特許第6750292号(P6750292)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6750292外装材剥落防止構造、及び、外装材剥落防止方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6750292
(24)【登録日】2020年8月17日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】外装材剥落防止構造、及び、外装材剥落防止方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20200824BHJP
【FI】
   E04G23/02 A
   E04G23/02 H
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-91176(P2016-91176)
(22)【出願日】2016年4月28日
(65)【公開番号】特開2017-198019(P2017-198019A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2019年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小川 晴果
(72)【発明者】
【氏名】三谷 一房
(72)【発明者】
【氏名】森田 敦
(72)【発明者】
【氏名】水上 卓也
(72)【発明者】
【氏名】堀居 令奈
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅友
(72)【発明者】
【氏名】二野宮 浩志
(72)【発明者】
【氏名】小原 邦方
【審査官】 前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−034854(JP,A)
【文献】 特開2011−006963(JP,A)
【文献】 特開2006−183240(JP,A)
【文献】 米国特許第08479468(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの壁下地と、前記壁下地の外側に設けられた外装材と、を備えた既存外壁の外装材剥落防止構造であって、
前記既存外壁に削孔されたアンカー孔と、
前記アンカー孔に挿入されたアンカーピンと、
前記アンカーピンに係止された状態で、前記外装材の外側に配置されたメッシュスクリーンと、
備え、
前記アンカーピンは、
前記アンカー孔に挿入される本体と、
前記本体に取り付けられて、前記メッシュスクリーンを係止する蓋部材と、
を有し、
前記本体は、エポキシ樹脂の注入口が設けられており、
前記蓋部材は、前記注入口を塞いでいる
ことを特徴とする外装材剥落防止構造。
【請求項2】
請求項1に記載の外装材剥落防止構造であって、
前記外装材は複数の仕上げ材であり、前記アンカー孔は前記複数の仕上げ材の間の目地に形成されている
ことを特徴とする外装材剥落防止構造。
【請求項3】
請求項2に記載の外装材剥落防止構造であって、
前記仕上げ材は、一対の縦辺と一対の横辺とを備えた矩形であり、
前記メッシュスクリーンは、格子線材である、
ことを特徴とする外装材剥落防止構造。
【請求項4】
請求項3に記載の外装材剥落防止構造であって、
前記仕上げ材の横辺方向の長さをTa及び前記メッシュスクリーンの前記横辺方向の交点間距離をLaとし、前記仕上げ材の縦辺方向の長さをTb及び前記メッシュスクリーンの前記縦辺方向の交点間距離をLbとしたとき、
La<Ta及びLb<Tbの少なくとも一方を満たす、
ことを特徴とする外装材剥落防止構造。
【請求項5】
請求項2に記載の外装材剥落防止構造であって、
前記メッシュスクリーンは、複数の貫通孔が形成された板状部材である、
ことを特徴とする外装材剥落防止構造。
【請求項6】
コンクリートの壁下地と、前記壁下地の外側に設けられた外装材と、を備えた既存外壁の外装材剥落防止構造であって、
前記既存外壁に削孔されたアンカー孔と、
前記アンカー孔に挿入されたアンカーピンと、
前記アンカーピンに係止された状態で、前記外装材の外側に配置されたメッシュスクリーンと、
を備え、
