特許第6749433号(P6749433)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6749433
(24)【登録日】2020年8月13日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】初期なじみ用潤滑剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 125/02 20060101AFI20200824BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20200824BHJP
   C10N 20/06 20060101ALN20200824BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20200824BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20200824BHJP
【FI】
   C10M125/02
   C10N20:00 B
   C10N20:06 Z
   C10N30:06
   C10N40:00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-8241(P2019-8241)
(22)【出願日】2019年1月22日
(65)【公開番号】特開2020-76044(P2020-76044A)
(43)【公開日】2020年5月21日
【審査請求日】2019年1月24日
(31)【優先権主張番号】特願2018-169388(P2018-169388)
(32)【優先日】2018年9月11日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-208067(P2018-208067)
(32)【優先日】2018年11月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木本 訓弘
(72)【発明者】
【氏名】後藤 友尋
【審査官】 宮地 慧
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−051588(JP,A)
【文献】 特開平05−171169(JP,A)
【文献】 特開2006−241443(JP,A)
【文献】 特開昭55−016080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機分散媒と、0.1〜2000質量ppmの表面修飾されたナノダイヤモンド粒子とを含み、前記有機分散媒中に表面修飾ナノダイヤモンド粒子が分散しており、ヘイズ値が1以下である、初期なじみ用潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記有機分散媒は潤滑基剤である請求項1に記載の初期なじみ用潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記有機分散媒が、ポリオールエステル、ポリα−オレフィン、鉱油、アルキルベンゼン、及びポリアルキレングリコールからなる群より選択された1以上である請求項1又は2に記載の初期なじみ用潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記ナノ炭素粒子の平均分散粒子径D50が4〜80nmである請求項1〜3のいずれか1項に記載の初期なじみ用潤滑剤組成物。
【請求項5】
下記摩擦試験1で測定される、SUJ2摺動面の初期なじみ用潤滑剤として用いた際の200m滑動後の摩擦係数が0.14以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の初期なじみ用潤滑剤組成物。
摩擦試験1:SUJ2摺動面を表面に有するディスクとSUJ2摺動面を表面に有するボールとを備えるボールオンディスク型の滑り摩擦試験機を使用して、1mLの初期なじみ用潤滑剤組成物を滴下し前記ボールを荷重10N、速度50mm/sの条件で200m滑動させたときの前記ディスクと前記ボールの間の摩擦係数を測定する。
【請求項6】
下記摩擦試験2で測定される、SUJ2摺動面の初期なじみ用潤滑剤として用いた際の400m滑動後の摩擦係数と潤滑剤使用下における750m滑動後の摩擦係数の比[前者/後者]が0.90〜1.10である請求項1〜5のいずれか1項に記載の初期なじみ用潤滑剤組成物。
摩擦試験2:SUJ2摺動面を表面に有するディスクとSUJ2摺動面を表面に有するボールとを備えるボールオンディスク型の滑り摩擦試験機を使用して、1mLの初期なじみ用潤滑剤組成物を滴下し前記ボールを荷重10N、速度50mm/sの条件で400m滑動させ、その後初期なじみ用潤滑剤組成物を除去した後、1mLのポリオールエステルを滴下し前記ボールを荷重10N、速度50mm/sの条件でさらに750m(合計1150m)滑動させたときの、400m滑動時及び750m滑動時の前記ディスクと前記ボールの間の摩擦係数を測定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ炭素粒子を含む初期なじみ用潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
相対的に擦れあいながら滑り合う部分(摺動部)を有する機械では、初期において、摺動部における摩擦面に、摩耗に適したなじみ面を形成させるために初期なじみ用潤滑剤組成物が用いられることがある。
【0003】
現在、摺動部に用いられる部品におけるトライボロジー特性を向上させる手法として、表面改質技術が注目されており、摺動部の摩擦・摩耗低減対策として、金属以外の各種硬質膜が検討されている。その中でも硬質炭素(ダイヤモンドライクカーボン;DLC)膜は、高硬度及び耐摩擦性を有し、摩擦係数低減にも優れていることから、摺動部を有する機械部品への応用が期待されている。このような硬質炭素膜を摺動部材に用いることについては、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【0004】
DLCなどの硬質炭素膜における潤滑剤としては、主に水が用いられている。硬質炭素膜では、潤滑剤として水を使用することにより、非常に低い摩擦を実現することが期待されている。このようにDLCなどの硬質炭素膜の摺動部材の潤滑剤として水を用いることについては、例えば下記の非特許文献1に記載されている。非特許文献1では、DLC膜において、低摩擦面(なじみ面)を形成するため、予め大気中において摩耗(予すべり)を与えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−246545号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】トライボロジー会議2015春 姫路 予稿集 「水中におけるDLC膜の低摩擦発現に及ぼすなじみの影響」 288−289ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、DLC膜による表面加工は、部材の形状によっては施すことが困難な場合があり、またコストがかかるという問題がある。また、従来の初期なじみ用潤滑剤組成物により形成されたなじみ面は、摩擦低減の効果が不充分な場合がある。
