(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記圧電振動子と、媒体である淡水または海水との音響整合を取るための少なくとも2層の前記音響整合層が配置され、前記音響整合層の形状が、前記圧電振動子よりも大きい請求項2記載の水産物養殖装置。
前記外ケースには、内部に少なくとも2種類の周波数を発生する円板、リング状、または矩形板の前記圧電振動子が配置され、前記超音波振動子の基本波周波数は、0.1MHz〜10MHzの範囲である請求項2記載の水産物養殖装置。
前記超音波はパルス波であり、その繰り返し周波数は1000Hz〜0.5Hz、Duty factorは10〜60%であり、これらの少なくとも1つの前記超音波振動子を、中空角錐容器の側面部に配置した請求項1記載の水産物養殖装置。
前記請求項1乃至9のいずれかに記載の水産物養殖装置を備え、水産物を収容可能で、海水または淡水を入れた水槽と、前記水槽の水面または水中の少なくともいずれかに、前記水産物養殖装置が設けられ、前記水槽中の水中に前記音響波を照射可能に設けられたことを特徴とする水産物養殖システム。
前記水槽表面は、表面積の少なくも80%以上に、前記音響波を反射及び散乱させるための音響波反射率が90%以上の音響波反射材料の音響波反射層が設けられている請求項10記載の水産物養殖システム。
前記音響波反射層はシートからなり、その少なくとも表面または裏面が有機フィルムで被覆され、その厚みが0.05〜1.0mmであり、内面には90体積%以上の気体を含む有機材料を備えた請求項10または11記載の水産物養殖システム。
前記水産物養殖装置により、水中の前記水産物の総重量に対して20mW/kg〜1W/kgの超音波強度(Isata)の超音波を与えて、前記水産物に音響波刺激を施して養殖を行う請求項16記載の水産物養殖方法。
前記水産物養殖装置により、10〜60分/日、1〜7日/週、且つ1〜50週間、連続または間欠的に、前記音響波を前記水中の水産物に照射する請求項16または17記載の水産物養殖方法。
前記水産物養殖装置の可聴音のスピーカ、または携帯電話から水産物の活動を活発にする周波数と強度の音響波を出して養殖を行う請求項16乃至18のいずれか記載の水産物養殖方法。
【背景技術】
【0002】
従来、魚類、甲殻類、貝類等の水産物の養殖による生産が種々行われている。一方、2100年には世界人口が110億人になると予想され、22世紀の大きな課題の一つは食糧不足である。従って、養殖漁業から得られる魚類タンパク質の安定的な生産は重要な課題であり、大幅な食糧増産が期待されている。アジアでは過去30年間で特に水産物消費量が増えており、特に日本は、人口が5000万人を超える国の中では一人当たりの水産物消費量は世界一である。しかし、これまでの養殖漁業における水産物の増産方法の改善は、餌の開発と、水温・水流の改善、遺伝子組み換え、ウイルス対策が主体であり、大幅な生産性の向上を期待できるものではなかった。
【0003】
そこで、養殖漁業の生産性をより向上させる増産方法として、これまでとは異なるものもいくつか提案されている。例えば、特許文献1には、海中の生け簀で浮遊するブイの上面に太陽電池を設け、太陽電池の出力が蓄電池に供給され、水と接する超音波発振子にその蓄電池の出力が接続されている魚貝類育成用超音波発信器が開示されている。この蓄電池には太陽電池による電力が蓄積され、その電力により超音波発振子から昼夜を問わず水中に微弱な超音波を発振し、魚貝類の成長を促進させるものである。また、水と接する超音波発振面が銅で覆われ、銅イオンの殺菌作用により、超音波発振子の超音波発振面に藻等が付着しないようにしたものである。
【0004】
特許文献2には、金魚等の水生動物に対して化合物の薬剤を、超音波を媒介して投与する方法が開示されている。この方法は、短時間の超音波処理により、養殖している魚類の病気を予防し、感染を防止するもので、例えば、ウイルス性疾病を、浸漬ワクチンを用いて治療する際に、ワクチンを入れたビーカ中で1MHz、1.7W/cm
2の強度の超音波を10〜15分間放射するものである。その結果、ゴナドトロピン放出ホルモン類似体を、水を介して投与した場合に、魚の皮膚を通過したゴナドトロピン放出ホルモン類似体の吸収を大幅に改善することができる。
【0005】
また、特許文献3の魚介類の養殖方法は、10〜30MHzの超音波を魚介類に照射し、旋回式気泡発生装置を用いて20μm以下のマイクロバブルを発生させて養殖を行うものである。これにより、養殖する魚介類の成長率及び飼料効率が改善することが開示されている。
【0006】
特許文献4は、短時間の超音波処理により、養殖している魚類の病気を予防し感染を防止する疾病治療装置及び方法を開示し、特に高濃度溶存酸素水中で超音波を養殖魚に放射するとともに、ワクチン処理を施すものである。これにより、養殖魚に対して、ウイルス病予防の浸漬ワクチンを効率よく吸収させ、死亡率を改善するものである。
【0007】
さらに、特許文献5は超音波振動子として複数の圧電振動子を用いたもので、水産物を養殖している水面または水中に移動可能に位置する容器と、容器に取り付けられた複数の超音波振動子を有し、各超音波振動子は超音照射方向が互いに異なり、容器は、水面または水中で移動しながら、水産物に偏りなく超音波を放射する水産物養殖装置を開示している。さらに、音響インピーダンスが3MRayls以上、50MRayls以下の材質からなる材質の側面を持つ水槽を用いて、水産物を養殖する水産物養殖方法であって、注水された水槽中に、超音波振動子を有する水産物養殖装置を入れ、超音波振動子から超音波を発生させ、水中の水産物に超音波を放射する水産物養殖方法を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記背景技術の特許文献1〜4に開示された方法の場合、使用する超音波発生器は、超音波の放射方向を適宜変えて制御するものではなく、大形の養殖水槽中で超音波を幅広く均一に照射することができないという問題がある。さらに、特許文献3に開示された方法の場合、旋回式気泡発生装置を用いて20μm以下のマイクロバブルを発生させるものであるが、10〜30MHzの超音波を安定して発生させることは困難である。また、超音波の放射方向を制御することが出来ず、さらに10MHz以上の超音波は、酸素の多い水中では容易に減衰し、その音響強度を保持することが難しいという問題もある。
