(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。また、2015年8月31日に出願し、本願優先権主張の基礎となる特願JP2015-171095号の特許請求の範囲、明細書、図面及び要約書の開示内容は、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0013】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂(A)(以下「(A)成分」と称す場合がある。)の種類には、特に制限はないものの、耐熱性、難燃性の点で芳香族ポリカーボネート樹脂の使用が特に好ましい。ポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物又はこれと少量の分岐剤とを、ホスゲンもしくはトリホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性重合体又は共重合体である。
【0014】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。また、溶融法を用いた場合には、末端基のOH基量を調整したポリカーボネート樹脂を使用することができる。
【0015】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物(100質量%)中のポリカーボネート樹脂(A)の割合は、73〜94.5質量%であり、耐熱性の点で80〜94.5質量%が好ましく、85〜93質量%がより好ましい。
【0016】
原料のジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(すなわち「ビスフェノールA」)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。好ましくは耐熱性、入手性の点でビスフェノールAを主成分として用いることが好ましい。ビスフェノールAが主成分のポリカーボネート樹脂とは、使用するビスフェノールの内、ビスフェノールAを60〜100モル%、好ましくは90〜100モル%使用したものである。また、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。
【0017】
また、上記ジヒドロキシ化合物とシロキサン構造を有する化合物との共重合体等のポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体であってもよい。
【0018】
分岐したポリカーボネート樹脂を得るには、上述したジヒドロキシ化合物の一部を分岐剤で置換すればよい。分岐剤としては、特に限定されないが、例えば、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニルヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物や、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(すなわち「イサチンビスフェノール」)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−ブロムイサチン等が挙げられる。これら置換する化合物の使用量は、ジヒドロキシ化合物に対して、通常0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0019】
ポリカーボネート樹脂(A)としては、上述した中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(すなわち「ビスフェノールA」)から誘導されるポリカーボネート樹脂、又は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(すなわち「ビスフェノールA」)と他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が好ましい。
【0020】
上述したポリカーボネート樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
ポリカーボネート樹脂(A)の分子量を調節するには、末端停止剤として一価のヒドロキシ化合物、例えば芳香族ヒドロキシ化合物を用いればよく、この一価の芳香族ヒドロキシ化合物としては、例えば、m−及びp−メチルフェノール、m−及びp−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。
【0022】
本明細書において、ポリカーボネート樹脂(A)は、粘度平均分子量[Mv]が12,000以上のものをいう。粘度平均分子量が12,000未満のカーボネート樹脂は「カーボネートオリゴマー」と称し、ポリカーボネート樹脂(A)とは区別される。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)の分子量は用途により任意であり、主にリン系難燃剤(B)およびフルオロポリマー(C)との配合比により適宜選択して決定すればよい。成形性、成形品の強度等の点から、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、粘度平均分子量[Mv]で、好ましくは28,000〜50,000、好ましくは35,000〜40,000である。芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、末端停止剤の使用量、重合時間等によって制御される。