【0008】
従って、本発明の目的は、簡便且つ経済的に摺動部の摩擦係数を低減することができる初期なじみ用潤滑剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、有機分散媒中に特定量のナノ炭素粒子が分散した初期なじみ用潤滑剤組成物によれば、簡便且つ経済的に摺動部の摩擦係数を低減することができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、有機分散媒と、0.1〜2000質量ppmのナノ炭素粒子とを含む、初期なじみ用潤滑剤組成物を提供する。
【0011】
上記ナノ炭素粒子は、ナノダイヤモンド、フラーレン、酸化グラフェン、ナノグラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノフィラメント、オニオンライクカーボン、ダイヤモンドライクカーボン、アモルファスカーボン、カーボンブラック、カーボンナノホーン、及びカーボンナノコイルからなる群より選択される1以上のナノ炭素材料の粒子であることが好ましい。
【0012】
上記有機分散媒は、ポリオールエステル、ポリα−オレフィン、鉱油、アルキルベンゼン、及びポリアルキレングリコールからなる群より選択された1以上であることが好ましい。
【0013】
上記初期なじみ用潤滑剤組成物におけるナノ炭素粒子の平均分散粒子径D50は4〜80nmであることが好ましい。
【0014】
上記初期なじみ用潤滑剤組成物は、下記摩擦試験1で測定される、SUJ2摺動面の初期なじみ用潤滑剤として用いた際の200m滑動後の摩擦係数が0.14以下であることが好ましい。
摩擦試験1:SUJ2摺動面を表面に有するディスクとSUJ2摺動面を表面に有するボールとを備えるボールオンディスク型の滑り摩擦試験機を使用して、1mLの初期なじみ用潤滑剤組成物を滴下し上記ボールを荷重10N、速度50mm/sの条件で200m滑動させたときの上記ディスクと上記ボールの間の摩擦係数を測定する。
【0015】
上記初期なじみ用潤滑剤組成物は、下記摩擦試験2で測定される、SUJ2摺動面の初期なじみ用潤滑剤として用いた際の400m滑動後の摩擦係数と潤滑剤使用下における750m滑動後の摩擦係数の比[前者/後者]が0.90〜1.10であることが好ましい。
摩擦試験2:SUJ2摺動面を表面に有するディスクとSUJ2摺動面を表面に有するボールとを備えるボールオンディスク型の滑り摩擦試験機を使用して、1mLの初期なじみ用潤滑剤組成物を滴下し上記ボールを荷重10N、速度50mm/sの条件で400m滑動させ、その後初期なじみ用潤滑剤組成物を除去した後、1mLのポリオールエステルを滴下し上記ボールを荷重10N、速度50mm/sの条件でさらに750m(合計1150m)滑動させたときの、400m滑動時及び750m滑動時の上記ディスクと上記ボールの間の摩擦係数を測定する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物によれば、簡便且つ経済的に摺動部の摩擦係数を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1の初期なじみ用潤滑剤組成物を用いたときの摩擦試験の結果を示すグラフである。
図2】ポリオールエステルのみを用いたとき(比較例1)の摩擦試験の結果を示すグラフである。
図3】摩擦試験におけるボールの摩耗量の推移を示すグラフである。
図4】本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物を用いたときとポリオールエステルのみを用いたとき(比較例2)の、摩擦試験(すべり距離800m)におけるボール摩耗量の対比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物は、有機分散媒とナノ炭素粒子とを含む。
【0019】
本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物は、摺動部材を有する機械の初期において、低摩擦面(なじみ面)を形成するために用いられる。初期なじみ用潤滑剤組成物により、例えば摺動部材表面の凹凸をならして平滑化したり、あるいは改質面を形成する。なじみ面の形成後には、初期なじみ用潤滑剤組成物は洗浄などにより取り除かれ、本潤滑を行う潤滑剤組成物を用いた摺動が行われる。ここで、本潤滑を行う潤滑剤組成物とは、通常摺動部材の稼働中(機械の使用中)において除去されず摺動部に存在し続ける潤滑剤をいう。なお、本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物は、なじみ面の形成後、除去せずにそのまま若しくは一旦除去した後再度摺動部に供給して、本潤滑を行う潤滑剤組成物として使用することもできる。
【0020】
(ナノ炭素粒子)
上記ナノ炭素粒子は、特に限定されず、公知乃至慣用のナノオーダーの炭素材料(ナノ炭素材料)の粒子を用いることができる。上記ナノ炭素粒子におけるナノ炭素材料としては、例えば、ナノダイヤモンド、フラーレン、酸化グラフェン、ナノグラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノフィラメント、オニオンライクカーボン、ダイヤモンドライクカーボン、アモルファスカーボン、カーボンブラック、カーボンナノホーン、カーボンナノコイルなどが挙げられる。上記ナノ炭素粒子としては、中でも、ナノダイヤモンド粒子(ND粒子)が好ましい。上記ナノ炭素粒子は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0021】
上記ND粒子は、特に限定されず、公知乃至慣用のナノダイヤモンド粒子を用いることができる。上記ND粒子は、表面修飾されたND(表面修飾ND)粒子であっていてもよいし、表面修飾されていないND粒子であってもよい。なお、表面修飾されていないND粒子は、表面にヒドロキシル基(−OH)を有する。ND粒子は、一種のみを用いてもよいし二種以上を用いてもよい。
【0022】
上記表面修飾NDにおいてND粒子を表面修飾する化合物又は官能基としては、例えば、シラン化合物、カルボキシル基(−COOH)、ホスホン酸イオン若しくはホスホン酸残基、末端にビニル基を有する表面修飾基、アミド基、カチオン界面活性剤のカチオン、ポリグリセリン鎖を含む基、ポリエチレングリコール鎖を含む基などが挙げられる。
【0023】
上記表面修飾NDにおいてND粒子を表面修飾する化合物又は官能基としては、中でも、有機分散媒中の分散性により優れ、また摩擦低減効果により優れる観点から、シラン化合物が好ましい。すなわち、上記表面修飾NDは、シラン化合物が表面に結合した表面修飾NDであることが好ましい。上記表面修飾ND粒子(特に、シラン化合物が表面に結合した表面修飾ND粒子)を用いることにより、ND粒子の分散性に優れ、初期なじみ用潤滑剤組成物に適した有機分散媒中にナノ分散しやすい。
