特許第6749540号(P6749540)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6749540バックル、腕時計、及びバックル又は腕時計の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6749540
(24)【登録日】2020年8月14日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】バックル、腕時計、及びバックル又は腕時計の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A44C 5/24 20060101AFI20200824BHJP
   A44B 11/00 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
   A44C5/24
   A44B11/00
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-548962(P2016-548962)
(86)(22)【出願日】2015年9月18日
(86)【国際出願番号】JP2015076641
(87)【国際公開番号】WO2016043307
(87)【国際公開日】20160324
【審査請求日】2018年9月5日
(31)【優先権主張番号】特願2014-190632(P2014-190632)
(32)【優先日】2014年9月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】アダマンド並木精密宝石株式会社
(72)【発明者】
【氏名】ラタスキー ミッシェル
(72)【発明者】
【氏名】原田 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】清水 幸春
(72)【発明者】
【氏名】柴田 進
【審査官】 山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−020948(JP,A)
【文献】 特許第3710887(JP,B2)
【文献】 特表2013−544648(JP,A)
【文献】 特開2010−144245(JP,A)
【文献】 特開平10−146208(JP,A)
【文献】 特開平10−192015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44C 5/24
A44B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、基部材及び中板とから形成される枠体と、枠体に可動可能に連結された可動体を備えるバックルにおいて、
バックルは少なくとも枠体と2つの可動体とを備えて成る両開き式であり、
枠体は、基部材と中板とが一体成形されて形成されており、
基部材の平面形状はアルファベットのH型となるように左右対称に成形され、
基部材は、左右一対の2つの枠部材と、2つの枠部材を連結する中央に位置する梁により構成されていると共に、
2つの枠部材及び梁は一体成形され、
中板が梁の左右から1つずつ左右対称に伸長されていると共に、梁と一体成形され、
基部材が円弧状に成形されていると共に、中板が基部材との接続部分から端部に向かうに従い逆方向に跳ね上がって曲面状に形成されて弾性変形し、
中板の端部を挿通可能なように可動体に開口部が形成されていると共に、開口部の一端側は中板と接しており、
中板の弾性変形により可動体の回転方向に弾性力が加わり、可動体が枠体に対して閉じられることで可動体に弾性力が加えられ、可動体が閉じた状態を保持することを特徴とするバックル。
【請求項2】
前記中板における前記基部材との接続部分が、前記中板のその他の部分よりも厚く形成されていることを特徴とする請求項1に記載のバックル。
【請求項3】
前記基部材と前記中板が金属ガラスで一体成形されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のバックル。
【請求項4】
前記金属ガラスが、Au、Pt、Zr、Cu、Pd、Tiの何れかを主成分とすることを特徴とする請求項3に記載のバックル。
【請求項5】
前記可動体が腕時計のバンドの端部に取り付けられることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のバックルを備えた腕時計。
【請求項6】