【0023】
粘度平均分子量が28,000以上であれば、ポリカーボネート樹脂(A)へのフルオロポリマー(C)の分散性の向上、樹脂成分の粘度の上昇によりダイスから吐出されるフィルムのフルオロポリマー由来の収縮が抑制された結果、フィルム・シートの厚みムラが低減され、さらに薄肉フィルムの燃焼試験時での接炎時に試験片が溶融し割けるという問題(難燃性不十分)が防止される。粘度平均分子量が30,000以上であれば、ポリカーボネート樹脂(A)へのフルオロポリマー(C)の分散性が一層向上し、成形時のフルオロポリマーに起因するフィルムの収縮が十分に抑制され、厚みムラの小さいフィルム・シートが得られる。
【0024】
一方、粘度平均分子量が50,000以下であれば、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の流動性の低下を抑制でき、スクリュートルクの上昇による押出加工性の低下、生産速度の低下、樹脂温度の上昇による添加剤の劣化等の問題を抑制できる。
【0025】
ここでポリカーボネート樹脂及びカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量〔Mv〕は以下に記載の方法により測定することができる。
<粘度平均分子量(Mv)測定条件>
粘度平均分子量[Mv]は、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、下記Schnellの粘度式から算出される値(粘度平均分子量:Mv)を意味する。
【数1】
ここで極限粘度[η]とは各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[η
sp]を測定し、下記式により算出した値である。
【数2】
【0026】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)に加えて、カーボネートオリゴマーを含んでもよい。ただし、カーボネートオリゴマーは樹脂組成物の流動性及び耐熱性に影響し得る。フルオロポリマー(C)の分散性の向上および成型時の収縮の抑制、及び樹脂組成物の耐熱性の低下の抑制のためには、低分子量成分であるカーボネートオリゴマーの含有量が少ないほどよい。カーボネートオリゴマーの量が多い、及び/又は、カーボネート系樹脂の平均分子量が小さいと、フルオロポリマー(C)の分散性が悪化する;樹脂組成物の粘度が低いために成型時にフルオロポリマーが収縮する;などの場合がある。一例をあげると、ポリカーボネート樹脂(A)の総重量(100重量部)に対してカーボネートオリゴマーの配合量が好ましくは0〜3重量部、より好ましくは0〜1重量部、さらに好ましくは実質的に0重量部、すなわちカーボネートオリゴマーを実質的に含まないことが好ましい。さらに、ポリカーボネート樹脂(A)及びカーボネートオリゴマーからなるカーボネート系樹脂成分の粘度平均分子量は、好ましくは28,000〜50,000、好ましくは35,000〜40,000である。また、ポリカーボネート樹脂(A)及びカーボネートオリゴマーからなるカーボネート系樹脂成分の分子量分布(Mw/Mn)は流動性及び耐熱性の点から好ましくは2.0〜3.0であり、より好ましくは2.4〜2.8であり、特に好ましくは2.4〜2.7である。
【0027】
[リン系難燃剤(B)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、難燃性の改善のためにリン系難燃剤(B)を含有する。ポリカーボネート樹脂組成物(100質量%)中のリン系難燃剤(B)の割合は、5〜25質量%である。5質量%以上であれば十分な難燃性を付与しうる。25質量%以下であれば樹脂組成物の耐熱性の低下を抑制できる。さらに、難燃性と耐熱性のバランスの点で6〜20質量%が好ましく、7〜15質量%がより好ましい。
【0028】
リン系難燃剤(B)としては、リン酸エステル系難燃剤、ホスファゼン系難燃剤等を用いることができる。リン系難燃剤(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
<リン酸エステル系難燃剤>
リン系難燃剤(B)としては、中でも難燃化効果が高く、流動性向上効果があることから、リン酸エステル系難燃剤が好ましく用いられる。リン酸エステル系難燃剤は限定されないが、特に、このリン酸エステル系難燃剤としては、下記の一般式(IIa)で表されるリン酸エステル系化合物が好ましい。
【0030】
【化1】
(式(IIa)中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、各々独立に、炭素数1〜8のアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1〜8のアルキル基、又は炭素数1〜8のアルキル基、もしくは炭素数1〜8のアルキル基で置換されていてもよいフェニルで置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を示し、p、q、r及びsは、各々独立に0又は1であり、tは、0〜5の整数であり、Xは、アリーレン基または下記式(IIb)で表される二価の基を示す。)
【化2】