【0024】
上記シラン化合物としては、加水分解性基及び脂肪族炭化水素基を有することが好ましい。ND粒子の表面修飾に用いるシラン化合物は、一種のみであってもよいし、二種以上であってもよい。
【0025】
上記シラン化合物としては、中でも、下記式(1−1)で表される化合物を少なくとも含有することが好ましい。
【0026】
【化1】
【0027】
上記式(1−1)中、R1、R2、R3は、同一又は異なって、炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基を示す。R4は炭素数1以上の脂肪族炭化水素基を示す。
【0028】
上記R1、R2、R3における炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;ビニル、アリル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基などが挙げられる。中でも、直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が好ましい。
【0029】
上記R4は脂肪族炭化水素基であり、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、イソノニル、デシル、イソデシル、ラウリル、ミリスチル、イソミリスチル、ブチルオクチル、イソセチル、ヘキシルデシル、ステアリル(オクタデシル)、イソステアリル、オクチルデシル、オクチルドデシル、イソベヘニル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;ビニル、アリル、1−ブテニル、7−オクテニル、8−ノネニル、9−デセニル、11−ドデセニル、オレイル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基;エチニル、プロピニル、デシニル、ペンタデシニル、オクタデシニル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキニル基などが挙げられる。
【0030】
4は、中でも、親油性がより高く、また、より大きな立体障害となり得ることから凝集抑制効果に優れ、より高度の分散性を付与することができる点で、炭素数4以上の脂肪族炭化水素基が好ましく、特に好ましくは炭素数6以上の脂肪族炭化水素基である。なお、脂肪族炭化水素基の炭素数の上限は、例えば25、好ましくは20、より好ましくは12である。また、脂肪族炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基若しくはアルケニル基が好ましく、特に好ましくは直鎖状又は分岐鎖状アルキル基である。
【0031】
従って、シラン化合物により表面修飾されたND粒子(シラン化合物表面修飾ND粒子)としては、例えば、下記式(1)で表される基で表面修飾された構造を有するND粒子が挙げられる。
【0032】
【化2】
【0033】
上記式(1)中、R4は、炭素数1以上の脂肪族炭化水素基を示す。R1’、R2’は同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、又は下記式(a)で表される基である。式中の波線が付された結合手がND粒子の表面に結合する。
【0034】
【化3】
【0035】
上記式(a)中、R4は脂肪族炭化水素基を示す。R3、R5は同一又は異なって、水素原子、又は炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基を示す。m、nは同一又は異なって、0以上の整数を示す。なお、ケイ素原子から左にのびる結合手が酸素原子に結合する。また、波線が付された結合手はND粒子の表面に結合する。
【0036】
上記式(1)中のR1’、R2’、R3、R5における炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;ビニル、アリル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基;エチニル基、プロピニル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキニル基などが挙げられる。中でも、直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が好ましい。
【0037】
上記式(1)中のR4は式(1−1)中のR4に対応する。すなわち、上記式(1)中のR4は、炭素数4以上の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、特に好ましくは炭素数6以上の脂肪族炭化水素基である。なお、脂肪族炭化水素基の炭素数の上限は、例えば25、好ましくは20、より好ましくは12である。また、脂肪族炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基若しくはアルケニル基が好ましく、特に好ましくは直鎖状又は分岐鎖状アルキル基である。
【0038】
4は炭素数が4以上の脂肪族炭化水素基であると、有機分散媒に対する親和性を示し、また、より大きな立体障害となり得ることから凝集抑制効果に優れ、さらに、酸素原子を含む基(式(1)中のOR1’基とOR2’基)が有機分散媒に対する親和性を示すため、有機分散媒に対する親和性に優れ、有機分散媒中においてよりいっそう優れた分散性を発揮することができる。
【0039】
m、nは括弧内に示される構成単位の数であり、同一又は異なって0以上の整数を示す。m、nが2以上である場合、2個以上の構成単位の結合方法としては、ランダム、交互、ブロックの何れであってもよい。
【0040】
上記シラン化合物表面修飾ND粒子は、上記式(1)で表される基以外にも、例えば下記式(1’)で表される基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基などのその他の官能基を有していてもよい。上記その他の官能基は、一種のみであってもよく、二種以上であってもよい。
【0041】
【化4】
【0042】
上記式(1’)中、R1’、R4は上記に同じ。式中の波線が付された結合手がナノダイヤモンド粒子の表面に結合する。
【0043】
表面処理を施す化合物としてシラン化合物(特に、上記式(1−1)で表される化合物)を使用した場合、上記化合物は、例えば上記式(1−1)中のOR1基、OR2基、OR3基などの加水分解性アルコキシシリル基が容易に加水分解してシラノール基を形成するため、例えばシラノール基のうちの1個がND粒子の表面に存在する水酸基と脱水縮合して共有結合を形成すると共に、残りの2個のシラノール基に、他のシラン化合物のシラノール基が縮合してシロキサン結合(Si−O−Si)を形成することができ、ND粒子に有機分散媒に対する親和性を付与することができ、有機分散媒中において、よりいっそう優れた分散性を発揮することができる。
