(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被印刷物の載置面を有しインクジェット印刷機内に設置可能な治具板または治具シートの前記載置面の上にインクジェット印刷法により凸部を形成して、請求項1〜11のいずれか一項に記載の印刷治具を形成する工程と、
被印刷物の側部の少なくとも一部が前記凸部に接触するように前記被印刷物を前記載置面に載置して、前記凸部を基準に前記被印刷物を位置決めする工程と、
前記被印刷物にインクジェット印刷法により印刷を施す工程と、
を有することを特徴とする印刷物の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば時計の文字板などの表示板は、タコ印刷またはスクリーン印刷により、色や模様などのデザインが印刷されて製造されている。表示板の生産にもインクジェット印刷を利用すれば、タコ印刷またはスクリーン印刷では表現できない印刷を施すことができる。しかしながら、表示板には様々な形状、デザインのものがあり、それらを実際に印刷するためには、被印刷物(印刷対象物)を固定するための治具を個々の被印刷物の形状に合わせて1つずつ金属で形成する必要がある。したがって、インクジェット印刷はコストがかかる手法である。
【0005】
一般に、被印刷物をステージ上に配置してインクジェット印刷を行う場合には、被印刷物を固定しないと、常に同じ位置で印刷を行うことは難しく、印刷にずれが発生し得る。特に、時計の文字板などの時計部品にはサイズが小さいものが多いので、印刷ずれの発生を防ぐために、印刷時に被印刷物を正確に位置決めする必要がある。特許文献1の印刷治具は、インクジェットプリンタに使用するものではあるが、時計部品の印刷への利用を考えた場合、被印刷物載置手段に載置された被印刷物の位置ずれが発生しないように、被印刷物をより厳密に位置決めする手段が必要となる。また、特許文献1の印刷治具では、多種多様な形状、サイズの被印刷物へのインクジェット印刷には必ずしも柔軟に対応できない可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、被印刷物の形状、サイズに合わせて簡易に作製でき、被印刷物をインクジェット印刷機に対して精度よく位置決め可能な印刷治具、およびそれを用いた印刷物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
被印刷物を支持し、被印刷物に印刷が施されるときにインクジェット印刷機内に設置される印刷治具であって、被印刷物が載置される載置面と、被印刷物を位置決めするための位置決め部であって、被印刷物が載置面に載置されたときに被印刷物の側部の少なくとも一部に接触するようにインクジェット印刷法により載置面上に予め形成された凸部で構成される位置決め部とを有することを特徴とする印刷治具が提供される。
【0008】
上記の印刷治具では、被印刷物は平板状の部材であり、凸部は、載置面上における互いに直交する2方向および回転方向に被印刷物を位置決め可能なように、被印刷物の2箇所以上の側部に接触する位置に形成されていることが好ましい。
【0009】
上記の印刷治具では、被印刷物は表示板であり、表示板の側部は、表示板の周方向に凹凸状に形成された凹凸形状部を有し、凸部は、少なくとも表示板の凹凸形状部に接触する位置に形成されていることが好ましい。
【0010】
上記の印刷治具では、表示板は時計の文字板であり、文字板の凹凸形状部は、文字板が固定されるムーブメントまたはムーブメントを保持する中枠に係合する係合部であり、凸部は、少なくとも文字板の係合部に接触する位置に形成されていることが好ましい。
【0011】
上記の印刷治具では、文字板は側部に係合部を複数個有し、凸部は、少なくとも複数の係合部にそれぞれ接触する位置に形成されていることが好ましい。
【0012】
上記の印刷治具では、表示板は時計の文字板であり、文字板の凹凸形状部は、文字板の外周における12時の位置に形成された凹部を有し、凸部は、凹部が形成された箇所で文字板の外周に接触するように形成されていることが好ましい。
【0013】
上記の印刷治具では、文字板は中心孔を有し、凸部は、さらに、文字板の中心孔の内壁に接触する位置に形成されていることが好ましい。
【0014】
上記の印刷治具では、凸部は、載置面に載置された表示板の側部に接触し表示板を取り囲む土手状の形状を有し、位置決め部は第2の凸部をさらに有し、第2の凸部は、凸部に相似の形状を有し、載置面上における凸部の外周側に凸部を取り囲むようにインクジェット印刷法により予め形成されたものであることが好ましい。
