特許第6749761号(P6749761)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6749761出発油又はその分画による出発オレイン画分からのステアリンの収率を増加する方法、及びステアリン画分
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6749761
(24)【登録日】2020年8月14日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】出発油又はその分画による出発オレイン画分からのステアリンの収率を増加する方法、及びステアリン画分
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/02 20060101AFI20200824BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20200824BHJP
   A23D 7/015 20060101ALI20200824BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20200824BHJP
   C12P 7/64 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
   A23D9/02
   A23D7/00 500
   A23D7/00 508
   A23D7/015 500
   A23D9/00
   A23D9/00 506
   C12P7/64
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-523515(P2015-523515)
(86)(22)【出願日】2013年7月22日
(65)【公表番号】特表2015-522296(P2015-522296A)
(43)【公表日】2015年8月6日
(86)【国際出願番号】EP2013065419
(87)【国際公開番号】WO2014016250
(87)【国際公開日】20140130
【審査請求日】2016年7月1日
【審判番号】不服2018-11466(P2018-11466/J1)
【審判請求日】2018年8月24日
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2012/064547
(32)【優先日】2012年7月24日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517014206
【氏名又は名称】アドヴァンタ・ホールディングス・ベスローテン・フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(72)【発明者】
【氏名】パン,ルカス・ギレルモ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥビンスキー,エドゥアルド・ペドロ
(72)【発明者】
【氏名】グロンドーナ,マルティン・オスカル
(72)【発明者】
【氏名】ザンベッリ,アンドレス・ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】レオン,アルベルト・ハビエル
【合議体】
【審判長】 村上 騎見高
【審判官】 天野 宏樹
【審判官】 安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−240290(JP,A)
【文献】 特表2009−543907(JP,A)
【文献】 米国特許第6022577(US,A)
【文献】 特開2001−321076(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/001884(US,A1)
【文献】 Frank D.Gunstone,Vegetable Oils in Food Technology:Composition, Properties and Uses,第2版,WILEY−BLACKWELL,2011年,p.26−31
【文献】 Siew Wai Lin,Saw Mei Huey,High Oleic Enhancement of palm Olein via Enzymatic Interesterification,Journal of Oleo Science,Japan Oil Chemists’ Society,2009.10.20,vol.58,No.11,p.549−555