【0044】
(有機分散媒)
上記有機分散媒としては、公知乃至慣用の有機溶媒を用いることができる。中でも、初期なじみ用途に使用した後そのまま潤滑剤組成物としても使用できる観点や、初期なじみ用潤滑剤組成物の使用・洗浄後に新たな潤滑剤組成物を用いた場合でも摺動部での有機分散媒のコンタミによる問題が起こりにくい観点から、潤滑基剤としての有機分散媒であることが好ましい。上記有機分散媒は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0045】
上記潤滑基剤としての有機分散媒としては、例えば、ポリフェニルエーテル、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、エステル油、グリコール系合成油、ポリオレフィン系合成油、鉱油などが挙げられる。より具体的には、ポリα−オレフィン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリブデン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、アルキル置換ジフェニルエーテル、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、炭酸エステル、リン酸エステル、シリコーン油、フッ素化油、GTL(Gas to Liquids)、鉱油などが挙げられる。上記潤滑基剤としての有機分散媒は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0046】
上記有機分散媒としては、中でも、摺動部の摩擦係数低減効果により優れる観点から、ポリオールエステル、ポリα−オレフィン、鉱油、アルキルベンゼン、ポリアルキレングリコールが好ましい。
【0047】
本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物中のナノ炭素粒子の含有割合は、0.1〜2000質量ppmであり、好ましくは0.2〜1000質量ppm、より好ましくは0.5〜500質量ppm、さらに好ましくは1〜100質量ppmである。上記含有割合が0.1質量ppm以上であることにより、摺動部の摩擦係数低減効果に優れる。また、上記含有割合が2000質量ppm以下であることにより、初期なじみ用潤滑剤組成物におけるナノ炭素粒子の分散性に優れ、なじみ面形成を行う間安定性に優れ、安定してなじみ面を形成することができる。特に、ND粒子の含有割合が上記範囲内であることが好ましい。
【0048】
なお、本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物中のナノ炭素粒子(特に、ND粒子)の含有割合は、使用時、すなわち摺動部材へのなじみ面の形成時において0.1〜2000質量ppmであればよく、使用時以外(例えば流通時など)では上記範囲内でなくてもよい。本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物中のナノ炭素粒子(特に、ND粒子)の含有割合は、例えば0.01〜5.0質量%、好ましくは0.1〜4.0質量%、より好ましくは0.25〜3.0質量%、さらに好ましくは0.5〜2.0質量%であってもよい。本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物はナノ炭素粒子の分散性に優れるため、このような含有割合においても有機分散媒中の分散性に優れる。
【0049】
上記ナノ炭素粒子の含有割合は、350nmにおける吸光度より算出することができる。なお、表面修飾ND粒子の含有割合が低濃度(例えば2000質量ppm以下)である場合、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP発光分光分析法)によりND粒子を表面修飾している化合物を検出し、その検出量に基づき求めることもできる。
【0050】
本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物中の溶媒の含有割合は、例えば90〜99.9999質量%である。そして、溶媒の総量における有機分散媒の含有割合は、例えば60質量%以上、好ましくは70質量%以上、さら好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0051】
本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物は、上記有機分散媒中にナノ炭素粒子が分散している。本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物中におけるナノ炭素粒子の平均分散粒子径(D50、メディアン径)は、2〜100nmが好ましく、より好ましくは4〜80nm、より好ましくは6〜60nm、さらに好ましくは10〜40nm、特に好ましくは11〜30nmである。上記平均分散粒子径は、動的光散乱法によって測定することができる。ナノ炭素粒子の平均分散粒子径が上記範囲内であると、初期なじみ用潤滑剤組成物におけるナノ炭素粒子の分散性に優れ、摩擦係数(特に、境界潤滑領域における摩擦係数)を充分に低減できる。
【0052】
本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物中の上記ナノ炭素粒子の含有割合が0.1〜2000質量ppmである場合、本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物中におけるナノ炭素粒子の平均分散粒子径(D50)は、特に、5〜100nmが好ましく、より好ましくは8〜80nm、さらに好ましくは10〜60nm、さらに好ましくは15〜40nm、特に好ましくは18〜35nmである。
【0053】
本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物中の上記ナノ炭素粒子の含有割合が0.01〜5.0質量%である場合、本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物中におけるナノ炭素粒子の平均分散粒子径(D50)は、特に、2〜50nmが好ましく、より好ましくは4〜30nm、さらに好ましくは6〜25nm、特に好ましくは10〜20nmである。
【0054】
本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物は、ヘイズ値が5以下であることが好ましく、より好ましくは3以下、さらに好ましくは1以下である。本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物はナノ炭素粒子の分散性に優れるため、上記ヘイズ値の初期なじみ用潤滑剤組成物を得ることができる。上記ヘイズ値は、JIS K 7136に基づいて測定することができる。
【0055】
