【実施例】
【0043】
以下、実施例により、本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0044】
<実施例1>
第一実施形態のチタノシリケートの製造方法において、第一工程〜第五工程を経たUZM−35
FAU粒子サンプル([Ti]−UZM−35
FAUcal)を作製した。具体的には、次の手順によって作製した。
【0045】
(第一工程)
内容積180mlの容器に、構造規定剤Me
2Pr
2N
+OH
−水溶液(1.402mmol/g)を12.1g入れて2分間攪拌した。ここに、KOH水溶液(5.792mmol/g)を2.49g、NaOH水溶液(6.014mmol/g)を2.27g、コロイダルシリカ(Ludox AS40)を10.695g加え、加熱しながら120分間攪拌した。続いて、シードとして別途合成した[Al]−MCM−68(未焼成)を0.30g加え、5分間攪拌した。さらに、別途合成したFAU型ゼオライト(東ソー株式会社製、(Si/Al)
HF=5.3、SiO
2=65.3wt%、Al
2O
3=10.3wt%)を2.445g加え、5分間攪拌した。
【0046】
調製したゲルの入った容器を、そのままステンレス製オートクレーブに装着し、160℃のオーブン中で68時間(約3日間)静置した。得られた生成物をろ過・水洗し、その後、室温で乾燥させて白色粉末3.958gを得た。
【0047】
(第二工程)
得られた白色粉末を全て焼成皿に入れ、マッフル炉を用いて、空気雰囲気下において、室温より約0.8℃/minで500℃まで昇温し、500℃で10時間保持した後に、放冷して[Al]−UZM−35
FAU結晶(白色粉末、3.14g)を得た。
【0048】
(第三工程)
焼成して得られた[Al]−UZM−35
FAU結晶のサンプル2.023gを、ガラス製のナス型フラスコに入れ、ここに濃硝酸水溶液(市販品・濃度13.4M)83.33gを加えて還流し、148℃の油浴で加熱しながら24時間攪拌した。その後、サンプルを濾過し、濾過されてくる濾液が中性になるまで蒸留水で洗浄し、室温で乾燥して、脱アルミ状態の[Al]−UZM−35
FAU結晶(白色粉末1.551g)を得た。この時点で、結晶中の一部のアルミニウムが除去され、試料中のアルミニウムの含有比量は、0.012mmol/gとなった。
【0049】
(第四工程)
図1のチタン処理装置10を用いて、UZM−35の骨格のうち、アルミニウムが除去されたサイトにチタンを導入した。
【0050】
まず、酸処理したUZM−35の結晶Sを、石英ウールで囲み、石英ウールを介してガラス管11の内部に固定した。
【0051】
続いて、アルゴンガスが直接ガラス管11に向かうように流路を切り換え、ガラス管11内にアルゴンガスを流通させた状態で、UZM−35結晶Sの加熱を行った。加熱温度を500℃とし、加熱時間を4時間とした。流通させるアルゴンガスの流速は、30mL/minとした。
【0052】
続いて、アルゴンガスがチタン源の容器14を経由してガラス管11に向かう流路に切り替え、ガラス管11内に、アルゴンガスおよびチタン源となる気相の四塩化チタンを流通させた状態で、UZM−35結晶Sの加熱を行った。加熱温度を600℃とし、加熱時間を1時間とした。流通させるアルゴンガスの流速は、30mL/minとした。また、四塩化チタンの流速は、2.2mL/minとした。
【0053】
続いて、不活性ガスが直接ガラス管11に向かうように流路を切り換え、加熱温度、加熱時間は変えずに、再びガラス管11内に不活性ガスを流通させることにより、UZM−35結晶S中に残存する未反応のチタン源を除去した。
【0054】
最後に、結晶Sを室温まで放冷し、蒸留水で洗浄し、約80℃のオーブン中で乾燥させた。
【0055】
上述した工程処理によって、アルミノシリケートUZM−35の基本骨格を有し、Alの一部がTiに置き換わったチタノシリケート[Ti]−UZM−35
FAUを合成することができた。合成されるチタノシリケートの骨格内において、シリコンとチタンのモル比(Si/Ti)は50以上であった。
