特許第6750138号(P6750138)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6750138-ほつれ止め開口部を有する衣類 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6750138
(24)【登録日】2020年8月14日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】ほつれ止め開口部を有する衣類
(51)【国際特許分類】
   A41D 27/00 20060101AFI20200824BHJP
   A41B 9/06 20060101ALI20200824BHJP
   A41B 9/02 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
   A41D27/00 A
   A41B9/06 B
   A41B9/02 Q
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-533313(P2020-533313)
(86)(22)【出願日】2020年3月4日
(86)【国際出願番号】JP2020009010
【審査請求日】2020年6月17日
(31)【優先権主張番号】特願2019-43257(P2019-43257)
(32)【優先日】2019年3月11日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】由井 美也
(72)【発明者】
【氏名】田中 千晶
【審査官】 原田 愛子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2019−049067(JP,A)
【文献】 特開2003−147658(JP,A)
【文献】 特表2017−514033(JP,A)
【文献】 特開2017−186695(JP,A)
【文献】 特開2009−203591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 27/00
A41B 9/02
A41B 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維を含む衣類であって、1以上の開口部において前記衣類を構成するセルロース系繊維間が自己接合されたほつれ止め開口部を有する衣類。
【請求項2】
前記セルロース系繊維が綿繊維であることを特徴とする請求項1記載のほつれ止め開口部を有する衣類。
【請求項3】
前記ほつれ止め開口部の、自己接合されたセルロース系繊維糸の部分においてセルロースII型(2型)の結晶構造を示し、前記自己接合されたセルロース系繊維糸の部分に連続する自己接合に寄与していない部分ではセルロースI型(1型)の結晶構造を示すことを特徴とする請求項2記載のほつれ止め開口部を有する衣類。
【請求項4】
前記ほつれ止め開口部が、首周り部、脇周り部、袖口部、裾周り部の少なくとも1つであるアンダーシャツであることを特徴とする請求項1乃至3に記載のほつれ止め開口部を有する衣類。
【請求項5】
前記ほつれ止め開口部が、腰周り部、脚周り部の少なくとも1つであるパンツであることを特徴とする請求項1乃至3記載のほつれ止め開口部を有する衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系繊維を含む衣類であって、ほつれ止め開口部を有する衣類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、セルロース系繊維を含む衣類は生地を裁断し、縫製して製造される。また、衣類の開口部は、通常、生地の裁断端縁を折り返して縫着したり、テープ等の別布で包み込んで縫着したりして端縁周囲のほつれ止め機能付与処理が施される。更に、生地の継ぎ合わせ部は、通常、縫製加工で継ぎ合わされる。
ところが生地の裁断端縁や開口部の裁断端縁のほつれ止め機能付与処理の作業は、かなりの縫製手間がかかり、下着のヘムラインが凸条等になって外衣に現れたり、着用感を損なったりする等の問題となっている。
【0003】
これに対して特許文献1には、低融点ポリウレタン弾性糸等の熱融着弾性糸とそれ以外の糸をプレーティング編により編みたてられた編地とするほつれ止め機能付与方法が提案されている。特許文献1に記載されたほつれ止め機能付与方法によれば、切りっぱなし開口部を有するセルロース系繊維を含む衣類にもほつれ止め機能を付与することができる。