【0015】
上記の印刷治具では、凸部は周方向の一部に切欠き部を有することが好ましい。
【0016】
上記の印刷治具では、表示板の凹凸形状部は表示板の中心に関して非対称であり、凸部は、表示板が表裏を逆にして載置面に載置されないように、非対称な凹凸形状部に対応する位置に形成されていることが好ましい。
【0017】
上記の印刷治具では、載置面は、互いに異なる印刷が施される複数の表示板を並べて載置可能であり、載置面上における各表示板の載置位置に、当該位置に載置される表示板に施される印刷に対応する印刷が予め施されていることが好ましい。
【0018】
被印刷物の載置面を有しインクジェット印刷機内に設置可能な治具板または治具シートの載置面の上にインクジェット印刷法により凸部を形成して、上記のいずれかの印刷治具を形成する工程と、被印刷物の側部の少なくとも一部が凸部に接触するように被印刷物を載置面に載置して、凸部を基準に被印刷物を位置決めする工程と、被印刷物にインクジェット印刷法により印刷を施す工程とを有することを特徴とする印刷物の製造方法が提供される。
【0019】
印刷を施す工程では、印刷治具を形成する工程と同一の印刷機を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、被印刷物の形状、サイズに合わせて印刷治具を簡易に作製でき、被印刷物をインクジェット印刷機に対して精度よく位置決めすることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、印刷治具および印刷物の製造方法について説明する。ただし、本発明は図面または以下に記載される実施形態には限定されないことを理解されたい。
【0023】
以下では、主に、被印刷物が時計の文字板(すなわち、印刷されて文字板になる文字板基板)である場合の例を説明する。時計用の文字板は、表示板の一例である。この印刷治具は、被印刷物を支持し、被印刷物に印刷が施されるときにインクジェット印刷機内に設置される、インクジェット印刷用の治具である。具体的には、この印刷治具は、被印刷物が載置されるシート(治具シート)または板(治具板)の上に、インクジェット印刷により形成された凸部を有している。この印刷治具を用いた文字板の印刷工程では、治具シートまたは治具板の上に被印刷物が載置され、その凸部により被印刷物が位置決めかつ固定され、その上で、インクジェット印刷により被印刷物に意匠層が形成される。
【0024】
図1(A)および
図1(B)は、それぞれ、治具板1の平面図および断面図である。治具板1は、被印刷物である文字板を載せた治具シートを支持するトレイとして機能し、文字板の印刷時にインクジェット印刷機内に設置される。一例として、治具板1は、縦横が数十cm程度で、厚さが数mm程度の大きさを有する。治具板1の上面のほぼ全域を覆う符号10の領域は、治具シートが載置される載置面である。載置面10には、治具シートを治具板1に固定させるための通気用の多数の貫通孔11が形成されており、治具板1の四隅などの載置面10の周囲には、治具板1自体の固定用の図示しない貫通孔が形成されている。貫通孔11は、被印刷物を載置面10上のどこに載置しても複数の貫通孔11を覆うように、被印刷物である文字板の大きさに合わせて、例えば十数mm程度の細かいピッチで形成されている。
【0025】
図2は、治具シート2の平面図である。治具シート2は、被印刷物である文字板を支持し、治具板1の載置面10上に載置されるシート状の部材であり、文字板を位置決めするための位置決め部20を有する。治具シート2は、例えば角部の直角を治具板1の載置面10の角部に合わせることにより、治具板1に対して位置決めされる。図示した例では、印刷治具は、治具板1と治具シート2で構成される。このため、治具シート2の上面を、被印刷物が載置される載置面ということもできる。
【0026】
図示した例とは異なり、治具シート2を使用せず、直接、治具板1の上に位置決め部20を形成し、治具板1の上に文字板を載置してもよい。この場合、印刷治具は治具板1のみで構成される。しかしながら、1枚の治具板1に対して複数枚の治具シート2を用意することにより、1組の治具板1と治具シート2を用いて文字板を印刷している間に、別の治具シート2上に文字板を並べて準備することができるため、製造の効率が向上するという利点がある。なお、治具シート2を何らかの方法で固定できれば、治具板1を使用せず、治具シート2を直接インクジェット印刷機内に設置して、印刷を行ってもよい。この場合、印刷治具は治具シートのみで構成される。