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D7/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出発油又はその分画による出発オレイン画分からのステアリンの収率を増加する方法であって、
a)SUS型のトリグリセリドよりも少なくとも1.5倍のSUU型のトリグリセリドを有し、SSS型のトリグリセリドの含有率が1%未満である前記出発油を分画して、ステアリン画分及び出発オレイン画分を得る工程と、
b)前記出発油又は出発オレイン画分に対して1,3−選択的酵素的な分子間エステル交換を実施して、前記出発油又はオレイン画分よりSUS型のトリグリセリドの含有率が高い1,3−選択的な分子間エステル交換油又はオレインを得る工程と、
c)得られた1,3−選択的な分子間エステル交換油又はオレインを分画して、ステアリン画分及びオレイン画分を得る工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記出発油が、SUS型のトリグリセリドよりも少なくとも2倍のSUU型のトリグリセリドを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記出発油又は出発オレイン画分が、高ステアリン高オレイン(HSHO)のヒマワリ油である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記出発油又は出発オレイン画分が、高ステアリン高オレインの大豆油、高ステアリン高オレインの綿実油及び高ステアリン高オレインの菜種(カノーラ)油から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記工程a)及び工程c)の両工程でのステアリンの総収率が、前記出発油の分画後のステアリンの収率より高い、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記SUS型のトリグリセリド及び/又はSUU型のトリグリセリドの不飽和脂肪酸を示すUがオレイン酸である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記1,3−選択的酵素的な分子間エステル交換の反応時間が、少なくとも30分である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記1,3−選択的酵素的な分子間エステル交換が、リパーゼ酵素を使用することによって実施される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法を実施することによって得られる、ステアリン画分。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油又は油画分、特にオレイン画分のトリアシルグリセリド(TAG)の含有率を変更する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マーガリン、スプレッド、ころも、フィリング、揚げ油及び食用油などのいくつかの食料製品は、展延性、固さ、可塑性、食感及びフレーバーリリースなどの特定の特性を必要とする。食料製品に使用される天然の植物性油脂は、これらの特性を有していないことが多く、使用可能とする前に改質を必要とする。油脂の改質に使用される主な方法としては、分画、水素化及び分子間エステル交換(interesterification)がある。これらの方法は当技術分野で知られており、例えば、「Food Fats and Oils」、第9版、Institute of Shortening and Edible Oils に記載されている。
【0003】
上記分画とは、融点の差に依拠して、油脂の液体の構成成分と固体の構成成分とを分離する方法である。例えば、高ステアリン高オレインの油を分画すると、固体のステアリン画分と液体のオレイン画分が生じる。
【0004】