少なくとも、枠体の基部材及び中板の形状が形成された金型を用意すると共に、金属ガラスを溶融し、その金型に溶融した金属ガラスを流し込み、鋳造により基部材及び中板を一体成形して枠体を作製するか、
又は、少なくとも金属ガラスを加熱し、加熱した金属ガラスに、少なくとも枠体の基部材及び中板の形状が形成された金型を押圧して、基部材及び中板を金属ガラスに転写し、転写後に金属ガラスを冷却して金型の押圧を解除し、金型を金属ガラスから離型し、金属ガラスを冷却して、基部材及び中板を一体成形した枠体を作製し、
更に、枠体に可動体を可動可能に連結することを特徴とするバックルの製造方法。
【請求項7】
前記中板を曲面状に成形することを特徴とする請求項6に記載のバックルの製造方法。
【請求項8】
前記中板における前記基部材との接続部分を、前記中板のその他の部分よりも厚く形成することを特徴とする請求項6又は7に記載のバックルの製造方法。
【請求項9】
前記基部材を円弧状に成形すると共に、前記中板を前記基部材との接続部分から端部に向かうに従い逆方向に跳ね上げて曲面状に形成することを特徴とする請求項6〜8の何れかに記載のバックルの製造方法。
【請求項10】
前記基部材の平面形状をH型に成形すると共に、
左右に1つずつ前記中板を一体成形することを特徴とする請求項6〜9の何れかに記載のバックルの製造方法。
【請求項11】
前記金属ガラスの主成分を、Au、Pt、Zr、Cu、Pd、Tiの何れかとすることを特徴とする、請求項6〜10の何れかに記載のバックルの製造方法。
【請求項12】
少なくとも、枠体の基部材及び中板の形状が形成された金型を用意すると共に、金属ガラスを溶融し、その金型に溶融した金属ガラスを流し込み、鋳造により基部材及び中板を一体成形して枠体を作製するか、
又は、少なくとも金属ガラスを加熱し、加熱した金属ガラスに、少なくとも枠体の基部材及び中板の形状が形成された金型を押圧して、基部材及び中板を金属ガラスに転写し、転写後に金属ガラスを冷却して金型の押圧を解除し、金型を金属ガラスから離型し、金属ガラスを冷却して、基部材及び中板を一体成形した枠体を作製し、
更に、枠体に可動体を可動可能に連結してバックルを作製し、
更に、可動体を腕時計のバンドの端部に取り付けることを特徴とする腕時計の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バックル、腕時計、及びバックル又は腕時計の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腕時計のバンドには、開放端を持たず、バックルによる留め具が装着されている形式のものがある。そのバックルの種類は片開き式若しくは両開き式など多岐に亘るが、環状の腕時計用バンドを緩めたり締めたりするためのものである。その一例として図10(例えば、特許文献1参照)に示すような、両開き形式のバックルが発明されている。
【0003】
特許文献1記載の腕時計用バックル100は、両側一対の基部材101と、可動体102を含むものであり、可動体102はシャフト103によって可動可能に基部材101に連結されている。基部材101は、両側一対の枠部材104と、中央部の梁105と、左右一対の梁106より構成された枠体であり、腕時計使用者の腕の曲面に沿うように、外形が湾曲形成されている。そのバックル100は、中板107(弾性部材)と図示しないスリーブパイプも含んでいる。スリーブパイプは、可動体102を可動式に基部材101に連結しており、シャフト103に対して平行に配置されている。基部材101には、その幅方向に横断して設けられる梁105と、更に幅方向に横断して設けられる第二の梁106が備えられ、2種類(計3つ)の梁105、106、106はシャフト103に対して平行に配置されている。
【0004】
2つの中板107の端部は各々、梁105の凹み108に固定されて基部材101に固定されている。また、中板107の中央部は梁106によって押さえられており、弾性変形されている。更に、可動体102はシャフト103に支えられて回転し、スリーブパイプは可動体102に伴って回転する。腕時計の使用者が腕へのバンド係止のため可動体102を操作すると、中板107に外部から力が加わり、梁105の凹み108に固定された端部と反対側の端部が弾性変形し、可動体102に回転力が加わり、このバックル100に半自動式のバックル締結機能が付与される、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】中国実用新案第201718619号明細書(第1頁、第3−7図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のバックル100の構成では、基部材101が弾性変形しない剛性部品であるのに対し、中板107は各可動体 102、102の回転時に弾性変形する部品であった。このように、物性が異なる部品が1つのバックル100として組み込まれていた為、中板107と基部材101を別部品で構成せざるを得なかった。