【0027】
治具シート2上には複数の文字板を並べて載置可能であり、
図2では、6個の文字板を載置できるように、6個の位置決め部20が形成された場合の例を示している。位置決め部20は、土手状凸部30,40で構成され、これらは、その位置決め部20に載置される文字板の形状および大きさに合わせて形成される。位置決め部20の形状および大きさは、すべて同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0028】
図3(A)〜
図3(C)は、位置決め部20および文字板60の拡大図、ならびに位置決め部20への文字板60の固定方法の例を説明するための図である。
【0029】
文字板(文字板基板)60は、例えば、直径が数cm程度、厚さが数百μm程度のほぼ円形の平板状(円板状)の部材である。文字板60の印刷面および載置面は、平滑に形成されていてもよいし、凹凸状に模様などが形成されていてもよいし、あるいは、梨地状に形成されていてもよい。
図3(A)に示した例では、文字板60は、側面(側部)に6個の凹凸部を有し、中央に貫通孔(指針軸を通すための中心孔67)を有する。中心孔67の内壁のように、文字板60の内部に位置する壁部も側部の一例である。
【0030】
以下では、これらの凹凸部のことを、文字板60の12時に相当する位置のものから時計回りに順に、凹凸形状部61〜66という。図示した例では、凹凸形状部61〜66は、文字板60の中心に関して非対称である。凹凸形状部61,63,64,66は、文字板60の円形の外周部から周方向に突出し、凹凸形状部62,65は、文字板60の円形の外周部から周方向に突出し、かつ、中央に凹部(後述する凹部65A)を有する。
【0031】
土手状凸部30は、位置決め部20を構成する凸部であり、治具シート2の上面に盛り上がるようにインクジェット印刷法により予め立体印刷されたものである。土手状凸部30は、被印刷物である文字板60が治具シート2の上面(載置面)に載置されたときに文字板60の側部に接触するように、文字板60の外径形状に沿って治具シート2の上面に形成されている。より詳細には、土手状凸部30は、文字板60の外周全体を固定できるように文字板60が内部に丁度嵌る形状および大きさを有し、したがって、文字板60の凹凸形状部61〜66がそれぞれ嵌る6個の凹凸部を有する。以下では、凹凸形状部61〜66にそれぞれ対応する土手状凸部30の凹凸部のことを、治具凹凸部31〜36という。
【0032】
図示した例では、土手状凸部30は、文字板60の全周を取り囲み、文字板60の側部の全体に接触している。しかしながら、土手状凸部30は、必ずしも文字板60の全周を取り囲んでいなくてもよく、少なくとも文字板60の凹凸形状部61〜66に接触する位置に形成されていればよい。あるいは、土手状凸部30は、治具シート2の上面(載置面)における互いに直交する2方向(XY方向)および回転方向(θ方向)に文字板60を位置決めかつ固定できるように、最低限、文字板60の側面における2箇所の凹凸部(すなわち、凹凸形状部61〜66のうちの2つ以上)に接触する位置に形成されていればよい。
【0033】
土手状凸部40は、第2の凸部の一例であり、土手状凸部30とともに位置決め部20を構成する。土手状凸部40も、治具シート2の上面に盛り上がるように、土手状凸部30と一緒にインクジェット印刷法により予め立体印刷されたものである。土手状凸部40は、土手状凸部30の外周側に、土手状凸部30を取り囲むように形成されており、土手状凸部30と同じ形状を有し、土手状凸部30よりも一回り大きい。すなわち、土手状凸部40は、土手状凸部30の治具凹凸部31〜36に相似の形状の治具凹凸部41〜46を有する。土手状凸部40は、治具シート2上に載置された文字板60には接触せず、文字板60を位置決めかつ固定するものではないが、作業者に土手状凸部30の治具凹凸部31〜36の位置をわかりやすくするための目印として設けられている。
【0034】
インクジェット印刷機内ではプリントヘッドが高速で動いて風が発生するため、文字板60が固定されていないと、印刷中に文字板60が動いて位置ずれが発生するおそれがある。このため、位置決め部20(特に土手状凸部30)の印刷高さ(厚さ)は、文字板60を治具シート2上に固定できるような十分な大きさが必要である。ただし、位置決め部20の厚さが大き過ぎると、作業者が文字板60の取付けおよび取外しを行いにくくなるため、位置決め部20の厚さは、作業性が損なわれない適度な大きさであることが好ましい。これらのことから、位置決め部20の厚さは、文字板60の厚さと同程度であることが好ましい。