また、上記水素化とは、不飽和脂肪酸を飽和脂肪酸に転換するために一般に使用される化学反応である。水素化はまた、液体の油を半固体及び/又は固体に転換するだけでなく、油脂の酸化及び熱安定性を向上できる。水素化は、部分水素化又は完全水素化とすることができる。部分水素化は、水素化度及び工程条件に依存して異なる融点範囲の油及び脂肪を生じさせ、食用油及びマーガリンの製造に使用されることが多い。部分水素化の主な欠点は、心臓血管疾患に関連するとされるトランス異性体が高濃度で生じてしまうことである。
【0005】
上記分子間エステル交換は、2種以上の所望の油を混合し、これら油の脂肪酸をトリグリセリド間で再分配することである。反応混合物に入れる油脂の型の選択及び割合が、得られる油脂の特性を決定する。分子間エステル交換は、化学的又は酵素的な方法によって実施することができる。化学的な分子間エステル交換では、2種以上の所望の油を混合し、乾燥させ、ナトリウムメトキシドなどの触媒を添加する。この方法は、トリグリセリドのグリセロール骨格に脂肪酸がランダムに分配される。また酵素的な分子間エステル交換は、酵素の使用によって脂肪酸がランダムに又は位置特異的(position-specific)に再分配されるようにする。
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、2種以上の脂肪を用いることなく、1種のみの型の油脂でも脂肪酸の酵素的な再分配を実施することができることを見出した。1種のみの油脂を使用する方法を本明細書では「1,3−選択的酵素的な分子間エステル交換(1, 3-selective enzymatic intraesterification)」と呼ぶ。この方法は、これに限定されるものではないものの、著しい量の飽和(saturated)−不飽和(unsaturated)−不飽和(unsaturated)(SUU)型のトリグリセリドが存在する高ステアリン高オレインの油、より具体的にはHSHO(High Stearic High Oleic)のヒマワリ油のような比較的新しい改質油に適用し、SUS型のトリグリセリドの含有率を増加させることができる。これらの型の油は、本発明によって分子内で脂肪酸を転移させ、SUS型のトリグリセリドで油又はオレインの富化をもたらす、TAGの分配を有する。
【0007】
したがって、本発明は、油又はオレイン画分中のSUSの含有率を増加させることを目的とし、油又はオレインの分画の際にステアリンの収率を増加させることを更なる目的とする。本発明に至った研究において、1,3−選択的な分子間エステル交換法によって脂肪及び油のSUSの含有率を増加させることができることが見出された。この方法によれば、通常、飽和−不飽和−不飽和(SUU)型のトリグリセリドが豊富である1種の脂肪の型又は油中の飽和−不飽和−飽和(SUS)型のトリグリセリドの量を増加できる。またこれによって、これらに限定されないものの、マーガリン、スプレッド、ころも、フィリング及び食用油などの食品への適用のために、1種の脂肪の型又は油の機能的な特性を改善することができる。
【0008】
このように、本発明は、SSSの含有率を低く維持しながら、油中又はオレイン画分中のSUSの含有率を増加させる方法に関する。この方法は、SUSとSUUとの比が少なくとも1:1.5であり、SSSの含有率が低く、特に0%に近い、天然の出発油又はそれから調製されたオレイン画分に1,3−選択的酵素的な分子間エステル交換を実施することを含む。
【0009】
天然の出発油は、油源から抽出され、他の油と混合されていない単一油である。本発明によれば、分子間エステル交換の最終生成物中でSUS型のTAGの含有率が増加するように油内で脂肪酸の転移を行うことができる。
【0010】
本方法を適切に機能させるためには、SUUからSUSへの転換が平衡反応であることから、SUSとSUUとの比を少なくとも1:1.5とする。SUUがSUSの含有率より高い場合に、SUSの含有率を著しく増加させることができる。このような著しい増加は、少なくとも2%、好ましくは少なくとも3%、より好ましくは少なくとも5%の増加であるが、最も好ましくは少なくとも12%の増加である。したがって、出発油又はオレイン画分中のSUSとSUUとの比(SUS:SUU)は、より好ましい順に、少なくとも1:1.5であり、少なくとも1:2であり、少なくとも1:3.5であり、少なくとも1:5であり、少なくとも1:7.5であり、少なくとも1:10であり、少なくとも1:15である。
【0011】
