特許第6749101号(P6749101)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6749101
(24)【登録日】2020年8月13日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】産業用ロボット
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/06 20060101AFI20200824BHJP
   B25J 19/00 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
   B25J9/06 C
   B25J19/00 H
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-16167(P2016-16167)
(22)【出願日】2016年1月29日
(65)【公開番号】特開2017-132018(P2017-132018A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2019年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105795
【弁理士】
【氏名又は名称】名塚 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100105131
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 満
(72)【発明者】
【氏名】橋 本 悟 施
(72)【発明者】
【氏名】芳 野 紘 治
【審査官】 岩▲崎▼ 優
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−186382(JP,A)
【文献】 実開昭51−023665(JP,U)
【文献】 実開昭53−057480(JP,U)
【文献】 特開2006−313022(JP,A)
【文献】 特開昭61−226282(JP,A)
【文献】 特開昭58−137583(JP,A)
【文献】 実開昭60−172690(JP,U)
【文献】 米国特許第04787270(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、
前記基部に設けられ、複数のリンクによって構成されたアーム手段と、
前記アーム手段を駆動するためのアーム駆動手段と、を備え、
前記アーム駆動手段は、ナットおよびシャフトを有するボールねじと、前記シャフトをその軸線周りに回転可能に支持する軸受け部と、前記シャフトの露出部分の周囲を覆うためのカバー手段と、を有し、
前記ナットは、前記複数のリンクのうちの一つに連結されており、前記軸受部は、前記複数のリンクのうちの他の一つに連結されており、
前記カバー手段は、前記ナットから先端側に突出する前記シャフトの先端側部分を覆うための先端側カバー部材を有し、
前記先端側カバー部材は、先端側が封止され、軸方向に伸縮可能な筒状部材を有
前記先端側カバー部材は、前記筒状部材を前記軸方向に収縮させる収縮力を発生させるための収縮力発生手段を有する、産業用ロボット。
【請求項2】
前記先端側カバー部材は、その基端部が前記ナットに連結されており、その先端部は自由端である、請求項1記載の産業用ロボット。
【請求項3】
前記収縮力発生手段は、前記収縮力を発生させるための複数の磁石を有する、請求項記載の産業用ロボット。
【請求項4】
前記筒状部材は、複数の蛇腹折り部を含む蛇腹構造を有し、
前記複数の磁石は、隣接する前記蛇腹折り部同士の間に吸引力を発生させるように配置されている、請求項記載の産業用ロボット。
【請求項5】
前記複数の磁石は、前記筒状部材の先端側よりも基端側において、より強い前記吸引力を発生させるように構成されている、請求項記載の産業用ロボット。
【請求項6】
前記アーム手段は、下部アーム機構と、前記下部アーム機構の上部に設けられた上部アーム機構と、を有し、
前記ボールねじは、前記上部アーム機構を駆動するための上部ボールねじである、請求項1乃至のいずれか一項に記載の産業用ロボット。
【請求項7】
前記下部アーム機構は、前記基部に回転可能に接続された下端を有する前方リンクと、前記基部に回転可能に接続された下端を有する後方リンクと、前記前方リンクの上端および前記後方リンクの上端のそれぞれに回転可能に接続された両端を含む横リンクと、を有する平行リンク構造を備え、
前記上部アーム機構は、上部アーム回転軸線周りに回転可能に前記横リンクに接続されている、請求項記載の産業用ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボットに係わり、特に、複数のリンクで構成されたアームを備えた産業用ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、産業用ロボットは、対象物を搬送するための搬送用ロボットや対象物の加工などを行う作業用ロボットとして、電気機器、機械や自動車などの各種の生産工場に設置されている。
【0003】
産業用ロボットは、その用途に応じて様々な形態を備えたものがあるが、高負荷条件でロボットを支障なく運転するためには、高い機械剛性と高いサーボ剛性が必要となる。また、用途によっては、広い範囲にわたってロボットを動作させる必要がある。
【0004】
ロボットの高い機械剛性を確保するために、上部アーム機構および下部アーム機構のそれぞれにおいて、平行リンク構造を採用したロボットが提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、高い機械剛性を確保しつつ、広い動作範囲を確保するために、下部アーム機構に平行リンク構造を採用すると共に、上部アーム機構は、下部アーム機構から独立して動作可能としたロボットが提案されている(特許文献2)。
【0006】
また、アーム駆動機構にボールねじを採用したロボットが提案されている(特許文献3)。一般にボールねじは、その動作範囲を適切に設定することで、高い機械剛性を確保することができるので、アーム駆動機構としてボールねじを採用することにより、ロボットの機械剛性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−31372号公報
