間、着座者は送風量の低下により、冷涼感が徐々に低下して快適感も低下するので、送風量を急激に第一の期間の所定量の送風にすることにより、シート接触部の温湿度が一気に低下するので着座者は強い冷涼感を感じて快適感が回復、維持できる。
【0010】
送風量を徐々に低下させる前記第二の期間においては、送風を停止させること無く、常に送風を維持することが好ましい。
送風量を徐々に低下させる前記第二の期間においては、送風を停止すると、着座者は冷涼感を感じなくなるので、送風を停止させることなく、常に送風を維持すると、着座者は冷涼感を感じ、快適感が維持できる。
【0011】
前記第二の期間(T2)は15秒より長く120秒より短い範囲であることが好ましい。送風量を徐々に低下する期間が短すぎたり長すぎると、常時送風と同様に時間と共に送風効果を感じにくくなったり送風量が弱い状態が長くなり、不快感を生じるので、送風を継続する期間は15秒より長く120秒より短い範囲であることが好ましい。
【0012】
前記第一の期間(T1)は15秒より長く120秒より短い範囲であることが好ましい。送風を継続する期間が短すぎたり長すぎると、冷却効果が不十分であったり送風効果を感じにくくなり、不快感を生じるので、送風を継続する期間は15秒より長く120秒より短い範囲であることが好ましい。
【0013】
着座直後においては、暑熱時など着座者の皮膚温や衣服内温湿度が高い場合、第一の送風の時間を長くすることにより、着座者の快適感が得られる体感温度へ早めに下げられるが、長くなり過ぎると常時送風と同様に時間と共に送風効果を感じにくくなり不快感の方が増すので、着座直後の前記第一の期間(T1´)は240秒より短い範囲であることが好ましい。
【0014】
所定量の送風を行う第一の期間と、その所定量の送風を徐々に低下する第二の期間とからなる周期が短すぎたり長すぎたりすると、着座者の快適な体感温度の維持が難しくなるので、この周期は30秒より長く、240秒より短い範囲であることが好ましい。
【0015】
前記シートクッションの着座面における着座者の大腿部相当箇所に送風することが好ましい。
ヒトの下半身での冷感受性は大腿部付近で高いため、大腿部相当箇所に送風することにより、効率的に着座者の快適感が得られることができる。
【0016】
前記シートバックの背凭れ面における着座者の肩部相当箇所、腰部相当箇所の何れか又は双方に送風することが好ましい。
ヒトの上半身での冷感受性は肩部から腰部にかけて高いため、着座者の肩部相当箇所、腰部相当箇所の何れか又は双方に送風することにより、効率的に着座者の快適感が得られることができる。
【0017】
前記送風手段は電気的送風装置で、前記送風制御手段は送風手段の回転数を制御することが好ましく、この送風制御手段は送風手段へ供給する電圧を制御するか、またはコンプレッサーで、前記送風制御手段は流路途中の開口率を制御することが好ましい。
【0018】
前記送風手段はコンプレッサーで、前記送風制御手段は送風手段の圧力を制御することが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る送風シートは、シートクッションとシートバックを有し、前記シートクッションの着座面と前記シートバックの背凭れ面のいずれか一方又は双方から、送風手段により空気を外部に送風する送風シートにおいて、
前記送風手段は、送風制御手段によって、風速および送風時間を周期的に制御され、
各周期における送風は、所定の風速で送風を行う第一の期間と、その所定の風速を徐々に低下する第二の期間(T2)を有し、この送風シートでは、所定の風速での送風を行う第一の期間で、着座者に送風することによりシート接触部の温湿度を低下させ冷涼感を与えるが、この風速を一定のまま送風を継続すると、シート接触部の温湿度の変化幅が小さくなり時間と共に送風の効果を感じにくくなり快適感が低下する。これに対して急激に送風を停止した場合、シート接触部の温湿度が大きく上昇し不快感を与える。