(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
外部から入力される映像に対して映像変換を行う映像変換部と、前記映像変換部で映像変換した前記映像を映像投射面に投射する映像投射部と、前記映像投射部が投射する投射範囲および補正用物体を撮影した画像を取得する撮像部と、前記撮像部が撮影した前記画像を演算処理する演算部と、を有する投射型映像表示装置による投射映像の調整方法であって、
前記補正用物体は、前記映像投射面と同一平面内に存在せず、
前記撮像部が、前記映像投射部が投射する投射範囲および補正用物体の画像を撮影するステップと、
前記演算部が、前記撮像部が撮影した前記投射範囲および前記補正用物体の画像から補正データを生成するステップと、
前記映像変換部が、前記演算部が生成する前記補正データに基づいて、前記映像投射部の投射映像の投射範囲が矩形となるように映像変換を行うステップと、
を有する、投射映像の調整方法。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。
【0027】
また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0028】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0029】
同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは特に明示した場合および原理的に明らかにそうではないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。例えば、以下の実施の形態において、単に「鉛直」と表現した場合、厳密に「鉛直」な状態のみを意味するのではなく、「略鉛直」という概念に含まれる範囲を含んでいることを意味している。同様に、単に「水平」と表現した場合、厳密に「水平」な状態のみを意味するのではなく、「略水平」という概念に含まれる範囲を含んでいることを意味している。
【0030】
また、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0031】
(実施の形態1)
〈概要〉
本実施の形態1によるプロジェクタ10は、矩形のカード1を利用して台形歪みを補正する。プロジェクタ10に内蔵されたカメラ30の前にかざした矩形のカード1を撮影し、その向きを調整する。カメラ30にて撮影したカード1の姿勢に応じて、プロジェクタ10の幾何変換行列を変更することによって、直感的に台形補正歪みを調整することが可能である。
【0032】
特に、水平方向と垂直方向の台形歪みが混在している際に、直感的に操作できることのメリットが大きくなる。矩形のカード1としては、名刺やA4のコピー用紙など、長方形の物体であれば何でも使用可能なため、外出先などでも簡単に入手することができる。
【0034】
〈プロジェクタの外観例〉
図1は、本実施の形態によるプロジェクタ10における外観の一例を示す説明図である。
【0035】
プロジェクタ10は、スクリーンなどに映像を投射する投射型映像表示装置である。このプロジェクタ10の筐体のある1つの側面である前面には、投射用のレンズ13が設けられている。
【0036】
同じく、プロジェクタ10の前面には、レンズ13の上方にカメラ30が設けられている。
図1では、カメラ30の本体は、プロジェクタ10の筐体内に内蔵されており、該カメラ30のレンズがプロジェクタ10の前面に露出している例を示している。
【0037】
また、撮像部であるカメラ30は、プロジェクタ10による映像投射範囲をカバーできるだけの画角を持っているものとする。ただし、プロジェクタ10の構造は、これに限定されるものではなく、例えばカメラ30がプロジェクタ10に内蔵されていなくともよい。
【0038】
〈プロジェクタの構成例〉
図2は、
図1のプロジェクタ10における構成の一例を示す説明図である。
【0039】
プロジェクタ10は、光源11、光変調デバイス12、レンズ13、幾何変換回路20、カメラ30、四角形検出回路31、変換行列算出回路32、制御マイコン41、およびタイミング生成回路40を有する。
【0040】
外部から入力される入力映像は、映像変換部となる幾何変換回路20によって幾何変換された後、投射映像として光変調デバイス12に出力する。プロジェクタ10に入力される入力映像は、例えばプロジェクタ10に接続されるパーソナルコンピュータなどから出力される映像データである。
