特許第6749809号(P6749809)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6749809
(24)【登録日】2020年8月14日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】堰堤及び堰堤の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/02 20060101AFI20200824BHJP
【FI】
   E02B7/02 B
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-151148(P2016-151148)
(22)【出願日】2016年8月1日
(65)【公開番号】特開2018-21304(P2018-21304A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】514328975
【氏名又は名称】嶋 丈示
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100178283
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 孝太
(72)【発明者】
【氏名】嶋 丈示
【審査官】 松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−314907(JP,A)
【文献】 特開2014−173232(JP,A)
【文献】 特開平03−072107(JP,A)
【文献】 特開平11−209987(JP,A)
【文献】 特開2011−247079(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02631365(EP,A2)
【文献】 特開2012−207434(JP,A)
【文献】 特開2008−144566(JP,A)
【文献】 特開2006−283365(JP,A)
【文献】 特開昭62−288259(JP,A)
【文献】 実開昭62−009642(JP,U)
【文献】 特開2005−068917(JP,A)
【文献】 特開平09−143956(JP,A)
【文献】 特開2003−306934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量により土石流や地滑りなどの地形変形を防止する堰堤であって、
鋼製条材が組み合わされた鋼製フレームと、
この鋼製フレームに取り付けられた複数のはらみ防止材と、
施工現場の現地土砂がセメントミルクで硬化されたソイルセメントと、を備え、
前記ソイルセメントは、布製型枠に充填されて前記複数のはらみ防止材の間に形成された空間内に装填されており、
前記鋼製条材には、前記布製型枠から染み出した余剰水を排水する溝又は空洞が形成されていること
を特徴とする堰堤。
【請求項2】
前記鋼製条材は、余剰水を排水する方向へ下るように傾斜して設置されていること
を特徴とする請求項1に記載の堰堤。
【請求項3】
前記布製型枠は、少なくとも一面が前記はらみ防止材に当接して前記布製型枠同士が離間していること
を特徴とする請求項1又は2に記載の堰堤。
【請求項4】
前記鋼製条材は、ウェブが前記溝の底面として設置された形鋼であること
を特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の堰堤。
【請求項5】
前記鋼製条材は、管内が前記空洞となり表面に多数の孔が穿設された鋼管であること
を特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の堰堤。
【請求項6】
前記鋼管は、一部が地中に埋設された暗渠となっており、外部へ排水する排水管を兼用していること
を特徴とする請求項5に記載の堰堤。
【請求項7】
重量により土石流や地滑りなどの地形変形を防止する堰堤の構築方法であって、
鋼製条材を組み立てて鋼製フレームを構築する鋼製フレーム構築工程と、
前記鋼製フレームに複数のはらみ防止材を取り付けて設置するはらみ防止材設置工程と、
施工現場の現地土砂に配合設計より高い水セメント比のセメントミルクを加えて撹拌して流動化ソイルセメントを製造する流動化ソイルセメント製造工程と、
前記流動化ソイルセメントを布製型枠に充填するソイルセメント充填工程と、
