特許第6749868号(P6749868)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6749868フレークライニング用樹脂組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6749868
(24)【登録日】2020年8月14日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】フレークライニング用樹脂組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20200824BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20200824BHJP
【FI】
   C09D201/00
   C09D7/65
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-122367(P2017-122367)
(22)【出願日】2017年6月22日
(65)【公開番号】特開2019-6877(P2019-6877A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2019年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】515146660
【氏名又は名称】大日防蝕化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082429
【弁理士】
【氏名又は名称】森 義明
(74)【代理人】
【識別番号】100162754
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 真樹
(72)【発明者】
【氏名】小西 宏征
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−078466(JP,A)
【文献】 特開昭57−073056(JP,A)
【文献】 特開2005−047103(JP,A)
【文献】 特開昭54−023654(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/065452(WO,A1)
【文献】 特開平08−277993(JP,A)
【文献】 新ポリプロピレンライニング法の開発,三菱重工技報,1994年,Vol.31, No.4,p.274-277
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−10/00
C09D 101/00−201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライニング層のマトリックスを形成する液状又はペースト状のマトリックス樹脂と、前記液状マトリックス樹脂に分散して含有されたポリプロピレン単体又はオレフィン系エラストマ単体或いはポリプロピレンとオレフィン系エラストマのアロイの鱗片状フレークと、マトリックス樹脂が溶解される揮発性溶剤と、ポリエチレン粉末とで構成されたことを特徴とするフレークライニング用樹脂組成物。
【請求項2】
前記鱗片状フレークは、粘性表面を有するものであることを特徴とする請求項1に記載のフレークライニング用樹脂組成物。
【請求項3】
ライニング層のマトリックスを形成する液状又はペースト状のマトリックス樹脂に、
ポリプロピレン単体又はオレフィン系エラストマ単体或いはポリプロピレンとオレフィン系エラストマのアロイからなり、加熱トルエンによりその表面に粘性が付与された鱗片状フレークと、前記マトリックス樹脂が溶解される揮発性溶剤と、ポリエチレン粉末とを添加することを特徴とするフレークライニング用樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックス樹脂にポリプロピレン又はそのアロイの鱗片状フレークを混入した耐熱性、剛性、特にガラスフレークの弱点である耐アルカリ性に優れたフレークライニング用樹脂組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のフレークライニングとは、マトリックス相を構成する液状樹脂に鱗片状のガラス粉末を加えて混練し、ペースト或いは液状としたものをコテ、ローラー、刷毛、スプレーなどの工具を用いて保護すべき母材表面に所定の厚みに塗布施工する工法である。
マトリックス相を構成する液状樹脂としては、ビニルエステル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン樹脂、 変性アクリル樹脂などが用途に応じて選択される。
【0003】
ガラスフレークは鱗片状の形状をしており、母材表面に塗着されたライニング皮膜中には、上記薄いガラスフレークが母材に水平にて多重(1mm厚さのライニング層中に数10層)に重なり合う。これにより、薬液やガスの浸透を妨げると共に水蒸気拡散に対して強い抵抗力を発揮する。ガラスフレークに含アルカリガラス(Cガラス)を使用した場合、ガラス自体、耐酸性能を有するので耐食ライニング用として好適であるとして多用されている。加えて、ガラスフレークの層形成によるバリア効果によって、塗装・ライニング層の寿命延長・クラック防止・耐薬品性向上が可能である。また、ガラスフレークは熱膨張係数も小さいため、周囲温度の変化に対して膨張・収縮が小さく母材への接着も強固に行われる(特許文献1)。
【0004】
そのため、上記のガラスフレークライニングは、染料関係、石油化学部門、製薬部門の耐蝕機器類のライニングに、海洋構造物および港湾設備では橋、桟橋、水門、海水用パイプの内面ライニングに、排ガス、廃液処理装置、排煙脱硫装置、水処理関係、ダクトなどの公害防止機器に、メッキ金属機器関係ではメッキ槽、酸洗槽に幅広く使用されている。