【0041】
光変調デバイス12は、幾何変換回路20から出力される投射映像に応じて光源11からの光を変調する素子であり、例えば液晶パネルあるいはDMD(Digital Mirror Device)などが用いられる。光源11は、投射用の照明光を発生する。
【0042】
光源11からの照明光は、光変調デバイス12によって変調され、レンズ13を通してプロジェクタ10から出力された後、投射対象である壁面2またはスクリーンなどに照射される。これら光源11、光変調デバイス12、およびレンズ13によって、映像投射部が構成される。
【0043】
図2には記載していないが、一般的なプロジェクタでは、映像のカラー化のために光源11や光変調デバイス12を複数個搭載し、特殊なミラーなどを用いて光の合成や光路の折り曲げを行うものもあるが、そのようなプロジェクタに対しても有効である。
【0044】
カラー画像を扱う場合、入力映像は、複数の色成分画像から構成されている。よって、幾何変換回路20は、色成分の数だけ並列に処理するものとする。また、幾何変換回路20が使用する変換行列Mは、各色成分で共通の行列を用いる。
【0045】
ここで、幾何変換回路20は、プロジェクタ10と壁面2とが正対していないことによって生じる幾何歪み、いわゆる台形歪みの補正を行うための回路である。この幾何変換は、同次座標における3×3行列の乗算によって行われる。この演算の詳細については、後述する。
【0046】
幾何変換回路20にて使用する変換行列Mは、カメラ30によって撮影された画像に対して、検出部となる四角形検出回路31が四角形の領域を検出して、そこで得られた四角形の4頂点の座標などの基準点を用いて、変換行列算出回路32が算出する。また、四角形検出回路31および変換行列算出回路32により、演算部が構成される。
【0047】
なお、本実施の形態では、四角形検出回路31や変換行列算出回路32、および幾何変換回路20が、それぞれ専用回路を用いる構成としているが、これらは、例えばCPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)などを用いてソフトウェアによって処理しても構わない。
【0048】
制御マイコン41は、プロジェクタ10における制御を司る。タイミング生成回路40は、画像を表示する際のタイミング信号である垂直同期信号および水平同期信号などのクロック信号を生成する。
【0049】
〈カードを用いたプロジェクタの投射例および補正例〉
図3は、
図1のプロジェクタ10による映像投射の一例を示す説明図である。この
図3は、プロジェクタ10が壁面2に映像を投射する例を示しており、プロジェクタ10、壁面2、および後述するカード1の配置状況を真上から見た図である。
【0050】
図3に示す例では、プロジェクタ10が投射面である壁面2に対してある角度をつけて、言い換えれば投射面に正対するのではなく、投射面に対して斜め方向となるように配置されている。
【0051】
プロジェクタ10と壁面2とに間にあるカード1は、縦横比a:bの長方形などの矩形の形状をしたカードであり、補正用物体となる。このカード1は、専用のカードである必要はなく、例えば名刺やA4のコピー用紙などであってもよい。カード1は、使用者が手に持ってカメラ30の撮影範囲内にかざして使用する。
【0052】
壁面2は、平面の壁面であり、プロジェクタ投射範囲3は、プロジェクタ10が投射する映像の投射可能な最大領域である。プロジェクタ10と壁面2とが固定されていれば、プロジェクタ投射範囲3は一意に定まる。
【0053】
図4は、
図3のプロジェクタ10による投射の一例において、壁面2およびカード1をカメラ位置から見た一例を示す説明図である。よって、
図4は、
図3に示すカメラ視点CPから見た図である。
【0054】
図5は、
図3のプロジェクタ10による投射の一例において、壁面2に正対する位置から見た一例を示す説明図である。よって、
図5は、
図3に示す正面視点FPから見た図である。
【0055】
プロジェクタ10の映像を幾何変換によって補正した場合、補正後の映像は、
図4および
図5に示す実映像領域4に投射される。実映像領域4は、プロジェクタ投射範囲3内に包含され、プロジェクタ投射範囲3内において実映像領域4に含まれない領域は、黒色の映像領域として処理する。
【0056】
カメラ30とプロジェクタ10のレンズ13とが十分に近ければ、カメラ視点CPからは