【0056】
(第五工程)
合成した[Ti]−UZM−35
FAUに対して、さらに焼成を行った。具体的には、空気雰囲気下において、室温より約1℃/minで650℃まで昇温し、650℃で4時間保持し、最後に放冷した。
【0057】
<実施例2>
第一実施形態のチタノシリケートの製造方法において、第一工程〜第四工程を経たUZM−35
FAU粒子サンプル([Ti]−UZM−35
FAU)を作製した。具体的な作製手順については、実施例1の第一工程〜第四工程と同様とした。
【0058】
<比較例1>
第一実施形態のチタノシリケートの製造方法において、第一工程〜第三工程を経たUZM−35
FAU粒子サンプル(deAl−UZM−35
FAU)を作製した。具体的な作製手順については、実施例1の第一工程〜第三工程と同様とした。
【0059】
<比較例2>
第一実施形態のチタノシリケートの製造方法において、第一工程〜第二工程を経たUZM−35
FAU粒子サンプル([Al]−UZM−35
FAUcal)を作製した。具体的な作製手順については、実施例1の第一工程、第二工程と同様とした。
【0060】
<比較例3>
第一実施形態のチタノシリケートの製造方法において、第一工程を経たUZM−35
FAU粒子サンプル([Al]−UZM−35
FAUas)を作製した。具体的な作製手順については、実施例1の第一工程と同様とした。
【0061】
[X線回折パターンの評価]
実施例1、2、比較例1〜3のサンプルについて、X線回折(XRD)の分析を行った。分析結果を示す回折パターンを、
図1のグラフに示す。グラフの横軸は回折角度を示し、縦軸は回折強度を示している。上段側から下段側に向かって順に、実施例1、2、比較例1〜3のサンプルの回折パターンが並んでいる。いずれのサンプルにおいても、同様のXRDパターンが得られており、各工程の前後で高い結晶性が維持されていることが分かる。
【0062】
<比較例4>
MCM−68を基本骨格とする従来のチタノシリケートの製造方法において、第一工程〜第五工程を経たMCM−68粒子サンプル([Ti]−MCM−68cal)を作製した。具体的には、次の手順によって作製した。
【0063】
(第一工程)
内容積180mlの容器に、コロイダルシリカ(Ludox AS40)を15.02g、水を20.03g入れて10分間攪拌した。ここに、Al(OH)
3を0.780g、KOH水溶液(6.201mmol/g)を0.647g入れて30分間攪拌した。続いて、構造規定剤としてのTEBOP
2+(I
−)
2を5.583g、純水を20.30g加え、2分間攪拌した。続いて純水20.03gを加え、240分間攪拌した。
【0064】
調製したゲルの入った容器を、そのままステンレス製オートクレーブに装着し、160℃のオーブン中で16日間静置した。得られた生成物をろ過・水洗し、その後、室温で乾燥させて白色粉末5.804gを得た。
【0065】
(第二工程)
このうち5.143gを焼成皿に入れ、マッフル炉を用いて、空気雰囲気下で室温より約1℃/minで650℃まで昇温し、650℃で10時間保持した後に、放冷して[Al]−MCM−68結晶(白色粉末、4.522g)を得た。
【0066】
(第三工程)
焼成して得られた[Al]−MCM−68結晶のサンプル3.503gを、ガラス製のナス型フラスコに入れ、ここに濃硝酸(市販品・濃度13.4M)を145.8g加えて油浴温度130℃で加熱還流しながら24時間攪拌した。その後、サンプルを濾過し、濾過されてくる濾液が中性になるまで蒸留水で洗浄し、室温で乾燥して、脱アルミ状態の[Al]−MCM−68結晶(白色粉末3.0580g)を得た。この時点で、結晶中の一部のアルミニウムが除去され、試料中のアルミニウムの含有比量は、0.025mmol/gとなった。
【0067】
(第四工程)
実施例1と同様に、
図1のチタン処理装置10を用いて、MCM−68の骨格のうち、アルミニウムが除去されたサイトにチタンを導入した。
【0068】
