特許第6749768号(P6749768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6749768-熱源機およびその運転方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6749768
(24)【登録日】2020年8月14日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】熱源機およびその運転方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/04 20060101AFI20200824BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20200824BHJP
   F25B 1/053 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
   C09K5/04 D
   C09K5/04 F
   F25B1/00 396A
   F25B1/053 Z
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-23803(P2016-23803)
(22)【出願日】2016年2月10日
(65)【公開番号】特開2017-141372(P2017-141372A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2018年11月20日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る出願(平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100169199
【弁理士】
【氏名又は名称】石本 貴幸
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】和島 一喜
(72)【発明者】
【氏名】松倉 紀行
(72)【発明者】
【氏名】上田 憲治
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】末光 亮介
(72)【発明者】
【氏名】赤松 佳則
(72)【発明者】
【氏名】佐久 冬彦
(72)【発明者】
【氏名】長舩 夏奈子
(72)【発明者】
【氏名】田村 正則
(72)【発明者】
【氏名】須田 洋幸
(72)【発明者】
【氏名】水門 潤治
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 賢二
(72)【発明者】
【氏名】陳 亮
(72)【発明者】
【氏名】権 恒道
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−143359(JP,A)
【文献】 特開2014−005419(JP,A)
【文献】 特開2014−005418(JP,A)
【文献】 特開2013−087187(JP,A)
【文献】 特表2015−507666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/04、
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する遠心式圧縮機と、
圧縮された冷媒を凝縮させる凝縮器と、
凝縮された冷媒を膨張させる膨張弁と、
膨張させた冷媒を蒸発させる蒸発器と、
を有し、前記遠心式圧縮機、前記凝縮器、前記膨張弁および前記蒸発器が順次接続されて構成された冷媒循環回路内に封入された冷媒が、化合物Aまたは化合物Bのいずれかを90GC%より多く含み、
前記化合物Aは、2,2,2,2’,2’,2’−ヘキサフルオロイソプロピル−メチル−エーテルであり、
前記化合物Bは、3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、(E)−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、または(Z)−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテンであり、
前記蒸発器で熱を回収し、該回収した熱により前記凝縮器で150℃以上の温熱を出力する熱源機。
【請求項2】
冷媒を圧縮する遠心式圧縮機と、
圧縮された冷媒を凝縮させる凝縮器と、
凝縮された冷媒を膨張させる膨張弁と、
膨張させた冷媒を蒸発させる蒸発器と、
を有し、前記遠心式圧縮機、前記凝縮器、前記膨張弁および前記蒸発器が順次接続されて構成された冷媒循環回路内を有する熱源機の運転方法であって、
化合物Aまたは化合物Bのいずれかを90GC%より多く含む前記冷媒を選択して前記冷媒循環回路内に封入し、
前記蒸発器で熱を回収し、該回収した熱により前記凝縮器で150℃以上の温熱を出力し、
前記化合物Aは、2,2,2,2’,2’,2’−ヘキサフルオロイソプロピル−メチル−エーテルであり、