【0007】
更に、基部材101と中板107を互いに固定するための構造体(図10では、梁105の凹部108や、梁106)も必要であったため、その分だけ部品点数が増加すると共に、部品毎(基部材101と中板107、107)の製造工程も必要であった。更に、基部材101と中板107、107の組立工程も必要であった。図10に示すバックル100では、梁105の凹部108に中板107、107の各端部を嵌め込んで固定すると共に、中板107、107の中央部を梁106の下部に合致して配置しなければならなかった。従って、部品点数と製造工程が増加し、腕時計用のバックル100の量産性低下とコスト高を招いていた。
【0008】
更に腕時計の使用に伴い、基部材101と中板107、107との固定部分に弛みや破損等が生じて、基部材101と中板107、107との間で分離が発生するおそれがあった。基部材101と中板107、107間の分離が発生すると、可動体102の閉じ込みによるバックル100の施錠が正常に行われなくなり、腕の動きによりバックル100の可動体102が不意に開いてしまい、バンドが緩んで腕時計が腕から抜け落ちる危険性があった。
【0009】
本発明は、上記事情に照らしてなされたものであり、部品点数と製造工数の削減を可能とする事で量産性が向上し、低コスト化にも優れ、腕時計の使用に伴うバックルの不意の開きによる解除も防止可能な、バックル、腕時計及びバックル又は腕時計の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は、以下の本発明により達成される。
即ち本発明のバックルは、少なくとも、基部材及び中板とから形成される枠体と、枠体に可動可能に連結された可動体を備えるバックルにおいて、バックルは少なくとも枠体と2つの可動体とを備えて成る両開き式であり、枠体は、基部材と中板とが一体成形されて形成されており、基部材の平面形状はアルファベットのH型となるように左右対称に成形され、基部材は、左右一対の2つの枠部材と、2つの枠部材を連結する中央に位置する梁により構成されていると共に、2つの枠部材及び梁は一体成形され、中板が梁の左右から1つずつ左右対称に伸長されていると共に、梁と一体成形され、基部材が円弧状に成形されていると共に、中板が基部材との接続部分から端部に向かうに従い逆方向に跳ね上がって曲面状に形成されて弾性変形し、中板の端部を挿通可能なように可動体に開口部が形成されていると共に、開口部の一端側は中板と接しており、中板の弾性変形により可動体の回転方向に弾性力が加わり、可動体が枠体に対して閉じられることで可動体に弾性力が加えられ、可動体が閉じた状態を保持することを特徴とする。
【0013】
本発明のバックルの他の実施形態は、中板における基部材との接続部分が、中板のその他の部分よりも厚く形成されていることが好ましい。
【0016】
本発明のバックルの他の実施形態は、基部材と中板が金属ガラスで一体成形されていることが好ましい。
【0017】
本発明のバックルの他の実施形態は、金属ガラスが、Au、Pt、Zr、Cu、Pd、Tiの何れかを主成分とすることが好ましい。
【0018】
本発明の腕時計は、前記可動体が腕時計のバンドの端部に取り付けられることを特徴とする。
【0019】
本発明のバックルの製造方法は、少なくとも、枠体の基部材及び中板の形状が形成された金型を用意すると共に、金属ガラスを溶融し、その金型に溶融した金属ガラスを流し込み、鋳造により基部材及び中板を一体成形して枠体を作製するか、
又は、少なくとも金属ガラスを加熱し、加熱した金属ガラスに、少なくとも枠体の基部材及び中板の形状が形成された金型を押圧して、基部材及び中板を金属ガラスに転写し、転写後に金属ガラスを冷却して金型の押圧を解除し、金型を金属ガラスから離型し、金属ガラスを冷却して、基部材及び中板を一体成形した枠体を作製し、
更に、枠体に可動体を可動可能に連結することを特徴とする。
【0020】
本発明のバックルの製造方法の、他の実施形態は、中板を曲面状に成形することが好ましい。
【0021】
本発明のバックルの製造方法の、他の実施形態は、中板における基部材との接続部分を、中板のその他の部分よりも厚く形成することが好ましい。
【0022】