まず、酸処理したMCM−68の結晶Sを、石英ウールで囲み、石英ウールを介してガラス管11の内部に固定した。
【0069】
続いて、アルゴンガスが直接ガラス管11に向かうように流路を切り換え、ガラス管11内にアルゴンガスを流通させた状態で、MCM−68結晶Sの加熱を行った。加熱温度を500℃とし、加熱時間を4時間とした。流通させるアルゴンガスの流速は、30mL/minとした。
【0070】
続いて、アルゴンガスがチタン源の容器14を経由してガラス管11に向かう流路に切り替え、ガラス管11内に、アルゴンガスおよびチタン源となる気相の四塩化チタンを流通させた状態で、MCM−68結晶Sの加熱を行った。加熱温度を600℃とし、加熱時間を1時間とした。流通させるアルゴンガスの流速は、30mL/minとした。また、四塩化チタンの流速は、2.2mL/minとした。
【0071】
続いて、不活性ガスが直接ガラス管11に向かうように流路を切り換え、加熱温度、加熱時間は変えずに、再びガラス管11内に不活性ガスを流通させることにより、UZM−35結晶S中に残存する未反応のチタン源を除去した。
【0072】
最後に、結晶Sを室温まで放冷し、蒸留水で洗浄し、約80℃のオーブン中で乾燥させた。
【0073】
上述した工程処理によって、アルミノシリケートMCM−68の基本骨格を有し、Alの一部がTiに置き換わったチタノシリケート[Ti]−MCM−68を合成することができた。合成されるチタノシリケートの骨格内において、シリコンとチタンのモル比(Si/Ti)は50以上であった。
【0074】
(第五工程)
合成した[Ti]−MCM−68に対して、さらに焼成を行った。具体的には、空気雰囲気下において、室温より約1℃/minで650℃まで昇温し、650℃で4時間保持し、最後に放冷した。
【0075】
<比較例5>
MCM−68を基本骨格とする従来のチタノシリケートの製造方法において、第一工程〜第四工程を経たMCM−68粒子サンプル([Ti]−MCM−68)を作製した。具体的な作製手順については、比較例4の第一工程〜第四工程と同様とした。
【0076】
[Ti配位状態の評価]
実施例1、2、比較例4、5のサンプルにおけるTiの含有率は、それぞれ、0.352mmol/g、0.351mmol/g、0.217mmol/g、0.209mmol/gであった。これらのサンプルについて、DR/UV−vis測定を行い、Ti配位状態を評価した。測定したDR/UV−Visスペクトルを、
図3のグラフに示す。グラフの横軸は波長(nm)を示し、縦軸はKubelka−Munk関数を示している。グラフ中の(a)〜(d)のDR/UV−Visスペクトルは、それぞれ、実施例1、2、比較例4、5のサンプルに対応している。
【0077】
波長が200〜230nmの領域は、骨格内の4配位Tiに相当する吸収を示す領域である。波長が250〜290nmの領域は、骨格外の5配位ないし6配位Tiに相当する吸収を示す領域である。
【0078】
実施例1、2のサンプルに対応するDR/UV−Visスペクトルが、いずれも、比較例4、5のサンプルと同様に、波長が200〜230nmの領域にピークを有している。この結果から、UZM−35を基本骨格としてチタノシリケートを合成した場合であっても、骨格内にチタンが正しく導入されていることが分かる。
【0079】
<比較例6>
チタニウムシリカライト−1(TS−1)は、その品質に基づき、触媒学会がアジア参照触媒(Asia Reference Catalyst; ARC)として指定しているものを用いた。
【0080】
[フェノール酸化反応に対する触媒性能の評価]
実施例1、2、比較例4〜6のサンプルを触媒とする、下記の化学反応式(化1)に示すフェノール酸化反応の実験を行った。
【0081】
【化1】
【0082】
実験の具体的な手順について説明する。初めに、ガラス製耐圧容器中で、触媒20mg、フェノール2.00g(21.25mmol)、過酸化水素水(30wt%)0.48g(4.25mmol)を混合し、100℃で10分間撹拌した。反応終了後、容器を氷冷しつつ、スルホラン2.0g(16.64mmol)で希釈した。内部標準物質として、アニソール0.225g(2.080mmol)を加えてよく混合した後、遠心分離(1000rpm、10分)により、反応液と触媒を分離した。