しかしながら、特許文献1の方法では、低融点ポリウレタン弾性糸等のセルロース系以外の異種の素材の併用が必須であることから、得られるセルロース系繊維を含む衣類の着用感や風合いが損なわれてしまうことがある。また、セルロース系以外の異種の素材を併用し、複雑な工程を要することから、製造コストが上昇してしまうという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−113349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、セルロース系以外の異種の素材の併用を必須とすることなく、ほつれ止め開口部を設けたセルロース系繊維を含む衣類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、以下のほつれ止め開口部を有する衣類を提供する。
項1.セルロース系繊維を含む衣類であって、1以上の開口部において前記衣類を構成するセルロース系繊維間が自己接合されたほつれ止め開口部を有する衣類。
項2.前記セルロース系繊維が綿繊維であることを特徴とする項1記載のほつれ止め開口部を有する衣類。
項3.前記ほつれ止め開口部の自己接合されたセルロース系繊維糸の部分においてセルロースII型(2型)の結晶構造を示し、前記自己接合されたセルロース系繊維糸の部分に連続する自己接合に寄与していない部分ではセルロースI型(1型)の結晶構造を示すことを特徴とする項2記載のほつれ止め開口部を有する衣類。
項4.前記ほつれ止め開口部が、首周り部、脇周り部、袖口部、裾周り部の少なくとも1つであるアンダーシャツであることを特徴とする項1乃至3に記載のほつれ止め開口部を有する衣類。
項5.前記ほつれ止め開口部が、腰周り部、脚周り部の少なくとも1つであるパンツであることを特徴とする項1乃至3記載のほつれ止め開口部を有する衣類。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、セルロース系以外の異種の素材の併用を必須とすることなく、着用感に優れるとともに美観も兼ね備えた、ほつれ止め機能が付与されたセルロース系繊維を含む衣類を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】セルロース系繊維間が自己接合されたセルロース系繊維を含む衣類を説明する模式図である。
図2】実験例で用いたタンクトップ型衣類の調製方法及び構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。
【0010】
本発明のほつれ止め開口部を有する衣類において、セルロース系繊維を含む衣類のほつれ止め機能付与方法(以下、単に「ほつれ止め機能付与方法」ともいう。)では、まず、溶解溶液を用いてセルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維の表面を溶解する溶解工程を行うことができる。セルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維の表面を溶解することにより、次の自己接合工程においてセルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維間を自己接合させることができる。
なお、本発明のほつれ止め開口部を有する衣類において、上記セルロース系繊維間が自己接合されている部分は、ほつれ止め開口部の開口端部より内側10mmまでの範囲のみであることが好ましい。上記セルロース系繊維間が自己接合されている部分をほつれ止め開口部の開口端部の内側の一部のみとすることにより、ほつれの発生を防止しながら、衣類全体としての着用感を損なうことがない。より好ましくは、ほつれ止め開口部の開口端部より内側5mmまでの範囲のみである。
【0011】
本発明において、ほつれ止め機能付与方法に供するセルロース系繊維を含む衣類には、セルロース系樹脂からなる単繊維及び単繊維を使用した衣類が包含され、上記単繊維を使用した衣類としては、例えば、綿糸、綿混紡糸等の糸から製造される衣類等が挙げられる。なお、上記単繊維は、短繊維、長繊維のいずれであってもよい。
また、本明細書においてセルロース系繊維を含む衣類とは、限定されるものではないが、肌着、上着、靴下、手袋、帽子、ヘアバンド、フェイスマスク、おむつ、おむつカバー等の衣類が含まれる。
なお、本明細書におけるセルロース系樹脂には、綿、麻、バクテリアセルロース等の天然セルロースや、レーヨン、キュプラ、ポリノジック等の再生セルロースや、アセテート、トリアセテート等の半合成セルロースが含まれる。
【0012】
上記セルロース系繊維を含む衣類は、上記溶解溶液により溶解しやすいように前処理が施されていてもよい。このような前処理としては、例えば、上記セルロース系繊維を含む衣類の表面にカルボキシメチルセルロース等の易溶解性のセルロース系樹脂をコーティングする方法や、上記セルロース系繊維を含む衣類の表面に界面活性剤又は撥水剤を塗布する方法や、上記セルロース系繊維を含む衣類の表面に上記溶解溶液の一成分を予め塗布する方法等が挙げられる。