発明者らは、出発油又は出発オレイン画分(starting olein fraction)がSUU含有率30%以上、好ましくはSUU含有率35%以上、より好ましくはSUU含有率40%以上、更に好ましくはSUU含有率50%以上を有する場合、本発明の方法が最も機能することを見出した。
【0012】
また、本発明の好ましい実施形態では、出発油又は出発オレイン画分は、最小SUU含有率40%及び最大SUSの含有率5%、最小SUU含有率40%及び最大SUSの含有率10%、最小SUU含有率50%及び最大SUSの含有率10%、又は最小SUU含有率50%及び最大SUSの含有率40%を有する。
【0013】
本発明の方法は、ステアリン酸又はパルミチン酸の含有率が高い油源から得られた種々の油及びオレインで実施することができる。かかる油源の例としては、高ステアリン高オレインのヒマワリ種、高ステアリン高オレインの大豆、高ステアリン高オレインの綿実、シア果実、高ステアリン高オレインの菜種である。
【0014】
出発油又はオレイン画分は、高ステアリン高オレイン(HSHO)のヒマワリ油、高ステアリン高オレインの大豆油、高ステアリン高オレインの綿実油、シアオレイン、パームスーパーオレイン又はトップオレイン若しくは高ステアリン高オレイン菜種油から選択するのが好ましい。これらの型の油の主な特性は、「U(不飽和脂肪酸)」が本質的に「O(オレイン酸)」であるということである。この特性によって、この型の油と、「U」が主に「L(リノール)」である通常の油とを区別する。
【0015】
このようなSUS型のトリグリセリドの両者の違いは、融解挙動及び酸化安定性にある。SOS型(飽和−オレイン−飽和)の融点は34℃を上回る。この事実が、それらが存在するマトリックス(市販の脂肪及び油)中の相対濃度に応じて、非常に特殊な特性を与える。カカオバターのように濃度が高い(約80%)場合、脂肪は室温でもろく、口(体温)の中で完全に溶け、これはチョコレート及びカカオバター代替物について非常に高く評価される特性である。濃度がまだかなり高い(約35%)場合、これらは、構造化脂肪として、すなわちマーガリン及びスプレッドに使用することができる。これは、特殊な結晶性網状組織中に非常に多くの量の液体油を保持することができ、液体油を保持することによって低温(冷蔵庫から取り出す場合)での展延性及び室温での融解安定性をこれらの種類の製品に付与することを意味している。これは、SLS型のトリグリセリドでは起こらない。
【0016】
もう1つの重要な特性は酸化安定性である。これは、リノール酸(大部分の液体の通常種子油にて主なもの)の酸化速度がオレイン酸より40倍速いためである。これは、「U(不飽和脂肪酸)」が「L(リノール酸)」であるトリグリセリド及び、これに対応するこの型のトリグリセリドを有する市販の脂肪の貯蔵寿命(又は酸敗抵抗性)は、「U」が「O(オレイン酸)」であるトリグリセリドより短いことを意味している。
【0017】
第3の重要な点は、「S(飽和脂肪酸)」がステアリン酸であり、「U」がオレイン酸である場合である(これは、高ステアリン高オレイン油及び画分にはあてはまるが、主なSがパルミチン酸であるパームオレインにはあてはまらない。)。ステアリン酸は、固体又は半固体脂肪を生成する能力を有し、LDLコレステロール(「悪玉コレステロール」)に関して中立的な挙動を有するため、栄養学の観点から有害とは考えられない唯一の飽和脂肪酸である。一方、高濃度のオレイン酸(安定した不飽和)は、LDLコレステロールを減らすために明白な効果がある。こうして、HSHO油(高ステアリン高オレイン油)及びオレインは、LDLコレステロール及びCVD(心臓血管疾患)リスクを増加させるトランス脂肪及び他の飽和脂肪(パーム油及びオレインなど)の良い代替である。
【0018】
更に、一年生作物に由来する(ヒマワリ、菜種、大豆、綿実などの従来の改質作物から生成される)、本発明で使用されるのが好ましい高ステアリン高オレイン油及び画分は、特にパーム油を製造する主な国々で起きており、環境への非常に有害な影響がある多雨林の伐採の理由から、トロピカル脂肪より持続可能である。
【0019】
これらの更なる態様によれば、出発油又はその分画による出発オレイン画分からのステアリンの収率を増加させる方法において上記の方法を使用することができる。分画及び1,3−酵素的な分子間エステル交換工程を合わせて予測モデルが展開された。このような方法は、
a)任意選択的に、SUSとSUUとの比が少なくとも1:2であり、SSSの含有率が低く、特に0%に近い出発油を分画して、第1のステアリン画分及び出発オレイン画分を得る工程と、
