特許第6749130号(P6749130)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6749130
(24)【登録日】2020年8月13日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】加熱発泡性エマルション組成物
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/12 20060101AFI20200824BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20200824BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
   C08J9/12CEY
   C09K3/00 111B
   F16F15/02 Q
   C09K3/00 P
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-73686(P2016-73686)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-186388(P2017-186388A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2018年12月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】波元 冬子
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 幸弘
【審査官】 飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−063651(JP,A)
【文献】 特開2009−062507(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/159047(WO,A1)
【文献】 特開2007−085385(JP,A)
【文献】 特開2013−199531(JP,A)
【文献】 特開2006−335938(JP,A)
【文献】 特開2002−012601(JP,A)
【文献】 特開2007−154004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−9/42
C09K 3/00
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エマルションポリマーを含む加熱発泡性エマルション組成物であって、
該エマルションポリマーは、(メタ)アクリル系ポリマーからなり、その重量平均分子量が5万以上であり、動的粘弾性を測定した場合の70℃、1Hzでの貯蔵弾性率が、5.0×10Pa以上であり、
該組成物は、更に、界面活性剤成分を含み、
該界面活性剤成分は、その1.0質量%水溶液における55℃でのラメラ長が20℃でのラメラ長よりも大きく、2.0cm以上であり、
塗料に用いられるものである
ことを特徴とする加熱発泡性エマルション組成物。
【請求項2】
前記エマルションポリマーは、前記貯蔵弾性率が、5.0×10Pa以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の加熱発泡性エマルション組成物。
【請求項3】
前記エマルションポリマーは、カルボン酸(塩)基をもつモノマー単位を有するポリマーを含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の加熱発泡性エマルション組成物。
【請求項4】
前記組成物は、制振材に用いられる
ことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の加熱発泡性エマルション組成物。
【請求項5】
前記制振材は、自動車制振材である
ことを特徴とする請求項に記載の加熱発泡性エマルション組成物。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載の加熱発泡性エマルション組成物、及び、顔料を含む
ことを特徴とする塗料。
【請求項7】
請求項に記載の塗料を用いて得られる
ことを特徴とする塗膜。
【請求項8】
塗料を用いて塗膜を製造する方法であって、
請求項1〜のいずれかに記載の加熱発泡性エマルション組成物、及び、顔料を含む塗料を加熱することにより、該塗料を発泡させて塗膜を得る工程を含むことを特徴とする塗膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱発泡性エマルション組成物に関し、より詳しくは、制振性が要求される各種構造体等に好適に用いることができる加熱発泡性エマルション組成物、該加熱発泡性エマルション組成物を含む塗料、及び、該塗料を用いて得られる塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
エマルション組成物は、近年では環境保護や塗膜形成時の作業性、工業製品に対する安全性等を考慮して、多くの工業製品の製造において各種機能を発揮する塗膜を形成するために使用されている。例えば、撹拌等により発泡(機械発泡)し、所望の機能を発揮する発泡性エマルション組成物が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
ところで近年においては、新たな機能の一つとして制振性が注目され、エマルション組成物が制振材用途等にも使用されている。
【0003】
制振材は、各種構造体の振動や騒音を防止して静寂性を保つためのものであり、自動車の室内床下等に用いられている他、鉄道車両、船舶、航空機や電気機器、建築構造物、建設機器等にも広く利用されている。制振材としては、従来、振動吸収性能及び吸音性能を有する材料を素材とする板状又はシート状の成形加工品が使用されていたが、その代替品として、エマルション組成物を用いて塗膜を形成することにより振動吸収効果及び吸音効果を得ることが可能な塗料が種々提案されている(例えば、特許文献4〜7参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−124137号公報
【特許文献2】特開2011−184637号公報
【特許文献3】特開2013−1891号公報
【特許文献4】特開2007−85385号公報
【特許文献5】特許第5159628号公報
【特許文献6】特開2013−199531号公報
【特許文献7】特許第5660779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エマルション組成物を含む塗料では、塗布後に水が揮散してエマルション粒子同士が融着することで塗膜が形成される。効率化の観点から、塗布した塗料を加熱乾燥(焼き付け)することが考えられるが、その場合、特に塗膜の膜厚が厚いときは、塗膜表面から成膜し、いわゆる皮張りが生じ、塗膜中の水が乾燥中に抜けにくくなるため、加熱乾燥性が良好なものにならない。このように加熱乾燥性が悪く、良好な塗膜が形成されないと、塗膜の外観が劣るものとなるとともに、制振性等の所望の機能を充分に発現することができなくなる。
【0006】
上記のように塗料として種々のものが提案されているが、加熱乾燥性が良く、外観に優れるとともに制振材として用いた場合に優れた制振性を発揮できる塗膜を好適に形成することができる塗料はいまだ見出されていない。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、加熱乾燥性が良く、外観に優れるとともに制振材として用いた場合に優れた制振性を発揮できる塗膜を好適に形成することができる塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、加熱乾燥性が良い材料について種々検討し、加熱発泡性エマルション組成物に着目した。加熱発泡性エマルション組成物を用いることにより、加熱乾燥時に発泡が生じて水の蒸発経路が形成されることで、塗料の加熱乾燥性を改善できる可能性がある。次いで、本発明者は、発泡性を好適に調整する方法について種々検討し、その結果、エマルション組成物において、高温条件下でのエマルションポリマー及び界面活性剤成分の物理的特性が重要であることを見出した。例えば、高温条件下でのラメラ長が常温条件下でのラメラ長よりも大きい界面活性剤成分を使用することで、加熱乾燥時に泡が生じるだけでなく、その泡を安定化することができる。また、高温条件下でのエマルションポリマーの貯蔵弾性率を所定の数値範囲内のものとすることで、加熱乾燥時に生じる泡の形状を適切な形状に保持することができる。そして、本発明者は、高温条件下でのエマルションポリマーの貯蔵弾性率と、界面活性剤成分の高温条件下でのラメラ長との両方が特定された新規な加熱発泡性エマルション組成物により、塗料の加熱乾燥性を良好なものとすることができ、上記課題を見事に解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、エマルションポリマーを含む加熱発泡性エマルション組成物であって、該エマルションポリマーは、動的粘弾性を測定した場合の70℃、1Hzでの貯蔵弾性率が、5.0×10Pa以上であり、該組成物は、更に、界面活性剤成分を含み、該界面活性剤成分は、その1.0質量%水溶液における55℃でのラメラ長が20℃でのラメラ長よりも大きい加熱発泡性エマルション組成物である。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0010】