【0010】
その他、低周波のスピーカを用いて水産物に音波を照射する方法もあるが、この場合、水中に支持棒に固定して浸漬させ音波を発生させるもので、その音波の方向を容易に変えることは出来ない。このために水槽内の魚に均一に幅広く音波を照射することは困難であり、水槽に音波照射装置を複数台設置する必要性があり、経済性が劣る。さらに、池や水槽の底部に集積する傾向の水産物であるヒラメ、エビ、貝類ではその効果が小さいという問題点がある。また、重要な音波振動回路部品が水中にあるために浸水の恐れがあり、装置の点検及び維持管理が困難である。
【0011】
以上述べたように、これまで知られている音波や超音波照射による養殖装置や疾病予防装置は、実験用の0.5m
3以下の水槽や、1〜100m
3の量産用の大形水槽や池、網で仕切られた海中に適応する際のいずれに適用した場合にも、種々の問題がある。例えば水槽の側面や底面に振動子や装置を固定して使用する場合は、
図11に示すように、超音波振動子
20から音響整合層22を介して外ケース12の外表面から照射される超音波は、その照射方向及び範囲が一定である。さらに、音響強度が超音波振動子20が対面した方向にのみ強く、超音波振動子20から発振されたままの高強度音響波19が直接照射されてしまい、水槽内で音響強度を均一にすることが出来ないものである。また、水槽の隅や底部に集積した養殖魚29に対して、有効に且つ均一に超音波を放射することが出来ず、集積した他の養殖魚の影になって超音波が届かないこともある。
【0012】
その他、これまでに報告されている養殖漁業に用いられている超音波は、その周波数が20KHz〜100KHzであり、水中における波長は8cmから1.5cmと長く、魚の胴体部の平均直径が10cm以下の養殖魚や甲殻類の小形水産物、魚卵や稚魚を、音響波刺激を用いて効率よく増産するには適していない。
【0013】
一方、特許文献5は、容器内での超音波振動子の配置角度を異なるものにして2枚以上配置した浮揚式の超音波水産物養殖装置を開示している。この装置は、水槽内にくまなく超音波を照射することができるが、超音波を水槽内で幅広くほぼ均一に分布させて照射することは困難であり、水槽内の超音波強度にバラツキが生じる問題が残る。
【0014】
この発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な構造の装置により、
音響波を水槽内で広範囲に照射して、養殖している魚類、甲殻類、貝類の抵抗力を向上させて生存率を向上させ収穫量を上げ、さらに再現性良くこれを行うことができる水産物養殖装置と水産物養殖システム及び水産物養殖方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
はじめに、音波とは通常は20kHz以下、超音波とは20kHz以上と定義されている。一例として、基本波が例えば1MHzの超音波では基本の波長は1μsでその水中波長は約1.5mmである。しかしながら、パルス駆動を用いることで音波に近い、20kHz以下の音を作り出すことが出来る。例えばduty factorが20%でパルス繰り返し周波数(PRF)が1kHz(1ms)の超音波は反応速度が遅い生体細胞に対しては1kHzの音波刺激を受けたのと同等な反応を示すと考えられる。生体細胞の反応速度は神経系統の伝達速度に近い数msであり、例えば1MHz超音波の波長の1μsの速さでは、生体細胞は追随出来ないと考えられる。本発明では、パルス駆動の超音波
を音響波という。
【0016】
このような低強度パルス超音波(Low intensity pulse ultrasounds, LIPUS)の刺激により、特に動物の骨の生体細胞である骨芽細胞の増殖が活性化され、骨折治療が促進されることは医学界では良く知られている。本発明はこの原理を水産物の養殖に利用したものである。
【0017】
本発明は、養殖している水産物に、音波及び超音波の少なくともいずれかである音響波を照射する水産物養殖装置であって、前記音響波を発生可能な超音波振動子と、この超音波振動子を駆動する駆動部と、前記超音波振動子及び前記駆動部を保持した外ケースとを備え、前記超音波振動子から発せられる高強度音響波が放射される前面側に、前記高強度音響波を拡散させるとともに、単位面積当たりの強度が前記高強度音響波よりも弱い低強度音響波に変換し広範囲に照射させる音響波
散乱材料から成る音響波拡散層を備えた水産物養殖装置である。
【0018】
前記超音波振動子は圧電振動子であり、前記音響波拡散層は、気体及び気体を90体積%以上含む発泡樹脂を含む層により構成されるもので
もよい。前記発泡樹脂は、例えば発泡ポリスチレン、発泡ポリウレタン、または発泡ゴムである。
【0019】
本発明の前記音響波拡散層の前記音響波
散乱材料は、金属製の網により構成され、その網目の大きさが、使用する超音波の水中波長λのλ〜λ/10である。
【0020】
前記音響波拡散層は、前記外ケース中または前記外ケース外の音響整合層の内部、または前記外ケースの外側に配置されたものである。
【0021】
さらに、前記圧電振動子と、媒体である淡水または海水との音響整合を取るための少なくとも2層の前記音響整合層が配置され、前記音響整合層の形状が、前記圧電振動子よりも大きいものでも良い。また、前記外ケースには、内部に少なくとも2種類の周波数を発生する円板、リング状、または矩形板の前記圧電振動子が配置され、前記超音波振動子の基本波周波数は、0.1MHz〜10MHzの範囲である。
【0022】
前記水産物養殖装置の超音波振動子は、鉛を用いない圧電材料を使用することが好ましい。前記超音波はパルス波であり、その繰り返し周波数は1000Hz〜0.5Hz、Duty factorは10〜60%であり、これらの少なくとも1つの前記超音波振動子を、中空角錐容器の側面部に配置したものでも良い。