b)SUSとSUUとの比が少なくとも1:1.5であり、SSSの含有率が低く、特に0%に近い出発油又は出発オレイン画分である、天然の出発油又はそれから調製されたオレイン画分に対して、1,3−選択的酵素的な分子間エステル交換を実施して、前記出発油又はオレイン画分よりSUSの含有率が高い1,3−選択的な分子間エステル交換油又はオレインを得る工程と、
c)こうして得られた1,3−選択的な分子間エステル交換した油又はオレインを分画して、第2のステアリン画分及びオレイン画分を得る工程と、を含む。
【0020】
このような方法は、出発オレインに分子間エステル交換工程を実行した後に更なる分画工程を実施することにより当初の出発油から余分のステアリン画分を得ることを可能にする。出発オレインの分子間エステル交換後に実施された第2の分画でのステアリンの収率は、工程全体で得たものである。分子間エステル交換はSUS中のオレインを富化し、こうして最初は使い尽くされるが本発明の分子間エステル交換工程によって余分のSUSを得たオレインから余分のステアリン画分を得ることを可能にする。
【0021】
したがって、上記工程a)及び工程c)の両方によるステアリンの総収率は、出発油の分画後のステアリンの収率より高い。
【0022】
よって、本方法を油に適用する場合に、起こりうる2つのシナリオがある。出発油を分画するものと、1,3−選択的な分子間エステル交換が起こる前に出発油を分画しないものである。出発油の分画によりステアリン画分及びオレイン画分を生じさせ、その後、オレイン画分に1,3−選択的な分子間エステル交換を受けさせる。これにより1,3−選択的なオレインの生成がもたらされる。しかしながら、最初に出発油を分画しない場合は、油全体に1,3−選択的な分子間エステル交換を実施する。得られた生成物は1,3−選択的な分子間エステル交換した油となる。
【0023】
もう1つのシナリオでは、油全体ではなくオレイン画分を1,3−選択的な分子間エステル交換のための出発材料として使用する。この場合には、特許請求の範囲に記載の方法内で工程a)の分画を行わず、オレイン画分への1,3−選択的な分子間エステル交換が本発明の方法によって得られた1,3−選択的な分子間エステル交換したオレインの生成をもたらすものである。
【0024】
その後、ステアリン画分及びもう1つのオレイン画分を得るために、これらの工程の生成物、1,3−選択的な分子間エステル交換油及び1,3−選択的な分子間エステル交換オレインを分画する。
【0025】
用語「SUS」、「SUU」及び「SSS」は、トリグリセリド(TAG)の飽和−不飽和−飽和(saturated-unsaturated-saturated)(SUS)、飽和−不飽和−不飽和(saturated-unsaturated-unsaturated)(SUU)及び飽和−飽和−飽和(saturated-saturated-saturated)(SSS)型を指し、「S」は飽和脂肪酸(saturated fatty acid)を示し、「U」は不飽和脂肪酸(unsaturated fatty acid)を示す。トリグリセリドの他の型としては、例えば、不飽和−不飽和−不飽和(UUU)、不飽和−飽和−不飽和(USU)、不飽和−不飽和−飽和(UUS)、飽和−飽和−不飽和(SSU)及び不飽和−飽和−飽和(USS)が挙げられる。飽和脂肪酸の例としては、これらに限定されないが、ステアリン酸及びパルミチン酸が挙げられる。不飽和脂肪酸の例としては、これらに限定されないが、パルミトレイン酸、オレイン酸及びリノール酸が挙げられる。
【0026】
本発明の好ましい実施形態ではSUS及び/又はSUUの「U」はオレイン酸である。
【0027】
本明細書ではトリグリセリド含有率を油全体の百分率で表す。したがって、SUSの含有率30%未満とは、油のトリグリセリド全体のうち30%未満がSUS型であることを意味している。
【0028】
出発油又は出発オレイン画分のSSSの含有率は、その高融点のためにSSSがなめらかな口あたりを油に付与するので、できるだけ低く維持するべきである。用語「低い(low)」とは、1%未満を意味している。1,3分子間エステル交換油又はオレインに第2の分画を受けさせる場合、SSSの含有率は、0.3%未満とするべきである。好ましくは、SSSの含有率を0%とするか、0%近くする。
【0029】