<本発明の加熱発泡性エマルション組成物>
本発明の加熱発泡性エマルション組成物が上記界面活性剤成分を含むとは、エマルションポリマーが乳化重合により得られるものであって、乳化重合時に該成分の全部を用いることで、該組成物が該成分を含むものであってもよく、乳化重合時に該成分の一部を用い、得られたエマルションポリマーに該成分の残部を添加することで、該組成物が該成分を含むものであってもよく、乳化重合以外の方法で重合されたポリマーに該成分が作用してエマルションポリマーを形成することで、該組成物が該成分を含むものであってもよい。中でも、本発明の効果を顕著なものとする観点からは、本発明の加熱発泡性エマルション組成物が、エマルションポリマーが乳化重合により得られるものであって、該乳化重合時に該成分の全部又は一部を用いることで、該組成物が該成分を含むものであることが好ましい。また、乳化重合時に該成分を用いる場合、該成分は、通常の界面活性剤(エマルションポリマーとは別の化合物)であってもよく、エマルションポリマーを形成するポリマーの一部を構成する構成単位であってもよいが、エマルションポリマーとは別の化合物であることがより好ましい。
なお、本明細書中、エマルションポリマーとは、加熱発泡性エマルション組成物中においてエマルション粒子を形成するポリマーを言う。
【0011】
本発明の加熱発泡性エマルション組成物を用いて、外観に優れるとともに所望の機能、例えば、制振材用途に用いられた場合に幅広い温度領域での優れた制振性を発揮できる塗膜を好適に得ることができる。
本発明の加熱発泡性エマルション組成物を用いて外観に優れるとともに制振材用途に用いられた場合に制振性を発揮できる塗膜を好適に得ることができる理由は、以下のように考えられる。従来、例えば制振材用塗料には炭酸カルシウム等の顔料、増粘剤、分散剤、加熱膨張カプセル型発泡剤等の発泡剤を混合していて、加熱乾燥によりエマルション中の水等の揮発成分を蒸発させるが、該発泡剤を一定量添加しないと塗膜にフクレが生じる。これは、上述したように、塗膜内部から揮発成分が全て蒸発する前に塗膜表面から揮発成分が蒸発し乾燥膜を形成することで塗膜内部の揮発成分の蒸発経路が塞がれ、塗膜内部に残った揮発成分の蒸気により該乾燥膜が持ち上げられるためであると考えられる。該発泡剤は熱膨張して揮発成分の蒸発経路を形成することで蒸気を抜けやすくし、フクレを防止する。
本発明の加熱発泡性エマルション組成物は、特定のエマルションポリマー及び特定の界面活性剤成分を含むことで、加熱膨張カプセル型発泡剤を減量又はゼロにしてもフクレが抑制された外観良好な塗膜を得ることが出来る。この理由は、本発明の加熱発泡性エマルション組成物が、上記エマルションポリマー及び上記界面活性剤成分を含むことにより、加熱乾燥時に生じる泡を安定化するとともにその形状を適切に保持することができ、該泡が塗膜表面の膜において蒸発経路を好適に形成して、加熱継続下でも水抜け性が維持されることから、良好な塗膜外観が得られるためであると推定される。また、このようにして得られる塗膜は、多孔構造を有するため、幅広い温度領域での優れた制振性を発揮できる。
【0012】
(界面活性剤成分)
本発明の加熱発泡性エマルション組成物は、界面活性剤成分を含み、該界面活性剤成分は、その1.0質量%水溶液における55℃でのラメラ長が20℃でのラメラ長よりも大きい。
本明細書中、ラメラ長とは、液体膜がどれだけ伸びるかを示す指標を言う。白金リング(リング直径14.54mm、リング線材直径0.40mm)を、液体に浸漬した後、垂直方向に引き上げて、リングと液体面との間に形成された液体膜による応力が最大になってから液体膜が切れるまでのリングの引き上げ距離をラメラ長として測定することができる。
ラメラ長の詳しい測定条件は、実施例において後述する通りである。
なお、本発明の加熱発泡性エマルション組成物が2種以上の界面活性剤成分を含む場合は、エマルション組成物に含まれる界面活性剤成分の質量比と同じ質量比で混合された界面活性剤成分の混合物について、その1.0質量%水溶液におけるラメラ長を測定すればよい。
【0013】
界面活性剤成分の1.0質量%水溶液における55℃でのラメラ長が20℃でのラメラ長よりも大きい界面活性剤成分を使用することで、塗料化時の泡立ちや、塗装時のワキやピンホール等の塗膜欠陥の発生を抑え、加熱乾燥時にはフクレの発生を抑えて外観良好な塗膜を得ることができる。
【0014】
上記界面活性剤成分は、塗膜外観をより良好なものとする観点からは、その1.0質量%水溶液における55℃でのラメラ長が1.5cm以上であることが好ましく、1.7cm以上であることがより好ましく、2.0cm以上であることが更に好ましい。また、効果がより顕著になる点で、界面活性剤成分の1.0質量%水溶液における55℃でのラメラ長と20℃でのラメラ長との差は大きいほどよく、例えば0.05cm以上であることが好ましく、0.1cm以上であることがより好ましく、0.12cm以上であることが更に好ましく、0.20cm以上であることが特に好ましい。
なお、界面活性剤成分の中でも、高温条件下で粘度が高いものや、一般的に泡の形状保持性が良好なもの(例えば、後述する界面活性剤成分のうち好ましいもの)を選択することで、その1.0質量%水溶液における55℃でのラメラ長や、55℃でのラメラ長と20℃でのラメラ長との差を好適に制御することができる。
【0015】
上記界面活性剤成分とは、その使用目的に関わらず、該組成物中に含まれる、界面活性剤として機能し得る剤のすべてを意味する。すなわち、上記組成物中の界面活性剤成分は、界面活性剤として機能し得るものである限り、その他の機能を併せ持つものであってもよい。上記使用目的としては、例えば分散剤、湿潤浸透剤、発泡剤等としての使用目的が挙げられる。
【0016】
上記界面活性剤成分としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、及び、高分子界面活性剤の1種又は2種以上を用いることができる。
上記アニオン系界面活性剤としては、例えば脂肪酸(塩)、アルキルエーテルカルボン酸(塩)、N−アシルアミノ酸(塩)、アルカンスルホン酸(塩)、α−オレフィンスルホン酸(塩)、α−スルホアルキルエステル(塩)、アルキルベンゼンスルホン酸(塩)、アルキルスルホコハク酸(塩)、アシルイセチオン酸(塩)、N−アシル−N−アルキルタウリン(塩)、アルキル硫酸エステル(塩)、アルキルエーテル硫酸エステル(塩)、アルキルリン酸エステル(塩)、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル(塩)、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩等が好適なものとして挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。中でも、アルキルスルホコハク酸(塩)が好ましい。
【0017】
上記アニオン系界面活性剤としては、スルホコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤、アルケニルコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤等の反応性界面活性剤の1種又は2種以上を用いることができる。
スルホコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤の市販品としては、ラテムルS−120、S−120A、S−180及びS−180A(いずれも商品名、花王社製)、エレミノールJS−20(商品名、三洋化成工業社製)等が挙げられる。
アルケニルコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤の市販品としては、ラテムルASK(商品名、花王社製)等が挙げられる。
更に、本発明に係るラメラ長の条件を満たす限り、アニオン系界面活性剤として、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル(塩)、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸(塩)等を使用することも可能である。
【0018】