前記化合物Bは、3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、(E)−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、または(Z)−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテンである熱源機の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱源機およびその運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
温熱を供給する方法として、ヒートポンプ(熱源機)を用いることが知られている。ヒートポンプは、従来のボイラーよりも加熱能力あたりの二酸化炭素(CO)排出量を抑えることができる。
【0003】
ヒートポンプでは、ハイドロフルオロカーボン(HFC)またはハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)などが熱作動媒体(冷媒)として用いられている。HFCには、R134a、R410A、R245faおよびR32などがある。HCFCは、R123などである。
【0004】
HFCおよびHCFCは高い地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential)を有する。例えば、R134a、R410A、R245faおよびR32のGWPは、それぞれ1300、1923、858、677である(IPCC5ht参照)。例えば、R123は、GWPが79であるが、オゾン破壊係数(ODP:Ozone−Depleting Potential)は0.33であり、モントリオール条約の全廃の対象物質である。GWPの高い冷媒の使用やオゾン層を破壊する冷媒は、環境負荷の観点から望ましくない。特許文献1では、環境への負荷が小さい熱媒体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−5419号公報(段落[0028])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在、家庭用または業務用等のボイラーの代替として、小容量かつ比較的低温の温熱(100℃以下)を供給するヒートポンプが実用化されている。しかしながら、大容量かつ高温(100℃超)での使用が要求される産業分野でのヒートポンプの普及は進んでいない。特に150℃を超える高温の温熱を供給するヒートポンプは実用化されていない。そのため、高温の温熱を出力できるヒートポンプの実現が求められている。
【0007】
高温の温熱を出力するヒートポンプでは、冷媒も高温となる。冷媒が高温になると、(1)冷媒が異性化または分解しやすくなる、(2)冷媒の圧力が高くなりヒートポンプに使用する弁などの機能品に高耐圧が要求される、(3)大容量の排熱回収型ヒートポンプにした場合、高圧で、且つ、大容積の圧力容器が設置されるためより安全の確保が必要となるといった問題がある。
【0008】
家庭用の暖房または給湯用のヒートポンプでは、自然冷媒または有機化合物の冷媒が使用されている。自然冷媒はCOである。有機化合物の冷媒は、R410AまたはR32等である。COの標準沸点および臨界温度は、それぞれ−78.5℃、31.05℃である。R410Aの標準沸点および臨界温度は、それぞれ−48.5℃、72.5℃である。R32の標準沸点および臨界温度は、それぞれ−51.65℃、78.105℃である。これらの冷媒は、三者とも高温でのヒートポンプ作動時に圧力が高くなるため、大容量のヒートポンプへの適用は現実的ではない。
【0009】
空調用途等のヒートポンプでは、R123、R245fa、R1234yfまたはR1234ze(E)等が使用されている。R123の標準沸点および臨界温度は、それぞれ27.7℃、81.5℃である。R245faの標準沸点および臨界温度は15.3℃、154℃である。上記のようにR123およびR245faは圧力の低い冷媒である。しかしながら、R123は、GWPが低いものの、オゾン破壊係数(ODP:Ozone−Depleting Potential)が0.33であり、モントリオール条約の全廃の対象物質である。R245faはODPが0であるものの、GWPが高い。R1234yfおよびR1234ze(E)は、GWPが低く(0または1)環境への負荷は小さいが、高温条件では高圧となる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、環境負荷を低く抑え、且つ、高温の温熱を出力できる熱源機およびその運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の熱源機およびその運転方法は以下の手段を採用する。本発明は、冷媒を圧縮する遠心式圧縮機と、圧縮された冷媒を凝縮させる凝縮器と、凝縮された冷媒を膨張させる膨張弁と、膨張させた冷媒を蒸発させる蒸発器と、を有し、遠心式圧縮機、凝縮器、膨張弁および蒸発器が順次接続されて構成された冷媒循環回路内に封入された冷媒が、化合物Aまたは化合物Bのいずれかを90GC%より多く含み、前記蒸発器で熱を回収し、該回収した熱により前記凝縮器で150℃以上の温熱を出力する熱源機を提供する。