前記外装材は複数の仕上げ材であり、前記仕上げ材は、一対の縦辺と一対の横辺とを備えた矩形であり、
前記メッシュスクリーンは、金属板を菱形の網目状に機械加工したエキスパンドメタルであり、
前記メッシュスクリーンの各線材は、前記縦辺、及び前記横辺に対してそれぞれ斜めに配置される、
ことを特徴とする外装材剥落防止構造。
【請求項7】
請求項6に記載の外装材剥落防止構造であって、
前記アンカーピンは、
前記アンカー孔に挿入される本体と、
前記本体に取り付けられて、前記メッシュスクリーンを係止する蓋部材と、
を有することを特徴とする外装材剥落防止構造。
【請求項8】
コンクリートの壁下地と、前記壁下地の外側に設けられた外装材と、を備えた既存外壁の外装材剥落防止方法であって、
前記既存外壁にアンカー孔を削孔する削孔工程と、
前記アンカー孔にアンカーピンを挿入するアンカーピン挿入工程と、
前記外装材の外側にメッシュスクリーンを前記アンカーピンに係止させた状態で設けるメッシュスクリーン設置工程と、
を有し、
前記アンカーピンは、
前記アンカー孔に挿入される本体と、
前記本体に取り付けられて、前記メッシュスクリーンを係止する蓋部材と、
を有し、
前記本体は、エポキシ樹脂の注入口が設けられており、
前記蓋部材は、前記注入口を塞ぐ
ことを特徴とする外装材剥落防止方法。
【請求項9】
コンクリートの壁下地と、前記壁下地の外側に設けられた外装材と、を備えた既存外壁の外装材剥落防止方法であって、
前記既存外壁にアンカー孔を削孔する削孔工程と、
前記アンカー孔にアンカーピンを挿入するアンカーピン挿入工程と、
前記外装材の外側にメッシュスクリーンを前記アンカーピンに係止させた状態で設けるメッシュスクリーン設置工程と、
を有し、
前記外装材は複数の仕上げ材であり、前記仕上げ材は、一対の縦辺と一対の横辺とを備えた矩形であり、
前記メッシュスクリーンは、金属板を菱形の網目状に機械加工したエキスパンドメタルであり、
前記メッシュスクリーンの各線材は、前記縦辺、及び前記横辺に対してそれぞれ斜めに配置される、
ことを特徴とする外装材剥落防止方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の外装材剥落防止方法であって、
前記壁下地と前記外装材との間にはモルタル部が設けられており、
前記モルタル部の浮き面積を調査する浮き面積調査工程と、
前記浮き面積に応じて前記アンカー孔にエポキシ樹脂を充填するエポキシ樹脂充填工程と、
をさらに有することを特徴とする外装材剥落防止方法。
【請求項11】
請求項8に記載の外装材剥落防止方法であって、
前記壁下地と前記外装材との間にはモルタル部が設けられており、
前記モルタル部の浮き面積を調査する浮き面積調査工程と、
前記浮き面積に応じて前記アンカー孔にエポキシ樹脂を充填するエポキシ樹脂充填工程と、
をさらに有し、
前記浮き面積調査工程は、前記削孔工程よりも前に実施され、
前記エポキシ樹脂充填工程は、前記蓋部材を前記本体に取り付ける前に実施される、
ことを特徴とする外装材剥落防止方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の外装材剥落防止方法であって、
前記アンカー孔一か所あたりの前記浮き面積が所定値を超える場合、前記アンカー孔に前記エポキシ樹脂を充填し、前記浮き面積が前記所定値以下の場合、前記アンカー孔に前記エポキシ樹脂を充填しない、
ことを特徴とする外装材剥落防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外装材剥落防止構造、及び、外装材剥落防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存外壁の改修方法として、既存外壁の外装材(タイルなど)の外側に軽量鉄骨下地を後施工アンカーで取付け、この軽量鉄骨下地にスペーサーを介してパネルを取り付け、被覆するカバー工法が知られている(例えば特許文献1参照)。パネルの材質は、主に、アルミニウムやGRC(ガラス繊維強化セメントコンクリート)などがあり、その他にも大型タイルや石材なども用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−57908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したカバー方法では、パネルで被覆するため、外観(意匠性)が著しく変化することがあり、また、既存の外装材の状態を点検することができなくなる。