上記ノニオン系界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル;ソルビタン脂肪族エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪族エステル;グリセロールのモノラウレート等の脂肪族モノグリセライド;ポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体;エチレンオキサイドと脂肪族アミン、アミド又は酸との縮合生成物等が挙げられる。例えば、市販品としては、エマルゲン1118S(花王社製)等が挙げられる。また、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、ADEKA社製「アデカリアソープER−20」等)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(例えば、花王社製「ラテムルPD−420」、「ラテムルPD−430」等)等の反応性を有するノニオン系界面活性剤も用いることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0019】
上記カチオン系界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、エステル型ジアルキルアンモニウム塩、アミド型ジアルキルアンモニウム塩、ジアルキルイミダゾリニウム塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0020】
上記両性界面活性剤としては特に限定されず、例えば、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0021】
上記高分子界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール及びその変性物;(メタ)アクリル系水溶性高分子;ヒドロキシエチル(メタ)アクリル系水溶性高分子;ヒドロキシプロピル(メタ)アクリル系水溶性高分子;ポリビニルピロリドン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0022】
上記界面活性剤成分は、更に、置換基を有していても良い。置換基としては、例えば、炭化水素基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アルコキシスルホニル基、スルホアルキル基、アミノアルキル基、カルボン酸基、ポリアルキレンオキシド鎖含有基、アルケニルオキシ基等が挙げられる。
【0023】
上記界面活性剤成分は、塗膜外観をより良好にする点から、反応性の炭素−炭素不飽和結合を有しない化合物であることが好ましい。界面活性剤成分として反応性の炭素−炭素不飽和結合を有しない化合物を用いた場合は、本発明の加熱発泡性エマルション組成物は、エマルションポリマーの構成単位とは別に、界面活性剤(エマルションポリマーとは別の化合物)を含むこととなる。これにより、塗膜外観を良好にする本発明の効果をより顕著に発揮することができる
【0024】
上記界面活性剤成分は、従来公知の方法を用いて反応させることにより得ることができる。また、界面活性剤成分として市販品や、市販品に水系溶媒を添加して固形分濃度を適宜調整したものを用いることも可能である。
【0025】
本発明の加熱発泡性エマルション組成物は、エマルションの原料として用いられた全モノマー成分100質量%に対して、界面活性剤成分の含有量が0.1〜20質量%であることが好ましい。該界面活性剤成分の含有量は、本発明の効果を発揮する観点から、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることが更に好ましく、2質量%以上であることが一層好ましく、3質量%以上であることが特に好ましい。また、該界面活性剤成分の含有量は、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、8質量%以下であることが一層好ましく、6質量%以下であることが特に好ましい。
【0026】
なお、本明細書中、エマルションの原料として用いられた全モノマー成分とは、本発明の加熱発泡性エマルション組成物中、エマルションポリマーを構成するモノマー単位、並びに、エマルションの原料として用いられたモノマー由来のオリゴマー及びモノマーを意味するが、界面活性剤成分を意味しない。また、該成分の含有量は、界面活性剤(エマルションポリマーとは別の化合物)、及び、エマルションポリマー中の、該化合物由来の構成単位の合計量である。言い換えれば、該成分の含有量は、本発明の加熱発泡性エマルション組成物を得る際に用いられたすべての界面活性剤の合計量である。
【0027】
上述した本発明の加熱発泡性エマルション組成物中の界面活性剤成分の含有量は、原料として使用したすべての界面活性剤の量を合計することにより、エマルションポリマーの構成単位となるものも含めて算出することができる。該含有量は、本発明の加熱発泡性エマルション組成物中の界面活性剤(エマルションポリマーとは別の化合物)の量と、エマルションポリマー中の界面活性剤由来の構成単位の量とを合計することによっても算出することができる。
また本発明の加熱発泡性エマルション組成物中の界面活性剤(エマルションポリマーとは別の化合物)の好ましい含有量が、上述した界面活性剤成分の好ましい含有量の範囲内であることもまた、本発明の加熱発泡性エマルション組成物における好ましい形態の1つである。なお、この好ましい形態において、本発明の加熱発泡性エマルション組成物中に、界面活性剤とは別に、界面活性剤成分がエマルションポリマーの構成単位として含まれていても構わない。
本発明の加熱発泡性エマルション組成物中の界面活性剤の含有量は、加熱乾燥後の塗膜から抽出した成分を高速液体クロマトグラフで分析することにより求めることができる。なお、重合時に反応性の炭素−炭素不飽和結合を有する界面活性剤を用いた場合も、エマルションポリマーの構成単位となっていないものについては分析することが可能である。
【0028】
(モノマー成分を重合してなるエマルションポリマー)
本発明の加熱発泡性エマルション組成物は、モノマー成分を重合してなるエマルションポリマーを含む。中でも、本発明の加熱発泡性エマルション組成物は、モノマー成分を乳化重合してなるエマルションポリマーを含むことが好ましい。
上記エマルションポリマーは、動的粘弾性を測定した場合の70℃、1Hzでの貯蔵弾性率が5.0×10Pa以上である。塗膜外観及び制振性をより良好なものとする観点からは、該貯蔵弾性率は、1.0×10Pa以上であることが好ましく、1.6×10Pa以上であることがより好ましく、2.2×10Pa以上であることが更に好ましく、特に制振性を優れたものとする観点からは、4.0×10Pa以上であることが特に好ましく、4.5×10Pa以上であることが最も好ましい。
【0029】
本発明の加熱発泡性エマルション組成物における上記エマルションポリマーは、上記貯蔵弾性率が、5.0×10Pa以下であることが好ましい。該貯蔵弾性率は、3.0×10Pa以下であることがより好ましく、1.5×10Pa以下であることが更に好ましく、5.0×10Pa以下であることが特に好ましい。
上記貯蔵弾性率は、実施例において後述する方法により測定されるものである。
なお、エマルションポリマーの重量平均分子量や組成、ガラス転移温度を調整することで、上記貯蔵弾性率を制御することができる。
【0030】
本発明に係るエマルションポリマーは、重量平均分子量が3万〜50万であることが好ましい。本発明に係るエマルションポリマーがこのような重量平均分子量を有するものであると、貯蔵弾性率がより適切な範囲のものとなり、得られる塗膜の外観等がより優れるとともに、制振材として用いた場合により優れた制振性を発揮できる。本発明に係るエマルションポリマーの重量平均分子量は、特に外観をより優れたものとする観点から、より好ましくは3万5000以上であり、更に好ましくは5万以上であり、特に好ましくは9万以上である。また、該重量平均分子量は、より好ましくは42万以下であり、更に好ましくは40万以下であり、一層好ましくは27万以下であり、特に好ましくは15万以下である。
なお、重量平均分子量(Mw)は、GPCを用い、後述する実施例に記載の条件により測定することができる。
【0031】
本発明に係るエマルションポリマーは、ガラス転移温度が−20〜40℃であることが好ましい。本発明に係るエマルションポリマーとして、このようなガラス転移温度を有するものを用いると、動的粘弾性を測定した場合の70℃、1Hzでのエマルションポリマーの貯蔵弾性率を適度なものとすることができる。また、塗膜を制振材として用いる場合には、塗膜の実用温度域での制振性を効果的に発現することができる。本発明に係るエマルションポリマーのガラス転移温度は、より好ましくは−15〜35℃であり、更に好ましくは−10〜30℃である。
なお、ガラス転移温度(Tg)は、後述する実施例に記載の方法により算出することができる。また、本発明に係るエマルションポリマーの少なくとも1種が多段重合して得られるものである場合(例えば、コア部とシェル部とを有するエマルション粒子である場合)は、上記ガラス転移温度は、全ての段で用いたモノマー組成から算出したTg(トータルTg)を意味する。
【0032】
本発明に係るエマルションポリマーの少なくとも1種が2種以上のポリマー鎖が複合化した形態である場合、一方のポリマー鎖(例えば、コア部のポリマー鎖)のガラス転移温度は、0〜60℃であることが好ましい。より好ましくは、10〜50℃である。