本発明のバックルの製造方法の、他の実施形態は、基部材を円弧状に成形すると共に、中板を基部材との接続部分から端部に向かうに従い逆方向に跳ね上げて曲面状に形成することが好ましい。
【0023】
本発明のバックルの製造方法の、他の実施形態は、基部材の平面形状をH型に成形すると共に、左右に1つずつ中板を一体成形することが好ましい。
【0024】
本発明のバックルの製造方法の、他の実施形態は、金属ガラスの主成分を、Au、Pt、Zr、Cu、Pd、Tiの何れかとすることが好ましい。
【0025】
本発明の腕時計の製造方法は、少なくとも、枠体の基部材及び中板の形状が形成された金型を用意すると共に、金属ガラスを溶融し、その金型に溶融した金属ガラスを流し込み、鋳造により基部材及び中板を一体成形して枠体を作製するか、
又は、少なくとも金属ガラスを加熱し、加熱した金属ガラスに、少なくとも枠体の基部材及び中板の形状が形成された金型を押圧して、基部材及び中板を金属ガラスに転写し、転写後に金属ガラスを冷却して金型の押圧を解除し、金型を金属ガラスから離型し、金属ガラスを冷却して、基部材及び中板を一体成形した枠体を作製し、
更に、枠体に可動体を可動可能に連結してバックルを作製し、更に、可動体を腕時計のバンドの端部に取り付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るバックル及びその製造方法に依れば、バックルを形成する基部材と中板が一体成形される。従って、基部材と中板との間で固定構造が不要となるため、固定構造の部品点数が削減されると共に、基部材と中板を固定する工程も削減され、量産性の向上と低コスト化が可能なバックルを提供することが出来る。
【0027】
更に、基部材と中板を一体成形しているため、基部材と中板との固定部分の弛みや破損等を解消することが可能となり、常にバックルの閉じ込みによる施錠を正常な状態に保持することが出来る。従って、バックルを腕時計に使用することにより、腕の動きによるバックルの不意な開きによる解除が防止され、腕時計バンドの緩みによる腕時計の腕からの抜け落ちを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係る実施形態の両開き式のバックルを模式的に示す分解斜視図である。
図2】本発明に係る実施形態のバックルを構成する枠体を模式的に示す平面図である。
図3図2のA−A側断面図である。
図4図3の円D内の部分拡大図である。
図5】本発明に係る実施形態の両開き式のバックルにおいて、可動体が開いている状態を模式的に示す、バックルの斜視図である。
図6】本発明に係る実施形態のバックルを構成する枠体を、裏側から見た状態を模式的に示す斜視図である。
図7図5のバックルにおいて、可動体による閉じ込みの途中の状態を示す、バックルの斜視図である。
図8図5のバックルにおいて、可動体による閉じ込みが完了した状態を示す、バックルの斜視図である。
図9図8のバックルに、腕時計バンドを取り付ける状態を模式的に示す斜視図である。
図10】従来のバックルの一例を示す、説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図1図9を参照して、本発明に係る実施形態のバックルを、詳細に説明する。図1及び図2に示すように、本発明の実施の形態に係るバックル1は少なくとも、枠体2と、2つの可動体3、3とを備えて成る両開き式のバックルである。
【0030】
枠体2は、基部材2aと中板2b、2bとが一体成形されて形成されている。更に基部材2aの端部には、複数のピン孔2a3が左右端部でそれぞれ同軸上に形成されている。図1及び図2より基部材2aは、左右一対の2つの枠部材2a1、2a1と、2つの枠部材2a1、2a1を連結する中央に位置する梁2a2により構成されている。従って基部材2aの平面形状は、図2に示すようにアルファベットのH型となるように左右対称に成形されている。更に、基部材2aの側面形状は、バックル1を備えた製品(例えば、腕時計)の使用者の腕などの曲面に沿うように、外形が円弧状に湾曲成形されている。2つの枠部材2a1、2a1及び梁2a2は、一体成形されている。
【0031】
また中板2b、2bは、図1図3及び図6に示すように、梁2a2の左右から1つずつ左右対称に伸長するように一体成形されており、2つの枠部材2a1、2a1の間に枠部材2a1、2a1と平行に形成されている。更に中板2bは図3に示すように、基部材2aとの接続部分である梁2a2との接続部分から、もう一方の端部に向かうに従い、基部材2aの円弧方向とは逆方向に跳ね上がって曲面状に形成されている。図3では、中板2bの曲面形状の見易さを優先し、中板2b及び梁2a2のみを図示している。なお図4に示すように、基部材2aと中板2bとの一体部分である、梁2a2と中板2bの端部との接続部分の断面厚みTは、中板2bの他の部分の断面厚みtよりも厚く(T>t)形成されていることが望ましい。
