(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のステントの好ましい各実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
<第1実施形態>
図1Aは、本発明の第1実施形態に係るステント1の斜視図であり、
図1Bは、ステント1の側面図である。
図1A及び
図1Bに示すように、ステント1は、ステント本体部2と、拡径機構3と、を備える。
【0021】
ステント本体部2は、繊維素材20によって円筒状に形成される。より詳しくは、ステント本体部2は、複数本の繊維素材20で網目状に編み込まれ、外周に繊維素材20によって形成され且つ規則正しく配列される菱形の空孔を多数有する。
ステント本体部2は、少なくとも軸方向の中央部に配置される第1のピッチ部分21と、軸方向の一端部及び/又は他端部に配置される第1のピッチ部分よりも編目が粗である第2のピッチ部分22とを備える。本実施形態では、第2のピッチ部分22は、ステント本体部2のX方向の端部側に配置される。第2のピッチ部分22は、ステント本体部2のY方向の端部側に配置されていてもよく、また、第2のピッチ部分22は、ステント本体部2のX方向の端部側及びY方向の端部側に配置されていてもよい。
【0022】
本明細書においては、ピッチを次のように定義する。ピッチとは、1本の繊維素材20が周方向に1周するときの軸方向の長さをいう。即ち、
図1Bに示すように、ステント本体部2に外力が加えられていない場合、相対的に編目が密である第1のピッチ部分21のピッチL1は、相対的に編目が粗である第2のピッチ部分22のピッチL2に比べて小さい状態となる。また、ステント本体部2を縮径させるときは、第1のピッチ部分21、第2のピッチ部分22は共にピッチが増大し、拡径させるときは、共にピッチが縮小する。
【0023】
繊維素材20としては、例えば生分解性の繊維が挙げられ、材料として例えばL−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ―バレロラクトン、グリコール酸、トリメチレンカーボネート、パラジオキサノン等のモノマーから合成されるホモポリマー、コポリマー、及びそれらのブレンドポリマーが挙げられる。特に、ポリ−L−乳酸(以下、PLLAという場合がある)又は乳酸−カプロラクトン共重合体(以下、P(LA/CL)という場合がある)、もしくはそれらのブレンドポリマーからなる繊維を用いることが好ましい。
【0024】
繊維素材20は、モノフィラメント糸であってもよいし、マルチフィラメント糸であってもよい。また、繊維素材20は、撚りをかけていてもよいし、かけていなくてもよい。ステント本体部2の径方向外側から加わる圧力に対する反発力を強くする観点から、繊維素材20はモノフィラメント糸であることが好ましい。
【0025】
繊維素材20の直径は、0.05mm〜0.7mmであることが好ましい。繊維素材20の直径が0.05mm未満であると、ステント1の強度が低下する傾向にある。繊維素材20の直径が0.7mmを超えると、後段で詳述する内視鏡の内部に挿入するデリバリーシステム等の細管状の部材にステント1を収納し難くなる傾向にある。繊維素材20の直径の上限は、内径がより細いデリバリーシステムに収納する観点から、0.4mmであることがより好ましく、0.3mmであることが更に好ましい。繊維素材20の直径の下限は、高い強度を維持する観点から、0.2mmであることがより好ましい。
【0026】
拡径機構3は、ステント本体部2を縮径した状態から拡径した状態に変形させると共にステント本体部2を拡径した状態に維持する。この拡径機構3は、
図1A及びBに示すように、紐状部材30と、係止部31と、環状部32と、を有する。ここで、拡径した状態とは、ステントを体内に留置する際に所望される径まで拡大された状態をいう。従って、縮径した状態とは所望される径よりも小さい状態をいう。
【0027】
紐状部材30は、ステント本体部2の軸方向の一端側(X方向)に一端が接続されて、ステント本体部2の軸方向の他端側(Y方向)に延びる。より詳しくは、紐状部材30は、ステント本体部2の第2のピッチ部分22が配置された側(X方向)の端部に接続され、ステント本体部2の内部に配置される。紐状部材30は、繊維素材20と同様の生分解性の繊維によって構成されていてもよいし、生分解性ではない素材によって構成されていてもよい。