このため第二の期間において、所定の風速を徐々に低下させることにより、着座者に対しての冷涼感を維持させ、この第一の期間と第二の期間とにおける風速と送風時間とを周期的に制御することにより、着座者の冷涼感を継続することができるので、常時、着座者に対しての快適感の維持ができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、第一の期間と第二の期間とにおける送風量と送風時間若しくは風速と送風時間とを周期的に制御することにより、着座者の冷涼感を継続することができるので、着座者に対しての快適感が維持できる送風シートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る一実施形態の送風シートの斜視図である。
【
図2】
図1に示す送風シートのII−II線部分断面図である。
【
図3】
図1に示す送風シートのシートクッションにおけるIII−III線部分断面図である。
【
図4】
図1に示す送風シートのシートバックにおけるIV−IV線部分断面図である。
【
図5】本発明に係る送風を周期で表した送風量と時間との関係を示すグラフである。
【
図6】本発明による各周期条件における被験者の温冷感、温熱快適感と時間との関係を示すグラフである。
【
図7】本発明による各周期条件において被験者の人気度順位を示すグラフである。
【
図8】本発明による各周期条件での着座20分後における被験者による温冷感、温熱快適感を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態につき、
図1乃至
図8に基づき説明する。
本発明に係る送風シートは、本実施例では、例えば、自動車用シートに使用した場合につき説明するが、かかる送風シートは自動車用シートに使用する場合には限られず、例えば、美容用シートや医療用シートであってもよい。
図1は自動車用シートを示し、シートクッションSCには、シートバックSBが傾動可能に装着され、シートバックSBの頂部にはヘッドレストHが設けられている。
【0023】
シートバックSBは、その背凭れ面が自動車の上下方向に6区分に区分してなり、自動車の下方側からB1、B2、B3、B4、B5、B6としてそれぞれの区分を表示している。また、シートクッションSCは、その着座面が自動車の前後方向に4区分に区分してなり、自動車の後方側からC1、C2、C3、C4、としてそれぞれの区分を表示している。
【0024】
図1に示すシートバックSBの背凭れ面におけるそれぞれの区分B1〜B6は、自動車における下から順に、着座者の身体部位の骨盤部、腰部、背中部、肩甲骨部、肩部、首部に相当するものとし、また、シートクッションSCの着座面におけるそれぞれの区分C1〜C4は、自動車における後方側(シートバック側)から着座者の身体部位の臀部後半、臀部前半、大腿部、膝裏部に相当するものとして、以下説明する。
【0025】
この送風シートである自動車用シートにあっては、
図4に示すように、送風手段としては、例えば、電気的送風装置である送風機10を用いており、この送風機10は制御装置11によりその回転数、送風時間が制御され、送風路4、9を介して、シートバックSBの背凭れ面とシートクッションSCの着座面の双方に送風している。送風機10としては、ブロアやファンが用いられている。
送風機10は、
図4に示すように、制御装置11によって、送風および送風時間を周期的に制御される。
各周期における送風は、
図5に示すように、所定量の送風を行う第一の期間T1と、その所定量から送風量を徐々に低下する第二の期間T2を有しており、この周期により連続してシートバックSBの背凭れ面とシートクッションSCの着座面の双方に送風している。シートバックSBの背凭れ面とシートクッションSCの着座面の双方に送風しているが、いずれか一方に送風する構成であってもよい。
【0026】
本実施例では、第一の期間T1において、シート表面から風量0.47m
3/secの一定の送風を30秒間行う。続く第二の期間T2においては、送風機の回転数を落とすことにより、風量0.47m
3/secから徐々に風量を低下させていく。この第二の期間T2は30秒であり、第一の期間T1と第二の期間T2の合計時間が60秒となり、これを一周期として、以後繰り返される。