なお、ほつれ止め開口部の開口端部より内側10mmまで(又は内側5mmまで)の範囲のみにおいてセルロース系繊維間を自己接合させる場合には、開口端部より内側10mmまで(又は内側5mmまで)の範囲のみに上記前処理を施すことが好ましい。
【0013】
上記溶解溶液としては、セルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維の表面を溶解することができるものであれば特に限定されず、例えば、低温アルカリ尿素溶液、バルカン化溶液、重金属アミン系溶液、セルロース可溶性有機溶剤溶液等が挙げられる。
【0014】
上記低温アルカリ尿素溶液は、具体的には例えば、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)等のアルカリを蒸留水に溶解したアルカリ溶液と、CO(NH、CS(NH等の尿素化合物を蒸留水に溶解した尿素化合物溶液とを調製し、該アルカリ溶液と尿素化合物溶液とを混合することにより調製される。
上記低温アルカリ尿素溶液は、0℃以下の低温下において、セルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維を溶解することができる。
【0015】
上記バルカン化溶液としては、例えば、塩化亜鉛溶液、チオシアン酸カルシウム溶液等が挙げられる。具体的には例えば、塩化亜鉛(ZnCl)を64〜74%の高濃度で蒸留水に溶解した塩化亜鉛溶液は、セルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維を膨潤させることができる。
【0016】
上記重金属アミン系溶液としては、例えば、銅エチレンジアミン溶液、銅アンモニア溶液等が挙げられる。具体的には例えば、水酸化銅(Cu(OH))をイオン交換で蒸留水に混合した水酸化銅溶液に、冷却しながらエチレンジアミンを加えることにより、銅エチレンジアミン([Cu(en)](OH))溶液を得ることができる。また、水酸化銅(Cu(OH))をイオン交換で蒸留水に混合した水酸化銅溶液に、冷却しながらアンモニア水を加えることにより、銅アンモニア([Cu(NH](OH))溶液を得ることができる。これらの重金属アミン系溶液は、セルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維を溶解することができる。
【0017】
上記セルロース可溶性有機溶剤溶液としては、例えば、N−メチルモルホリン−N−オキシド水溶液、イオン性液体等が挙げられる。これらの有機溶剤溶液は、セルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維を溶解することができる。
【0018】
上記溶解工程においては、上記溶解溶液を用いてセルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維の表面を溶解することができる。具体的には例えば、上記セルロース系繊維を含む衣類を上記溶解溶液に浸漬する方法や、上記セルロース系繊維を含む衣類の表面に上記溶解溶液をドットプリント、インクジェットプリント等の印刷方法により印刷する方法や、上記セルロース系繊維を含む衣類の表面に上記溶解溶液をスクリーン捺染する方法等により、セルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維の表面を溶解する。上記セルロース系繊維を含む衣類を上記溶解溶液に浸漬する方法は、操作が容易であり、大量のセルロース系繊維を含む衣類を処理でき好適である。上記セルロース系繊維を含む衣類の表面に上記溶解溶液をドットプリント、インクジェットプリント等の印刷方法により印刷する方法や、上記セルロース系繊維を含む衣類の表面に上記溶解溶液をスクリーン捺染する方法は、セルロース系繊維を含む衣類の自然な風合いや伸縮・変形可能性を最適に保持しやすく好適である。
【0019】
例えば、上記溶解工程において上記セルロース系繊維を含む衣類を上記溶解溶液に浸漬する場合、溶解溶液の温度、浴比、浸漬時間等の条件は、溶解溶液の種類や濃度等に従って最適な条件を決定すればよいが、少なくとも、次の自己接合工程においてセルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維間を自己接合させることができる程度に上記セルロース系繊維を含む衣類を構成する繊維の表面を溶解できる条件とする。一方、上記セルロース系繊維を含む衣類を構成する繊維をあまり溶解してしまうと、得られるほつれ止め機能が付与されたセルロース系繊維を含む衣類の着用感や風合いが悪化してしまう。従って、セルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維間を自己接合させることができ、かつ、着用感や風合いを悪化させない範囲で最適な条件を整えることが好ましい。