【0028】
係止部31は、紐状部材30に形成される。係止部31は、
図1A及び
図1Bに示すように、ステント本体部2の内部に配置される。
係止部31は、紐状部材30の径よりも大きな径を有する形状に形成される。係止部31は、紐状部材30の結び目であってもよいし、紐状部材30に形成される三角形状の返し部材であってもよい。また、係止部31は、紐状部材30の一部をリング状に形成したものであってもよい。紐状部材30及び係止部31は、生分解性の素材で構成されていてもよいし、生分解性ではない素材によって構成されていてもよい。
尚、係止部31を三角形状の返し部材により構成する場合、この係止部31は、ステント本体部2の径方向内側に突出するように形成されることが好ましい。これにより、係止部31がステント本体部2の網目に引っかかることを防げる。
【0029】
環状部32は、ステント本体部2のY方向側に接続され且つ環状に形成されて紐状部材30が挿通される。より詳しくは、環状部32は、ステント本体部2のY方向側の端部に、内側に延びるように接続される。
【0030】
次に、本実施形態のステント1の製造方法の一例につき説明する。
まず、ステント本体部2を製造する方法について説明する。
繊維素材20として、繊維径が0.25mmのポリ−L−乳酸のモノフィラメント糸を準備し、16本の繊維素材20を用いて軸方向に径が一定の芯棒に編み組みし、ステント本体部となる円筒を作製した。
円筒の中央部を相対的に小さいピッチで編み組みし、端部を相対的に大きいピッチで編み組みした。円筒を編み組みする際のピッチ比、即ちステント本体部2の製造時のピッチ比が、第1のピッチ部分のピッチL1:第2のピッチ部分のピッチL2=
1:3となるように編み組みした。第2のピッチ部分の軸方向の長さは、収縮して拡径したときにアンカー効果を得られるのに十分な長さとすればよく、第2のピッチ部分の軸方向の長さが長くなるほど、拡径時の径方向外側からの圧縮強度を高めることができる。
【0031】
このように、軸方向に径が一定の芯棒を用いているので、編み組みする際のピッチを変えるだけで拡径時の径を軸方向について変えることができる。また、所定のピッチにおける編み組みを繰り返して円筒を作製後、ステント本体部一つ分の長さに円筒を切断してもよい。
【0032】
編み組み後、芯棒から円筒を取り外した後、50〜80℃で、30〜60分、アニール処理を行って、ステント本体部2を得た。
【0033】
尚、芯棒から取り外した後の外力が負荷されていない状態の円筒は、取り外す前に比べて、若干、軸方向に収縮して拡径する。このように無負荷状態にすると、第1のピッチ部分21よりも第2のピッチ部分22の方が大きく収縮するため、製造時のピッチ比と製造後のピッチ比とは若干異なる。
【0034】
本発明では、製造時(つまり、第1のピッチ部分21と第2のピッチ部分22の径が等しい状態)のピッチ比L1:L2は、1:1.1〜1:7であることが好ましく、1:2〜1:4であることがより好ましい。ピッチ比L1:L2が1:1.1より小さい場合は、第2のピッチ部分22による十分なアンカー効果を得ることが難しく、ピッチ比L1:L2が1:7よりも大きい場合は、デリバリーシステムに収納するために、ステント本体部2を縮径させる場合に、第2のピッチ部分22が長くなり過ぎるため、ステント1を拡径して留置する操作が難しくなる。
【0035】
また、ステント本体部2の大きさは特に制限されないが、拡径した状態において、例えば、直径が5mm〜40mmであり、長さが30mm〜250mmである。
【0036】
以上のように製造されたステント本体部2に対して、係止部31が形成された紐状部材30、及び環状部32を取り付けることで、ステント1が製造される。
【0037】
次に、
図2A及び
図2Bも参照しつつ、ステント1の動作について説明する。
図2Aは、ステント1が拡径した状態を示す図(斜視図)であり、
図2Bは、ステント1が拡径した状態を示す図(側面図)である。
ステント本体部2は、紐状部材30をY方向に向かって引くことによって、
図2A及び
図2Bに示すように軸方向に収縮して拡径される。
【0038】