【0023】
また、着脱可能な携帯型電子機器、または可聴音の音楽、摂餌音、或いは遊泳音を発生させる音響発生装置を有するものでも良い。
電源として充電式の電池を備え、前記駆動部は前記電池により動作可能であり、防水機能を有するとさらに良い。
【0024】
またこの発明は、前記水産物養殖装置を備え、水産物を収容可能で、海水または淡水を入れた水槽と、前記水槽の水面または水中の少なくともいずれかに、前記水産物養殖装置が設けられ、前記水槽中の水中に前記音響波を照射可能に設けられた水産物養殖システムである。
【0025】
前記水槽内面は、表面積の少なくも80%以上に、音響波を反射及び散乱させるための音響波反射率が90%以上の音響波反射材料の音響波反射層が設けられている。さらに水槽内面または外面材料は、気体層及び気体を含む有機材料である発泡材料で構成されていると良い。
【0026】
前記音響波反射材料はシートからなり、その少なくとも表面または裏面が有機フィルムで被覆され、その厚みが0.05〜1.0mmであり、内面には90体積%以上の気体を含む有機材料を備えるものである。前記の音響
波反射材料の表面の有機フィルムが、フッ素樹脂、PET、またはナイロンであり、内部に気体層または発泡ポリスチレン、発泡ポリウレタン、または発泡ゴムを含むものである。
【0027】
さらに、前記水産物養殖システムは、直径0.01〜10mmの空気バブルを水中に放出しながら使用すると良い。また、前記水槽中の海水または淡水の温度を2℃から30℃に設定可能な温度制御装置を備えるものである。
【0028】
またこの発明は、前記水産物養殖装置を用いる水産物養殖方法であって、前記水産物養殖装置を、水産物を収容可能で海水または淡水を入れた水槽中の水に浮かせて自由に揺動させ、前記水産物養殖装置から前記音響波を発生させて前記水槽の壁面で反射させ、水中の水前記産物に音響刺激を施す水産物養殖方法である。
【0029】
前記水産物養殖装置により、水中の前記水産物の総重量に対して20mW/kg〜1W/kgの超音波強度(Isata)の超音波を与えて、前記水産物に音響波刺激を施して養殖を行うものである。さらに前記水産物養殖装置により、10〜60分/日、1〜7日/週、且つ1〜50週間、連続または間欠的に、前記音響波を前記水中の水産物に照射するものである。
【0030】
また、前記水産物養殖装置の可聴音のスピーカ、または携帯電話から水産物の活動を活発にする周波数と強度の音響波を出して養殖を行うものでも良い。前記水産物は、魚類、甲殻類の卵、稚魚及び成魚である。
【発明の効果】
【0031】
本発明の水産物養殖装置と水産物養殖システム及び水産物養殖方法は、軽量で小型の装置であって、簡単な構造で安価且つ安全に、水槽内で低強度音響波エネルギーを有効に、より均一に広い面積に照射することが出来る。これにより、超音波刺激の効果としての血流促進、骨成分の増強、成長率向上、生存率の向上、収穫量増加などを、効率的に広範囲に実現することが出来る。特に、疾病の治療と予防に重要な血液やリンパ液は、人体と同様に魚類でも主に骨の骨髄で製造されていると考えられているので、この発明の水産物養殖装置によれば、特に造血作用を有する背骨に有効に音響波を照射することができる。
【0032】
また本発明の水産物養殖装置と水産物養殖システム及び水産物養殖方法により、骨等に低強度音響波刺激を施し、水産物の生体の活性化と生命力の向上、ウイルス耐性向上、生存率向上等を実現して、養殖している水産物の収穫量増加を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1はこの発明の第一実施形態を示すもので、この実施形態の水産物養殖装置10は、基本的な構成を示し、水密構造の外ケース12を備え、その内部に基板14を有し、その上には駆動部15を構成する電池等の電源16及び制御回路17を有する。基板14の図示しない端子には、リード線18が接続され、超音波振動子20の図示しない端子に接続されている。超音波振動子20は、音響整合層22と図示しない保護フィルムを介して外ケース12に取り付けられ、外ケース12の表面から高強度音響波19が放射可能に設けられている。
【0035】
外ケース12の超音波振動子20が取り付けられた部分の外側には、音響波散乱材料により形成された音響波拡散層24が設けられている。音響波拡散層24は、水の音響インピーダンスとの差が大きいもので、金属部材の金網や空気を含む樹脂が好ましい。音響波拡散層24により、高強度
音響波19が、相対的に単位面積当たりの強度が高強度
音響波19よりも弱い強度の低強度
音響波21に制御され、広く拡散し広範囲に照射される。音響波散乱材料は、例えば金属製の多孔質材料や金網から構成され、多孔質材料の空隙の平均値や、金網の網目の大きさである目開きは、使用する超音波の水中波長λに対してλ〜λ/10である。また、低音響インピーダンスの発泡樹脂を用いることも出来る。また、外ケース12の上部には、音響機器26を着脱自在に保持する固定可能な支持台28を備えていても良い。
【0036】
超音波振動子20は、電圧を加えると振動して超音波を発振する圧電素子であり、厚み振動や広がり振動を用いる。発振する超音波の共振周波数は、0.1MHz以上、10MHz以下である。しかしながら、超音波振動子20は基本波の周波数成分のみならず、その高調波も発生しており、これらも有効に利用される。超音波振動子20の圧電素子は、主に電気機械結合係数が大きく、安価に入手出来るPZT系セラミックス振動子が選択される。また、高性能のリラクサ系の圧電単結晶を用いることも出来る。しかしながら、これらの鉛系圧電振動子は環境に影響を与える酸化鉛を50%以上含むため、装置が壊れた場合には回収して適当な処理を行う必要性がある。従って、ニオブ酸アルカリ塩を主体とするセラミックス材料や水晶、リチウムタンタレート単結晶、リチウムナイオベート単結晶などの非鉛系圧電材料を用いると良いものである。超音波振動子20は、照射方向とは反対側の面に、医用画像診断装置のプローブで通常に用いられている図示しない音響バッキング層や、放熱用のリードなどが設けられていても良い。
【0037】