本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物は、下記摩擦試験1で測定される、SUJ2摺動面の初期なじみ用潤滑剤として用いた際の200m滑動後の摩擦係数が0.14以下であることが好ましい。上記200m滑動後の摩擦係数は、好ましくは0.13以下、より好ましくは0.12以下である。
摩擦試験1:SUJ2摺動面を表面に有するディスクとSUJ2摺動面を表面に有するボールとを備えるボールオンディスク型の滑り摩擦試験機を使用して、1mLの初期なじみ用潤滑剤組成物を滴下し上記ボールを荷重10N、速度50mm/sの条件で200m滑動させたときの上記ディスクと上記ボールの間の摩擦係数を測定する。
【0056】
本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物は、下記摩擦試験2で測定される、SUJ2摺動面の初期なじみ用潤滑剤として用いた際の400m滑動後の摩擦係数と潤滑剤使用下における750m滑動後の摩擦係数の比[前者/後者]が0.90〜1.50であることが好ましい。上記比は、好ましくは0.95〜1.30、より好ましくは1.05〜1.25である。
摩擦試験2:SUJ2摺動面を表面に有するディスクとSUJ2摺動面を表面に有するボールとを備えるボールオンディスク型の滑り摩擦試験機を使用して、1mLの初期なじみ用潤滑剤組成物を滴下し上記ボールを荷重10N、速度50mm/sの条件で400m滑動させ、その後初期なじみ用潤滑剤組成物を除去した後、1mLのポリオールエステルを滴下し上記ボールを荷重10N、速度50mm/sの条件でさらに750m(合計1150m)滑動させたときの、400m滑動時及び750m滑動時の上記ディスクと上記ボールの間の摩擦係数を測定する。
【0057】
本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物は、ナノ炭素粒子及び有機分散媒のみからなるものであってもよく、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、界面活性剤、増粘剤、カップリング剤、分散剤、防錆剤、腐食防止剤、凝固点降下剤、消泡剤、耐摩耗添加剤、防腐剤、着色料などが挙げられる。上記その他の成分の含有割合は、本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物総量に対して、例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。従って、ナノ炭素粒子及び有機分散媒の合計の含有割合は、本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物総量に対して、例えば70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。
【0058】
本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物を用いて摺動部の初期なじみ(なじみ面形成)を行うことにより、簡便且つ経済的に摺動部の摩擦係数を低減することができる。また、本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物を用いることにより、摺動部材の焼き付きを抑制し、摺動部材の摩耗量を低減することができる。
【0059】
また、潤滑剤を用いた場合の摺動部の摩擦係数は、ストライベック曲線で示されるように、潤滑剤の粘度、摺動速度、及び荷重に応じて、流体潤滑領域、混合潤滑領域、及び境界潤滑領域にわたって変化する。流体潤滑領域では、摺動部材同士が連続した潤滑剤膜で隔てられており、摺動部材間の距離は摺動部材の表面粗さに比べかなり大きい。このため、流体潤滑領域における摩擦抵抗は主に潤滑剤の内部摩擦によるものである。流体潤滑領域から、荷重が増し、摺動速度の低下又は温度上昇により潤滑剤膜が薄くなるにつれ、摩擦係数は急激に増大していき、混合潤滑領域を経て境界潤滑領域へと変動する。境界潤滑領域では、部材同士の固体接触の頻度が高くなり、潤滑剤膜により支えられている部分は極端に少なくなっている。このため、境界潤滑領域では、潤滑剤の耐摩耗性などの物性よりも、主に摺動部材の表面物性が摩擦抵抗に影響する。一方、本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物を用いることにより、境界潤滑領域における摩擦係数を低減し、混合潤滑領域及び流体潤滑領域を広げることも可能となる。
【0060】
(初期なじみ用潤滑剤組成物の製造方法)
本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物は、例えば、上記有機分散媒中にナノ炭素粒子、さらに必要に応じてその他の成分を混合して、分散させることで製造することができる。
【0061】
以下、ナノ炭素粒子としてND粒子を用いた初期なじみ用潤滑剤組成物の製造方法について説明する。例えば、表面修飾ND粒子を用いた初期なじみ用潤滑剤組成物は、有機分散媒中において、表面処理を施す化合物をND粒子に反応させる工程(修飾化工程)を経て製造することができる。この場合、修飾化工程に用いた溶媒をそのまま初期なじみ用潤滑剤組成物における有機分散媒とすることができる。また、修飾化工程に用いた溶媒をそのまま初期なじみ用潤滑剤組成物における有機分散媒としてもよいし、修飾化工程の後に溶媒交換を行ってもよい。
【0062】
上記修飾化工程において、ND粒子中にND粒子が凝着して二次粒子を形成したND粒子凝集体が含まれる場合には、表面処理を施す化合物とND粒子との反応を、ND粒子を解砕若しくは分散化しつつ行うことが好ましい。これにより、ND粒子凝集体を一次粒子にまで解砕することができ、ND一次粒子の表面を修飾することができ、初期なじみ用潤滑剤組成物中のND粒子の分散性を向上することが可能となるからである。
【0063】
修飾化工程における反応に供するND粒子と表面処理を施す化合物(特に、シラン化合物)との質量比(前者:後者)は、例えば2:1〜1:20である。また、表面処理を施す際の上記有機分散媒中のND粒子の濃度は、例えば0.5〜10質量%であり、上記化合物の濃度は、例えば5〜40質量%である。
【0064】
表面処理のための反応時間は、例えば4〜20時間である。また、上記反応は、発生する熱を、氷水などを用いて冷却しながら行うことが好ましい。
【0065】
ND粒子を解砕若しくは分散化する方法としては、例えば、高剪断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ジェットミルなどにより処理する方法が挙げられる。中でも、解砕メディア(例えば、ジルコニアビーズなど)の存在下で超音波処理を施すことが好ましい。
【0066】
上記解砕メディア(例えば、ジルコニアビーズなど)の直径は、例えば15〜500μm、好ましくは15〜300μm、特に好ましくは15〜100μmである。
【0067】