拡径機構3の係止部31は、紐状部材30をY方向に向かって引くことで環状部32をX方向側からY方向側に通過する。環状部32を通過した係止部31は、環状部32に係止されて、環状部32をY方向側からX方向側に通過することはできない。
このように、拡径機構3は、紐状部材30をY方向に向かって引くことによりステント本体部2を軸方向に収縮させて拡径し、係止部31と環状部32とが近接する方向に移動すると共に両者が係合することにより、ステント本体部2が拡径した状態から縮径することを規制して、ステント本体部2を拡径した状態に維持する。
【0039】
ステント本体部2は、編目の粗密、即ち異なるピッチの第1のピッチ部分21及び第2のピッチ部分22を備えることにより、拡径機構3により、縮径した状態(
図1A及び
図1B参照)から、ステント本体部2を軸方向に収縮させ、拡径した状態(
図2A及び
図2B参照)にすると、第1のピッチ部分21及び第2のピッチ部分22はそれぞれ異なる径に拡大される。
具体的には、第1のピッチ部分21及び第2のピッチ部分22において、軸方向に収縮させる前は第2のピッチ部分22の方がピッチは大きいが、軸方向に収縮させると、両者のピッチが略等しくなる。その結果、第1のピッチ部分21の拡径後の径よりも、第2のピッチ部分22の拡径後の径の方が大きくなり、
図2A及び
図2Bに示すように、拡径状態において端部(第2のピッチ部分22)がアンカー効果を有するダンベル形状となっている。
【0040】
また、本実施形態では、ステント本体部2における第2のピッチ部分22の端部(X方向側)に紐状部材30の一端が取り付けられている。よって、ステント1を体内に留置する際に、デリバリーシステムの先端側(X方向側)にアンカー効果を有する第2のピッチ部分22を配置して、デリバリーシステムの基端側(Y方向側)に延びる紐状部材30を引くことにより、ステント本体部2を拡径してステント1を留置することができるので、操作性を向上させられる。
【0041】
続いて、内視鏡100及び細管状の部材110を含んで構成されるデリバリーシステムを用いて、ステント1を患者の消化管内等の狭窄部に留置する方法について説明する。
図3A〜
図3Dは、生分解性ステント1を狭窄部に留置する方法について説明するための模式図である。
図3A〜
図3Dでは、紐状部材30、係止部31及び環状部32は、それぞれステント本体部2の周方向に等間隔をあけて2つ配置される。
【0042】
図3Aに示すように、ステント1は、細管状の部材110に収納される。この状態で、内視鏡100の先端部を狭窄部Nに接近させる。ステント1を収納した細管状の部材110は、内視鏡100の図示しない鉗子口に挿入され、ステント1を内視鏡100の先端部まで運ぶ。
【0043】
続いて、
図3Bに示すように、ステント1は細管状の部材110から押し出されて、狭窄部Nに囲まれた位置に配置される。細管状の部材110から排出された生分解性ステント1のステント本体部2は、わずかに拡径する。
【0044】
続いて、
図3Cに示すように、紐状部材30がY方向に向かって引かれることで更にステント本体部2が拡径し、狭窄部Nが押し広げられる。そしてこの際に、係止部31が環状部32を通過する。
【0045】
最後に、
図3Dに示すように、細管状の部材110及び内視鏡100が患者の体外に取り出され、生分解性ステント1が狭窄部Nに留置される。この際、必要に応じて紐状部材30をはさみにより切断することで、紐状部材30の長さを調整することができる。
このようにして、係止部31は環状部32に係止されて、ステント本体部2は拡径した状態に維持される。従って、ステント本体部2の中央部を構成する拡径された第1のピッチ部分21により狭窄部Nは押し広げられた状態に維持される。また、ステント本体部2の端部を構成する拡径された第2のピッチ部分22は、第1のピッチ部分21よりも径が大きい状態に維持される。
【0046】
第1実施形態に係るステント1によれば、以下の効果が奏される。
(1)第1実施形態では、ステント1が、繊維素材20を編み組みして円筒状に形成されるステント本体部2と、ステント本体部2を縮径した状態から所望の径まで拡径した状態に変形させて維持する拡径機構3と、を備えるものとした。
これにより、ステント本体部2は、拡径した状態において径方向外側からの圧力が加わったとしても、ステント本体部2を構成する編目が密となるため強度が増し、縮径しにくくなる。従って、ステント1は、仮に繊維素材20の径を細くした場合や強度の弱い生分解性繊維を用いた場合であっても、拡径した状態において径方向外側から加わる圧力に対しての耐性を有する。
