特許第6749375号(P6749375)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6749375-駆動システム 図000002
  • 特許6749375-駆動システム 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6749375
(24)【登録日】2020年8月13日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】駆動システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/17 20160101AFI20200824BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20200824BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20200824BHJP
   B60K 6/445 20071001ALI20200824BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20200824BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20200824BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20200824BHJP
   F02D 29/06 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
   B60W20/17ZHV
   B60W10/06 900
   B60W10/08 900
   B60K6/445
   B60L50/16
   B60L15/20 J
   F02D29/02 Z
   F02D29/06 L
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-184679(P2018-184679)
(22)【出願日】2018年9月28日
(65)【公開番号】特開2020-50321(P2020-50321A)
(43)【公開日】2020年4月2日
【審査請求日】2019年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】特許業務法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 祐貴彦
【審査官】 増子 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−230725(JP,A)
【文献】 特開平11−093725(JP,A)
【文献】 特開2015−024688(JP,A)
【文献】 特開2010−138751(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/108066(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B60W 10/00−10/30
B60K 6/20− 6/547
B60L 1/00− 3/12
7/00−13/00
15/00−58/40
F02D 13/00−28/00
29/00−29/06
43/00−45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
モータジェネレータと、
前記エンジンと前記モータジェネレータとを繋ぐギヤ機構と、
制御部と
を備え、
前記ギヤ機構は、前記エンジンにおいて生成される第1の駆動トルクが前記エンジンから伝達される第1のギヤと、前記モータジェネレータにおいて生成される第2の駆動トルクが前記モータジェネレータから伝達されると共に前記第1のギヤと噛合する第2のギヤとを有し、
前記制御部は、下記の条件式(1)を満たすときの前記第1のギヤにかかる前記第1の駆動トルクの変化率を、下記の条件式(1)を満たさないときの前記第1のギヤにかかる前記第1の駆動トルクの変化率よりも小さくするように、前記エンジンのトルク制御を行う
駆動システム。
|T2−T1|<Th1 ……(1)
但し、
T1:第1の駆動トルク
T2:第2の駆動トルク
Th1:第1の閾値
である。
【請求項2】
前記制御部は、前記条件式(1)を満たすときの前記第2のギヤにかかる前記第2の駆動トルクの変化率を、前記条件式(1)を満たさないときの前記第2のギヤにかかる前記第2の駆動トルクの変化率よりも大きくするように、前記トルク制御を行う
