(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記流体噴射部は、前記流体が前記車輪の少なくとも一部を面状で覆うように、当該流体を鉛直方向に所定長さで噴射することを特徴とする、請求項1に記載の車輪放射音遮蔽装置。
前記流体噴射部は、台車の長手方向に並べて配置された前記車輪の間に設けられ、当該台車の長手方向両方向に前記流体を噴射することを特徴とする、請求項1又は2に記載の車輪放射音遮蔽装置。
前記流体噴射部は車幅方向両側に設けられ、当該流体噴射部からそれぞれ独立して前記流体を噴射することを特徴とする、請求項9〜13のいずれか一項に記載の車輪放射音遮蔽方法。
前記流体噴射部から噴射された前記流体によって、前記車輪放射音の一部を吸音部に移流させて当該吸音部で吸収することを特徴とする、請求項9〜14のいずれか一項に記載の車輪放射音遮蔽方法。
【背景技術】
【0002】
鉄道は都市部から地方まで、全国の広域にわたり運行されており、特に都市部や市街地における鉄道の沿線では、鉄道車両の走行時に発生する騒音や振動が問題として挙げられる。鉄道車両を無音、無振動で走らせることはできないが、可能な限りこれら騒音や振動を低減することが求められている。
【0003】
鉄道車両の走行時の騒音は、鉄道車両や軌道を構成する種々の要素から発生するが、その1つに車輪から発生する騒音がある。車輪からの騒音には、鉄道車両がレール上を走行する際に、車輪がレールを転動することで発生する転動音(主に500Hzから2kHzの周波数帯)や、曲線軌道走行時に発生するきしり音(主に2kHzから5kHzの周波数帯)が含まれる。このうち、特にきしり音は、鉄道線路の沿線住民からの苦情も多く、きしり音対策は鉄道運行における大きな課題であるといえる。
【0004】
きしり音は、鉄道車両が曲線軌道を走行する際、レールと車輪が擦れ合い、車輪の自励振動により生じる摩擦振動音のことである。そして、車輪がきしり音の面状の音源となり、きしり音は車輪の表面から放射される。以下の説明においては、このように車輪から放射されるきしり音を車輪放射音という場合がある。
【0005】
車輪放射音を低減するための既存技術として、非特許文献1には、車輪及びレールに、潤滑油や固体潤滑剤などの摩擦緩和材を散布することが記載されている。上述したようにきしり音は車輪の摩擦振動に起因するものであるため、このように車輪とレールの間に適切な摩擦緩和材を散布することで、当該車輪とレールの間の摩擦力を軽減し、きしり音の発生を抑え、また発生するきしり音を緩和することができる。
【0006】
また、非特許文献2には、レールからの振動を遮断する弾性車輪や車輪全体の振動の大きさを抑える防音車輪(制振車輪)を用いることが記載されている。これら車輪は、車輪の振動を抑制できる構造を有しており、車輪放射音の発生を抑えることができる。
【0007】
さらに、特許文献2には、発生した車輪放射音を物理的に遮蔽する技術として、防音カバーを用いることが記載されている。防音カバーは、車体の下方において台車の側面を覆うように設けられ、この防音カバーにより車輪から発生する車輪放射音を遮蔽することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した非特許文献1に記載された方法では、摩擦緩和材を車輪及びレールに噴射することにより、鉄道車両や軌道が汚染される。また、摩擦緩和材が車輪とレールの間の制動状態に影響を及ぼすため、鉄道車両の走行時には、当該制動状態を考慮した煩雑な制御が必要になる。
【0010】
また、非特許文献2に記載されたように弾性車輪や防音車輪(制振車輪)、防音カバーを用いる場合、導入コストがかかり、またメンテナンスも大変である。特に防音カバーを用いる場合は、車両限界支障の問題もある。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、鉄道の構成要素に影響を及ぼすことなく簡易な方法で車輪放射音を遮蔽し、鉄道沿線における車輪放射音の暴露状況を改善することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、鉄道車両の走行時に発生する車輪放射音を遮蔽する装置であって、空気より音響インピーダンス密度の高い流体を、車輪の車幅方向外側において当該車輪の少なくとも一部を覆うように噴射する流体噴射部を有することを特徴としている。
