(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6750147
(24)【登録日】2020年8月17日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】圧電型マイクロホン
(51)【国際特許分類】
H04R 17/02 20060101AFI20200824BHJP
H01L 41/09 20060101ALI20200824BHJP
H01L 41/053 20060101ALI20200824BHJP
H04R 7/04 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
H04R17/02
H01L41/09
H01L41/053
H04R7/04
【請求項の数】10
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-532395(P2018-532395)
(86)(22)【出願日】2017年8月29日
(65)【公表番号】特表2019-520718(P2019-520718A)
(43)【公表日】2019年7月18日
(86)【国際出願番号】CN2017099519
(87)【国際公開番号】WO2018214321
(87)【国際公開日】20181129
【審査請求日】2018年6月20日
(31)【優先権主張番号】201710364823.6
(32)【優先日】2017年5月22日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520214293
【氏名又は名称】ウエイファン ゴルテック マイクロエレクトロニクス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ヂァン,ジュンカイ
(72)【発明者】
【氏名】シュウ,ジョンリン
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ,メンジン
【審査官】
鈴木 圭一郎
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2015/190429(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0003763(US,A1)
【文献】
特開2010−034641(JP,A)
【文献】
特開2007−124306(JP,A)
【文献】
特表平09−508777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 17/00−17/02
H04R 7/00−7/04
H01L 41/053
H01L 41/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックキャビティ(10)を有する基板(1)と、前記基板(1)と圧電膜(3)との間の環状構造をなす絶縁層(2)を介して基板(1)上方に接続される前記圧電膜(3)とを含み、前記圧電膜(3)における前記圧電膜(3)と前記絶縁層(2)との接続点内側の位置に、複数のくりぬき孔(4)が設置されており、前記圧電膜(3)におけるくりぬき孔(4)の少なくとも一部が基板(1)と重なり、前記圧電膜(3)におけるくりぬき孔(4)の位置と基板(1)との間に隙間(5)を有し、前記隙間(5)とくりぬき孔(4)とが通路として構成されることを特徴とする圧電型マイクロホン。
【請求項2】
前記複数のくりぬき孔(4)は、前記基板(1)のバックキャビティ(10)を取り囲んで分布することを特徴とする請求項1に記載の圧電型マイクロホン。
【請求項3】
前記絶縁層(2)は、連続的な環状構造をなすことを特徴とする請求項1または2に記載の圧電型マイクロホン。
【請求項4】
前記絶縁層(2)は、断続的な環状構造をなすことを特徴とする請求項1または2に記載の圧電型マイクロホン。
【請求項5】
前記くりぬき孔(4)は、圧電膜(3)のエッジまで貫通し、断続的な2つの絶縁層(2)の間に相対的に分布することを特徴とする請求項4に記載の圧電型マイクロホン。
【請求項6】
前記圧電膜(3)におけるくりぬき孔(4)から圧電膜(3)中心までの間の部分は、基板(1)と重なることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧電型マイクロホン。
【請求項7】