【0047】
(2)第1実施形態では、軸方向に編目の粗密が異なる部分(第1のピッチ部分21及び第2のピッチ部分22)を有するステント本体部2を、拡径機構3により所望の径まで拡径した状態に変形させて維持する拡径機構3を備えるものとした。
これにより、ステント本体部2の軸方向に編目の粗密を異ならせるだけで、拡径後に、ステント本体部2は軸方向で径が異なる部分を得ることができる。
【0048】
(3)第1実施形態では、ステント本体部2は、軸方向の中央部に相対的に編目が密である第1のピッチ部分21と、軸方向の端部に相対的に編目が粗である第2のピッチ部分22とを有し、拡径機構3により所望の径に拡径、維持されるものとした。
これにより、ステント本体部2は、拡径状態において、狭窄部Nに配置される中央部の径よりも、端部の径の方が大きい状態が維持される。よって、ステント1を消化管等の管内の狭窄部に留置した後に、ステント1の端部(第2のピッチ部分22)が狭窄部に引っかかることによって、留置位置からステント1が逸脱する可能性を低減することができる(
図3D参照)。
【0049】
(4)第1実施形態では、拡径機構3が、ステント本体部2の軸方向のX方向に一端が接続され、Y方向に延びる紐状部材30と、紐状部材30に形成される係止部31と、ステント本体部2の他端側に環状に形成され且つ紐状部材30が挿通される環状部32と、を有する構成とした。
これにより、紐状部材30をY方向に引くだけで、ステント本体部2を拡径させ、係止部31と環状部32とが係合することにより、ステント本体部2を拡径した状態に維持することができる。従って、狭窄部Nに接近させたステント1(ステント本体部2)を容易に拡径させることができ、操作性を向上させることができる。
【0050】
(5)第1実施形態では、ステント本体部2は、軸方向のX方向の端部に第2のピッチ部分22を備えるものとした。
これにより、ステント1を留置する際に、デリバリーシステムの先端側に第2のピッチ部分22(ダンベル形状部分)を配することができるため、拡径して留置するときの操作性がよい。
【0051】
(6)第1実施形態では、ステント本体部2を製造する方法として、繊維素材20を準備し、軸方向に径が一定の芯棒を用いて、中央部を相対的に小さいピッチで編み組みし、端部を相対的に大きいピッチで編み組みして、ステント本体部2となる円筒を得るものとした。
このように、軸方向に径が一定の芯棒を用いているので、編み組みする際のピッチを変えるだけで拡径時の径を軸方向について変えることができる。また、所定のピッチにおける編み組みを繰り返して円筒を作製後、ステント本体部2一つ分の長さに切断して円筒を作製することもできるので、生産効率がよい。
【0052】
<第1実施形態の変形例>
図3Eを参照して、第1実施形態の変形例について説明する。第1実施形態と同一の構成については、
図3Eにおいてステント1と同様の符号を付して説明を省略する。
【0053】
図3Eに示したステント1Aは、拡径状態において、両端部の径が中央部の径よりも大きい構成となっている点が第1実施形態と異なる。
ステント本体部2Aは、拡径していない状態において、軸方向の中央部に相対的に編目が密である第1のピッチ部分21Aと、軸方向の両端部に相対的に編目が粗である第2のピッチ部分22a、22bと、を備える。
【0054】
拡径機構3Aは、ステント本体部2Aを縮径した状態から拡径した状態に変形させると共にステント本体部2Aを拡径した状態に維持する。この拡径機構3は、紐状部材30Aと、係止部31Aと、環状部32Aと、を有する。
【0055】
紐状部材30Aは、ステント本体部2の軸方向の一端側(X方向)に一端が接続されて、ステント本体部2の軸方向の他端側(Y方向)に延びる。より詳しくは、紐状部材30は、ステント本体部2の第2のピッチ部分22aのX方向の端部に接続され、ステント本体部2の内部に配置される。
【0056】
係止部31Aは、紐状部材30Aに形成され、紐状部材30Aの径よりも大きな径を有する形状に形成される。
【0057】
環状部32Aは、ステント本体部2のY方向側の第2のピッチ部分22bの端部に接続され且つ環状に形成されて紐状部材30Aが挿通される。
【0058】
