(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の診断部は、前記第2のモータへの供給電力の変化量が所定範囲内に無い場合に前記第2のモータを異常と判定する、請求項2に記載の車載モータの故障診断装置。
前記第2の診断部は、前記第1のモータにより前記エンジンのクランクシャフトを回転させ、前記第2の切替部により、前記第2のモータの出力軸と前記エンジンのクランクシャフトとを連結したときの前記第2のモータの発電電力の変化に基づいて、前記第2のモータの故障診断を行う、請求項4に記載の車載モータの故障診断装置。
前記第2の診断部は、前記第2のモータの発電電力の変化量が所定範囲内に無い場合に前記第2のモータを異常と判定する、請求項5に記載の車載モータの故障診断装置。
少なくとも前記第2の診断部による故障診断を開始する前に、前記第1のモータを用いて前記エンジンをクランキングさせる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の車載モータの故障診断装置。
前記車両の制御中に前記エンジンを始動させる際に、前記第1のモータにより前記エンジンのクランキングを開始させた後に、前記第1の診断部及び前記第2の診断部による前記第2のモータの故障診断を行う、請求項7に記載の車載モータの故障診断装置。
前記車両は、少なくとも、前記第1のモータの駆動力による第1の走行モード、又は、前記第1のモータ及び前記エンジンの駆動力による第2の走行モードにより走行制御が行われ、
前記第1の診断部又は前記第2の診断部の少なくとも一方は、前記第2のモータの異常時に、前記第1の走行モードを禁止して、前記エンジンの駆動を継続させる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の車載モータの故障診断装置。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
<1.車両のシステム構成>
まず、
図1を参照して、本発明の実施の形態に係る車載モータの故障診断装置を適用可能な車両のシステム構成の一例について説明する。
図1は、ハイブリッド車両のシステム構成例を示す模式図である。
【0024】
車両は、エンジン10と、スタータ20と、モータジェネレータ30と、自動変速機40と、駆動用モータ45と、駆動輪61とを備える。かかる車両は、エンジン10及び駆動用モータ45を駆動源として併用可能なハイブリッド車両の例である。本実施形態に係る車両において、スタータ20が第2のモータに相当し、モータジェネレータ30が第1のモータに相当する。
【0025】
かかるハイブリッド車両では、走行モードが、エンジン走行モードと、EV走行モードと、ハイブリッド走行モードとで切り替えられながら、車両の駆動力制御が行われる。エンジン走行モードは、エンジン10から出力されるトルクにより車両を駆動するモードであり、主にリンプホーム運転時の走行モードである。EV走行モードは、第1の走行モードに相当し、駆動用モータ45から出力されるトルクにより車両を駆動するモードである。ハイブリッド走行モードは、第2の走行モードに相当し、駆動用モータ45から出力されるトルクと、エンジン10から出力されるトルクとにより車両を駆動するモードである。
【0026】
エンジン10は、ガソリンやディーゼル等を燃料としてトルクを生成する内燃機関であり、出力軸としてのクランクシャフト11を有する。クランクシャフト11は、図示しないトルクコンバータ又はクラッチ等を介して自動変速機40に接続されている。
【0027】
駆動用モータ45は、例えば、三相交流式のモータであり、インバータ49を介して高電圧バッテリ(例えば200V)160に接続されている。本実施形態では、高電圧バッテリ160が第1の電源に相当する。駆動用モータ45は、高電圧バッテリ160から電力供給を受けて駆動(力行駆動)されて車両の駆動力を生成する駆動モータとしての機能と、車両の減速時に回生駆動されて駆動輪61の運動エネルギを用いて発電する発電機としての機能とを有する。また、駆動用モータ45は、エンジン10の出力を用いて発電する発電機としての機能を有してもよい。
【0028】