また他方のポリマー鎖(例えば、シェル部のポリマー鎖)のガラス転移温度は、−30〜30℃であることが好ましい。より好ましくは、−20〜20℃である。
また一方のポリマー鎖と他方のポリマー鎖とのガラス転移温度の差は、5〜60℃であることが好ましい。このようにガラス転移温度に差を設けることにより、例えば、制振材用途に適用したときに幅広い温度領域下でより高い制振性を発現させることが可能となり、特に実用的範囲である20〜60℃域での制振性がより向上される。ガラス転移温度の差は、より好ましくは10〜50℃であり、更に好ましくは20〜40℃である。
【0033】
上記エマルションポリマーとしては、界面活性剤と混和できる種々のものを使用できるが、例えば、カルボン酸(塩)基をもつモノマー単位を有するポリマーを含むことが本発明における好ましい形態の1つである。カルボン酸(塩)基とは、カルボン酸基及び/又はカルボン酸塩基を意味する。
上記カルボン酸塩基の塩は、金属塩、アンモニウム塩、又は、有機アミン塩であることが好ましい。金属塩を形成する金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の1価の金属原子;カルシウム、マグネシウム等の2価の金属原子;アルミニウム、鉄等の3価の金属原子が好適である。また、有機アミン塩を形成する有機アミンとしては、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンや、トリエチルアミンが好適である。
【0034】
また上記エマルションポリマーは、(メタ)アクリル系ポリマーを含むことが好ましい。(メタ)アクリル系ポリマーとは、(メタ)アクリル系モノマー由来の構成単位を有するポリマーを言う。上記(メタ)アクリル系モノマーとは、アクリロイル基若しくはメタクリロイル基、又は、これらの基における水素原子が他の原子若しくは原子団に置き換わった基を有するモノマー又はそのようなモノマーの誘導体を言う。
【0035】
上記(メタ)アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸系ポリマーであることが好ましい。(メタ)アクリル酸系ポリマーとは、(メタ)アクリル酸系モノマー由来の構成単位を有するポリマーを言う。(メタ)アクリル酸系モノマーとは、アクリロイル基若しくはメタクリロイル基、又は、これらの基における水素原子が他の原子若しくは原子団に置き換わった基を有し、かつ、該基がカルボン酸基(−COOH基)、カルボン酸塩基(−COOM基)、又は、その酸無水物基(−C(=O)−O−C(=O)−基)をもつモノマーである。上記Mは、金属塩、アンモニウム塩、又は、有機アミン塩を表す。金属塩を形成する金属原子、有機アミン塩を形成する有機アミンについては、カルボン酸塩基の塩を形成する金属原子、有機アミンとして上述したものを挙げることができる。上記(メタ)アクリル酸系モノマーは、(メタ)アクリル酸(塩)であることが好ましい。
【0036】
上記(メタ)アクリル酸系ポリマーは、(メタ)アクリル酸系モノマー由来の構成単位のみから構成されるものであってもよいが、(メタ)アクリル酸系モノマー由来の構成単位、及び、その他の共重合可能な不飽和モノマー由来の構成単位を含んでなるものであることが好ましい。すなわち、上記(メタ)アクリル酸系ポリマーを得るためのモノマー成分が、(メタ)アクリル酸系モノマー、及び、その他の共重合可能な不飽和モノマーを含んでなるものであることが好ましく、中でも、後述する(メタ)アクリル酸系モノマーの含有割合、その他の共重合可能な不飽和モノマーの含有割合とすることがより好ましい。(メタ)アクリル酸系モノマーを含むことにより、本発明の加熱発泡性エマルション組成物を含む塗料において、無機顔料等の分散性が向上し、得られる塗膜の機能がより優れたものとなる。また、その他の共重合可能な不飽和モノマーを含むことにより、ポリマーの酸価や、ガラス転移温度、その他の物性等を調整しやすくなる。
【0037】
上記(メタ)アクリル酸系ポリマーは、例えば、(メタ)アクリル酸系モノマー0.1〜5質量%、及び、その他の共重合可能な不飽和モノマー95〜99.9質量%から構成されるモノマー成分を共重合して得られるものであることが好ましい。上記モノマー成分において、(メタ)アクリル酸系モノマーが0.3質量%以上、その他の共重合可能な不飽和モノマーが99.7質量%以下であることがより好ましく、(メタ)アクリル酸系モノマーが0.5質量%以上、その他の共重合可能な不飽和モノマーが99.5質量%以下であることが更に好ましく、(メタ)アクリル酸系モノマーが0.7質量%以上、その他の共重合可能な不飽和モノマーが99.3質量%以下であることが特に好ましい。また、上記モノマー成分において、(メタ)アクリル酸系モノマーが5質量%以下、その他の共重合可能な不飽和モノマーが95質量%以上であることが好ましく、(メタ)アクリル酸系モノマーが4質量%以下、その他の共重合可能な不飽和モノマーが96質量%以上であることがより好ましく、(メタ)アクリル酸系モノマーが3質量%以下、その他の共重合可能な不飽和モノマーが97質量%以上であることが更に好ましい。このような範囲内とすることにより、モノマー成分が安定に共重合する。
【0038】
その他の共重合可能な不飽和モノマーとしては、(メタ)アクリル酸系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー;芳香環を有する不飽和モノマー;アクリロニトリル、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル;トリメチロールプロパンジアリルエーテル等の多官能性不飽和モノマー等が挙げられる。
上記(メタ)アクリル酸系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、アクリロイル基若しくはメタクリロイル基、又は、これらの基における水素原子が他の原子若しくは原子団に置き換わった基を有し、かつ、該基がカルボン酸エステル基をもつモノマー又はそのようなモノマーの誘導体が挙げられる。
【0039】
上記(メタ)アクリル酸系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、tert−ブチルアクリレート、tert−ブチルメタクリレート、ペンチルアクリレート、ペンチルメタクリレート、イソアミルアクリレート、イソアミルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、イソオクチルアクリレート、イソオクチルメタクリレート、ノニルアクリレート、ノニルメタクリレート、イソノニルアクリレート、イソノニルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルアクリレート、ドデシルメタクリレート、トリデシルアクリレート、トリデシルメタクリレート、ヘキサデシルアクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、オクタデシルアクリレート、オクタデシルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタアクリレート等;これら以外の(メタ)アクリル酸系モノマーのエステル化物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することが好適である。
【0040】
上記(メタ)アクリル酸系ポリマーの原料となるモノマー成分としては、上記(メタ)アクリル酸系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーを、エマルションポリマーの原料として用いられた全モノマー成分100質量%に対して、20質量%以上含有することが好ましく、40質量%以上含有することがより好ましく、60質量%以上含有することが更に好ましい。また、上記(メタ)アクリル酸系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーを、全モノマー成分100質量%に対して、99.9質量%以下含有することが好ましく、99.5質量%以下含有することがより好ましい。
【0041】
上記芳香環を有する不飽和モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン等が挙げられ、好ましくはスチレンである。
すなわち、(メタ)アクリル酸系ポリマーが、スチレンを含むモノマー成分から得られたスチレン(メタ)アクリル酸系ポリマーであることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。このような形態によって、コストを削減しつつ本発明の効果を充分に発揮することができる。
【0042】
