(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6750247
(24)【登録日】2020年8月17日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】加熱滅菌装置およびその方法
(51)【国際特許分類】
A61L 2/04 20060101AFI20200824BHJP
【FI】
A61L2/04
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-34176(P2016-34176)
(22)【出願日】2016年2月25日
(65)【公開番号】特開2017-148288(P2017-148288A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2018年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100086852
【弁理士】
【氏名又は名称】相川 守
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】小石 茂喜
(72)【発明者】
【氏名】原 真一
(72)【発明者】
【氏名】鵜川 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 真吾
【審査官】
小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−233861(JP,A)
【文献】
特許第3559929(JP,B1)
【文献】
実開昭58−124235(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/00− 2/28
A61L 11/00− 12/14
C02F 1/02− 1/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に貯留された液体を所定の滅菌条件で加熱滅菌するための貯留タンクと、
前記貯留タンクの壁面の下部に設けられ、外部から送り込まれた加熱媒体によって、滅菌条件の液体の加熱温度よりも高い温度で前記貯留タンクを加熱する下部ジャケットと、
前記貯留タンクの壁面の上部に設けられ、外部から送り込まれた加熱媒体によって、滅菌条件の液体の加熱温度よりも低い温度で前記貯留タンクの液面位置よりも上部を加熱する上部ジャケットとを備えることを特徴とする加熱滅菌装置。
【請求項2】
前記液体を前記貯留タンク内に供給する液体供給手段と、供給された液体の液面の位置が前記下部ジャケットの上縁部よりも高い位置になるように前記液体の供給量を制御する制御手段とを備えることを特徴とする請求項1に記載の加熱滅菌装置。
【請求項3】
貯留タンク内に貯留された液体を外部から送り込まれた加熱媒体で加熱するジャケットによって所定の滅菌条件で加熱して滅菌する加熱滅菌方法であって、
前記貯留タンクの壁面の下部に配置された下部ジャケットを介して、滅菌条件の液体の加熱温度よりも高い温度で前記貯留タンクを加熱するとともに、前記貯留タンクの壁面の上部に配置された上部ジャケットを介して、滅菌条件の液体の加熱温度よりも低い温度で前記貯留タンクの液面位置よりも上部を加熱することを特徴とする加熱滅菌方法。
【請求項4】
前記滅菌条件の液体の加熱温度が、121℃以上であることを特徴とする請求項3に記載の加熱滅菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液等の液体を加熱滅菌する装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薬液等の液体を滅菌する方法として、液体を貯留したタンクを加熱する加熱滅菌方法が知られている。しかしこの方法では、加熱したタンクの内壁面に付着した液体の成分が加熱されると内壁面に析出物として焼付くという問題が生じる。このようにしてタンク内壁面に固着した析出物(スケール)は簡単には除去することができない。例えばタンク内部にスクレーパーを設けてスケールを除去することが考えられるが、スクレーパーがタンク内壁面に摺接することによって摩耗粉が発生して、これが液体に混入する恐れがあり、好ましくない。そこで特許文献1に開示されているように、タンク内の液面位置を、タンクを加熱するためのジャケットの上縁よりも常に高くなるように維持し、析出物の内壁面への焼き付きを防止する構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3559929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1では、タンク内を滅菌条件で保つには、タンクのジャケット内に送り込む蒸気の温度を滅菌条件よりもかなり高く設定する必要があり、薬液の温度を滅菌条件の温度で一定に保つには高精度の温度管理を必要とする。
【0005】