前記圧電膜(3)と基板(1)との間の隙間(5)は、0.5μm〜3μmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の圧電型マイクロホン。
【請求項8】
前記くりぬき孔(4)が円形、矩形、楕円形、扇形または台形をなすことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の圧電型マイクロホン。
【請求項9】
前記圧電膜(3)は、複合される第1の電極層(30)と、圧電材料中間層(31)と、第2の電極層(32)とを順に含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の圧電型マイクロホン。
【請求項10】
前記第1の電極層(30)と、圧電材料中間層(31)と、第2の電極層(32)とが堆積の方式により複合されることを特徴とする請求項9に記載の圧電型マイクロホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロホン分野に係り、さらに具体的には、圧電型マイクロホンに係る。
【背景技術】
【0002】
MEMSマイクロホンはすでに消費者向け電子製品に応用され普及している。従来のMEMSマイクロホンは主にコンデンサ型マイクロホンであり、基板および基板に形成される背極、振動膜を含む。前記振動膜と背極はコンデンサ構造を構成する。このような2層膜の設計を採用すると、背極と振動膜の間の空気減衰の問題を回避できないことから、そのSNRパラメータは65dBレベルにとどまっている。後続のMEMSコンデンサ型マイクロホンの性能をレベルアップするには、材料技術および設計構成における進展が不可欠である。
【0003】
科学技術の発展に伴い、圧電型シリコンマイクロホンが次第に発展し始めており、圧電マイクロホンの製作工程は簡単である。単層膜の設計構成を採用し空気減衰の制約を受けなくすることで、SNRが自然に向上する。また圧電型シリコンマイクロホンの構造が単純であるため、防汚、防塵、防水などの環境適応能力も大幅に向上する。近年のAIN、PZT材料の進展に伴い、圧電型MEMSマイクロホンが新世代MEMSマイクロホンの開発の主流となるであろう。
【0004】
しかし、コンデンサマイクロホンに比べ、圧電マイクロホンの普及および応用に影響する最大の欠点は圧電マイクロホンの感度が低すぎることにある。つまり圧電膜が音声信号を感知する能力は、コンデンサ型マイクロホンにおける振動膜の能力よりかなり低いことである。圧電型マイクロホンの感度を高めるため、大半のメーカーが圧電膜にくりぬきを施す設計を採用しているが、このようなくりぬきの設計による低周波信号、さらには中周波信号の漏洩が非常に深刻であり、しかも圧電膜の有効面積を減らし、音声信号を効率的に受信できなく、製品の性能と理論的なデータとの間に大きな差を有し、所期の性能を達成できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は圧電型マイクロホンの新たな手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の手段に基づき、バックキャビティを有する基板、および絶縁層を介して基板上方に接続される圧電膜を含み、前記圧電膜における圧電膜と基板との接続点内側の位置に複数のくりぬき孔が設置されており、前記圧電膜におけるくりぬき孔の少なくとも一部が基板と重なり、前記圧電膜におけるくりぬき孔の位置と基板との間に隙間を有し、前記隙間とくりぬき孔が通路として構成される圧電型マイクロホンを提供する。
【0007】
または、前記複数のくりぬき孔が前記基板のバックキャビティを取り囲んで分布してもよい。
【0008】
または、前記基板と圧電膜との間の絶縁層が連続的な環状構造をなしてもよい。
【0009】
または、前記基板と圧電膜との間の絶縁層が断続的な環状構造をなしてもよい。
【0010】
または、前記くりぬき孔が圧電膜のエッジまで貫通し、前記くりぬき孔が断続的な2つの絶縁層の間に相対的に分布してもよい。
【0011】
または、前記圧電膜におけるくりぬき孔から圧電膜中心までの間の部分が基板と重なってもよい。
【0012】
または、前記圧電膜と基板との間の隙間が0.5μm〜3μmであってもよい。
【0013】
または、前記くりぬき孔が円形、矩形、楕円形、扇形または台形をなしてもよい。
【0014】
または、前記圧電膜が、複合される第1の電極層、圧電材料中間層、第2の電極層を順に含んでもよい。