ステント本体部2Aは、拡径機構3Aにより、紐状部材30AをY方向側に向かって引くことによって、
図3Eに示すように軸方向に収縮して拡径され、両端部の径が中央部の径よりも大きい状態で維持され、両端部にアンカー効果を有するダンベル形状が形成される。
【0059】
第1実施形態の変形例に係るステント1Aによれば、上記効果(1)〜(6)に加えて、以下の効果が奏される。
(7)第1実施形態の変形例では、ステント本体部2Aが、軸方向の中央部に相対的に編目が密である第1のピッチ部分21Aと、軸方向の両端部に相対的に編目が粗である第2のピッチ部分22a、22bと、を備える構成とした。
これにより、ステント本体部2Aは、拡径状態において、狭窄部Nに配置される中央部の径よりも、両端部の径の方が大きい状態が維持され、両端部にダンベル形状が形成される。よって、ステント1Aを消化管等の管内の狭窄部に留置した後に、ステント1Aの両端部(第2のピッチ部分22a、22b)が狭窄部Nに引っかかることによって、一端部のみの径が中央部の径よりも大きい場合よりも、留置位置からステント1Aが逸脱したり、位置ずれしたりする可能性を更に低減することができる。
【0060】
<第2実施形態>
図4Aは、本発明の第2実施形態に係るステント1Bの斜視図である。ステント1Bのうちステント1と同一の構成については、
図4Aにおいてステント1と同様の符号を付して説明を省略する。
【0061】
本実施形態では、ステント1Bは、ステント本体部2、拡径機構3Bを備える点は第1実施形態と同様であるが、更に、拡径機構3Bが規制機構4を備える点で第1実施形態と異なる。
【0062】
ステント本体部2のうち、第1のピッチ部分21に比べて、第2のピッチ部分22は編目が粗であるため(ピッチが大きいため)軟らかい。そのため、第2のピッチ部分22は、拡径機構3により拡径される際に、過剰に軸方向に収縮される場合がある。
【0063】
規制機構4は、ステント本体部2を軸方向に収縮させて拡径する際に、ステント本体部2における第2のピッチ部分22の軸方向への過剰収縮を規制するものである。この規制機構4は、第1の規制部材としての第2係止部41と、第2の規制部材としての第2環状部42とを備える。
【0064】
第2係止部41は、紐状部材30のうち所定の位置に形成される。ここで紐状部材30において、第2係止部41と第2のピッチ部分22に接続された端部との距離は、第2のピッチ部分22を軸方向に収縮させた場合の最適な幅に設定できる。
第2係止部41は、第2環状部42を通り抜けることができない構成であれば、紐状部材30の結び目であってもよいし、紐状部材30に形成される三角形状の返し部材であってもよい。また、第2係止部41は、紐状部材30の一部をリング状に形成したものであってもよい。第2係止部41は、生分解性の素材で構成されていてもよいし、生分解性ではない素材によって構成されていてもよい。
【0065】
第2環状部42は、ステント本体部2に接続され且つ環状に形成されて紐状部材30が挿通される。より詳しくは、第2環状部42は、ステント本体部2において、第1のピッチ部分21と第2のピッチ部分22との境界又は境界近傍に配置され、ステント本体部2の内側に延びるように接続される。
【0066】
図4A及び
図4Bも参照しつつ、ステント1Bの動作について説明する。
図4Aは、ステント1Bの斜視図であり、
図4Bは、ステント1Bの側面図である。
ステント本体部2は、紐状部材30をY方向側に向かって引くことによって、
図4Cに示すように軸方向に収縮して拡径される。
【0067】
より具体的に説明すると、紐状部材30をY方向側に向かって引くと、第2環状部42が第2係止部41のY方向への移動に干渉して第2のピッチ部分22の軸方向の過剰収縮を規制する。即ち、第2係止部41は、第2環状部42をX方向側からY方向側に通過することはできないため、拡径機構3Bを動作させる際に、第2のピッチ部分22が必要以上に軸方向に収縮することを規制することができる。
この状態から、更に紐状部材30をY方向側に向かって引くことで、規制機構4において第2環状部42と第2係止部41とが係合した位置から、第1のピッチ部分21は軸方向に収縮して拡径する。環状部32を通過した係止部31は、環状部32に係止されて、環状部32をY方向側からX方向側に通過することはできない。
【0068】