この実施形態の水産物養殖装置10の使用方法は、
図1に示すように、水産物である養殖魚29の入った水槽内(図示せず)に、出来るだけ広範囲に均一に低強度音響波21が照射されるように、音響波拡散層24を用いてその強度を分散し、更に水槽及び水面からの反射波を利用して水産物に低強度音響波刺激を行う。
【0038】
水産物養殖装置10の使用時の音響波強度は適宜設定することができ、例えば
図2に示すように、時間とともに徐々に強度を上げた後、緩やかに強度を落とすようにしても良く、
図3に示すように、パルス状に発振を行い、緩やかに音響波の強度を上げて、同様に緩やかに強度を落とすように照射しても良い。さらに、音響波強度の変化は、使用する超音波パルスの繰り返し周波数(PRF)を変化させたり、振幅を時間とともに変更しても良い。特に、発振する超音波を
図3に示すように変化させ、周波数が一定で出力レベルを変化させることにより、結晶成長の原理を利用して骨や筋肉の成長を高める効果を有する。
【0039】
なお、この水産物養殖装置10による低強度
音響波21の照射範囲を制御するために、医療用超音波診断装置の超音波プローブに用いられるような原理を利用して音響レンズ等を用いてもよい。この場合は水よりも音速が大きなアクリル樹脂などを用いて凸面形状とすることが望ましい。超音波は、照射を間欠的に行うパルス波を用いることが好ましい。パルス波は、例えば周期0.001〜2秒(周波数が0.1KHzから0.5Hz)でDuty factorが10〜60%の音響波を使用する。超音波の波形は、サイン波や矩形波、三角波など各種の波形の超音波を用いることができる。しかしながら好ましくは、そのPRFが心臓パルスに近い周期0.5〜2秒(2Hzから0.5Hz)、Duty factorは10〜50%が良い。特に好ましいPRFは、心拍数に近い周期1秒(1Hz)前後から、骨折治療促進で利用実績のある周期1ms(1000Hz)前後で、音楽などの可聴音を組み合わせて使用することである。この範囲のPRF、及びDuty factorを用いることで水産物の生体細胞を短期間でより活性化させることが出来る。
【0040】
低強度音響波21の
超音波強度(Isata)は、その水産物の総重量あたり20mW/kgから1W/kgで良い。20mW/kg以下では、骨や皮膚、筋肉に関連した成長や修復、活性化、生存率に与える効果が30週間以上経過後でも極めて小さい。また1W/kg以上では長時間の暴露では水産物に有害である恐れがあるばかりでなく、装置が大型化するためである。好ましくは、この水産物養殖装置10の音響強度は、水産物の総重量あたり50〜300mW/kgである。
【0041】
水産物養殖装置10に、更に20〜2000Hzの可聴音を発生するスピーカ等の音波装置が設けられてもよい。この可聴音は音楽や摂餌音、遊泳音が適当である。また、水産物養殖装置10に、積算時間計、稼働点滅表示、警報音、通信機能及びビデオ、水産物の異常確認用カメラ、音波発生用スピーカなどの機能をつけておいても良い。
【0042】
これらの装置から放射された音響波は水産物内部の軟組織である皮膚、脂肪、筋肉を通過し、大部分は硬組織である骨に到達し、骨に伝達されて減衰し、熱エネルギーに変換される。これにより、骨に刺激を与え、骨芽細胞等の増植に貢献する。可聴音の音楽等を出すスピーカから出される摂餌音、遊泳音などにより、必要な運動量を増加させ肉質改善を行うことも可能であり、種々の使い方が可能である。
【0043】
次に、この発明の第二実施形態の水産物養殖装置30について。
図4を基にして説明するここで、上記実施形態と同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。
図4はこの実施形態の水産物養殖装置30の音響波を水産物である養殖魚29に照射した状態の模式図を示す。この実施形態の水産物養殖装置30の構造は、外ケース12の内面には超音波振動子20が、第一音響整合層31、第二音響整合層32を介して固定されている。第2音響整合層32の内部には、超音波振動子20と対面するように、音響波散乱材料により構成され、高強度音響波を拡散させるとともに単位面積当たりの強度が弱い低強度音響波21に変換し、均一に大面積に照射させる音響波拡散部34が設けられている。この実施形態では、音響波拡散部34を備えた第二音響整合層32が、音響波拡散層36を構成している。
【0044】
この実施形態の水産物養殖装置30によっても、超音波振動子20から発せられる高強度音響波が放射される前面に、音響波拡散層36を備えているため、超音波振動子20の直下以外の水産物に対しても必要十分な音響波刺激を行うことが出来る。さらに、音響波拡散層36が外ケース12の内側にあるので、水産物養殖装置30の外表面をすっきりさせることができる。
【0045】
次に、この発明の第三実施形態の水産物養殖装置40について
図5を基にして説明する。ここで、上記実施形態と同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。
図5に示す実施形態の水産物養殖装置40は、2種類の異なる周波数を有する各2対の超音波振動子41,42を有し、さらに可聴音の音楽等を出すスピーカ44が取り付けられたものである。この装置の外ケース46の外側の面には、音響波拡散層48が設けられている。音響波拡散部層48は、音響波散乱材料の樹脂材料や金網から成るもので、その内部に、超音波振動子41,42に各々対応した二対の音響波散乱材料からなる音響波拡散部49が設けられている。二対の音響波拡散部49は、互いに異なる所定の向きに設定されている。
【0046】
音響波拡散層48は、その材質、形状を変えることで、指向性の強い高強度音響波を制御して散乱・拡散させ、広い範囲に弱くした低強度音響波を養殖魚等の水産物に照射することができる。さらに、音響波拡散部49の形状、位置及び、数量を各々変えることによっても、指向性の強い高強度音響波を拡散させて、広い範囲で水産物に低強度音響波刺激を行うことができる。
【0047】
次に、この発明の水産物養殖装置に用いられる超音波振動子と音響整合層、外ケース、及び音響波拡散層の組み合わせ例について、