上記(メタ)アクリル酸系ポリマーの原料となるモノマー成分は、上記芳香環を有する不飽和モノマーを含む場合は、エマルションの原料として用いられた全モノマー成分100質量%に対して、1質量%以上含むことが好ましく、5質量%以上含むことがより好ましく、10質量%以上含むことが更に好ましく、20質量%以上含むことが一層好ましく、40質量%以上含むことが特に好ましい。また、該モノマー成分は、上記芳香環を有する不飽和モノマーを、全モノマー成分100質量%に対して、80質量%以下含むことが好ましく、70質量%以下含むことがより好ましく、60質量%以下含むことが更に好ましい。なお、上記(メタ)アクリル酸系ポリマーの原料となるモノマー成分として、芳香環を有する不飽和モノマーを用いなくてもよい。
【0043】
本発明の加熱発泡性エマルション組成物は、水系溶媒を含み、上記エマルションポリマーは、水系溶媒中に分散していることが好ましい。本明細書中、水系溶媒中に分散しているとは、水系溶媒中に溶解することなく分散していることを意味する。本明細書中、水系溶媒は、水を含む限りその他の有機溶媒を含んでいてもよいが、水であることが好ましい。
【0044】
本発明の加熱発泡性エマルション組成物は、モノマー成分を重合してなるエマルションポリマーを1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。本発明の加熱発泡性エマルション組成物が、本発明に係るエマルションポリマーを2種以上含む場合、2種以上の本発明に係るエマルションポリマーを混合(ブレンド)して得られる混合物であってもよく、一連の製造工程の中で2種以上のポリマー鎖を含むものを製造(例えば、多段重合等)して得られる2種以上のポリマー鎖が複合化したエマルションポリマーであってもよい。一連の製造工程の中で2種以上の本発明に係るエマルションポリマーを含むものを得るためには、モノマー滴下条件等の製造条件を適宜設定すればよい。上記2種以上のポリマー鎖が複合化したものとは、例えば、後述するコア部とシェル部とを有する形態が挙げられる。本発明に係るエマルションポリマーが、コア部とシェル部とを有する形態としては、例えば、本発明に係るエマルションポリマーが2種類の本発明に係るエマルションポリマーからなり、該2種類の本発明に係るエマルションポリマーの一方がコア部、他方がシェル部を形成しているものが挙げられる。なお、上記(メタ)アクリル系ポリマーが(メタ)アクリル酸系モノマーを含むモノマー成分を用いて得られるポリマーであるとは、例えば、(メタ)アクリル酸系モノマーが、エマルションのコア部を形成するモノマー成分、シェル部を形成するモノマー成分のいずれかに含まれていてもよく、これらの両方に含まれていてもよい。
【0045】
またエマルション粒子を形成するエマルションポリマーのうち少なくとも1種が2種以上のポリマー鎖が複合化した形態であってもよい。
【0046】
上記エマルションポリマーが、2種以上のポリマー鎖が複合化した形態である場合、一方のポリマー鎖と他方のポリマー鎖とが完全に相溶し、これらを区別できない均質構造のものであってもよく、これらが完全には相溶せずに不均質に形成されるもの(例えば、コア・シェル複合構造やミクロドメイン構造)であってもよいが、これらの構造の中でも、エマルションの特性を充分に引き出し、安定なエマルションを作製するためには、例えばコア・シェル複合構造であることが好ましい。
コア・シェル複合構造を有するエマルションは、制振材用途に用いた場合に、常温から高温域まで幅広い範囲に渡って優れた制振性を発揮することができる。なお、上記コア・シェル複合構造においては、コア部の表面がシェル部によって被覆された形態であることが好ましい。この場合、コア部の表面は、シェル部によって完全に被覆されていることが好適であるが、完全に被覆されていなくてもよく、例えば、網目状に被覆されている形態や、所々においてコア部が露出している形態であってもよい。
【0047】
上記エマルション粒子の平均粒子径は80〜450nmであることが好ましい。
上記平均粒子径がこの範囲にあるエマルション粒子を用いることにより、塗膜外観、塗工性等の基本性能を充分なものとすることができ、制振材用途に用いる場合には制振性をより優れたものとすることができる。エマルション粒子の平均粒子径は、より好ましくは400nm以下であり、更に好ましくは350nm以下である。また、平均粒子径は、好ましくは100nm以上である。
エマルション粒子の平均粒子径は後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0048】
上記エマルションは、固形分の含有割合がエマルション全体に対して40〜80質量%であることが好ましく、50〜70質量%であることがより好ましい。
なお、ここでいう固形分とは、エマルションに含まれる水系溶媒等の溶媒以外の成分を意味する。
【0049】
上記エマルションのpHとしては特に限定されないが、2〜10であることが好ましく、3〜9.5であることがより好ましく、7〜9であることが更に好ましい。上記エマルションのpHは、当該樹脂に、アンモニア水、水溶性アミン類、水酸化アルカリ水溶液等を添加することによって調整することができる。
本明細書中、pHは、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0050】
上記エマルションの粘度としては特に限定されないが、1〜10000mPa・sであることが好ましく、5〜4000mPa・sであることがより好ましく、10〜2000mPa・sであることが更に好ましく、30〜1000mPa・sであることが一層好ましく、80〜500mPa・sであることが特に好ましい。
本明細書中、粘度は、後述する実施例に記載の条件により測定することができる。
【0051】
上記エマルションポリマーの製造方法は特に制限されないが、例えば、特開2011−231184号公報に記載の制振材用エマルションの製造方法と同様の方法により製造することができる。また、該エマルションポリマーの製造方法は、乳化重合以外の方法、例えば、懸濁重合で重合されたポリマーに界面活性剤を作用させてエマルションを形成するものであってもよい。
【0052】
上記本発明に係るエマルションの固形分の含有量は、本発明の加熱発泡性エマルション組成物の固形分100質量%中、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることが更に好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。また、該含有量は、99質量%以下であることが好ましく、97質量%以下であることがより好ましく、95質量%以下であることが更に好ましく、93質量%以下であることが特に好ましく、91質量%以下であることが最も好ましい。
なお、固形分とは、水系溶媒等の溶媒以外の成分を意味する。
【0053】
本発明の加熱発泡性エマルション組成物は、界面活性剤の全部とモノマー成分とを含むモノマー乳化物を原料として乳化重合してなるエマルションポリマーであってもよく、界面活性剤の一部とモノマー成分とを含むモノマー乳化物を原料として乳化重合してエマルションポリマーを得た後、得られたエマルションポリマーに対して界面活性剤の残部を添加して得られるものであってもよい。このように界面活性剤の少なくとも一部とモノマー成分とを含むモノマー乳化物を原料として乳化重合することにより、該界面活性剤成分の少なくとも一部がエマルションを形成する界面活性剤として含まれることになる。この場合、該界面活性剤成分の少なくとも一部は、通常の界面活性剤(ポリマーとは別個の化合物)であってもよく、ポリマーの一部を構成する構成単位であり、かつ界面活性剤であってもよい。
【0054】
本発明の加熱発泡性エマルション組成物は、界面活性剤成分と、エマルションポリマーとを含むものである限り、その他の成分を含んでもよい。
その他の成分を含む場合、本発明の加熱発泡性エマルション組成物全体に対して、その他の成分の割合は、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下である。なお、ここでいうその他の成分とは、本発明の加熱発泡性エマルション組成物を塗布し、加熱乾燥した後も塗膜中に残る不揮発分(固形分)のことを意味し、水系溶媒等の揮発成分は含まれない。
【0055】
本発明の加熱発泡性エマルション組成物は、上述したように、水系溶媒等の溶媒を含むことが好ましい。
上記溶媒の含有量は、本発明の加熱発泡性エマルション組成物100質量%中、3質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。また、該溶媒の含有量は、97質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることが更に好ましい。
【0056】
本発明の加熱発泡性エマルション組成物は、これ自体を塗布して制振被膜を形成するのに用いることができるが、通常、後述する本発明の塗料を得るために用いられる。
【0057】
本発明の加熱発泡性エマルション組成物は、制振材に用いられることが好ましい。言い換えれば、本発明の加熱発泡性エマルション組成物は、制振材用樹脂組成物であることが好ましい。また、制振材は、自動車制振材であることが好ましい。なお、本明細書中、「制振材用樹脂組成物」は、「制振材(damping material)」と言い換えることができる。本発明は、言い換えれば、エマルションポリマーを含む制振材であって、該エマルションポリマーは、動的粘弾性を測定した場合の70℃、1Hzでの貯蔵弾性率が、5.0×10Pa以上であり、該制振材は、更に、界面活性剤成分を含み、該界面活性剤成分は、その1.0質量%水溶液における55℃でのラメラ長が20℃でのラメラ長よりも大きい制振材でもある。