1,3−選択的な分子間エステル交換は当業者に知られる標準的な手法に従って実施することができる。しかしながら、本発明で使用する際の1,3−選択的な分子間エステル交換は、トリグリセリドの位置1及び3での脂肪酸が、唯一の型の油又はオレイン画分のトリグリセリドの間で、再分配される工程を指すということに留意するべきである。すなわち、この唯一の型の油又はオレイン画分とは、油源から抽出され、他の油と混合されていない単一油のことである。
【0030】
本発明で使用する際、用語「脂肪(fat)」は「油(oil)」をも指し、その逆も同じである。これらの用語は「脂質(lipid)」をも指す。単語「油」及び「脂肪」は本明細書において交換可能として使用される。
【0031】
また、用語「オレイン画分(olein fraction)」は、油の分画によって得られた油からの液体画分を指すものである。脂肪及び油は、一般的に有機溶媒に可溶で、水に不溶性である化合物の広範な群から成る。化学的に、脂肪としては、トリグリセリド、グリセロールトリエステル及びいくつかの脂肪酸うちの任意のものである。本発明との関連では、用語「脂肪(fat)」又は「脂肪(fats)」はトリグリセリドの混合物を指すことを意図する。TG、トリアシルグリセロール、TAG、又は、トリアシルグリセリドとも呼ばれるトリグリセリドは、グリセロール及び3種の脂肪酸に由来するエステルである。脂肪酸は、任意及び任意の脂肪酸の組み合わせとすることができる。脂肪酸は、脂肪族長末端(鎖)を有するカルボン酸であり、飽和又は不飽和のいずれかである。二重結合を有する脂肪酸は、不飽和として知られている。不飽和脂肪酸は融点が低く、液体になりやすい。二重結合を有しない脂肪酸は、飽和として知られている。飽和脂肪酸は融点が高く、固体になりやすい。このようにして、脂肪は、その構造及び組成に応じて、室温で固体又は液体となり得る。
【0032】
上記のとおり、用語「脂肪(fat)」は、本発明で使用する際、トリグリセリドの混合物を指す。トリグリセリドの混合物は、1種以上の型のトリグリセリドを含むことができる。トリグリセリドの型としては、例えば、不飽和−不飽和−不飽和(UUU)、飽和−不飽和−不飽和(SUU)、不飽和−飽和−不飽和(USU)、不飽和−不飽和−飽和(UUS)、飽和−飽和−不飽和(SSU)、飽和−不飽和−飽和(SUS)、不飽和−飽和−飽和(USS)及び飽和−飽和−飽和(SSS)が挙げられる。
【0033】
この型の油又はオレイン画分は、任意の供給源から得ることができる。油又はオレイン画分は、これらに限定されないものの、パーム、大豆、菜種、ヒマワリ種、ピーナッツ、綿実、パーム核、ココナツ、オリーブ、トウモロコシ、ブドウ種、ナッツ、アマニ、米、ベニバナ及びゴマ種を含む植物源から得られることが好ましい。
【0034】
異なる型の酵素、例えば、これらに限定されないが、RMIM及びTLIMを含むリパーゼを使用することによって、1,3−選択的な分子間エステル交換を実現することができる。
【0035】
好ましい実施形態では、RMIM又はTLIM酵素を使用することによって、1,3−選択的な分子間エステル交換を実施する。RMIMは、Rhizomucor miehei由来のリパーゼであり、一方、TLIMは、Thermomyces lanuginosis(TLIM)由来のリパーゼである。両方の酵素をNovozymesから得ることができる。
【0036】
脂肪酸の酵素的再分配の方法は、当技術分野で知られ、例えば、(「Food Fats and Oils」、第9版、Institute of Shortening and Edible Oils)に記載されている。
【0037】
1,3−選択的な分子間エステル交換中、SUU型のトリグリセリドをSUS型のトリグリセリドに転換する。これにより油又はオレイン画分の固体脂肪含有率を増加させることによって、SUSの含有率を増加させる。望ましくない高い固体脂肪含有率(SFC)濃度を低くすることもできる。例えば、マーガリンにおいて、高濃度のSUU型のトリグリセリドは、冷蔵庫内温度(10℃以下)で高濃度の固体脂肪含有率(SFC)をもたらす。この結果、マーガリンの展延性が悪化する。一方、低濃度のSUS型のトリグリセリドは、室温で低い固体脂肪含有率(SFC)をもたらす。この結果、マーガリンはテーブル上で溶ける可能性がある。1,3−選択的な分子間エステル交換を適用することによって、両方の問題を解決することができる。
【0038】