また、パネルを取り付けるまでの施工に手間がかかるという問題がある。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、その主な目的は、既存外壁の意匠性を残しつつ、簡易に外装材の剥落を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために本発明の外装材剥落防止構造は、
コンクリートの壁下地と、前記壁下地の外側に設けられた外装材と、を備えた既存外壁の外装材剥落防止構造であって、
前記既存外壁に削孔されたアンカー孔と、
前記アンカー孔に挿入されたアンカーピンと、
前記アンカーピンに係止された状態で、前記外装材の外側に配置されたメッシュスクリーンと、
備え、
前記アンカーピンは、
前記アンカー孔に挿入される本体と、
前記本体に取り付けられて、前記メッシュスクリーンを係止する蓋部材と、
を有し、
前記本体は、エポキシ樹脂の注入口が設けられており、
前記蓋部材は、前記注入口を塞いでいる
ことを特徴とする。
このような外装材剥落防止構造によれば、既存外壁の意匠性を残しつつ、簡易に外装材の剥落を防止することができる。
【0007】
かかる外装材剥落防止構造であって、前記外装材は複数の仕上げ材であり、前記アンカー孔は前記複数の仕上げ材の間の目地に形成されていることが望ましい。
このような外装材剥落防止構造によれば、既存外壁の意匠性を残すことができる。
【0008】
かかる外装材剥落防止構造であって、前記仕上げ材は、一対の縦辺と一対の横辺とを備えた矩形であり、前記メッシュスクリーンは、格子線材であってもよい。
このような外装材剥落防止構造によれば、外装材(複数の仕上げ材)の剥落を防止することができる。
【0009】
かかる外装材剥落防止構造であって、前記仕上げ材の横辺方向の長さをTa及び前記メッシュスクリーンの前記横辺方向の交点間距離をLaとし、前記仕上げ材の縦辺方向の長さをTb及び前記メッシュスクリーンの前記縦辺方向の交点間距離をLbとしたとき、La<Ta及びLb<Tbの少なくとも一方を満たすことが望ましい。
このような外装材剥落防止構造によれば、仕上げ材の剥落を防止することができる。
【0010】
かかる外装材剥落防止構造であって、前記メッシュスクリーンは、複数の貫通孔が形成された板状部材であってもよい。
【0011】
このような外装材剥落防止構造によれば、外装材(複数の仕上げ材)の剥落を防止することができる。
【0012】
また、コンクリートの壁下地と、前記壁下地の外側に設けられた外装材と、を備えた既存外壁の外装材剥落防止構造であって、
前記既存外壁に削孔されたアンカー孔と、
前記アンカー孔に挿入されたアンカーピンと、
前記アンカーピンに係止された状態で、前記外装材の外側に配置されたメッシュスクリーンと、
を備え、
前記外装材は複数の仕上げ材であり、前記仕上げ材は、一対の縦辺と一対の横辺とを備えた矩形であり、
前記メッシュスクリーンは、金属板を菱形の網目状に機械加工したエキスパンドメタルであり、
前記メッシュスクリーンの各線材は、前記縦辺、及び前記横辺に対してそれぞれ斜めに配置される、
ことを特徴とする外装材剥落防止構造であってもよい。
【0013】
かかる外装材剥落防止構造であって、前記アンカーピンは、前記アンカー孔に挿入される本体と、前記本体に取り付けられて、前記メッシュスクリーンを係止する蓋部材と、を有していてもよい。
このような外装材剥落防止構造によれば、蓋部材でメッシュスクリーンを係止させることができる。
【0015】
また、かかる目的を達成するために本発明の外装材剥落防止方法は、
コンクリートの壁下地と、前記壁下地の外側に設けられた外装材と、を備えた既存外壁の外装材剥落防止方法であって、
前記既存外壁にアンカー孔を削孔する削孔工程と、
前記アンカー孔にアンカーピンを挿入するアンカーピン挿入工程と、
前記外装材の外側にメッシュスクリーンを前記アンカーピンに係止させた状態で設けるメッシュスクリーン設置工程と、
を有し、
前記アンカーピンは、