充填された前記流動化ソイルセメントを前記布製型枠ごと吊り上げて前記複数のはらみ防止材の間に形成された空間内に装填する布製型枠装填工程と、を備え、
前記布製型枠から前記流動化ソイルセメントの余剰水を染み出させて、前記鋼製フレームに形成された溝又は空洞を通じて前記余剰水を排水すること
を特徴とする堰堤の構築方法。
【請求項8】
前記布製型枠装填工程では、前記布製型枠の一面が前記はらみ防止材に当接して前記布製型枠同士が離間するように、前記空間に前記布製型枠を一列又は二列で装填すること
を特徴とする請求項7に記載の堰堤の構築方法。
【請求項9】
前記鋼製フレーム構築工程では、前記溝又は前記空洞が排水方向へ下るように傾斜させて前記鋼製フレームを構築すること
を特徴とする請求項7又は8に記載の堰堤の構築方法。
【請求項10】
前記布製型枠装填工程では、前記空間内に装填した前記布製型枠からの余剰水の染み出しが終了した後、又は前記流動化ソイルセメントの水和反応が開始され所定強度が発現された後、前記布製型枠より上層の布製型枠を装填すること
を特徴とする請求項7ないし9のいずれかに記載の堰堤の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動化ソイルセメントを用いた堰堤及び堰堤の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、治山工事や砂防工事などにおいて、バックホウ(パワーショベル)のバケットで現地発生土砂とセメント粉を攪拌し、転圧ローラーにより締固め、治山・砂防用の土木構造物を構築したりするINSEM工法や、バックホウ又はツインヘッドの撹拌装置を装着した重機により、現地発生土砂とセメントミルク等を撹拌混合させて、地盤改良を施したり、治山・砂防用の土木構造物を構築したりするISM工法が知られている。
【0003】
このうち、ISM工法では、基礎地盤の土砂を削岩しながらセメントミルクと混合させてソイルセメントとして固化させて地盤改良を行ったり、現地土砂とセメントミルクを混合して型枠に流し込んで治山・砂防用の構造物を構築したり、して工事が行われている。
【0004】
このようなISM工に用いられる地盤改良用又は土木構造物構築用のソイルセメントは、現地土砂の粒径や含水率による施工性の観点から高い流動性が求められており、水セメント比の高いセメントミルクに現地土砂を混合してスランプ値が20cm程度以上の流動化ソイルセメントが用いられているのが現状である。
【0005】
しかし、スランプ値が高いと、厳冬期には、余剰水が凍結することにより膨張し、ソイルセメントからなる堰堤にひび割れが生じてしまうという問題があった。また、スランプ値が高いと、夏期においても、ソイルセメントが乾燥収縮を起こし、堰堤にひび割れが生じてしまうという問題も生じる。
【0006】
このように、ソイルセメントに余剰水が多いと品質に問題が生じるおそれが高く、施工性を確保しつつソイルセメントから余剰水を極力減らすことが課題となっている。しかし、治山や砂防工事の施工現場においては、施工性、即ち、ソイルセメントの流動性を確保することを優先させており、余剰水がどれくらい発生していることすら把握されていないのが現状である。
【0007】
このため、加水量の閾値が不明のまま余剰水が出ないように水セメント比の低いセメントミルクを現地土砂と混合すれば、流動性が損なわれて施工性が著しく劣り、堰堤を構築することが困難となるか、施工できないという問題があった。
【0008】
また、特許文献1には、強度の大きな枠材に、透水性と通気性を有する板材を取り付けて型枠を組み立て、その型枠の内側にコンクリートを打設するコンクリートの打設方法が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲等参照)。
【0009】
特許文献1に記載のコンクリートの打設方法によれば、打設時には水セメント比が高く流動性の高いコンクリートであるため、ワーカビリティーが良好であるとともに、打設後に水和反応しない余剰水を排除できるので、品質の高いコンクリート構造物を提供することができる。しかし、あくまでも、細骨材などの骨材が特定されたコンクリートの打設方法であり、組成が特定されていない現地土砂を用いたソイルセメントにそのまま適用できるものではなかった。特に、特許文献1に記載のコンクリートの打設方法は、枠内に流動性の高いコンクリートを詰めるが、排水箇所が透水性の壁のみであり、擁壁のような薄い構造物には適用できるが、堰堤のような厚みのある構造物では、堰堤の表面近くのコンクリートの余剰水は排除できるが、堰堤内部の排水ができないため、余剰水の少ない表面と余剰水の多い内部の2つの品質材料ができあがり堰堤として重要な一体性が確保できないという問題があった。