図6〜
図8を基にして説明する。ここで、上記実施形態と同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0048】
図6(a)に示す水産物養殖装置50は、リング状の圧電振動子20を用いたもので、外形状が圧電振動子20よりも大きな第一音響整合層31、第二音響整合層32を介して外ケース12の内部に圧電振動子20が取り付けられているものである。この水産物養殖装置50は、第一音響整合層31または第二音響整合層32が音響波拡散層を兼ねているものである。
【0049】
図6(b)に示す水産物養殖装置52は、円板状の圧電振動子20を用いたもので、外形状が圧電振動子20と等しい音響整合層22を介して圧電振動子20が外ケース12の内部に取り付けられているものである。この水産物養殖装置52は、音響整合層22の内部に音響波拡散部49の空洞を備えている。空洞には発泡樹脂や金属が設けられていても良い。
【0050】
図7(a)に示す水産物養殖装置54は、外形状が圧電振動子20よりも大きな第一音響整合層31、第二音響整合層32を介して外ケース12の内部に圧電振動子20が取り付けられているものである。水産物養殖装置54は、外ケース12に予め音響波拡散部49である凹部を形成し、第二音響整合層32が接合された状態で、空洞が複数個形成されるようにしたものである。音響波拡散部49である空洞には、発泡樹脂が充填されていても良い。
【0051】
図7(b)に示す水産物養殖装置56も、外形状が圧電振動子20よりも大きな第一音響整合層31、第二音響整合層32を介して外ケース12の内部に圧電振動子20が取り付けられているもので、第二音響整合層32の内部に音響波拡散部49である複数の異なる形状の空洞が設けられているものである。空洞には、発泡樹脂が充填されていても良い。
【0052】
図7(c)に示す水産物養殖装置58も、外形状が圧電振動子20よりも大きな第一音響整合層31、第二音響整合層32を介して外ケース12の内部に圧電振動子20が取り付けられているもので、第二音響整合層32の内部に音響波拡散部49である金網59が配置されたものである。
【0053】
図8(a)に示す水産物養殖装置54は、外形状が圧電振動子20よりも大きな第一音響整合層31、第二音響整合層32を介して、外ケース12の内部に圧電振動子20が取り付けられているものである。水産物養殖装置60は、外ケース12の外部に音響波拡散層24が設けられ、その内部に音響波拡散部49である金網59が設けられたものである。
【0054】
図8(b)に示す水産物養殖装置62も、外形状が圧電振動子20よりも大きな第一音響整合層31、第二音響整合層32を介して、外ケース12の内部に圧電振動子20が取り付けられ、外ケース12の外部に音響波拡散層24が設けられ、その内部に音響波拡散部49である樹脂部材61が設けられたものである。
【0055】
図8(c)に示す水産物養殖装置64は、リング状の圧電振動子20が設けられ、外形状が圧電振動子20よりも大きな音響整合層22を介して、外ケース12の内部に圧電振動子20が取り付けられ、外ケース12の外部には、音響波拡散層24が設けられている。音響波拡散層24には、フレネル構造に樹脂が突出した突部24aが形成されている。
【0056】
これらの音響波拡散層24中の
音響波散乱材料の材質、形状、数量、配置を変化させることで超音波振動子20から発せられた高強度音響波を容易に低強度音響波に変換し、広い面積に超音波を均一に放射させることが可能となる。このために養殖魚等の水産物に過度の音響強度の音響波を照射することなく、更に必要な超音波振動子20の数量を減少させることが出来る。これらの音響波拡散層24中の音響波散乱材料は、金属の場合、通常のMC加工やプレス成型のみならず、3次元成型装置を用いて容易に作製することが出来る。また、更なる低コスト化のために外ケースを成型する際に同時に同一材料を用いて音響波拡散層24、音響波散乱材料による音響波拡散部49の一部を作製することも出来る。
【0057】
次に、この発明の第四実施形態の水産物養殖システム70及び水産物養殖方法について。
図9を基にして説明する。ここで、上記実施形態と同様の部材は同一の符号を付して説明を省略する。
図9は、水槽72中で、上記第一実施形態の水産物養殖装置10と同様の構造であって、照射方向が異なる複数の超音波振動子20を備えた水産物養殖装置74を浮揚または固定して、水産物である養殖魚29に対して音響波刺激を行うものである。浮揚する水産物養殖装置74は、超音波振動子20の音響波放射面が水面に対して3〜30°の傾きをもつように、水産物養殖装置74の重心がオフバランスされて調節されていることが好ましい。
【0058】
この実施形態の水産物養殖システム70の使用方法は、
図9に示すよう、水産物養殖装置74を水槽72の水に浮かべ、超音波振動子20から水中に向けて高強度音響波を照射しこれを音響波拡散層24で低強度音響波21に変換される。水槽72の底面や側面、水面での音響波の乱反射を有効に利用しながら水産物である養殖魚29に出来るだけ均一に低強度音響波21を照射するものである。
【0059】
水槽72の内面である側面及び底面の80%以上の面積には、気体を含む音響波反射層76を取り付けられている。音響波反射層76は、気体を90〜99体積%含む発泡樹脂から成る音響波反射材料である。このような音響波反射材料を用いることで、低強度音響波21の90%以上を有効に反射させ、効果的に養殖魚29に照射することが出来る。また、音響波反射層76の材料としては、塩化ビニル樹脂、PET、EVA、またはゴムであって内部に気体層を含むものが好ましい。また薄いシートやフィルムからなり、その少なくとも表面または裏面が有機フィルムで被覆され、その厚みが0.05〜1.0mmであり、内面には90体積%以上の気体を含む有機材料を用いることも出来る。
【0060】
この実施形態では、水槽72の底面