図4に示すように、プロジェクタ投射範囲3が、壁面2とプロジェクタ10の位置関係によらずほぼ長方形に見えることになる。これは、プロジェクタ10が映像を壁面2に投射する際に発生する幾何歪みと、壁面2上の映像をカメラ30で撮影するときの幾何歪みが互いに相殺し合うためである。
【0057】
カード1については、カメラ30に対するカード1の向きに応じて台形歪みが加わった四角形としてカメラ30の位置から見えることになる。ただし、
図3〜
図5の例では、カード1がカメラ30に正対する向きに置かれているものとする。このため、カメラ位置からはカード1も長方形に見えることになる。
【0058】
図4および
図5における壁面2の外枠は、壁面2の向きを図中に示して把握しやすくするために、壁面2に長方形が描かれている場合を想定して、それぞれからの視点からこの長方形がどのように見えるかを示している。
【0059】
一方、壁面2に正対する位置、すなわち正面視点FPから見ると、
図5に示すようにプロジェクタ投射範囲3には台形歪みが発生し、歪んだ四角形として見えることになる。この例では、説明を簡単にするために水平方向の台形歪みのみが発生しているケースを想定しているが、垂直方向の台形歪みが同時に発生している場合であっても、有効である。壁面2に正対する位置から見ると、カード1にも台形歪みが発生することになる。
【0060】
変換行列算出回路32は、カメラ視点CPから見た際のカード1の形状に基づいて、幾何変換行列である変換行列Mを算出し、幾何変換回路20がこの変換行列Mを用いて入力映像に対して幾何変換を行い、その結果を投射する。変換行列Mは、補正データとなる。
【0061】
図3の位置関係では、カメラ視点CPから見たときにカード1には歪みが発生せず、長方形に見える。このため、入力映像から投射映像への幾何変換は、解像度変換のためのスケーリング処理のみとなり、形状は変化しない。
【0062】
そのため、
図4、
図5のどちらにおいても、プロジェクタ投射範囲3全体に映像が投射されることになる。すなわち、壁面2上で映像が表示される領域である実映像領域4とプロジェクタ投射範囲3は完全に一致する。なお、
図4および
図5では、両者が重ならないように少しずらして描いているが、実際には完全に重なっている。
【0063】
なお、
図4および
図5において、実映像領域4は、点線にて示す領域であり、プロジェクタ投射範囲3は、実線にて示す領域である。
【0064】
続いて、カード1が壁面2と平行になるようにかざした場合について考える。
【0065】
図6は、
図3の他の例を示す説明図である。この
図6では、カード1が壁面2と平行になるようにかざされている。なお、
図6は、
図3と同様にプロジェクタ10が壁面2に映像を投射している例を示しており、プロジェクタ10、壁面2、およびカード1の配置状況を真上から見た図である。
【0066】
図7は、
図6のプロジェクタ10による投射の一例において、壁面2およびカード1をカメラ位置から見た一例を示す説明図である。よって、
図7は、
図6に示すカメラ視点CPから見た図である。
【0067】
図8は、
図6のプロジェクタ10による投射の一例において、壁面2に正対する位置から見た一例を示す説明図である。よって、
図8は、
図6に示す正面視点FPから見た図である。
【0068】
図7において、カード1は、カメラ30と正対していないために台形歪みが発生して見えることになる。この場合には、この歪みの形状をカメラ30の撮影画像から特定し、これに基づいて変換行列Mを算出し、この行列による幾何変換を入力映像に対して適用する。これにより、入力映像は、実映像領域4の範囲に変換されることになる。
【0069】
正面視点FPから見ると、カード1は、カード本来の縦横比(a:b)を維持した長方形に見える、これと同様に、
図8に示すように、実映像領域4は、プロジェクタ本来の縦横比、すなわち台形歪みが発生しないようにプロジェクタを設置した際の縦横比=A:Bの長方形として投射することが可能となる。
【0070】
以上のように、プロジェクタ10は、カメラ30によりカード1を撮影した際の台形歪み形状に基づいて、変換行列Mを算出し、これを用いて幾何変換回路20によって入力映像に対して幾何変換を行い、得られた映像を壁面2へ投射する。
【0071】
このようにすることによって、カード1の向きを変えるとそれに連動して、あたかも壁を動かしているかのように、壁面2上に投射された映像を変形させて台形歪みを調整することが可能となる。
【0072】