【0013】
本発明によれば、空気より音響インピーダンス密度の高い流体が車輪の少なくとも一部を覆うので、当該流体により音響的な反射面が形成され、車輪から発生した車輪放射音(きしり音)を車幅方向内側に反射させることができる。このように車輪放射音を遮蔽できるので、当該車輪放射音が鉄道沿線に暴露するのを抑制することができる。
【0014】
しかも、本発明は流体を用いているので、非特許文献1に記載の摩擦緩和材のように鉄道車両や軌道を汚染することなく、車輪とレールの間の制動状態に影響を及ぼすこともない。すなわち、鉄道の構成要素に影響を及ぼすことがない。
【0015】
また、既存の鉄道車両には流体、例えば圧縮空気を供給する装置が設けられており、本発明において流体噴射部から流体を噴射するに際し、この既存の機器を流用することができる。このため、非特許文献2に記載の車輪や防音カバーに比べて、導入コストを低廉化することができる。さらに、本発明の流体噴射部はメンテナンスが容易で、車両限界支障も考慮する必要がない。
【0016】
前記車輪放射音遮蔽装置において、前記流体噴射部は、前記流体が前記車輪の少なくとも一部を面状で覆うように、当該流体を鉛直方向に所定長さで噴射してもよい。
【0017】
前記車輪放射音遮蔽装置において、前記流体噴射部は、台車の長手方向に並べて配置された前記車輪の間に設けられ、当該台車の長手方向両方向に前記流体を噴射してもよい。
【0018】
前記車輪放射音遮蔽装置において、前記流体噴射部は車幅方向両側に設けられ、それぞれ独立して前記流体を噴射してもよい。
【0019】
前記車輪放射音遮蔽装置は、前記車輪放射音を吸収する吸音部をさらに有していてもよい。
【0020】
前記車輪放射音遮蔽装置において、前記吸音部は、台車の長手方向外側の一方又は両方において、車体の車幅方向に延在して設けられていてもよい。
【0021】
前記車輪放射音遮蔽装置は、前記流体噴射部に供給される前記流体を圧縮する圧縮機をさらに有していてもよい。
【0022】
前記車輪放射音遮蔽装置において、前記流体は炭酸ガス又はアルゴンガスであってもよい。
【0023】
別な観点による本発明は、鉄道車両の走行時に発生する車輪放射音を遮蔽する方法であって、流体噴射部から、空気より音響インピーダンス密度の高い流体を噴射し、前記流体噴射部から噴射された前記流体によって、車輪の車幅方向外側において当該車輪の少なくとも一部を覆い、前記車輪放射音を車幅方向内側に反射させることを特徴としている。
【0024】
前記車輪放射音遮蔽方法において、前記流体噴射部から前記流体を鉛直方向に所定長さで噴射し、前記流体噴射部から噴射された前記流体によって、前記車輪の少なくとも一部は覆う必要がある。
【0025】
前記車輪放射音遮蔽方法において、前記流体噴射部は、台車の長手方向に並べて配置された前記車輪の間に設けられ、前記流体噴射部から前記台車の長手方向両方向に前記流体を噴射してもよい。
【0026】
前記車輪放射音遮蔽方法において、前記鉄道車両の位置を検知し、検知された前記鉄道車両の位置に基づいて、前記流体噴射部からの前記流体の噴射を制御してもよい。
【0027】
前記車輪放射音遮蔽方法において、車体に対する台車の相対角度を検知し、検知された前記相対角度に基づいて、前記流体噴射部からの前記流体の噴射を制御してもよい。
【0028】
前記車輪放射音遮蔽方法において、前記流体噴射部は車幅方向両側に設けられ、当該流体噴射部からそれぞれ独立して前記流体を噴射してもよい。
【0029】
前記車輪放射音遮蔽方法において、前記流体噴射部から噴射された前記流体によって、前記車輪放射音の一部を吸音部に移流させて当該吸音部で吸収してもよい。
【0030】
前記車輪放射音遮蔽方法において、前記吸音部は、台車の長手方向外側の一方又は両方において、前記車輪放射音の一部を吸収してもよい。
【0031】
前記車輪放射音遮蔽方法において、圧縮機によって、前記流体噴射部に供給される前記流体を圧縮してもよい。
【0032】