送風機10は、シートバックSBあるいはシートクッションSCに設けられ、この送風機10からの空気が、シートバックSBやシートクッションSCに形成された送風路4、9を介してシートバックSBの背凭れ面やシートクッションSCの着座面、ひいてはそれらの外部に向けて送出される。送風の風量は、例えば、送風機10へ印加する電圧を制御することによる送風機10の回転数の変化により制御される。
本実施例では、送風手段として、電気的送風装置である送風機10で説明しているが、これに限られることなく、コンプレッサーを用いることもでき、送風手段としてコンプレッサーを用いた場合には、その送風制御手段としては、コンプレッサーの開口率や圧力により送風を制御する。
また、送風機10の回転数の可変制御は、印加電圧を制御することに限定されず、例えば、PWM制御により行っても良く、その他適宜の手段により行うことができる。
【0027】
そして、
図1に示すシートにあっては、送風手段からの空気を背凭れ面の外部に送り出すシートバックSBにおける送風域を、シートバックSBの背凭れ面を自動車の上下方向で6区分に区分したうちの着座者の肩部位に相当する区分B5と腰部位に相当する区分B2に限定的に特定すると共に、送風手段からの空気を着座者の外部に送り出すシートクッションSCにおける送風域を、シートクッションSCの着座面を前後方向で4区分に区分したうちの着座者の大腿部位に相当する区分C3に限定的に特定し、これら特定の送風域に対してのみ直接的に送風するものとしている。
なお、このような送風域の特定は、送風手段からの空気の流通される送風路の送風口4a、9aを所定の送風域、つまりシートバックSB、シートクッションSCにおいて特定した区分に整列させて限定的に設けることにより行われ、この送風路の送風口は、例えば、特定した区分内の複数個所にそれぞれ設けられる。
シートクッションSCの着座面を前後方向で4区分に区分したうちの着座者の大腿部位に相当する区分C3、シートバックSBの背凭れ面を自動車の上下方向で6区分に区分したうちの着座者の肩部位に相当する区分B5と腰部位に相当する区分B2に送風しているが、少なくとも、いずれか1区分から送風しても良く、その組合せは種々選択できることはいうまでもない。
【0028】
図2に示すように、シートバックSBにあっては、送風手段である送風機10に連通する送風路4が、シートバックSBのパッド材3内に形成され、その送風口4aが背凭れ面、つまり通気性のある表皮材1に向けて開口されている。また同様に、
図3に示すように、シートクッションSCにあっては、送風手段である送風機10に連通する送風路9が、シートクッションSCのパッド材8内に形成され、その送風口9aが着座面、つまり通気性のある表皮材6に向けて開口されている。
送風機10は、前述したように、それぞれ、制御装置11により、送風量、送風時間が周期的に変化可能に制御されている。
ここでは、シートバックSBにおける着座者の肩部位に相当する区分を区分B5の一区分として説明しているが、区分B5を含む範囲であれば足り、区分B5だけでなく、上下の区分B6、B4の少なくともいずれかの区分に渉ることも可能であり、区分B5を他の区分より上下方向に幅広にすることもできる。
同様に、シートクッションSCにおける着座者の大腿部部位に相当する区分を区分C3の一区として説明しているが、区分C3を含む範囲であれば足り、区分C3だけではなく、前後の区分C4、C2の少なくともいずれかの区分に渉ることも可能であり、区分C3を他の区分より前後方向に幅広にすることもできる。
【0029】
なお、送風手段は、シートやダッシュボードに設けられたスイッチを着座者が操作することにより電源がON状態となる構成でも、着座者が着座した際、あるいはエンジンの始動に合わせて自動的に電源がON状態となる構成であってもよい。また、周期、第一の期間T1および第二の期間T2についても、車両内の室温に合わせて自動的に長短の制御が行われるようにするか、あるいは着座者がスイッチ等で選択することで可変とするようにしてもよい。
【0030】