前記アンカー孔に挿入される本体と、
前記本体に取り付けられて、前記メッシュスクリーンを係止する蓋部材と、
を有し、
前記本体は、エポキシ樹脂の注入口が設けられており、
前記蓋部材は、前記注入口を塞ぐ
ことを特徴とする。
このような外装材剥落防止方法によれば、既存外壁の意匠性を残しつつ、簡易に外装材の剥落を防止することができる。
また、コンクリートの壁下地と、前記壁下地の外側に設けられた外装材と、を備えた既存外壁の外装材剥落防止方法であって、
前記既存外壁にアンカー孔を削孔する削孔工程と、
前記アンカー孔にアンカーピンを挿入するアンカーピン挿入工程と、
前記外装材の外側にメッシュスクリーンを前記アンカーピンに係止させた状態で設けるメッシュスクリーン設置工程と、
を有し、
前記外装材は複数の仕上げ材であり、前記仕上げ材は、一対の縦辺と一対の横辺とを備えた矩形であり、
前記メッシュスクリーンは、金属板を菱形の網目状に機械加工したエキスパンドメタルであり、
前記メッシュスクリーンの各線材は、前記縦辺、及び前記横辺に対してそれぞれ斜めに配置される、
ことを特徴とする外装材剥落防止方法であってもよい。
【0016】
かかる外装材剥落防止方法であって、前記壁下地と前記外装材との間にはモルタル部が設けられており、前記モルタル部の浮き面積を調査する浮き面積調査工程と、前記浮き面積に応じて前記アンカー孔にエポキシ樹脂を充填するエポキシ樹脂充填工程と、をさらに有することが望ましい。
このような外装材剥落防止方法によれば、モルタル部の浮きによる外装材の剥落を防止することができる。
【0017】
かる外装材剥落防止方法であって、前記壁下地と前記外装材との間にはモルタル部が設けられており、
前記モルタル部の浮き面積を調査する浮き面積調査工程と、
前記浮き面積に応じて前記アンカー孔にエポキシ樹脂を充填するエポキシ樹脂充填工程と、
をさらに有し、
前記浮き面積調査工程は、前記削孔工程よりも前に実施され、
前記エポキシ樹脂充填工程は、前記蓋部材を前記本体に取り付ける前に実施される、
こととしてもよい。
また、かかる外装材剥落防止方法であって、前記アンカー孔一か所あたりの前記浮き面積が所定値を超える場合、前記アンカー孔に前記エポキシ樹脂を充填し、前記浮き面積が前記所定値以下の場合、前記アンカー孔に前記エポキシ樹脂を充填しないようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、既存外壁の意匠性を残しつつ、簡易に外装材の剥落を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態の既存外壁及び外装材剥落防止構造の説明図(立面図)である。
図2】本実施形態の既存外壁及び外装材剥落防止構造の説明図(断面図)である。
図3】アンカーピンの構成を説明するための断面図である。
図4】本実施形態の外装材剥落防止構造の施工方法のフロー図である。
図5図5A図5Dは、本実施形態の外装材剥落防止構造の施工方法を示す断面図である。
図6図6A図6Cは、外装材剥落防止構造の変形例の説明図である。
図7】メッシュスクリーンの変形例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
===実施形態===
<外装材剥落防止構造の構成について>
図1及び図2は、本実施形態の既存外壁10及び外装材剥落防止構造20の説明図である。図1は立面図であり、図2は断面図である。
【0023】
まず、既存外壁10の構成について説明する。
既存外壁10は、図2に示すように、コンクリート躯体11(壁下地に相当)と、コンクリート躯体11の外側に設けられた下地モルタル12及び張付けモルタル13と、張付けモルタル13の外側に設けられた既存タイル14(外装材に相当)とを備えている。なお、下地モルタル12及び張付けモルタル13はモルタル部に相当する。
【0024】
既存タイル14は、図1に示すように表面形状が矩形であり、一対の短辺(縦辺に相当)と一対の長辺(横辺に相当)を有している。そして既存タイル14は、既存外壁10の表面において、鉛直方向及び水平方向に複数並んで配置されている。各既存タイル14の短辺は鉛直方向(縦方向)に平行であり、長辺は水平方向(横方向)に平行である。また、隣接する既存タイル14の間には目地13aが形成されている。この既存タイル14は、色調や色合いの美しさから、既存外壁10の表面仕上げ材として用いられている。