【0035】
図3(B)および
図3(C)に示すように、位置決め部20に文字板60を固定するには、文字板60の凹凸形状部61〜66を土手状凸部30の治具凹凸部31〜36に嵌め込めばよい。作業者は、パズルを組むように文字板60を治具シート2の上に置くだけでよいため、文字板60を簡単に位置決めかつ固定することができる。特に、土手状凸部30よりも大きい土手状凸部40が目印として設けられているので、作業者が治具凹凸部31〜36の位置を確認しやすく、文字板60を治具シート2上に載置する作業の正確性および作業性が向上する。また、図示した例では、凹凸形状部61〜66と治具凹凸部31〜36がそれぞれ非対称に形成されているため、作業者が表裏を逆にして文字板60を載置しようとすると、凹凸形状部61〜66を治具凹凸部31〜36に嵌めこむことができない。このため、作業者が文字板60の表裏を逆にするミスを防止することもできる。
【0036】
インクジェット印刷機は、治具シート2上にインクを垂らしてそれを硬化する。その際、インクに濡れ性があることによりインクが周囲に広がるため、土手状凸部30,40の表面は自然に曲面になり、土手状凸部30,40の鉛直方向の断面は丸みを帯びた形状になる。その曲面により文字板が案内されるため、インクジェット印刷法を使用することにより、自然と、文字板の取付けおよび取外しがしやすい土手状凸部30,40が形成される。
【0037】
また、土手状凸部30,40はインクジェット印刷により形成されるため、その色を自由に選択可能である。このため、治具シート2の上に目立つ色で土手状凸部30,40を形成すれば、作業者にとって、治具凹凸部31〜36の位置がわかりやすくなり、文字板60を載置する作業がさらに容易になる。
【0038】
図4(A)〜
図4(C)は、文字板60と時計のムーブメントとの係合部を説明するための図である。文字板60の側部には、ボスを介して文字板60を時計のムーブメントに係合させるための係合部が複数個形成されている。図示した例では、文字板60では、凹凸形状部62,65が、文字板60が固定されるムーブメントに係合する係合部に相当する。
【0039】
図4(A)は、凹凸形状部65の拡大図である。凹凸形状部65には、固定用のボスを通すための凹部65Aが形成されている。文字板60の中心を挟んで凹凸形状部65の反対側にある凹凸形状部62も、凹凸形状部65と同じ形状を有する。また、
図4(B)は、文字板60が時計の中枠81に固定された状態を示す。
図4(B)には表示されていないが、このとき、時計のムーブメントは文字板60の下に配置されており、文字板60は、凹凸形状部62,65に嵌め込まれるボスに固定される。
図4(C)は、
図4(B)の部分拡大図であり、凹凸形状部65の凹部65Aにボス82が嵌め込まれた状態を示す。ボス82は、ムーブメント、またはムーブメントを保持する中枠81に形成されるため、文字板60は、ボス82を介してムーブメントに固定される。
【0040】
このように、文字板60は、凹凸形状部62,65の2箇所でムーブメントに固定される。文字板60の外周において、文字板60がムーブメントに係合する係合部は、厳密に寸法管理されているため、治具シート2でも、少なくとも、その係合部である凹凸形状部62,65を文字板60の位置決めおよび固定に利用するとよい。すなわち、土手状凸部30は、既に述べた通り必ずしも文字板60の全周を取り囲んでいなくてもよいが、少なくとも文字板60の複数の係合部(凹凸形状部62,65)にそれぞれ接触する位置に対応して形成されていることが好ましい。特に、複数の係合部のそれぞれを印刷の位置決めにも利用することにより、印刷の位置ずれが一層発生しにくくなる。厳密に寸法管理されて係合部となる凹凸形状部は、凹凸形状部62,65に限らず、例えば12時の位置に形成するなど、他の位置に設けることもできる。
【0041】
例えば、透明の文字板を印刷して青色の文字板を作製する際には、最初、透明の文字板の裏側に青色が印刷され、その上に、青色が鮮明になるようにさらに白色が印刷され、その後、文字板が裏返されて、表側に文字(時字)が印刷される。このように、実際の印刷工程では文字板の両面が印刷されることが多く、その場合には、表面用の治具シートと、裏面用の治具シートがそれぞれ用意される。表面用の治具シートは、文字板60の表(おもて)面を上にしたときの凹凸形状部61〜66と合う位置に治具凹凸部が形成された土手状凸部を有し、裏面用の治具シートは、文字板60の裏面を上にしたときの凹凸形状部61〜66と合う位置に治具凹凸部が形成された土手状凸部を有する。