請求項1記載の駆動システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1の駆動トルクが上昇する際に前記トルク制御を行う
請求項1または請求項2記載の駆動システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記エンジンに対する出力要求トルクが第2の閾値以下の場合に前記トルク制御を行う
請求項3記載の駆動システム。
【請求項5】
前記ギヤ機構の潤滑を行うフルードをさらに備え、
前記制御部は、前記フルードの温度が基準温度以上の場合に前記トルク制御を行う
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両等の駆動系に搭載される駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンと2つのモータとを備え、エンジンの駆動トルクと2つのモータにおける各駆動トルクとを合算するようにした車両の駆動システムが開発されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−203664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような駆動システムにおいては、例えばエンジンの駆動トルクとモータの駆動トルクとの大小関係が切り替わることに起因して、エンジンの駆動トルクとモータの駆動トルクとを繋ぐギヤ機構において歯打ち音が発生する場合がある。したがって、このような歯打ち音が発生しにくい駆動システムが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一実施態様としての駆動システムは、エンジンと、モータジェネレータと、エンジンとモータジェネレータとを繋ぐギヤ機構と、制御部とを備える。ギヤ機構は、エンジンにおいて生成される第1の駆動トルクがエンジンから伝達される第1のギヤと、モータジェネレータにおいて生成される第2の駆動トルクがモータジェネレータから伝達されると共に第1のギヤと噛合する第2のギヤとを有する。制御部は、下記の条件式(1)を満たすときの第1のギヤにかかる第1の駆動トルクの変化率を、下記の条件式(1)を満たさないときの第1のギヤにかかる第1の駆動トルクの変化率よりも小さくするように、エンジンのトルク制御を行う。
|T2−T1|<Th1 ……(1)
但し、T1は第1の駆動トルクであり、T2は第2の駆動トルクであり、Th1は第1の閾値である。
【0006】
本開示の一実施態様としての駆動システムでは、制御部により、条件式(1)を満たすときの第1の駆動トルクの変化率を、条件式(1)を満たさないときの第1の駆動トルクの変化率よりも小さくするように、エンジンのトルク制御が行われる。このため、第1のギヤに対する第2のギヤの歯当たり方向が安定化する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一実施形態としての駆動システムによれば、制御部によるトルク制御により第1のギヤに対する第2のギヤの歯当たり方向が安定化するので、歯打ち音の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施の形態に係る車両駆動システムの概略構成例を表す模式図である。
図2図1に示した車両駆動システムにおけるトルク制御を説明するためのチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(エンジンと2つのモータジェネレータとを備えた車両駆動システムの例)
2.変形例
【0010】
<1.実施の形態>
[車両駆動システム100の概略構成]
図1は、本開示の一実施の形態に係る車両駆動システム100における動力伝達系の概略構成例を、模式的に表したものである。車両駆動システム100は、エンジン200とモータジェネレータ121とを備えたハイブリッド車両(以下、単に「車両」という。)に搭載され、その車両の駆動を行うものである。図1に示したように、車両駆動システム100は、エンジン200の駆動力によって回転する出力軸110、発電用のモータジェネレータ(MG)121を含む回転駆動装置120、車両駆動用のモータジェネレータ(MG)131を含む回転駆動装置130、遊星歯車機構140、遊星歯車機構150、フロントディファレンシャル160、およびプロペラシャフト170を備えている。フロントディファレンシャル160は、図示しない前輪に駆動力を伝達する部材である。また、プロペラシャフト170は、図示しないリアディファレンシャルを介して後輪に駆動力を伝達する部材である。
【0011】