【0010】
さらに、特許文献2には、水セメント比が65〜80%の高流動化モルタルを布製型枠にポンプで注入し、流動性を確保しつつセメントの使用量と材料分離を低減することのできる布製型枠を用いた高流動化モルタルの成型法が開示されている(特許文献2の特許請求の範囲等参照)。
【0011】
しかし、特許文献2に記載の高流動化モルタルの成型法は、材料分離やブリージングを抑えて従来のモルタルの流動性は確保できるものの、あくまでも細骨材が限定されたモルタルに関するものであり、流動化ソイルセメントに適用できるのものではなかった。その上、モルタルを布製型枠に打設すると水和反応に関係しない余剰水が布から染み出すため、結果的に水セメント比が向上し、発現強度が高くなることも知られている。しかし、未だ固まらないモルタルの重力が圧力として布製型枠に作用するため、布製型枠は、大きな断面とすることができないとともに、厚みも30cm程度が限界となっており、背の高い構造物には、そのまま使用することができないという問題があった。特に、特許文献2に記載の高流動化モルタルの成型法は、厳密に粒度調整された骨材を対象としており、現地発生土砂を用いたソイルセメントでは、細粒土砂の混在が当たり前で厳密な粒度調整ができないという問題がった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭62−288259号公報
【特許文献2】特開昭63−64950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、施工現場の現地土砂を利用し、充填時に流動性の高い流動化ソイルセメントを用いて高さ30cmを超える堰堤を構築することができ、充填後に余剰水を排除することができる流動化ソイルセメントを用いた堰堤の構築方法及び堰堤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1発明に係る堰堤は、重量により土石流や地滑りなどの地形変形を防止する堰堤であって、鋼製条材が組み合わされた鋼製フレームと、この鋼製フレームに取り付けられた複数のはらみ防止材と、施工現場の現地土砂がセメントミルクで硬化されたソイルセメントと、を備え、前記ソイルセメントは、布製型枠に充填されて前記複数のはらみ防止材の間に形成された空間内に装填されており、前記鋼製条材には、前記布製型枠から染み出した余剰水を排水する溝又は空洞が形成されていることを特徴とする。
【0015】
第2発明に係る堰堤は、第1発明において、前記鋼製条材は、余剰水を排水する方向へ下るように傾斜して設置されていることを特徴とする。
【0016】
第3発明に係る堰堤は、第1発明又は第2発明において、前記布製型枠は、少なくとも一面が前記はらみ防止材に当接して前記布製型枠同士が離間していることを特徴とする。
【0017】
第4発明に係る堰堤は、第1発明ないし第3発明のいずれかの発明において、前記鋼製条材は、ウェブが前記溝の底面として設置された形鋼であることを特徴とする。
【0018】
第5発明に係る堰堤は、第1発明ないし第3発明のいずれかの発明において、前記鋼製条材は、管内が前記空洞となり表面に多数の孔が穿設された鋼管であることを特徴とする。
【0019】
第6発明に係る堰堤は、第5発明において、前記鋼管は、一部が地中に埋設された暗渠となっており、外部へ排水する排水管を兼用していることを特徴とする。
【0020】
第7発明に係る堰堤の構築方法は、重量により土石流や地滑りなどの地形変形を防止する堰堤の構築方法であって、鋼製条材を組み立てて鋼製フレームを構築する鋼製フレーム構築工程と、前記鋼製フレームに複数のはらみ防止材を取り付けて設置するはらみ防止材設置工程と、施工現場の現地土砂に配合設計より高い水セメント比のセメントミルクを加えて撹拌して流動化ソイルセメントを製造する流動化ソイルセメント製造工程と、前記流動化ソイルセメントを布製型枠に充填するソイルセメント充填工程と、充填された前記流動化ソイルセメントを前記布製型枠ごと吊り上げて前記複数のはらみ防止材の間に形成された空間内に装填する布製型枠装填工程と、を備え、前記布製型枠から前記流動化ソイルセメントの余剰水を染み出させて、前記鋼製フレームに形成された溝又は空洞を通じて前記余剰水を排水することを特徴とする。
【0021】