(式(IIb)中、Bは、単結合、−C(CH
3)
2−、−SO
2−、−S−、又は−O−である。)
【0031】
上記一般式(IIa)において、R
1〜R
4のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。また、Xのアリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基が挙げられる。tが0の場合、一般式(IIa)で表される化合物はリン酸エステルであり、tが0より大きい場合は縮合リン酸エステル(混合物を含む)である。本発明には、特に縮合リン酸エステルが好適に用いられる。
【0032】
上記一般式(IIa)で表されるリン酸エステル系難燃剤としては、具体的には、トリメチルフォスフェート、トリエチルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート、トリブトキシエチルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、トリクレジルフェニルフォスフェート、オクチルジフェニルフォスフェート、ジイソプロピルフェニルフォスフェート、ビスフェノールAテトラフェニルジフォスフェート、ビスフェノールAテトラクレジルジフォスフェート、ビスフェノールAテトラキシリルジフォスフェート、ヒドロキノンテトラフェニルジフォスフェート、ヒドロキノンテトラクレジルジフォスフェート、ヒドロキノンテトラキシリルジフォスフェート、レゾルシノールテトラフェニルジフォスフェート、レゾルシノールビスジキシレニルホスフェート等の種々のものが例示される。これらのうち好ましくは、トリフェニルフォスフェート、ビスフェノールAテトラフェニルジフォスフェート、レゾルシノールテトラフェニルジフォスフェート、レゾルシノールビスジ2,6−キシレニルホスフェート等が挙げられる。市販品のリン酸エステル系難燃剤の例として、(株)ADEKA社のFP−600、大八化学工業社製のPX−200等が挙げられる。
【0033】
上述したリン酸エステル系難燃剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
<ホスファゼン系難燃剤>
ホスファゼン系難燃剤は、リン酸エステル系難燃剤と比較して難燃剤の添加による樹脂組成物の耐熱性の低下を抑制できるため、効果的なリン系難燃剤として用いられる。ホスファゼン系難燃剤は、分子中に−P=N−結合を有する有機化合物であり、ホスファゼン系難燃剤としては、好ましくは下記一般式(IIIa)で表される環状ホスファゼン化合物、下記一般式(IIIb)で表される鎖状ホスファゼン化合物、下記一般式(IIIa)及び下記一般式(IIIb)からなる群より選択される少なくとも一種のホスファゼン化合物が架橋基によって架橋されてなる架橋ホスファゼン化合物が挙げられる。架橋ホスファゼン化合物としては、下記一般式(IIIc)で表される架橋基によって架橋されてなるものが難燃性の点から好ましい。
【0035】
【化3】
(式(IIIa)中、mは3〜25の整数であり、R
5は、同一又は異なっていてもよく、アリール基又はアルキルアリール基を示す。)
【0036】
【化4】
(式(IIIb)中、nは3〜10,000の整数であり、Zは、−N=P(OR
5)
3基又は−N=P(O)OR
5基を示し、Yは、−P(OR
5)
4基又は−P(O)(OR
5)
2基を示す。R
5は、同一又は異なっていてもよく、アリール基又はアルキルアリール基を示す。)
【0037】
【化5】
(式(IIIc)中、Aは−C(CH
3)
2−、−SO
2−、−S−、又は−O−であり、lは0又は1である。)
【0038】
一般式(IIIa)及び(IIIb)で表される環状及び/又は鎖状ホスファゼン化合物としては、例えば、R
5が炭素数1〜6のアルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基であるものが好ましく挙げられる。具体的には、R
5がフェニル基などのアリール基である環状又は鎖状のホスファゼン化合物;R
5がトリル基(o−,m−,p−トリルオキシ基)、キシリル基(2,3−、2,6−、3,5−キシリル基)などの、炭素数1〜6、好ましくは1〜3のアルキルで置換された炭素数6〜20のアリール基である環状又は鎖状フェノキシホスファゼン;または当該R
5を組み合わせた環状又は鎖状フェノキシホスファゼン;が挙げられる。より具体的にはフェノキシホスファゼン、(ポリ)トリルオキシホスファゼン(例えば、o−トリルオキシホスファゼン、m−トリルオキシホスファゼン、p−トリルオキシホスファゼン、o,m−トリルオキシホスファゼン、o,p−トリルオキシホスファゼン、m,p−トリルオキシホスファゼン、o,m,p−トリルオキシホスファゼン等)、(ポリ)キシリルオキシホスファゼン等の環状及び/又は鎖状C
1−6アルキルC
6−20アリールオキシホスファゼンや、(ポリ)フェノキシトリルオキシホスファゼン(例えば、フェノキシo−トリルオキシホスファゼン、フェノキシm−トリルオキシホスファゼン、フェノキシp−トリルオキシホスファゼン、フェノキシo,m−トリルオキシホスファゼン、フェノキシo,p−トリルオキシホスファゼン、フェノキシm,p−トリルオキシホスファゼン、フェノキシo,m,p−トリルオキシホスファゼン等)、(ポリ)フェノキシキシリルオキシホスファゼン、(ポリ)フェノキシトリルオキシキシリルオキシホスファゼン等の環状及び/又は鎖状C