駆動用モータ45を車両の駆動モータとして機能させる場合、インバータ49は、高電圧バッテリ160から供給される直流電力を交流電力に変換し、駆動用モータ45を駆動する。また、駆動用モータ45を発電機として機能させる場合、インバータ49は、駆動用モータ45で発電された交流電力を直流電力に変換して高電圧バッテリ160に充電する。
【0029】
自動変速機40は、例えば、CVT(Continuously Variable Transmission)等の無段変速機構を備える。自動変速機40は、クランクシャフト11を介してエンジン10から伝達された回転トルクを、車両の走行状態に応じた変速比で変換して、出力軸41に伝達する。例えば、自動変速機40にクラッチ機構を設けて、エンジン10と出力軸41、あるいは、駆動用モータ45と出力軸41の断接を切り替えるようにしてもよい。
【0030】
第2のモータとしてのスタータ20は、低電圧バッテリ130からの電力供給を受けて駆動され、エンジン10をクランキングさせてエンジン10を始動させる。本実施形態では、低電圧バッテリ130が第2の電源に相当する。スタータ20の出力軸25は、ギヤ等を介してエンジン10のクランクシャフト11に連結されており、スタータ20の出力軸25の回転に伴ってエンジン10のクランクシャフト11も回転する。スタータ20は、図示しないスタータモータ、スタータピニオン及びスタータピニオンギヤを有する。スタータモータは、例えば、DCモータであり、スタータ駆動リレー128によって通電のオン又はオフが切り替えられる。
【0031】
スタータピニオンは、スタータモータのモータ軸に固定され、スタータ20の出力軸25に固定されたスタータピニオンギヤと噛合可能になっている。スタータピニオン及びスタータピニオンギヤは、ピニオン駆動リレー129によって噛合又は開放が切り替えられ、スタータモータのモータ軸と出力軸25と連結の可否が切り替えられる。スタータ駆動リレー128及びピニオン駆動リレー129は、制御装置(ECU:Electronic Control Unit)100によって駆動制御される。なお、本実施形態において、スタータ駆動リレー128が第1の切替部に相当し、ピニオン駆動リレー129が第2の切替部に相当する。
【0032】
図2は、スタータ20に電力を供給する第2の電源としての低電圧バッテリ130の電源系統の回路構成を示している。低電圧バッテリ130から出力される電力は、DCDCコンバータ120によって所望の電圧に変換されて、スタータ20と、種々の電気負荷150とに供給される。電気負荷150としては、例えば、車載の空調機器やオーディオ機器等の補機類が例示されるが、かかる例に限られない。低電圧バッテリ130とスタータ20との間には、スタータ駆動リレー128と、ピニオン駆動リレー129とが並列に設けられている。スタータ駆動リレー128は、スタータモータの駆動電流のオン又はオフを切り替えるスイッチである。ピニオン駆動リレー129は、スタータピニオンとスタータピニオンギヤとの噛合のオン又はオフを切り替えるスイッチである。
【0033】
スタータ駆動リレー128及びピニオン駆動リレー129は、例えばスタータ20に設けられる。かかるスタータ駆動リレー128及びピニオン駆動リレー129は、制御装置100の駆動指示に基づきオン又はオフに切り替えられる。低電圧バッテリ130には、IBS(Intelligent Battery Sensor)135が設けられている。IBS135は、低電圧バッテリ130の入出力電流及び入出力電圧を検出する。検出される入出力電流及び入出力電圧の情報は、制御装置100に送信される。
【0034】
図1に戻り、モータジェネレータ30は、第1の電源としての高電圧バッテリ160からの電力供給を受けて駆動され、エンジン10をクランキングさせてエンジン10を始動させる。モータジェネレータ30の出力軸35は、エンジン10のクランクシャフト11にギヤ等により連結されており、モータジェネレータ30の出力軸35の回転に伴ってエンジン10のクランクシャフト11も回転する。かかるモータジェネレータ30は、発電機としての機能も有しており、例えば、エンジン10のクランクシャフト11が自動変速機40側から回されたときに、モータジェネレータ30も回されることによって発電を行う。発電された電力は、高電圧バッテリ160に充電される。
【0035】