このように、規制機構4を備える拡径機構3Bは、紐状部材30をY方向側に向かって引くことによりステント本体部2のうち、第2のピッチ部分22を所望の幅のみ軸方向に収縮して拡径して維持し、更に、第1のピッチ部分21も軸方向に収縮して拡径して維持する。
【0069】
以上説明した第2実施形態のステント1Bによれば、上記効果(1)〜(6)に加えて、以下の効果が奏される。
(8)第2実施形態では、拡径機構3Bが、紐状部材30に形成される第1の規制部材(第2係止部41)と、第1のピッチ部分21と第2のピッチ部分22との境界又は境界近傍に形成される第2の規制部材(第2環状部42)とを有する規制機構4を更に備えるものとした。
これにより、拡径機構3Bを動作させる際に、ステント本体部2における第2のピッチ部分22の軸方向の過剰収縮を規制することができ、軸方向について所望の強度と、アンカー効果を備える形状を持ったステント1Bとすることができる。
【0070】
<第3実施形態>
図5Aは、本発明の第3実施形態に係るステント1Cの斜視図である。ステント1Cのうちステント1と同一の構成については、
図5Aにおいてステント1と同様の符号を付して説明を省略する。第3実施形態のステント1Cは、主として、ステント本体部2Cが延出部23を備える点、及び拡径機構3Cの構成において、第1実施形態と異なる。
【0071】
本実施形態では、ステント本体部2Cは、軸方向の中央部に配置された相対的に編目が密である第1のピッチ部分21と、軸方向の一端部に配置された相対的に編目が疎である第2のピッチ部分22と、軸方向の他端部に配置された延出部23と、を備える。
【0072】
延出部23は、第1のピッチ部分21の他端側から複数本の繊維素材20が第1のピッチ部分21の軸方向の外側に向かって延出して形成される。具体的には、延出部23は、第1のピッチ部分21を構成する複数本の繊維素材20の他端側が、ステント本体部2Cの軸方向外側に軸からわずかに離隔しつつ延びることで形成される。
【0073】
延出部23の先端部は、2本の繊維素材20の端部が繋がれてループ状に形成される。より具体的には、ループ状の先端部は、ステント1Cの一端における、繊維素材20が湾曲された部分によって構成される。尚、ここでの「2本の繊維素材20」とは、延出部23のみに着目した場合における2本の繊維素材20を意味し、本実施形態において「2本の繊維素材20」は1本の繊維素材20に由来している。
本実施形態では、延出部23は、延出長さの短い第1延出部231と、この第1延出部231よりも延出長さの長い第2延出部232と、を備える。そして、第1延出部231及び第2延出部232は、周方向に所定間隔をあけて交互に、それぞれ複数配置されている。また、本実施形態では、延出部23は、第1のピッチ部分21の一端側のみに配置される。
【0074】
ステント本体部2Cを形成する繊維素材20の本数は、本実施形態においては
16本であるが特に限定されない。繊維素材20の本数は、好ましくは16〜24本である。ステント本体部2Cの大きさは特に限定されないが、例えば、拡径した状態において、直径が5〜40mmであり、長さが30〜250mmである。
また、第1延出部231の延出長さは、好ましくは2mm〜7mmであり、第2延出部232の延出長さは、好ましくは7mm〜30mmである。
【0075】
拡径機構3Cは、ステント本体部2Cを縮径した状態から拡径した状態に変形させると共にステント本体部2Cを拡径した状態に維持する。この拡径機構3Cは、
図5Cに示すように、環状部材32Cと、紐状部材30Cと、係止部31Cと、を備える。
【0076】
環状部材32Cは、ステント本体部2Cの一端側(X方向側)に取り付けられる。より具体的には、環状部材32Cは、ステント本体部2Cにおける延出部23が配置されていないX方向側の、第2のピッチ部分22の端部に取り付けられる。環状部材32Cは、合成樹脂繊維又は生分解性繊維により構成され、合成樹脂繊維又は生分解性繊維の両端部がステント本体部2Cを構成する繊維に結び付けられることで環状に形成される。環状部材32Cにおけるステント本体部2Cへの取り付け位置は、ステント本体部2Cを好適に拡径させる観点から、ステント本体部2Cの先端部に近い位置であることが好ましい。
【0077】