6−20アリールC
1−10アルキルC
6−20アリールオキシホスファゼン等が例示でき、好ましくは環状及び/又は鎖状フェノキシホスファゼン、環状及び/又は鎖状C
1−3アルキルC
6−20アリールオキシホスファゼン、C
6−20アリールオキシC
1−3アルキルC
6−20アリールオキシホスファゼン(例えば、環状及び/又は鎖状トリルオキシホスファゼン、環状及び/又は鎖状フェノキシトリルフェノキシホスファゼン等)である。なお、ここで、「C
1−6」の記載は「炭素数1〜6の」を意味し、「C
6−20」「C
1−10」等についても同様である。また、「(ポリ)フェノキシ・・・」の記載は「フェノキシ・・・」と「ポリフェノキシ・・・」の一方、又は両方をさす。
【0039】
一般式(IIIa)で表される環状ホスファゼン化合物としては、R
5がフェニル基である環状フェノキシホスファゼンが特に好ましい。また、該環状フェノキシホスファゼン化合物は、一般式(IIIa)中のmが3〜8の整数である化合物が好ましく、mの異なる化合物の混合物であってもよい。具体的には、ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼン(m=3の化合物)、オクタフェノキシシクロテトラホスファゼン(m=4の化合物)、デカフェノキシシクロペンタホスファゼン(m=5の化合物)等の化合物、またはこれらの混合物が挙げられる。なかでも、m=3のものが50質量%以上、m=4のものが10〜40質量%、m=5以上のものが合わせて30質量%以下である化合物の混合物が好ましい。
【0040】
このような環状フェノキシホスファゼン化合物は、例えば、塩化アンモニウムと五塩化リンとを120〜130℃の温度で反応させて得られる環状及び直鎖状のクロロホスファゼン混合物から、ヘキサクロロシクロトリホスファゼン、オクタクロロシクロテトラホスファゼン、デカクロロシクロペンタホスファゼン等の環状のクロルホスファゼンを取り出した後にフェノキシ基で置換することにより製造することができる。
【0041】
一般式(IIIb)で表される鎖状ホスファゼン化合物としては、R
5がフェニル基である鎖状フェノキシホスファゼンが特に好ましい。このような鎖状フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、上記の方法で得られる環状フェノキシホスファゼン化合物の塩化物(例えばヘキサクロロシクロトリホスファゼン)を220〜250℃の温度で開還重合し、得られた重合度3〜10,000の直鎖状ジクロロホスファゼンをフェノキシ基で置換することにより得られる化合物が挙げられる。該直鎖状フェノキシホスファゼン化合物の、一般式(IIIb)中のnは、好ましくは3〜1,000、より好ましくは3〜100、さらに好ましくは3〜25である。
【0042】
架橋フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、4,4’−スルホニルジフェニレン(ビスフェノールS残基)の架橋構造を有する化合物、2,2−(4,4’−ジフェニレン)イソプロピリデン基の架橋構造を有する化合物、4,4’−オキシジフェニレン基の架橋構造を有する化合物、4,4’−チオジフェニレン基の架橋構造を有する化合物等の、4,4’−ジフェニレン基の架橋構造を有する化合物等が挙げられる。
【0043】
また、架橋ホスファゼン化合物としては、一般式(IIIa)においてR
5がフェニル基である環状フェノキシホスファゼン化合物が上記一般式(IIIc)で表される架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物又は、上記一般式(IIIb)においてR
5がフェニル基である鎖状フェノキシホスファゼン化合物が上記一般式(IIIc)で表される架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物が難燃性の点から好ましく、環状フェノキシホスファゼン化合物が上記一般式(IIIc)で表される架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物がより好ましい。
【0044】
また、架橋フェノキシホスファゼン化合物中のフェニレン基の含有量は、一般式(IIIa)で表される環状ホスファゼン化合物及び/又は一般式(IIIb)で表される鎖状フェノキシホスファゼン化合物中の全フェニル基及びフェニレン基数を基準として、通常50〜99.9%、好ましくは70〜90%である。また、該架橋フェノキシホスファゼン化合物は、その分子内にフリーの水酸基を有しない化合物であることが特に好ましい。
【0045】
本発明においては、ホスファゼン系難燃剤は、上記一般式(IIIa)で表される環状フェノキシホスファゼン化合物、及び、上記一般式(IIIa)で表される環状フェノキシホスファゼン化合物が架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物よる成る群から選択される少なくとも1種であることが、難燃性及び機械的特性の点から好ましい。市販品のホスファゼン系難燃剤としては、例えば、環状フェノキシホスファゼンである伏見製薬所社製の「ラビトルFP−110」、「ラビトルFP−110T」及び大塚化学社製の「SPS100」等が挙げられる。
【0046】
上述したホスファゼン系難燃剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0047】