本実施例において、このシートバックSBの肩部に相当する区分B5、腰部に相当する区分B2、およびシートクッションSCの大腿部に相当する区分C3が送風効果の高い部位であるので、他の部位への送風を伴わなくても着座者の快適性が十分に得られる。
つまり、本実施例によれば、着座者に対する送風効果が高いとされるシートバックSBの肩部相当部位(区分B5)と腰部相当部位(区分B2)、シートクッションSCの大腿部相当部位(区分C3)のみを送風域として特定し、この送風域のみへ送風するだけで着座者に対する送風効果を得るため、着座者の快適性を損なうことがなく、送風域の範囲が減少するから、消費電力の大幅な削減が図られる。
【0031】
さらに、
図6乃至
図8に本願人の実験データを示すが、その際の実験概要につき説明する。
実験用シートにおいて、シートバックSBの肩部に相当する区分B5、腰部に相当する区分B2、およびシートクッションSCの大腿部に相当する区分C3の三か所に限定的に送風を行った。
送風条件としては、常に一定の送風を行う常時送風(T1´=T1=∞、T2=0秒)、周期30秒(T1´=T1=15秒、T2=15秒)、60秒(T1´=T1=30秒、T2=30秒)、120秒(T1´=T1=60秒、T2=60秒)、240秒(T1´=T1=120秒、T2=120秒)の5パターンの条件において、着座時間を20分間とした。
各送風条件での総風量が同じになるように第一の期間T1、第二の期間T2をそれぞれ設定した。
この様な条件下において、着座者の温熱快適性、生理反応、物理的効果における効果的な送風条件の検討を行った。
その結果、
図6におけるグラフは縦軸+が温熱快適感(快適さ)、温冷感(暖かさ)を、縦軸−が温熱快適感(不快)、温冷感(涼しい)を、横軸が時間をそれぞれ示し、周期30秒、60秒、120秒の場合には、着座者の温熱快適感(快適さ)が+1前後を維持し、温冷感(涼しさ)は少しの涼しさを感じ、着座者の快適感が維持できている(
図6参照)。それに比して、常時送風では、時間と共に温熱快適感は下がり、温冷感は上昇し、周期240秒では、常時送風と同様に、時間と共に温熱快適感は下がり、温冷感は上昇する。
これにより、周期30秒、60秒、120秒の場合は、常時送風、周期240秒に比べ、着座者が快適感を得ている。
図7は、
図6の着座者の常時送風、周期30秒、60秒、120秒、240秒の場合において、どの条件が良かったかを申告した順位であるが、周期60秒、120秒の場合を1位に選択する割合が多い。
図8は、着座20分後の常時送風、周期30秒、60秒、120秒、240秒の場合において、着座者の温熱快適感(快適さ)、温冷感(涼しさ)の申告で、温熱快適感は周期60秒、120秒の場合が常時送風、周期30秒、240秒と比較しても、着座者の支持を得ている。
【0032】
所定量の送風を行う第一の期間T1は15秒より長く120秒より短い範囲とすることが好ましい。送風を行う時間が15秒未満だと、着座者は快適感が十分に得られず、120秒を超えると、着座者の快適感が低下するので、第一の期間T1は15秒より長く120秒より短い範囲とすることが好ましい。
所定量の送風から徐々に送風量を低下する第二の期間T2は、15秒より長く120秒より短い範囲が好ましい。送風量を徐々に低下する時間が15秒未満だと、シート接触部の温湿度の変化幅が小さくなり、常時送風と同様に時間と共に送風効果を感じにくくなり快適感が低下し、120秒を超えると送風量が弱い状態が長くなり不快感の方が増すので、第二の期間T2は15秒より長く120秒より短い範囲とすることが好ましい。
また、着座直後の第一の期間T1´は240秒より短い範囲が好ましい。常時送風においても着座後240秒までは快適感が高く維持されており、これを超えると快適感が低下するので着座直後の第一の期間T1´は240秒より短い範囲が好ましい(
図6参照)。
【0033】
また、この所定量の送風から徐々に送風量を低下する第二の期間T2においては、常に送風を維持し、送風を停止させること無く送風している(
図5参照)。第二の期間T2の最後の変化点Pは送風状態を維持することが好ましい。