この技術では、壁面2とカード1が平行になったときに、壁面2に正対した視点位置FPから見たときのプロジェクタ投射映像の台形歪みがなくなるため、直感的な調整が可能となる。
【0073】
〈変換行列Mの算出処理例〉
続いて、変換行列算出回路32がカメラ30が撮影したカード1の形状に基づいて、変換行列Mを算出する技術について説明する。
【0074】
プロジェクタ10による映像投射やカメラ30による撮影では、透視変換と呼ばれる変換に基づいて画像が変形されることになる。透視変換を行うことによって、実世界と同様に近くにある物体は大きく、遠くにある物体は小さく表示される。
【0075】
透視変換によって、ある座標系の点(xi,yi)が、別の座標系の点(xo,yo)に変換されるとき、両者の間には式1の関係が成り立っている。
【0077】
この式は同次座標で書かれており、xoとyoは、以下に示す式2a、式2bによって求めることができる。
【0079】
式1の中の3×3行列が透視変換を規定する変換行列である。この変換行列は、行列の要素であるa00〜a21までの8個の変数を求めることにより特定することができる。8個の未知数を求めるには、8本の方程式が必要であり、そのためには、(xi,yi)と(xo,yo)との組を4つ知ることができればよい。すなわち、透視変換前の映像上の4点の座標が、それぞれどの座標に変換されるかが判れば変換行列を求めることが可能である。ここでは、これを用いて、変換行列Mを算出する。
【0080】
続いて、透視変換の変換行列Mを算出する技術について、
図9および
図10を用いて説明する。
【0081】
図9は、各座標系における処理例を示した説明図である。この
図9は、変換行列Mを算出する過程で必要となる3つの座標系をそれぞれ表している。各座標系は、右に行くにつれてX座標が、下に行くにつれてY座標が増加する二次元のXY座標系である。
【0083】
まず、
図9(a)に示す座標系は、カメラ座標系である。このカメラ座標系は、カメラ30によって撮影された映像全体を表すための座標系である。カメラ画像の解像度を(cx,cy)とすると、左上画素の座標は(0,0)、右下画素の座標は(cx−1,cy−1)となる。
【0084】
図9(b)および
図9(c)に示す座標系は、それぞれ正面視座標系である。正面視座標系は、壁面2を正面から見たときの座標系である。壁面2上の座標系と同じ意味合いを持つ。壁面2上には、基準となる長さや基準点が存在しないため、原点や縮尺は自由に決定することが可能である。
【0085】
図9(d)に示す座標系は、入力映像座標系である。入力映像座標系は、入力映像における座標系である。入力映像の解像度を(bx,by)とすると、左上画素の座標は(0,0)、右下画素の座標は(bx−1,by−1)となる。
【0086】
図9に示すこれらの座標系および
図10のフローチャートを用いて、変換行列Mの算出処理について順次説明していく。
【0087】
図10は、
図2のプロジェクタ10が有する変換行列算出回路32による変換行列Mの算出処理の一例を示すフローチャートである。
【0088】
まず、プロジェクタ10から投射範囲全域に全白のベタ画像(長方形)を投射する。これをカメラ30で撮影して、四角形検出回路31により、プロジェクタ投射範囲3に相当する四角形を抽出後、第1の座標データとなるカメラ座標系における4隅の座標を求める(ステップS101)。すなわち、この場合は、プロジェクタ投射範囲3の4隅の座標をプロジェクタ投射範囲3の基準点としている。これは、
図9(a)において、丸印の付いた4つの頂点の座標を求めることに相当する。この作業はプロジェクタ10の設置時に一度だけ行えばよい。
【0089】
続いて、四角形検出回路31は、カメラ30の撮影映像中に含まれるカード1の領域を抽出して、第2の座標データとなるカメラ座標系における4隅の座標を求める(ステップS102)。すなわち、この場合は、カード1の4隅の座標をカード1の基準点としている。
【0090】
これは、
図9(a)において、菱形印が付いた4つの頂点の座標を求めることに相当する。基準点となるこれらの座標は、カード1の姿勢が変わると変化するため、カード1を操作している時には、定期的に求める必要がある。
【0091】
そして、カード1の縦横比a:bを基準として、第3の座標データとなる新しい座標系である正面視座標系を規定する(ステップS103)。この座標系では、カード1が縦横比a:bの長方形として表現される。本座標系は、仮想的な座標系であり、原点位置や縮尺は、自由に規定可能である。