から水面までの高さが0.1〜10mである水槽72中にある養殖魚29等の水産物に、低強度音響波刺激を与えるものである。水面までの高さが0.1m以下では、装置を入れるための十分な深さが取れず、更に小型の魚類でもその全身を入れるには十分な深さがとれない。またまた、10m以上では音響波の効果が音響減衰により弱くなるためである。最適な深さは装置を浮揚させて使用しやすい0.2〜1.0mである。
【0061】
使用する超音波はその周波数が0.1〜10MHzで選択できるが、水産物表面から10cm以上の深部に位置する骨に音響波パワーを送るためには0.1〜2MHzが適しており、表面から3cm以下の骨や筋肉、魚卵などを刺激するのであれば2〜10MHzが適している。より好ましくはこれらの周波数を組み合わせて、シリーズに使用する。また、使用する超音波振動子の周波数が10MHz以上では空気の多い水中や水産物中での減衰が大きくなり、必要な音響波強度を得ることが困難となる。水槽
72は、音響インピーダンスが海水または淡水の音響インピーダンスよりも十分に低い発泡樹脂からなる底面及び側面であれば良く、発泡ポリスチレンや樹脂の間に空気層を設けた材料などが軽量であり、使用出来る。
【0062】
水産物養殖装置74の音響波を発生する間隔は、例えば、10〜60分/日、1〜7回/週、1〜50週間連続して行う。10分以下の短時間では水産物養殖の効果が小さく、一つの水槽
72に60分以上照射しても効果は大きく変わらない。照射頻度は1〜7回/週、更に好ましくは3〜5回/週である。また照射期間は小型の魚や魚卵の場合などは数日程度でも有効であるが、好ましくは30週以上の長期間である。また、水槽72は、水温が2〜30℃の範囲で温度制御装置により適宜設定可能に設けられている。2℃以下では水産物の活動が低下し、30℃以上では多くの水産物の生存率が低下するためである。
【0063】
水に浮かべる水産物養殖装置74は、水槽72の液面の揺動により前後左右に移動したり、揺動して傾きが変わったりして、超音波振動子20と音響波拡散層
24の位置と角度が絶えず変化し、更に音響波拡散層24の効果により養殖魚29等の水産物に対して偏りなく低強度音響波21を照射する。この水産物養殖システムは、直径0.01〜10mmの空気バブルを水中に放出しながら使用しても良い。
【0064】
この実施形態の水産物養殖システム70及び水産物養殖方法によれば、簡単な構造の水産物養殖装置74により、低強度音響波21の放射方向を自由に変化させながら、養殖魚29等の水産物に音響波刺激を均一に与え、更に水槽72の底面、側面及び水面からの音響波の乱反射を利用して水槽中の水産物に幅広くほぼ均一に低強度音響波刺激を与えることが可能となる。更に水槽72以外の大形のいけすでも使用することが出来、水産物養殖装置74の数量を増加したり、水産物養殖装置74を一時的に固定式にして水槽72に取り付けたり、水中に固定しても同様な効果が得られる。さらに、これらの装置を用いることで大型いけす内の魚類に対しても同時に、且つ均一に低強度音響波刺激を行うことが可能となる。また、水産物養殖装置74は、重量を0.2〜10kgの小型の形状に製造することが出来、女性や高齢者でも容易に運搬可能であり、不使用時には水槽から取り出して容易に保管、点検、充電及び清掃することができる。このために量産しやすいばかりでなく、その修理や回収の維持管理コストが小さいために生産コストを大幅に低減させることができる。さらに、この実施形態の水産物養殖システム70及水産物養殖方法は、ほとんどの水産物で使用でき、特に小型の魚類、甲殻類やその稚魚、魚卵の生存率向上に大きく寄与するものである。
【0065】
また、この実施形態の音響波水産物養殖システム70及び水産物養殖方法は、
図5に示した2個以上の超音波振動子41,42を設けた水産物養殖装置40を用いると良い。水産物養殖装置40を用いることにより、1台の水産物養殖装置40で異なる2方向以上に広く低強度音響波21を照射することが可能であり、水槽72内で均一に低強度音響波21を照射し、必要な水産物養殖装置40の台数を低減させることが出来る。また、複数個の音響波振動子41,42は周波数やPRF、Duty factor、音響強度を互いに変えても良く、適宜設定することができる。さらに、
図6〜
図8に示す水産物養殖装置を用いても良い。
【0066】
次に、この発明の第五実施形態の水産物養殖装置80と水産物養殖システム及び水産物養殖方法について。
図10を基にして説明する。ここで、上記実施形態と同様の部材は同一の符号を付して説明を省略する。水産物養殖装置80は、
図10(a),(b)に示すように、四角錐状の中空の外ケース12と上蓋82を備え、上蓋82にはこれを水密構造にするためのOリング84を備える。超音波振動子20としては、0.5MHz、1.5MHz、3.0MHz、8MHzの4種類が、四角錐の外ケース12の各内側面に取り付けられている。超音波振動子20は、例えば8MHzは非鉛系圧電材料のニオブ酸アルカリ材料を用い、残りの3種類は通常のPZT振動子を用いた。超音波振動子20の形状は直径が2cmの円板である。
【0067】
超音波振動子20には、音響整合層22としてλ/4の厚みのガラス板が取り付けられ、
図10に示すように、外ケース12の4方の内側面に各々取り付けられている。駆動用の電源16としては、例えば充電式のリチウム電池を用いる。水産物養殖装置80の側面部の振動子上には、ABS樹脂を用いて、複数の空洞を有する直径が3cmで厚みが4mmの凸部形状の音響波拡散層24が設けられている。音響波拡散層24には、音響波拡散部49である空洞が複数形成されている。
【0068】
この実施形態の水産物養殖装置80は、
図9に示す水産物養殖システムの水槽72に入れて用いるもので、上記実施形態と同様に、効果的に低強度音響波21の放射方向を自由に変化させながら、養殖魚29等の水産物に音響波刺激を均一に与えルものである。更に、水槽の底面、側面及び水面からの音響波の乱反射を利用して水槽中の水産物に均一に低強度音響波刺激を与えるものである。
【0069】