第8発明に係る堰堤の構築方法は、第7発明において、前記布製型枠装填工程では、前記布製型枠の一面が前記はらみ防止材に当接して前記布製型枠同士が離間するように、前記空間に前記布製型枠を一列又は二列で装填することを特徴とする。
【0022】
第9発明に係る堰堤の構築方法は、第7発明又は第8発明において、前記鋼製フレーム構築工程では、前記溝又は前記空洞が排水方向へ下るように傾斜させて前記鋼製フレームを構築することを特徴とする。
【0023】
第10発明に係る堰堤の構築方法は、第7発明ないし第9発明のいずれかの発明において、前記布製型枠装填工程では、前記空間内に装填した前記布製型枠からの余剰水の染み出しが終了した後、又は前記流動化ソイルセメントの水和反応が開始され所定強度が発現された後、前記布製型枠より上層の布製型枠を装填することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
第1発明〜第6発明によれば、鋼製条材には、布製型枠から染み出した余剰水を排水する溝又は空洞が形成されているので、この溝又は空洞を通じてソイルセメントの充填後に水和反応に関与しない余剰水を排除することできる。つまり、施工現場の現地土砂を利用し、充填時に流動性の高い流動化ソイルセメントを用いて高さ30cmを超える堰堤を構築することができ、且つ、充填後に余剰水を排除することができる。また、充填時には水セメント比が高く流動性の高い流動化ソイルセメントを用いるため、ソイルセメント充填の作業性(ワーカビリティー)が良好である。このため、乾燥収縮や凍結によるひび割れ及び打設不良による断面欠損がなく、降水や風雪の浸食を防ぐことができる所定の強度が発現した品質が高く耐久性のある堰堤を提供することができる。
【0025】
特に、第2発明によれば、鋼製条材は、余剰水を排水する方向へ下るように傾斜して設置されているので、余剰水や降水が滞留することなく迅速に排水することができる。このため、雑菌やボウフラなどの繁殖を抑えることができ、堰堤周囲の環境が衛生的となる。
【0026】
特に、第3発明によれば、布製型枠は、少なくとも一面が前記はらみ防止材に当接して前記布製型枠同士が離間しているので、余剰水が布製型枠から染み出すことが阻害されるおそれがない。このため、水和反応が余剰水で阻害されるおそれもなくなり、さらに品質が高く耐久性のある堰堤を提供することができる。
【0027】
特に、第6発明によれば、外部へ排水する排水管を別途設ける必要がなくなり、コストダウンを図ることができる。
【0028】
第7発明〜第10発明によれば、施工現場の現地土砂を利用し、充填時に流動性の高い流動化ソイルセメントを用いて高さ30cmを超える堰堤を構築することができ、且つ、充填後に余剰水を排除することができる。また、充填時には水セメント比が高く流動性の高い流動化ソイルセメントを用いるため、ソイルセメント充填の作業性(ワーカビリティー)が良好である。このため、乾燥収縮や凍結によるひび割れ及び打設不良による断面欠損がなく、降水や風雪の浸食を防ぐことができる所定の強度が発現した品質が高く耐久性のある堰堤を提供することができる。
【0029】
特に、第8発明によれば、布製型枠装填工程では、前記布製型枠の一面が前記はらみ防止材に当接して前記布製型枠同士が離間するように、前記空間に前記布製型枠を一列又は二列で装填するので、余剰水が布製型枠から染み出すことが阻害されるおそれがない。このため、水和反応が余剰水で阻害されるおそれもなくなり、さらに品質が高く耐久性のある堰堤を提供することができる。
【0030】
特に、第9発明によれば、鋼製フレーム構築工程では、溝又は空洞が排水方向へ下るように傾斜させて前記鋼製フレームを構築するので、余剰水や降水が滞留することなく迅速に排水することができる。このため、雑菌やボウフラなどの繁殖を抑えることができ、堰堤周囲の環境が衛生的となる。
【0031】
特に、第10発明によれば、布製型枠装填工程では、空間内に装填した布製型枠からの余剰水の染み出しが終了した後、又は流動化ソイルセメントの水和反応が開始され所定強度が発現された後、上層の布製型枠を装填するので、上層のソイルセメントの重量の圧力でそれより下層の布製型枠が破裂するおそれが少なく安全に堰堤を構築することができる。また、構築時にソイルセメント部分が部分的に圧壊してそのまま硬化することを防ぐことができ、さらに品質が高く耐久性のある堰堤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の実施形態に係る堰堤を模式的に示した斜視図である。