【0092】
ここでは、カード1の左上を原点(0,0)とし、カード1の横幅を長さ1と規定する。この場合カード1の高さはa/bで表される。正面視座標形におけるカード1の4つの頂点は、
図9(b)の菱形印に対応する。
【0093】
前述したように、2つの座標系間の透視変換行列は、変換前後の座標系における4点の座標があれば導出することができる。すなわち、ステップS102の処理およびステップS103の処理にて求めたカード1の4頂点の座標から、カメラ座標系から正面視座標系への透視変換行列を算出する(ステップS104)。
【0094】
ステップS101の処理にて求めたカメラ座標系におけるプロジェクタ投射範囲3の4つの頂点座標に対して、ステップS104の処理にて求めた変換行列を用いて透視変換を行うことにより、正面視座標系におけるプロジェクタ投射範囲3の4つの頂点の座標を得ることができる(ステップS105)。
【0095】
図10に示す処理の目的は、壁面2に正対した視点から、カード1が縦横比a:bの長方形に見えるときにプロジェクタ10の映像がプロジェクタ本来の縦横比(A:B)の長方形に投射されることである。
【0096】
これを実現するには、正面視座標系において実映像領域4が縦横比A:Bの長方形となればよい。ステップS105の処理よりプロジェクタ投射範囲3の4隅の座標が既知となっているため、これに包含される縦横比A:Bの長方形を規定して、その4隅の座標を求めることが可能である(ステップS106)。これは、
図9(c)において、三角印の付いた4頂点の座標を求めることに相当する。
【0097】
続いて、入力映像の左上を原点(0,0)とした座標系である入力映像座標系について考える。この座標系では、入力映像の4頂点の座標は、前述の座標系の定義から求まる(ステップS107)。これは、
図9(d)において、丸印の付いた4頂点に対応する。
【0098】
入力映像5は、正面視座標系ではステップS105の処理にて求めた4点を頂点とする四角形となり、入力映像座標系ではステップS107の処理にて求めた4点を頂点とする四角形となる。4点の座標の対応関係が判明しているので、これを用いて、正面視座標系から入力映像座標系の透視変換行列を算出する(ステップS108)。
【0099】
ステップS108の処理にて求めた透視変換行列を用いて、ステップS106の処理により求めた4頂点の座標を変換すると、カメラ映像中のカード1の形状に応じた台形補正を行った後の入力映像5の4頂点の入力映像座標系における座標を求めることができる(ステップS109)。これは、
図9(d)において、三角印の付いた4頂点に対応する。
【0100】
そして、ステップS107の処理にて求めた台形補正前の入力映像5の4頂点の座標およびステップS109の処理にて求めた台形補正後の入力映像5の4頂点の座標から、入力映像座標系における台形補正のための変換行列Mを求める(ステップS110)。
【0101】
以上の処理により、カメラ画像中のカード1の向きに応じた台形補正を行うための変換行列Mが求まる。幾何変換回路20は、変換行列Mを適用して幾何学補正、すなわち台形歪みの補正を行う(ステップS111)。
【0102】
以上により、プロジェクタ10の前にカード1をかざすだけで、投射映像の台形補正の調整を行うことができる。
【0103】
これにより、パターンが印刷された特殊なスクリーンなどを用いることなく、短時間で容易に投射映像の補正処理を実現することができる。また、パターンが印刷された特殊なスクリーンなどが不要となるので、利便性を向上することができる。
【0104】
(実施の形態2)
〈概要〉
前記実施の形態1では、
図10のステップS106の処理にてカード1の長方形を基準とした座標軸に合わせて、実映像領域4の長方形を規定していた。そのため、カード1が完全に水平ではなく、傾いて保持されている場合には、実映像領域4もそれに合わせて傾いてしまうことになる。
【0105】
これは、利用者がカードの操作により投射映像の傾きも調整したい場合には便利な機能である反面、映像を常に水平を保って投射したい場合には、カード1の僅かな傾きが、映像を傾きに結びつくため不便なことがある。
【0106】
よって、本実施の形態2においては、カード1の傾きが投射映像の傾きに影響しない技術について説明する。プロジェクタ10の傾きは、プロジェクタ10に内蔵された重力センサ50を用いて取得する。幾何変換行列算出時には、プロジェクタ10の傾きを考慮することにより、カード1が完全に水平になっていない場合であっても、投射映像が水平になるように補正することができるそれにより、カード1を厳密に水平に保つ必要がなく、より使い勝手を向上させることが可能となる。