【0012】
本発明の一態様において、前記化合物Aが6個のフッ素原子およびメトキシ基を含む化合物である。前記化合物Aは2,2,2,2’,2’,2’−ヘキサフルオロイソプロピル−メチル−エーテルである。
【0013】
本発明の一態様において、前記化合物Bが、6個のフッ素原子および炭素数5の環状構造を含む化合物、または8個のフッ素原子と5個の炭素原子および分子内二重結合を含む化合物である。前記化合物Bは3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロシクロペンタン、(E)−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、または(Z)−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテンである。
【0014】
本発明の参考態様において、前記化合物Cが1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンであってよい。
【0015】
本発明は、冷媒を圧縮する遠心式圧縮機と、圧縮された冷媒を凝縮させる凝縮器と、凝縮された冷媒を膨張させる膨張弁と、膨張させた冷媒を蒸発させる蒸発器と、を有し、前記遠心式圧縮機、前記凝縮器、前記膨張弁および前記蒸発器が順次接続されて構成された冷媒循環回路内を有する熱源機の運転方法であって、化合物Aまたは化合物Bのいずれかを90GC%より多く含む前記冷媒を選択して前記冷媒循環回路内に封入し、前記蒸発器で熱を回収し、該回収した熱により前記凝縮器で150℃以上の温熱を出力する熱源機の運転方法を提供する。
【0016】
本発明では、前記蒸発器で熱を回収し、該回収した熱により前記凝縮器で150℃以上の温熱を出力する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、冷媒の沸点および臨界温度を上記範囲とすることで、高温の作動環境下における冷媒圧力を、従来の冷媒よりも低く抑えられる。それにより、従来の熱源機と同程度の冷媒圧力で、150℃を超える温熱を出力できる。
【0018】
本発明の一態様によれば、圧縮機を遠心式とすることで動作係数を向上できる。それにより、圧力の低い冷媒を用いた場合であっても、熱源機が大型化するのを避けられる。
【0019】
化合物Aおよび化合物Bは150℃以上の高温環境でも安定な性質を示すものである。化合物Aまたは化合物Bを含む冷媒を用いることで、安定して長期間運転できる熱源機となる。
【0020】
2,2,2,2’,2’,2’−ヘキサフルオロイソプロピル−メチル−エーテル、3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロシクロペンタン、(E)−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、(Z)−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン、および1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、GWPの小さい化合物である。そのような化合物を冷媒として用いることで、環境負荷の小さい熱源機を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る熱源機のヒートポンプサイクル図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係る熱源機およびその運転方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る熱源機のヒートポンプサイクル図である。
【0023】
熱源機1は、遠心式圧縮機2と、高圧高温の冷媒ガスにより熱媒を加熱する高温凝縮器3と、中圧中温の冷媒ガスにより熱媒を加熱する中温凝縮器4と、高圧段膨張弁5と、低圧段膨張弁11と、蒸発器7と、制御装置(図示せず)とを備えている。熱源機1は、遠心式圧縮機2、高温凝縮器3、中温凝縮器4、高圧段膨張弁5、低圧段膨張弁11、および蒸発器7が順次配管で接続されてなる冷媒循環回路(ヒートポンプサイクル)8を備えている。ヒートポンプサイクル内には、冷媒が封入されている。
【0024】
遠心式圧縮機2は、1段または多段で冷媒を圧縮する機器である。本実施形態において遠心式圧縮機2は、2段ターボ圧縮機である。圧縮機を遠心式とすることおよび熱媒をカスケード的に昇温する抽気サイクルで、熱源機1の動作係数(COP:Coefficient Of Performance)を3以上にすることが可能となる。遠心式圧縮機2の形状には、機械加工によるオープンインペラを用いる。遠心式圧縮機2の材質は、アルミ合金(A6061、A7075、A2618)または鉄(SCM435)である。
【0025】
遠心式圧縮機2の流量係数は0.1以上とする。通常の圧縮機では流量係数0.08程度を設計点とするが、圧力の低い冷媒を用いる場合は、冷媒の比体積が大きいため、加熱能力を得るために羽根車が大型化してしまう。遠心式圧縮機2の流量係数を0.1以上とすることで、熱源機1の大型化を抑制できる。