【0015】
または、前記第1の電極層、圧電材料中間層、第2の電極層が堆積の方式により複合されてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の提供する両側の音源に適する圧電型マイクロホンは、くりぬき孔が隙間を経なければ圧電膜の両側を連通する通路を構成できず、これにより正常な発音は隙間を経なければ流れ出ることができない。従来のくりぬき構造に対し、本発明の隙間は音声が直接くりぬき孔を経て伝わることを妨げることができることで、該圧電型マイクロホンの低周波信号、中周波信号の漏洩量を大幅に減らすことができ、圧電型マイクロホンの性能を高める。さらに該隙間は粉塵や、微粒子、水が進入しチップを損傷することを効果的に防止できる。
【0017】
本発明の発明者らは、従来技術では、圧電膜に設置されるくりぬき構造が低周波信号さらには中周波信号の漏洩を非常に深刻にし、さらに圧電膜の有効面積を減らし、音声信号を効率的に受信できなくし、製品の性能と理論的なデータとの間に大きな差を有し、所期の性能を達成できないことを知見するのに至った。したがって、本発明で実現しようとする技術的課題または解決しようとする技術的課題は当業者が想到しないまたは予期しないものであり、ゆえに本発明は新しいものである。
【0018】
以下の図面を参照した本発明の例示的実施例についての詳しい説明により、本発明のその他の特徴およびその利点が明確になる。
【0019】
明細書で参照し且つ明細書の一部を構成する図面は、本発明の実施例を示し、且つその説明とともに本発明の原理を解釈するために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】本発明のマイクロホンの下音源の模式図である。
【
図3】本発明のマイクロホンの上音源の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ここで、図面を参照し本発明の様々な例示的実施例を詳しく述べる。特に説明がない限り、これら実施例において説明する部材およびステップの相対的配置、数式および数値は本発明の範囲を限定するものではないことに注意すべきである。
【0022】
以下の例示的実施例の少なくとも1つについての記述は、実際には単なる説明にすぎず、決して本発明およびその応用または使用に対するいかなる限定でもない。
【0023】
当業者が既知の技術、方法および設備について詳しく述べることはないが、適宜な状況において、前記技術、方法および設備は明細書の一部とみなすべきである。
【0024】
ここで示し述べる全ての例において、いかなる具体的な値も例示的なものにすぎず、限定するものではないと解釈されるべきである。したがって、例示的実施例のその他の例は異なる値を有してよい。
【0025】
類似する符号およびアルファベットは、以下の図面において同様の項目を示すことから、一度、ある項目が1つの図面において定義されれば、次の図面ではそれについてさらに述べる必要はないことに注意すべきである。
【0026】
図1〜
図2を参照する。本発明は、基板1、および絶縁層2を介して基板1上方に接続される圧電膜3を含む圧電型マイクロホンを提供する。基板1の中部領域にバックキャビティ10が形成されており、前記圧電膜3のエッジは絶縁層2を介して基板1の上方に支持されることで、圧電膜3と基板1との間の絶縁を保証するとともに、圧電膜3のエッジ接続位置以外の領域を基板1のバックキャビティ10の上方に懸装する。
【0027】
本発明のマイクロホンはMEMSプロセスを用いて製造でき、基板1は単結晶シリコン材質を選択でき、絶縁層2は二酸化ケイ素材質を用いることができ、圧電膜3はAIN、PZT材料を用いることができる。本発明の具体的な態様では、前記圧電膜3は、ともに複合される第1の電極層30と、圧電材料中間層31と、第2の電極層32とを順に含む。このような複合はMEMSプロセスにおける順次堆積により実現でき、圧電材料分野で公知のその他の方式により行うこともでき、ここでは具体的に説明しない。
【0028】
本発明の圧電膜3は基板1の形状と係合し、円形、矩形、または当業者が公知のその他の形状を選択できる。前記圧電膜3に複数のくりぬき孔4が設置されており、該複数のくりぬき孔4は、圧電膜3と基板1との接続位置の内側位置に設置される。つまり、圧電膜3のエッジ位置は絶縁層2を介して基板1の上方に支持されて接続され、前記くりぬき孔4は圧電膜3の振動領域に設置されることで、該くりぬき孔4が圧電膜3の感度を高める目的を果たすことができる。