【特許文献2】特開平3−202288号公報
【特許文献3】特開昭60−44277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、ボールねじをアーム駆動機構として採用して、その動作範囲を適切に設定することにより、ロボットの機械剛性を高めることができるが、ボールねじを採用する場合、以下の点を考慮する必要がある。
【0009】
すなわち、作業環境中にパーティクルが存在する場合、該パーティクルがボールねじに付着して動作に支障を来すことが無いよう、外部からのパーティクルの付着を防止する対策が必要である。また、ボールねじに付与された潤滑剤が、周囲に飛散することを防止する対策が必要である。
【0010】
ロボットのアーム駆動機構におけるボールねじは、シャフトをその軸線周りに回転駆動することにより、ナットをシャフトの軸線方向に沿って移動させ、ナットに接続されたリンクを動作させてアームを駆動するように構成されている。
【0011】
シャフトの軸線方向に沿ってナットが前後に移動すると、これに伴ってシャフト全体が揺動動作を行う。すなわち、シャフトの後端側に、揺動動作を可能とする回転軸が設けられ、一方、シャフトの先端側はフリー状態である。
【0012】
このようにロボットのアーム駆動機構においては、ボールねじのシャフトの先端側がフリー状態であるため、その周囲を適切にカバーすることが困難である。
【0013】
本発明は、上述した従来の技術の問題点に鑑みてなされたものであって、アームを駆動するための手段にボールねじを採用した場合でも、先端側部分を含むシャフト全体においてパーティクルの付着などを防止して、支障なく運転することができる産業用ロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様による産業用ロボットは、基部と、前記基部に設けられ、複数のリンクによって構成されたアーム手段と、前記アーム手段を駆動するためのアーム駆動手段と、を備え、前記アーム駆動手段は、ナットおよびシャフトを有するボールねじと、前記シャフトをその軸線周りに回転可能に支持する軸受け部と、前記シャフトの露出部分の周囲を覆うためのカバー手段と、を有し、前記ナットは、前記複数のリンクのうちの一つに連結されており、前記軸受部は、前記複数のリンクのうちの他の一つに連結されており、前記カバー手段は、前記ナットから先端側に突出する前記シャフトの先端側部分を覆うための先端側カバー部材を有し、前記先端側カバー部材は、先端側が封止され、軸方向に伸縮可能な筒状部材を有する、ことを特徴とする。
【0015】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記先端側カバー部材は、その基端部が前記ナットに連結されており、その先端部は自由端である、ことを特徴とする。
【0016】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様において、前記先端側カバー部材は、前記筒状部材を前記軸方向に収縮させる収縮力を発生させるための収縮力発生手段を有する、ことを特徴とする。
【0017】
本発明の第4の態様は、第3の態様において、前記収縮力発生手段は、前記収縮力を発生させるための複数の磁石を有する、ことを特徴とする。
【0018】
本発明の第5の態様は、第4の態様において、前記筒状部材は、複数の蛇腹折り部を含む蛇腹構造を有し、前記複数の磁石は、隣接する前記蛇腹折り部同士の間に吸引力を発生させるように配置されている、ことを特徴とする。
【0019】
本発明の第6の態様は、第5の態様において、前記複数の磁石は、前記筒状部材の先端側よりも基端側において、より強い前記吸引力を発生させるように構成されている、ことを特徴とする。
【0020】
本発明の第7の態様は、第1乃至第6のいずれかの態様において、前記アーム手段は、下部アーム機構と、前記下部アーム機構の上部に設けられた上部アーム機構と、を有し、前記ボールねじは、前記上部アーム機構を駆動するための上部ボールねじである、ことを特徴とする。
【0021】
本発明の第8の態様は、第7の態様において、前記下部アーム機構は、前記基部に回転可能に接続された下端を有する前方リンクと、前記基部に回転可能に接続された下端を有する後方リンクと、前記前方リンクの上端および前記後方リンクの上端のそれぞれに回転可能に接続された両端を含む横リンクと、を有する平行リンク構造を備え、前記上部アーム機構は、上部アーム回転軸線周りに回転可能に前記横リンクに接続されている、ことを特徴とする。
【0022】
本発明の参考例の第1の態様による産業用ロボットは、基部と、前記基部に設けられたアーム手段と、前記アーム手段を駆動するためのアーム駆動手段と、を備え、前記アーム手段は、平行リンク構造を有する下部アーム機構と、前記下部アーム機構の上部に設けられた上部アーム機構と、を有し、前記下部アーム機構は、前記基部に回転可能に接続された下端を有する前方リンクと、前記基部に回転可能に接続された下端を有する後方リンクと、を有し、前記アーム駆動手段は、前記下部アーム機構を駆動するための下部アーム駆動機構を有し、前記下部アーム駆動機構は、ナットおよびシャフトを有する下部ボールねじと、前記シャフトをその軸線周りに回転可能に支持する下部軸受け部と、を有し、前記前方リンクおよび前記後方リンクのいずれか一方の前記下端から延在する延長部が、ナット側回転軸線周りに回転可能に前記ナットに接続されており、前記下部軸受け部は、軸受け部側回転軸線周りに回転可能に前記基部に接続されており、前記ナット側回転軸線および前記軸受け部側回転軸線は、前記前方リンクおよび前記後方リンクの回転軸線と平行である、ことを特徴とする。
【0023】
本発明の参考例の第2の態様は、第1の態様において、前記延長部は、前記前方リンクおよび前記後方リンクのいずれか一方の前記下端から下方に延在している、ことを特徴とする。
【0024】