図3は、モータジェネレータ30に電力を供給する高電圧バッテリ160の電源系統の回路構成を示している。高電圧バッテリ160から出力される電力は、モータジェネレータ30に供給される。つまり、モータジェネレータ30は、スタータ20の電源である低電圧バッテリ130とは異なる高電圧バッテリ160を電源として、電力の供給を受ける。モータジェネレータ30は、制御装置100の駆動指示に基づき駆動される。
【0036】
本実施形態に係る車両では、通常、エンジン10を始動させる際に、モータジェネレータ30を用いてエンジン10のクランキングが行われる。また、モータジェネレータ30によってエンジン10を始動させることができない場合においては、スタータ20を用いてエンジン10のクランキングが行われる。つまり、スタータ20は緊急時に用いられる。例えば、車両がEV走行モードで走行中にハイブリッドシステムの異常が検出されて、モータジェネレータ30を駆動することができない場合には、スタータ20を駆動させてエンジン10を始動させる。この場合、エンジン10は低出力で駆動され、リンプホーム運転モードで車両は走行する。
【0037】
このときに、スタータ20が故障していると、もはやエンジン10を始動させることができないために、ハイブリッドシステムの異常と併せて、リンプホーム運転すらできないことになる。したがって、スタータ20が使用されない状態においても、スタータ20の故障の有無を診断する必要がある。仮にスタータ20の故障が発見された場合には、エンジン10を停止させることのないように、つまり、EV走行モードに移行させたり、アイドルストップ制御によってエンジン10を自動停止させたりすることのないように車両の制御が行われる。
【0038】
<2.制御装置>
次に、スタータ20の故障診断制御を実行する制御装置100の構成例について説明する。
図4は、制御装置100の構成の一例を示すブロック図である。制御装置100は、主としてCPU等のマイクロコンピュータを備えて構成される。
図4には、制御装置100の構成のうち、スタータ20の故障診断制御に関連する部分が機能ブロックで示されている。なお、図示した制御装置100は、単体の制御装置として構成されているが、制御装置100は、複数の制御装置が相互に通信可能に構成されていてもよい。
【0039】
制御装置100は、HV制御部(ハイブリッド制御部)101と、エンジン制御部102と、モータ制御部103と、スタータ駆動回路104と、モータジェネレータ(ISG/MG)駆動回路105と、表示制御部106と、スタータ診断制御部111とを備える。スタータ診断制御部111は、第1の診断部112と第2の診断部113とを有する。HV制御部101、エンジン制御部102、モータ制御部103、表示制御部106、及びスタータ診断制御部111は、例えばCPUによりソフトウェアプログラムを実行することによって実現される機能であってもよい。
【0040】
また、制御装置100は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の図示しない記憶素子を備えている。例えば、ROMには、CPUにより実行されるソフトウェアプログラムや、演算処理に用いられる種々のパラメータが記憶される。また、RAMには、制御装置100が取得するセンサ情報や演算処理結果等が記憶される。かかる制御装置100には、低電圧バッテリ130に備えられたISG135のセンサ信号や、DCDCコンバータ120の制御電流を検出する電流センサのセンサ信号、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサのセンサ信号、エンジン回転数を検出する回転センサのセンサ信号、車速を検出する車速センサのセンサ信号等が入力される。
【0041】
HV制御部101は、アクセルペダルの踏み込み量やエンジン回転数、車速等に基づいて車両に対する要求トルクを演算し、車両の走行モード(エンジン走行モード、EV走行モード、ハイブリッド走行モード)を決定する。HV制御部101は、算出された要求トルクをエンジン10及び駆動用モータ45に分配して、エンジン制御部102及びモータ制御部103に対して駆動指示を送る。
【0042】