【0042】
なお、図示しないが、治具シート2に例えばバーコードなどの識別符号を付しておき、その識別符号を文字板60の製造日や製造条件などの情報と関連付けることにより、治具シート2にトレーサビリティの機能を持たせてもよい。また、一般に、文字板60には部品コードが付されており、その部品コードと治具シート2の識別符号とを関連付けてもよい。
【0043】
また、上記では凹凸形状部61〜66が文字板60の円形の外周部から突出する凸部である場合の例を示したが、凹凸形状部は、文字板60の円形の外周部から凹んだ凹部に対応する形状の凹部を周方向に有する土手状凸部であってもよい。この場合でも、同様に文字板60を位置決めすることができる。
【0044】
図5(A)および
図5(B)は、それぞれ、別の治具シート2’,2’’の平面図である。
図5(A)に示す治具シート2’の位置決め部20’(土手状凸部30’)は、周方向の一部に切欠き部37を有する。土手状凸部30’のように、土手状凸部は文字板60の全周を取り囲んでいなくてもよく、治具凹凸部がない箇所に切欠き部37がある方が、作業者が文字板60を治具シートから取り出し易くなる。
【0045】
図5(B)に示す治具シート2’’の位置決め部20’’は、各文字板60の載置位置に、当該位置に載置される文字板60に施される印刷に対応する下地印刷13が予め施されている。このように、治具シートは必ずしも無地でなくてもよい。一般に、文字板60の形状および大きさは製品によって異なるため、特に、互いに異なる色、デザインの印刷が施される(印刷仕様が互いに異なる)複数の文字板60を一度に印刷する場合には、完成品の文字板60と同じ印刷が下地印刷13として治具シートに施されているとよい。また、例えば、外径形状が異なるか、または互いに異なる色に着色済みの複数種類の文字板60を治具シート上に載置する場合にも、同様に下地印刷13が施されているとよい。これにより、作業者にとっては、どの文字板60をどこに載置したらよいかがわかりやすく、作業者が文字板60の載置位置を間違えるミスを防ぐことができるため、文字板60を治具シート上に載置する作業の正確性および作業性が向上する。
【0046】
図6(A)および
図6(B)は、別の治具シート3の平面図である。治具シート3も、治具シート2と同様に、被印刷物である文字板を支持し、治具板1の載置面10上に載置されるシート状の部材である。ただし、治具シート3は、文字板を位置決めするための位置決め部の形状、および、各文字板の載置位置に、当該位置に載置される文字板に施される印刷に対応する下地印刷14が予め施されている点が治具シート2とは異なる。印刷治具は、治具板1と治具シート3で構成されたものでもよい。
【0047】
治具シート3上には複数の文字板を並べて載置可能であり、
図6(A)では、3個の文字板を載置できるように、3個の位置決め部50が形成された場合の例を示している。治具シート3でも、下地印刷14があることにより、作業者にとっては、どの文字板をどこに載置したらよいかがわかりやすく、文字板を治具シート上に載置する作業の正確性および作業性が向上する。
【0048】
図6(B)は、治具シート3の位置決め部50の構造を分かりやすく示すために、下地印刷14を記載せず、治具シート3上に載置される文字板の位置を破線で示したものである。位置決め部50は、中心凸部51および外周凸部52で構成される。
【0049】
図7(A)〜
図7(E)は、位置決め部50および文字板70の拡大図、ならびに位置決め部50への文字板70の固定方法の例を説明するための図である。
【0050】
文字板(文字板基板)70は、例えば、直径が数cm程度、厚さが数百μm程度のほぼ円形の平板状(円板状)の部材である。
図7(A)に示した例では、文字板70は、側面(側部)に6個の凹凸部を有し、中央に貫通孔(指針軸を通すための中心孔77)を有する。以下では、これらの凹凸部のことを、文字板70の12時に相当する位置のものから時計回りに順に、凹凸形状部71〜76という。特に、凹凸形状部71は、文字板70の外周における12時の位置に形成された凹部(切欠き)であり、この凹部は、従来のタコ印刷またはスクリーン印刷の工程で文字板の位置決めの基準として使われ、厳密に寸法管理されているものである。
【0051】