この第二の期間T2において、徐々に送風量を低下させる際、常に、送風を維持すると、シート接触部の温湿度の上昇を抑えられ、着座者は温熱快適感の低下を最小に抑えられるからである。
所定量の送風から徐々に送風量を低下する第二の期間T2の後、所定量の送風を行う第一の期間T1にする際には、第二の期間T2の変化点P後、急激に第一の期間T1の送風量とすることが好ましく、第二の期間T2では送風量が徐々に低下しているので、時間と共に、シート接触部の温湿度が上昇し温熱快適感が徐々に低下するので、変化点Pから急激に第一の期間T1に変化させると、急激に所定の送風量となり、その結果、シート接触部の温湿度が上昇しても、すぐに、シート接触部の温湿度を大きく低下させて、快適感が得られる。
このように、周期的に送風量、送風時間を変化させることにより、着座者の冷涼感を継続することができるので、着座者に対しての快適感が維持できる。
【0034】
ここで、シートバックSBの背凭れ面およびシートクッションSCの着座面に着座した着座者の身体が送風口4a、9aに密着した場合、着座者の身体が送風路の送風口を塞いでしまい、送風路4、9からの空気の円滑な送出が妨げられるおそれがある。そこで、
図2、3に示すように、送風口4a、9aから送り出された空気を平面方向、つまりシートバックSBの背凭れ面、シートクッションSCの着座面に沿った方向に通気するための通気層5、7を、送風路の送風口と着座者、例えば表皮材1、6との間に配設することが好ましい。この種の通気層5、7としては、例えばシートバックSBでの背凭れ面(B1〜B6)の全面、シートクッションSCでの着座面(C1〜C5)の全面に渡る非通気性素材からなる袋体5a、7a内に平面方向での空気の流通可能な可撓性のある立体部材5b、7bを内設した平面状の通気用スペーサーが利用でき、この通気層内を流動する空気は、袋体の表皮材1、6側に設けられた通気口5c、7cを介して、着座者方向の外部に放出され、これにより送風域への空気の円滑な送風が確保できる。なお、この通気口5c、7cは、着座者の着座によっても塞がれない位置を含めて形成することが必要となる。
【0035】
このように、送風路の送風口4a、9aと着座者との間に通気層(通気用スペーサー)5、7を設けることで、シートバックSBの背凭れ面あるいはシートクッションSCの着座面に着座者が密着した場合であっても、送風路の送風口から送り出された空気は通気層を介して流通し、着座者による閉塞の免れた通気口5c、7cからの放出を伴って流動するため、送風手段からの空気の円滑な流通が確保できるから、着座者の快適性は一層向上される。
【0036】
ここでは、通気層5、7を、送風路の送風口4a、9aと表皮材1、6との間に配設した通気用スペーサーとして例示しているが、この通気層は送風路の送風口と着座者との間に介在されれば足りるため、表皮材の表面側(着座者側)に通気層を設ける構成としてもよい。
また、通気層5、7として通気用スペーサーを例示しているが、送風路の送風口4a、9aから送り出された空気を平面方向に流通可能とする構成であればよく、例えばパッド材表面、あるいは表皮材表面に溝を形成し、この溝を空気の流通する通気層としてもよい。
溝はパッド裏面に形成しても良く、その場合には溝からパッド表面へ貫通する導通孔を設ける。
【0037】
ここで、送風量と風速の関係につき説明する。送風口の面積×風速が送風量となり、風速が低下すると、送風量が下がり、風速が上がると送風量も上がる。送風量が一定の場合には、風速も一定で、送風量が徐々に低下するときには、風速も徐々に下がる。風速と送風量とは比例関係にあることはいうまでもなく、送風量が変化することは風速も同様に変化するものである。
【0038】
本発明は、上記で説明した実施例に限られず、特許請求の範囲内であれば、種々設計変更することができることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0039】
SBはシートバック
SCはシートクッション
B3は腰部相当部位
B5は肩相当部位
C3は大腿部相当部位
4、9は送風路
4a、9aは送風路の送風口
5、7は通気層
10は送風機
11は制御装置