モータ制御部103は、HV制御部101からの駆動指示に基づいて駆動用モータ45に供給する電力を制御して、駆動用モータ45を駆動する。具体的には、モータ制御部103は、インバータ49を制御することにより、駆動用モータ45に供給する電力を制御する。
【0043】
エンジン制御部102は、HV制御部101からの駆動指示に基づいてエンジン10を制御する。具体的には、エンジン制御部102は、エンジン10に備えられた燃料噴射弁や点火プラグの駆動制御を行うことにより、エンジン10を制御する。また、エンジン制御部102は、エンジン10を始動させる際には、モータジェネレータ駆動回路105に駆動指示を送信し、モータジェネレータ30によりエンジン10をクランキングさせてエンジン10を始動させる。エンジン制御部102は、エンジン10を始動させる際には、スタータ診断制御部111に対してエンジン10の始動を知らせる信号を送る。
【0044】
ただし、ハイブリッドシステムの異常時や高電圧バッテリ160の充電量が低下している場合等、モータジェネレータ30によりエンジン10を始動させることができない状況では、エンジン制御部102は、スタータ駆動回路104に駆動指示を送信し、スタータ20によりエンジン10をクランキングさせてエンジン10を始動させる。
【0045】
表示制御部106は、インストルメントパネルの表示面等の車室内の表示装置125を制御する。本実施形態において、表示制御部106は、スタータ20の故障診断の結果を表示装置125に表示させる制御を行う。
【0046】
スタータ診断制御部111のうち、第1の診断部112は、スタータ20に対して低電圧バッテリ130から電力を供給してスタータ20を駆動させたときのスタータ20への供給電力に基づいてスタータ20の故障診断(以下、「第1の診断」ともいう。)を行う。本実施形態において、第1の診断部112は、低電圧バッテリ130からスタータ20への電力の供給のオン又はオフを切り替えたときのスタータ20の供給電力の変化に基づいて、スタータ20の故障診断を行う。第1の診断部112による診断は、主として、スタータ20に電力を供給する電気回路上の故障の有無を診断するために行われる。例えば、ピニオン駆動リレー129をオフにした状態であれば、第1の診断はいつでも実行することができる。
【0047】
具体的に、第1の診断部112は、ピニオン駆動リレー129をオフにし、かつ、スタータ駆動リレー128をオフからオンに切り替えたときのスタータ20への供給電流の変化量が所定範囲内にあるか否かを判定する。スタータ20への供給電流Ist_Aは、低電圧バッテリ130の出力電流Ibat_outからDCDCコンバータ120の制御電流Idcを引くことで求められる。
【0048】
例えば、電気回路上で断線が生じている場合には、スタータ駆動リレー128をオフからオンに切り替えてもスタータ20への供給電流Ist_Aが増加しないため、その変化量が著しく小さくなる。また、電気回路上でショートが生じている場合には、スタータ駆動リレー128をオフからオンに切り替えたときに、スタータ20への供給電流Istが一気に大きくなるため、その変化量が著しく大きくなる。したがって、スタータ20への供給電流Istの変化量の上限値Ist_A_hi及び下限値Ist_A_loを適切な値に設定しておくことで、第1の診断によりスタータ20の故障を検出し得る。
【0049】
また、スタータ診断制御部111のうち、第2の診断部113は、モータジェネレータ30の駆動によりスタータ20を回転させたときのスタータ20の発電電力に基づいて、スタータ20の故障診断(以下、「第2の診断」ともいう。)を行う。本実施形態において、第2の診断部113は、モータジェネレータ30を駆動させ、エンジン10のクランクシャフト11を介してスタータ20の出力軸25を回転させたときのスタータ20の発電電力の変化量に基づいて、スタータ20の故障診断を行う。第2の診断部113による診断は、主として、スタータモータ本体の特性を診断するために行われる。
【0050】
図5は、スタータ20の回転数と発電電流Ist_Bとの関係を示す説明図である。スタータ20が正常である場合、スタータ20の回転数が大きいほど、スタータ20への発電電流Ist_Bは大きくなる。このため、第2の診断部113は、スタータ20の発電電流がスタータ20の回転数に応じた適切な値となっているかを判定することで、スタータモータ本体の特性を診断することができる。