なお、ほつれ止め開口部の開口端部より内側10mmまで(又は内側5mmまで)の範囲のみにおいてセルロース系繊維間を自己接合させる場合には、開口端部より内側10mmまで(又は内側5mmまで)の範囲のみを上記溶解溶液に浸漬することが好ましい。
【0020】
本発明において、ほつれ止め機能付与方法では、次いで、上記溶解工程後のセルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維間を自己接合させる自己接合工程を行うことができる。具体的には例えば、上記溶解工程後のセルロース系繊維を含む衣類をプレスする方法や、上記セルロース系繊維を含む衣類がニットである場合にはニットのコース方向又はウェール方向に、織物である場合には経方向又は緯方向に緊張させることにより糸同士を収束させる方法等により、上記溶解工程後のセルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維間を自己接合させることができる。
【0021】
本明細書において「自己接合」とは、セルロース系樹脂以外の異種の接着成分を介することなく、セルロース系繊維同士が接合することを意味する。
ただし、セルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維間が自己接合されている場合において、セルロース系繊維を含む衣類がセルロース系樹脂以外の異種の素材を一部に含んでいてもよい。
【0022】
上記自己接合工程において上記溶解工程後のセルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維間を自己接合させることにより、生地の裁断端縁や開口部の裁断端縁であってもほつれの発生することのない、ほつれ止め機能を付与することができる。
セルロース系繊維間が自己接合されたセルロース系繊維を含む衣類を説明する模式図を図1に示した。図1(a)は、ループ接点が自己接合されたセルロース系繊維を含む衣類を、図1(b)は、ウェール方向接点が自己接合されたセルロース系繊維を含む衣類を示す。図1において、実線で囲んだ箇所が、セルロース系繊維間が接合された部位である。
【0023】
例えば、上記自己接合工程において溶解工程後のセルロース系繊維を含む衣類をプレスする方法により上記溶解工程後のセルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維間を自己接合させる場合、上記プレス工程におけるプレス条件は、上記溶解工程後のセルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維の溶解の程度に従って最適な条件を決定すればよいが、少なくとも、セルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維間を自己接合させることができる程度の条件とする。具体的には例えば、0.5〜5.0kgf/cmの範囲でプレスを行うことができる。また、プレス時には、必要に応じて加熱又は冷却を行ってもよい。
ほつれ止め開口部の開口端部より内側10mmまで(又は内側5mmまで)の範囲のみにおいてセルロース系繊維間を自己接合させる場合には、開口端部より内側10mmまで(又は内側5mmまで)の範囲のみをプレスしてもよい。
【0024】
本発明のほつれ止め機能付与方法では、上記自己接合工程後に、溶解工程において表面が溶解したセルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維を、再生液を用いて再生する再生工程を行うことが好ましい。特に上記溶解工程の溶解溶液として上記低温アルカリ尿素溶液、重金属アミン系溶液等を用いた場合には、得られるほつれ止め機能が付与されたセルロース系繊維を含む衣類の着用感や風合いが損なわれることがある。上記再生工程を行うことより、溶解溶液を中和するとともに、溶解したセルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維の形状や方向を整え、得られるほつれ止め機能が付与されたセルロース系繊維を含む衣類の着用感や風合いを向上させることができる。
【0025】
上記再生液としては、例えば、硫酸水溶液、塩酸水溶液、酢酸水溶液、リン酸水溶液等が挙げられる。なかでも、特に優れた着用感や風合いを有するほつれ止め機能が付与されたセルロース系繊維を含む衣類が得られることから、硫酸水溶液を用いることが好ましい。