紐状部材30Cは、ステント本体部2Cの他端側(Y方向側)に一端が接続されると共に環状部材32Cに挿通され、他端側がステント本体部2Cの他方側(Y方向側)に延びる。
より詳細には、本実施形態では、紐状部材30Cの一端は、
図5Cに示すように、第1延出部231の先端部に結び付けられて接続される。そして、紐状部材30Cは、第1延出部231との接続部からステント本体部2Cの外側を通り、この第1延出部231の近傍において、ステント本体部2Cの網目を通ってステント本体部2Cの内側に入る(
図5CのA部分参照)。
【0078】
次いで、紐状部材30Cは、ステント本体部2Cの内側をX方向側に向かって延び、環状部材32Cに挿通された後、折り返される(
図5CのB部分参照)。次いで、紐状部材30Cは、ステント本体部2Cの内側をステント本体部2CのY方向側に向かって延び、第1延出部231の近傍において、ステント本体部2Cの網目(前述のステント本体部2Cの外側から内側に入った網目と同じ網目)を通ってステント本体部2Cの外側に出る(
図5CのC部分参照)。そして、紐状部材30Cの他端側は、ステント本体部2CのY方向側に延びる。
【0079】
即ち、本実施形態では、紐状部材30Cは、環状部材32C側においてステント本体部2Cの内側を延びる部分と、第1延出部231との接続部の近傍においてステント本体部2Cを挿通する部分と、ステント本体部2Cを挿通する部分よりも第1延出部231側においてステント本体部2Cの外側を延びる部分と、を有する。また、紐状部材30Cの一端は、第1延出部231に結び付けられることで、第1延出部231部分を移動可能に接続される。
【0080】
係止部31Cは、紐状部材30Cとステント本体部2Cとの接続部分の近傍に配置される。この係止部31Cは、後述する紐状部材30Cの操作により、環状部材32Cを係止可能に構成される。本実施形態では、係止部31Cは、ステント本体部2Cを構成する繊維素材20がループ状に形成された第1延出部231により構成される。また、紐状部材30Cは、係止部31C(第1延出部231)の先端部に結び付けられて接続される。
【0081】
尚、紐状部材30Cが接続された第1延出部231(係止部31C)の基端部は、結び付けられた紐状部材30Cの一端部がステント本体部2C側に移動しないように、繊維素材20の交差部分を固定しておくことが好ましい。
【0082】
上述の拡径機構3Cは、ステント本体部2Cの周方向に等間隔で複数配置される。本実施形態では、
図5Aに示すように、拡径機構3Cは、2つ配置される。
【0083】
以上の拡径機構3Cによれば、ステント本体部2Cが縮径した状態において、紐状部材30Cをステント本体部2CのY方向側に引っ張ることにより、環状部材32Cと係止部31Cとが近接する方向に移動すると共に環状部材32Cと係止部31Cとが係合してステント本体部2Cを拡径した状態に維持する。
【0084】
次に、拡径機構3Cの動作につき、
図6A〜
図6Dを参照しながら説明する。尚、
図6A〜
図6Dにおいては、デリバリーシステムを省略してステント1Cの動作を説明する。
【0085】
まず、ステント1Cは、デリバリーシステム等の細管状の部材(図示せず)に収納された状態で、内視鏡の鉗子口(図示せず)に挿入され、内視鏡の先端部まで運ばれる。本実施形態では、ステント1Cは、環状部材32Cが配置された側(X方向)が先端を向くようにデリバリーシステムに収納される。
【0086】
次いで、
図6Aに示すように、ステント1Cの先端側(X方向)が細管状の部材から押し出されて、狭窄部Nに囲まれた位置に配置される。細管状の部材から排出されたステント1Cのステント本体部2Cは、ある程度拡径する。尚、図示はしていないが、この状態において、ステント1の他端側(Y方向側)は、細管状の部材の内部に配置された状態が維持されており、これによりステント1Cの他端側はデリバリーシステムにより支持される。
【0087】
次いで、
図6Bに示すように、紐状部材30Cの他端側(係止部31Cに接続された一端と反対側)をステント本体部2Cの基端側(Y方向側)に引く。すると、紐状部材30Cが挿通された環状部材32Cが紐状部材30Cによりステント本体部2Cの基端側に引っ張られることで係止部31C側に移動し、これにより、ステント本体部2Cが拡径し、拡径した状態で狭窄部Nに配置される。その結果、ステント本体部2Cの中央部(第1のピッチ部分21)において狭窄部Nが再狭窄することが防止され、端部(第2のピッチ部分22)がダンベル形状であるためアンカー効果を有し、狭窄部Nからの位置ずれや逸脱が防止される。