【0032】
中板2bは梁2a2の左右からそれぞれ複数枚伸長させても良いが、部品点数の削減による製造の容易性や、後述する可動体3との組み立ての容易性等の確保の点から、梁2a2の左右から1つずつ左右対称に伸長させることが最も好ましい。
【0033】
なお基部材2aと中板2bが一体成形されているとは、基部材2aと中板2bが共に同一の材料から一体成型により形成されていることとする。このように、バックル1を形成する基部材2aと中板2bを一体成形することにより、基部材2aと中板2bとの間で固定構造が不要となる。従って、固定構造の部品点数が削減されると共に、基部材2aと中板2bを固定する工程も削減され、バックル1の量産性の向上と低コスト化が可能となる。
【0034】
一方、図1に示すように、可動体3はその一端側の端部にピン孔3eが形成されており、基部材2aの端部に形成されているピン孔2a3内と共に、連結ピン4が挿通されることにより枠体2に可動可能に連結される。図5に可動体3が枠体2に連結されて成るバックル1を示す。更にもう一方の端部には、例えば腕時計のバンドを連結するためのバンド連結部3bが設けられている。
【0035】
可動体3は、枠体2に対して連結ピン4を中心として回転可能に可動できるように連結されており、図8に示すように左右の可動体3、3を枠体2内に収納してバックル1を閉じた際に、中板2bの端部を挿通可能なように開口部3cが形成される。更に、その側面形状は、バックル1を閉じた際に基部材2a内に収納されるように、基部材2aの側面形状における円弧形状と同一に成形されている。従って図8に示すように、可動体3の上面3dは枠体2の上面2cとほぼ一致し、少なくとも枠体2より突出しない。なお可動体3は、枠体2と同一材料又は異なる材料で形成される。
【0036】
図7に示すように、バックル1は左右の可動体3、3の回転により閉じられるが、その閉じられる過程において、基部材2aは変形しない部分であり、一方の中板2bは変形する部分として構成されている。基部材2aはバックル1が閉じられる過程で弾性を有さない剛性部分である。一方の中板2bは、バックル1が閉じられる過程で弾性を有して弾性変形する部分である。開口部3cの一端側は中板2bと接しており、その一端側の断面形状はカム状に偏心成形されている。更に、中板2bが梁2a2から端部に向かうに従い逆方向に跳ね上がるように曲面状に形成されていることに伴い、この中板2bの弾性変形により、中板2bと接触している可動体3に、回転時にその回転方向に弾性力が加わる。その結果、バックル1の可動体3が枠体2に対して一旦閉じられると、図8より各可動体3、3が枠体2に対して閉じられる方向(図8中の矢印C、C方向)に弾性力が加えられ、バックル1は可動体3が閉じた状態を保持する。
【0037】
なお、基部材2aが変形しない部分というのは、バックル1が閉じられる過程において弾性変形しない部分或いは各可動体3、3など他の部品に弾性力を加えないという意味であり、その意味の範囲内で若干の変形は許容されるものとする。
【0038】
前記の通り、基部材2aと中板2bを一体成形し、且つ、バックル1を閉じる過程において基部材2aは変形しない部分とし、中板2bは変形する部分として構成することで、一体成形しているにも関わらず、物性が異なる部分同士を一体成形してバックル1を形成することが可能となる。
【0039】
更に、中板2bを梁2a2から端部に向かうに従い、逆方向に跳ね上がるように曲面状に形成することにより、より確実に中板2bに弾性を付与することが可能となり、基部材2aと物性を変えて一体成形することが可能となる。
【0040】
また基部材2a、中板2b、及び可動体3は、超硬合金、セラミックス、貴金属、金を含む合金、ステンレス鋼、又は金属ガラスと云った各種材料で作製可能である。
【0041】
金属ガラスで各部品を作製する場合、その金属ガラスは、ガラス質金属単相を含む金属ガラス、昇温速度0.67K/sで30K以上の過冷却液体温度域を有するガラス質金属単相を含む金属ガラス、100nm以下の粒径を有する結晶を含む金属ガラス、或いはガラス質金属組織を体積率で50%以上を含む金属ガラスの、何れかの金属ガラスから選ばれる。
【0042】