また、修飾化工程において表面処理のための反応に有利な有機分散媒を用いた場合、一旦上記表面修飾ND粒子の分散液を得た後で、エバポレーターなどで分散液中の有機分散媒を留去した後、新たに初期なじみ用潤滑剤組成物に適した有機分散媒を混合して撹拌する、すなわち有機分散媒の交換によっても製造することができる。修飾化工程で表面修飾ND粒子がナノ分散した分散液を得た後、ND粒子を乾燥粉体とすることなく有機分散媒を初期なじみ用潤滑剤組成物に適した有機分散媒に交換する方法を採用すること、また、修飾化工程で使用した有機分散媒と初期なじみ用潤滑剤組成物に適した有機分散媒との濡れ性や溶解性を考慮して両有機分散媒を適宜選択することで、ND粒子が初期なじみ用潤滑剤組成物に適した有機分散媒中にナノ分散しやすくなる。
【0068】
以上のようにして、ND粒子が有機溶媒中に分散した初期なじみ用潤滑剤組成物が得られる。
【0069】
なお、上記ND粒子は、例えば爆轟法によって製造することができる。上記爆轟法には、空冷式爆轟法、水冷式爆轟法が挙げられる。中でも、空冷式爆轟法が水冷式爆轟法よりも一次粒子が小さいND粒子を得ることができる点で好ましい。
【0070】
爆轟は大気雰囲気下で行ってもよく、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、二酸化炭素雰囲気などの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0071】
ND粒子の製造方法の一例を以下に説明するが、本発明で使用するND粒子は以下の製造方法によって得られるものに限定されない。
【0072】
(生成工程)
成形された爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置し、容器内において大気組成の常圧の気体と使用爆薬とが共存する状態で、容器を密閉する。容器は例えば鉄製で、容器の容積は例えば0.5〜40m3である。爆薬としては、トリニトロトルエン(TNT)とシクロトリメチレントリニトロアミンすなわちヘキソーゲン(RDX)との混合物を使用することができる。TNTとRDXの質量比(TNT/RDX)は、例えば40/60〜60/40の範囲である。
【0073】
生成工程では、次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させる。爆轟とは、化学反応に伴う爆発のうち反応の生じる火炎面が音速を超えた高速で移動するものをいう。爆轟の際、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素を原料として、爆発で生じた衝撃波の圧力とエネルギーの作用によってND粒子が生成する。生成したND粒子は、隣接する一次粒子ないし結晶子の間がファンデルワールス力の作用に加えて結晶面間クーロン相互作用が寄与して非常に強固に集成し、凝着体を形成する。
【0074】
生成工程では、次に、室温において24時間程度放置することにより放冷し、容器及びその内部を降温させる。この放冷の後、容器の内壁に付着しているND粒子粗生成物(上述のようにして生成したND粒子の凝着体及び煤を含む)をヘラで掻き取る作業を行い、ND粒子粗生成物を回収する。以上のような方法によって、ND粒子の粗生成物を得ることができる。また、以上のようなナノダイヤモンド生成工程を必要回数行うことによって、所望量のND粒子粗生成物を取得することが可能である。
【0075】
(酸処理工程)
酸処理工程では、原料であるND粒子粗生成物に例えば水溶媒中で強酸を作用させて金属酸化物を除去する。爆轟法で得られるND粒子粗生成物には金属酸化物が含まれやすく、この金属酸化物は、爆轟法に使用される容器などに由来するFe、Co、Niなどの酸化物である。例えば水溶媒中で強酸を作用させることにより、ND粒子粗生成物から金属酸化物を溶解・除去することができる(酸処理)。この酸処理に用いられる強酸としては、鉱酸が好ましく、例えば、塩酸、フッ化水素酸、硫酸、硝酸、王水が挙げられる。上記強酸は、一種を用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。酸処理で使用される強酸の濃度は例えば1〜50質量%である。酸処理温度は例えば70〜150℃である。酸処理時間は例えば0.1〜24時間である。また、酸処理は、減圧下、常圧下、又は加圧下で行うことが可能である。このような酸処理の後、例えばデカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)の水洗を行う。沈殿液のpHが例えば2〜3に至るまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行うのが好ましい。爆轟法で得られるND粒子粗生成物における金属酸化物の含有量が少ない場合には、以上のような酸処理を省略してもよい。
【0076】
(酸化処理工程)
酸化処理工程は、酸化剤を用いてND粒子粗生成物からグラファイトを除去する工程である。爆轟法で得られるND粒子粗生成物にはグラファイト(黒鉛)が含まれるが、このグラファイトは、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素のうちND粒子結晶を形成しなかった炭素に由来する。ND粒子粗生成物に、水溶媒中で酸化剤を作用させることにより、ND粒子粗生成物からグラファイトを除去することができる。また、酸化剤を作用させることにより、ND粒子表面にカルボキシル基や水酸基などの酸素含有基を導入することができる。
【0077】
この酸化処理に用いられる酸化剤としては、例えば、クロム酸、無水クロム酸、二クロム酸、過マンガン酸、過塩素酸、硝酸、これらの混合物や、これらから選択される少なくとも1種の酸と他の酸(例えば硫酸など)との混酸、これらの塩が挙げられる。中でも、混酸(特に、硫酸と硝酸との混酸)を使用することが、環境に優しく、且つグラファイトを酸化・除去する作用に優れる点で好ましい。
【0078】
上記混酸における硫酸と硝酸との混合割合(前者/後者;質量比)は、例えば60/40〜95/5であることが、常圧付近の圧力(例えば、0.5〜2atm)の下でも、例えば130℃以上(特に好ましくは150℃以上。なお、上限は、例えば200℃)の温度で、効率よくグラファイトを酸化して除去することができる点で好ましい。下限は、好ましくは65/35、より好ましくは70/30である。また、上限は、好ましくは90/10、より好ましくは85/15、さらに好ましくは80/20である。上記混合割合が60/40以上であると、高沸点を有する硫酸の含有量が高いため、常圧付近の圧力下では、反応温度が例えば120℃以上となり、グラファイトの除去効率が向上する傾向がある。上記混合割合が95/5以下であると、グラファイトの酸化に大きく貢献する硝酸の含有量が多くなるため、グラファイトの除去効率が向上する傾向がある。
【0079】
酸化剤(特に、上記混酸)の使用量は、ND粒子粗生成物1質量部に対して例えば10〜50質量部、好ましくは15〜40質量部、より好ましくは20〜40質量部である。また、上記混酸中の硫酸の使用量は、ND粒子粗生成物1質量部に対して例えば5〜48質量部、好ましくは10〜35質量部、より好ましくは15〜30質量部である。また、上記混酸中の硝酸の使用量は、ND粒子粗生成物1質量部に対して例えば2〜20質量部、好ましくは4〜10質量部、より好ましくは5〜8質量部である。