図2】同上の堰堤の鋼製フレームのみを示す斜視図である。
図3】同上の鋼製フレームを構成する鋼製条材を示す斜視図である。
図4】同上の鋼製条材の変形例1を示す斜視図である。
図5】同上の鋼製条材の変形例2を示す斜視図である。
図6】同上の鋼製条材の変形例3を示す斜視図である。
図7】同上の鋼製条材の変形例4を示す斜視図である。
図8】同上の堰堤のはらみ防止材を主に示す斜視図である。
図9】本発明の実施形態に係る堰堤の構築方法の各工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態に係る堰堤及び堰堤の構築方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0034】
[堰堤]
先ず、図1図8を用いて、本発明の実施形態に係る堰堤について説明する。図1は、本実施形態に係る堰堤1を模式的に示した斜視図であり、図2は、堰堤1の鋼製フレーム2を示す斜視図である。
【0035】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る堰堤1は、鋼製フレーム2と、この鋼製フレーム2に取り付けられた複数のはらみ防止材3と、施工現場の現地土砂がセメントミルクで硬化されたソイルセメント4など、から構成されている。本実施形態に係る堰堤1は、治山、砂防、擁壁、又は護岸用として用いられ、重量により土石流や地滑りなどの地形変形を防止する機能を有している。
【0036】
(鋼製フレーム)
鋼製フレーム2は、図2に示すように、堰堤1の用途及び施工現場の地形に応じて、鋼製条材である鋼材20が、上下左右にジャングルジム状に組み合わされた枠体である。この鋼製フレーム2は、未だ硬化していないソイルセメントが充填された後述の布製型枠が挿置されても全体の形状が保持できるように、布製型枠を支持する機能を有している。
【0037】
図3は、本実施形態に係る鋼材20を示す斜視図である。本実施形態に係る鋼材20は、機械構造用角形鋼管(STKMR 400)や構造用角形鋼管(STKR 400)などの一般的な鋼製管材からなり、図3に示すように、溶融亜鉛めっきなどの防錆処理が施された断面矩形状の角形鋼管である。この鋼材20は、その外周面に、余剰水の集水用の多数の集水孔h1が穿設されており、管の内部の空洞h2が、余剰水を排水する空洞となっている。
【0038】
また、図2に示すように、軸方向が排水方向であるX方向に沿った梁材である鋼材20’は、鋼材20と同様の構成であるが、空洞h2が傾斜するように、X方向に進むにつれて下がるように傾斜して取り付けられている。この傾斜角度は、余剰水を排水可能な傾斜角度であればよいが、一般的には、水勾配として3/100程度以上の傾斜角度が必要である。この鋼材20’は、一部が地中に埋設された暗渠となっており堰堤1の外部へ排水する排水管(図示せず)と接続していてもよい。そうすることで、外部へ排水する排水管を別途設ける必要がなくなり、コストダウンを図ることができるからである。
【0039】
なお、この鋼材20の変形例としては、図4図7に示すような鋼材が挙げられる。即ち、本発明に係る鋼製条材は、鋼材20のようなで断面正方形状の角形鋼管に限られず、図4に示すような断面長方形状の角形鋼管からなる鋼材21や、図5に示すような円形鋼管からなる鋼材22など、鋼材20と相違する断面形状を有する鋼管が挙げられる。
【0040】
また、本発明に係る鋼製条材は、図6に示すようなH形鋼又はI形鋼からなる鋼材23や、図7に示すような溝形鋼又はリップ溝形鋼からなる鋼材24など、溝部を有する形鋼であっても構わない。要するに、本発明に係る鋼製条材は、軸方向に長く形成された鋼製の条材であればよい。
【0041】
以上、集水孔h1として円形の孔を例示したが、水平方向に長い長孔h3(図4参照)や、矩形状の角孔(図示せず)など、その他形状の孔であっても構わない。要するに、集水孔としては、管材の管厚を貫通する孔であればどのような形状の孔であってよい。また、図6図7に示すような、鋼製条材が、閉塞されていないウェブを底面とする溝部を有した形鋼であれば、余剰水が透過する集水孔を設ける必要もない。但し、溝部を有する形鋼であっても、集水孔を設けてもよいことは云うまでもない。
【0042】
(はらみ防止材)
図8は、堰堤1のはらみ防止材3を主に示す斜視図である。はらみ防止材3は、布製型枠がはらむのを防止する機能を有している部材であり、図8に示すように、本実施形態に係るはらみ防止材3は、溶接構造用圧延鋼材(SM400)や一般構造用圧延鋼材(SS400)などの一般的な鋼材からなる断面円形状の鋼棒である。