前記車輪放射音遮蔽方法において、前記流体は炭酸ガス又はアルゴンガスであってもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、鉄道の構成要素に影響を及ぼすことなく簡易な方法で車輪放射音を遮蔽し、鉄道沿線における車輪放射音の暴露状況を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0036】
<鉄道車両1の構成>
先ず、鉄道車両の構成の概略について説明する。
図1は、本実施形態に係る鉄道車両1の構成の概略を模式的に示す説明図である。
図2は、台車3の周辺を下方から見た際の構成の概略を示す説明図である。なお、以下においては、位置関係を明確にするために、互いに直交するX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向を規定し、X軸方向を鉄道車両1の長手方向、Y軸方向を鉄道車両1の車幅方向、Z軸方向を鉛直方向とする。
【0037】
図1に示すように鉄道車両1は、乗客や貨物などの積載物を収容する車体2と、車体2を支持して軌道上を走行する台車3と、台車3の車輪から発生する車輪放射音を遮蔽する車輪放射音遮蔽装置4と、を有している。
【0038】
<台車3の構成>
次に、台車3の構成について説明する。
図1及び
図2に示すように台車3は、輪軸10と台車枠20を有している。台車3は、台車枠20の上面に設けられた空気ばね等の車体支持装置(図示せず)を介して車体2の下面側に取り付けられている。
【0039】
輪軸10は、レール上を走行する略円盤状の車輪11と、2枚の車輪11に貫設され車幅方向(Y軸方向)に延伸する車軸12と、を有している。輪軸10は台車3の長手方向(X軸方向)に一対に設けられ、一対の輪軸10は互いの車軸12が平行になるように配置されている。
【0040】
台車枠20は、台車3の長手方向に延伸し、車幅方向に離間して配置された一対の側梁21と、車幅方向に延伸し、台車3の長手方向中央部において一対の側梁21を補強固定する横梁22と、を有している。台車枠20では、一対の輪軸10が横梁22を挟んで長手方向両側に配置され、一対の側梁21に支持されている。
【0041】
<車輪放射音遮蔽装置4の構成>
次に、車輪放射音遮蔽装置4の構成について説明する。車輪放射音遮蔽装置4で遮蔽する車輪放射音の種類は特に限定されるものではないが、本実施形態においては、特に現状の鉄道沿線で問題となっている、数kHz以上の周波数(波長0.1mオーダー以下)を有するきしり音を対象とする。
【0042】
車輪放射音遮蔽装置4では、車輪11の車幅方向外側に流体、本実施形態では気体のシート状の流れ(以下、「気流」という)を形成し、当該気流の面で、車輪11から発生した車輪放射音を車幅方向内側に反射させる。具体的には、空気よりも音響インピーダンス密度の高い気体を用いて気流を形成することで、車輪放射音の一部あるいは全ては当該気流を透過せず遮蔽される。また、車輪放射音遮蔽装置4では、このように形成された気流により、車輪放射音を後述する吸音材39に移流させて吸収する。
【0043】
かかる作用を奏する車輪放射音遮蔽装置4は
図1に示すように、気流を形成して車輪放射音を遮蔽する遮音ユニット30と、遮音ユニット30の動作を制御する制御ユニット40と、を有している。
図1において、実線矢印は遮音ユニット30における気体の流れを示し、点線矢印は制御ユニット40における情報信号の流れを示している。
【0044】
(遮音ユニット30の構成)
先ず、遮音ユニット30の構成について説明する。遮音ユニット30は、第1の貯留タンク31、蒸発器32、圧縮機33、除湿器34、調圧器35、第2の貯留タンク36、噴射制御弁37、流体噴射部としての噴射ノズル38、吸音部としての吸音材39を有している。第1の貯留タンク31、蒸発器32、圧縮機33、除湿器34、調圧器35、第2の貯留タンク36、噴射制御弁37、噴射ノズル38は、気体の流れの上流側からこの順で設けられ、それぞれ気体が流通する配管(図示せず)で接続されている。なお、第1の貯留タンク31、蒸発器32、圧縮機33、除湿器34、調圧器35、第2の貯留タンク36、噴射制御弁37はそれぞれ、鉄道車両1の任意の位置に配置される。