本発明の参考例の第3の態様は、第1または第2の態様において、前記軸受け部側回転軸線は、前記前方リンクおよび前記後方リンクのいずれか一方の前記下端よりも、前記前方リンクおよび前記後方リンクのいずれか他方の前記下端に近い位置にある、ことを特徴とする。
【0025】
本発明の参考例の第4の態様は、第3の態様において、前記軸受け部側回転軸線は、前記前方リンクおよび前記後方リンクのいずれか他方の前記下端の近傍に位置している、ことを特徴とする。
【0026】
本発明の参考例の第5の態様は、第1乃至第4のいずれかの態様において、前記軸受け部側回転軸線は、前記前方リンクおよび前記後方リンクのいずれか他方の前記下端の回転軸線よりも下方に位置している、ことを特徴とする。
【0027】
本発明の参考例の第6の態様は、第1乃至第5のいずれかの態様において、下部アーム駆動機構は、前記下部ボールねじの前記シャフトをその軸線周りに回転駆動するためのボールねじ駆動部を有し、前記ボールねじ駆動部は、共通の回転軸に動力を付与する一対の駆動モータを有する、ことを特徴とする。
【0028】
本発明の参考例の第7の態様は、第1乃至第6のいずれかの態様において、前記下部アーム機構は、前記前方リンクの上端および前記後方リンクの上端のそれぞれに回転可能に接続された両端を含む横リンクを有し、前記上部アーム機構は、上部アーム回転軸線周りに回転可能に前記横リンクに接続されている、ことを特徴とする。
【0029】
本発明の参考例の第8の態様は、第7の態様において、前記アーム駆動手段は、前記上部アーム機構を駆動するための上部アーム駆動機構を有し、前記上部アーム駆動機構は、ナットおよびシャフトを有する上部ボールねじと、前記上部ボールねじの前記シャフトをその軸線周りに回転可能に支持する上部軸受け部と、を有し、前記上部アーム機構は、前記上部アーム回転軸線とは異なる位置にて、ナット側回転軸線周りに回転可能に前記上部ボールねじの前記ナットに接続されており、前記上部軸受け部は、軸受け部側回転軸線周りに回転可能に前記横リンクに接続されており、前記上部ボールねじの前記ナット側回転軸線および前記軸受け部側回転軸線は、前記上部アーム回転軸線と平行である、ことを特徴とする。
【0030】
本発明の参考例の第9の態様は、第8の態様において、前記上部ボールねじの前記軸受け部側回転軸線は、前記横リンクの後端から後方に延在する延長部に位置している、ことを特徴とする。
【0031】
本発明の参考例の第10の態様は、第8または第9の態様において、前記上部アーム駆動機構は、前記上部ボールねじの前記シャフトをその軸線周りに回転駆動するための上部ボールねじ駆動部を有し、前記上部ボールねじ駆動部は、共通の回転軸に動力を付与する一対の駆動モータを有する、ことを特徴とする。
【0032】
本発明の参考例の第11の態様による産業用ロボットは、基部と、前記基部に設けられたアーム手段と、前記アーム手段を駆動するためのアーム駆動手段と、を備え、前記アーム手段は、平行リンク構造を有する下部アーム機構と、前記下部アーム機構の上部に設けられた上部アーム機構と、を有し、前記下部アーム機構は、前記基部に回転可能に接続された下端を有する前方リンクと、前記基部に回転可能に接続された下端を有する後方リンクと、前記前方リンクの上端および前記後方リンクの上端のそれぞれに回転可能に接続された両端を含む横リンクと、を有し、前記上部アーム機構は、上部アーム回転軸線周りに回転可能に前記横リンクに接続されており、前記アーム駆動手段は、前記上部アーム機構を駆動するための上部アーム駆動機構を有し、前記上部アーム駆動機構は、ナットおよびシャフトを有する上部ボールねじと、前記シャフトをその軸線周りに回転可能に支持する上部軸受け部と、を有し、前記上部アーム機構は、前記上部アーム回転軸線とは異なる位置にて、ナット側回転軸線周りに回転可能に前記上部ボールねじの前記ナットに接続されており、前記上部軸受け部は、軸受け部側回転軸線周りに回転可能に前記横リンクに接続されており、前記上部ボールねじの前記ナット側回転軸線および前記軸受け部側回転軸線は、前記上部アーム回転軸線と平行である、ことを特徴とする。
【0033】
本発明の参考例の第12の態様は、第11の態様において、前記上部ボールねじの前記軸受け部側回転軸線は、前記横リンクの後端から後方に延在する延長部に位置している、ことを特徴とする。
【0034】
本発明の参考例の第13の態様は、前記上部アーム駆動機構は、前記上部ボールねじの前記シャフトをその軸線周りに回転駆動するための上部ボールねじ駆動部を有し、前記上部ボールねじ駆動部は、共通の回転軸に動力を付与する一対の駆動モータを有する、ことを特徴とする。
【0035】
本発明の参考例の第14の態様による産業用ロボットは、基部と、前記基部に設けられたアーム手段と、前記アーム手段を駆動するためのアーム駆動手段と、を備え、前記アーム手段は、下部アーム機構と、前記下部アーム機構の上部に設けられた上部アーム機構と、を有し、前記アーム駆動手段は、前記下部アーム機構を駆動するための下部ボールねじと、前記上部アーム機構を駆動するための上部ボールねじと、を有する、ことを特徴とする。
【0036】
本発明の参考例の第15の態様は、第14の態様において、前記下部アーム機構は、前記基部に回転可能に接続された下端を有する前方リンクと、前記基部に回転可能に接続された下端を有する後方リンクと、前記前方リンクの上端および前記後方リンクの上端のそれぞれに回転可能に接続された両端を含む横リンクと、を有する平行リンク構造を備える、ことを特徴とする。
【0037】
本発明の参考例の第16の態様は、第15の態様において、前記上部アーム機構は、上部アーム回転軸線周りに回転可能に前記横リンクに接続されている、ことを特徴とする。
【0038】
本発明の参考例の第17の態様は、第14乃至第16のいずれかの態様において、前記上部アーム駆動機構は、前記上部ボールねじの前記シャフトをその軸線周りに回転駆動するための上部ボールねじ駆動部を有し、前記上部ボールねじ駆動部は、共通の回転軸に動力を付与する一対の駆動モータを有し、前記下部アーム駆動機構は、前記下部ボールねじの前記シャフトをその軸線周りに回転駆動するための下部ボールねじ駆動部を有し、前記下部ボールねじ駆動部は、共通の回転軸に動力を付与する一対の駆動モータを有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、アームを駆動するための手段にボールねじを採用した場合でも、先端側部分を含むシャフト全体においてパーティクルの付着などを防止して、支障なく運転することができる産業用ロボットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明の一実施形態による産業用ロボットの斜視図。