[フルオロポリマー(C)]
フルオロポリマー(C)は本発明のポリカーボネート樹脂組成物における燃焼物の滴下防止のために添加される。
【0048】
フルオロポリマーとしては、例えば、フルオロオレフィン樹脂が挙げられる。フルオロオレフィン樹脂は、通常、フルオロエチレン構造を含む重合体または共重合体である。フルオロエチレン構造を含む重合体または共重合体は、フルオロエチレン構造(構成単位)を主成分とするポリマーであり、具体的には、フルオロエチレン構造(フルオロエチレンの構成単位)はフルオロポリマーを構成するモノマー単位全体の好ましくは40〜100質量%であり、より好ましくは50〜100質量%であり、さらに好ましくは60〜100質量%である。ポリテトラフルオロエチレンの数平均分子量は特に制限されないが、300万〜数千万(例えば、3,000,000〜90,000,000)が好ましい。
【0049】
具体例としてはポリジフルオロエチレン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂、テトラフルオロエチレン/パーフルアルキルビニルエーテル共重合樹脂等が挙げられる。なかでも好ましくは難燃性の点でポリテトラフルオロエチレン樹脂が挙げられる。また、試験片の垂落ち防止抑制効果の点からは、フィブリル形成能を有するフルオロエチレン樹脂も好ましく用いられる。なお、「フィブリル形成能」とは、せん断力等の外的作用により、樹脂同士が結合して繊維状になる傾向を示すことをいう
【0050】
フィブリル形成能を有するフルオロエチレン樹脂としては、例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製「テフロン(登録商標)6J」、「テフロン(登録商標)640J」、ダイキン化学工業社製のポリフロンFシリーズ(例えば、「ポリフロンF201L」、「ポリフロンF103」、「ポリフロンFA500B」、「ポリフロンFA500H」など)が挙げられる。さらに、フィブリル形成能を有するフルオロエチレン樹脂の水性分散液の市販品として、例えば、三井デュポンフロロケミカル社製「テフロン(登録商標)30J」、「テフロン(登録商標)31−JR」、ダイキン化学工業社製「フルオンD−1」等が挙げられる。
【0051】
本発明におけるフルオロポリマー(C)の形状は特に制限されないが、微粒子形態であることが好ましい。
さらに、ビニル系単量体を重合してなるポリマー(ビニル系ポリマー)でフルオロエチレン重合体を被覆した多層構造を有するフルオロエチレン重合体(変性ポリテトラフルオロエチレン)も使用することができる。このような変性ポリフルオロエチレンは原料コンパウンド時のハンドリングの点で有利である。このような変性ポリフルオロエチレンの具体例としては、ポリスチレン−フルオロエチレン複合体、ポリスチレン−アクリロニトリル−フルオロエチレン複合体、ポリメタクリル酸メチル−フルオロエチレン複合体、ポリメタクリル酸ブチル−フルオロエチレン複合体等が挙げられ、具体例としては三菱レイヨン社製「メタブレンA−3800」、GEスペシャリティケミカル社製「ブレンデックス449」等が挙げられる。中でも、(メタ)アクリル樹脂(例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸ブチルなど)とフルオロエチレン樹脂との多層構造を有するアクリル変性ポリフルオロエチレンが好ましい。
本発明の一形態におけるフルオロポリマー(C)は、テトラフルオロエチレン構造を含む重合体または共重合体からなる非被覆状態の粒子(すなわち、コア―シェル型ではない均一な粒子)または前記重合体または共重合体が上記ビニル系ポリマーで被覆された粒子である。
【0052】
なお、フルオロポリマーは、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0053】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物(100質量%)中のフルオロポリマーの割合は、0.1〜2質量%である。フルオロポリマーの割合が0.1質量%未満の場合は、フルオロポリマーによる難燃性改良の効果が不十分となる可能性があり、フルオロポリマーの割合が2質量%を超える場合は、ポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品の外観不良、厚みムラ、機械的強度の低下が生じるおそれがある。フルオロポリマーの割合は、より好ましくは、難燃性、厚みムラ、外観を全て点で0.5〜1質量%である。
【0054】
[その他の成分]
(その他の樹脂成分)
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない限りにおいて、樹脂成分として、ポリカーボネート樹脂(A)やフルオロポリマー(C)以外の他の樹脂成分を含有していてもよい。配合し得る他の樹脂成分としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ハイインパクトポリスチレン樹脂、水添ポリスチレン樹脂、ポリアクリルスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、SMA樹脂、ポリアルキルメタクリレート樹脂、ポリメタクリルメタクリレート樹脂、ポリフェニルエーテル樹脂、(A)成分以外のポリカーボネート樹脂、非晶性ポリアルキレンテレフタレート樹脂、ポリエステル樹脂、非晶性ポリアミド樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1、環状ポリオレフィン樹脂、非晶性ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルフォンなどが挙げられる。