【0058】
<本発明の塗料>
本発明はまた、本発明の加熱発泡性エマルション組成物及び顔料を含む塗料でもある。
本発明の塗料が含む加熱発泡性エマルション組成物の好ましいものは、上述した本発明の加熱発泡性エマルション組成物の好ましいものと同様である。
本発明の塗料の固形分100質量%中、加熱発泡性エマルション組成物の固形分は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましい。また、該加熱発泡性エマルション組成物の固形分は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。
【0059】
上記顔料は、例えば、無機着色剤、有機着色剤、防錆顔料、充填材等の1種又は2種以上を使用することができる。該無機着色剤としては、酸化チタン、カーボンブラック、弁柄等が挙げられる。該有機着色剤としては、染料、天然色素等が挙げられる。該防錆顔料としては、リン酸金属塩、モリブデン酸金属塩、硼酸金属塩等が挙げられる。該充填材としては、炭酸カルシウム、カオリン、シリカ、タルク、硫酸バリウム、アルミナ、酸化鉄、ガラストーク、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、珪藻土、クレー等の無機質充填材;ガラスフレーク、マイカ等の鱗片状無機質充填材;金属酸化物ウィスカー、ガラス繊維、ワラストナイト等の繊維状無機質充填材等が挙げられる。上記顔料は、中でも、無機顔料であることが好ましい。
上記顔料は、平均粒子径が1〜50μmのものが好ましい。顔料の平均粒子径は、レーザー回析式粒度分布測定装置により測定することができ、粒度分布からの重量50%径の値である。
上記顔料の配合量としては、本発明の塗料中の樹脂の固形分100質量部に対し、10〜900質量部とすることが好ましく、より好ましくは200〜800質量部であり、更に好ましくは300〜500質量部である。
【0060】
本発明の塗料は、更に分散剤を含んでいてもよい。
上記分散剤としては、例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等の無機質分散剤、及び、ポリカルボン酸系分散剤等の有機質分散剤が挙げられる。
上記分散剤の配合量としては、本発明の塗料中の樹脂の固形分100質量部に対し、固形分で0.1〜8質量部が好ましく、0.5〜6質量部がより好ましく、1〜3質量部が更に好ましい。
【0061】
本発明の塗料は、更に増粘剤を含んでいてもよい。
上記増粘剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース系誘導体、ポリカルボン酸系樹脂等が挙げられる。
上記増粘剤の配合量としては、本発明の塗料中の樹脂の固形分100質量部に対し、固形分で0.01〜5質量部が好ましく、0.1〜4質量部がより好ましく、0.3〜2質量部が更に好ましい。
【0062】
本発明の塗料は、更にその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、発泡剤;溶媒;ゲル化剤;消泡剤;可塑剤;安定剤;湿潤剤;防腐剤;発泡防止剤;老化防止剤;防黴剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
なお、上記顔料、分散剤、増粘剤、及び、その他の成分は、例えば、バタフライミキサー、プラネタリーミキサー、スパイラルミキサー、ニーダー、ディゾルバー等を用いて、本発明に係るポリマーエマルションや架橋剤等と混合され得る。
【0063】
上記溶媒としては、例えば、水;エチレングリコール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等の有機溶媒が挙げられる。溶媒の配合量としては、本発明の塗料の固形分濃度を調整するために適宜設定すればよい。
【0064】
本発明の塗料を用いて塗膜を得ること、特に本発明の塗料を加熱乾燥して塗膜を得ることにより、塗料の乾燥と同時に該塗料を発泡させることで、水等の溶媒の蒸発経路を形成することができる。その結果、塗膜のフクレを抑制することができ、外観が良好な塗膜を得ることができる。また、界面活性剤成分が発泡剤として機能することから、従来用いられていた高価な発泡剤(例えば、加熱膨張カプセル型発泡剤)の使用量を削減することができる。例えば、エマルションポリマーの原料として用いられた全モノマー成分100質量%に対し、加熱膨張カプセル型発泡剤の含有量が2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0質量%であることが最も好ましい。
本発明の塗料は、特定のエマルションポリマー及び特定の界面活性剤成分を含有するため、上記加熱膨張カプセル型発泡剤の含有量を2質量%以下としたり、より少なくしたりすることにより、発泡剤が過剰となって塗膜の形状維持が困難になることを充分に防止でき、塗膜外観をより優れたものとすることができる。
【0065】
<本発明の塗膜及びその製造方法>
本発明は更に、本発明の塗料を用いて得られる塗膜でもある。
本発明の塗膜を得るために用いられる塗料の好ましいものは、上述した本発明の塗料の好ましいものと同様である。
本発明はそして、モノマー成分を重合してなるエマルションポリマー、界面活性剤成分、及び、顔料を含む塗料を加熱することにより、該塗料を発泡させて得られる塗膜でもある。
以下では、本発明の塗膜の好ましい形態について説明する。
【0066】
本発明の塗膜は、平均厚みが2〜8mmであることが好ましい。2mm以上とすることで、制振性等の塗膜に求められる機能をより充分に発揮することができる。また、8mm以下とすることで、焼き付け時の加熱乾燥性がより良好なものとなり、塗膜のはがれ、クラック等の発生を防ぎ、良好な塗膜を形成することができる。塗膜の平均厚みは、より好ましくは、6mm以下であり、更に好ましくは、5mm以下である。
【0067】
本発明の塗膜を形成する基材は、塗膜を形成することができる限り特に制限されず、鋼板等の金属材料、プラスチック材料等いずれのものであってもよい。中でも、鋼板の表面に塗膜を形成することは、本発明の塗膜の好ましい使用形態の1つである。
【0068】
本発明の塗膜は、例えば、刷毛、へら、エアスプレー、エアレススプレー、モルタルガン、リシンガン等を用いて本発明の塗料を塗布することより得ることができる。
【0069】
本発明は、塗料を用いて塗膜を製造する方法であって、本発明の加熱発泡性エマルション組成物、及び、顔料を含む塗料を加熱することにより、該塗料を発泡させて塗膜を得る工程を含むことを特徴とする塗膜の製造方法でもある。ここで、加熱に供される塗料は、上記エマルションポリマー、上記界面活性剤成分、及び、顔料が配合されたものであるが、この配合の順序は、特に限定されるものではない。本発明の塗膜は、塗布した本発明の塗料を加熱乾燥することにより、該塗料を発泡させて得られるものであることが好ましい。なお、塗料を加熱乾燥することにより該塗料を発泡させるために、通常、加熱乾燥の前に塗料を撹拌する等して界面活性剤成分を機械発泡させない。加熱乾燥工程においては、上記塗料を基材上に塗布して形成した塗膜を40〜200℃にすることが好ましい。より好ましくは、90〜180℃であり、更に好ましくは、100〜160℃である。加熱乾燥工程の前により低温で予備乾燥を行っても構わない。
また、塗膜を上記温度にする時間は、1〜300分であることが好ましい。より好ましくは、2〜250分であり、特に好ましくは、10〜150分である。
【0070】
本発明の塗膜の制振性は、膜の損失係数を測定することにより評価することができる。
損失係数は、通常ηで表され、塗膜に対して与えた振動がどの程度減衰したかを示すものである。上記損失係数は、数値が高いほど制振性に優れていることを示す。
上記損失係数は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0071】
本発明の塗膜は、外観に優れ、制振材として用いた場合に幅広い温度領域で顕著に優れた制振性を発揮でき、自動車、鉄道車両、船舶、航空機等の輸送機関や電気機器、建築構造物、建設機器等に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0072】
本発明の加熱発泡性エマルション組成物を用いて、外観に優れ、制振材として用いた場合に幅広い温度領域で顕著に優れた制振性を発揮できる塗膜を好適に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0073】
以下に発明を実施するための形態を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの発明を実施するための形態のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0074】