【0107】
〈プロジェクタの構成例〉
図11は、本実施の形態2におけるプロジェクタ10による構成の一例を示す説明図である。
【0108】
図11に示すプロジェクタ10が前記実施の形態1の
図2のプロジェクタと異なるところは、重力センサ50が新たに追加されている点である。その他の構成については、前記実施の形態1の
図2と同様であるので説明は省略する。
【0109】
傾きセンサである重力センサ50は、プロジェクタ10の傾きを検知する。この重力センサ50は、例えばスマートフォンなどに使われている加速度センサと同様に重力の働く向きを検知可能なデバイスである。この重力センサ50を用いることにより、プロジェクタ10が水平面に対してどの程度傾いているかを検出することができる。
【0110】
〈カードを用いたプロジェクタの投射例および補正例〉
図12は、プロジェクタ10が水平面に対して傾いて置かれた場合の一例を示す説明図である。
図13は、
図12のプロジェクタ10が有するカメラ30によるカメラ映像の一例を示す説明図である。
【0111】
プロジェクタ10は、
図12に示すように、鉛直軸に対してある角度が付くように置かれている。重力センサ50を設けることにより、プロジェクタ10の中心軸が鉛直方向となす角θを求めることが可能となる。
【0112】
ここで、カード1が実際の水平方向から角αだけ傾けて保持されている場合を考えると、カメラ30の映像は、
図13のようになる。この
図13において、水平線80は、実際の水平方向を示した線であり、実際のカメラ映像には写っていない。
【0113】
ここでは、重力センサ50の検出結果を用いて、カード1の傾きαによる影響を取り除いた状態でプロジェクタ10の投射映像の幾何補正を行う。プロジェクタ10それ自体の傾き角θについては、カメラ30による撮影時とプロジェクタ10による映像投射時の両方に逆方向に作用するため、最終的に相殺される。そのため、変換行列Mを算出する際には、角θの影響は考慮せず、カード1の傾き角αのみを考慮すればよいことになる。
【0114】
図13に示すカメラ映像からは、カメラ座標系におけるカード1の傾き角であるα+θの値を求めることが可能である。一方、重力センサ50の検出値からはθを求めることができるので、両者の間で減算を行うことで角度αの値を求めることができる。これらの処理は、例えば変換行列算出回路32が行う。
【0115】
〈変換行列Mの算出処理例〉
この角度αを考慮して変換行列Mを求める際の処理について、
図14および
図15を用いて説明する。
【0116】
図14は、各座標系における処理例を示した説明図である。
図15は、
図13のプロジェクタ10が有する変換行列算出回路32による変換行列Mの算出処理の一例を示すフローチャートである。
【0117】
図14は、前記実施の形態
図9と同様に変換行列Mを算出する過程で必要となる3つの座標系をそれぞれ表しており、
図14(a)は、カメラ座標系を示し、
図14(b)、
図14(c)は、正面視座標系をそれぞれ示す。
図14(d)は、入力映像座標系を示す。
【0118】
ここでは、基本的な流れが前記実施の形態1の
図9および
図10と共通であるため、相違がある部分のみを説明する。
【0119】
まず、
図14(a)に示すカメラ画像座標系において、カード1は、α+θだけ傾いた状態により撮影されることになり、前述のように撮影画像と重力センサの測定値から角度αを算出することが可能となる(ステップS201)。
【0120】
また、ステップS203の処理においては、このαを用いてカード1が縦横比a:bであり、角度αだけ傾いた長方形となるように正面視座標系を規定する。縮尺については、実施の形態1と同じ考え方を適用する。
【0121】
その他の処理については、実施の形態1の
図10と同様の処理を行うことにより、変換行列Mを求める。この変換行列Mを用いて透視変換を実行することにより、投射映像の台形補正を行うことができる。
【0122】
以上により、カード1が傾いている場合であっても、投射映像の補正処理を行うことができるので、より利便性を高めることができる。
【0123】
(実施の形態3)
〈概要〉
前記実施の形態1では、投射映像の傾きがカード1の傾きに連動するように投射映像を変換する。これにより使用者がカードを操作することにより、投射映像の傾きを簡単に調整できるようになっていた。