ガラス質金属単相、或いは100nm以下の粒径を有する結晶を含む金属ガラスは、表面平滑性を呈する組織構造を持つ。このことから粒子欠損が無いため、表面が平滑な基部材2a、中板2b、又は可動体3を作製することが可能となる。更に、製造ばらつきをより確実に取り除くことが出来る。従って、精度の高い形状の基部材2a、中板2b、又は可動体3が実現可能となる。
【0043】
なお結晶の粒径が100nmを超えると、耐食性や強度の低下、及び各部品の表面粗度(表面平滑性)に悪影響を与えてしまう。よって、金属ガラス組織のマトリックス中に混在する結晶の粒径は100nm以下であることが望ましい。
【0044】
また、昇温速度0.67K/sで30K以上の過冷却温度領域を有するガラス質金属単相を含む金属ガラスは、固体ガラスとしての安定性が高い。従って、射出成形等の安価で形状再現性の高い成形加工を用いることで、基部材2a、中板2b、又は可動体3を極めて容易に高精度で作製することが可能となり、製造ばらつきをより確実に取り除くことが出来る。
【0045】
また、ガラス質金属組織を体積率で50%以上含む金属ガラスで各部品を製造することにより、高い寸法精度と高耐久性が得られる。従って、基部材2a、中板2b、又は可動体3を高精度に作製することが可能になると共に、各部品に高耐久性を付与することも出来る。
【0046】
なお、ガラス質金属組織の体積率が50%未満では、耐食性や強度の低下、及び各部品の表面の平滑性が十分に得られなくなるため、金属ガラス中のガラス質金属組織の体積率は50%以上が好ましい。
【0047】
このような各種材料で基部材2a及び中板2b、更に可動体3を作製することにより、傷が付きにくいバックル1が作製できる。
【0048】
なお、各部品を金属ガラスで作製する際は、中板2bの低ヤング率、及び各部品の質感向上と外観の装飾性向上という点から、Au、Pt、Zr、Cu、Pd、Tiの何れかを主成分とする金属ガラスがより好ましい。Zr系金属ガラス材料としては、例えばZr-Cu-Al-Ni合金が挙げられる。またPt系金属ガラス材料としては、Pt−Pd-Cu-P合金が挙げられ、Ti系金属ガラス材料としては、Ti-Cu-Ni-R合金(RはZr、Co、Sn、Nb、Taの何れかの元素)が挙げられる。一例として、Pt 系の金属ガラスの組成(at%)として、例えばPt 48.75、Pd 9.75、Cu 19.5、P 22(Pt48.75Pd9.75Cu19.5P22合金)が挙げられる。
【0049】
以上の各種材料で基部材2a及び中板2b、又は可動体3を作製後、各部品の表面に研削及び研磨加工を施して鏡面加工を行い、表面に光沢を出す。鏡面加工により、各表面の表面粗さをRa=0.1μm以下且つRz=0.4μm以下に仕上げることで、腕時計にバックル1を使用した場合に装飾部材としての光沢が引き出され、腕時計用途としてより一層の高級感と美的満足感が得られる。
【0050】
なお、基部材2a及び中板2b、又は可動体3を前述の金属ガラスで作製する場合は、金属ガラス特有の表面平滑性により所望の表面粗さ(Ra=0.1μm以下且つRz=0.4μm以下)を達成することが出来る。
【0051】
前記の通り、基部材2aと中板2bは同一材料で一体成形され、且つ、バックル1を閉じる過程において基部材2aは変形しない部分であり、中板2bは変形する部分と云う物性上の相違も有る。従って、基部材2aと中板2bは同一材料で形成されているにも関わらず、物性が異なり、これら物性が異なる部分同士を一体成形してバックル1が構成されている。基部材2a及び中板2bの断面形状は、四角形、又は少なくとも1つの角部を丸めるか面取り加工した四角形、或いは、円形又は楕円形など任意の形状に設定可能である。
【0052】
基部材2aと中板2bとの一体部分である、梁2a2と中板2bの端部との接続部分の断面厚みTは、前記の通り中板2bの他の断面厚みtよりも厚く形成されていることが望ましい。その理由として、バックル1の閉じ込み過程において、基部材2aに対して中板2bのみ変形する際、中板2bと梁2a2との接続部分に変形に伴う応力が集中して加わるが、この応力による接続部分の破壊を防止して応力に対する耐性を得られるためである。接続部分の断面厚みTを、他の断面厚みtよりも厚く形成する構成としては、接続部分をR成形するか、曲面で形成することが好ましい。更に、このように接続部分を形成することが、応力に対する耐性確保と、バックル1の用途(例えば、腕時計)に要求される外観の見栄えの確保という点で望ましい。
【0053】
以上のように、断面厚みTを他の断面厚みtよりも厚く形成することにより、バックル1の開閉動作を繰り返すことで中板2bと梁2a2との接続部分に応力が集中しても、接続部分の破壊が防止され、応力に対する耐性を得ることが出来る。従って、基部材2aと中板2bとの一体成形部品としてのバックル1の信頼性を更に向上させることが出来ると共に、基部材2aと中板2b間の分離を防止してバックル1の不意な開きによる解除が防止可能となる。