【0043】
勿論、本発明に係るはらみ防止材の断面形状は、矩形や多角形、その他、角パイプ、丸パイプなどの管状であっても構わない。また、本発明に係るはらみ防止材は、丸鋼に限られず、異形鋼棒や間隔を空けて取り付けられた平板、グレーチングの蓋材等、とすることもできる。要するに、本発明に係るはらみ防止材は、布製型枠と当接することにより布製型枠がはらむのを防止し、その部分において布製型枠同士を離間させることで余剰水が染み出るスペースを確保できる所定の曲げ強度を有した鋼材であればよい。
【0044】
(布製型枠)
本実施形態に係る布製型枠は、布を布団状に縫製した袋体であり、後述のソイルセメントが充填されて、ソイルセメントが硬化するまでの間、所定の形状を保持するとともに、布の隙間から水和反応と関係しない余剰水を染み出させて排除する機能を有している(図1参照)。
【0045】
勿論、本発明に係る布製型枠は、実施形態の袋状のものに限られず、繊維材を織ったり編んだりして成形された布製の袋状又は箱状のものであればよく、布も不織布であっても構わない。
【0046】
(ソイルセメント)
本実施形態に係るソイルセメント4は、施工現場の現地土砂に、配合設計のセメント比より高い水セメント比に調合した流動性の高いセメントミルクを混合した流動化ソイルセメントである。流動性が高いと、布製型枠への充填作業等の施工性(ワーカビリティー)が良好となり、打設不良等が起きにくいからである。
【0047】
このように、本実施形態に係るソイルセメント4では、現地土砂を利用するので施工時の残土発生量を大幅に削減することができる。このため、残土処分地を借りるなどの残土処分費を無くすか大幅に削減することができる。また、残土の搬出費用やコンクリートなどの骨材などの新設材料の搬入費用を低減することができる。その上、材料の搬出入が低減されることにより工期を短縮することもできる。このため、堰堤1の構築コストを大幅に削減することができる。
【0048】
ここで、ソイルセメント4に用いるセメントミルクは、普通ポルトランドセメントの粉体をミキサーや混ぜ棒等で撹拌して水と混ぜ合わせたものである。勿論、セメントミルクに添加するセメントは、水との水和反応により水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を溶出して硬化する難溶性、高アルカリ性の粉末であればよい。例えば、セメントとしては、普通、早強、中庸熱、超早強、及び低熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントにフライアッシュや高炉スラグ等の微粒子を混合した各種混合セメント、微粒子セメント等を用いることも可能である。
【0049】
また、このセメントミルクには、現地土砂の地質や、治山工事や砂防工事などの工事の状況、その他、六価クロム抑制、早期改善、有害物質対策など用途に応じて遅延剤、分散剤、保持剤、流動化剤、又は減水剤等の各種の混和剤を混和させてもよいことは云うまでもない。
【0050】
<実施形態に係る堰堤の作用効果>
以上説明した実施形態に係る堰堤1によれば、鋼製フレーム2の鋼製条材である鋼材20には、布製型枠から染み出した余剰水を排水する空洞h2が形成されているので、この空洞h2を通じてソイルセメント4の充填後に水和反応に関与しない余剰水を排除することできる。
【0051】
また、堰堤1によれば、鋼製フレーム2及びはらみ防止材3により、硬化前のソイルセメント4が充填された布製型枠を支持しているので、施工現場の現地土砂を利用して、前記作用効果を奏するとともに、施工性の良い流動化ソイルセメントを用いて高さ30cmを超える堰堤を構築することができる。その上、布製型枠は、少なくとも一面がはらみ防止材3に当接することにより、その部分において布製型枠同士が離間しているので、余剰水が布製型枠から染み出すことが阻害されるおそれがない。このため、水和反応が余剰水で阻害されるおそれもなくなり、さらに品質が高く耐久性のある堰堤を提供することができる。
【0052】
また、堰堤1によれば、布製型枠の充填時には水セメント比が高く流動性の高い流動化ソイルセメントを用いるため、ソイルセメント充填の作業性(ワーカビリティー)が良好である。
【0053】
その上、堰堤1によれば、前述のように、ソイルセメントの布製型枠への充填後に余剰水を排水できるので、乾燥収縮や凍結によるひび割れ及び打設不良による断面欠損がなく、降水や風雪の浸食を防ぐことができる所定の強度が発現した品質が高く耐久性のある堰堤を提供することができる。