【0083】
次いで、上澄み液約100mgに過剰量の無水酢酸(約0.4g)および炭酸カリウム(約0.6g)を加え、反応液全体を約20〜30℃に保ちつつ時々振動させながら20分間置くことにより、存在するフェノール系化合物を徹底的にアセチル化した。その後クロロホルムで希釈し、ガスクロマトグラフ装置(島津製作所製GC−2014、検出器:FID、カラム:DB−1 0.25mm×30m×1.00μm)を用いて分析した。また、未反応の過酸化水素を定量するために、2.0mol/L塩酸水溶液50mLに遠心分離の上澄み液0.5gとヨウ化カリウム0.8gを加え、約0.1mol/Lの正確な濃度のチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定した。
【0084】
上記分析の結果、ヒドロキノン(二価フェノールのパラ異性体)HQ、カテコール(二価フェノールのオルト異性体)CL、HQがさらに酸化されたパラベンゾキノンp−BQが検出された。
【0085】
この実験における各サンプルのTiの含有量(Ti content)、触媒回転数(TON)、収率(yield)パラ体の選択率(p−sel.(%))、H
2O
2の転化率(H
2O
2(%)conv.)、H
2O
2の有効利用率(H
2O
2(%)eff.)について、表1に示す。(eff.はEfficiencyの短縮形。)
【0086】
【表1】
【0087】
表1では、上段側から下段側に向かって順に、実施例2、実施例1、比較例5、比較例4、比較例6のサンプルでの結果を示している。いずれのサンプルにおいても、HQが主生成物であり、少量が過剰反応でp−BQとなっており、また、CLも少量生成されていることが分かる。
【0088】
HQ、p−BQ、CLの収率の和を、total(トータル収率)として示している。また、パラ体の選択率を、HQとp−BQの和をtotalで割ったものとして示している。TON(触媒回転数)は、トータルの生成物の物質量(モル数)を、Ti活性点のモル数で割ったものである。つまり、TONは、反応開始から反応終了まで(ここでは10分間)に、触媒サイクルが何回回転したかの指標となるものである。
【0089】
H
2O
2(%)eff.(H
2O
2有効利用率)は、過酸化水素の有効利用率であり、過酸化水素中の酸素が、どの程度の効率でフェノール酸化に関わったかを示す指標となるものである。
【0090】
実施例1、2のサンプルは、いずれも十分なフェノール酸化活性およびパラ選択性を示している。特に、Ti導入後に焼成を行った実施例1のサンプルでは、TONが実施例2のサンプルの3倍以上も向上しており、チタニウムシリカライト−1を用いた比較例6のサンプルの性能を大きく上回り、さらに、MCM−68を基本骨格とする比較例5のサンプルとも同等の性能を有していることが分かる。
【0091】
図4は、実施例1、比較例4、6のサンプルのフェノール酸化反応実験における、Tiの収率(yield)の経時変化を示すグラフである。
【0092】
MCM−68を基本骨格とする比較例4のサンプルでは、初期活性が高いが、反応時間が10分を超えると、過剰反応により、収率が減少に転じている。これに対し、UZM−35
FAUを基本骨格とする実施例1のサンプルでは、約40分まで収率が単調増加し、40分以降での収率は、比較例4の収率を上回ると考えられる。比較例6のサンプルは、初期活性が低く、少なくとも50分程度までは、実施例1での収率を下回ると考えられる。
【0093】
図5は、実施例1、比較例4、6のサンプルのフェノール酸化反応実験における、パラ体の選択率(p−Sel.(%))の経時変化を示すグラフである。実施例1のサンプルは、パラ体の選択率が比較例6のサンプルより20%程度高く、比較例4のサンプルと同程度の高い値を維持していることから、時間的に安定した触媒機能を発揮し得るものであることが分かる。