【0054】
基部材2aと中板2bを金属ガラスで一体成形で作製する場合には、ダイカスト(die casting)又は射出成形により、所定の形状の基部材2aと中板2bを形成すれば良い。ダイカスト又は射出成形により基部材2aと中板2bを形成する場合は、最初に、枠体2の少なくとも基部材2aと中板2bの形状が形成された金型を用意する。更に、前記何れかの金属ガラスを溶融し、その金型に溶融した前記金属ガラスを流し込み、冷却する。このようにして、所定の形状及び寸法を有する枠体2(基部材2aと中板2b)を一体成形で作製する。なお、本発明では射出成形を鋳造の一種と見なし、更に射出成形が、溶融した金属ガラスを用いる製造方法を含むものと定義する。
【0055】
更に、溶融した金属ガラスの温度は融点以上と設定する。なお、金属ガラスの溶融方法は特に限定されない。一方、射出成形でも溶融した金属ガラスの温度は融点以上とする。
【0056】
以上のように金属ガラスによるダイカスト又は射出成形に依れば、所定の形状を有する基部材2aと中板2bを、一回の成形で作製することが出来るため、低コストで量産性に優れたバックル1を提供することが可能となる。
【0057】
更に鋳造により、再現性良く基部材2aと中板2bを作製出来るので、高品質に基部材2aと中板2bを製造することが出来る。
【0058】
なお金属ガラスの溶融時からの体積収縮を抑えるために、成形時には300℃/秒以上の冷却速度で冷却凝固させることが好ましい。
【0059】
なお、基部材2aと中板2bを超硬合金で作製する場合には、粉末射出成形により作製すれば良い。
【0060】
又、セラミックスを用いて基部材2aと中板2bを作製する場合でも、粉末射出成形を行うことで容易に作製することが出来る。
【0061】
一方、貴金属や金を含む合金で基部材2aと中板2bを作製する場合は、切削加工或いは射出成形により作製する。又、基部材2aと中板2bをステンレス鋼で作製する場合は、ステンレス鋼材に切削加工を施して、所望の形状及び寸法の基部材2aと中板2bを作製すれば良い。
【0062】
バックル1の構成部品の内、基部材2aと中板2bを、前記のようにそれぞれ金属ガラス、超硬合金、セラミックス、貴金属、金を含む合金の、何れかの材料で射出成形により作製することで、射出成形での一括製造が可能となる。従って、バックル1の量産性向上と低コスト化が可能となる。
【0063】
枠体2の基部材2a及び中板2bの形状が形成された金型を用意する際は、既に説明したような、基部材2a又は中板2bの断面形状、中板2bの曲面状の形状、梁2a2と中板2bの端部との接続部分の断面厚みT、基部材2aの平面形状、梁2a2の左右から中板2bを1つずつ左右対称に一体に伸長させる形態を、それぞれ形成した金型を用意する。基部材2aの平面形状をH型に成形することにより、基部材2aを左右対称な一対構造とすることが可能となるため、バックル1の製造が容易化される。
【0064】
又は、少なくとも金属ガラスを加熱し、加熱した金属ガラスに、少なくとも枠体2の基部材2a及び中板2bの形状が形成された金型を押圧して、粘性流動によるプレス成型により基部材2a及び中板2bを金属ガラスに転写し、転写後に金属ガラスを冷却して金型の押圧を解除し、金型を金属ガラスから離型し、金属ガラスを冷却して、基部材2a及び中板2bを一体成形した枠体2を作製しても良い。プレス成型においては金属ガラスを加熱し、被押圧材とする。
【0065】
金型はシリコン等で作製し、基部材2a及び中板2bの形状をシリコンの110面異方性エッチングにより形成する。シリコンの110面異方性エッチングにより形成した基部材2a及び中板2bの形状はその精度が高く、枠体2の製造にとって極めて有利な特徴を有する。金型には、得ようとする基部材2a及び中板2bの反転形状が形成される。
【0066】
転写装置は、熱間プレス及びプレス後の冷却が可能な装置とし、金型として例えば上型と下型を有する装置を使用すれば良い。上型に金型を取り付け、下型に被押圧材である金属ガラスを載置し、これらの上型及び下型を押圧して、金型の転写面形状(基部材2a及び中板2bの形状)を、金属ガラスに転写する。
【0067】