なお、「エンジン200」は本開示の「エンジン」に対応する一具体例であり、「出力軸110」は本開示の「出力軸」に対応する一具体例である。また、モータジェネレータ121およびモータジェネレータ131は、それぞれ本開示の「第1のモータジェネレータ」および「第2のモータジェネレータ」に対応する一具体例である。
【0012】
車両駆動システム100は、モータジェネレータ121とモータジェネレータ131とを繋ぐギヤ機構10を備えている。ギヤ機構10は、遊星歯車機構140および遊星歯車機構150のほか、遊星歯車機構140とモータジェネレータ131との間に設けられた伝達ギヤ190,192および駆動軸210を有している。ギヤ機構10は、後述のオイルポンプ42により循環されるATF(オートマティックトランスミッションフルード)などのオイルによって冷却および潤滑がなされるようになっている。
【0013】
車両駆動システム100は、さらに、減速ギヤ180,182と、カップリング230と、パーキングギヤ250と、伝達ギヤ220,222と、車輪駆動軸162とを備えている。減速ギヤ180,182は、出力軸110とモータジェネレータ121との間に設けられている。カップリング230は、遊星歯車機構150とプロペラシャフト170との間に位置する。パーキングギヤ250、伝達ギヤ220,222および車輪駆動軸162は、モータジェネレータ131とフロントディファレンシャル160との間に設けられている。
【0014】
(回転駆動装置120)
回転駆動装置120は、モータジェネレータ121と、駆動軸122とを有している。駆動軸122は、出力軸110から伝達されるエンジン200からの駆動力により回転駆動するようになっている。モータジェネレータ121は、例えば三相交流タイプの交流同期モータであり、主に発電機として動作する。モータジェネレータ121は、駆動軸122を介して出力軸110から伝達されるエンジン200からの駆動力を利用して発電を行い、発電された電力は後述のバッテリ70に充電されるほか、車両駆動用のモータジェネレータ131の駆動源として使用される。なお、モータジェネレータ121は、交流同期モータに限定されるものではなく、交流誘導モータまたは直流モータであってもよい。
【0015】
(遊星歯車機構140)
遊星歯車機構140は、エンジン200の駆動力、モータジェネレータ121の駆動力およびモータジェネレータ131の駆動力の統合および分配を行う動力分配統合機構であり、キャリア142、ピニオンギヤ144、サンギヤ145およびリングギヤ146を有している。サンギヤ145は駆動軸122と接続されている。エンジン200の駆動力は、出力軸110から減速ギヤ180と減速ギヤ182とを経由してキャリア142に伝達され、ピニオンギヤ144およびサンギヤ145を介して駆動軸122に伝達されるようになっている。また、キャリア142に伝達されたエンジン200の駆動力は、ピニオンギヤ144を介してリングギヤ146に伝達されるようになっている。リングギヤ146に伝達されたエンジン200の駆動力は、伝達ギヤ190と伝達ギヤ192とを介して駆動軸210へ伝達されるようになっている。
【0016】
(回転駆動装置130)
回転駆動装置130は、モータジェネレータ131と、出力軸132とを有している。モータジェネレータ131は、例えば三相交流タイプの交流同期モータであり、主に車両駆動用の駆動力を生成する動力源として動作する。モータジェネレータ131において生成された駆動力は、出力軸132と遊星歯車機構150とを介して駆動軸210へ伝達されるようになっている。なお、モータジェネレータ131は、交流同期モータに限定されるものではなく、交流誘導モータまたは直流モータであってもよい。
【0017】
(遊星歯車機構150)
遊星歯車機構150は、リダクションギヤ機構であり、ピニオンギヤ152と、駆動軸210に固定されたキャリア154と、出力軸132に接続されたサンギヤ155と、リングギヤ156とを有している。モータジェネレータ131において生成された駆動力は、出力軸132と、サンギヤ155と、キャリア154と、ピニオンギヤ152とを介して、駆動軸210に固定されたキャリア154に伝達されるようになっている。このような機構により、エンジン200の駆動力と車両駆動用のモータジェネレータ131の駆動力とが駆動軸210において合算されるようになっている。
【0018】