図2図1に示した産業用ロボットの上面図。
図3図1に示した産業用ロボットの側面図。
図4図1に示した産業用ロボットの正面図。
図5図1に示した産業用ロボットの背面図。
図6図1に示した産業用ロボットの内部構造を説明するための部分断面図。
図7図1に示した産業用ロボットの下部ボールねじの縦断面図。
図8図1に示した産業用ロボットの下部ボールねじの横断面図。
図9図1に示した産業用ロボットの上部ボールねじの縦断面図。
図10図1に示した産業用ロボットの上部ボールねじの横断面図。
図11図1に示した産業用ロボットの他の姿勢を示した側面図。
図12図11に示した産業用ロボットの部分断面図。
図13図1に示した産業用ロボットの動作範囲の一例を説明するための図。
図14図1に示した産業用ロボットの主要部を拡大して示した図。
図15図1に示した産業用ロボットの主要部を拡大して示した他の図。
図16図1に示した産業用ロボットの主要部を拡大して示した他の図。
図17】本発明の他の実施形態による産業用ロボットの主要部を拡大して示した図。
図18図17のA−A断面図。
図19図17のB−B断面図。
図20図17に示した産業用ロボットの先端側カバー部材の取付構造を説明するための展開図。
図21図17に示した産業用ロボットの先端側カバー部材の取付構造を説明するための上面図。
図22図17に示した産業用ロボットの主要部を拡大して示した図。
図23図17に示した産業用ロボットの主要部を拡大して示した他の図。
図24図17に示した産業用ロボットの主要部を拡大して示した他の図。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の一実施形態による産業用ロボットについて、図面を参照して説明する。
【0042】
図1乃至図7に示したように、本実施形態による産業用ロボット1は、床面に設置された基台2を有し、この基台2には、垂直方向に延在する第1回転軸線(旋回軸線)J1周りに回転可能に旋回基部3が設けられている。
【0043】
図2に良く示されているように、旋回基部3の左右両側には一対のサーボモータ4が設けられており、これらのサーボモータ4によって、基台2に対して旋回基部3が第1回転軸線周りに回転駆動される。
【0044】
図1に良く示されているように、ロボット1の旋回基部3にはアーム手段5が設けられており、アーム手段5は、平行リンク構造を有する下部アーム機構6と、下部アーム機構6の上部に設けられた上部アーム機構7とを有する。
【0045】
図6に良く示されているように、下部アーム機構6は、旋回基部3に回転可能に接続された下端8Aを有する第1リンク(前方リンク)8と、旋回基部3に回転可能に接続された下端9Aを有する縦リンク(後方リンク)9と、第1リンク8の上端8Bおよび縦リンク9の上端9Bのそれぞれに回転可能に接続された両端10A、10Bを含む横リンク10を有する。
【0046】
上記の通り、第1リンク8の下端8Aおよび縦リンク9の下端9Aの両方が旋回基部3に接続されているので、下部アーム機構6の平行リンク構造は、その下辺が固定された平行リンク構造である。これにより、下部アーム機構6の機械剛性を大幅に高めることができる。
【0047】
旋回基部3は、その上部に、前後方向および上下方向に延在する左右一対の下部支持板11を有する。第1リンク8の下端8Aは、左右の下部支持板11の間に挿入され、水平方向に延在する第2回転軸線J2周りに回転可能に左右の下部支持板11に接続されている。縦リンク9の下端9Aは、左右の下部支持板11の間に挿入され、水平方向に延在する後方下部回転軸線A1周りに回転可能に左右の下部支持板11に接続されている。
【0048】
横リンク10は、前後方向および上下方向に延在する左右一対の上部支持板12を有する。第1リンク8の上端8Bは、左右の上部支持板12の間に挿入され、水平方向に延在する前方上部回転軸線A2周りに回転可能に左右の上部支持板12に接続されている。縦リンク9の上端9Bは、左右の上部支持板12の間に挿入され、水平方向に延在する後方上部回転軸線A3周りに回転可能に左右の上部支持板12に接続されている。
【0049】
上部アーム機構7は第2リンク13を有し、第2リンク13の後端から延在する後端延長部14が、左右の上部支持板12の前端部分の間に挿入され、水平方向に延在する第3回転軸線(上部アーム回転軸線)J3周りに回転可能に左右の上部支持板12に接続されている。第2リンク13の前端13Aには、第2リンク13の長手軸線方向に延在する第4回転軸線J4周りに回転可能に連絡リンク15が接続されている。
【0050】
連絡リンク15の前端には、第4回転軸線J4に直交する方向に延在する第5回転軸線J5周りに回転可能に手首部16が接続されている。手首部16の前端には、第5回転軸線J5に直交する方向に延在する第6回転軸線J6周りに回転可能に回転体17が設けられている。
【0051】
産業用ロボット1は、下部アーム機構6および上部アーム機構7を有するアーム手段5を駆動するためのアーム駆動手段18を備える。
【0052】
アーム駆動手段18は、下部アーム機構6を駆動するための下部アーム駆動機構19と、上部アーム機構7を駆動するための上部アーム駆動機構20と、を有する。
【0053】
図6に良く示されているように、下部アーム駆動機構19は、ナット21Aおよびシャフト21Bを有する下部ボールねじ21と、シャフト21Bをその軸線周りに回転可能に支持する下部軸受け部22と、下部ボールねじ21のシャフト21Bをその軸線周りに回転駆動するための下部ボールねじ駆動部23を有する。
【0054】
下部軸受け部22は、少なくともその一部が左右の下部支持板11の間に配置され、軸受け部側回転軸線B1周りに回転可能に左右の下部支持板11に接続されている。軸受け部側回転軸線B1は、第2回転軸線J2よりも下方において、第1リンク8の下端8Aの近傍に位置している。