【0080】
また、酸化剤として上記混酸を使用する場合、混酸と共に触媒を使用してもよい。触媒を使用することにより、グラファイトの除去効率を一層向上させることができる。上記触媒としては、例えば、炭酸銅(II)などが挙げられる。触媒の使用量は、ND粒子粗生成物100質量部に対して例えば0.01〜10質量部程度である。
【0081】
酸化処理温度は例えば100〜200℃である。酸化処理時間は例えば1〜24時間である。酸化処理は、減圧下、常圧下、又は加圧下で行うことが可能である。
【0082】
(アルカリ過水処理工程)
上記酸処理工程を経た後であっても、ND粒子に除去しきれなかった金属酸化物が残存する場合は、一次粒子間が非常に強く相互作用して集成している凝着体(二次粒子)の形態をとる。このような場合には、ND粒子に対して水溶媒中でアルカリ及び過酸化水素を作用させてもよい。これにより、ND粒子に残存する金属酸化物を除去することができ、凝着体から一次粒子の分離を促進することができる。この処理に用いられるアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア、水酸化カリウムなどが挙げられる。アルカリ過水処理において、アルカリの濃度は例えば0.1〜10質量%であり、過酸化水素の濃度は例えば1〜15質量%であり、処理温度は例えば40〜100℃であり、処理時間は例えば0.5〜5時間である。また、アルカリ過水処理は、減圧下、常圧下、又は加圧下で行うことが可能である。
【0083】
上記酸化処理工程あるいは上記アルカリ過水処理工程の後、例えばデカンテーションにより上澄みを除去することが好ましい。また、デカンテーションの際には、固形分の水洗を行うことが好ましい。水洗当初の上澄み液は着色しているが、上澄み液が目視で透明になるまで、当該固形分の水洗を反復して行うことが好ましい。
【0084】
(解砕処理工程)
ND粒子には、必要に応じて、解砕処理を施してもよい。解砕処理には、例えば、高剪断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどを使用することができる。なお、解砕処理は湿式(例えば、水などに懸濁した状態での解砕処理)で行ってもよいし、乾式で行ってもよい。乾式で行う場合は、解砕処理前に乾燥工程を設けることが好ましい。
【0085】
(乾燥工程)
上記アルカリ過水処理工程の後、乾燥工程を設けることが好ましい。例えば、上記アルカリ過水処理工程を経て得られたND粒子含有溶液から噴霧乾燥装置やエバポレーターなどを使用して液分を蒸発させた後、これによって生じる残留固形分を乾燥用オーブン内での加熱乾燥によって乾燥させる。加熱乾燥温度は、例えば40〜150℃である。このような乾燥工程を経ることにより、ND粒子が得られる。
【0086】
また、ND粒子には、必要に応じて、気相にて酸化処理(例えば酸素酸化)や還元処理(例えば水素化処理)を施してもよい。気相にて酸化処理を施すことにより、表面にC=O基を多く有するND粒子が得られる。また、気相にて還元処理を施すことにより、表面にC−H基を多く有するND粒子が得られる。
【実施例】
【0087】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
【0088】
実施例1
下記工程を経て、表面修飾ND粒子及び初期なじみ用潤滑剤組成物を製造した。
【0089】
(表面修飾ND粒子の作製)
まず、爆轟法によるナノダイヤモンドの生成工程を行った。本工程では、まず、成形された爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置して容器を密閉した。容器は鉄製で、容器の容積は15m3である。爆薬としては、TNTとRDXとの混合物0.50kgを使用した。この爆薬におけるTNTとRDXの質量比(TNT/RDX)は、50/50である。次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させた(爆轟法によるナノダイヤモンドの生成)。次に、室温での24時間の放置により、容器及びその内部を降温させた。この放冷の後、容器の内壁に付着しているナノダイヤモンド粗生成物(上記爆轟法で生成したナノダイヤモンド粒子の凝着体と煤を含む)をヘラで掻き取る作業を行い、ナノダイヤモンド粗生成物を回収した。
【0090】
上述のような生成工程を複数回行うことによって取得されたナノダイヤモンド粗生成物に対し、次に、酸処理工程を行った。具体的には、当該ナノダイヤモンド粗生成物200gに6Lの10質量%塩酸を加えて得られたスラリーに対し、常圧条件での還流下で1時間の加熱処理を行った。この酸処理における加熱温度は85〜100℃である。次に、冷却後、デカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体と煤を含む)の水洗を行った。沈殿液のpHが低pH側から2に至るまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行った。
【0091】
次に、酸化処理工程を行った。具体的には、酸処理後のデカンテーションを経て得た沈殿液(ナノダイヤモンド凝着体を含む)に、6Lの98質量%硫酸と1Lの69質量%硝酸とを加えてスラリーとした後、このスラリーに対し、常圧条件での還流下で48時間の加熱処理を行った。この酸化処理における加熱温度は140〜160℃である。次に、冷却後、デカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)の水洗を行った。水洗当初の上澄み液は着色しているところ、上澄み液が目視で透明になるまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行った。
【0092】
次に、上述の水洗処理を経て得られたナノダイヤモンド含有液1000mLを、噴霧乾燥装置(商品名「スプレードライヤー B−290」、日本ビュッヒ株式会社製)を使用して噴霧乾燥に付した(乾燥工程)。これにより、50gのナノダイヤモンド粉体を得た。
【0093】
上記乾燥工程で得られたナノダイヤモンド粒子0.3gを反応容器に量り取り、有機分散媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK)13.5g、シラン化合物としてヘキシルトリメトキシシラン1.2gを添加し10分間撹拌した。
【0094】
撹拌後、ジルコニアビーズ(東ソー株式会社製、登録商標「YTZ」、直径30μm)36gを添加した。添加後、氷水中で冷やしながら超音波分散機(型式「UP−400s」、ヒールッシャー社製)を用い、超音波分散機の振動子の先端を反応容器内の溶液に浸けた状態で20時間超音波処理して、ND粒子とシラン化合物を反応させた。最初は灰色であったが、徐々に小粒径化し分散状態もよくなり最後は均一で黒い液体となった。これは、ND粒子凝集体から順次にND粒子が解かれ(解砕)、解離状態にあるND粒子にシラン化合物が作用して結合し、表面修飾されたND粒子がMIBK中で分散安定化しているためであると考えられる。このようにして、シラン化合物が表面に結合した表面修飾ND粒子を含むND分散液(MIBK分散液)が得られた。