油又はオレイン画分のSUSの含有率を増加させることによって、この油又はオレイン画分からより多くのステアリンを得ることができ、その後、これに限定されるものではないものの、構造化脂肪としての使用を含むいくつかの用途で使用することができる。
【0039】
1,3−選択的な分子間エステル交換を油全体並びにオレイン画分に適用することができるので、分画工程(a)は、任意選択的である。
【0040】
出発油又は出発ステアリン画分からのステアリンの収率を増加させる方法は、工程(b)及び(c)を1回以上繰り返し、更なるステアリン画分及びオレイン画分を得ることを更に含むことができる。また、単一非混合油から得ることができるステアリンの総収率を更に一層増加させるために、このように得られた更なるステアリン画分を工程(a)で得られたステアリン画分及び工程(c)で得られた更なるステアリン画分と合わせることができる。
【0041】
分画は、脂肪からの固体及び液体画分を分離する工程である。分画の異なる方法は、当業者に知られている。これらの方法としては、これらに限定されるものではないものの、凍結、加圧、乾燥分画及び溶媒分画が挙げられる。例えば、結晶化によって乾燥分画を実施することができる。
【0042】
酵素的な1,3−選択的な分子間エステル交換の欠点は、化学的な1,3−選択的な分子間エステル交換ほど速くないことである。反応時間が増加すると、トリグリセリドの位置1及び3への酵素の選択性が減少する可能性がある。その結果、SUUの一部をSUSの代わりにSSSに転換する。したがって、SUSの含有率の最大の増加を得て、SSSの含有率を最小化するために、反応時間を最適化することが好ましい。なお許容できるSSSの含有率は、最終生成物への適用に依存するであろう。
【0043】
本発明の好ましい実施形態において、RMIM又はTLIMを使用する場合の1,3−選択的な分子間エステル交換の反応時間は、少なくとも約30分、好ましくは約2〜8時間、より好ましくは約2〜6時間、更に好ましくは約2〜4時間、及び最も好ましくは約4時間である。
【0044】
最適な反応時間は、使用される酵素に依存する。当業者は、RMIM又はTLIM以外の酵素を使用する場合、反応時間が異なる可能性があることを認識しているであろう。
【0045】
本発明は、更に本発明の方法を実施することによって得ることができる1,3−選択的な分子間エステル交換油又はオレインに関する。1,3−選択的な分子間エステル交換油又はオレインは、それから生成された油と比較するとSUSで富化されている。
【0046】
本発明は、以下に続く、任意選択的な方法で本発明を限定する意図はない実施例において更に示される。実施例では、以下の図を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1図1は、ステアリンの収率を増加させる方法の概略図である。
図2図2は、1,3−選択的な分子間エステル交換のために得られた予測式である。より一般的な分子間エステル交換工程(選択的1,3加酸分解)のために式を展開する。S=0の場合に、選択的1,3分子間エステル交換は起きる。すべての計算はモルに基づく。単純化のために、分子間エステル交換での酸はステアリンのSであると仮定する。Tを油の当初の総モル濃度とし、[XYZ]を特定のTAG XYZの当初の総モル濃度とし、式中、X、Y、ZはP、S、O、L、A又はBでよく、Sをステアリンモルの当初の総数とする。予測される最終モル濃度[XYZ]は、図2の式で与えられる。1{W=S}は、W=Sである場合に数値「1」を取り、それ以外の場合に「0」を取る指示関数である。これらの計算を正しくするためのいくつかの仮定があり、それらのうち、酵素には1,3−位置特異性があり、脂肪酸特異性はなく、反応過程中に酵素活性の損失はなく、しばらくしてから安定状態に達し、ジグリセリドの形成はなく、トランス−分子間エステル交換はなく、常に油の総モルは、[T]=Tであり、同様に、[P]+[S]+[O]+[L]+[A]+[B]=Sである。
図3図3は、RMIM酵素を使用した場合の反応時間の最適化の結果を示す。
図4図4は、出発油及び出発オレイン画分並びにこれらの1,3−選択的な分子間エステル交換生成物の固体脂肪含有率を示す。
図5図5は、出発油及び出発オレイン画分並びにこれらの1,3−選択的な分子間エステル交換生成物の融点を示す。
【実施例1】
【0048】
<HSHOヒマワリ油及びオレイン画分の1,3−選択的な分子間エステル交換>