図7(D)は、中心凸部51の拡大図である。中心凸部51は、半球状の形状を有し、文字板70の中心孔77の内壁に接触する位置に形成されている。治具シートの位置決め部は、文字板の外周側の側部に限らず、中心凸部51のように、文字板の貫通孔の内壁に接触するものであってもよい。中心凸部51が半球状であることにより、その球面が案内面となって、作業者が文字板70を治具シート3に取り付けやすいという利点がある。
【0052】
図7(E)は、外周凸部52の拡大図である。外周凸部52は、一例として3角柱状の形状を有し、文字板70が治具シート3の上面(載置面)に載置されたときに凹凸形状部71の凹部(切欠き)に嵌り、凹凸形状部71が形成された箇所で文字板70の外周に接触するように形成されている。位置決め部50を構成する中心凸部51および外周凸部52の印刷高さ(厚さ)は、位置決め部20と同様に、文字板70の厚さと同程度であることが好ましい。
【0053】
図7(B)および
図7(C)に示すように、位置決め部50に文字板70を固定するには、文字板70の凹凸形状部71と中心孔77をそれぞれ中心凸部51と外周凸部52に嵌め込めばよい。治具シート3を使用する場合も、作業者は、パズルを組むように文字板70を治具シート3の上に置くだけでよいため、文字板70を簡単に位置決めかつ固定することができる。位置決め部50は、中心凸部51と外周凸部52だけで構成されているため、治具シート2の位置決め部20よりも構造が単純であり、より少ない凸部で文字板70を位置決めかつ固定することが可能である。
【0054】
治具シート3は、治具シート2とは異なり、文字板の表(おもて)面を印刷するときも、裏面を印刷するときも使用することができる。治具シート2,3のどちらを使用するかは、文字板の外径形状などによって適宜選択可能である。
【0055】
なお、中心孔77の代わりに、小針用の指針軸を通すための孔や、カレンダー表示用の窓孔などを文字板70の位置決めに用いてもよい。この場合、文字板70が載置されたときにこれらの孔の内壁に接する治具シート3上の位置に凸部を形成して、その凸部により文字板70を位置決めすることが可能である。
【0056】
図8(A)および
図8(B)は、それぞれ、別の治具シート3’,3’’の平面図である。
図8(A)に示す治具シート3’の位置決め部50’には中心凸部51がなく、外周凸部52のみを有する。使用するインクジェットプリンタの種類や印刷する文字板の種類によって、外周部だけでも文字板を確実に位置決めかつ固定できるのであれば、位置決め部50’のように、位置決め部は必ずしも中心凸部を有していなくてもよい。また、
図8(B)に示す治具シート3’’の位置決め部50’’は、位置決め部50のものと同じ中心凸部51と外周凸部52に加えて、中心凸部51を挟んで外周凸部52とは反対側に形成された外周凸部53を有する。位置決め部50’’のように、複数の外周凸部を有し、文字板の外周の複数点で文字板に接触すれば、文字板をより確実に位置決めかつ固定できることが可能である。
【0057】
また、外周凸部52の代わりに、例えば、文字板70が載置されたときに凹凸形状部71における3時側および9時側の側部に接する治具シート3上の2箇所に外周凸部を形成し、これらの外周凸部により凹凸形状部71を挟んで文字板70を固定してもよい。
【0058】
図9(A)〜
図9(E)は、文字板60の印刷方法の例を説明するための概念図である。以下では、これらの図を参照して、治具シート2を用いた印刷物(文字板)の製造方法の例を説明する。なお、治具シート2’,2’’,3,3’,3’’を用いる場合も同様である。
【0059】
文字板を印刷するには、作業者は、まず、
図9(A)に示すように、
図1の治具板1の上に
図2の治具シート2を載置して位置決めし、それをインクジェット印刷機100内に設置する。インクジェット印刷機100は、例えば、UVデジタルインクジェットプリンタであり、YMCKの4色の組合せで色を表現し、カラー印刷する。
【0060】
そして、
図9(B)に示すように、作業者は、インクジェット印刷機100を操作して、治具シート2の上面(文字板の載置面)にインクジェット印刷法により位置決め部20(土手状凸部30,40)を形成する。土手状凸部30,40は、治具シート2上の同じ位置に複数回重ね印刷をすることにより形成される。その際、毎回同じ色で印刷する必要はなく、最初の1回だけカラーで印刷し、2回目以降は透明インクで印刷してもよい。インクの粘性の関係により、透明インクを用いた方が容易に立体印刷を実現することができる。
【0061】