【0055】
縦リンク9は、その下端9Aから下方に延在する左右一対の下端延長部24を有する。縦リンク9の左右の下端延長部24の間に下部ボールねじ21のナット21Aが配置され、ナット21Aは、ナット側回転軸線B2周りに回転可能に、縦リンク9の左右の下端延長部24に接続されている。
【0056】
軸受け部側回転軸線B1およびナット側回転軸線B2は、水平方向に延在し、第1リンク(前方リンク)および縦リンク(後方リンク)の回転軸線J2、A1と平行である。
【0057】
アーム駆動手段18の上部アーム駆動機構20は、ナット25Aおよびシャフト25Bを有する上部ボールねじ25と、シャフト25Bをその軸線周りに回転可能に支持する上部軸受け部26と、上部ボールねじ25のシャフト25Bをその軸線周りに回転駆動するための上部ボールねじ駆動部27を有する。
【0058】
横リンク10の左右の上部支持板12のそれぞれは、その後端から後方に延在する後端延長部28を有する。上部軸受け部26の少なくとも一部が、横リンク10の左右の上部支持板12の後端延長部28の間に配置され、軸受け部側回転軸線B3周りに回転可能に横リンク10の左右の後端延長部28に接続されている。
【0059】
第2リンク13の後端から延在する後端延長部14は、第3回転軸線(上部アーム回転軸線)J3とは異なる位置にて、ナット側回転軸線B4周りに回転可能に上部ボールねじ25のナット25Aに接続されている。
【0060】
上部ボールねじ25のナット側回転軸線B4および軸受け部側回転軸線B3は、水平方向に延在し、第3回転軸線(上部アーム回転軸線)J3と平行である。
【0061】
図7に示したように、下部ボールねじ駆動部23は、ギヤボックス29内の共通の回転軸30に動力を付与する一対のサーボモータ31を有する。すなわち、一対のサーボモータ31の出力軸に設けられた一対のギヤ32が、共通の回転軸30に設けられた入力側ギヤ33と噛み合っている。共通の回転軸30に設けられた出力側ギヤ34は、下部ボールねじ21のシャフト21Bの後端に設けられたギヤ35と噛み合っている。
【0062】
このように共通の回転軸30を一対のサーボモータ31で駆動することにより、各サーボモータ31の容量を大きくせずに、下部ボールねじ21のシャフト21Bに対して大きな駆動力を付与することができる。
【0063】
図8に示したように、下部ボールねじ21の下部軸受け部22は、軸受け部側回転軸線B1に沿ってシャフト21Bの左右両側に配置された左右支持軸36を介して、旋回基部4の左右の下部支持板11に回転可能に接続されている。下部ボールねじ21のナット21Aは、ナット側回転軸線B2に沿ってナット21Aの左右両側に配置された左右支持軸37を介して、縦リンク9の左右の下端延長部24に回転可能に接続されている。
【0064】
また、本実施形態による産業用ロボット1においては、図7および図8に示したように、下部ボールねじ21のシャフト21Bの露出部分の周囲を覆うための下部カバー手段50が設けられている。下部カバー手段50は、ナット21Aよりも先端側のシャフト21Bを覆うための先端側カバー部材51と、ナット21Aよりも基端側のシャフト21Bを覆うための基端側カバー部材52とを有する。
【0065】
先端側カバー部材51は、先端側が封止され、軸方向に伸縮可能な蛇腹構造の筒状部材で構成されている。先端側カバー部材51の基端部は、ナット21Aに連結されている。先端側カバー部材51の先端部は、シャフト21Bの先端部に連結されている。
【0066】
先端側カバー部材51の先端部とシャフト21Bの先端部との連結は、先端側カバー部材51を構成する筒状部材の先端側を封止する封止部材53を、ピン部材54によってシャフト21Bの先端部に回転可能に接続することにより実現されている。この連結構造により、シャフト21Bの回転を可能としつつ、回転しない先端側カバー部材51をシャフト21Bの先端に取り付けることができる。
【0067】
基端側カバー部材52は、軸方向に伸縮可能な蛇腹構造の筒状部材で構成されており、その先端部がナット21Aに連結されており、その基端部が下部軸受部22に連結されている。
【0068】
サーボモータ31を駆動してシャフト21Bを回転させ、ナット21Aをシャフト21Bに沿って後方に移動させると、先端側カバー部材51が伸長すると共に、基端側カバー部材52が収縮する。シャフト21Bを逆に回転させ、ナット21Aをシャフト21Bに沿って前方に移動させると、先端側カバー部材51が収縮すると共に、基端側カバー部材52が伸長する。これにより、ナット21Aの位置に関わらず、シャフト21Bの露出部分の周囲の全体を下部カバー手段50によって覆うことができる。
【0069】
図9に示したように、上部ボールねじ駆動部27は、ギヤボックス38内の共通の回転軸39に動力を付与する一対のサーボモータ40を有する。すなわち、一対のサーボモータ40の出力軸に設けられた一対のギヤ41が、共通の回転軸39に設けられた入力側ギヤ42と噛み合っている。共通の回転軸39に設けられた出力側ギヤ43は、上部ボールねじ25のシャフト25Bの後端に設けられたギヤ44と噛み合っている。
【0070】
このように共通の回転軸39を一対のサーボモータ40で駆動することにより、各サーボモータ40の容量を大きくせずに、上部ボールねじ25のシャフト25Bに対して大きな駆動力を付与することができる。
【0071】
図10に示したように、上部ボールねじ25の上部軸受け部26は、軸受け部側回転軸線B3に沿ってシャフト25Bの左右両側に配置された左右支持軸45を介して、横リンク10の左右の後端延長部28に回転可能に接続されている。上部ボールねじ25のナット25Aは、ナット側回転軸線B4に沿ってナット25Aの左右両側に配置された左右支持軸46を介して、第2リンク13の左右の後端延長部14に回転可能に接続されている。
【0072】
また、本実施形態による産業用ロボット1においては、図9および図10に示したように、上部ボールねじ25のシャフト25Bの露出部分の周囲を覆うための上部カバー手段60が設けられている。
【0073】
上部カバー手段60は、ナット25Aよりも先端側のシャフト25Bを覆うための先端側カバー部材61と、ナット25Aよりも基端側のシャフト25Bを覆うための基端側カバー部材62とを有する。