なお、この発明の水産物養殖装置、システムと養殖方法は、上記実施形態に限定されず、適宜変更可能である。水産物養殖装置は、水面に浮かぶもの以外に、水中の任意の深さに沈んだ状態で一時的に移動または固定しながら音響波を発生するものでも良い。水産物養殖装置の容器は、構造と材料、形状は自由に選択可能であり、確実に超音波振動子を保持して移動するものであればよい。使用する水槽の大きさや形状も変更可能であり、水槽の大きさや形状に合わせて、水産物養殖装置の超音波振動子の数や、水槽に入れる個数を適宜調整して、その水産物に好適な超音波強度に設定する。また、浮力を増加したり、装置の転倒防止をする場合には浮輪を使用することも出来る。
【0070】
その他、この発明の音響波拡散部は、空隙、発泡樹脂板や金属板に穴を空けた構造や網のみならず、プロペラや風車などの形状や、傘状の形状、金属にスリット穴を空けた形状でも同様に超音波ビームを広く拡散・散乱出来る効果が得られる。また、超音波振動子の配置も容器の底面のみならず、水中にある側面部に取り付けても良い。
【0071】
本発明は音響波を用いた養殖方法の一つであり、これまで知られているマイクロバブルや泡、ウイルスワクチン投与を用いた装置や方法と併用したりしても良い。また、水槽中の水産物の成長と数量に合わせて、その音響波の強度と時間を調整することも出来る。
【実施例】
【0072】
次に、この発明の水産物養殖装置と水産物養殖方法の実施例について、以下に説明する。まず、第1実施例として、この発明の水産物養殖装置と水産物養殖システム及び水産物養殖方法を、
図9に示すように、桜鱒の小形水槽による養殖に利用する実験を行った。桜鱒は、魚年齢が65週で平均体重73gの人工養殖桜鱒を用いた。まず、同一の親魚から生まれた桜鱒の140匹を用いて各20匹ずつ7組に分けた。これらを試験前の体重を測定し、更に16週間後の体重を測定した。更に生存率は給餌の際にほぼ毎日観察し、死亡した魚は直ちに水槽から取り出した。水槽は、直径が130cmで深さが90cmの繊維強化プラスチック(FRP)製の円形水槽であり、海水を70cmの深さまで入れた。
【0073】
円形水槽は7個を使用し、それぞれ、異なる周波数を持つ音波や音楽の発生装置、超音波発生装置、音響波拡散層を持つ装置を、音響波反射層(水槽内壁)を取り付け又は無しの水槽に浮揚させながら超音波を照射した。水槽内の海水は、ポンプにより24トン/日を供給し、余分な海水はオーバーフローさせた。更に、圧縮空気を用いて25m
3/日の空気を水槽の中央部に供給した。餌は通常の魚用配合飼料を1〜3g/匹を毎日、朝に与えた。海水の撹拌や未消化餌の回収、魚糞の除去は行わなかった。
【0074】
実施例1で用いた水産物養殖装置は、直径が33cm、深さが14cmのアルミ製の容器である外ケース12に音響整合層22の大きさである約5cm直径の穴を空けたものである。実施例1の装置はこの外ケース12に直径が3cmの8個の超音波振動子20を配置した
図1に示すような基本構造のものである。超音波振動子20は、PZT系圧電セラミックス(富士セラミックス社製204材料)超音波振動子の厚み振動を用いた。超音波振動子20の超音波放射面は、水面に対して3〜5°の傾きをもつものである。超音波振動子20の共振周波数は0.5MHzのものを用いた。また、この水産物養殖装置10は、50%dutyのパルス超音波を9分発生した後、1分停止するサイクルで1日約60分間、3回/週、で16週間を継続して音響波刺激した。超音波強度(Isata)は水深30cmの超音波振動子直下で音響波拡散層24を用いない場合は800mW/cm
2であり、音響波拡散層24を用いた場合は80mW/cm
2であった。
【0075】
音響波拡散層24は目開きが0.5mm(水中波長λの17%)のステンレス網を4枚、方向を変えて積層し容器の外側に取り付けたものを用いた。この音響波拡散層24を用いることで、取り付けない場合と比較して超音波振動子20から放射された音響波強度の最大値を約10%の80mW/cm
2に低下させ、音響波ビームを広い面積に拡散することが出来た。音響波反射層76は密度が25kg/m
3(約98%が空気)の発泡ポリスチレンシートで、厚みが2mmのものの両面に0.05mmのPETフィルムを張り、これを水槽の内壁に張り付けたものを用いた。
【0076】
魚の総体重(73g×20匹=1.4kg)と水槽の海水量(800kg)から実際に魚に照射された割合をPZT振動子の総出力(7cm
2×800mW/cm
2×8枚=45W)から計算した概算値は45W×(1.4kg/800kg)=79mW/kgである。しかし、一度、側面と底面に反射された超音波が再び魚に数回に渡り照射された場合にはこの約3倍の約240mW/kgである。桜鱒はその体重が16週間後には平均で0.23kgとなり、総重量は3.9kgとなった。このために体重当たりの平均強度は28mW/kgから84mW/kgと見積もられる。
【0077】
参考例1の装置2は、装置1と同様な構造であるが音響波拡散層と音響波反射層を用いないものである。参考例2の装置3は、装置1と同様な大きさと重量の外ケース12のみであり、超音波振動子も音響波拡散層も用いていないものである。これらの装置の基本仕様と16週間後の桜鱒の生存率、平均重量、総重量を表1に示した。
【表1】
【0078】
表1から明らかなように、音響波拡散層及び音響波反射層を取り付けた養殖装置を用いた実施例1では、その生存率が85%と高く、更に平均重量も0.231kg大きい。このため、総重量の3.93kgは、本発明の装置を用いない参考例2の総重量の3.15kgと比べて125%であることを示した。また、音響波拡散層のない場合の参考例1の3.30kgと比較しても、119%と大幅な総重量の増加を示した。
【0079】
実施例2の装置4は、同一容器である外ケース12に直径が3cmの4個の超音波振動子20を配置した
図5に示すような構造のものであり、その他の条件は実施例1と同じである。また、低周波の音源としては350Hzを10秒発信し、30秒を停止するモードで60分間行った。更に音楽としてはハッペルベルのカノンを60分間連続で容器に取り付けたスピーカから放射して使用した。
【0080】
超音波強度(Isata)は、水深30cmの超音波振動子直下で音響波拡散層24を用いない場合は1200mW/cm
2であり、音響波拡散層24を用いた場合は120mW/cm