【0054】
また、堰堤1によれば、鋼材20’の傾斜により、余剰水や降水が滞留することなく迅速に排水することができる。このため、雑菌やボウフラなどの繁殖を抑えることができ、堰堤周囲の環境が衛生的となる。
【0055】
[堰堤の構築方法]
次に、図9図1図2図8を用いて、本発明の実施形態に係る堰堤の構築方法について説明する。本実施形態に係る堰堤の構築方法により、前述の堰堤1を構築する場合で説明する。図9は、本発明の第1実施形態に係る流動化ソイルセメントの製造方法の各工程を示すフローチャートである。
【0056】
(1)鋼製フレーム構築工程
先ず、図9に示すように、本実施形態に係る堰堤の構築方法では、前述の鋼材20を組み立てて鋼製フレーム2を構築する鋼製フレーム構築工程を行う。具体的には、図2に示すように、堰堤1の設計図に応じて適切な長さに切断されるとともに予め集水孔h1が穿設され鋼材20を施工現場に搬入し、それらを上下左右に互いに溶接して接合し行き、鋼製フレーム2を組み立てる。
【0057】
このとき、X方向に沿った梁材である鋼材20’は、空洞h2が排水方向(X方向)に進むに従って下降するように、前述の所定角度で傾斜させて取り付ける。また、鋼材20’の下端を延長して堰堤1の外部へ排水する排水管を接続して暗渠とする。
【0058】
(2)はらみ防止材設置工程
次に、本実施形態に係る堰堤の構築方法では、図9に示すように、前工程で構築した鋼製フレーム2に複数のはらみ防止材3を取り付けて設置するはらみ防止材設置工程を行う。具体的には、図8に示すように、鋼製フレーム2のうち、上下に設置された2本の鋼材20間に丸鋼からなるはらみ防止材3を架け渡し、鋼材20とはらみ防止材3との接触部分を隅肉溶接で接合して取り付ける。この作業を繰り返し、所定の水平間隔をおいて複数本のはらみ防止材3を鋼製フレーム2に取り付け、はらみ防止材3で囲まれた布製型枠を挿置する空間Aと、余剰水を通水スペースである空間Bと、を形成する。
【0059】
なお、前述の鋼材20同士の接合、及び鋼製フレーム2(鋼材20)とはらみ防止材3との接合は、溶接に限られず、ボルト接合など、他の接合方法であってもよいことは云うまでもない。
【0060】
(3)流動化ソイルセメント製造工程
次に、本実施形態に係る堰堤の構築方法では、図9に示すように、施工現場の現地土砂にセメントミルクを加えて撹拌して流動化ソイルセメントを製造する流動化ソイルセメント製造工程を行う。
【0061】
具体的には、堰堤1の配合設計の水セメント比より高い水セメント比を設定して、その水セメント比となるように、セメント添加量を決め、セメントミルクを調合する。その後、堰堤1の構築に必要な量の現地土砂を、ミキサーや混ぜ棒等で撹拌して空練りした後、調合したセメントミルクを同様に撹拌しながら少量ずつ徐々に加えて水セメント比が高く流動性が高い流動化ソイルセメントを製造する。
【0062】
なお、ここで、現地土砂とは、治山工事や砂防工事などの施工現場等において、掘削等で発生する現地発生土砂や、自然堆積した状態の現地地層のそのままの土砂等を指している。
【0063】
また、前述のように、このセメントミルクには、現地土砂の地質や、治山工事や砂防工事などの工事の状況、その他、六価クロム抑制、早期改善、有害物質対策など用途に応じて遅延剤、分散剤、保持剤、流動化剤、又は減水剤等の各種の混和剤を混和させてもよい。
【0064】
(4)ソイルセメント充填工程
次に、本実施形態に係る堰堤の構築方法では、図9に示すように、前工程で製造した流動化ソイルセメントを前述の布製型枠に充填するソイルセメント充填工程を行う。
【0065】
具体的には、布団状の袋体の開口端から流動化ソイルセメントを流し込んで充填し、開口端を結束するなどして閉塞する。このとき、ソイルセメント4が、水セメント比が高く、流動性の高い流動化ソイルセメントとなっているので、袋体に流し込むことが可能となり、ソイルセメント充填の作業性(ワーカビリティー)が各段によいこととなる。
【0066】
(5)布製型枠装填工程
次に、本実施形態に係る堰堤の構築方法では、図9に示すように、前工程で布製型枠に充填された流動化ソイルセメントを、布製型枠ごと吊り上げて複数のはらみ防止材3の間に形成された空間A内に装填する布製型枠装填工程を行う。
【0067】