駆動軸210の駆動力は、伝達ギヤ220と伝達ギヤ222とを介してフロントディファレンシャル160の車輪駆動軸162に伝達される。フロントディファレンシャル160は、車輪駆動軸162に伝達された駆動軸210の駆動力によって回転駆動される。また、駆動軸210の駆動力はカップリング230によって前後輪の回転数差が吸収され、プロペラシャフト170に伝達される。プロペラシャフト170は、リアディファレンシャルなどを介して後輪と接続されている。通常の走行時においては、エンジン200の回転数と発電用のモータジェネレータ121の回転数との比率により駆動軸210の回転数が定まる。一例として、エンジン出力のうち30%が発電用のモータジェネレータ121による発電に費やされ、残りの70%が車輪の駆動に費やされる。なお、本実施形態では、駆動軸210の駆動力が前輪および後輪に伝達されるフルタイム4WDの車両駆動システム100を例示している。しかしながら、駆動軸210の駆動力が前輪および後輪のいずれかに伝達されるFF方式またはFR方式の車両駆動システムにも、車両駆動システム100を適用することもできる。
【0019】
車両駆動システム100は、図1に示したように、エンジンコントロールユニット(以下、単に「ECU」という。)80と、ハイブリッド車コントロールユニット(以下、単に「HEV−ECU」という。)50と、CAN(Controller Area Network)90と、パワーコントロールユニット(以下「PCU」という)60と、バッテリ70と、オイルパン41と、オイルポンプ42と、オイルクーラ43とをさらに備えている。
【0020】
エンジン200は、燃料噴射装置、点火装置、およびスロットルバルブなどを備えており、その動作はECU80により制御される。ECU80には、出力軸110の回転位置(エンジン回転数)を検出するクランク角センサ、アクセルペダルの踏み込み量すなわちアクセルペダルの開度を検出するアクセルペダルセンサ、およびエンジン200の冷却水の温度を検出する水温センサ等の各種センサが接続されている。
【0021】
ECU80は、取得したこれらの各種情報、及びHEV−ECU50からの制御情報に基づいて、燃料噴射装置や点火装置およびスロットルバルブ等の各種デバイスを制御することによりエンジン200を制御する。また、ECU80は、CAN90を介して、アクセルペダル開度や、エンジン回転数、および冷却水温度などの各種情報を、HEV−ECU50へ送信するようになっている。
【0022】
オイルパン41は、モータジェネレータ121,131、減速ギヤ180,182、伝達ギヤ190,192,220,222、および遊星歯車機構140,150などにおける潤滑および冷却を行うためのATFなどのオイルを貯留する容器である。
【0023】
オイルポンプ42は、オイルパン41に貯留されているオイルを、モータジェネレータ121およびモータジェネレータ131などへ供給する機械式のオイルポンプである。オイルポンプ42は、エンジン200によって駆動され、オイルパン41に貯留されているオイルを吸い上げ、昇圧して吐出する。オイルポンプ42から吐出されたオイルはオイルクーラ43に圧送されたのち、油路44,45などをそれぞれ介してモータジェネレータ121およびモータジェネレータ131などへ供給される。モータジェネレータ121およびモータジェネレータ131などへ供給されたオイルは車両駆動システム100の内部を循環してオイルパン41へ戻るようになっている。この車両駆動システム100では、エンジン200の出力軸110の回転数と連動してオイルポンプ42からのオイルの吐出量が変化するようになっている。具体的には、エンジン200の出力軸110の回転数の上昇にともなってオイルポンプ42からのオイルの吐出量が増加し、エンジン200の出力軸110の回転数の下降にともなってオイルポンプ42からのオイルの吐出量も減少するようになっている。なお、機械式のオイルポンプ42としては、例えば、同軸式の内接ギヤ・トロコイドタイプのものや、チェーン駆動式のベーンタイプのものなどが好適に用いられる。
【0024】
車両駆動システム100では、電動オイルポンプをさらに設けるようにしてもよい。電動オイルポンプは、例えば、エンジン200が停止されているときに、電動モータにより駆動され、オイルパン41に貯留されているオイルを昇圧して吐出し、オイルクーラ43に圧送することができる。そのような電動オイルポンプの駆動は、HEV−ECU50によって制御される。
【0025】
オイルクーラ43は、オイルポンプ42の下流側に設けられ、オイルポンプ42から吐出されたオイルと例えば空気などの冷却媒体との間で熱交換を行い、オイルを冷却する空冷式のオイルクーラである。なお、オイルクーラ43は空冷式のオイルクーラに限定されず、例えば、オイルと冷却水との間で熱交換を行う水冷式のオイルクーラであってもよい。
【0026】
駆動力源であるエンジン200、モータジェネレータ121およびモータジェネレータ131は、HEV−ECU50によって総合的に制御される。なお、HEV−ECU50は、本開示の「制御部」に対応する一具体例である。
【0027】