金属ガラスの加熱温度は、被押圧材となる金属ガラスのガラス遷移温度以上で且つ結晶化温度以下の温度に設定する(加熱工程)。非晶質相を主相とする金属ガラスの特性が損なわれる最も大きな要因としては、非晶質と見なされる相の結晶化が挙げられる。結晶化が開始されると共に、非晶質相(準安定相)から結晶相(安定相)への移行に伴う発熱が生じるが、このときの結晶化の駆動速度は極めて速く、瞬時に非晶質と見なされる相が消失する。そのため、被押圧材となる金属ガラスの加熱温度は、結晶化温度以下に設定する必要がある。
【0068】
転写工程の加重及び時間は、例えば30〜60MPの加重を、1分〜3分程度加える。
【0069】
上記実施の形態では、金型がシリコンの110面異方性エッチングにより形成されたものを利用した。しかし金型の転写面形状は、ステンレス鋼のダイヤモンドカッターを使った切削、又は石英ガラスのイオンエッチング、イオンミリング、或いは収束イオンビーム加工などにより形成しても良い。
【0070】
転写後に、金属ガラス及び金型を冷却して、金型の押圧を解除する。基部材2a及び中板2bに使用している金属ガラスのガラス遷移温度より低い温度で、基部材2a及び中板2bが転写された形状を保持出来る温度となった時に、金型の例えば上型を上方に引き上げて下型から引き離す(離型工程)。このようにして、冷却時の熱収縮による金属ガラスの金型への食いつきを最小限に抑える。前記上型は、金型が完全に金属ガラスから離れるまで引き上げるのが良い。冷却方法は特に限定されず、例えば上型及び下型を窒素ガスなどで冷却すれば良い。
【0071】
更に、金属ガラスを引き続き冷却して常温状態とし(冷却工程)、最後に、上型を完全に引き上げて、金属ガラスを転写装置の下型から取り出す。
【0072】
金属ガラスは、安定な過冷却液体温度域を有し、この過冷却液体温度域で完全ニュートン粘性流動を呈する非晶質合金である。過冷却液体温度域とは、結晶化温度Txとガラス遷移温度Tgとの差分ΔTx(=Tx−Tg)である。金属ガラスは、過冷却液体温度域においては低応力での粘性流動加工が可能であり、優れた微細成形特性(微細形状転写性)を有する。従って、過冷却液体温度域で金属ガラスを金型に押圧する転写成形によって、微細な構造体を高精度で作製することが出来る。なおガラス遷移温度は、金属ガラスの種類によって相違する。例えば、Pt系のPt48.75Pd9.75Cu19.5P22合金は、ガラス遷移温度Tg=502.3K、結晶化温度Tx=587.7K、過冷却液体温度域ΔTx=85.4Kである。
【0073】
なお、金属ガラス及び金型の加熱方法は特に限定されず、例えば赤外線ヒータ等で加熱することが出来る。また、酸化し易い金属ガラスの場合には、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気中、又は真空中で加熱するのが好ましい。
【0074】
次に枠体2に可動体3を可動可能に連結してバックル1を作製する。このバックル1を腕時計用途に使用する場合は、更に可動体3のピン孔3aに、腕時計のバンドの端部を連結ピン6で回転可能に取り付けて、腕時計を製造する(図9参照)。腕時計バンドの一例としては、図9に示すように、ピン止めで互いに連結された複数のバンド駒から構成される腕時計バンド5等を用いれば良い。
【0075】
バックル1では基部材2aと中板2bを一体成形して作製されているため、基部材2aと中板2bとの固定部分の弛みや破損等を解消することが可能となり、常にバックル1の閉じ込みによる施錠を正常な状態に保持することが出来る。従って、バックル1を腕時計に使用することにより、腕の動きによるバックル1の不意な開きによる解除が防止され、腕時計バンド5の緩みによる腕時計の腕からの抜け落ちを防止することが可能となる。
【0076】
なお、本発明に係るバックル1は腕時計用途に限定されず、例えば、ブレスレット、ネックレス等のバンドにも適用することが出来る。
【0077】
また本発明は、前述の実施形態に限定するものでは無く、特許請求の範囲の各項に記載された内容から逸脱しない範囲の構成による実施が可能である。即ち本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱すること無く、以上述べた実施形態に対し、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることが出来るものである。
【符号の説明】
【0078】
1 バックル
2 枠体
2a 基部材
2a1 枠部材
2a2 梁
2a3 ピン孔
2b 中板
2c 枠体の上面
3 可動体
3a、3e ピン孔
3b バンド連結部
3c 開口部
3d 可動体の上面
4、6 連結ピン
5 腕時計バンド
図1
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