【0045】
第1の貯留タンク31は、噴射ノズル38から噴射される気体を貯留する。上述したように、ここで用いられる気体は、空気よりも音響インピーダンス密度の高い気体である。本実施形態では、例えば炭酸ガスやアルゴンガスが用いられる。なお、第1の貯留タンク31では、気体をそのまま気体状で貯留してもよいし、あるいは気体の媒質によっては液体状で貯留してもよい。
【0046】
蒸発器32は、第1の貯留タンク31において液体を貯留している場合、当該液体を気化させる。したがって、第1の貯留タンク31において気体がそのまま気体状で貯留されている場合は、蒸発器32での気化処理は行われない。
【0047】
圧縮機33は、気体を加圧して圧縮する。除湿器34は、圧縮された気体中に含まれる湿気を吸収して除去する。調圧器35は、除湿された気体の圧力を予め定められた所定圧力に調節する。第2の貯留タンク36は、調圧された気体を一時的に貯留する。
【0048】
なお、本実施形態における圧縮機33、除湿器34、調圧器35には、既存の鉄道に設けられた機器を流用することも可能である。具体的には、例えば車輪とレール間の制動、ドアの開閉、パンタグラフ昇降などの制御において圧縮気体が使用されており、圧縮気体の生成には圧縮機、除湿器、調圧器などが用いられている。このように既存の機器を流用する場合、車輪放射音遮蔽装置4の構成を簡略化して、導入コストを低廉化することができる。
【0049】
噴射制御弁37は、その開閉により、噴射ノズル38からの気体噴射のオンオフを制御する制御弁である。噴射制御弁37は、後述する制御部45からの指令信号によりその開閉が制御される。また、後述するように噴射ノズル38は2つ設けられ、これら2つの噴射ノズル38のそれぞれの噴射を制御できるように、噴射制御弁37も2つ設けられている。
【0050】
図1及び
図2に示すように噴射ノズル38は、横梁22の下面の両端部に設けられている。各噴射ノズル38は、車輪11の車幅方向外側に配置されている。また、2つの噴射ノズル38はそれぞれ、噴射制御弁37により独立して気体の噴射を制御できる。すなわち、一方の噴射ノズル38から気体を噴射し、他方の噴射ノズル38からの気体噴射を停止することも可能である。
【0051】
図3に示すように噴射ノズル38は、略直方体形状の本体380を有している。本体380は中空で、内部を気体が流通するようになっている。本体380には、当該本体380に気体が供給される供給口381と、本体380から気体が噴射される噴射口382と、が形成されている。供給口381の位置は任意であるが、例えば本体380の車幅方向(Y軸方向)の側面に形成されている。
【0052】
噴射口382は、本体380において、台車3の長手方向(X軸方向)の両側面に形成されている。これにより、噴射ノズル38は、台車3の長手方向両方向に気体を噴射することができ、当該長手方向両方向に気流Fが形成される。そして、
図4及び
図5に示すように気流Fは、車輪11の車幅方向外側において、台車3の長手方向に沿って(平行に)形成される。
【0053】
また、
図3に示すように噴射口382は、鉛直方向に所定長さでスリット状に形成されている。これにより、噴射口382から気体が鉛直方向に広がって噴射され、シート状の気流Fが形成される。そして、
図4及び
図6に示すように噴射ノズル38は横梁22の下面に設けられており、側面視において気流Fは車輪11の一部を面状で覆う。
【0054】
噴射ノズル38から噴射される気体により、
図4〜
図6に示した気流Fが形成され、しかもこの気体は空気よりも音響インピーダンス密度が大きい。この音響インピーダンス密度の差を利用し、車輪11の車幅方向外側には、気流Fによる音響的な反射面が形成される。そして、車輪11から発生した車輪放射音のうち、一部の車輪放射音S1は気流Fを透過せず、当該気流Fで反射する。また、一部の車輪放射音S2は気流Fにより、その流れの方向がシフトされ、台車3の長手方向に移流する。このように車輪放射音S1が反射し、車輪放射音S2が移流することで、車輪放射音が線路沿線に暴露されるのを抑制することができる。なお、気流Fの厚みは車輪放射音の波長に依存し、例えば車輪放射音の波長が長い場合、気流Fの厚みを大きくする必要がある。