以下の実施例(以下、参考例1を含む)及び比較例において、各種パラメータは以下のように評価した。結果を表1に示す。
<貯蔵弾性率>
ティー・エー・インスツルメント・ジャパン株式会社製レオメータ ARES−G2を用い、直径8mmのパラレルプレートで動的粘弾性測定を行った。測定条件としては、70℃の周波数依存性(0.1−100Hz)を測定し、1Hzにおける貯蔵弾性率(G’)を求めた。
<ラメラ長>
ラメラ長の測定方法としては、リング線材直径0.40mm、リング直径14.54mmの白金リングを使用し、表面張力計(協和界面科学株式会社製DY−500)により、ステージ上下速度1.0mm/秒、プリウェットステージ上下速度1.0mm/秒、プリウェット浸漬距離2.50mm、プリウェット浸漬時間2秒で、予め所定の温度、界面活性剤濃度に調整した液体のラメラ長を測定した。
【0075】
以下の実施例及び比較例において、各種樹脂性状は以下のように評価した。
<平均粒子径>
エマルション粒子の平均粒子径は動的光散乱法による粒度分布測定器(大塚電子株式会社FPAR−1000)を用い測定した。
<不揮発分(N.V.)>
得られたエマルション約1gを秤量、熱風乾燥機で150℃×1時間後、乾燥残量を不揮発分として、乾燥前質量に対する比率を質量%で表示した。
<pH>
pHメーター(堀場製作所社製「F−23」)により25℃での値を測定した。
<粘度>
B型回転粘度計(東機産業社製「VISCOMETER TUB−10」)を用いて、25℃、20rpmの条件下で測定した。
【0076】
<重量平均分子量>
以下の測定条件下で、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した。
測定機器:HLC−8120GPC(商品名、東ソー社製)
分子量カラム:TSK−GEL GMHXL−Lと、TSK−GELG5000HXL(いずれも東ソー社製)とを直列に接続して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
検量線用標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
測定方法:測定対象物を固形分が約0.2質量%となるようにTHFに溶解し、フィルターにてろ過した物を測定サンプルとして分子量を測定する。
【0077】
<ポリマーのガラス転移温度(Tg)>
ポリマーのTgは、各段で用いたモノマー組成から、下記計算式(1)を用いて算出した。
【0078】
【数1】
【0079】
式中、Tg′は、ポリマーのTg(絶対温度)である。W′、W′、・・・Wn′は、全モノマー成分に対する各モノマーの質量分率である。T、T、・・・Tnは、各モノマー成分からなるホモポリマー(単独ポリマー)のガラス転移温度(絶対温度)である。
【0080】
なお、全ての段で用いたモノマー組成から算出したTgを「トータルTg」として記載した。
上記計算式(1)により重合性モノマー成分のガラス転移温度(Tg)を算出するのに使用したそれぞれのホモポリマーのTg値を下記に示した。
メチルメタクリレート(MMA):105℃
スチレン(St):100℃
2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA):−70℃
ブチルアクリレート(BA):−56℃
アクリル酸(AA):95℃
【0081】
以下の実施例で使用する界面活性剤について説明する。
ポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩は、下記式(i):
【0082】
【化1】
【0083】
で表される化合物である。式中、nは、平均付加モル数を表す。本明細書中、n=8の化合物は(i)−<1>とも表される。
【0084】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホコハク酸半エステル塩は、下記式(ii):
【0085】
【化2】
【0086】
(式中、Rは、炭素数12〜14の第2級アルキル基を表す。)で表される化合物である。
式中、nは、平均付加モル数を表す。本明細書中、n=9の化合物は(ii)−<1>とも表される。
スルホコハク酸N−アルキルモノアミドジナトリウムは、下記式(iii):
【0087】
【化3】
【0088】
(式中、Rは、炭素数14〜20のアルキル基を表す。)で表される化合物である。本明細書中、この化合物は(iii)とも表される。
【0089】
実施例及び比較例に使用した界面活性剤の市販品について説明する。
ネオペレックスG−65(商品名、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:花王社製)
ニューコール707SF(商品名、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル・硫酸エステル塩:日本乳化剤株式会社製)
レベノールWX(商品名、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム:花王社製)
【0090】
(実施例1)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水280.7部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇温した。一方、上記滴下ロートにメチルメタクリレート520部、2−エチルヘキシルアクリレート160部、ブチルアクリレート310部、アクリル酸10.0部、重合連鎖移動剤であるt−ドデシルメルカプタン(t−DMとも言う)2.0部、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部及び脱イオン水183.0部からなるモノマー乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を75℃に維持しながら、上記モノマー乳化物のうちの27.0部、重合開始剤(酸化剤)である5%過硫酸カリウム水溶液5部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液10部を添加し、初期重合を開始した。40分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りのモノマー乳化物を210分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液95部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液90部を210分かけて均一に滴下し、滴下終了後60分同温度を維持し、重合を終了した。
得られた反応液を室温まで冷却後、2−ジメチルエタノールアミン16.7部、脱イオン水39部を添加し、不揮発分55.0%、ガラス転移温度3℃、pH8.0、粘度200mPa・s、平均粒子径230nm、重量平均分子量102000のアクリル系エマルション(樹脂組成物1)を得た。
【0091】
(実施例2)
実施例1のモノマー乳化物の仕込みにおいて、メチルメタクリレート520部の代わりにスチレン520部を用い、2−エチルヘキシルアクリレートの量を160部から130部に変更し、ブチルアクリレートの量を310部から340部に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.1%、ガラス転移温度3℃、pH7.8、粘度250mPa・s、平均粒子径200nm、重量平均分子量95000のアクリル系エマルション(樹脂組成物2)を得た。
【0092】
(実施例3)
実施例1のモノマー乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホコハク酸半エステル塩(ii)−<1>180.0部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、ガラス転移温度3℃、pH8.1、粘度300mPa・s、平均粒子径230nm、重量平均分子量103000のアクリル系エマルション(樹脂組成物3)を得た。
【0093】
(実施例4)
実施例3のモノマー乳化物の仕込みにおいて、t−DMの量を2.0部から1.0部に変更した以外は、実施例3と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、ガラス転移温度3℃、pH8.1、粘度350mPa・s、平均粒子径210nm、重量平均分子量417000のアクリル系エマルション(樹脂組成物4)を得た。
【0094】
参考例1
実施例3のモノマー乳化物の仕込みにおいて、t−DMの量を2.0部から5.0部に変更した以外は、実施例3と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、ガラス転移温度3℃、pH8.1、粘度250mPa・s、平均粒子径220nm、重量平均分子量42000のアクリル系エマルション(樹脂組成物5)を得た。
【0095】
(実施例6)