【0005】
しかしながら、ガラスフレークを使用したライニング層は上記のような優れた耐酸性、耐薬品性を示すものの、ガラスフレークがアルカリ性に弱いためアルカリ性溶剤を使用するような環境では使用できない。そこで、耐熱性(100〜110℃)、耐薬品性、耐酸性(耐塩酸、耐硫酸)、耐アルカリ性(耐水酸化ナトリウム)に優れ、且つ安価なポリプロピレン粉末を使用したライニング技術が提案されている(非特許文献1)。
なお、アルカリに弱い金属としては、アルミニウム、亜鉛、錫、鉛などがあり、樹脂ではフェノール樹脂が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-34077号公報
【0007】
【非特許文献1】インターネット<URL:https://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/314/314274.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1によるポリプロピレンライニング工法は、被塗工金属部材をポリプロピレンの溶融温度以上に加熱し、改質されて金属への接着性が高められたポリプロピレンホモポリマ粉末を散布し、被塗工金属部材の保有熱で散布されたポリプロピレンホモポリマ粉末を溶融することで行われる(熱溶融被覆法)。従って、この工法によってポリプロピレンライニングの対象となるのは、被塗工金属部材を溶融温度以上に均熱出来る加熱容器に収納できる小物に限定される。
【0009】
しかしながら、大型の容器や管の内面へのライニングは、上記のように作業者がペースト或いは液状のライニング材をコテ、ローラー、刷毛、スプレーなどの工具を用いて保護すべき金属母材表面に所定の厚みに塗布施工することで行われる。とすると、大型の容器や管を上記のようにポリプロピレン溶融温度以上に加熱することができないし、仮に、部分的にできたとしてもそのような高温環境で作業者がライニング作業することは不可能である。
【0010】
本発明はこのような従来例に鑑みてなされたのもので、通常の作業環境でポリプロピレンライニングに相当するライニングが可能な組成物およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明(図1)は、
ライニング層4のマトリックスを形成する液状又はペースト状のマトリックス樹脂2と、前記液状マトリックス樹脂2に分散して含有されたポリプロピレン単体又はオレフィン系エラストマ単体或いはポリプロピレンとオレフィン系エラストマのアロイの鱗片状フレーク1と、マトリックス樹脂2が溶解される揮発性溶剤と、ポリエチレン粉末とで構成されたことを特徴とするフレークライニング用樹脂組成物である。
【0012】
請求項2に記載の発明(図2)は、請求項1に記載の鱗片状フレークは、粘性表面を有するものであることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、フレークライニング用樹脂組成物の製造方法であり、ライニング層4のマトリックスを形成する液状又はペースト状のマトリックス樹脂2に、ポリプロピレン単体又はオレフィン系エラストマ単体或いはポリプロピレンとオレフィン系エラストマのアロイからなり、加熱トルエンによりその表面に粘性が付与された鱗片状フレークと、マトリックス樹脂2が溶解される揮発性溶剤と、ポリエチレン粉末とを添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフレークライニング用樹脂組成物は、作業者が常温で被保護金属部材(母材M)の塗工面に塗着すると、時間と共に揮発性溶剤が揮発してマトリックス樹脂2がライニング層4を形成する。ライニング層4の内部には、ガラスフレークのようにアルカリ環境に犯されることがない扁平なポリプロピレンやオレフィン系エラストマ或いはこれらのアロイでできた鱗片状フレーク1が多重に重なり合った状態で存在する。換言すれば、従来、高温下でしかライニング出来なかったポリプロピレンライニングと同等のライニング層4が、通常のライニング環境で形成可能となった。
更に、ポリエチレン粉末3を共存させると、ポリエチレン粉末3は鱗片状フレーク1とマトリックス樹脂2の間に入り込んでバインダーとして働き、両者の界面を伝う薬液浸透(又は液漏れ)現象が大幅に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のライニング層の第1実施例の拡大断面図である。
図2】本発明のライニング層の第2実施例の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を図示実施例に従って説明する。本発明の第1実施例のフレークライニング用樹脂組成物は、ライニング層4のマトリックスを形成する液状又はペースト状のマトリックス樹脂2と、前記マトリックス樹脂2に分散して含有された鱗片状フレーク1と、マトリックス樹脂2が溶解される揮発性溶剤とで構成されている。
【0017】
鱗片状フレーク1は、ポリプロピレン単体又はオレフィン系エラストマ単体或いはこれらのポリマーアロイ(複数のポリマーを混合することで新しい特性を持たせた高分子材料)でできており、その平均厚さが2〜5μm、粒径が10〜4000μmである。
鱗片状フレーク1の製造方法は、ポリプロピレンの棒材、オレフィン系エラストマの棒材或いは両者のアロイの棒材を薄く切断したり、溶融したフレーク材料を風船状に膨らませ、例えば液化窒素で凍らせた状態でこれを破砕し、更に必要がある場合はこれを更に粉砕し、粒径を揃えるようにして製造する。
【0018】
ポリプロピレンは、プロピレンを重合させた熱可塑性樹脂で、汎用樹脂の中で比重が最も小さく、水に浮かぶ。強度が高く、吸湿性がなく、耐薬品(酸、アルカリを含む)性に優れている。汎用樹脂の中では最高の耐熱性を示す。
【0019】