【0055】
図1及び
図2に示すように吸音材39は車体2の下面に取り付けられ、台車3の長手方向外側の両側に配置される。吸音材39は、車幅方向に延在し、台車3を車幅方向に覆うように設けられる。また、吸音材39は、その下端が噴射ノズル38より下方に位置するように設けられる。なお、吸音材39には、密度の高い綿状の材料が用いられ、例えばグラスウールが用いられる。
【0056】
図4及び
図5に示すように気流Fにより、台車3の長手方向に移流した車輪放射音S2は吸音材39まで流れ、当該吸音材39に吸収される。したがって、線路沿線への車輪放射音の暴露状況は、さらに改善される。
【0057】
以上のように遮音ユニット30では、噴射ノズル38から噴射された気流Fにより、車輪放射音S1が車幅方向内側に反射され、また車輪放射音S2が移流して吸音材39に吸収される。このように車輪放射音S1、S2が遮蔽されて、線路沿線に暴露するのが抑制される。
【0058】
(制御ユニット40の構成)
次に、制御ユニット40の構成について説明する。
図1に示すように制御ユニット40は、車両位置検知部41、ATS車上子42、GPS受信機43、台車角度検知部44、制御部45を有している。なお、車両位置検知部41、ATS車上子42、GPS受信機43、台車角度検知部44、制御部45はそれぞれ、鉄道車両1の任意の位置に配置される。
【0059】
車両位置検知部41は、鉄道車両1の位置を検知する。鉄道車両1の位置は、例えばATS車上子42、GPS受信機43、車輪11などからの情報に基づいて検知される。なお、本実施形態で説明する鉄道車両1の位置の検知方法は一例であり、これに限定されず、他の公知の検知方法を用いてもよい。
【0060】
ATS車上子42は、ATS(Automatic Train Stop、自動列車停止装置)における車上子である。ATSでは、軌道側に設けられた地上子から車上子42に位置情報等が送信される。車両位置検知部41は、このATS車上子42で取得された位置情報に基づいて、鉄道車両1の位置を検知することができる。
【0061】
GPS受信機43は、GPS(Global Positioning System、全地球測位システム)における受信機であり、GPS受信機43において鉄道車両1の位置情報が取得される。車両位置検知部41は、このGPS受信機43で取得された位置情報に基づいて、鉄道車両1の位置を検知することができる。
【0062】
車両位置検知部41は、車輪11の回転数を計測することにより、ある基準位置からどれだけの距離を走行したのかを算出し、鉄道車両1の位置を検知することもできる。
【0063】
台車角度検知部44は、車体2に対する台車3の相対角度(以下、「台車角度」という)を検知する。この台車角度は、例えば
図5に示すように鉄道車両1が曲線軌道を走行する際、車体2に対して台車3が傾く角度θである。
【0064】
車両位置検知部41で検知された鉄道車両1の位置情報と、台車角度検知部44で検知された台車角度情報はそれぞれ、制御部45に出力される。
【0065】
制御部45では、例えば線路において車輪放射音が発生するポイント(以下、「車輪放射音発生ポイント)という)の位置が予め把握されており、車両位置検知部41で検知された鉄道車両1の現在位置に基づき、鉄道車両1の走行速度などから、当該鉄道車両1が車輪放射音発生ポイントを通過するタイミングを算出する。制御部45はさらに、算出されたタイミングに基づいて、噴射制御弁37の開閉を制御する。そして、鉄道車両1が車輪放射音発生ポイントを通過するタイミングで噴射制御弁37が開放され、噴射ノズル38から気体が噴射される。
【0066】
また、制御部45では、例えば車輪放射音発生ポイントにおける台車角度(以下、「設定台車角度」という)が把握されており、この設定台車角度と、台車角度検知部44で検知された現在の台車角度とを比較して監視する。そして、台車角度検知部44で検知された台車角度が設定台車角度に達した際、鉄道車両1が車輪放射音発生ポイントを通過すると判断され、噴射制御弁37が開放されて、噴射ノズル38から気体が噴射される。
【0067】