【0025】
ところで、図2では、コンクリート躯体11と下地モルタル12の間に浮き(隙間)が生じている。このような浮きが生じると既存タイル14が剥落するおそれがある。なお、浮きが発生する場所は、コンクリート躯体11と下地モルタル12の間とは限らず、例えば、下地モルタル12と張付けモルタル13の間、あるいは、張付けモルタル13と既存タイル14の間に発生する場合もある。
【0026】
仮に、既存タイル14の剥落防止のために、既存外壁10の表面をパネル等で被覆すると、元の外壁から外観(意匠性)が著しく悪化してしまうおそれがあり、また、パネルの内側の既存タイル14を点検することができなくなるという問題が生じる。また、パネルを施工するための手間がかかる。
【0027】
そこで、本実施形態では、後述するように、メッシュスクリーン24を用いることにより、簡易に既存タイル14の剥落を防止している。
【0028】
本実施形態の外装材剥落防止構造20は、既存外壁10の既存タイル14の剥落を防止するものであり、既存外壁10に削孔されたアンカー孔21と、アンカー孔21に挿入されたアンカーピン22と、メッシュスクリーン24とを備えている。
【0029】
アンカー孔21は、アンカーピン22を挿入するための孔であり、既存外壁10において既存タイル14の間の目地13aに形成(削孔)されている。これにより、既存外壁10(既存タイル14)の意匠性を残すことが出来る。なお、アンカー孔21は、既存外壁10の外側からコンクリート躯体11の内部まで形成されている。
【0030】
図3はアンカーピン22の構成を説明するための断面図である。
アンカーピン22は、図3に示すように、本体221と蓋部材222を有している。
【0031】
本体221は、一端に頭部22aを有する円筒形の部材である。また、頭部22aにはエポキシ樹脂23の注入口22bが設けられている。本体221の円筒形の部位には深さ方向(挿入方向)に沿ってスリットなどが形成されており、注入口22bから本体221内に充填されたエポキシ樹脂23は、本体221の外側に広がる。これにより、既存外壁10内(浮きの発生している部分)にエポキシ樹脂23を充填することができる。なお、エポキシ樹脂23は、接着性を有する材料(接着剤)である。
【0032】
また、本体221の円筒部分の内部にはロック部材22cが設けられている。当該ロック部材22cを先端部22d側に押し込むと先端部22dが外側に開き、本体221が、取り付け場所(ここでは既存外壁10)に固定される。
【0033】
蓋部材222は、本体221の注入口22bを塞ぐとともにメッシュスクリーン24を係止するための部材である。蓋部材222は、円盤状の蓋22eと、蓋22eの一方の面の中心から突出した突出部22fを有している。突出部22fは本体221の注入口22bに挿入可能な大きさに形成されている(径が小さい)。一方、蓋22eは注入口22bよりも径が大きい。
【0034】
メッシュスクリーン24(格子線材に相当)は、メッシュ(網目)状の金属製の部材である。本実施形態では、メッシュスクリーン24として、ステンレス板を菱形の網目状に機械加工したエキスパンドメタルを用いている。そして、メッシュスクリーン24の各線材は、図1に示すように、矩形の既存タイル14の短辺方向(鉛直方向)、長辺方向(水平方向)に対して斜めであり、それぞれの既存タイル14の外側には少なくともメッシュスクリーン24の一部が配置されている。これにより、既存外壁10の意匠性を残しつつ、既存タイル14の剥落を防止することができる。
【0035】
<外装材剥落防止構造20の施工方法(外装材剥落防止方法)について>
図4は、本実施形態の外装材剥落防止構造20の施工方法のフロー図であり、図5A図5Dは、本実施形態の外装材剥落防止構造20の施工方法を示す断面図である。
【0036】
まず、既存外壁10へのアンカーピン22の取り付け位置を決め(図4:S01)、その位置の既存タイル14の間の目地13aの部分を電動ドリル等で削孔する(図4:S02)。こうして、図5Aに示すように既存外壁10にアンカー孔21を形成する。
【0037】