【0074】
なお、図9および図10においては、シャフト25Bの先端部がナット25Aの内部に位置しているが、シャフト25Bを回転させてナット25Aを後方に移動させると、シャフト25Bの先端部がナット25Aから先端側に突出する。
【0075】
先端側カバー部材61は、先端側が封止され、軸方向に伸縮可能な蛇腹構造の筒状部材で構成されている。先端側カバー部材61の基端部は、ナット25Aに連結されている。
【0076】
一方、先端側カバー部材61の先端部の封止部材63は、シャフト25Bの先端部には連結されておらず、先端側カバー部材61の先端部は自由端である。図9および図10に示したように、上部ボールねじ25においては、シャフト25Bの先端部がナット25Aの内部に引き込まれるので、先端側カバー部材61の先端部は、上記のとおりシャフト25Bの先端部に連結されていない。
【0077】
基端側カバー部材62は、軸方向に伸縮可能な蛇腹構造の筒状部材で構成されており、その先端部がナット25Aに連結されており、その基端部が上部軸受部26に連結されている。
【0078】
サーボモータ40を駆動してシャフト25Bを回転させ、ナット25Aをシャフト25Bに沿って後方に移動させると、基端側カバー部材62が収縮する。
【0079】
このとき、先端側カバー部材61は、次に述べるような挙動を示す(図14乃至図16)。図16に示した状態、すなわち、シャフト25Bの先端がナット25Aの内部にある状態から、ナット25Aを後方に移動させると、図15に示したように、シャフト25Bの先端がナット25Aから先端側に突出する。さらにナット25Aを後方に移動させと、図14に示したように、シャフト25Bの先端が先端側カバー部材61の封止部材63に当接し、封止部材63を前方に押圧することにより、先端側カバー部材61が伸長する。
【0080】
これにより、ナット25Aの位置が移動して、ナット部材25Aからのシャフト25Bの突出量が変化した場合でも、シャフト25Bの露出部分の周囲の全体を上部カバー手段60によって覆うことができる。
【0081】
上述した産業用ロボット1において、下部アーム機構6の姿勢を制御する際には、下部ボールねじ駆動部23のサーボモータ31を駆動して、下部ボールねじ21のシャフト21Bに沿ってナット21Aを直動駆動する。縦リンク9の下端延長部24がナット21Aに回転可能に接続されているので、シャフト21Bに沿ってナット21Aが直動することにより、後方下部回転軸線A1周りに縦リンク9が回転する。これに伴って、縦リンク9と共に平行リンク構造を形成する第1リンク8および横リンク10が動き、これにより、下部アーム機構6の姿勢を制御することができる。
【0082】
上部アーム機構7の姿勢を制御する際には、上部ボールねじ駆動部27のサーボモータ40を駆動して、シャフト25Bに沿ってナット25Aを直動駆動する。第2リンク13の後端延長部14がナット25Aに回転可能に接続されているので、シャフト25Bに沿ってナット25Aが直動することにより、第3回転軸線J3周りに第2リンク13が回転する。これにより、上部アーム機構7の姿勢を制御することができる。
【0083】
図11および図12は、下部アーム機構6を前傾姿勢に制御すると共に、上部アーム機構7を上向き姿勢に制御した状態を示している。このとき、下部ボールねじ21のナット21Aはシャフト21Bの先端側に位置しており、上部ボールねじ25のナット25Aはシャフト25Bの基端側に位置している。
【0084】
下部アーム機構6を、図3に示した直立姿勢から、図11に示した前傾姿勢に変化させる際には、下部ボールねじ21のシャフト21Bが軸受け部回転軸線B1周りに回転する。
【0085】
第2リンク13が第3回転軸線J3周りに回転可能に横リンク10に接続されているので、上部アーム機構7の姿勢は、下部アーム機構6の姿勢から独立して制御することができる。なお、平行リンク構造を有する下部アーム機構6の横リンク10の姿勢は、第1リンク8および縦リンク9の姿勢が変化しても変化しない。
【0086】
図13は、産業用ロボット1の手首部16の回転軸線である第5回転軸線J5に位置する点Pの動作範囲Rの一例を示している。図13から分かるように、本実施形態による産業用ロボット1は、その動作範囲Rを前面上方および前面下方に広く確保することができる。
【0087】
以上述べたように、本実施形態による産業用ロボット1によれば、下部カバー手段50および上部カバー手段60によって、下部ボールねじ21のシャフト21Bおよび上部ボールねじ25のシャフト25Bのそれぞれの露出部分の周囲を、ロボットの姿勢に関わらず常に覆うことができる。これにより、下部ボールねじ21および上部ボールねじ25への周囲のパーティクルの付着を防止し、また、潤滑剤の周囲への飛散を防止することができる。
【0088】
また、下部アーム機構6の平行リンク構造の下辺を固定すると共に、下部アーム機構6の駆動に下部ボールねじ21を用い、さらに、下部アーム機構6に対して上部アーム機構7を第3回転軸線J3周りに回転可能に接続したので、高い負荷条件の下で、前面上方および前面下方の広い動作範囲にわたって、高い機械剛性を確保することができる。
【0089】
また、縦リンク(後方リンク)9の下部延長部24に下部ボールねじ21のナット21Aを回転可能に接続すると共に、下部ボールねじ21の軸受け部側回転軸線B1を、第1リンク(前方リンク)8の第2回転軸線J2よりも下方において、第1リンク8の下端8Aの近傍に配置したので、下部アーム機構6を直立姿勢(図3)から前傾姿勢(図11)に変化させた場合、或いはその逆の動作を行った場合でも、下部ボールねじ21が下部アーム機構6と干渉することがない。
【0090】
このため、下部アーム機構6の姿勢の変化量を大きく確保することができ、ひいてはロボット1の動作範囲を広く確保することができる。また、下部ボールねじ21のシャフト21Bの飛び出し方向が、ロボット1の作業領域と反対側となる後方を向いているので、下部ボールねじ21の作業領域への干渉も防止することができる。
【0091】