【0055】
(その他添加剤)
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に種々の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料、帯電防止剤、難燃剤、衝撃強度改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、無機充填材(ケイ酸塩化合物、ガラス繊維、炭素繊維等)などが挙げられる。これらの樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0056】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用することができる。
【0057】
その具体例を挙げると、本発明に係るポリカーボネート樹脂(A)とリン系難燃剤(B)とフルオロポリマー(C)と必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサー、スーパーミキサーなどの各種混合機を用いて予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
【0058】
[ポリカーボネート樹脂組成物の流れ値]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、280℃における樹脂組成物の流れ値が1×0.01〜10×0.01cm
3/秒であることを特徴とする。ここでいう流れ値(Q値)とはJIS K7210−1:2014付属書JAに記載の方法で測定された値のことをいう。測定は島津製作所社製フローテスターCFD500Dを用いて、穴径1.0mm、長さ10mmのダイを用い、試験温度280℃、試験力160kg/cm
2、余熱時間420秒の条件で排出された溶融樹脂量を流れ値(×0.01cm
3/秒)として用いる。
【0059】
樹脂組成物の流れ値が1×0.01cm
3/秒より低いと流動性が不足するためシート・フィルム溶融押出時のトルクが上昇し、生産性の低下、剪断発熱による添加剤等の劣化の問題がある。また流れ値が10×0.01cm
3/秒より高いと流動性が高くなるため、押出機ダイから出たフィルム・シートのフルオロポリマー由来の収縮量を抑制できず、フィルム・シートの厚みムラを生じ、かつ薄肉フィルムの燃焼試験時での接炎時に試験片が溶融し割けるため難燃性が得られないといった問題がある。樹脂組成物の流れ値は、溶融押出成形方法によるフィルム成形性の点で2×0.01cm
3/秒以上が好ましい。また、樹脂組成物の流れ値は、シート・フィルムの厚みムラの一層の低減の点で9×0.01cm
3/秒以下が好ましく、8×0.01cm
3/秒以下がより好ましい。
上記範囲の流れ値は押出成形によりフィルム・シートの製造に好適である。すなわち、発明者らは、樹脂組成物の流れ値に着目し、流れ値が薄層とした場合の厚みムラ及び薄肉難燃性に関連することを見出した。樹脂組成物の流れ値が上記範囲に制御されることにより、薄層物における厚みムラの抑制及び難燃性の付与が可能となる。なお、従来の金型成形(射出成型)などでは、流れ値が10×0.01〜50×0.01cm
3/秒の樹脂組成物が一般に用いられており、流れ値の範囲が本発明の範囲とは異なる。例えば、射出成形に使用されるユーピロン三菱エンジニアリングプラスチックス(株)社製「ユーピロン(登録商標)H−4000」は流れ値が上記範囲(10×0.01〜50×0.01cm
3/秒)に含まれる。
【0060】
ポリカーボネート樹脂組成物の流れ値は構成成分(A)〜(C)の配合比や構成成分(A)〜(C)の種類などを制御することにより、所望の範囲に調節することができる。例えば、以下の項目を制御することにより所望の範囲に調節することができる。
1)ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量(Mv)
一般に、Mvを大きくすると、流れ値は低下する傾向がある。
2)リン系難燃剤(B)の配合比
一般にリン系難燃剤の含有量が大きくなると流れ値は上昇する。
3)カーボネート樹脂成分の配合・粘度平均分子量(Mv)
一般に、Mvを大きくすると、流れ値は低下する傾向がある。
一般に、低分子量成分であるカーボネートオリゴマーの含有量が多いと、流れ値は上昇する傾向がある。
【0061】
[ポリカーボネート樹脂組成物の成形方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、様々な形態の成形体にすることができる。特に、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いることで従来のポリカーボネート樹脂組成物では困難であった薄肉での難燃性に優れた成形品の提供が可能となる。本発明の成形品の適用例を挙げると、電気電子機器、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器等の部品が挙げられる。これらの中でも、本発明の成形品は、その優れた難燃性から、特に電気電子機器、OA機器、情報端末機器、家電製品、照明機器等の部品及び銘板へ用いて好適であり、電気電子機器、照明機器の部品、シート部材に用いて特に好適である。なかでも本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、シート及びフィルムへの成形に好適に用いられ、厚みムラが小さく薄肉難燃性に優れたシート及びフィルムが得られる。