【0029】
前記圧電膜3のくりぬき孔4は少なくとも一部が基板1と重なる。
図2を参照すると、圧電膜3のくりぬき孔4の位置と基板1との間に隙間5を有するように、前記圧電膜3のくりぬき孔4は少なくとも一部が基板1の真上に位置する。つまり、圧電膜3のくりぬき孔4の位置と基板1との間に絶縁層2がないため、圧電膜3のくりぬき孔4の位置が基板1の真上に懸架される。前記隙間5とくりぬき孔4とは、前記バックキャビティ10と圧電膜3上方を連通する通路として構成される。
【0030】
本発明の圧電型マイクロホンは、くりぬき孔が隙間を経なければ圧電膜の両側を連通する通路を構成できず、これにより正常な発音は隙間を経なければ流れ出ることができない。従来のくりぬき構造に比べ、本発明の隙間は音声が直接くりぬき孔を経て伝わることを妨げることができることから、該圧電型マイクロホンの低周波信号、中周波信号の漏洩量を大幅に減らすことができ、圧電型マイクロホンの性能を高める。さらに該隙間は粉塵や、微粒子、水が進入しチップを損傷することを効果的に防止できる。
【0031】
本発明の圧電型マイクロホンは、
図2、
図3を参照すると、上音源に適するだけでなく、下音源にも適している。
図2は下音源の模式図を示しており、音声はバックキャビティ10の下方から進入し、このとき隙間5が低周波、中周波信号のくりぬき孔4からの漏洩量を減らすことができる。
図3は上音源の模式図を示しており、音声が圧電膜3の上方から進入し、くりぬき孔4を経て隙間5内に進入するとき、該隙間5は同様に低周波、中周波信号の漏洩量を阻むことができる。
【0032】
本発明の圧電型マイクロホンは、くりぬき孔4がバックキャビティ10の外側に相対的に分布しているため、音圧の漏洩量を制御・調節できる。例えば隙間5の長さおよび高さを制御できることで、隙間5の妨げる能力を調節する目的を達成する。
【0033】
例えば本発明の具体的な実施の態様では、前記隙間5の高さが例えば0.5μm〜3μmでよい。
【0034】
本発明の別の具体的な実施の態様では、前記圧電膜3のくりぬき孔4は、基板1と部分的に重なってよく、全てが重なってもよいことから、隙間5の横方向におけるサイズの調節を実現する。さらに好ましくは、前記圧電膜3のくりぬき孔4の位置から圧電膜3の中心位置までの間の部分が基板1と重なる。つまり、くりぬき孔4の位置全てが基板1と重なるだけでなく、圧電膜3のくりぬき孔4から圧電膜3の中心までの間の領域も基板1の真上に部分的に延び、且つ隙間5の形成に関わる。これによって、隙間5の横方向におけるサイズを大幅に延長し、隙間5の妨げる能力を高める。さらに長い隙間5は粉塵や、微粒子がチップの内部に進入することを効果的に回避できる。
【0035】
本発明の複数のくりぬき孔4は基板1のバックキャビティ10の周囲を均一に取り囲み、前記複数のくりぬき孔4は、例えば
図1に示すような円形環状構造をなして配置、または
図4に示すような矩形環状構造をなして配置できる。そのうち、くりぬき孔4は円形、矩形、楕円形、扇形または台形などでよい。前記基板1と圧電膜3との間の絶縁層2は、連続的な環状をなしてもよく、断続的な環状構造をなしてもよい。
【0036】
基板1と圧電膜3との間の絶縁層2が連続的な環状構造をなす場合、つまり、該絶縁層2が基板1、圧電膜3の周方向全てを閉鎖する閉鎖環状である場合、隙間5とくりぬき孔4とが構成する通路のみ存在する。
【0037】
基板1と圧電膜3との間の絶縁層2が断続的な環状構造をなす場合、前記隙間5と、断続的な2つの絶縁層2の間と、およびくりぬき孔4の間とで複数の通路を構成し、該構造は上述した1つのみの通路の場合に対し、マイクロホンの漏洩量を増大する。
【0038】
本発明のくりぬき孔4は圧電膜3の内部に設置してよい。これに対し、くりぬき孔4が圧電膜3のエッジまで貫通してもよく、この場合、くりぬき孔4が圧電膜3の感度を高める作用に影響しないよう保証するために、前記くりぬき孔4は断続的な2つの絶縁層2の間の位置に相対的に分布してよく、絶縁層2が前記くりぬき孔4に接触することを防止する。
【0039】
例により本発明のいくつかの特定の実施例を詳しく説明したが、当業者は、以上の例は説明するためのものにすぎず、本発明の範囲を限定するものではないと理解すべきである。当業者は、本発明の範囲および主旨を逸脱しない状況で、以上の実施例について変形を行うことができると理解すべきである。本発明の範囲は添付の請求の範囲により限定される。