具体的には、図1図8に示すように、流動化ソイルセメントが充填された布製型枠を、クレーンなどの揚重装置で吊り上げて、鋼製フレーム2の空間A内に、一列又は二列で装填する。布製型枠を一列又は二列で装填するのは、はらみ防止材3に布製型枠の一面が当接して、空間Bにおいて布製型枠同士が一定距離離間するようにするためである。空間A内に布製型枠を三列以上装填すると、内側と外側の布製型枠同士が密着して布製型枠から余剰水が染み出すスペースが確保できない布製型枠が発生するからである。
【0068】
(6)余剰水排水工程
次に、本実施形態に係る堰堤の構築方法では、図9に示すように、前工程で空間Aに装填した布製型枠からソイルセメント4の余剰水を染み出させて、鋼製フレーム2に形成された空洞h2を通じて余剰水を排水する余剰水排水工程を行う。
【0069】
具体的には、前工程で空間Aに未だ固まらないソイルセメント4が充填された布製型枠を装填した後、所定期間(時間)放置し、水和反応に寄与しない余剰水が重量により布製型枠から染み出し、次層として装填した布製型枠の上方に、さらに布製型枠を装填しても下層の布製型枠が破裂しない程度の強度をソイルセメント4が発現するまで待つ。所定期間存置することで、布製型枠から染み出した余剰水が、空間B及び空洞h2を通って、排水されることとなる。
【0070】
(7)上層の布製型枠装填工程
次に、本実施形態に係る堰堤の構築方法では、前布製型枠装填工程で装填した布製型枠の上に、上層として布製型枠に充填された流動化ソイルセメントを、布製型枠ごと吊り上げて複数のはらみ防止材3の間に形成された空間A内に装填する布製型枠装填工程を行う。
【0071】
本工程の開始は、下層の布製型枠内のソイルセメント4が、上部に布製型枠ごと同じソイルセメント4の重量が載置されても、布製型枠が破裂しない程度の強度が発現したか否かにより判断する。この判断は、簡易的に、下層のソイルセメント4をハンマー等で叩いてその凹部のでき方等で判断したり、ソイルセメント4の材齢で判断したりすればよい。要するに、本工程は、下層の布製型枠内の流動化ソイルセメントの水和反応が開始され、所定強度が発現された後に行う。
【0072】
また、下層の布製型枠からの余剰水の染み出しが終了した時点をもって、所定強度が発現されたと判断してもよい。余剰水の染み出しが終了することは、水和反応がある程度進行し、一定程度の強度発現が認められるからである。
【0073】
このように、下層の布製型枠内のソイルセメント4の強度発現後に、上層の布製型枠の装填を行うので、上層のソイルセメントの重量の圧力でそれより下層の布製型枠が破裂するおそれが少なく安全に堰堤を構築することができる。また、構築時にソイルセメント部分が部分的に圧壊してそのまま硬化することを防ぐことができ、さらに品質が高く耐久性のある堰堤を提供することができる。
【0074】
以上説明した(5)布製型枠装填工程、(6)余剰水排水工程を繰り返し、鋼製フレーム2の上端付近まで、布製型枠を装填することにより、本実施形態に係る堰堤の構築方法が終了する。
【0075】
<実施形態に係る堰堤の構築方法の作用効果>
以上説明した実施形態に係る堰堤の構築方法によれば、施工現場の現地土砂を利用し、充填時に流動性の高い流動化ソイルセメントを用いて高さ30cmを超える堰堤を構築することができ、且つ、充填後に余剰水を排除することができる。また、充填時には水セメント比が高く流動性の高い流動化ソイルセメントを用いるため、ソイルセメント充填の作業性(ワーカビリティー)が良好である。このため、乾燥収縮や凍結によるひび割れ及び打設不良による断面欠損がなく、降水や風雪の浸食を防ぐことができる所定の強度が発現した品質が高く耐久性のある堰堤を提供することができる。
【0076】
また、実施形態に係る堰堤の構築方法によれば、布製型枠の一面がはらみ防止材3に当接して布製型枠同士が離間するように、空間Aに布製型枠を一列又は二列で装填するので、余剰水が布製型枠から染み出すことが阻害されるおそれがない。このため、水和反応が余剰水で阻害されるおそれもなくなり、さらに品質が高く耐久性のある堰堤を提供することができる。
【0077】
以上、実施形態に係る堰堤及び堰堤の構築方法について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0078】
1 :堰堤
2 :鋼製フレーム
20,20'、21、22、23、24 :鋼材(鋼製条材)
h1 :集水孔
h2 :空洞
h3 :長孔
3 :防止材
4 :ソイルセメント
A :空間
B :空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9