【0088】
また、紐状部材30Cは、
図6Cに示すように、係止部31C(第1延出部231)との接続部からステント本体部2Cの外側を通り、この係止部31Cの近傍において、ステント本体部2Cの網目を通ってステント本体部2Cの内側に入りステント本体部2Cの内側を先端側(Y方向側)に向かって延びる。そして、環状部材32Cに挿通された後、折り返されてステント本体部2Cの内側をステント本体部2Cの基端側(X方向側)に向かって延び、紐状部材30Cが外側から内側に入った網目と同じ網目を通ってステント本体部2Cの外側に出ている。これにより、
図6Bに示すように、紐状部材30Cに引っ張られた環状部材32Cは、係止部31Cの近傍において、網目を通ってステント本体部2Cの内部から外部に出てくる。
【0089】
次いで、係止部31Cをステント本体部2Cの基端側(Y方向)に更に引くと、
図6Cに示すように、環状部材32Cは、ループ状に形成された係止部31Cを外側から内側に乗り越える。係止部31Cを乗り越えた環状部材32Cは、ステント本体部2Cの復元力(軸方向に伸びようとする力)により先端側(X方向)に引っ張られて係止部31Cに係止される。これにより、ステント本体部2Cは拡径した状態が保持されて、狭窄部Nに留置される。その後、所定の箇所において紐状部材30Cは切断され、デリバリーシステムは体外に取り出される。
【0090】
以上説明した第3実施形態のステント1Cによれば、上記効果(1)〜(3)、(6)に加えて、以下の効果が奏される。
(9)第3実施形態では、拡径機構3Cは、ステント本体部2Cの軸方向の一端側(X方向)に取り付けられる環状部材32Cと、ステント本体部2Cの軸方向の他端側(Y方向)に一端が接続されると共に環状部材32Cに挿通され、他端側がステント本体部2Cの他方側に延びる紐状部材30Cと、紐状部材30Cとステント本体部2Cとの接続部分又は接続部分の近傍に配置され、環状部材32Cを係止可能な係止部31Cと、を有する構成とした。
これにより、紐状部材30CをY方向に引くだけで、環状部材32Cと係止部31Cとが近接する方向に移動すると共にステント本体部2Cを拡径させ、係止部31Cと環状部材32Cとが係合することにより、ステント本体部2Cを拡径した状態に維持することができる。従って、狭窄部に接近させたステント1C(ステント本体部2C)を容易に拡径させることができ、操作性を向上させることができる。
【0091】
以上、本発明のステントの好ましい一実施形態につき説明したが、本発明は、上述の実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
例えば、第3実施形態においては、拡径機構に規制機構を設けなかったが、第2実施形態と同様に、拡径機構の環状部材32Cに設けられる第1の規制部材と、ステント本体部2Cに設けられる第2の規制部材とを有する規制機構を備える構成としてもよい。
【0092】
また、第1実施形態〜第3実施形態では、ステントとして、生分解性の繊維により構成した生分解性ステントを用いたがこれに限らない。即ち、生分解性を有さない合成樹脂繊維を用いてステントを構成してもよく、また、形状記憶合金ではない、即ち、自己拡張能力を有さない金属製ステントに適用することも可能である。
【0093】
また、ステント本体部2の端部の形状については、アンカー効果を有する形状であれば、特に制限はなく、ダンベル形状の他、フレア形状でもよい。更に、第2のピッチ部分について、ピッチは一定でなくてもよく、徐々にピッチを大きくする等、勾配をつけてもよい。
【0094】
また、第1実施形態〜第3実施形態では、ステント本体部2の一端部又は両端部を第2のピッチ部分22により構成したが、これに限らない。即ち、第1実施形態〜第3実施形態における第2のピッチ部分22の端部(第1のピッチ部分21とは反対側の端部)に、再び第2のピッチ部分22よりも密に編み組みされた部分(例えば第1のピッチ部分と同じピッチの部分)を配置してもよい。これにより、ステントの端部に第2のピッチ部分よりも径の小さい部分(即ち丸まった部分)を形成できるので、ステントを体内に留置した場合にステントの端部により留置部分にダメージを与えにくくできる。