【0124】
一方、前記実施の形態2では、カード1の傾きが投射映像の傾きに影響を与えない。そのため、カード1を厳密に水平に保つ必要性がなく、映像を常に水平に投射したいケースでは使い勝手の良いシステムとなっていた。
【0125】
本実施の形態3においては、両者を切り換える機構を有するプロジェクタ10について説明する。まず、プロジェクタ10が投射映像中に投射する図示しない操作メニューにモード切り替えを追加し、前記実施の形態1の
図10の処理(第1のモード)および前記実施の形態2の
図15の処理(第2のモード)をそれぞれ選択することができるようにする。これは、ユーザの好みにより、前記実施の形態1の
図10の処理および前記実施の形態2の
図15の処理のいずれを行うかを手動で選択できるようにしたものである。なお、プロジェクタ10の構成は、前記実施の形態2の
図11に示すプロジェクタ10と同様である。これらのモード変更は制御マイコン41が各回路を制御することにより実現すればよい。
【0126】
以上により、映像変換後の映像を水平に保つモードと、映像変換後の映像を補正用操作物体であるカードの傾きと連動させるモードとを、ユーザの好みによって選択することができる。
これにより、一層使い勝手のよいプロジェクタ10を提供することができる。
【0127】
次に、本実施の形態3の変形例として、上述の第1のモードと第2のモードの選択を自動的に変更する例について説明する。
【0128】
〈プロジェクタの設置例〉
図16は、本実施の形態3の変形例によるプロジェクタ10における設置の一例を示す説明図である。
図17は、
図16の他の例を示す説明図である。
図16は、プロジェクタ10を横向きに設置した際の例を示しており、
図17は、プロジェクタ10を縦向きに設置した際の例を示している。
【0129】
本実施の形態3の変形例では、上述した操作メニューのモードの切り替えは、例えば
図11の重力センサ50を用いて自動的に行うことが可能である。
図16に示すように、プロジェクタ10を横向きに設置して、鉛直なスクリーンに対して映像を投射する場合には、前記実施の形態2の
図15に示したようにカード1の回転方向の傾きを考慮せずに、常に投射映像が水平になるように投射されると便利である。すなわち、プロジェクタ10が鉛直なスクリーンに対して映像を投射する場合には、制御マイコン41は第2のモードを選択する制御を行う。
【0130】
一方、
図17に示すように、プロジェクタ10を縦向きに置き、上方から机などの水平な面に対して映像を投射する場合には、前記実施の形態2にて示したような重力センサ50を利用した処理が意味を持たないことなる。その場合には、前記実施の形態1の
図10による処理を行うのが妥当である。すなわち、プロジェクタ10が水平な面に対して映像を投射する場合には、制御マイコン41は第1のモードを選択する制御を行う。
【0131】
プロジェクタ10の使用形態が
図16または
図17のいずれに該当するかは、
図11の重力センサ50の検出結果によって、プロジェクタ10の設置姿勢を判断することにより判別できる。
【0132】
制御マイコン41は、
図11の重力センサ50の検出結果に基づいて、変換行列算出回路32における変換行列算出の処理を第1のモード(
図10の処理)もしくは第2のモード(
図15の処理)のいずれかの処理を選択して使用するように制御する。これにより、モード切り替えの自動化を実現することができる。
【0133】
なお、上述の例では、プロジェクタ10が鉛直なスクリーンに対して映像を投射する場合には、制御マイコン41は第2のモードを選択する制御を行う、と説明した。しかしながら、プロジェクタ10が鉛直なスクリーンに対して映像を投射する場合について、第2のモードの強制選択とせず、あらかじめメニューを介してユーザの好みにより選択されたモードとなるように制御してもよい。
【0134】
以上により、プロジェクタ10が縦向きに設置された場合と、横向きのいずれに設置された場合とのいずれの場合であっても、映像変換後の映像を水平に保つモードと、映像変換後の映像を補正用操作物体であるカードの傾きと連動させるモードとを好適に選択することができる。これにより、一層使い勝手のよいプロジェクタ10を提供することができる。
【0135】
(実施の形態4)
〈概要〉
前記実施の形態1〜3では、上述したようにカード1として名刺やA4用紙のようなものを想定したが、これらのものがプロジェクタ10を使用する際に近くに見あたらないケースも発生しうる。