【0062】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物からシート及びフィルムを製造する方法に特に制限はなく、例えば溶融押出成形法、溶液流延法、ブロー成形法、インフレーション成形法等の成形方法を用いることができる。なかでも好ましくは連続生産性の点で押出成形法である。好ましい一実施形態において、シートまたはフィルムの製造方法は、ポリカーボネート樹脂組成物を押出成形する工程を含む。
【0063】
本発明におけるポリカーボネート樹脂製シートおよびフィルムは、表層の片面または両面に非強化の熱可塑性樹脂層を積層していても良い。すなわち、本発明の一形態によれば、ポリカーボネート樹脂層の少なくとも一面に熱可塑性樹脂層を有する積層シートまたはフィルムが提供される。このようにすることにより、良好な表面平滑性、光沢感、耐衝撃性が得られ、非強化層の裏面に印刷を施した場合には深みのある外観が得られる。
【0064】
また、積層する熱可塑性樹脂は種々の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料、帯電防止剤、難燃剤、衝撃強度改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。これらの樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0065】
なお、「シート」とは、一般に、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいい、「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう。しかし、本明細書では「シート」と「フィルム」とは明確に区別されるものではなく、双方とも同じ意味として用いられる。
【0066】
[フィルム・シートの厚み]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物から得られるフィルムまたはシート(積層体の場合にはポリカーボネート樹脂層)の厚みは、10〜1000μmの範囲であることが好ましく、30〜500μmの範囲がより好ましく、30〜200μmの範囲がさらに好ましい。本発明のポリカーボネート樹脂組成物から得られるフィルムまたはシートは厚みムラが小さい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0068】
<樹脂組成物の流れ値測定>
JIS K7210−1:2014付属書JAに記載の方法を参考に樹脂組成物ペレットの流れ値(Q値)を評価した。測定は島津製作所社製フローテスターCFD500Dを用いて、穴径1.0mm、長さ10mmのダイを用い、試験温度280℃、試験力160kg/cm
2、余熱時間420秒の条件で排出された溶融樹脂量を流れ値(×0.01cm
3/秒)として用いた。なお表中には「流れ値」と表記する。
【0069】
<樹脂フィルムの厚み(膜厚分布)測定>
樹脂フィルムの膜厚分布は、山文電気社製の接触式卓上型オフライン厚み計測装置(TOF−5R)を用いて測定した。フィルムの中央部分の厚みを押出成形時の流れ方向(MD方向)に沿って10mm間隔で計140点測定し、フィルム膜厚の平均値と標準偏差を求め、膜厚のばらつきを評価した。なお表中には「平均膜厚」、「膜厚標準偏差」と表記する。膜厚のばらつき(厚みムラ)について、膜厚標準偏差が0μm以上2μm未満であるものを「非常に良好」、2μm以上4μm未満であるものを「良好」、4μm以上のものを「不良」と判断することができる。
【0070】
<難燃性評価>
ポリカーボネート樹脂フィルムの難燃性評価は、幅50mm×長さ200mm×厚み50μmに切削したフィルムを用い、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めているUL94/VTM燃焼試験に準拠した方法で評価した。本評価では下記表1に示す基準から、VTM−0と判定されたものを適合、接炎時における試験片の変形(溶融裂け)が標線を超えたものを不適合とした。なお、表中、「UL94難燃性」と表記する。
(評価方法)
(i)測定試料準備
測定試料を上記サイズ(上記幅50mm×長さ200mm×厚み50μmに切削する。
23℃、50%RH中で48時間放置した試料を試料A、温度70℃、168時間放置後、温度23℃、20%RH以下で4時間冷却した試料を試料Bとして、それぞれ試料5枚を1セットとして準備する。
(ii)測定方法