【0095】
得られたND分散液中のND粒子の粒度分布を、Malvern社製の装置(商品名「ゼータサイザー ナノZS」)を使用して、動的光散乱法(非接触後方散乱法)により測定し、ND粒子の平均分散粒子径(D50)を求めたところ、12nmであった。
【0096】
(初期なじみ用潤滑剤組成物の作製)
上記で得られた表面修飾ND分散液10gにポリオールエステルを1g加えた後、撹拌混合し、ロータリーエバポレーターにより、ND粒子が乾燥粉体とならないようにMIBKを留去した。次いで、濃縮残渣にポリオールエステルを加えて、総重量を10gとし、撹拌混合し、超音波分散機(型式「UP−400s」、ヒールッシャー社製)を用い、表面修飾ND粒子をポリオールエステルに分散させた。以上のようにして、シラン化合物が表面に結合した表面修飾ND粒子を含む潤滑剤組成物を得た。この時のナノダイヤモンド濃度は2.89質量%であった。なお、ナノダイヤモンド濃度は、350nmにおける吸光度より算出した。
【0097】
(評価)
実施例1で得られた初期なじみ用潤滑剤組成物をポリオールエステルで希釈して、表面修飾ND粒子濃度を10質量ppmとした初期なじみ用潤滑剤組成物を初期なじみ用潤滑油サンプルとして摩擦試験を行った。なお、希釈した初期なじみ用潤滑剤油サンプル中のND粒子の粒度分布を、Malvern社製の装置(商品名「ゼータサイザー ナノZS」)を使用して、動的光散乱法(非接触後方散乱法)により測定し、ND粒子の平均分散粒子径(D50)を求めたところ、24nmであった。摩擦試験は、ボールオンディスク型すべり摩擦試験機(装置名「UMT−3」、ブルカー社製)を用いた。試験片であるボール及びディスクとして、直径4mmのSUJ2製のボール、及び、直径30mm、厚さ4mmのSUJ2製のディスクを用い、いずれも焼入れ後に鏡面研磨加工(Ra=25nm以下)が施されたものである。試験開始時にディスク表面の摺動面に初期なじみ用潤滑油サンプルを1mL滴下し、室温にて試験を行った。試験条件は、すべり速度50mm/s、荷重10N、すべり距離400mとした。その後、ボールとディスクを摩擦試験機から取り外し、ヘキサンとアセトンを用いて洗浄し、初期なじみ用潤滑油サンプルを除去した。乾燥エアーで液滴を完全に除去した後、摩擦試験機に戻した。潤滑油としてポリオールエステルを使用し試験を再開し、750mすべらせた。実施例1の結果を図1に示す。また、比較例1として、ポリオールエステルのみを初期なじみ用潤滑油サンプルとして用い、400m滑らせた結果を図2に示す。また、ボールの摩耗量の推移を図3に示した。
【0098】
比較例1(図2)では、400m滑り後においても摩擦係数が0.12程度と高く、低摩擦面(なじみ面)がまだ形成されていないのに対し、ND粒子を特定量含有する本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物(実施例1、図1)は、200m程度滑り後で摩擦係数が0.11程度となり早期になじみ面が形成された。さらに、その後、ポリオールエステルのみに置き換えても摩擦係数が上昇することなく、且つ、摩擦係数がより下がり0.10程度まで低下した。よって、本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物によれば、摺動部において、早期に低摩擦面(なじみ面)の形成することができ、その後の摺動部における低摩擦を達成することができる。なお、摩擦試験の結果を表1に示した。
【0099】
【表1】
【0100】
ボールの磨耗量は、下記摩耗量算出方法により算出した。
[摩耗量算出方法]
上記摩擦試験を経た上記ボールに形成されている円形状摩耗痕を共焦点顕微鏡を使用して観察し、当該観察像から、上記円形状摩耗痕について一様に滑らかな平面であると仮定したうえで直径r(mm)を求める。そして、下記の式(1)及び式(2)によりボール摩耗体積V(mm3)を算出する。式(1)におけるhは、上記円形状摩耗痕の球冠の高さ(mm)であり、下記式(2)より求められる。式(2)におけるRは、上記ボールの半径であって2(mm)である。
【0101】
【数1】
【0102】
ボール摩耗量について、表1及び図3に示されているように、比較例1の摩擦試験では、400m滑り後で磨耗が1.15×10-4mm3まで進行していたのに対し、本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物を使用した実施例1では、400m滑り後で0.15×10-4mm3と僅かであった。その後、ポリオールエステルに置き換えてから750m(合計1150m)滑り後でも0.69×10-4mm3であり、比較例ほどの磨耗はなかった。つまり、本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物を使用することで、早期に低摩擦面を形成することができ、その後本潤滑のための潤滑剤組成物を使用することで、その後の摺動において、低摩擦面を維持すると同時に摩耗を抑制できることが分かる。
【0103】
また、実施例1で得られた初期なじみ用潤滑剤組成物をポリオールエステルで希釈して、表面修飾ND粒子濃度を10質量ppmとした初期なじみ用潤滑剤組成物を初期なじみ用潤滑油サンプルとして用いて、別途摩擦試験を行った。本摩擦試験は、ボールオンディスク型すべり摩擦試験機(装置名「UMT−3」、ブルカー社製)を用いた。試験片であるボール及びディスクとして、直径4mmのSUJ2製のボール、及び、直径30mm、厚さ4mmのSUJ2製のディスクを用い、いずれも焼入れ後に鏡面研磨加工(Ra=25nm以下)が施されたものである。試験開始時にディスク表面の摺動面に初期なじみ用潤滑油サンプルを1mL滴下し、室温にて試験を行った。試験条件は、すべり速度50mm/s、荷重10N、すべり距離800mとした。また、比較例2として、ポリオールエステルのみを初期なじみ用潤滑油サンプルとして用い、800m滑らせた。そして、上記摩耗量算出方法に従って、上記摩擦試験を経た上記ボールに形成されている円形状摩耗痕の直径r及びボール摩耗体積Vを算出した。その結果、比較例2の摩擦試験では、800m滑り後で円形状摩耗痕の幅312μm、ボール摩耗量2.3×10-4mm3まで進行していたのに対し、本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物を使用した摩擦試験では、800m滑り後で円形状摩耗痕の幅158μm、ボール摩耗量0.15×10-4mm3と僅かであった。なお、本発明の初期なじみ用潤滑剤組成物を使用した摩擦試験とポリオールエステルのみを使用した摩擦試験(比較例2)の、ボール摩耗量(mm3)を対比したグラフを図4に示す。
図1
図2
図3
図4