続いて、作業者は、治具板1および治具シート2をインクジェット印刷機100から取り出し、
図9(C)に示すように、印刷前の文字板60を治具シート2上の土手状凸部30に嵌め込んで、土手状凸部30を基準に文字板60を位置決めかつ固定する。その際、文字板60の側部の凹凸形状部61〜66が土手状凸部30の治具凹凸部31〜36に接触するように、文字板60が治具シート2の上面(載置面)に載置される。
【0062】
次に、
図9(D)に示すように、作業者は、文字板60が配置された治具シート2を再び治具板1の上に載置して位置決めし、それをインクジェット印刷機100内に設置する。そして、作業者は、インクジェット印刷機100を操作して、各文字板60にインクジェット印刷法により印刷を施す。これにより、
図9(E)に示すように、文字板60の印刷が完了する。
【0063】
治具シート2を用いずに、治具板1に直接位置決め部20を形成する場合には、
図9(A)において、
図1の治具板1の上に
図2の治具シート2を載置して位置決めする工程が省かれ、
図9(C)において、位置決め部20が形成された治具板1に印刷前の文字板60が直接載置される。
【0064】
文字板に印刷を施す工程(
図9(E))では、位置決め部20を形成する工程(
図9(B))とは別のインクジェット印刷機を用いてもよいが、位置決め部20を形成する工程と同一のインクジェット印刷機100を用いる方が好ましい。2つの工程で同一のインクジェット印刷機100を用いれば、位置決め部20と文字板上の印刷とのずれが少なくなるので、例えば、印刷ずれを10μm程度以下に抑えることが可能になる。
【0065】
同じ印刷仕様の文字板を繰り返し印刷する場合、
図9(B)に示した工程で位置決め部20が形成された治具シート2を、
図9(C)以降の工程で繰り返し使用することができる。すなわち、最初に
図9(A)と
図9(B)の工程を行い、その後は、
図9(C)〜
図9(E)の工程を繰り返し行うことができる。
【0066】
上記した治具シート2,3などは、いずれもインクジェット印刷法により簡易に作製できる。また、治具シート2,3などを使用すれば、インクジェット印刷法の利点を生かした文字板の印刷が可能である。
【0067】
図10は、腕時計90の分解斜視図である。上記の印刷治具を使用可能な時計部品(被印刷物)には、文字板(文字板95)の他にも、例えば、
図10に示した、風防ガラス91、見返しリング92、ベゼル93(風防ガラス91の周りのリング状の部品)、指針(時針94A、分針94B、秒針94C)、反射板(図示せず)、裏蓋97、裏蓋内面ステッカ98、バンド99などがある。反射板は、金属表現を目的として文字板の下面に敷かれる半透過の部材であり、背面に配置された時計の太陽電池に光を透過させる。上記の印刷治具を使用してインクジェット印刷を行えば、こうした反射板へのフルカラー印刷を容易に実現することができる。
【0068】
図1〜
図8に示した治具シート2,2’,2’’,3,3’,3’’では、文字板60,70おいて厳密に寸法管理されている部分に対応して形成された治具凹凸部32,35または外周凸部52,53を、文字板60,70の位置決めおよび固定に利用している。しかしながら、印刷ズレの許容範囲によっては、厳密に寸法管理されていない文字板の側部に対応して形成された治具凹凸部または外周凸部を文字板60,70の位置決めおよび固定に利用することも可能である。
【0069】
また、位置決め部20,50,50’,50’’の形成に用いられるインクに対して分子間力が弱い材料で治具シート2,2’,2’’,3,3’,3’’または治具板1を形成すれば、プラスチック製のヘラによって載置面を傷つけずに位置決め部20,50,50’,50’’を剥離することができる。例えば、インクがアクリル系樹脂を含む場合には、治具シート2,2’,2’’,3,3’,3’’または治具板1を、ポリアセタール樹脂やアルミ、ステンレス、胴などの金属で形成すればよい。位置決め部が剥離した治具シート2,2’,2’’,3,3’,3’’または治具板1には、別の位置決め部20,50,50’,50’’を再度形成することができる。すなわち、治具シート2,2’,2’’,3,3’,3’’または治具板1は、これらに位置決め部20,50,50’,50’’を繰り返し形成して再利用することができる。
【0070】
上記の各実施形態では、表示板が時計用の文字板である場合の例を用いて説明したが、上記の治具板および治具シートは、車両用の計器などの他の表示板のインクジェット印刷にも適用することができる。