【0026】
遠心式圧縮機2は、回転軸6を介して電動機9により駆動される。
【0027】
電動機9は、例えばインバータ駆動である。電動機9には、該電動機9を冷却する構成が備わっている(図示省略)。該冷却する構成は、電動機9の固定子側面およびコイル部、更に電動機9の固定子および回転子の間に、後述する高温凝縮器3で凝縮液化した冷媒を減圧膨張させたものを通過させ、電動機9を冷却する。
【0028】
回転軸6は、転がり軸受、ころ軸受、すべり軸受または磁気軸受で支持されている。それにより機械損失を低減することができる。回転軸6は、電動機9と直結しているか、または増速歯車を介して電動機9に接続されている。
【0029】
軸受および増速歯車は、潤滑油を循環させて冷却および潤滑され得る。潤滑油は、冷媒と相溶性がある鉱物油、ポリオールエステルまたはアルキルベンゼン油などが好ましい。
【0030】
遠心式圧縮機2は、吸入口2A、吐出口2B、および図示省略の第1羽根車と第2羽根車との間に設けられる中間吐出口2Cを備えている。遠心式圧縮機2は、吸入口2Aから吸い込んだ低圧ガス冷媒を第1羽根車および第2羽根車の回転により順次遠心圧縮し、圧縮した高圧ガス冷媒を吐出口2Bから吐き出すように構成されている。なお、第1段羽根車で圧縮した中間圧ガス冷媒の一部が中間吐出口2Cから吐出される。第1羽根車および第2羽根車の前には、それぞれ吸込ベーンが取り付けられている(図示省略)。吸込ベーンの開度調整により、遠心式圧縮機2への吸込風量が制御される。
【0031】
遠心式圧縮機2の吐出口2Bから吐き出された高圧ガス冷媒は、高温凝縮器3へと導かれる。
また、遠心式圧縮機2の中間吐出口2Cから吐き出された中圧ガス冷媒は中間吐出回路12を介して中温凝縮器4へと導かれる。
【0032】
高温凝縮器3および中温凝縮器4は、プレート式熱交換器であり、遠心式圧縮機2から供給される高圧ガス冷媒および中間圧ガス冷媒と温水回路10を介して循環される熱媒(第1非冷媒)とを段階的に熱交換させることにより、高圧冷媒ガスおよび中間圧冷媒ガスを凝縮液化するものである。熱媒は、中温凝縮器4で70℃程度から100℃以上の中間温度まで加熱され、高温凝縮器3は、150℃以上、好ましくは200℃以上の温熱を生成できる。高温熱媒ポンプ(第1非冷媒ポンプ)14によって供給される高温熱媒の流れと高圧ガス冷媒の流れとは、向流となるようにすることが望ましい。それぞれのプレート式熱交換器は1つに限定されず、複数配置されてもよい。
【0033】
高温凝縮器3の後流側には、高温凝縮器3で凝縮液化した液冷媒が、減圧膨張され、潤滑油と熱交換を行うための熱交換器がある(図示省略)。該熱交換器の伝熱面を隔てた一方の側の通路に減圧膨張された冷媒が導かれ、他方の側の通路には潤滑油が導かる。このように減圧膨張させた冷媒により潤滑油が冷却される。
【0034】
高温凝縮器3で凝縮液化した液冷媒は、高圧段膨張弁5を通過することにより、減圧膨張され、中温凝縮器4で凝縮液化した液冷媒と合流する。合流した液冷媒は低圧段膨張弁11を通過することにより、減圧膨張して蒸発器7に供給される。なお、更なる加熱性能の向上のため、合流後の液冷媒と中温凝縮器4に入る前の熱媒とを熱交換し、熱媒の予加熱を行っても良い(図示省略)。
【0035】
蒸発器7は、プレート式熱交換器であり、低圧段膨張弁11から導かれた冷媒と熱源水回路13を介して循環される熱源水(第2非冷媒)とを熱交換させることにより、冷媒を蒸発させ、その蒸発潜熱により熱源水を冷却するものである。なお、熱源水ポンプ(第2非冷媒ポンプ)15によって供給される熱源水の流れと冷媒の流れとは、向流となるようにすることが望ましい。
【0036】
高圧段膨張弁5および低圧段膨張弁11は、固定オリフィス、電動ボール弁、またはステッピングモータ式ニードル弁である。
【0037】
図示省略の制御装置は、マイコン基板を備えている。各吸込ベーンの開度、各膨張弁の開度、および電動機回転数は、制御装置のマイコン基板で演算、制御される。それにより、部分負荷運転においても高COPを達成できる。
【0038】
なお、遠心式圧縮機2が多段圧縮機である場合、熱源機1は凝縮器で液化された液冷媒のすべてを高圧膨張弁で減圧膨張させ、気化したガス冷媒(中間圧冷媒)を圧縮機の中間吸込口に導き、分離した液冷媒を低圧段膨張弁で再度減圧膨張して蒸発器に供給する自然膨張方式のエコノマイザサイクルや、高温凝縮器で液化された液冷媒の一部を分岐し、減圧膨張させた後、主回路を流れる冷媒液と熱交換し、主回路の液冷媒を過冷却することにより蒸発したガス冷媒(中間圧冷媒)を圧縮機の中間吸込口に導き、過冷却された主回路の液冷媒を減圧膨張して蒸発器に供給する中間冷却方式のエコノマイザサイクルとしてもよい。また、遠心式圧縮機2の吸込み冷媒ガスの加熱を行うインタークーラを備えていてもよい(図示省略)。それにより、圧縮機吐出のガス冷媒温度を高くし、より高い温度の温熱を供給することができる。
【0039】
ヒートポンプサイクル8内に配置(封入)された冷媒は、化合物A、化合物Bまたは化合物Cを主成分として含む。化合物A、化合物Bまたは化合物Cは、冷媒(100GC%)中に50GC%より多く、好ましくは75GC%より多く、更に好ましくは90GC%より多く含まれていることが好ましい。