実施例1のモノマー乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>50.0部及び予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホコハク酸半エステル塩(ii)−<1>130.0部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.1%、ガラス転移温度3℃、pH8.1、粘度300mPa・s、平均粒子径200nm、重量平均分子量115000のアクリル系エマルション(樹脂組成物6)を得た。
【0096】
(実施例7)
実施例1のモノマー乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したスルホコハク酸N−アルキルモノアミドジナトリウム(iii)180.0部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分54.5%、ガラス転移温度3℃、pH8.0、粘度300mPa・s、平均粒子径210nm、重量平均分子量97000のアクリル系エマルション(樹脂組成物7)を得た。
【0097】
(実施例8)
実施例1のモノマー乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>60.0部及び予め20%水溶液に調整したニューコール707SF(商品名、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル・硫酸エステル塩:日本乳化剤株式会社製)120.0部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、ガラス転移温度3℃、pH8.0、粘度200mPa・s、平均粒子径250nm、重量平均分子量103000のアクリル系エマルション(樹脂組成物8)を得た。
【0098】
(実施例9)
実施例1のモノマー乳化物の仕込みにおいて、滴下ロートにメタクリル酸メチル515部、2−エチルヘキシルアクリレート160部、ブチルアクリレート310部、アクリル酸10.0部、アクリロニトリル5部、t−DM2.0部、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホコハク酸半エステル塩(ii)−<1>180.0部及び脱イオン水183.0部を仕込んだ以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.3%、ガラス転移温度3℃、pH8.2、粘度300mPa・s、平均粒子径190nm、重量平均分子量91000のアクリル系エマルション(樹脂組成物9)を得た。
【0099】
(実施例10)
実施例9のモノマー乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホコハク酸半エステル塩(ii)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したネオペレックスG−65(商品名、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、固形分濃度65%のネオペレックスG−65を固形分濃度20%に希釈したもの:花王社製)180.0部を用いた以外は、実施例9と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、ガラス転移温度3℃、pH8.1、粘度300mPa・s、平均粒子径190nm、重量平均分子量94000のアクリル系エマルション(樹脂組成物10)を得た。
【0100】
(比較例1)
実施例1のモノマー乳化物の仕込みにおいて、滴下ロートにメタクリル酸メチル260部、スチレン260部、2−エチルヘキシルアクリレート130部、ブチルアクリレート340部、アクリル酸10.0部、t−DM10.0部、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホコハク酸半エステル塩(ii)−<1>180.0部及び脱イオン水183.0部を仕込んだ以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、ガラス転移温度3℃、pH8.0、粘度250mPa・s、平均粒子径210nm、重量平均分子量25000のアクリル系エマルション(樹脂組成物11)を得た。
【0101】
(比較例2)
実施例1のモノマー乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したレベノールWX(商品名、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム:花王社製)180.0部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.2%、ガラス転移温度3℃、pH8.0、粘度300mPa・s、平均粒子径190nm、重量平均分子量101000のアクリル系エマルション(樹脂組成物12)を得た。
【0102】
(比較例3)
実施例10のモノマー乳化物の仕込みにおいて、t−DMの量を2.0部から8.0部に変更した以外は、実施例10と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、ガラス転移温度3℃、pH8.2、粘度250mPa・s、平均粒子径210nm、重量平均分子量36000のアクリル系エマルション(樹脂組成物13)を得た。
【0103】
(比較例4)
比較例3のモノマー乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したネオペレックスG−65(商品名、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、固形分濃度65%のネオペレックスG−65を固形分濃度20%に希釈したもの:花王社製)180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホコハク酸半エステル塩(ii)−<1>180.0部を用いた以外は、比較例3と同様の操作を行い、不揮発分54.9%、ガラス転移温度3℃、pH8.1、粘度300mPa・s、平均粒子径200nm、重量平均分子量33000のアクリル系エマルション(樹脂組成物14)を得た。
【0104】
<塗料の調製>
実施例1〜4、参考例1、実施例6〜10の樹脂組成物1〜10、及び、比較例1〜4の樹脂組成物11〜14をそれぞれ下記の通り配合し、塗料を作製し、以下のように各種特性を評価した。結果を表1に示す。
・樹脂組成物1〜14 350部
・炭酸カルシウム NN#200*1 620部
・分散剤 アクアリックDL−40S*2 6部
・増粘剤 アクリセットWR−650*3 4部
*1:日東粉化工業株式会社製 充填剤
*2:株式会社日本触媒製 ポリカルボン酸型分散剤(有効成分44%)
*3:株式会社日本触媒製 アルカリ可溶性のアクリル系増粘剤(有効成分30%)
【0105】
各種特性の評価方法を以下に示す。
上記実施例、比較例で得られた塗料について、塗膜の外観評価及び制振性試験を下記方法にて実施した。結果を表1に示す。
【0106】
<塗膜の外観評価>
鋼板(商品名SPCC−SD・幅75mm×長さ150mm×厚み0.8mm、日本テストパネル社製)の上に、作製した塗料を塗布厚みが3mmとなるように塗布した。その後、熱風乾燥機を用いて、150℃で50分間乾燥し、得られた乾燥塗膜の表面状態を以下の基準で評価した。なお、熱風乾燥機を用いた加熱により塗料から発泡が生じた。
○:異常なし。
〇△:軽微な塗膜のフクレやクラックが所々に見られる。
△:塗膜のフクレやクラックが所々に見られる。
×:塗膜全体にわたってフクレが生じ、はがれ、クラックが見られる。
【0107】
<制振性試験>
上記塗料を冷間圧延鋼板(商品名SPCC・幅15mm×長さ250mm×厚み1.5mm、日本テストパネル社製)の上に3mmの厚みで塗布して80℃で30分間予備乾燥後、150℃で30分間乾燥し、冷間圧延鋼板上に面密度4.0Kg/mの制振材被膜を形成した。なお、予備乾燥、予備乾燥後の乾燥における加熱により塗料から発泡が生じた。
制振性の測定は、それぞれの温度(20℃、30℃、40℃、50℃、60℃)における損失係数を、片持ち梁法(株式会社小野測機製損失係数測定システム)を用いて評価した。また、制振性の評価は、総損失係数(20℃、30℃、40℃、50℃、60℃での損失係数の和)により行い、総損失係数の値が大きいほど制振性に優れるものとした。
【0108】
【表1】
【0109】
上述した実施例及び比較例、並びに、明細書に記載された本発明の構成によって奏される作用機構を合わせて考えれば、加熱発泡性エマルション組成物において、動的粘弾性を測定した場合の70℃、1Hzでの貯蔵弾性率が5.0×10Pa以上であるエマルションポリマー、及び、その1.0質量%水溶液における55℃でのラメラ長が20℃でのラメラ長よりも大きい界面活性剤成分を用いることにより、塗料の加熱乾燥性が良く、外観に優れるとともに制振材として用いた場合に優れた制振性を発揮できる塗膜を好適に形成することができることがわかった。