上記オレフィン系エラストマは、一般的にポリプロピレンの中にエチレン−プロピレンゴムを微分散させた熱可塑性エラストマで、ゴムのような性質を持ちながら一般のプラスチックと同様な成形加工が可能な素材である。熱的性質は−60〜100℃での連続使用が可能であり、高温下で老化させても塩化ビニルのような硬度上昇を生起せず、低温化でも硬くなりにくくゴムと同様の性能を表す。また、耐候性、耐オゾン性に優れ、耐薬品性(酸、アルカリ、アルコール、アセトンや植物油にも耐性を示す)に優れる。長期間の屋外暴露試験でも表面劣化を生じない。本発明で使用されるオレフィン系エラストマとしては、これに限られないが、例えば、住友化学のタフセレン(登録商標)が挙げられる。
【0020】
ポリプロピレンとオレフィン系エラストマ(タフセレン)とは、高い相溶性を示し、そのアロイ(ブレンド材)は、耐熱性や高い剛性を示す。ポリプロピレンとオレフィン系エラストマの混合比率は、体積比で30〜70%である。40〜60%がより好ましい。
【0021】
鱗片状フレーク1はそのまま液状のマトリックス樹脂2中に投入し、攪拌して均一に分散させてもよいし、マトリクス樹脂2への接着性を高める表面処理を行った後、マトリックス樹脂2中に投入し、均一に分散させてもよい。鱗片状フレーク1の投入量によってマトリックス樹脂2は粘度が高まり、液状からペースト状になる。
【0022】
鱗片状フレーク1の表面処理の方法は、例えば、加熱トルエン(60〜80度に加熱したトルエン)に投入する方法や、ポリプロピレンとオレフィン系エラストマ(タフセレン)のアロイを用いる方法がある。
前者では、加熱トルエンによりフレーク表面が溶けて粘性が生じ、固化した場合にマトリックス樹脂2との界面での接着性(自己粘着性)が向上する。鱗片状フレーク1自体も柔らかくなる。
後者の場合は、オレフィン系エラストマ(タフセレン)の粘着性を利用することで、鱗片状フレーク1の表面の粘着性が向上し、上記の効果を奏する。
【0023】
マトリックス樹脂2は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂の内、用途に合わせた樹脂が選ばれる。熱硬化性樹脂としては、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などがあり、熱硬化性樹脂としては、ポリエチレン、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、AS樹脂、ASB樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)、メタクリル樹脂(アクリル樹脂)、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン樹脂(ポリ塩化ビニリデン)、ポリカーボネート、ポリアミド(ナイロン)、アセタール樹脂(ポリアセタール)、ポリブチレンテレフタレート(PBT樹脂)などがある。上記の内、基本となる樹脂はビニルエステル樹脂であるが、その用途により主に耐候性に主眼を置いた場合や、ビニルエステル樹脂程の耐薬品性を必要とせず、安価に抑えたい場合では不飽和ポリエステル樹脂も使用される。
【0024】
次に、本発明のフレークライニング用樹脂組成物の用途であるが、上記のようなガラスフレークライニングが用いられる石油化学部門、製薬部門の耐蝕機器類他のライニングに使用されるが、特にアルカリ洗浄槽内壁、アルカリ性薬品貯槽、排煙脱硫装置の内のアルカリ洗浄塔、アルカリ脱脂槽など、ガラスフレークライニングでは対応できなかったような用途に好適である。なお、ポリプロピレンは、酸や海水にも強い樹脂であり、酸性環境や海水に接する環境での使用にも耐える。
【0025】
本発明のフレークライニング用樹脂組成物の施工方法であるが、保護すべき母材M表面に下地処理(下地層10)を行った後、液状又はペースト状の組成物を従来と同様、ローラー、刷毛、スプレーなどの工具を用いて所定の厚みになるまで1〜複数回塗布施工する。各塗布層51、52〜5nは半乾き或いは乾いた後、塗り重ねられる。この間、各塗布層51、52〜5nから揮発溶剤が揮発して時間の経過と共に硬化する。最後にクリア層20を塗布する。塗布層51、52〜5n中にはガラスフレークと同様鱗片状フレーク1が多数重複して重なる。
【0026】
ポリプロピレン単体の鱗片状フレーク1はマトリックス樹脂2に対する接着力が弱いので、塗布層51、52〜5n中のポリプロピレン単体の鱗片状フレーク1とマトリックス樹脂2との界面を薬液やガス、水蒸気が浸透して塗布層51、52〜5nを次第に劣化させる可能性があるが、ポリプロピレン単体の鱗片状フレーク1の表面が粘着性を高める表面処理がなされている場合や、オレフィン系エラストマ(タフセレン)とのアロイ、或いはオレフィン系エラストマ(タフセレン)単体の場合は、オレフィン系エラストマ(タフセレン)による表面改質がなされ、表面の粘着性が高められており、マトリックス樹脂2との界面に於ける接着性が向上して上記界面の耐水性が高くなり、塗布層51、52〜5nの強化が図られる。
【0027】
図2は、第2実施例で、第1実施例の樹脂組成物に対して、ポリエチレン粉末3が更に添加されたものである。ポリエチレンは、エチレンが重合した構造を持つ高分子で、一般に耐薬品性に優れており、酸やアルカリ、溶剤等に安定である。ポリエチレン粉末は、ポリプロピレンとの親和性が高く、第1実施例の樹脂組成物に添加すると、ポリプロピレンや上記アロイの鱗片状フレーク1間にあって隣接する鱗片状フレーク1の間を埋め、同時にマトリックス樹脂2と鱗片状フレーク1との界面の密着性を高めることになるので、第1実施例の場合より耐薬品性(特に耐アルカリ性)が向上する。
【符号の説明】
【0028】
1:鱗片状フレーク、2:マトリックス樹脂、3:ポリエチレン粉末、4:ライニング層、51〜5n:塗布層、10:下地層、20:クリア層、M:母材。
図1
図2