また、本実施形態による産業用ロボット1によれば、上部アーム機構7の駆動に上部ボールねじ25を用いているので、ロボット1の機械剛性をさらに高めることができる。すなわち、下部アーム機構6および上部アーム機構7の両方の駆動機構にボールねじを採用することにより、ロボット全体の機械剛性を大幅に高めることができる。
【0092】
また、本実施形態による産業用ロボット1においては、下部アーム機構6および上部アーム機構7の各駆動機構に、下部ボールねじ21および上部ボールねじ25を用いており、一般にボールねじは、動力の伝達効率高く、遊びが少ないので、バックドライバビリティが高い。
【0093】
このため、例えば高負荷時の外力による位置ズレを、フィードバック制御によりソフト的に高精度にて制御することができる。特に、下部アーム機構6および上部アーム機構7の両方の駆動機構にボールねじを採用することにより、ロボット全体の位置制御精度を大幅に高めることができる。
【0094】
また、本実施形態による産業用ロボット1によれば、常に姿勢が一定である横リンク10に第2アーム13を回転可能に接続したので、第2アーム13の重力トルクの大きい姿勢で、上部ボールねじ25の駆動力が最も大きくなるようにしたり、最も剛性が必要な姿勢で、上部ボールねじ25の駆動力を大きくしたりすることができる。
【0095】
また、本実施形態による産業用ロボット1によれば、下部アーム機構6の平行リンク構造の下辺を固定すると共に、第1リンク8および縦リンク9の下方に下部ボールねじ21およびその駆動部を配置するようにしたので、旋回基部3の大きさを拡大することなく、下部ボールねじ21をコンパクトな配置で設けることができる。
【0096】
また、本実施形態による産業用ロボット1によれば、2つのサーボモータによってボールねじを駆動するようにしたので、各サーボモータの容量を大きくせずに、ボールねじのシャフトに対して大きな駆動力を付与することが可能であり、高負荷条件に対応できるロボットを容易に製造することができる。
【0097】
また、本実施形態による産業用ロボット1によれば、下部アーム機構6の平行リンク構造の下辺が固定されているので、上部アーム機構7の駆動機構として上記の通りボールねじを採用した場合でも、ロボット1の動作範囲のどの部分で高剛性・高トルクを確保するか、用途に応じて最適な設計を行うことができる。
【0098】
すなわち、ボールねじ(直動アクチュエータ)を用いてアームリンクの回転動作を実現する場合、アームリンクの回転軸線と、ボールねじのシャフト(直動軸)の長手軸線との最短距離が、トルクおよび剛性を支配する。
【0099】
上記実施形態で言えば、縦リンク9の後方下部回転軸線A1と、下部ボールねじ21のシャフト21Bの長手軸線との最短距離(後方下部回転軸線A1からシャフト21Bの長手軸線に対して引いた垂線の長さ)が、下部アーム機構6のトルクおよび剛性を支配する。
【0100】
同様に、第2リンク13の第3回転軸線J3と、上部ボールねじ25のシャフト25Bの長手軸線との最短距離(第3回転軸線J3からシャフト25Bの長手軸線に対して引いた垂線の長さ)が、上部アーム機構7のトルクおよび剛性を支配する。
【0101】
後方下部回転軸線A1周りに縦リンク9が回転すると、縦リンク9の下端延長部(ナット側回転軸線B2)24は、後方下部回転軸線A1を中心に円弧状に動くため、下部ボールねじ21のシャフト(直動軸)21Bの長手軸線と後方下部回転軸線A1との最短距離が変化する。このため、下部アーム機構6における剛性・出力トルク、速度が変化する。
【0102】
同様に、第3回転軸線J3周りに第2リンク13が回転すると、第2リンク13の後端延長部14のナット側回転軸線B4の部分は、第3回転軸線J3を中心に円弧状に動くため、上部ボールねじ25のシャフト(直動軸)25Bの長手軸線と第3回転軸線J3との最短距離が変化する。このため、上部アーム機構7における剛性・出力トルク、速度が変化する。
【0103】
上述したように、縦リンク9の回転動作に応じて下部アーム機構6における剛性・出力トルク、速度が変化し、また、第2リンク13の回転動作に応じて上部アーム機構7における剛性・出力トルク、速度が変化するので、ロボット1の動作範囲のどの部分で、高剛性・高トルクを確保するか、用途に応じて最適な設計を行う必要がある。
【0104】
ここで、仮に下部アーム機構6の平行リンク構造の下辺を固定せずに回転可能とした場合(特許文献3参照)、第2リンク13の第3回転軸線J3と上部ボールねじ25のシャフト25Bの長手軸線との最短距離が、第2リンク13の姿勢が変化しなくても第1リンク8の姿勢によって変化する。このため、常に一定方向に作用する重力との関係から、動作範囲のどの部分で高剛性・高トルクを確保するかに関して、バランスの良い領域設定が難しい。
【0105】
これに対して本実施形態による産業用ロボット1においては、下部アーム機構6の平行リンク構造の下辺を固定するようにしたので、下部アーム機構6の平行リンク構造の上辺を構成する横リンク10の姿勢が、第1アーム8の姿勢の変化に影響を受けない。このため、第2リンク13の第3回転軸線J3と上部ボールねじ25のシャフト25Bの長手軸線との最短距離は、第2リンク13の姿勢が変化しない限り、第1リンク8の姿勢によって変化することはない。
【0106】
従って、上部アーム機構7の駆動機構としてボールねじを採用した場合でも、動作範囲のどの部分で高剛性・高トルクを確保するかに関して、バランスの良い領域設定を容易に行うことができる。
【0107】
次に、本発明の他の実施形態による産業用ロボットについて、図面を参照して説明する。
【0108】
上述した実施形態においては、図15および図16に示したように、上部ボールねじ25のシャフト25Bの先端部が、上部カバー手段60の先端側カバー部材61の封止部材63に当接されていない状態においては、先端側カバー部材61の先端部が垂れ下がった状態になる。
【0109】
この場合、シャフト25Bの先端と先端側カバー部材61の内壁との接触により、先端側カバー部材61が破損する可能性がある。また、先端側カバー部材61の周囲空間は狭いので、先端側カバー部材61の垂れ下がった先端部が、周囲の構造物と干渉してしまう可能性がある。
【0110】
本実施形態による産業用ロボットは、上部カバー手段60の先端側カバー部材61における上述の垂れ下がりの問題を解決するものである。