なお、本実施形態の制御部45では、噴射制御弁37の開閉を制御する指標として、鉄道車両1の位置情報と台車角度情報を用いたが、これに限定されない。鉄道車両1が車輪放射音発生ポイントを通過するタイミングを特定できるものであれば、任意の方法を用いることができる。
【0068】
<車輪放射音遮蔽装置4による車輪放射音遮蔽方法>
次に、以上のように構成された車輪放射音遮蔽装置4を用いて、車輪11から発生する放射音を遮蔽する方法について説明する。
図7は、車輪放射音遮蔽方法における主な工程を示すフローチャートである。
【0069】
(事前準備)
鉄道車両1の走行前の事前準備として、先ず、第1の貯留タンク31に気体を貯留する(
図7のステップA1)。ステップA1では、例えば駅や車両基地において鉄道車両1が停止中に、気体充填部(図示せず)から第1の貯留タンク31に気体が充填される。
【0070】
なお、第1の貯留タンク31では、気体がそのまま気体状で貯留されていてもよいし、液体状で貯留されていてもよい。第1の貯留タンク31に液体で貯留されている場合には、蒸発器32において当該液体が気化される(
図7のステップA2)。
【0071】
その後、第1の貯留タンク31に貯留された気体は、噴射ノズル38から噴射できるように所定処理が行われる。すなわち、圧縮機33における気体の圧縮(
図7のステップA3)、除湿器34における気体の除湿(
図7のステップA4)、調圧器35における気体の調圧(
図7のステップA5)が行われる。そして、調圧された気体は、第2の貯留タンク36に一時的に貯留される(
図7のステップA6)。
【0072】
本実施形態では、これらステップA3〜A6を走行前の事前準備として行ったが、鉄道車両1の走行中に行ってもよい。
【0073】
(走行時)
上述した事前準備が完了し鉄道車両1が走行すると、車両位置検知部41において鉄道車両1の位置を検出し、また台車角度検知部44において台車角度を検知する(
図7のステップB1)。
【0074】
制御部45では、ステップB1で検知された鉄道車両1の位置、及び/又は、台車角度に基づいて噴射制御弁37の開閉を制御する(
図7のステップB2)。鉄道車両1の位置に基づく場合と台車角度に基づく場合のいずれの場合でも、上述したように制御部45では、鉄道車両1が車輪放射音発生ポイントを通過するタイミングを推定して噴射制御弁37の開閉を制御する。この際、制御部45では、鉄道車両1の位置と台車角度のいずれか一方を用いてもよいし、両方を用いてもよい。例えば鉄道車両1の位置と台車角度の両方を用いる場合には、鉄道車両1の位置に基づいて算出される車輪放射音発生ポイントと、台車角度に基づいて判断される車輪放射音発生ポイントとが一致する場合に、噴射制御弁37を開放するように制御してもよい。
【0075】
制御部45からの指令信号により噴射制御弁37が開放されると、第2の貯留タンク36に貯留された気体が噴射ノズル38に供給される(
図7のステップA7)。そして、噴射ノズル38から気体が噴射され、
図4〜
図6に示した気流Fが形成される。この際、気体は所定圧力に調節されているので、適切な気流Fを形成することができる。なお、ステップA7及びA8を行うと、第2の貯留タンク36に貯留された気体が消費される。そこで、ステップA2〜A7を行い、調圧後の気体が第2の貯留タンク36に一時的に貯留される。
【0076】
ここで、本実施形態では車輪放射音はきしり音であり、車輪放射音発生ポイントは例えば曲線軌道である。特に急な曲線ではきしり音が発生しやすい。上述したように鉄道車両1が曲線軌道を走行する際、車輪11がレールに対して横すべりし、これにより車輪11が摩擦振動することできしり音が発生する。そして、車輪11がきしり音の面状の音源となり、きしり音は車輪11の表面から放射される。そうすると、何も対策をしない場合、きしり音は車輪11から車幅方向外側、すなわち線路沿線に放射される。
【0077】
これに対し本実施形態では、
図4〜
図6に示したように噴射ノズル38から噴射された気体により気流Fを形成する。この気流Fにより、一部の車輪放射音S1は車幅方向内側に反射されて遮蔽される。また、気流Fにより、一部の車輪放射音S2は台車3の長手方向に移流する。そうすると、線路沿線に伝搬する音エネルギーを低減することができ、車輪放射音が線路沿線に暴露されるのを抑制することができる。また、車輪放射音S2は移流して吸音材39に吸収されるので、線路沿線への車輪放射音の暴露状況は、さらに改善される。