HEV−ECU50は、例えば、演算を行うマイクロプロセッサと、そのマイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するROMと、演算結果などの各種データを記憶するRAMと、その記憶内容が保持されるバックアップRAMと、入出力I/Fとを有する。
【0028】
HEV−ECU50には、例えば、外気の温度を検出する外気温センサや、車両の速度を検出する車速センサなどを含む各種センサが接続されている。また、HEV−ECU50は、CAN90を介して、エンジン200を制御するECU80やビークルダイナミック・コントロールユニット(以下「VDCU」という)等と相互に通信可能に接続されている。HEV−ECU50は、CAN90を介して、ECU80およびVDCUから、例えば、エンジン回転数、冷却水温度、およびアクセルペダル開度等の各種情報を受信する。
【0029】
HEV−ECU50は、取得したこれらの各種情報に基づいて、エンジン200、モータジェネレータ121およびモータジェネレータ131の駆動を総合的に制御する。HEV−ECU50は、例えば、アクセルペダル開度(運転者の要求)、車両の運転状態、バッテリ70の充電状態(SOC)などに基づいて、エンジン200の要求出力、ならびに、モータジェネレータ121のトルク指令値およびモータジェネレータ131のトルク指令値を求めて出力する。
【0030】
ECU80は、上記したHEV−ECU50から出力されるエンジン200の要求出力に基づき、例えばエンジン200におけるスロットルバルブの開度を調節する。また、PCU60は、上記したHEV−ECU50から出力されるトルク指令値に基づき、後述のインバータ61を介して、モータジェネレータ121の駆動およびモータジェネレータ131の駆動を行う。
【0031】
PCU60は、インバータ61と、DC−DCコンバータ62とを有している。インバータ61は、バッテリ70からの直流電力を三相交流の電力に変換してモータジェネレータ131へ供給するものである。PCU60は、上述したように、HEV−ECU50から受信したトルク指令値に基づき、インバータ61を介して、モータジェネレータ121およびモータジェネレータ131を駆動する。なお、インバータ61は、モータジェネレータ121およびモータジェネレータ131において発電した交流電圧を直流電圧に変換し、バッテリ70を充電する。また、DC−DCコンバータ62は、補機類や各ECUの電源として使用するために、バッテリ70の直流高電圧を12Vまで降圧するものである。
【0032】
[車両駆動システム100の動作]
(車両前進動作)
車両駆動システム100により車両を前進させる際には、駆動軸210の駆動力によって前輪および後輪が駆動される。駆動軸210の駆動力は、エンジン200において発生する駆動力から発電用のモータジェネレータ121による発電に費やされる駆動力を減算した駆動力と、車両駆動用のモータジェネレータ131において発生する駆動力とが駆動軸210上で合算されたものである。ただし、車両駆動システム100は、走行条件に応じて、モータジェネレータ131のみの駆動力による走行と、エンジン200の駆動力およびモータジェネレータ131の駆動力の双方による走行との切り替えを行うことができる。また、エンジン200の駆動力の一部が発電用の回転駆動装置120の駆動軸122に伝達されることによって、発電用のモータジェネレータ121によって発電が行われる。なお、車両駆動システム100では、アクセルペダル開度が所定開度を超えると、エンジン200が発生する駆動力よりもモータジェネレータ131が発生する駆動力のほうが大きくなる。
【0033】
(車両後進動作)
また、車両駆動システム100により車両を後進させる際には、例えば車両駆動用のモータジェネレータ131を、前進の際と逆方向に回転させる。これにより、駆動軸210を車両前進時に対して逆回転させ、車両の後進が行われる。
【0034】
[HEV−ECU50によるトルク制御について]
車両駆動システム100を搭載した車両において、エンジン200の駆動力とモータジェネレータ131の駆動力との双方による走行時、ギヤ機構10において歯打ち音が生じる場合がある。これは、エンジン200において生成される駆動力のトルク(以下、エンジン駆動トルクT1という。)とモータジェネレータ131において生成される駆動力のトルク(以下、モータ駆動トルクT2という。)との大小関係に起因する現象である。具体的には、エンジン駆動トルクT1がモータ駆動トルクT2よりも大きい場合におけるギヤ機構10内での歯当たり方向と、エンジン駆動トルクT1がモータ駆動トルクT2よりも小さい場合におけるギヤ機構10内での歯当たり方向とが切り替わるので、歯打ち音が発生すると考えられる。詳細には、例えば伝達ギヤ190と伝達ギヤ192との噛合部分において歯当たり方向が切り替わる際に歯打ち音が発生すると考えられる。あるいは、遊星歯車機構140における、リングギヤ146とピニオンギヤ144との噛合部分やサンギヤ145とピニオンギヤ144との噛合部分においても歯打ち音が発生する可能性が考えられる。さらには、遊星歯車機構150における、リングギヤ156とピニオンギヤ152との噛合部分やサンギヤ155とピニオンギヤ152との噛合部分においても歯打ち音が発生する可能性が考えられる。