【0051】
例えば、第2の診断部113は、エンジン10のクランクシャフト11とスタータ20の出力軸25とのギヤ比に基づき、エンジン10の回転数Neからスタータ20の回転数を求め、スタータ20の発電電流がスタータ20の出力軸25の回転数に応じた値に対して大きくズレていないかを診断することができる。スタータ20の発電電流Ist_Bは、低電圧バッテリ130の入力電流Ibat_inからDCDCコンバータ120の制御電流Idcを引くことで求められる。スタータ20の出力軸25の回転数は、回転センサを用いて検出してもよい。
【0052】
あるいは、第2の診断部113は、モータジェネレータ30を駆動させた後、あらかじめ設定した時間の経過後にピニオン駆動リレー129をオンにし、さらに、スタータ駆動リレー128をオフからオンに切り替えたときのスタータ20の発電電流の変化量が所定範囲内にあるか否かを判定する。この場合、スタータ駆動リレー128をオンにしている時間に応じて、スタータ20の発電電流Ist_Bの変化をあらかじめ把握することができる。したがって、スタータ20の発電電流Ist_Bの変化量の上限値Ist_B_hi及び下限値Ist_B_loを適切な値に設定しておくことで、第2の診断によりスタータ20の故障を検出し得る。
【0053】
スタータ診断制御部111による故障診断は、例えば、車両の走行制御中において、EV走行モードからハイブリッド走行モードに移行する際に実行されてもよい。かかる走行モードの移行時には、エンジン10を始動させるためにモータジェネレータ30が駆動されるため、スタータ20の動作音がドライバ等に聞こえにくくなる。また、特に第2の診断では、モータジェネレータ30によりエンジン10のクランクシャフト11を回転させてスタータ20を回転させるため、通常の走行制御中のエンジン10の始動に合わせて、第2の診断を実行させることができる。
【0054】
また、走行モードがEV走行モードからハイブリッド走行モードに移行する際にスタータ20の故障診断を行うことで、仮にスタータ20の故障が検出された場合であっても、その時点ではエンジン10が運転中であることから、エンジン10を運転状態で維持させることができる。したがって、モータジェネレータ30によってエンジン10を始動させられない状況で、スタータ20によってもエンジン10を始動させることができずに、リンプホーム運転すら不可能となる事態を回避することができる。
【0055】
また、走行モードがEV走行モードからハイブリッド走行モードに移行する際にスタータ20の故障診断を行うにあたり、スタータ診断制御部111は、第1の診断部112による第1の診断の結果に異常が無いときに、第2の診断部113による第2の診断を実行してもよい。つまり、スタータ20に電力を供給する電気回路上にショートや断線が生じていると推定される場合には、その時点でスタータ20とエンジン10とを連結させることなく、第2の診断を省略して、スタータ20の故障と判定してもよい。
【0056】
スタータ診断制御部111は、第1の診断部112又は第2の診断部113のいずれかによりスタータ20の故障が検出された場合には、HV制御部101に対してスタータ20の異常を知らせる信号を送り、EV走行モードを禁止させるとともに、エンジン10の駆動を継続させる。これにより、モータジェネレータ30及びスタータ20によるエンジン10の始動が不可能な状況で、エンジン10が停止することがなくなり、リンプホーム運転すら不可能となる事態を回避することができる。
【0057】
<3.スタータの診断制御方法>
次に、
図6〜
図8に基づいて、本実施形態に係る制御装置100によるスタータ20の診断制御方法の一例について説明する。
図6は、スタータ20の診断制御方法のメインルーチンを示すフローチャートであり、
図7は、スタータ20の故障診断処理のサブルーチンを示すフローチャートである。また、
図8は、スタータ20の診断制御中のスタータ駆動リレー128及びピニオン駆動リレー129の状態、エンジン回転数及びスタータ回転数、スタータ20への供給電流又は発電電流、低電圧バッテリ130の電圧の推移を示している。
【0058】
なお、以下のスタータの診断制御方法の例では、同一のフローチャートにしたがって第1の診断及び第2の診断が実行される。したがって、