【0040】
化合物A、化合物Bまたは化合物Cは、有機化合物である。化合物A、化合物Bまたは化合物Cは、沸点が20℃以上、且つ、臨界温度が180℃以上である。化合物A、化合物Bまたは化合物Cは、熱源機の作動環境下での圧力が5MPa以下となる性質を有する。化合物A、化合物Bまたは化合物CのGWPは、150以下である。化合物A、化合物Bまたは化合物Cのオゾン破壊係数(ODP:Ozone−Depleting Potential)は略0である。略0とは、規制対象とならない数値であればよく、0.005未満を含む。化合物A、化合物Bまたは化合物Cの純度は、好ましくは97GC%以上、より好ましくは99GC%以上、更に好ましくは99.9GC%以上である。
【0041】
化合物Aは、4個または5個の炭素原子および6個以上のフッ素原子と1個以上の酸素原子を含む。好ましくは、化合物Aは、6個のフッ素原子およびメトキシ基を含む化合物である。具体的に、化合物Aは2,2,2,2’,2’,2’−ヘキサフルオロイソプロピル−メチル−エーテル(HFE−356mmz,COF)などである。HFE−356mmzの標準沸点(大気圧での沸点)は50℃である。HFE−356mmzの臨界温度は、186℃である。HFE−356mmzの地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential)は25である。
【0042】
化合物Bは、4個または5個の炭素原子と6個以上のフッ素原子とを含む。好ましくは、化合物Bは、6個のフッ素原子および炭素数5の環状構造を含む化合物B1、または8個のフッ素原子と5個の炭素原子および分子内二重結合を含む化合物B2である。
【0043】
具体的に、化合物B1は3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン(3,3,4,4,5,5−HFCPE,C)または1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロシクロペンタン(1,1,2,2,3,3−HFCPA,C)などである。3,3,4,4,5,5−HFCPEの標準沸点は68℃である。3,3,4,4,5,5−HFCPEの臨界温度は、238℃である。3,3,4,4,5,5−HFCPEのGWPは、33である。1,1,2,2,3,3−HFCPAの標準沸点は88℃である。1,1,2,2,3,3−HFCPAの臨界温度は、266℃である。1,1,2,2,3,3−HFCPAのGWPは125である。
【0044】
具体的に、化合物B2は(E)−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン(HFO−1438mzz(E),C)、または(Z)−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン(HFO−1438mzz(Z),C)などである。HFO−1438mzz(E)の標準沸点は、29.5℃である。
【0045】
化合物Cは、3個の炭素原子、2個の塩素原子、3個のフッ素原子および分子内二重結合を含む。具体的に、化合物Cは1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO−1223xd(Z),CHCl)などである。HCFO−1223xd(Z)の標準沸点(大気圧での沸点)は54℃である。HCFO−1223xd(Z)の臨界温度は、222℃である。
【0046】
化合物A、化合物Bまたは化合物Cを含む冷媒は、150℃を超える高温環境下でも安定である。そのような冷媒をヒートポンプサイクルに封入した熱源機は、安定して長期間運転することが可能である。化合物A、化合物Bまたは化合物Cは、GWPが低いため環境負荷の小さい熱源機を実現できる。
【0047】
冷媒は、添加物を含んでいてもよい。添加物は、ハロカーボン類、その他のハイドロフルオロカーボン類(HFC)、アルコール類、飽和炭化水素類などが挙げられる。
【0048】
<ハロカーボン類、および、その他のハイドロフルオロカーボン類>
ハロカーボン類としては、ハロゲン原子を含む塩化メチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等を挙げることができる。
ハイドロフルオロカーボン類としては、ジフルオロメタン(HFC−32)、1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタン(HFC−125)、フルオロエタン(HFC−161)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、ジフルオロエタン(HFC−152a)、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFC−227ea)、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−236ea)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236fa)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245eb)、1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245ca)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソブタン(HFC−356mmz)、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(HFC−43−10−mee)等を挙げることができる。