【0035】
特にアクセルペダル開度が小さくモータ駆動トルクT2が小さい場合、エンジン駆動トルクT1とモータ駆動トルクT2との大きさが拮抗し、それらエンジン駆動トルクT1とモータ駆動トルクT2との大小関係が繰り返し切り替わることにより歯打ち音が繰り返し発生する。一方、アクセルペダル開度が所定開度を超えると、上述のようにエンジン駆動トルクT1よりもモータ駆動トルクT2が大きくなるので、歯打ち音が繰り返し発生することはない。
【0036】
そこで車両駆動システム100では、HEV−ECU50により、エンジン駆動トルクT1およびモータ駆動トルクT2をそれぞれ調整する。トルク制御を行うことにより、上記した各構成要素間で発生する歯打ち音、特に、継続して発生する歯打ち音を抑制できる。具体的には、アクセルペダル開度が所定開度以下の状態から加速する場合に、エンジン駆動トルクT1よりもモータ駆動トルクT2を早く立ち上げることにより、モータ駆動トルクT2がエンジン駆動トルクT1よりも大きい状態へ早く移行させるようにする。そうすることにより、歯打ち音が繰り返し発生することを抑制できる。
【0037】
具体的には、HEV−ECU50は、図2に示したように、下記の条件式(1)を満たすときの伝達ギヤ190でのエンジン駆動トルクT1の変化率を、下記の条件式(1)を満たさない通常時における伝達ギヤ190でのエンジン駆動トルクT1の変化率よりも小さくするように、エンジン200のトルク制御を行う。すなわち、条件式(1)を満たす場合には、通常時よりもエンジン駆動トルクT1を緩やかに変化させるようにする。
|T2−T1|<Th1 ……(1)
但し、条件式(1)では、T1がエンジン駆動トルクを示し、T2がモータ駆動トルクを示し、Th1が予め設定された第1の閾値を示す。なお、図2は、T1Aが条件式(1)を満たすときのエンジン駆動トルクの変化を表し、T1Bが条件式(1)を満たさない通常時のエンジン駆動トルクの変化を表している。なお、トルクの差分の第1の閾値Th1は例えば30N・m程度である。
【0038】
条件式(1)に示したように、エンジン駆動トルクT1とモータ駆動トルクT2との差分が小さい場合には、エンジン駆動トルクT1とモータ駆動トルクT2との大小関係が入れ替わりやすいので、ギヤ機構10内での歯当たり方向の切り替わりも生じやすい。その結果、歯打ち音が発生しやすい。そこで、エンジン駆動トルクT1とモータ駆動トルクT2との差分が第1の閾値Th1未満であるときには、エンジン駆動トルクT1の立ち上がりを緩やかにする、いわゆるトルクなましを行うようにする。これにより、相対的にモータ駆動トルクT2が先に立ち上がるので、常にT2>T1の関係が維持される。その結果、ギヤ機構10内での歯当たり方向の切り替わりが抑制され、歯打ち音の発生が抑制される。
【0039】
なお、歯打ち音は車両の加速時に発生しやすいので、HEV−ECU50による上述のトルク制御は、少なくともエンジン駆動トルクT1が上昇する際に行われるとよい。
【0040】
HEV−ECU50は、図2に示したように、条件式(1)を満たすときの伝達ギヤ192でのモータ駆動トルクT2の変化率を、下記の条件式(1)を満たさない通常時の伝達ギヤ192でのモータ駆動トルクT2の変化率よりも大きくするようにトルク制御を行うとよい。すなわち、条件式(1)を満たす場合には、通常時よりもモータ駆動トルクT2を急峻に変化させるようにする。こうすることにより、エンジン駆動トルクT1の変化率を小さくすることで発生するエンジン駆動トルクT1の減少分、すなわち要求トルクに対する不足するトルクをモータ駆動トルクT2により補うことができる。なお、図2は、T2Aが条件式(1)を満たすときのモータ駆動トルクの変化を表し、T2Bが条件式(1)を満たさない通常時のモータ駆動トルクの変化を表している。
【0041】
また、HEV−ECU50は、エンジン駆動トルクT1が第2の閾値Th2以下の場合に上述のトルク制御を行うことが望ましい。ここで第2の閾値Th2は、エンジン200が所定の出力を発生するときのトルクであり、エンジン回転数に応じて設定される。具体的には、エンジン駆動トルクT1が、エンジン200の出力要求Pに関する条件式(2)を満たす場合に上述のトルク制御を行う。
P>T1×N×2π/60 ……(2)