図7及び以下の説明においては、スタータ20への供給電流とスタータ20の発電電流を区別せずに、スタータ駆動リレー128がオンの状態での低電圧系の電流値をIst_onと表し、スタータ駆動リレー128がオフの状態での低電圧系の電流値をIst_offと表す。
【0059】
図6において、例えば、HV制御部101が、走行モードをEV走行モード(第1の走行モード)からハイブリッド(第2の走行モード)へと切り替え、エンジン制御部103に対してエンジン10の駆動指示を送ると、エンジン制御部103は、モータジェネレータ駆動回路105に対して駆動指示を出力するとともに、スタータ診断制御部111にモータジェネレータ30の駆動を知らせる信号を送る(ステップS12)。スタータ診断制御部111の第1の診断部112は、かかる信号を受け取ると、第1の診断を実行する(ステップS14)。
【0060】
第1の診断処理は、例えば、以下のように実行される。
図7に示すように、まず、第1の診断部112は、時刻t1までの期間、スタータ駆動リレー128及びピニオン駆動リレー129をともにオフにした状態で、低電圧バッテリ130の出力電流値Ist_off(=Ibat−Idc)を一定の値に保持させる(ステップS32)。次いで、第1の診断部112は、時刻t1において、スタータ駆動リレー128をオンに切り替える(ステップS34)。次いで、第1の診断部112は、スタータ駆動リレー128がオンにされた状態で、低電圧バッテリ130からスタータ20への供給電流Ist_on(=Ibat−Idc)を算出する(ステップS36)。
【0061】
次いで、第1の診断部112は、低電圧バッテリ130からスタータ20への供給電流の変化量(|Ist_off−Ist_on|)を求め、この変化量があらかじめ設定した所定範囲内にあるか否かを判定する(ステップS38)。第1の診断における所定範囲の上限値Ist_on及び下限値Ist_offは、スタータ20に電力を供給する電気回路上での断線あるいはショートの発生の有無を検出し得る閾値として適切な値に設定される。
【0062】
スタータ20への供給電流の変化量が所定範囲内にある場合(S38:Yes)、第1の診断部112は、第1の診断の診断結果が正常であると判定する(ステップS40)。一方、スタータ20への供給電流の変化量が所定範囲内にない場合(S38:No)、第1の診断部112は、第1の診断の診断結果が異常であると判定する(ステップS42)。第1の診断の診断結果を判定した後、第1の診断部112は、時刻t2において、スタータ駆動リレー128をオフにして(ステップS44)、スタータ20の故障診断処理のサブルーチンを終了する。
【0063】
図6のフローチャートに戻り、第1の診断部112は、ステップS14における第1の診断の終了後、第1の診断によるスタータ20の異常の有無を判定する(ステップS16)。第1の診断によってスタータ20の異常と判定された場合(S16:No)、第1の診断部112は、HV制御部101あるいはエンジン制御部103に対して、エンジン10の停止を禁止させる。つまり、第1の診断部112は、HV制御部101に、EV走行モードへの切り替えを禁止させる(ステップS26)。車両がアイドルストップ車両である場合には、第1の診断部112は、エンジン制御部103に、アイドルストップ制御を禁止させる。
【0064】
次いで、第1の診断部112は、表示制御部106に制御指示を送り、インストルメントパネル等の表示装置にスタータ20の異常を表示させるなどして、ドライバにスタータ20の故障を通知する(ステップS28)。第1の診断によりスタータ20の異常が検出された場合には、第1の診断部112は、第2の診断を実行させることなくスタータ20の診断制御を終了する。
【0065】
一方、第1の診断によってスタータ20が正常と判定された場合(S16:Yes)、今度は、時刻t3において、スタータ診断制御部111の第2の診断部113は、ピニオン駆動リレー129をオンに切り替える(ステップS18)。次いで、第2の診断部113は、第2の診断を実行する(ステップS20)。
【0066】
第2の診断処理は、例えば、以下のように実行される。