【0049】
<アルコール>
アルコールとしては、炭素数1〜4のメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、ペンタフルオロプロパノール、テトラフルオロプロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール等を挙げることができる。
【0050】
<飽和炭化水素>
飽和炭化水素としては、炭素数3以上8以下のプロパン、n−ブタン、i−ブタン、ネオペンタン、n−ペンタン、i−ペンタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、n−ヘキサン、およびシクロヘキサンを含む群から選ばれる少なくとも1以上の化合物を混合することができる。これらのうち、特に好ましい物質としてはネオペンタン、n−ペンタン、i−ペンタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサンが挙げられる。
【0051】
<熱安定性>
JIS K 2211に準拠した方法で熱安定性試験を実施した。
(試験1)
試験容器を減圧して真空とし、ここに試験冷媒約14gを入れて密封した。密封した試験容器内を所定温度で18時間加熱した。加熱前後における試験冷媒の純度を測定して熱安定性を評価した。加熱後の試験冷媒を大気雰囲気下で2か月保存し、色の変化を目視で確認した。
【0052】
試験冷媒は、3,3,4,4,5,5−HFCPEとした。試験容器には、ステンレス鋼(SUS316)製チューブ(内容積約20mL)を用いた。純度の測定には、水素炎イオン化検出器(FID)を備えるガスクロマトグラフ(島津製作所製,2014S)を用いた。
【0053】
表1に試験条件および純度測定の結果を示す。
【表1】
【0054】
表1によれば、試験冷媒の純度は加熱前後で変化していなかった。これにより、3,3,4,4,5,5−HFCPEは、200℃から300℃の温度範囲で安定であることが確認された。200℃および220℃で加熱した試験冷媒は、大気雰囲気下で保存した後も色が変化することはなかった。
【0055】
(試験2)
試験冷媒は、HFO−1438mzz(Z)が混在するHFO−1438mzz(E)とした。試験容器は、上記(試験1)と同様のものを用いた。
【0056】
試験容器を減圧して真空とし、ここに試験冷媒約2gを入れて密封した。密封した試験容器内を250℃で72時間加熱した。加熱前後における試験冷媒の純度を測定して熱安定性を評価した。純度の測定には上記(試験1)と同様にガスクロマトグラフを用いた。pH試験紙を用い、加熱前後の試験冷媒のpHを確認した。
【0057】
表2に試験2の純度測定の結果を示す。
【表2】
【0058】
表2によれば、試験冷媒の純度は加熱前後でほとんど変化していなかった。これにより、HFO−1438mzz(E)およびHFO−1438mzz(Z)は、250℃で安定であることが確認された。加熱前後の試験冷媒のpHは、いずれも約pH7程度であった。これにより、加熱による酸生成を抑制できていることが確認された。
【0059】
(比較試験)
参考冷媒としてHFO−1233zd(E)(沸点18.3℃、臨界温度165.6℃)を用いて、熱安定性を確認する試験を実施した。試験容器は、上記(試験1)と同様のものを用いた。触媒として棒状の鉄、銅、およびアルミニウムを用いた。
【0060】
参考冷媒および触媒を試験容器に入れて密封した。密封した試験容器内を液体窒素で十分に冷却しながら真空脱気をした後、所定温度で14日間加熱した。加熱前後における参考冷媒の純度を測定して熱安定性を評価した。純度の測定には上記(試験1)と同様にガスクロマトグラフを用いた。加熱後の参考冷媒の色の変化を目視で確認した。
【0061】
表3に試験条件および純度測定の結果を示す。
【表3】
【0062】
表3によれば、参考冷媒の純度は加熱により低下した。特に187℃以上の温度範囲で純度低下が顕著であった。225℃で加熱した後の参考冷媒の色は、加熱前の参考冷媒と比較して変化していた。
【符号の説明】
【0063】
1 熱源機
2 遠心式圧縮機
2A 吸入口
2B 吐出口
2C 中間吐出口
3 高温凝縮器
4 中温凝縮器
5 高圧段膨張弁
6 回転軸
7 蒸発器
8 ヒートポンプサイクル(冷媒循環回路)
9 電動機
10 高温熱媒回路
11 低圧段膨張弁
12 中間吐出回路
13 熱源水回路
14 高温熱媒ポンプ
15 熱源水ポンプ
図1