【0136】
〈レンズキャップの構成例〉
本実施の形態4においては、このような場合に備えて、プロジェクタ10の付属品によって、カード1に相当する機能を実現する技術について説明する。
【0137】
図18は、本実施の形態4によるレンズキャップ15の一例を示す説明図である。
【0138】
図18に示すレンズキャップ15は、プロジェクタ10が有するレンズ13に装着するものであり、例えばプロジェクタ10が使用されていない場合などに装着して、該レンズ13のレンズ面を保護する。
【0139】
このレンズキャップ15の裏側には、
図3のカード1の代用として使用される白い長方形のラベル19が貼り付けられている。カード1が見あたらない場合でも、その代用品としてレンズキャップ15をカメラ30の前にかざすことにより、カード1と同等の機能を有することになり、幾何補正を行うことができる。
【0140】
続いて、レンズキャップ15の他の例について説明する。
図19は、
図18の他の例を示す説明図である。
【0141】
〈レンズキャップの他の構成例〉
図19に示すレンズキャップ15が、
図18のレンズキャップ15と異なる点は、レンズキャップ15の裏側の長方形のラベル19に二次元バーコード16などの特殊なパターンが印刷されているところである。
【0142】
このように、ラベル19に二次元バーコード16を印刷することによって、カメラ映像に特殊なパターン、すなわち二次元バーコード16が存在する場合には、自動的にカメラ30を用いた幾何補正を行うモードに切り替えることができる。二次元バーコード16が存在する場合には、自動的に前記実施の形態1〜3に示した投射映像の台形補正を行うことができる。
【0143】
補正処理パターンである二次元バーコード16が存在するか否かの判定は、例えば
図2の四角形検出回路31などが行う。あるいは、制御マイコン41が判定するようにしてもよい。
【0144】
なお、ここでは、ラベル19に二次元バーコード16を印刷する構成としたが、例えば前記実施の形態1〜3におけるカード1に二次元バーコード16を印刷するようにしてもよい。
【0145】
その場合、カード1に二次元バーコード16が存在する際には、自動的にカメラを用いた幾何補正を行うモードに切り替えることができる。
【0146】
以上により、カード1などがない場合であっても、容易に投射映像を補正することができるので、投射映像の補正処理をより簡単に短時間で行うことができる。
【0147】
(実施の形態5)
〈概要〉
本実施の形態5においては、カード1の代用としてスマートフォンなどを用いる技術について説明する。
【0148】
この場合、スマートフォンが有する液晶画面を全白状態にして、カード1の代用とする。そして、その液晶画面を
図2のカメラ30の前にかざすことにより、カード1の代用として投射映像の補正処理を行う。
【0149】
上述した実施の形態1〜4では、カード1の縦横比の情報が必要であったが、スマートフォンの画面の縦横比は機種毎異なる。よって、例えば16:9などのように、標準的な縦横比を仮定して処理を進める。
【0150】
〈液晶画面の表示例〉
図20は、本実施の形態5によるスマートフォン18が有する液晶画面17における表示の一例を示す説明図である。
【0151】
その他にも、
図20に示すように、スマートフォン18の液晶画面17に二次元バーコード16を表示するようにしてもよい。この二次元バーコード16は、前記実施の形態4の
図19の二次元バーコード16と同様である。そして、液晶画面17に表示した二次元バーコード16の組み合わせによって、画面の縦横比の情報をプロジェクタ10に通知する。
【0152】
この場合、
図2のプロジェクタ10は、カメラ映像中に現れた二次元バーコード16を例えば
図2の制御マイコン41などがデコードして縦横比の情報を取得して、
図2の変換行列Mの算出に利用する。
【0153】
以上によっても、カード1などがない場合であっても投射映像を補正することができるので、投射映像の補正処理を簡単に短時間で行うことができる。
【0154】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0155】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0156】
また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。