2であった。音響波拡散層は、
図8(a)に示した構造のものを用いた。第一音響整合層31は音響インピーダンスが13MRaylsのガラス板をλ/4の厚みでPZT振動子に取り付け、更に第二音響整合層32としては音響インピーダンスが3.3MRaylsのアクリル板をλ/4の厚みで取り付けた。音響波拡散層24はエポキシ樹脂を用い、音響波散乱材料は中央部の厚みが2.0mmで直径が10mmのR30mmの円板状の空洞を用いた。この音響波拡散層24を用いることで、取り付けない場合と比較して超音波振動子20から放射された音響波強度の最大値を約10%の120mW/cm
2に低下させ、音響波ビームを広い面積に拡散することが出来た。
【0081】
音響波反射層は実施例1と同一である。魚の総体重(73g×20匹=1.4kg)と水槽の海水量(800kg)から実際に魚に照射された割合を、PZT振動子の総出力(7cm×1200mW/cm
2×4枚=34W)から計算した概算値は、34W×(1.4kg/800kg)=60mW/kgである。しかし、一度、側面と底面に反射された超音波が再び魚に数回に渡り照射された場合には、この約3倍の約180mW/kgと推定される。桜鱒はその体重が16週間には平均で0.22kgとなり、総重量は3.7kgとなった。このために体重当たりの平均強度は、23mW/kgから66mW/kgと見積もられる。実施例3の装置5は、装置4と同様な構造であるが
音響波反射層を用いない場合である。
【0082】
参考例2の装置3は、装置1と同様な大きさと重量の外ケースのみであり、超音波振動子も
音響波反射層も用いていないものである。これらの構造と16週間後の桜鱒の生存率、平均重量、総重量を表2に示した。
【表2】
【0083】
表2から明らかなように、実施例
2ではその生存率が85%と高く、更に平均重量も0.217kg大きい。このために総重量は本発明の装置を用いない参考例2の総重量の3.15kgと比べて3.69kgと117%を示した。また、音響波反射層のない場合の実施例3は、3.45kgと参考例2の重量の3.15kgと比較しても110%と収穫量の増加を示した。
【0084】
表3に示した参考例3の装置6は、同一の水槽に音源としては可聴音の350Hzのみを10秒発信し、30秒を停止するモードで60分間行った場合の結果を示す。参考例4の装置7は、同一水槽に音源としては音楽のハッペルベルのカノンを60分間連続で容器に取り付けたスピーカから放射した場合である。これらを参考例2と合わせて示した。
【0085】
参考例2の装置3は、装置1と同様な大きさと重量の外ケースのみであり、超音波振動子20も音響波反射層も用いていないものである。これらの構造と16週間後の桜鱒の生存率、平均重量、総重量を表3に示した。
【表3】
【0086】
表3から明らかなように、参考例3ではその生存率が65%と低く、平均重量は0.243kgのために、総重量は本発明の装置を用いない参考例2の総重量の3.15kgと同等の3.16kgの値を示した。また、参考例4ではその生存率が65%と低く、平均重量は0.235kgのために、総重量は本発明の装置を用いない参考例2の総重量の3.15kgと比べて、3.06kgの97%とさらに低い値を示した。
【0087】
次に、実施例4では、
図10(a),(b)に示す水産物養殖装置80を用い、外ケース12として、側壁の厚みが1.0mmの4角錐のABS樹脂を用いて水産物の養殖を行った。外ケース12には、上蓋82とこれを水密構造にするためのOリング84を設けた。超音波振動子20としては0.5MHz、1.5MHz、3.0MHz、8MHzの4種類を用いた。この中で8MHzは非鉛系圧電材料のニオブ酸アルカリ材料を用い、残りの3種類は通常のPZT振動子を用いた。振動子の形状は直径が2cmの円板である。
【0088】
超音波振動子20に、音響整合層22としてλ/4の厚みのガラス板を取り付けた。これらを
図10に示したように、水産物養殖装置80の外ケース12の4側面の各々内側に取り付けた。駆動用の電池16には、充電式のリチウム電池を用いた。装置の側面部の振動子上にはABS樹脂を用いて音響波拡散部49である複数の空洞を有する直径が3cmで厚みが4mmの凸部形状の音響波拡散層24を取り付けた。
【0089】
パルス繰り返し周期(PRF)は1msec(1000Hz)と1s(1Hz)であり、これらはDuty factorが20%で駆動した。合計で周波数が4種類でPRFが2種類の合計で8種類の異なる音源をシリーズに各8秒間、放射した。
【0090】
この水産物養殖装置80の音響強度(Isata)は、20リットルの水槽中の水産物1kgに対して800mW/kgの音響波を照射することが出来るように調整した。水槽容器は、発泡スチロールの表面に0.05mmのPETフィルムを張り付け、大きさが20リットルの角型容器である。温度制御は外部で温度を調整した循環水をステンレスパイプで水槽内に送り、水温を制御した。水産物として直径が約4mmの同一の親魚から採取した桜鱒の魚卵を用いた。水温は4℃+−1℃に調整した。受精後の魚卵0.5kgを水槽の水面から10cmに張ったナイロンネットに移した。水産物養殖装置80を水槽の中央部の水面に浮かべ、音響波刺激を20分間/日、5回/週を1週間継続した。同様な装置を、スイッチを入れることなく同一時間、同一魚卵を有する水槽Bの中央部の水面に浮かべて比較した。生存率は毎日、死亡して変色した魚卵と稚魚をピンセットで取り出し、生存率を確認した。その結果を表4に示す。
【表4】
【0091】
実施例4と参考例5から明らかなように、本発明の水産物養殖装置と水産物養殖システム及び水産物養殖方法を用いた場合は、魚卵と稚魚の高い生存率が確認出来た。
【0092】
実施例1から4に示した結果から、本発明の水産物養殖装置と養殖システム及び水産物養殖方法は、超音波の共振周波数が0.1MHz以上10MHz以下で、更に
超音波強度(Isata)が、水産物の重量当たりで20mW/kgから1000mW/kgの範囲である条件を選び、これを音響インピーダンスが低い水槽中で水産物に照射することでその生存率を大幅に向上させ収穫量を増加出来ることが明らかとなった。