但し、条件式(2)では、Nはエンジン回転数を示す。
トルク制御を行う条件としてこのような条件を設ける理由は、エンジン200の出力要求が大きいときに上述のトルクなましを行うと車両の加速能力が制限され、ドライバの要求に十分に応えることが困難となるためである。なお、エンジン200の出力要求P(所定の出力)は、例えば15kW程度である。
【0042】
また、HEV−ECU50は、HEV−ECU50は、ギヤ機構10の冷却および潤滑などを行うATFなどのオイルの温度Tが基準温度Th3以上の場合に上述のトルク制御を行うようになっているとよい。その理由は、オイルの温度Tが基準温度Th3未満の場合、歯打ち音が運転者にとって気にならない程度に低減されるからである。オイルの温度Tが基準温度Th3未満の比較的低温であれば、オイルの温度Tが基準温度Th3以上の場合と比較してオイルの粘度が高い。そのため、ギヤ同士の噛合部分における摩擦が比較的大きくなり、結果として歯当たりの衝撃が緩和され、歯打ち音が小さくなる。なお、基準温度Th3は、例えば10℃程度である。また、上述したように、エンジン駆動トルクT1に対してトルクなましを行う場合、エンジン駆動トルクT1の減少分をモータ駆動トルクT2により補うこととなる。しかし、オイルが低温の場合にはバッテリ70の電力消費を可能な限り抑えたいことから上述のトルク制御は実施しないことが望ましい。
【0043】
[車両駆動システム100の作用効果]
このように、本実施の形態の車両駆動システム100によれば、HEV−ECU50によるトルク制御を行うようにした。具体的には、HEV−ECU50が、図2に示したように、条件式(1)を満たすときのエンジン駆動トルクT1の変化率を、条件式(1)を満たさないときの通常時におけるエンジン駆動トルクT1の変化率よりも小さくするように、エンジン200のトルク制御を行うようにした。そのため、ギヤ機構10の内部におけるギヤ同士の歯当たり方向が安定化し、歯打ち音の発生、特に歯打ち音が繰り返し発生することを効果的に抑制できる。
【0044】
本実施の形態の車両駆動システム100では、条件式(1)を満たすときのモータ駆動トルクT2の変化率を、条件式(1)を満たさないときのモータ駆動トルクT2の変化率よりも大きくするようにトルク制御を行うようにすれば、エンジン駆動トルクT1の減少分をモータ駆動トルクT2により補うことができる。よって、優れた走行性能が確保される。
【0045】
また、本実施の形態の車両駆動システム100では、HEV−ECU50によるトルク制御をエンジン駆動トルクT1が上昇する際に行うようにすれば、車両の加速時に発生しやすい歯打ち音を効果的に抑制することができる。
【0046】
また、本実施の形態の車両駆動システム100では、HEV−ECU50によるトルク制御を、エンジン200へ要求されるエンジン駆動トルクT1が第2の閾値Th2以下の場合に行うようにすれば、車両の走行能力の発揮を優先させることができる。
【0047】
また、本実施の形態の車両駆動システム100では、HEV−ECU50によるトルク制御を、オイルの温度Tが基準温度Th3以上の場合に行うようにすれば、バッテリ70の電力消費を抑えることができる。
【0048】
<2.変形例>
以上、実施の形態を挙げて本開示を説明したが、本開示はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。
【0049】
例えば上記実施の形態では、ハイブリッド車両に搭載される車両駆動システムを例示して説明するようにしたが、本開示はこれに限定されるものではない。本開示の駆動システムは、例えば船舶や航空機などの、車両以外の乗り物に搭載されてその乗り物の駆動を行うようにしてよいし、建設機械や作業ロボットなどの移動を伴わない装置に搭載されてその装置の駆動を行うようにしてもよい。
【0050】
なお、本明細書中に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。
【符号の説明】
【0051】
10…ギヤ機構、41…オイルパン、42…オイルポンプ、43…オイルクーラ、44,45…油路、50…HEV−ECU、60…PCU、80…ECU、90…CAN、100…車両駆動システム、110,132…出力軸、121,131…モータジェネレータ(MG)、122…駆動軸、140,150…遊星歯車機構、142,154…キャリア、144,152…ピニオンギヤ、145,155…サンギヤ、146,156…リングギヤ、160…フロントディファレンシャル、162…車輪駆動軸、170…プロペラシャフト、180,182…減速ギヤ、190,192,220,222…伝達ギヤ、200…エンジン、210…駆動軸、230…カップリング。
図1
図2