次に、図5Bに示すように、アンカー孔21に本体221をハンマーなどで打ち込む(図4:S03)。この打ち込みの後、専用工具(打込棒など)を頭部22aの注入口22bから本体221の内部に挿入し、ロック部材22cを押し込む。これにより、先端部22dが外側に開いて本体221がコンクリート躯体11(換言すると既存外壁10)に固定される。
【0038】
その後、モルタル部(下地モルタル12及び張付けモルタル13)の浮き面積の調査を行う(図4:S04)この調査は、不図示のハンマーなどを用いて仕上げ面(既存外壁10の表面)を打診して浮き部分を確認し、浮きの範囲をマーキングする。
【0039】
この浮き面積の調査から、アンカーピン22の1カ所当たりの浮きの面積を算出し、算出された浮き面積が0.25m2を超える場合(図4:S05でYES)は、図5Cに示すように本体221の注入口22bから内部にエポキシ樹脂23を注入する(図4:S06)。これにより、エポキシ樹脂23は、既存外壁10の浮き部分に充填される。
【0040】
エポキシ樹脂23を注入後、図5Dに示すように、メッシュスクリーン24を取り付け(図4:S07)、また、本体221の注入口22bに蓋部材222の突出部22fを打ち込んで本体221に蓋部材222を取付ける(図4:S08)。これにより、メッシュスクリーン24は、アンカーピン22に係止された状態で、既存タイル14の外側に配置される。
【0041】
なお、ステップS05においてアンカーピン22の1カ所当たりの浮きの面積が0.25m2以下の場合(ステップS05でNo)には、エポキシ樹脂23は注入せず、次のステップS07を実行する。
【0042】
以上説明したように、既存外壁10は、コンクリート躯体11と、コンクリート躯体11の外側に設けられた下地モルタル12及び張付けモルタル13と、張付けモルタル13の外側に設けられた既存タイル14と、を備えている。そして、本実施形態の外装材剥落防止構造20は、既存タイル14の剥落を防止するものであり、既存外壁10に削孔されたアンカー孔21と、アンカー孔21に挿入されたアンカーピン22と、アンカーピン22に係止された状態で、既存タイル14の外側に配置されたメッシュスクリーン24とを備えている。これにより、既存外壁10の意匠性を残しつつ、簡易に既存タイル14の剥落を防止することができる。また、メッシュスクリーン24の網目を通して、既存外壁10の状態を目視点検や打診調査することができる。
【0043】
なお、本実施形態では、メッシュスクリーン24を取り付けてから、蓋部材222を取り付けていたが、アンカーピン22の本体221に蓋部材222を取り付けた後、メッシュスクリーン24をアンカーピン22(蓋部材222)に係合させてもよい(ステップS07とステップS08が逆でもよい)。
【0044】
<変形例>
図6A図6Cは、外装材剥落防止構造20の変形例の説明図である。なお、前述の実施形態と同一構成の部分には同一符号を付し説明を省略する。
【0045】
この変形例では、アンカーピン22´を用いている。アンカーピン22´の頭部22a´は、図6A図6Cに示すように、矩形状の板材であり、注入口22bと係止部22kを有している。
【0046】
係止部22kは、メッシュスクリーン24を係止するための部位であり、頭部22aの一端が断面略J字状に折れ曲がって形成されている。この係止部22kにメッシュスクリーン24を係止させることにより、図6Cに示すように、メッシュスクリーン24は、アンカーピン22´の係止部22kに係止された状態で、既存タイル14の外側に配置される。
【0047】
なお、この変形例の場合、アンカーピン22´の注入口22bは、例えば、エポキシ樹脂パテ材など充填して仕上げる。
【0048】
この変形例においても、前述の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、この変形例のアンカーピン22´は、前述の実施形態のような蓋部材を取り付ける必要が無いので、より手間が省ける。
【0049】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0050】