本発明は、簡単な構成により、タンク内壁面に液体の析出物が焼付くことを防止する加熱滅菌装置およびその方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る加熱滅菌装置は、内部に貯留された液体を所定の滅菌条件で加熱滅菌するための貯留タンクと、貯留タンクの壁面の下部に設けられ、外部から送り込まれた加熱媒体によって、滅菌条件の液体の加熱温度よりも高い温度で貯留タンクを加熱する下部ジャケットと、貯留タンクの壁面の上部に設けられ、外部から送り込まれた加熱媒体によって、滅菌条件の液体の加熱温度よりも低い温度で貯留タンク
の液面位置よりも上部を加熱する上部ジャケットとを備えることを特徴としている。
【0007】
加熱滅菌装置は、液体を前記貯留タンク内に供給する液体供給手段と、供給された液体の液面の位置が下部ジャケットの上縁部よりも高い位置になるように液体の供給量を制御する制御手段とを備えていてもよい。
【0008】
本発明に係る加熱滅菌方法は、貯留タンク内に貯留された液体を外部から送り込まれた加熱媒体で加熱するジャケットによって所定の滅菌条件で加熱して滅菌する加熱滅菌方法であって、貯留タンクの壁面の下部に配置された下部ジャケットを介して、滅菌条件の液体の加熱温度よりも高い温度で貯留タンクを加熱するとともに、貯留タンクの壁面の上部に配置された上部ジャケットを介して、滅菌条件の液体の加熱温度よりも低い温度で貯留タンク
の液面位置よりも上部を加熱することを特徴としている。
【0009】
滅菌条件は例えば、121℃の温度で20分間加熱して滅菌することである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡単な構成により、タンク内壁面に液体の析出物が焼付くことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態である加熱滅菌装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態である加熱滅菌装置の概略的な構成を、
図1を参照して説明する。薬液タンク(貯留タンク)10には薬液が貯留され、薬液は所定の滅菌条件で加熱滅菌される。薬液タンク10には、第1および第2の原液タンク11、12からそれぞれ薬液の原液が供給される。薬液タンク10に接続された薬液供給管13は、第1の原液タンク11に接続される第1枝管14と、第2の原液タンク12に接続される第2枝管15とに分岐される。第1および第2枝管14、15にはそれぞれ管路を開閉するためのバルブ16、17が設けられ、薬液供給管13には、原液に含まれる異物を除去するためのフィルタ18が設けられる。この実施形態では、原液タンクの数は2であるが薬液に応じて増減されるものである。
【0013】
薬液タンク10の底部には排出管21が接続され、排出管21は充填機22に接続される。すなわち薬液タンク10において滅菌処理された薬液は排出管21を通って充填機22に送られ、充填機22において、バイアル、アンプル、バッグ等に充填される。排出管21には、薬液タンク10から排出される薬液の流量を制御するためのバルブ23と、薬液に含まれる異物を除去するためのフィルタ24が設けられる。
【0014】
薬液タンク10の下部には、薬液タンク10内に貯留された薬液を外部から送り込まれた蒸気で加熱するための下部ジャケット31が設けられる。下部ジャケット31は薬液タンク10の外壁面に密着して設けられ、後述するように蒸気供給ユニット41から例えば125〜130℃の蒸気を供給される。薬液に対する滅菌条件は121℃以上の温度で20分間以上滅菌することであり、下部ジャケット31は滅菌条件よりも高い温度で貯留タンク10を加熱する。
【0015】
薬液タンク10の上部の壁面には上部ジャケット32が設けられる。上部ジャケット32は下部ジャケット31と同様に、蒸気供給ユニット41から蒸気を供給されるが、その温度は滅菌条件よりも低く、例えば118℃である。これは後述するように、薬液タンク10の内壁に付着した、滅菌条件の温度(121℃)まで加熱された薬液から熱を上部ジャケット32に移動させることによって、薬液の成分が内壁面に付着して焼付くのを防止するためである。
【0016】
蒸気供給ユニット(蒸気供給手段)41は滅菌処理時に下部および上部ジャケット31、32に蒸気を供給するために設けられる。水供給ユニット(水供給手段)42は滅菌処理後に下部および上部ジャケット31、32に工業用水を供給して貯留タンク10内の薬液を常温付近まで冷却するために設けられる。蒸気供給ユニット41に接続された蒸気供給管43と水供給ユニット42に接続された水供給管44とは供給本管45に接続され、供給本管45は下部供給管46と上部供給管47に分岐して下部および上部ジャケット31、32にそれぞれ接続される。
【0017】
蒸気供給管43、水供給管44、下部供給管46、上部供給管47にはそれぞれバルブ51〜54が設けられる。滅菌処理時には、バルブ51、53、54を開放するとともにバルブ52を閉鎖し、下部および上部ジャケット31、32に蒸気が供給される。このとき、下部ジャケット31の温度が125〜130℃になり、上部ジャケット32の温度が118℃になるように、バルブ53、54の開度が調整される。このような環境により、薬液は121℃で20分間加熱されて滅菌処理される。滅菌処理後は、バルブ52、53、54を開放するとともにバルブ51を閉鎖し、下部および上部ジャケット31、32に工業用水が供給される。