【0026】
上記再生工程としては、具体的には例えば、上記自己接合工程後のセルロース系繊維を含む衣類を再生液に浸漬する方法が挙げられる。この際、再生液の温度、浴比、浸漬時間等の条件は、再生液の種類や濃度等に従って最適な条件を決定すればよいが、少なくとも、セルロース系繊維を含む衣類のpHを7前後にできる程度の条件とするとよい。例えば、上記再生液として1%硫酸水溶液を用いる場合、20〜30℃、浴比1:10〜1:100、1〜20分間程度浸漬することが好ましい。
【0027】
上記再生工程後のセルロース系繊維を含む衣類を、必要に応じて水洗、乾燥することにより、ほつれ止め機能が付与されたセルロース系繊維を含む衣類が得られる。
得られたほつれ止め機能が付与されたセルロース系繊維を含む衣類では、セルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維間が自己接合されている。生地の裁断端縁や開口部の裁断端縁であってもほつれの発生することがない。
セルロース系繊維を含む衣類を構成するセルロース系繊維間が自己接合されているほつれ止め機能が付与されたセルロース系繊維を含む衣類もまた、本発明の1つである。
【0028】
(実験例1)
(1)ほつれ止め機能の付与
セルロース系繊維を含む衣類用の生地として、40番手の綿糸を120g/mの密度で緯編みしたフライスニット丸編地を準備した。次に前記フライスニット丸編地を約50cm長さの筒状に裁断し、続いて筒編地を平置きした状態で首周り部、脇周り部に相当する部位を裁断切除し、肩上部の生地を縫い合わせて図2のような首周り、脇周り、裾周りの各開口部はほつれ止めされておらず、各開口部が切りっぱなしの状態のタンクトップ型衣類(以下、単に「原衣類」ともいう。)を調製した。
水酸化リチウム(LiOH)又は水酸化ナトリウム(NaOH)を蒸留水に溶解して表1に示した濃度のアルカリ溶液を調製した。また、CO(NH又はCS(NHを蒸留水に溶解して表1に示した濃度の尿素化合物溶液を調製した。得られたアルカリ溶液と尿素化合物溶液とを3:1の重量比で混合した後、−15℃に冷却して低温アルカリ尿素溶液を得た。
原衣類における首周り、脇周り、裾周りの各開口部、各裁断ラインから約5mmを部分的に低温アルカリ尿素溶液中に1:20の浴比(浸漬される部分の生地重量:処理液重量)で表1に示した条件で浸漬して溶解工程を行った。
【0029】
次いで、溶解工程後のセルロース系繊維を含む衣類を、プレス成型機を用い、表1に示した条件でプレスして自己接合工程を行った。各実験例では自己接合工程における押圧の程度による違いを確認するため、所定の圧力のプレスで自己接合工程としたが、所定時間放置することで自己接合を進行させる方法をもって自己接合工程とすることも可能であり、自己接合工程はプレス工程に限定されるものではない。
自己接合工程後のセルロース系繊維を含む衣類を、1%硫酸水溶液中に1:50の浴比で表1に示した条件で浸漬して再生工程を行った。
再生工程後のセルロース系繊維を含む衣類を水洗い(5分間×2回)した後、乾燥して、ほつれ止め機能が付与されたセルロース系繊維を含む衣類(ほつれ止め開口部を有する衣類)を得た。
【0030】
(2)ほつれ止め機能の評価
得られたほつれ止め機能が付与されたセルロース系繊維を含む衣類(ほつれ止め開口部を有する衣類)について、家庭用2槽式洗濯機(東芝社製、商品名「GINGA4.5」)を使用して下記条件にて洗濯を行った。
洗濯(300分)→遠心脱水(5分)→注水すすぎ(10分)→遠心脱水(5分)
液温:常温(25℃),水流:強水流
洗剤:ライオン(株)製、商品名:トップ,水量:30リットル
洗濯水1リットルに対して洗剤1.3g使用
負荷布:綿100%フライス編地1.0kg分
洗濯後のサンプルについて、ほつれ止め開口部のほつれ程度を観察し、下記の4段階で評価した。ここで、△と×は衣料として着用をためらう程度の傷みであり、◎又は〇が洗濯耐久性の点で好ましい。
◎:傷みが認められない
〇:やや傷みが認められる
△:傷みが認められる
×:傷みが激しい
なお、比較対象として、ほつれ止め機能付与処理を行わなかった原衣類についても同様の評価を行った。
結果を表1に示した。
【0031】
【表1】
【0032】
(実験例2)
セルロース系繊維を含む衣類用の生地として、40番手の綿糸を120g/mの密度で緯編みしたフライスニット丸編地を準備した。次に前記フライスニット丸編地を約50cm長さの筒状に裁断し、続いて筒編地を平置きした状態で首周り部、脇周り部に相当する部位を裁断切除し、肩上部の生地を縫い合わせて図2のような首周り、脇周り、裾周りの各開口部はほつれ止めされておらず、各開口部が切りっぱなしの状態のタンクトップ型衣類(以下、単に「原衣類」ともいう。)を調製した。