前述の実施形態では、コンクリート躯体11と既存タイル14の間に、下地モルタル12及び張付けモルタル13を設けていたが、コンクリート躯体11の外側に、例えば有機系接着剤を用いて、直接既存タイル14を張り付けていてもよい。あるいは、コンクリート躯体11に下地モルタル12を施工せず、厚さ3mm程度の張付けモルタル13にて既存タイル14を張り付けていてもよい(この場合、張付けモルタル13がモルタル部に相当する)。
【0051】
前述の実施形態では、注入口22bを有するアンカーピン22を用いていたが、エポキシ樹脂23を注入しない場合には、注入口の設けられていないアンカーピンを用いてもよい。
【0052】
また、前述の実施形態では、アンカーピン22の1カ所当たりの浮きの面積が0.25m2を超えるか否かでエポキシ樹脂23の注入の有無を決めていたが、アンカーピン22の1カ所当たりの浮きの面積に応じて、エポキシ樹脂23の注入量を変えてもよい。この場合、例えば、1カ所当たりの浮きの面積が0.25m2以下のとき少量のエポキシ樹脂23を注入するようにしてもよい。
【0053】
また、前述のメッシュスクリーン24は金属製であったがこれには限られず、耐候性や強度に優れた材料であればよい。例えば、プラスチック、FRP(繊維強化プラスチック)などの材料を用いたものでもよい。
【0054】
また、前述の実施形態のメッシュスクリーン24の網目は菱形であり、既存タイル14の短辺及び長辺に対して斜めになっていたが、これには限らない。
【0055】
図7は、メッシュスクリーンの変形例の説明図である。この図7では、メッシュスクリーン24´を用いている。メッシュスクリーン24´は、鉄筋などの線材を縦・横に格子状に溶接して形成されたワイヤメッシュであり、既存タイル14の短辺に平行に配置された縦線材24aと、既存タイル14の長辺に平行に配置された横線材24bを有している。
【0056】
図に示すように、メッシュスクリーン24´の隣接する縦線材24a間の距離La(横方向の格子間距離)は、既存タイル14の長辺の長さTaよりも短い(La<Ta)。また、メッシュスクリーン24´の隣接する横線材24b間の距離Lb(縦方向の格子間距離)は、既存タイル14の短辺の長さTbよりも短い(Lb<Tb)。これにより、確実に既存タイル14の剥落を防止できる。ただし、これには限らず、La<Ta及びLb<Tbの少なくとも一方を満たしていればよい。
【0057】
前述の実施形態(図1)のメッシュスクリーン24においても網目(菱形)の対角線のうち長い方の長さ(横方向の格子間距離)をLaとし、対角線の短い方の長さ(縦方向の格子間距離)をLbとした場合、La<Ta及びLb<Tbの少なくとも一方を満たすことが望ましい。これにより、既存タイル14の剥落を確実に防止することができる。
【0058】
なお、張付けモルタル13などの浮きにより、複数の既存タイル14が一体となって剥落することがある。この場合、La<TaとLb<Tbを満たしていなくても、複数の既存タイル14が一体となって剥落することを防止できる。
【0059】
また、メッシュスクリーンとして、金属板(板状部材に相当)に例えば円形の打ち抜き加工を行って複数の貫通孔が形成されたパンチングメタルを用いてもよい。なお、孔の形状は円形には限られず、角型、多角形など他の形状でもよい。また、この場合も金属以外の材料を用いてもよい。
【0060】
また、前述の実施形態では、アンカーピンを打ち込んだ後にモルタルの浮き面積を調査していたが、浮き面積を調査する工程を、取り付け位置決め工程(及びアンカーピン工程よりも前に実施してもよい。そして、エポキシ樹脂充填工程を、アンカーピン打込み工程よりも後に実施してもよい。これにより、浮きの生じているところに確実にアンカーピンを打ち込むことができ、効率よく外装材の剥落を防止することができる。
【符号の説明】
【0061】
10 既存外壁
11 コンクリート躯体
12 下地モルタル
13 張付けモルタル
13a 目地
14 既存タイル
20 外装材剥落防止構造
21 アンカー孔
22,22´ アンカーピン
22a 頭部
22b 注入口
22c ロック部材
22d 先端部
22e 蓋
22f 突出部
23 エポキシ樹脂
24,24´ メッシュスクリーン
221 本体
222 蓋部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7