【0018】
滅菌処理時に薬液タンク10内を高圧に定めて沸点を上げるために、コンプレッサ61が設けられる。コンプレッサ61は圧力管62を介して薬液タンク10に接続される。圧力管62には、薬液タンク10内の圧力を調節するためのバルブ63と、コンプレッサ61から排出される高圧空気に含まれる異物を除去するためのフィルタ64とが設けられる。
【0019】
滅菌処理時、薬液タンク10内の液面Lの高さ位置が下部ジャケット31の上縁部33よりも低い場合、薬液の飛沫が下部ジャケット31に対向する内壁面に付着すると薬液の成分が固着してスケールとなるおそれがある。そこで、液面の高さ位置が下部ジャケット31の上縁部33よりも低くならないように原液タンク11、12から薬液タンク10内に供給する原液の量を制御する、図示しない制御手段が設けられる。制御手段としては、滅菌処理が行われる前にタンク内に貯留される薬液の液面Lの位置を液面センサで検知するものであったり、原液タンク11、12で必要とする量だけ原液を調製して薬液タンク10内に供給するものであったり、第1および第2枝管14、15または薬液供給管13に流量計を設けるとともにバルブ16、17の開度を制御するものであったりしてもよい。
【0020】
薬液タンク10内には、薬液の温度を全体にわたって滅菌条件の温度である121℃以上に維持するために薬液を撹拌する攪拌機35が設けられる。
【0021】
なお、タンク内に貯留される薬液の液面Lの高さ位置としては、上述のように内壁面にスケールが固着しないように下部ジャケット31の上縁部33よりも高い位置であれば、薬液の種類などに応じてその位置を制御することができる。例えば上部ジャケット32の下縁部34よりも若干高い位置とすれば、薬液から上部ジャケット32に薬液の熱が適度に移動するので薬液の過剰な加熱滅菌を防ぐことができる。また、下部ジャケット31の上縁部33と上部ジャケット32の下縁部34との間になるようにすれば、薬液の加熱滅菌作用が不十分になってしまうことを防止することができる。さらに、薬液の撹拌を考慮して、撹拌時の周囲液面のせり上がりによる液面Lの高さ位置を下部ジャケット31の上縁部33よりも高い位置となるようにしても、内壁面へのスケールの固着を防ぐことができる。
【0022】
以上のように本実施形態では、原液タンク11、12から薬液タンク10内に所定の量だけ原液が供給されると、バルブ16、17を閉鎖した後、コンプレッサ61を稼働させて薬液タンク10内に所定の圧力まで加圧する。所定の圧力まで加圧した状態で薬液タンク10において薬液の液面位置よりも下部に配置された下部ジャケット31を介して、滅菌条件(121℃)よりも高い温度(125〜130℃)で薬液タンク10を加熱するとともに、薬液タンク10において薬液の液面位置よりも上部に配置された上部ジャケット32を介して、滅菌条件よりも低い温度(118℃)で薬液タンク10の加熱が行われる。また薬液の液面Lは、下部ジャケット31の上縁部33と上部ジャケット32の下縁部34との間になるように制御される。この液面の制御は、液面が上縁部33と下縁部34の間に位置すればよいという粗い精度で十分である。また本実施形態では、下部ジャケット31により薬液タンク10を加熱するとともに、上部ジャケット32により薬液タンク10を加熱しているので、従来装置と比較して下部ジャケット31を高温に設定しなくてもよく、液体を過剰に加熱してしまうおそれもない。
【0023】
このように本実施形態では、薬液の飛沫が薬液タンク10の内壁面に付着したとしても、内壁面の温度は薬液の成分が析出物として固化する程度には高くはなく、内壁面を伝わって流下する。すなわち本実施形態によれば、高精度な温度調整をすることなく、簡単な構成により、タンク内壁面に液体の成分から生じる焼付きが発生することを防止することができる。
【0024】
なお本実施形態では、ジャケット内に外部から送り込まれる加熱媒体として蒸気を用いたが、蒸気の代りに例えば加熱した液体を用いることもできる。この場合には、加熱した液体をポンプなどにより加圧して沸点を高めた状態で、ジャケット内で循環させるようにすることが好ましい。
【0025】
また本実施形態においては、滅菌条件の液体の加熱温度を121℃、下部ジャケットに送り込む蒸気の温度を125〜130℃、上部ジャケットに送り込む蒸気の温度を118℃と設定したが、加熱滅菌する液体に応じて最適な滅菌条件に変更可能である。
【0026】
さらに、本実施形態においては、薬液タンク10の壁面に上部ジャケット、下部ジャケットを各々1つ設けているが、これに限定されない。例えば滅菌条件の液体の加熱温度よりも低い温度で薬液タンクを加熱するものであれば、上部ジャケットを複数設けるようにしてもよく、各上部ジャケットを別の温度で加熱するようにしてもよい。また下部ジャケットについても同様である。
【符号の説明】
【0027】
10 薬液タンク(貯留タンク)
31 下部ジャケット
32 上部ジャケット