塩化亜鉛を蒸留水に溶解して70%塩化亜鉛溶液を調製した。
原衣類における首周り、脇周り、裾周りの各開口部、各裁断ラインから約5mmを部分的に70%塩化亜鉛溶液中に1:5の浴比で表2に示した条件で浸漬して溶解工程を行った。
【0033】
次いで、溶解工程後のセルロース系繊維を含む衣類を、プレス成型機を用い、表2に示した条件でプレスして自己接合工程を行った。
自己接合工程後のセルロース系繊維を含む衣類を水洗い(5分間×2回)した後、乾燥して、ほつれ止め機能が付与されたセルロース系繊維を含む衣類(ほつれ止め開口部を有する衣類)を得た。
【0034】
得られたほつれ止め機能が付与されたセルロース系繊維を含む衣類(ほつれ止め開口部を有する衣類)について、実験例1と同様の方法により、ほつれ止め機能の評価を行った。
結果を表2に示した。
【0035】
【表2】
【0036】
(実験例3)
セルロース系繊維を含む衣類用の生地として、40番手の綿糸を120g/mの密度で緯編みしたフライスニット丸編地を準備した。次に前記フライスニット丸編地を約50cm長さの筒状に裁断し、続いて筒編地を平置きした状態で首周り部、脇周り部に相当する部位を裁断切除し、肩上部の生地を縫い合わせて図2のような首周り、脇周り、裾周りの各開口部はほつれ止めされておらず、各開口部が切りっぱなしの状態のタンクトップ型衣類(以下、単に「原衣類」ともいう。)を調製した。
水酸化銅(Cu(OH))をイオン交換で蒸留水に混合した水酸化銅溶液に、冷却しながらエチレンジアミン又は28重量%アンモニア水を加えることにより、表3に示した濃度の銅エチレンジアミン溶液又は銅アンモニア溶液を得た。
原衣類における首周り、脇周り、裾周りの各開口部、各裁断ラインから約5mmを部分的に銅エチレンジアミン溶液又は銅アンモニア溶液中に1:20の浴比で表3に示した条件で浸漬して溶解工程を行った。
【0037】
次いで、溶解工程後のセルロース系繊維を含む衣類を、プレス成型機を用い、表3に示した条件でプレスして自己接合工程を行った。
自己接合工程後のセルロース系繊維を含む衣類を、1%硫酸水溶液中に1:50の浴比で表3に示した条件で浸漬して再生工程を行った。
再生工程後のセルロース系繊維を含む衣類を水洗い(5分間×2回)した後、乾燥して、ほつれ止め機能が付与されたセルロース系繊維を含む衣類(ほつれ止め開口部を有する衣類)を得た。
【0038】
得られたほつれ止め機能が付与されたセルロース系繊維を含む衣類(ほつれ止め開口部を有する衣類)について、実験例1と同様の方法により、ほつれ止め機能の評価を行った。
結果を表3に示した。
【0039】
【表3】
【0040】
これら各例について、ほつれ止め開口部の自己接合されたセルロース系繊維糸の部分、及び前記自己接合されたセルロース系繊維糸の部分に連続する自己接合に寄与していない部分においてセルロースの結晶型を確認した。前記自己接合されたセルロース系繊維糸の部分は、セルロースII型(2型)の結晶構造を示し、前記自己接合されたセルロース系繊維糸の部分に連続する自己接合に寄与していない部分ではセルロースI型(1型)の結晶構造を示すことが確認できた。セルロースの結晶型の確認については、X線回折、Baナンバー測定、染色試験等の各種評価手法により可能である。
以上の例から、本発明によれば首周り部、脇周り部、裾周り部の各開口部について、セルロース系繊維間が自己接合されたほつれ止め開口部とされたタンクトップ型のアンダーシャツについて理解できる。他にも半袖や長袖シャツの袖口開口部や、パンツの腰回り部、脚周り部の各開口部、その他の衣類における開口部等も、同様のセルロース系繊維の溶解工程、自己接合工程、及び再生工程によって、ほつれ止めされた開口部にできることは容易に理解できる。また、例は緯編地のセルロース系繊維100%生地を用いたが、経編地や織地にも適用できること、セルロース系繊維の含有量について、自己接合されたほつれ止め開口部の接合力が保たれる程度あればよいこと等も当業者であれば容易に理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、セルロース系以外の異種の素材の併用を必須とすることなく、着用感に優れるとともに美観も兼ね備えた、ほつれ止め機能が付与されたセルロース系繊維を含む衣類を提供することができる。
【要約】
本発明は、セルロース系以外の異種の素材の併用を必須とすることなく、着用感に優れるとともに美観も兼ね備えた、ほつれ止め機能が付与されたセルロース系繊維を含む衣類を提供することを目的とする。
本発明は、セルロース系繊維を含む衣類であって、1以上の開口部において前記衣類を構成するセルロース系繊維間が自己接合されたほつれ止め開口部を有する衣類である。
図1
図2