【0111】
すなわち、本実施形態による産業用ロボットにおいては、上部カバー手段60の先端側カバー部材61が、その蛇腹構造の筒状部材を軸方向に収縮させる収縮力を発生させるための収縮力発生手段を有している。収縮力発生手段は、収縮力を発生させるための複数の磁石を有している。
【0112】
具体的には、図17乃至図19に示したように、収縮力発生手段を構成する複数の磁石70は、先端側カバー部材61の蛇腹構造の筒状部材において、隣接する蛇腹折り部64同士の間に、磁力による吸引力を発生させるように配置されている。
【0113】
また、収縮力発生手段を構成する複数の磁石70は、先端側カバー部材61の筒状部材の先端部側よりも、基端部側において、より強い吸引力を発生させるように配置されている。すなわち、先端側カバー部材61の筒状部材の基端部側(図18)には、先端部側(図19)よりも多くの磁石70が配置されている。
【0114】
図20および図21は、先端側カバー部材61の取付構造を模式的に示している。先端側カバー部材61の基端部に取付シート65が設けられており、取付シート65の各遇部には面ファスナーなどの締結手段66が設けられている。
【0115】
そして、取付シート65をナット25Aの一部に巻き付けて、締結手段66によって取付シート65の遇部同士を固定することにより、先端側カバー部材61がナット25Aに取り付けられる。
【0116】
なお、上述した実施形態における先端側カバー部材61(図9図10)においても、同様の取付構造が採用されている。
【0117】
上述したように本実施形態による産業用ロボットにおいては、上部カバー手段60の先端側カバー部材61の蛇腹構造の筒状部材に、複数の磁石70を有する収縮力発生手段を設け、蛇腹構造の筒状部材をその軸方向に収縮させる収縮力を磁力によって付与するようにしている。
【0118】
このため、図22に示した状態、すなわち、シャフト25Bの先端部によって先端側カバー部材61の封止部材63が押圧された状態から、ナット25Aが前進してシャフト25Bの突出量が減少すると、図23に示したように、収縮力発生手段による収縮力によって、シャフト25Bの突出量の減少に追従して先端側カバー部材61の蛇腹構造の筒状部材が収縮する。
【0119】
さらにナット25Aが前方に移動して、シャフト25Bの先端がナット25Aの内部に位置すると、図24に示したように、先端側カバー部材61の蛇腹構造の筒状部材は、収縮力発生手段による収縮力によって、その最短長さまで収縮する。
【0120】
上述したように、本実施形態による産業用ロボットにおいては、上部カバー手段60の先端側カバー部材61の蛇腹構造の筒状部材に、複数の磁石70を有する収縮力発生手段を設け、蛇腹構造の筒状部材をその軸方向に収縮させる収縮力を磁力によって付与するようにしたので、ナット25Aからのシャフト25Bの突出量が少ない場合でも、或いはまったく突出していない場合でも、先端側カバー部材61の先端部が垂れ下がることがない。
【0121】
このため、シャフト25Bの先端部がナット25Aの内部にある状態(図24)から、シャフト25Bを回転駆動してナット25Aを後退させ、シャフト25Bの先端部をナット25Aから前方に突出させた状態(図23)にする際に、シャフト25の先端が先端側カバー部材61の内壁に接触することを防止できる。
【0122】
また、先端側カバー部材61の周囲の狭い空間において、先端側カバー部材61の垂れ下がった先端部が、周囲の構造物と干渉することを防止できる。
【符号の説明】
【0123】
1 産業用ロボット
2 基台
3 旋回基部
4 旋回用のサーボモータ
5 アーム手段
6 下部アーム機構
7 上部アーム機構
8 第1リンク(前方リンク)
8A 第1リンクの下端
8B 第1リンクの上端
9 縦リンク(後方リンク)
9A 縦リンクの下端
9B 縦リンクの上端
10 横リンク
10A 横リンクの前端
10B 横リンクの後端
11 下部支持板
12 上部支持板
13 第2リンク
13A 第2リンクの前端
14 第2リンクの後端延長部
15 連結リンク
16 手首部
17 回転体
18 アーム駆動手段
19 下部アーム駆動機構
20 上部アーム駆動機構
21 下部ボールねじ
21A 下部ボールねじのナット
21B 下部ボールねじのシャフト
22 下部軸受け部
23 下部ボールねじ駆動部
24 縦リンクの下端延長部
25 上部ボールねじ
25A 上部ボールねじのナット
25B 上部ボールねじのシャフト
26 上部軸受け部
27 上部ボールねじ駆動部
28 横リンクの後端延長部
29 下部ボールねじ駆動部のギヤボックス
30 下部ボールねじ駆動部の共通の回転軸
31 下部ボールねじ駆動部のサーボモータ
32、33、34、35 下部ボールねじ駆動部のギヤ
36、37 下部ボールねじの支持軸
38 上部ボールねじ駆動部のギヤボックス
39 上部ボールねじ駆動部の共通の回転軸
40 上部ボールねじ駆動部のサーボモータ
39 上部ボールねじ駆動部の共通の回転軸
40 上部ボールねじ駆動部のサーボモータ
41、42、43、44 上部ボールねじ駆動部のギヤ
45、46 上部ボールねじの支持軸
50 下部カバー手段
51 下部カバー手段の先端側カバー部材
52 下部カバー手段の基端側カバー部材
53 下部カバー手段の先端側カバー部材の封止部材
60 上部カバー手段
61 上部カバー手段の先端側カバー部材
62 上部カバー手段の基端側カバー部材
63 上部カバー手段の先端側カバー部材の封止部材
64 先端側カバー部材の蛇腹折り部
65 取付シート
66 締結手段
70 磁石(収縮力発生手段)
J1 第1回転軸線(旋回軸線)
J2 第2回転軸線
J3 第3回転軸線(上部アーム回転軸線)
J4 第4回転軸線
J5 第5回転軸線
J6 第6回転軸線
A1 後方下部回転軸線
A2 前方上部回転軸線
A3 後方上部回転軸線
B1 下部ボールねじの軸受け部側回転軸線
B2 下部ボールねじのナット側回転軸線
B3 上部ボールねじの軸受け部側回転軸線
B4 上部ボールねじのナット側回転軸線
R ロボットの動作範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24