【0078】
なお、上述したように車輪11は面状の音源として作用しているため、車輪11の一部を覆うようにして気流Fを形成することで線路沿線へ伝搬する車輪放射音を低減することが可能である。すなわち、シート状の気流Fは、側面視において車輪11の少なくとも一部を覆うことができればよく、必ずしも車輪11の全面を覆う必要はない。もちろん、気流Fは車輪11の全面を覆ってもよい。
【0079】
また、車輪放射音が線路沿線の特定の方向へ伝搬することを抑制するために、
図5に示すように2つの噴射ノズル38を独立して制御し、例えば内側の噴射ノズル38から気体を噴射し、外側の噴射ノズル38からの気体の噴射を停止してもよい。
【0080】
また、
図5に示すように鉄道車両1が曲線軌道を走行する際には、台車3は車体2に対して台車角度θで傾くため、噴射ノズル38の噴射口382から吸音材39までの距離D1、D2に差が生じる。このため、車輪放射音S2が気流Fにより吸音材39まで適切に移流されず、線路沿線などに移流されてしまう可能性がある。そこで、車輪放射音S2を吸音材39に確実に到達させるため、噴射ノズル38は、2つの噴射口382から独立して異なる速度、圧力で気体を噴射できるように構成されているのが好ましい。
【0081】
<車輪放射音遮蔽装置4の他の実施形態>
次に、車輪放射音遮蔽装置4の他の実施形態について説明する。
【0082】
上記実施形態では、噴射ノズル38にはスリット状の噴射口382が形成されていたが、噴射口の形状はこれに限定されない。例えば
図8に示すように噴射ノズル38の側面には、円形状の噴射口383が鉛直方向に複数並べて形成されてもよい。かかる場合、複数の噴射口383から噴射された気体で気流Fが形成され、これら複数の気流Fにより、車輪放射音S1に対する音響的な反射面を形成することができる。また、複数の気流Fにより、車輪放射音S2を移流させる効果もある。このように噴射ノズル38で形成される気流Fは必ずしもシート状である必要はなく、車輪放射音の一部を反射させ、また移流させることができれば、上記実施形態と同様の効果を享受することができる。
【0083】
また、上記実施形態では、流体噴射部として噴射ノズル38を用いたが、流体噴射部はノズル構造に限定されず、気体を噴射できれば任意の構造を取り得る。さらに、噴射ノズル38からは流体として気体が噴射されたが、空気よりも音響インピーダンス密度が高い物質であればよく、例えば水などの液体であってもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、噴射ノズル38は横梁22の下面の両端部に設けられ、台車3の長手方向両方向に気流Fを形成していたが、噴射ノズル38の配置や気流Fの方向はこれに限定されず、車輪11を車幅方向外側から覆うように気流Fを形成できればよい。例えば車体2の下面に噴射ノズル38を設け、車輪11の車幅方向外側に向けて吹き降ろすようにして気流Fを形成してもよいし、あるいは、例えば台車3の長手方向前後、すなわち吸音材39の近傍に噴射ノズル38を設け、対向するもう一方の吸音材39に向けて気体を噴射するようにしてもよい。
【0085】
例えば
図9に示すように車体2の下面において、台車3の長手方向外側に2つの噴射ノズル38を設けてもよい。2つの噴射ノズル38はそれぞれ、車輪11の車幅方向外側に気流Fを形成する。また、気流Fが台車3に衝突するのを回避するため、噴射ノズル38は、曲線軌道に応じて気流Fの方向を変更できるように構成されているのが好ましい。なお、噴射ノズル38が設けられる側の吸音材39は省略される。かかる場合でも、気流Fにより、上記実施形態と同様の効果を享受することができる。
【0086】
また、以上の実施形態では、吸音部として吸音材39を用いたが、吸音部は綿状の吸音材に限定されず、車輪放射音を吸収できれば任意の構造を取り得る。
【0087】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。