各試料の短辺から125mmのところに短辺と平行方向に線を引き、直径12.7mmの棒に、短辺が上下方向となるように巻きつける。125mmマークより上の75mm部分内は感圧テープで留めたあと棒を引き抜く。試料の上端はテスト中に煙突効果がないように閉じておく。次に、各試料を垂直にセットし、その300mm下方に脱脂綿を置く。試料の下端から10mmのところにバーナーの筒が位置するように、径9.5mm、炎長20mmのブンゼンバーナーを加熱源とし、試料の下端の中央に青色炎を3秒間接炎し、1回目の離炎後の燃焼時間(t1)を測定する。次いで、炎が消えたらすぐに再び3秒間接炎し、2回目の離炎後の燃焼時間(t2)を測定する。また、脱脂綿を着火させるような燃焼落下物があったかの観察も行う。試料A、試料Bについて、各1セット(5枚)ずつ、上記の測定を行なう。
各試料の1回目(t1)または2回目(t2)離炎後の燃焼時間の大きい方(t1またはt2)を「各試料の最大燃焼時間」として評価した。5試料の合計燃焼時間(5試料のt1+t2の合計)を「5試料の合計燃焼時間」として評価した。脱脂綿を着火させるような燃焼落下物の存在の有無を「ドリップによる綿着火」の有無として評価した。
【0071】
【表1】
【0072】
[使用材料]
<芳香族ポリカーボネート樹脂(A)>
(a−1)三菱エンジニアリングプラスチックス(株)社製「ユーピロン(登録商標)K−4000F」、ビスフェノールA型、粘度平均分子量40,000、Mw/Mn=2.7
(a−2)三菱エンジニアリングプラスチックス(株)社製「ユーピロン(登録商標)E−2000F」、ビスフェノールA型、粘度平均分子量28,000、Mw/Mn=2.5
(a−3)三菱エンジニアリングプラスチックス(株)社製「ユーピロン(登録商標)S−3000F」、ビスフェノールA型、粘度平均分子量23,000
<リン系難燃剤(B)>
(b−1)フェノキシホスファゼン(伏見製薬所社製「ラビトルFP−110T」)(上記式(IIIa)においてm≧3(主構造:環状3量体)、R
5=フェニル基である化合物)
(b−2)レゾルシノールビス−2,6−キシレニルホスフェート(大八化学工業製「PX−200」)
<フルオロポリマー(C)>
(c−1)フィブリル形性能を有するポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業(株)社製ポリフロン「FA−500H」)
(c−2)アクリル樹脂(ポリメタクリル酸メチル)で被覆されたポリテトラフルオロエチレン、PTFE含有量50質量%(三菱レイヨン(株)製 メタブレン「A−3750」)
<その他添加剤(D)>
(d−1)酸化防止剤:ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、((株)ADEKA社製 アデカスタブ「AO−60」)
(d−2)酸化防止剤:トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、((株)ADEKA社製 アデカスタブ「2112」
【0073】
[実施例1〜6、比較例1〜7]
<樹脂ペレットの製造>
表2、3に記載の組成のポリカーボネート樹脂組成物を以下のようにして得た。
【0074】
1ベントを備えた日本製鋼所社製二軸押出機TEX30α(C18ブロック、L/D=55)を用い、スクリュー回転数200rpm、吐出量20kg/時間、バレル温度300℃の条件で各成分を混練し、ストランド状に押出した溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化した。得られたペレットの流れ値を表2、3に示す。
【0075】
<樹脂フィルムの製造>
上記で得たポリカーボネート樹脂組成物からなるペレットから以下のように押出成形によりフィルムを得た。
【0076】
(株)プラエンジ社製単軸押出機PSV−30を用い、シリンダー温度300℃、ダイス温度300℃、ロール温度110℃、スクリュー回転数30rpmの条件で幅25cm×長さ10m×厚み0.05mmのフィルムを得た。ただしリン系難燃剤の配合量が2%のものに関してはロール温度を130℃とした。また、リン系難燃剤の配合量が32%のものに関しては樹脂組成物のガラス転移温度が小さいためロール温度を50℃に設定して成形を行った。得られたフィルムの評価結果(平均膜厚、膜厚標準偏差、UL94難燃性)を表2、3に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
表2に示されるように、実施例のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)を73〜94.5質量%、リン系難燃剤(B)を5〜25質量%、フルオロポリマー(C)を0.1〜2質量含み、280℃における流れ値が1×0.01〜10×0.01cm
3/秒に調整されている。これらの実施例のポリカーボネート樹脂組成物から製造されたフィルムはいずれも難燃性に優れ、厚みムラが小さかった。
【0080】
これに対し、表3に示されるように、280℃における流れ値が10×0.01cm
3/秒を超えるポリカーボネート樹脂組成物を用いた比較例1〜4は、いずれも成形されたフィルムの厚さのムラが大きかった。また、ポリカーボネート樹脂組成物中のリン系難燃剤(B)が少ない比較例5やフルオロポリマー(C)を含まない比較例6は難燃性に劣る結果となった。また、フルオロポリマー(C)を過剰に含む比較例7では成形されたフィルムの厚さのムラが大きく、難燃性の試験も行うことができなかった。
【0081】
以上より、ポリカーボネート樹脂(A)、リン系難燃剤(B)およびフルオロポリマー(C)を所定の範囲でそれぞれ含有し、特定の流れ値を有するポリカーボネート樹脂組成物によれば、厚みムラが小さく薄肉難燃性に優れたフィルム・シートを製造できることが確認された。