図7に示すように、まず、第2の診断部113は、時刻t4までの期間、ピニオン駆動リレー129がオンにされる一方、スタータ駆動リレー128をオフにした状態で、低電圧バッテリ130の出力電流値Ist_off(=Ibat−Idc)を一定の値に保持させる(ステップS32)。次いで、第2の診断部113は、時刻t4において、スタータ駆動リレー128をオンに切り替える(ステップS34)。次いで、第2の診断部113は、スタータ駆動リレー128及びピニオン駆動リレー129がオンにされた状態で、スタータ20の発電電流Ist_on(=Ibat−Idc)を算出する(ステップS36)。
【0067】
次いで、第2の診断部113は、スタータ20の発電電流の変化量(|Ist_off−Ist_on|)を求め、この変化量があらかじめ設定した所定範囲内にあるか否かを判定する(ステップS38)。第2の診断における所定範囲の上限値Ist_on及び下限値Ist_offは、ステップS12でモータジェネレータ30の駆動を開始してから、このステップS38までの時間の経過に伴うエンジン回転数(スタータ回転数)の上昇量と、
図5に示したようなスタータ回転数と発電電流との特性等に応じて想定される閾値として適切な値に設定される。
【0068】
スタータ20の発電電流の変化量が所定範囲内にある場合(S38:Yes)、第2の診断部113は、第2の診断の診断結果が正常であると判定する(ステップS40)。一方、スタータ20の発電電流の変化量が所定範囲内にない場合(S38:No)、第2の診断部113は、第2の診断の診断結果が異常であると判定する(ステップS42)。第2の診断の診断結果を判定した後、第2の診断部113は、時刻t5において、スタータ駆動リレー128をオフにして(ステップS44)、スタータ20の故障診断処理のサブルーチンを終了する。
【0069】
図6のフローチャートに戻り、第2の診断部113は、ステップS20における第2の診断の終了後、ピニオン駆動リレー129をオフにする(ステップS22)。
図8においては、スタータ駆動リレー128をオフにする時刻t5と同時刻でピニオン駆動リレー129がオフにされているが、時刻はずれていてもよい。
【0070】
次いで、第2の診断部113は、第2の診断によるスタータ20の異常の有無を判定する(ステップS24)。第2の診断によってスタータ20の異常と判定された場合(S24:No)、第2の診断部113は、HV制御部101あるいはエンジン制御部103に対して、エンジン10の停止を禁止させる。つまり、第2の診断部113は、HV制御部101に、EV走行モードへの切り替えを禁止させる(ステップS26)。車両がアイドルストップ車両である場合には、第2の診断部113は、エンジン制御部103に、アイドルストップ制御を禁止させる。
【0071】
次いで、第2の診断部113は、表示制御部106に制御指示を送り、インストルメントパネル等の表示装置にスタータ20の異常を表示させるなどして、ドライバにスタータ20の故障を通知して(ステップS28)、スタータ20の故障診断制御を終了する。
【0072】
一方、第2の診断によってスタータ20が正常と判定された場合(S24:Yes)、第2の診断部113は、このままスタータ20の故障診断制御を終了する。この場合、仮にモータジェネレータ30によるエンジン10の始動が不可能な状況になってもスタータ20によってエンジン10を始動させることができる状況であることから、特にエンジン10の停止を禁止させるような指示は出されない。
【0073】
図6及び
図7のフローチャートで示したスタータの診断制御が実行される時期は、特に限定されない。診断制御は、車両のシステムの電源がオンにされている間、常時実行されてもよく、一定の時間間隔をおいて実行されてもよく、あるいは、エンジン10が始動される回数が所定回数に到達するごとに実行されてもよい。
【0074】
以上説明したように、本実施形態に係るスタータの故障診断装置(車載モータの故障診断装置)は、スタータ20に対して低電圧バッテリ130から電力を供給しスタータ20を駆動させたときのスタータ20への供給電流に基づいてスタータ20の故障診断を行う第1の診断部112を備えている。かかる第1の診断部112によって、主としてスタータ20に電力を供給する電気回路上の異常の有無を診断することができる。また、かかるスタータの故障診断装置は、モータジェネレータ30の駆動により回転されるクランクシャフト11を介してスタータ20を回転させたときのスタータ20の発電電流に基づいてスタータ20の故障診断を行う第2の診断部113を備えている。かかる第2の診断部113によって、主としてスタータモータ本体の特性の異常の有無を診断することができる。したがって、スタータ20の故障診断結果の信頼性が向上し、エンジン10を再始動することができずに、リンプホーム運転すらできなくなる事態を回避することができる。