トリグリセリドのsn−1及びsn−3位置に対して選択的であるRMIM及びTLIM(Novozymesから得た)という異なる2種の酵素を使用してHSHO油及びHSHOオレイン画分で実験を実施した。これらの実験では、油又はオレイン100gを温度60℃、2種の酵素のいずれか10gで処理した。反応時間は4時間とした。
【0049】
結果を表1に示す。この表は、出発油及び出発オレイン画分のTAG組成物並びにこれらの1,3−選択的な分子間エステル交換生成物を示す。結果は異なる2種の酵素に対して与えられた。HSHO油及びHSHOオレイン画分の両方の分子間エステル交換生成物におけるSUSの含有率は、著しく増加する一方で、SUU含有率は著しく減少した。
【表1】
【0050】
TLIM酵素でのSSSの含有率はRMIM酵素でのSSSの含有率より高く、これは予想されたとおり、RMIM酵素がTLIM酵素より選択的であることを意味している。TLIM酵素を使用する場合、分子間エステル交換生成物中のSSSの含有率を最小化するために、更に反応時間を減少させることが有益となる可能性がある。
【実施例2】
【0051】
<HSHOヒマワリ油又はオレイン画分を分画してステアリンの収率を増加させる方法>
第1の予備実験では、SUSの含有率が9.4であるHSHOヒマワリ油を選択し、第1の分画工程を受けさせ、ステアリン12.0%及びオレイン88.0%を生成した。要約すると、油を60℃まで溶解加熱した。その後、徐々に温度を17/20℃まで減少させた。その後、油を16時間の間、この分画温度に維持した。6バールまでの圧搾圧力でメンブレンプレスフィルターを通してステアリンを分離した。得られたステアリン画分のSUSの含有率は、最終生成物の質を明らかにする38.8%であった。
【0052】
オレイン画分中の残りのSUS濃度は、5.5であった。その後、このSUS濃度は、1,3−選択的な分子間エステル交換によって9.0まで増加した。図2に示した予測式を使用することによって、この数値を算出した。その後、得られた1,3−選択的な分子間エステル交換オレインを第2の分画工程で使用し、ステアリン及びオレイン画分を再び得た。分画工程でのオレイン中のSUS消耗濃度によると、第2の分画工程でのステアリンの収率は、12.0%〜20%の範囲とすることができた。その後、オレインの収率は、それぞれ88%及び80%であった。これは、ステアリンの総収率を24〜32.0%の範囲とすることができ、1,3−選択的な分子間エステル交換工程を実施しない場合に比べて、約12%〜20%の増加であることを意味している。1,3−選択的な分子間エステル交換及び第2の分画工程を繰り返すと、更に一層ステアリンの収率を増加可能であるとみなすことができる。この工程の概略図を図1に示す。
【実施例3】
【0053】
<反応条件の決定>
酵素(リパーゼ)によって1,3−選択的な分子間エステル交換を実行した。この工程中に生じる1つの問題は、反応時間が増加し、トリグリセリドのsn−1及びsn−3位置への酵素の選択性が減少する可能性があるということである。その結果、得られた分子間エステル交換油又はオレイン画分中のSSSの含有率が、所望のSSSの含有率より高くなる可能性がある。したがって、SSSの量を著しく増加させることなくSUSの量を最大化する最適な反応時間を決定するために予備実験を実施した。
【0054】
Lipozyme RMIM酵素(Novozymesから得た)10%(w/w)で高ステアリン且つ高オレイン(HSHO)のオレインを分子間エステル交換した。試料を2、4、6及び8時間で取り、酵素の分離後に分析した。結果を図3に示す。
【0055】
更なる実験のために、仮の最適時間として4時間の反応時間を選択した。
【実施例4】
【0056】
<固体脂肪含有率の決定>
HSHO油、HSHOオレイン画分及び1,3−選択的な分子間エステル交換生成物の固体脂肪含有率(SFC)を、DSCを使用して決定した。
【0057】
図4は、1,3−選択的な分子間エステル交換生成物の固体脂肪含有率が、0℃より高い温度で当初のHSHO油及びHSHOオレイン画分の固体脂肪含有率より高いことを示している。
【実施例5】
【0058】
<融点の決定>
HSHO油、HSHOオレイン画分及び1,3−選択的な分子間エステル交換生成物の融点を標準的な手法を用いて決定した。
【0059】
図5は、1,3−選択的な分子間エステル交換したHSHO油及びHSHOオレイン画分の融点が、当初のHSHO油及びHSHOオレイン画分と比べて著しく増加することを示している。
図1
図2
図3
図4
図5