【0075】
また、本実施形態に係るスタータの故障診断装置では、車両の走行制御中に、エンジン10が始動されるタイミングでスタータ20の故障診断が実行される。このため、スタータ20の異常が検出されるときにはエンジン10が運転状態にあるため、以降、エンジン10の停止を禁止させて、エンジン10の運転を継続させることができる。したがって、少なくともリンプホーム運転が確実に実行され得る状況を確保することができる。
【0076】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0077】
例えば、上記実施形態では、エンジン10を始動させるためにモータジェネレータ30の駆動が開始された後で、第1の診断部112による第1の診断と、第2の診断部113による第2の診断とが実行されていたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、
図9に示したように、第1の診断部112は、時刻t1〜t2において、モータジェネレータ30の駆動開始前であっても適時に第1の診断を実行してもよい。そのうえで、第2の診断部113は、モータジェネレータ30の駆動が開始される時刻t13以降、時刻t14〜t15において、第2の診断を実行すればよい。このように第1の診断及び第2の診断が実行される場合であっても、スタータ20に電力を供給するための電気回路系の異常、及び、スタータモータ自体の特性の異常の有無を判定することができる。
【0078】
また、上記実施形態では、車両がハイブリッド車両である例を説明したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、本発明は、車両の駆動力を発生させる駆動源としてエンジンのみを搭載した車両であって、アイドルストップ制御を実行可能なアイドルストップ車両に適用されてもよい。この場合、アイドルストップ制御によりエンジンが停止した後、モータジェネレータ及びスタータのいずれによってもエンジンを再始動させることが不可能になると、リンプホーム運転すら不可能な状況になる。アイドルストップ車両においても、本発明に係るスタータの故障診断装置によれば、スタータの故障診断を実行し、スタータの異常が検出された場合には、アイドルストップ制御を禁止させてエンジンの駆動を継続させることで、リンプホーム運転すら不可能な状況を回避することができる。
【0079】
また、上記実施形態では、スタータ20への供給電力及びスタータ20の発電電力として電流値を用いて故障診断が行われていたが、本発明はかかる例に限定されない。スタータ20への供給電力及びスタータ20の発電電力として電圧値を用いて故障診断が実行されてもよい。この場合においても、
図8及び
図9に示すように、第1の診断あるいは第2の診断時の電圧の変化量に基づいて、スタータ20の故障の有無を診断することができる。
【0080】
また、上記実施形態では、第1のモータとしてのモータジェネレータ30は、スタータ及び発電機の機能を有していたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、第1のモータは、エンジン10の出力側に設けられて、スタータとしての機能と併せて、車両の駆動トルクを生成する機能を有するモータであってもよい。この場合、第1のモータは、回生発電機能を有していてもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、モータジェネレータ30は、エンジン10のクランクシャフト11を介してスタータ20を回転させるモータであったが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、ギヤ等を介してスタータ20に連結された第1のモータを設け、第2の診断を実行する際に当該第1のモータを駆動させてスタータ20を回転させるようにしてもよい。